扉を開け、まず私が見たのは手前のソファにリアスと愉快な眷属たち。奥のソファに金髪で悪そうな感じの男。そしてその中間にいるのは銀髪のメイドだった。
どういった状況かは分からんが、とりあえず二方は向かい合って座っている。
すると悪そうな男が私を見て、リアスに言う。
「おいおい、リアス。何でここに人間が来るんだ?」
「彼女はここの部員よ。来たら悪いのかしら? ライザー」
顔見るなり失礼なことを言う、この男。だったら無関係者のコイツが何でここに来ているんだよ?
私は男を一目見た後に、リアスに問う。
「・・・おい、部長。そこの失礼な鶏冠頭は一体誰だ?」
「と、鶏冠頭!? それは俺のことかっ!?」
「お前以外、誰がいるんだよ?」
何やら腹を立てている男。私には理由が分からないな。
するとリアスの言葉を代弁するかのように、銀髪のメイドが私の前に出てきて話した。
「この方はライザー・フェニックス様。純血悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家の三男であります」
・・・純血悪魔。ふーん、リアス以外の純血悪魔がわざわざこんなところに来るなんてな。
フェニックスか。私にもそんな使い魔が一匹いたな。
「・・・アンタ、誰?」
「初めまして。私はグレモリー家に仕える者です。グレイフィアと申します。以後、お見知りおきを」
「・・・風花桜」
私はとりあえず名前だけは名乗っておいた。情報なんかこのぐらいで十分だ。
別に知りたくもなかったが、グレイフィアが今のこの状況を話してくれた。
ライザーはリアスの婚約者だが、それはお互いの御家が決めたことでリアスは納得しておらず、しかしライザーは純血を途絶えさせないためにもこの婚約は重要なことであると主張。お互い一歩も退こうとしないためにレーティングゲームで決めてはどうかと提案をしているところに私が来たという。
婚約、ね。そういうことか。それならリアスの様子がおかしかったことにも納得がいく。
親同士の決めた婚約を嫌がって、でもその婚約が間近に迫っている。それで思い詰めたような顔をしていたということか。
「・・・というわけなのでございます」
「ふーん。あっそ。くだらない話だな」
「何だとっ!?」
・・・正直言って、そんな話には興味の欠片も感じない。迷い猫の捜索よりも、つまらない。
そう思って私が一声発すると、憤慨するライザー。コイツは耳でも悪いのか?
「くだらないって言ったんだよ。同じことを何度も言わせるな」
「貴様・・・この縁談を愚弄する気かっ!?」
「愚弄も何も、お互いがくだらないことで張り合って莫迦やってるわけだろ? もっと言えば、お前の言葉の裏には嫌らしさが感じるってこと。いや、お前の場合は格好自体が嫌らしいか・・・」
「こ、この・・・おい、リアス! 部員の躾がなっていないようだが!?」
どうやら怒りの矛先をリアスに変えたようだが、言葉が返せないからってこういうことをするのは下賤なヤツのやることだろうな。
リアスはライザーの言葉を聞いて、そっぽを向く。まるで拒絶の意思でも見せつけているかのような格好だ。
「部長に当たるなんて情けない男のやることだな。返す言葉も無いわけだろ? 情けない。鳥は鳥らしく、無様にピヨピヨと鳴いていればいい」
「貴様・・・言わせておけば人間の分際で、燃やされる覚悟は出来ているんだろうな?」
体中から炎を出して臨戦状態になるライザー。暑苦しい男は嫌いなんだよ。
「燃やせるものなら燃やしてみれば? そんな量の炎でお前にできるものならな」
「貴様っ! 我が一族の炎までバカにするか!?」
「生温いんだよ、そんな炎」
私は炎を体全体から迸らせるように纏い、そして右手から炎を蛇のように噴出させる。
「そ、その炎は、どこかで見たことがあるぞ・・・」
「お前の一族なんか知ったことか。まあ強い家系なら大歓迎だけど、お前みたいな器の小さい鳥なんかオレの興味にも値しないな」
ライザーが何か怯えているようだが、私は更に言葉を続ける。
「それに聞いてみれば、お前は権力を盾に婚約を強引に行わせようとしているようにしか見えない。例え家系が有名でも実力を伴わなければ話にならないし、別に有名だからって強いってわけでもないしな。その態度から察するに、お前はオレにとっては雑魚としか言いようがない」
私の言葉を聞いて怒りに頂点に達したライザーが炎を纏わせるが、私は意にも介さないように彼とは反対の方向に背を向ける。
「貴様、どうやら本気で俺に消されたいようだな・・・」
「親の七光りは冥界にすっこんでろよ・・・」
「上等だ貴様っ!!」
その態度がますますライザーを怒らせたようだが、私は威嚇行為を止めない。その間にグレイフィアが介入する。
「お待ちください、ライザー様」
「・・・退いていただきたい。この人間は我が一族を侮辱した。例え最強の『女王』であるあなたでもその態度を許すわけにはいかん」
「お怒りはごもっとも。ですが、大切なゲームが控えているのです。ここは怒りをお静めください」
最強の『女王』。それは興味があるな。このメイドにどんな実力があるのかを確かめたいという気持ちにかられた。
グレイフィアがライザーを宥めると、彼は炎を消した。私もそれを確認すると全身の炎を宥める。
何だ、その程度か。つまらない。もっと怒ればいいのに・・・。
「・・・命拾いしたな、人間め」
「怖気づいてやめたのはそっちだろ? それにオレの言葉のほとんどは事実を指摘したまでだ」
「風花桜様。これ以上の言葉は私も黙っているわけにはまいりません」
もっと怒らせようとするが、グレイフィアが静かな声で迫力のある言葉をぶつける。
やはり怒りを引き出すと魔力が増すな。これは面白い。
「ふん」
私は鼻を鳴らすと上座の隣にあるリリーが置いて行った椅子に座り、背もたれに手を頭の後ろに回しながら寄りかかる。
本当はもっとこのホスト被れを怒らせたいところだけど、そこの銀髪メイドがうるさいしな。欠伸が出るほどつまらないとは思うが、傍観していよう。
ライザーがリアスに言う。まるで莫迦にしたかのような笑みを浮かべながら。
「なあ、リアス。まさかここにいる面子がキミの下僕なのか?」
「だとしたらどうなの?」
「これじゃあ、話にならないんじゃないか? キミの『女王』である『雷の巫女』ぐらいしか俺の可愛い下僕に対抗できそうにないな」
そう言いながらライザーが指をパチンと鳴らすと、部室の魔法陣が光り出す。
この紋様はグレモリーのものではなく、このホスト被れの、フェニックス家のものだ。その光から次々と人影が出現していく。
魔法陣が消えたころには、ライザーの周囲には15人の下僕たちが並んでいた。しかも全員女だ。
こんなに女の眷属を持っていながら、更にリアスにまで手を出そうとしているのか。何とも下劣なフェニックス家の三男だな。
チェスの駒は15個だから、もしかしなくてもフルメンバーだ。『
中には鎧を着込んだ騎士やフードを深く被った魔導師のような女がいる。ロリータの悪魔もいるな。コイツはロリコンか?
他にもチャイナドレスを着込んだ少女、獣のような耳の少女、私と同じ着物を着た少女・・・面倒臭い。もういいや、説明すんの。
とにかく多種多様な悪魔がこの男には揃っていた。私からしてみれば、おかしな趣味としか言いようがない。
「お、おい、リアス・・・。この下僕くん、俺を見て号泣しているんだが・・・」
ライザーの言葉に兵藤の顔を見ると、確かに泣いていた。それはもう、悔しそうに。
男が女をたくさん連れているのがそんなに悔しいのか? この変態は・・・。
・・・何だろう。何か、不愉快だ。心の底から黒い何かが湧き出してくる。
「その子の夢がハーレムなの。きっとライザーの下僕悪魔たちを見て感動したんだと思うわ」
リアスが困り顔で額に手を当てながら言った。そんなに感動するものなのか? 私には1ミクロンも分からない。
ライザーの下僕たちは兵藤を見て心底気持ち悪そうな顔をしていた。中には彼を蔑むような声も飛び出た。まあ、当然の反応だろうな。
私は椅子から立ち上がるとそれを掴んで、兵藤の脳天に目掛けて投げた。
ゴチンッ!
「ガハァッ!」
兵藤の後頭部に激突し、兵藤は前のめりに倒れた。そしてその体勢のまま、私のほうを向いて言う。
ちなみに椅子は兵藤の背後に落ちたから、周りに被害はない。
「な、何すんだよ!? サクラ!!」
「ふんっ」
・・・少しは場をわきまえろ。変態め。
私は兵藤に軽く制裁を加えると、非難の声も意に介さずにそっぽを向き、壁の隅に寄りかかった。
「そう言うな、俺のかわいい下僕たち。上流階級を羨望の眼差しで見るのは下賤な輩のすることさ。あいつらに俺とお前たちが熱々なところを見せつけてやろう」
ライザーが言うが、見せつけるって何をするつもりだ?
するとライザーは眷属の女の1人と唇と唇を合わせて舌を絡めあう。いわゆるディープキスというヤツだ。
くちゅくちゅと音を立てさせながら、更に女が足を絡ませながら喘ぎ声を出していく。ふん、嫌らしい女だ。
唇に糸を引かせながら、更に他の眷属の女とディープキスをし始めた。
・・・決定だな。コイツは兵藤と並ぶド変態だ。
こんなのが上級悪魔だと? ククク・・・笑わせてくれるな。さすがは汚いフェニックス家の三男だ。
そしてその変態は兵藤を莫迦にしたような笑みを浮かべながら、こう言い放った。
「お前にはこんなこと、一生できまい。下僕悪魔くん」
「思ってることそのまま言うな! ちくしょう! ブーステッド・ギア!」
右手に神器を発動させる兵藤。妖魔も満足に倒せない雑魚が何をするつもりなんだ?
「お前みたいな女たらしは部長と不釣り合いだ!!」
「お前はそんな女たらしの俺に憧れているんだろう?」
「うっ、うるせぇ! それとこれとは話が別だ! そんな調子じゃ、結婚した後も他の女の子とイチャイチャしまくるんだろう!?」
「英雄、色気を好むという人間界の言葉があるよな? まあ、今のは俺と可愛い下僕たちのスキンシップだ。お前だって、リアスに可愛がってもらっているんだろ?」
「何が英雄だ!! お前なんかただの種まき野郎じゃねえか!! 火の鳥? フェニックス? 焼き鳥のほうが十分だぜ!」
「焼き鳥!? こ、この下級悪魔がぁぁぁぁぁ!! 調子に乗りやがって!! 目上の者に対する態度がなっていないようだな!!」
・・・変態同士が何を言い争っているんだか。莫迦莫迦しい。
私から見れば、どっちも下劣で下品にしか見えないっての。本当に莫迦なんじゃないのか、コイツらは。
「焼き鳥野郎! てめぇなんざ、俺のブーステッド・ギアでブッ倒してやる!!」
『Boost!』
兵藤の籠手から電子音が響く。力が1段階高まっているという証拠だ。確証はないけど。
兵藤がそのままライザーに向かって突っ込む。自分やリアスへの態度に対する怒りをぶつけるかのように。
・・・だが、兵藤もまだまだ甘い。憎まれっ子は世にはばかるということわざがある。
コイツはどうかは知らんが、世の中見下せるヤツのほうが世間で幅を利かせるというものだ。
感情だけで勝負に勝てるなら、誰も苦労しない。自分の意見を強く言い放って、それが通るほどに世の中は作られていないのだ。
「・・・ミラ。やれ」
「はい、ライザーさま」
ライザーが小猫と同じぐらいの小柄で童顔な少女に命令を下す。武道家が使うような長い棍を取り出して、くるくると器用に回すと兵藤に向かって構え、突っ込む。
そして・・・・・・。
ガシャアァァァァァァァァン!!!
「ガハッ!」
あっという間だった。一瞬で棍が兵藤の腹部に炸裂し、床に叩きつけられた。腹部を抑えて身悶える兵藤。
「イッセーさん!」
そこにアーシアが駆け寄り、腹部に手を当てて、緑色の淡い光で包み込ませる。
「ミラ。あの人間は我が一族を侮辱した。あの女も同じような目に遭わせてやれ」
「はい!」
ライザーが私を指さしながら言うと、ミラと呼ばれた下僕悪魔が私に向かって棍を構えて突っ込む。
しかし、その棍は私の腹部には当たらなかった。代わりに私の座っていた床に突き刺さった。
「なっ!? き、消えた!?」
驚愕の顔をしているミラ。私はその背後から彼女に声を掛ける。
「・・・は? 何これ? もしかしてオレの昼寝の邪魔をしたいワケ?」
低い声色で言う私。その声には幾分、苛立ちが含まれているのが自分でも分かる。
恐怖に駆られているのか、ミラは背後を振り向こうとしない。いや正確に言えば、できないというのが正しいか?
証拠に頬から汗が流れているのが分かる。そんな彼女の耳元で私は囁くように言った。
「オレに戦いを挑むのは結構だが、お前莫迦だな。相手は選ぶもんだぜ?」
ドゴッ!
「あっ!?」
ドスッ!
「グフッ!?」
私は彼女の持っている棍を蹴り上げると、その棍をキャッチして素早く彼女の腹部に打ち据えた。
痛みに腹部を抑えて呻いている彼女。
ガシッ
「がっ・・・!?」
更に私は彼女の首を掴んで、そのまま持ち上げた。そして彼女の首を絞め上げる。
ググググググ・・・。
「うっ・・・がっ・・ぁ・・・くぅ・・・」
「ククク・・・」
私の視界には苦痛に顔を歪めるミラの姿がある。うん、他人の苦しんでいる顔は悪くないな。
私は更に首を掴んだ手に力を入れる。そうするとどういう顔になるのか興味がある。
ギュウゥゥゥ・・・グググググ・・・。
「かっは・・・ぁ・・・がぁ・・・」
ミラの顔が更に苦悶に歪み、私の掴んでいる手を外そうともがき始めた。ククク・・・。
死から抗おうとするヤツは好きだ。何故ならソイツは生があると感じられるからだ。
「おい、人間! ミラから手を離せ!」
怒りを露わにするライザー。何を怒っているのか、分からないな。
「はぁ? 先に攻撃してきたのはそっちだろ。つまりそれはオレに殺されても文句は言えないってことだよなぁ?」
「がっ・・・!」
ライザーに向かって吐き捨てると私は首を強く絞めた。
ふん。力量もわきまえずに素直に主人に従っているコイツが悪い。
「サクラ、やめて!! その子を離しなさい!! もういいから!」
「・・・・・・」
とうとうリアスが制止の言葉を叫んだ。それも必死に・・・。単なる正当防衛だというのに。
・・・まあ、部長の言うことなら聞く耳を持ってもいいだろう。
私は掴んでいる彼女を乱暴にライザーのほうへと投げ捨てた。咳き込んでいる彼女に、私はコイツが使っていた棍を放った。
「命拾いしたな。上級悪魔の下僕だからって粋がるなよ、三下」
「貴様・・・もう我慢ならん・・・」
ライザーが再び体に炎を纏わせる。今度こそ私に襲い掛かってでも来そうな雰囲気だな。
「お前のせいだろ、下衆悪魔」
私は冷徹に言い放ち、体中の炎を放出させる。
部屋の空気がピリピリと殺伐する。よく見れば、アーシアは体を小刻みに震わせ、リアスや兵藤の頬からは一筋の汗が流れている。
「俺と勝負しろ、人間風情が!!」
「・・・・・・嫌だよ、怠い」
私は赤いオーラを抑えると、我ながら間の抜けた声を出した。とはいっても、そんなに声は変わってはいないが。
その言葉に周囲がきょとんした表情になったようだが、どうでもいい。
「は? な、何だと・・・?」
「嫌だって言ったんだよ。勝負なんかくだらない。勝手にやってれば?」
私はそう言って元の定位置に座り、目を瞑る。ああ、もう聞いてるのも面倒臭くなってきたな。
「ハッ。俺の炎に恐れを成したか、人間! さっきまでの威勢は虚勢だったってことかぁ?」
「・・・勝手に言ってれば? お前じゃオレには勝てないし、戦う価値もない」
「なっ、何だと!? ハッタリをほざくのも大概にしろ!!」
「事実を言ってんだよ。それに結婚でも何でもやってればいいだろ? オレを巻き込むな」
私の言葉にライザーが心底悔しそうな顔をする。言葉で勝てないヤツってのは何でこんなに醜いんだろうな。
でも、リアスも複雑そうな顔を浮かべていた。どうしてだろうな。まあ、どうでもいいけど。
「ああ、そうだ。リアス・グレモリーに勝てたら、オレの気も変わるかもな」
「くっ・・・!・・・まあいい、ゲームに勝てば俺とリアスの結婚は確定ってわけだしな。リアス、ゲームは10日後でどうだ?」
「・・・私にハンデをくれるっていうの?」
「10日。キミならそれだけあれば、下僕たちをどうにかできるだろう」
ライザーは手のひらを下に向けて、魔法陣を作り出す。それはこの場から帰ることを意味する。
ライザーが腹部が回復した兵藤のほうに視線を向ける。
「リアスに恥をかかせるなよ、リアスの『兵士』。お前の一撃はリアスの一撃なんだよ」
そして私のほうに視線を向ける。
「覚えていろ、下賤な人間」
「おととい来やがれ、下衆悪魔」
それぞれ憎まれ口を叩きあうと、ライザーは下僕の女たちと共に魔法陣の中へと消え去った。
・・・まあ、ここから先は私には関係の無いことだ。
私はそれを見届けるとそのまま立ち上がって、出口の扉へと向かう。
「待ちなさい」
私がドアノブに手を掛けたとき、リアスが私を引き留めた。声は怒っているようないないような声だ。
「・・・何であんなことをしたの? 一歩間違えれば悪魔との間で問題になっていたかもしれないのよ?」
・・・もしかして、あの変態の眷属の首を絞めたことか?
それなら正当防衛とでも言うべきだろうけど、もう殺そうともしてたしな。やり過ぎってヤツか。
私はしばらく沈黙した後に、口を開いた。
「・・・・・・悪魔の問題なんか知ったことか。オレの邪魔をするヤツは殺す。ただそれだけだ」
「サクラ!! あなたはことの重大性を何も分かってないわ!」
声を上げるリアスに、私はドアノブから手を離すと振り向いて、顔を顰めて苛立ったように口を開く。
「知らないと言っている。そう言うお前は、自分勝手な私情で婚約を拒絶しようとしてるらしいじゃないか」
「!・・・そ、それは・・・」
「困らせているのはお前のほうだ。オレは関係ない」
「で、でも・・・!」
「もういい。これ以上、オレの価値観に踏み入ってくるな。お前らには何一つ理解できるもんか」
扉を開けようとドアノブを捻ったところ、今度は兵藤が背後から声を掛けた。
「でも、殺すのはいけないことだろ?」
「・・・・・・何?」
「だって殺すのは犯罪だし、何よりも悲しむヤツがいるはずだろ?」
「・・・・・・」
私は捻ったドアノブを元に戻すと兵藤の前に歩み寄る。しばらく顔を見つめた後・・・・・・。
ドゴッ!
「ガハッ!」
「イッセーさん!」
腹部に蹴りを打ち込んだ。兵藤はその場で崩れ落ちて、痛みに呻いている。
・・・莫迦も休み休み言え。お前に私の何が分かるというんだ。
そんな子供みたいな意見でこの場を脱することができると思ったら大間違いなんだよ。
でも、特に気に食わなかったのが、何よりもあんな雑魚の下僕に負けたことだった。
「・・・ひよっこが。あんな雑魚なんかにあっさりやられやがって。お前には地獄のほうがマシと思うような特訓のほうがいいんじゃないのか?」
私は兵藤に背を向けると吐き捨てるように言う。
「まあ、せいぜい足掻けば? オレはお前なんかに期待してないけど」
「サ、サクラ・・・」
私は再び扉の前に歩み寄る。ドアノブに手を掛けながら、私は言い放つ。
「・・・1つだけ言っておく。オレの邪魔をするヤツは許さない。それが例え、お前らであってもだ」
私は苛立っていたのか、扉を怒り任せに開け放ち廊下に出る。2階の旧校舎の窓から飛び降りて、校門へと瞬間移動をした。
一瞬旧校舎を振り向くも、すぐに前を向いてこの学校を後にした。
私が一つ気になったのは、名前を呼ぶ兵藤の声がどこか哀愁を感じさせたことだった。
◆◆◆
その夜、私は床に付いていた。理由は当然、眠るためだ。
今日の部活はうるさい鳥の三男によって、気分を台無しにされた。本当に不愉快だ。この世から本気で消してやりたくなった。
あの下衆に命令されて素直に従ったあの女は本気で殺そうかと思った。単純に昼寝の邪魔をしたからだ。
楽しそうにはしていたが、本当は内なる怒りを抱えていたのだ。実際、雑魚だったから興味も無かったしな。
でも、殺そうとしたらリアスがやけにうるさかった。何でだろうな。
悪を殺すことの何がおかしいというのか。私にはそれが理解できなかった。
でも、これ以上やらかすと面倒なことになりそうだった。だからしなかったのだ。敢えて。
せめてあの下衆に対する怒りだけは露わにしておいた。あんな下衆よりも私のほうが強いのだということを。
いや。そもそもそんなこと、本当にどうでもいい。私はこの世で怠惰に過ごせればそれでよいのだ。雑音も騒音もない静かな場所で。
ライザーの怒りとかリアスの婚約とか、どうなろうと知ったことではない。私は面白ければそれでいい。面倒なことや厄介事は嫌いだ。
・・・まあ、興味もないけどな。くだらない。莫迦げている。
眠ろうと思ったが、眠れない。余計なことを考えているせいだろうか。元々興味も無いはずなのに。
こういうときは妖魔を討伐することが一番いいのだが、気配も感じないしな。やっぱりあの教会のボス妖魔は殺すべきではなかったか。
でも、もういないものを今更ひがんだところで甦るわけでもない。
・・・甘いものでも食べるか。
私はベッドから起き上がるとリビングを通り、台所の冷蔵庫を開けてみる。
・・・・・・小皿に苺の乗っかったショートケーキがある。秋山が作ってくれたのか?
とりあえず、私は無言でケーキの小皿を手に取るとリビングのソファに座り、フォークでケーキを口に運ぶ。
・・・美味しい。甘いものは、やっぱりいいな。
私は次々とケーキを口へと運ぶ。苺の甘酸っぱさが口当たりに広がってくる。
するとテーブルの上のスマホが震え出す。電話の相手は、まあ想像はついているが。
どうせエレンだと思って画面を確認すると、それは意外な人物だった。
私は電話の相手は少ないが、連絡を取れる最低限の相手ぐらいなら登録してある。
どうせあの件だろう。私は関係ないと言っているのに。
・・・リアス・グレモリー。それが画面に映し出している着信者の名前だ。
本当は出たくなかったが、私は画面の着信をタッチしてスライドし、スマホを耳にあてた。
「・・・・・・何だ?」
『サクラ? 今、起きてるの?』
「・・・お前、莫迦なんじゃないのか。起きてなきゃ電話に出るわけないだろ」
『そ、そこまで言うことないじゃない・・・』
何だか声にためらいが感じられるのだが、さっきのことをまだ気にしているのか?
・・・もうどうでもいいんだ、あんなこと。お前が理解していようがしていまいが、関係が変わるわけでもあるまい。
「で、何の用だ?」
『あのね、サクラ。私たちの修業に付き合ってくれない?』
「・・・前にも言ったと思うが、オレをお前らの情事に巻き込むな」
『巻き込むつもりはないわ。ただ下僕たちを強くするためにあなたの力が欲しいだけなの。お願い』
「それが巻き込んでいると言っている。面倒事に付き合わされるオレの身にもなれよ」
『っ・・・・・・』
「・・・用がないなら切るぞ」
『!・・・ま、待って・・・!』
「チッ・・・何だよ」
思わず舌打ちをしてしまう私。リアスの曖昧な態度に苛立っている証拠だ。
本当にこの女は・・・。言いたいことは素直に言ったらどうなんだ。イライラする。
『このゲームには私の人生が掛かっているの。負けるわけにはいかない』
「・・・・・・」
『私はグレモリー家よ。それはこれからも永遠に変わらない。誇りに感じているわ。でも私個人として押し殺しているものでもあるの。周りには「グレモリー」としてしか見てくれる人しかいなかったの。私が私として充実していられるのはこの人間界だけなの』
「・・・・・・」
『私は「グレモリー」のリアスとしてではなくて、「リアス」個人として愛してくれる人と一緒にいたいの。ライザーは私をグレモリーのリアスとして見ていて、グレモリーのリアスとして愛してくれている。私はそれが嫌なの。だからこのゲームに勝って、「グレモリー」としてじゃない。「リアス」個人としていたいの。だからお願い・・・修行に付き合って・・・』
・・・何ていうか、あれだ。決意表明みたいなものだということは分かった。
私もコイツの気持ちがよくわかる。私も有名な家系の1人として生まれ、リアスとは違うとは思うが箱入り娘で束縛されているような状態だった。それが嫌だった。退屈だった。
更に、聞いていると自分の隣にいた親友のことを思い出す。ソイツも私と同じ境遇の女だった。自分も自分の血に縛られるのが嫌になって出ていったと。
・・・・・・・・・。
・・・まあ、私も兵藤があんな雑魚に負けるなんて目も当てられなかったしな。何よりも自分の友人が弱いのが許せない。
私は溜息を吐いた後に、最終的な答えを出した。
「・・・分かった。面倒だけど、付き合ってやる」
『! 本当!? ありがとう、サクラ!』
「ただし。その決意、忘れるなよ」
『分かってるわ。じゃあ、後でまた連絡するわね』
私はそれだけ言うと電話を切った。あーあ、面倒なこと作っちまったな。
・・・まあいいか。兵藤を苛めてやれる、いい機会かもしれないしな。
そんなことを思いながら、食べ残っているケーキに手をつけた。