極悪な奴ら/THE EVIL HERO   作:早乙女

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第22話「修行開始」

 

「ひーひー」

 

どこぞの変態が本当にこんな台詞を吐きながら、普通ではない量の荷物を持たされながら歩いていた。

 

「ほら、さっさと歩けよ、鈍間」

 

「歩け歩け~」

 

「くっ・・・わ、分かってるって・・・」

 

私は兵藤の持つ荷物を踵で蹴りながら急かし、肩に止まっているモココも野次を飛ばしている。我ながら思いやりもヘチマもない行為だ。

 

ちなみに現在の時刻はまだ昼にもなっていない、今朝方だ。ああ・・・眠いな。

 

そんな時間にリアスが私の家へと訪問してきて、今から修行をしに行くから身支度をするように言ってきたのだ。

 

本当は行きたくなかったけど、まあ約束だしな。それにあの鳥の下僕にあっさり敗戦したこの負け犬こと兵藤の件もある。

 

モココは・・・まあ、どうでもいい。子供のように駄々をこねるから連れて行ってやっただけ。この話、終わり。

 

それにしても雲一つ無い空は青く快晴、絶好の修業日和だ。周囲には自然が生い茂っていて、動物たちも住んでいそうだ。サバイバルには適しているかもしれない。

 

それとは裏腹に斜面がかなり急で、素人が登ろうものなら挫折するほどの坂だ。まあ、今のコイツにはお似合いかもしれないが。

 

「ほら、イッセー。早くなさい」

 

兵藤とはかなり離れている前方からはリアスが檄を飛ばしてくる。そのリアスの隣にはアーシアが心配そうに兵藤を見てくれている。

 

「・・・あの私も手伝いますから」

 

「いいのよ、イッセーはあれぐらいこなさなければ強くなれないわ」

 

「でも、サクラさんもモココさんもあれはやり過ぎなんじゃ・・・」

 

「サクラもサクラなりに、モココもモココなりに彼のことを思ってやっているのよ。気に掛ける必要はないわ」

 

2人の会話が聞こえてくる。リアスもたまにはいいことを言うな。全く以てその通りだ。

 

神滅具(ロンギヌス)を持ちながら勝てない負け犬にはこんな扱い、安いものだろう。普段からエロ本ばかり見ているこの男にはこれぐらいが丁度いい。

 

それにしても巨大なリュックだな。何が入っているのかは見当もつかないが、修行で使うものなのだろう。

 

「部長、山菜を摘んできました。夜の食材にしましょう」

 

兵藤とは逆に涼しい顔をしてそんなことを言いながら、木場が通り過ぎていく。ちなみに彼も兵藤と同じぐらいのリュックを持っている。

 

興味はないが、少なくともこの男と比べて体力があるというのは私にもわかる。

 

「・・・お先に」

 

「いってらっしゃ~い」

 

更に兵藤と木場以上の荷物を持ちながら横を通り過ぎていく小猫。さすがは怪力少女。男にも負けないな。

 

それに比べてコイツは、後輩にも舐められているのか。何とも情けない限りだな。

 

「ぜーぜー」

 

ふと兵藤の足が止まる。先程よりも息を荒くしながら、汗をポタポタと流している。

 

「おい、おたんこなす。止まっているな、とっと歩け」

 

「そうだそうだ~」

 

「・・・・・・あのなぁ」

 

兵藤はぜーぜー言いながらも、言葉を紡ぎだす。

 

ちなみに私は何をしているかと言うと・・・。

 

「俺の背負ってる荷物の上に乗ってないで、一つぐらい荷物を持ってくれよ!!」

 

コイツの言う通り、私は兵藤の荷物の上で寝転がっている。自分も荷物は一応持ってきてはいるが、この下にいる兵藤に持たせている。

 

ちなみに言うと兵藤はリュックを背負っているだけではない。肩には自分の荷物の他にも、私はもちろん、リアス、アーシア、姫島の荷物も持たされている。

 

だってこんな朝っぱらから荷物を持ってくるとか、怠いし面倒なんだけど。

 

「・・・か弱い女に荷物を持たせるつもりか」

 

「お前、別に弱くないだろ!?」

 

「・・・朝っぱらから部長に起こされて怠いんだよ。それにオレは朝は弱いし」

 

「嘘をつけ!! 小猫ちゃんはあんなに運んでるじゃねえか!! お前も少しは手伝ってくれよ!!」

 

「嫌だ、面倒臭い。それにオレが運んだら修行にならないだろ」

 

兵藤の抗議の言葉をことごとく取り合わないか、一蹴にする私。

 

「イッセーったら男のくせに情けないね。たかがこんな荷物でへばるなんてさ~」

 

「う、うるせぇ!! そもそもお前は持てねぇだろうが!!」

 

「モコナは食べる専門だから良いのです」

 

「だったらオレは寝る専門でいいな」

 

「余計悪いわ!! 帰れよ、お前ら!!」

 

モココと小競り合いを始める兵藤。・・・もういい加減うるさくなってきたな。

 

兵藤が言い終える前に私はリュックの側面で足を支えながら、上半身を折り曲げて兵藤と顔を合わせ、不快そうに顔を顰めながら言った。

 

「・・・ぐだぐだ言ってないで、とっとと歩けよ。さもないとお前の尻に火を付けて無理矢理走らせるぞ」

 

「尻がお猿さんになっちゃうぞ~」

 

コイツの不恰好な尻でも、火を付ければロケットのように飛んでいくかもしれないしな。

 

言いながら右手に炎を出して見せると兵藤はひぃっという声を上げた。変態だけど、そういう反応は悪くない。

 

「分かった! 分かったから! 俺の体に負担を掛けるのはもう勘弁してくれ!!」

 

「・・・分かればいい」

 

兵藤は再び歩き始め、私はそれを確認すると体を元に戻してリュックの上でくつろぐ。

 

これも一応修行の一環なのだ。この程度で音を上げるようなヤツに修行を受ける資格はない。

 

「ああ、ラクチンだな。・・・召使いのお陰で」

 

「召使いの運搬はラクチンだね~」

 

「誰が召使いだ!? ちくしょう! うおりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

私とモココが間接的に嫌味の言葉を発すると、兵藤も意固地になって駆け上り始めた。そうそう、それそれ。

 

そのぐらいの気合がないとこの修業は生き残れないからな。

 

兵藤が死にそうになりながらも、私たちは目的地の別荘へとたどり着いた。

 

この木造の別荘はグレモリー家が所有するものの1つらしい。普段は魔力で姿を消していて人前には現れないが、今回は使用するので姿を現している。

 

リビングへと一旦荷物を置き、動きやすい服装に着替えるために私たち女性陣は二階へと向かう。

 

ちなみにイッセーは荷物を運び疲れて、水を一杯飲んだ後に床に倒れ込んでいる。だらしのないヤツめ。

 

「僕も着替えてくるよ。・・・覗かないでね」

 

「覗いちゃイヤン。いくらモコナが可愛いからって❤」

 

「マジで殺すぞこの野郎!! っていうかモココ! 俺は獣に発情する趣味はねぇよ!!」

 

背後からこんな声が聞こえたような気がするが、木場の発言は下手をすると誤解を招くような言い方だ。

 

そう言えば噂によると、木場と兵藤のカップリングというヤツが一部の女子生徒の間で流行っているらしい。

 

・・・BLというのか。略さずに言うと「Boys Love」。男性同士の恋というもののようだ。

 

その2人のシチュエーションが美男子と野獣らしいが、美男子が木場で野獣が兵藤だと思うな。

 

まあ、私にも女性同士の恋である百合という言葉をしている友人がいるから、理解できなくもないが。

 

・・・うん。分かりやすくてつまらない言葉だ。私の興味の対象ではない。

 

「ええ~、イッセーって野獣じゃなかったの~?」

 

「そういう意味じゃねぇ!! 獣には惹かれないっつたんだよ!! 変な噂をあり得ない方向に捻じ曲げるな!!」

 

「イヤ~ン。イッセー、こわ~い。妊娠しちゃう~❤」

 

「こ、このウサギ野郎!! 皮剥ぎ取って丸裸にしてやるぞ!!」

 

兵藤とモココの莫迦な争いも聞こえたが、無視。あんな聞くに堪えないものを聞いてたら耳が腐ってしまう。

 

今、私はリアスたちと一緒に2階の更衣室で着替えているわけだが、振袖を脱いでジャージを着ようとしたところ・・・。

 

「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・。

 

・・・私の隣で着替えているアーシアがこちらを向いて凝視している。何だよ、私何かしたか?

 

確かに兵藤を苛めて楽しんでいたのは否定しないが、別に追い詰めるまでやったわけではない。

 

しかし、私とアーシアの考えていることは全く違っていた。

 

「サクラさんも、部長さんも朱乃先輩も、スタイル良いですね・・・」

 

よく見ればアーシアの視線は私の顔ではなく、特に気にしていない体を見ていたようだ。

 

何かあったのだろうか。今まではそんなことを言う女ではなかったはずなのに。

 

するとアーシアが自分で自分の貧相な体を触りはじめた。主にぺったんこな胸を中心にだ。

 

ずーん・・・。

 

少しばかりペタペタと触っているとアーシアは何故だか落ち込み始めた。

 

「・・・私が部長さんみたいになれる日は来るのでしょうか・・・」

 

・・・どうしたんだ? リアスみたいになるってどういうことだ?

 

もしかして巨乳になりたいのだろうか。だったらやめたほうがいい。胸なんか大きいと邪魔でしょうがないし、どこぞの変態に卑しい目で見られるかもしれない。

 

でも、今のアーシアは・・・。

 

「別にいいじゃないか、そのままでも。アーシアには小振りな胸のほうがお似合いだ」

 

私は背後からアーシアの小さな胸を揉む。ふむふむ。小さくてちょうどいい触りごちだな。まるでモコナのようだ。

 

「ひゃあ!? そ、そう言って、私の胸を触らないでくださいぃ!」

 

「良きに計らえ、良きに計らえ」

 

「何を計らうんですか!? んあぁっ!!」

 

棒読みで言いながら下から揉み揉み、上からサワサワ、更に胸の先をクイクイと摘んで捻る。

 

・・・うん。何だろうな。兵藤を苛めているときと同じぐらい楽しい。

 

モミモミ、サワサワ、クイクイ、モミモミ、サワサワ、クイクイ・・・。

 

「あ・・・ぁあ・・・んぁっ!・・・うぅ・・・くぅ・・・ぅあぁっ!」

 

アーシアが私の苛めに身悶えている。・・・ああ、なんて楽しいのだろう。

 

私は調子に乗って更にアーシアの体を弄りまくる。ふむふむ、ここが弱いのか・・・。

 

サワサワ、サワサワ、クイクイ、クイクイ・・・サワサワ、サワサワ

 

「ひ・・・あ・・・サクラ、さ・・・やめ・・・んぁあ・・・あ・・・」

 

アーシア、可愛いな。モココと同じくらい。弄ってやるとこんなにも甘くて可愛い声を出してくれるのか。

 

ふーん? ・・・・・・もっと苛めたくなっちゃうな。

 

「あらあら、サクラさんったら楽しそうですわね」

 

「・・・イッセー先輩と同じことしてます。でも、女の人だからいいと思います」

 

「み、見てないで助けて下さ、んぁぁ・・・!」

 

・・・姫島、私はそんなに楽しそうに見えるのか? 小猫、兵藤と一緒にされるのは心外だぞ。

 

先輩と後輩の言葉を背後で聞きながら、私はアーシアの下半身にも手を伸ばそうとした。

 

「・・・も、もう、許してください」

 

「ち、ちょっとサクラ! 何て破廉恥なことをしてるの!?」

 

おっと、これ以上は止められなくなるからこのぐらいにしておこうか。泣き顔のアーシアも、狼狽しているリアスも拝めて一石二鳥だ。

 

私はアーシアの体から手を離す。彼女はヘナヘナと床に座り込んだ。

 

「調子に乗ってやった。反省はしていない」

 

「・・・もう、私の別荘の貸切だからってふしだらなことをしないで頂戴」

 

「知るか。そもそも、兵藤の前で全裸になっていたお前に注意される筋合いは無い」

 

「そ、それはそうだけど・・・」

 

リアスに向かってそう斬り捨てると隣で息を荒くしているアーシアを放置して、私はジャージへと着込んだ。

 

この女も保健室の兵藤の前で素肌を晒していたじゃないか。それは破廉恥とは言わないのか?

 

裸じゃないと眠れないって何だよ。せめて下着ぐらい身に着けろ。そんなに下着を見られるのが恥ずかしいのか?

 

・・・私にはよくわからん。

 

リアスはコホンと咳払いをすると口を開いた。

 

「みんな着替えたわね」

 

「はっ! は、早く着替えないと・・・」

 

リアスの言葉にしばらくぼーっとしていたアーシアが我に返り、ジャージの下を穿き始めた。

 

ちなみに弄られていたときのアーシアは下着を身に着けただけの状態だった。私は別にスタイルなんか気にする必要はないと思うけどな。

 

下品なヤツは下品であるように、貧相なものは貧相なもの。良いように取り繕うとかえっておかしさが増すだけだ。

 

「早く着替えろ。置いていくぞ」

 

「サクラさんのせいじゃないですかぁ・・・」

 

「他人のスタイルなんか気にするお前が悪い」

 

涙目のアーシアを放置して、私はリアスたちと一緒に更衣室を出ようとする。

 

「先に下に降りてるからな」

 

「あ、ちょっと待ってください!」

 

「早くしろよ。ドン臭女」

 

私がそう言うとアーシアが慌ててジャージの上を着て、そそくさと私たちの後ろに着いて行く。

 

「モココはウサギじゃないもん」

 

「そんな長い耳持ってるくせに説得力ないだろ。ほれほれ」

 

「あーん、耳引っ張んないでよ~!」

 

1階へと降りると兵藤も黒い色のジャージに着替え終えていた。まだ兵藤とモコナは小競り合いをしていて、兵藤が耳を引っ張っている?

 

私は無言で兵藤に歩み寄ると背後から背中を蹴りつけた。

 

「痛ぇ!?」

 

「モココを苛めるな。鳥以下。雑魚以下」

 

「ぐはっ!!」

 

言葉の槍が刺さったのか、兵藤が崩れ落ちた。こんな調子で大丈夫なのだろうか。心配ではない。

 

「サクラ~~! この野獣がモココを苛めるよ~!」

 

「テ、テメェ!!」

 

モココが私の胸に飛び込んでくる。まるでキラキラと輝く天使のように。

 

・・・・・・そう考えるとムカついてきたな。

 

「苛めていいのはオレだけだ」

 

「ブフッ!!」

 

ストレートに言葉を放った瞬間、モコナも地面に落ちた。余計な反応を見せるからだ。

 

・・・こんなことでも快感を覚えてしまう私。本当に人間なのだろうか。どうでもいいけど。

 

そんな光景をリアスは苦笑を浮かべる。何がそんなに面白いんだ?

 

「さて、さっそく外で修行開始よ」

 

こうしてリアスとその眷属たちの修業が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺――――兵藤一誠は今、木場と向かい合って木刀を構えている。

 

木場も木刀を構えて俺と向かい合っている。今は木場と一緒に剣術の修業を行っているのだ。

 

その横ではサクラが見守ってくれている。とはいっても、腕を組んで目を瞑っているようにしか見えないけど・・・。

 

周囲に風が吹き、決闘でもないのに緊張感が走る。

 

ダッ!!

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

先に飛び出したのは俺だ。木刀を振るうと、木場はそれをかたなくいなしていく。

 

「よっ、はっ」

 

「おりゃ! おりゃぁぁぁぁ!!」

 

軽やかに俺の攻撃をいなしていく木場。力強く何度も振るっても、当たる気配が微塵もしねぇ。

 

バシッ!!

 

「あっ!」

 

木場が俺の木刀を叩き落とした。はあ・・・これで何度目だろうな。

 

「そうじゃないよ。剣の動きだけでなく、視野を広げて相手や周囲を見るようにするんだ」

 

そんなことを言われても、簡単にできるものじゃない。いくら普段からムカつく相手でも、こんなに実力の差があることを痛感させられた。

 

「・・・成長しないヤツめ。もうこれで14回目だぞ」

 

横からサクラが呆れたように呟く。恥ずかしいからカウントするのはやめてくれ。負けた気分になる。

 

「イッセー、よわ~い」

 

その上、モコナが俺を茶化してきやがる。・・・事実である分、言い返せない。

 

くそっ! 呑気に空なんか飛びやがって!! 何もやらない奴がこの場にいるとムカついてくる。

 

サクラが苛立ったように溜息を吐くと、俺のほうに歩み寄ってきてドンと右手で押し退ける。

 

「・・・退け。オレが手本を見せてやる」

 

そう言うとサクラは腰に提げてある短剣に手を掛けると引き抜いて、木場のほうに構える。短剣が太陽の光に照らされてキラリと光る。

 

今のサクラの表情は無感情だった。でも、傍から見れば不機嫌そうな表情にも見える。あっ、それはいつものことか。

 

サクラってスタイルもいいし美人なのに、顔だけはいつもしかめっ面だよな。少しは笑顔でいればいいのに。

 

「・・・おい。何か変なこと考えてないか?」

 

「い、いや、別に!」

 

サクラがこっちに向かって顰めたような顔をしながら言ってきた。俺は慌ててごまかすようにそっぽを向いた。

 

もしかして、心の中を読まれているのか? シキってたまに勘が鋭かったりするんだよな。余計なことは考えないようにしないと・・・。

 

「・・・ふん。木場、オレが相手だ。コイツの手本ついでにな」

 

「うん、わかったよ。僕もキミと一度は手合せをしてみたかったんだ」

 

「・・・フッ。行くぞ」

 

一瞬微笑を浮かべたシキが再び無表情になった途端、姿が消える。そして木場の背後から短剣を振り下ろす。

 

「っ!」

 

木場は気づいて間一髪で交わすと姿を消す。サクラは臆することなく、横から斬りかかってきた木場の木刀を短剣で受け止める。

 

カン! カン! カン!と木刀と短剣がぶつかり合う音だけが響く。・・・すごいな、サクラは。俺なんかよりはずっと戦いに慣れている。

 

木場の木刀をいなしてサクラは横に振りかざすも、木場もサクラの短剣を交わしたり防いだりする。よく見ていると木場がサクラに追い詰められているかのようにも感じられるな。

 

木場は再びその場から姿を消すと俺には捉えられないスピードでシキに剣を振り下ろすも、あっさりと防がれる。

 

その後もいろんな方向から攻撃しようとするも、サクラはそれを全て短剣で防いでいく。

 

木場がスピードで木刀を振り下ろそうとしたところを避け、斜め上へと振り被って木刀を弾き飛ばした。木刀はクルクルと吹き飛んで地面に突き刺さった。

 

サクラは木場に向かって短剣を構える。

 

「参ったよ・・・」

 

サクラは木場が頭を下げたのを確認すると、クルクル回して短剣を腰の鞘へと戻す。木場に勝っちまいやがった・・・。

 

「スピードは申し分ないな。あとはパワーさえあれば、大抵の相手には打ち負かせる」

 

木場に向かってそう言うと今度は俺のほうに視線を向ける。

 

「こうやって剣をいなすんだ。ちゃんと見てたか?」

 

いやいや、あんなの俺としては次元が違い過ぎるぜ。剣なんか使うの初めてなのに・・・。

 

・・・いや待てよ。そう言えば幼いころにチャンバラをやったような記憶があるんだけど・・・誰とやったんだっけな?

 

「・・・聞いてるのか、兵藤」

 

「は、はいぃぃ!!」

 

ボーっとしていたらサクラに怖い声で言われた。

 

「じゃあ、もう一回木場とやってみろ。っていうかできるまでやれ」

 

できるまで!? それって延々とこのスパークリングが続くってことだよな? サクラさん、前から思ってたけど鬼過ぎるっすよ。

 

だって、この前の朝の修業だって全然手加減してくれなかったし!! 休憩中に痛めつけてくるし、おかげで死ぬかと思ったぞ!?

 

何てことを思っていると、サクラが怪訝そうな不機嫌そうな顔をして見てくる。

 

「・・・何か文句でも言いたげな顔だな?」

 

「い、いえ! 精一杯やらせてもらいます!」

 

「ほれほれ、イッセー。がんばりな~」

 

「うるせぇ! 言われんでも分かってるわい!!」

 

モココは炭酸のコーラを飲みながら俺を茶化してくる。怠け者の獣にバカにされるなんて、何たる屈辱!

 

ちくしょう!! こうなったらやってやらぁ!!

 

その後も木場と木刀を交えてみるも、俺の結果は散々なものであって、改めて木場の実力も思い知らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうじゃないのよ。魔力は体全体を覆うオーラから流れるように集めるのです。意識を集中させて、魔力の波動を感じるのですよ」

 

続いては朱乃さん、アーシア、サクラと一緒に魔力の修業を行っている。黒いジャージ姿の朱乃さんに教わりながらやるも、俺の手には一向に魔力が集まらない。

 

ぐぬぬぬぬぬ・・・。集中! 踏ん張って! 何かを生み出すイメージを手に作り出すんだ!

 

「できました!」

 

そう叫んだのは俺ではなく隣にいた白いジャージ姿のアーシア。魔力の塊を手のひらに作り出していて、それは淡い緑色だった。アーシアの魔力は緑色なんだな。きれいなもんだ。

 

サクラのほうを見てみると人差し指の上に魔力の塊を作り出している。薔薇のような赤い色。思わず見入ってしまうほどの神々しさだ。

 

「あらあら。やっぱり、アーシアちゃんには魔力の才能があるかもしれませんわね。サクラさんはよくできていますね」

 

「そ、そんなことないです・・・」

 

「こんなの基本中の基本だ」

 

朱乃さんに褒められて、頬を赤く染めるアーシア。サクラは俺にもグサリと刺さりそうな言葉をバッサリと言い放つ。

 

クソッ・・・サクラとアーシアにできるんだから、俺にもできるはずだ! ・・・ぬぬぬぬぬ!

 

・・・ああ、ダメだ。アーシアのようなソフトボール大、シキのような野球ボール状の魔力が作れない。なんとかできたが、それも米粒程度の代物だ。

 

そんな俺を見ていたモココが口を小さな手で抑えながらプププと笑いやがる。

 

「イッセーってダメダメだね~。剣術もできなきゃ魔力を集めることもできないの~?」

 

「うるさいやい!! そういうお前だってただ煽ってるだけじゃねえか!!」

 

「・・・モココをバカにしないでよね~。むむむ」

 

そう言うとモココは宙に浮いた後に、小さな両手で魔力の塊を集め始める。俺のような白い米粒のような魔力が徐々に大きくなっていき、野球ボールほどの大きさになった。

 

「どうよ!」

 

頭の天辺に魔力の塊を掲げて、ふふんっといったようなドヤ顔をして見せるモコナ。それを見て床に両手を付く俺。

 

ま、負けた・・・。まさか、明るい声を発するだけの獣にも遅れを取っていただなんて・・・。

 

「あらあら、モココちゃんもお上手ですわね」

 

「へへへ~」

 

朱乃さんがモココの頭を撫でながら褒める。モココは白い肌を紅潮させて照れていた。

 

クソッ! 羨ましい!! 俺はこの生涯、母さん以外で女子に頭を撫でられたこともないのに!!

 

ああ、いいなぁ・・・俺だっておっぱいの大きな美女に頭をなでられたい!! いや、むしろおっぱいで撫でて欲しい!!

 

「モココなんかに負けるなんて、本当に低能だよな」

 

そこにサクラが容赦のない言葉を吐く。お前って本当に鬼だな!? 血も涙もねえよ!!

 

フンッだ、いいもんね!! 俺には最強の神器があるんだ!! ハハハ!!

 

・・・全然、使えてねえけど。

 

「では、その魔力を炎や雷、水に変化させます。初心者は実際の火と水をうまく動かすほうがいいでしょう」

 

朱乃さんがペットボトルの水に魔力を注ぐ。すると魔力を得た水が鋭い棘と化してペットボトルを内側から貫いた。

 

うおっ、すげえな。

 

「ふん」

 

シキは鼻を鳴らすと魔力を集めた人差し指を一本の木に向ける。

 

「『閃光(ライオ)』」

 

ビィィィィ

 

そしてそのまま人差し指の魔力を指先から光線状にして放射した。木の真ん中が光線に包まれて消滅し、残った上半分がダルマ落としのように切り株の上に落ちた。

 

「サクラさんは本当に凄いですわね。アーシアちゃんは次にこれを真似してくださいね。イッセーくんは引き続き魔力を集中させる練習をするんですよ。魔力の源流はイメージ。とにかく頭に思い浮かんだものを具現化させるのが大事なのです」

 

うーん・・・イメージか。思い浮かんだものを具現化させる・・・。

 

「おい、兵藤」

 

「何だよ?」

 

「莫迦のお前に分かりやすく言うなら、お前の頭の中で浮かんだものを現実に出そうとするといいんじゃないのか? 例えばお前の好きなものとか、想像力を働かせてみろ」

 

想像力・・・そうは言うけどな。俺なんかが、それを現実に出す――――。

 

うん? 待てよ。俺の好きなもの・・・だったら得意なことでもいいのか? 想像力ってことは、いつもの俺の妄想めいたことでも可能ってことか?

 

俺の思いついたことが現実に叶えられるとしたら・・・。思い立った俺は朱乃さんに頼んでみる。

 

「朱乃さん、ちょっといいですか?」

 

俺は無敵になれるかもしれない!! この発想が現実にできるんだとしたら・・・すげぇ!! これはいいかも!!

 

思いついたことを朱乃さんに耳打ちすると、ポカンとした後に微笑む。

 

「うふふ、イッセーくんらしいですわ」

 

朱乃さんは別荘に一旦戻っていくと、何かを持ってきて俺の前に置いた。

 

置かれたのは大量のタマネギ、ニンジン、ジャガイモ。・・・カレーの材料じゃないか。これでどうしろと?

 

「ではイッセーくん。合宿中にこれらを全部魔力でお願いしますわ」

 

・・・ああ、なるほど。朱乃さんのやらせたいこと、言いたいことがよーく分かった。

 

「ん~? イッセーったら用無しだから夕食の手伝いでもさせられてるの~?」

 

「・・・ああ、そういうこと。朱乃先輩も分かってるな」

 

モココは相変わらず、俺のことをからかう。今に見てろ! お前をギャフンと言わせてやる!!

 

一方、サクラはどうやら朱乃さんの考えてることが分かっている様子。さすがだ。俺の心の中を見抜いてるだけはある。

 

俺の険しい道のりは、始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐああああああっ!」

 

俺の腹に拳が撃ち込まれ、もう何度目かも分からない巨木との熱い抱擁を交わしていた。

 

いや、実際は黄色のジャージを着た小猫ちゃんの拳を喰らってぶっ飛ばされてしまった。背後にあるのは俺たちを囲む巨木だけだ。

 

くー! 悔しい!! あんな小さな子に一撃も攻撃を当てられないなんて!!

 

「・・・弱っ」

 

「・・・同感だ」

 

「弱い弱い~」

 

更に小猫ちゃんからの痛烈な一言をもらう。サクラも首を振りながら失望したような感じになっている。白大福にもバカにされている。

 

クソッ! ショックだ! ライザーのときのあの小さな女の子に呆気なくやられている分、ショックがハンパない。

 

「お前、莫迦なのか? 闇雲に突っ込んで勝てるわけないだろ」

 

俺を冷たい笑みで見下ろすシキの言葉がグサリと突き刺さる。さっきから小猫ちゃんを攻めてはいるものの、完全に彼女のペースだ。俺の体に拳がぶち当たるだけ。

 

まあ、手加減はされてるけど、それでも一発一発が痛い。

 

「・・・打撃は体の中心線を狙って、的確に抉りこむように打つんです。では、サクラ先輩」

 

「・・・まあいいだろ。コイツに手本を見せてやらないとな」

 

小猫ちゃんに呼ばれてシキが構えを取る。ちなみにモコナは呼ばれると同時にシキの肩から降りている。

 

シキは一気に飛び出して小猫ちゃんに突っ込むも、小猫ちゃんはしゃがみ込んで拳を交わすと背後へと回り、拳を打ち込もうとする。シキはすぐに旋回して腕をクロスさせるとその拳を受け止める。

 

「ぐっ・・・!」

 

サクラは吹っ飛ばされるも足で地面を踏ん張って堪え、そこに小猫ちゃんが飛び出して拳を繰り出そうとする。シキは飛び出したその腕を掴んで背後に回ると、グルリと後ろのほうに回す。

 

「っ・・・!」

 

小猫ちゃんは痛みに顔を顰めるも、サクラはしばらくすると腕を離した。その瞬間にサクラが小猫ちゃんの前に瞬間移動すると右手を真っ赤に染めて拳を繰り出す。小猫ちゃんも腕をクロスさせて拳を受け止めるも、小猫ちゃんは先程のサクラよりも大きく吹っ飛ばされる。

 

小猫ちゃんは地面を踏ん張って倒れないように堪えるも、そこに間髪入れずにサクラが小猫ちゃんの眼前に瞬間移動をして赤い拳を打ち込もうとする。小猫ちゃんもそれに対して拳を繰り出す。

 

2人の拳がぶつかり、周囲に風が吹いた気がした。

 

「・・・甘い」

 

「っ・・・!?」

 

サクラが一言発すると小猫ちゃんの腕をすぐさまに掴んで、後ろへと背負うように放り投げた。小猫ちゃんは円を描くようにクルリと回り、地面へと叩きつけられた。ちなみにサクラの手は小猫ちゃんの腕を掴んだままだ。

 

「・・・強いですね」

 

「お前の拳も結構利いたぜ」

 

「・・・最後に投げ技で来るのは予想外でした」

 

「それでもお互い手加減はしただろ?」

 

小猫はサクラの腕を掴んで立ち上がる。・・・やっぱり実力が違う。同じ友人でもサクラには当分敵いそうにもない。

 

「さてと・・・」

 

サクラと小猫ちゃんが一斉にこっちへと向く。な、何だよ?

 

「・・・次はイッセー先輩です」

 

「オレはもういいけど、小猫はまだやり足りないみたいだからな。とことん付き合ってやれ」

 

小猫ちゃんはシキと手合せをしたとは思えないほどにまだ元気で、腕をブンブン振り回しながらこっちに近づいてくる。

 

格闘技が素人の俺にはキツイものがある。あんな光景を見せられてこなせるとは到底思えないぜ。

 

「ほら、さっさと立て」

 

「弱い男はモテないぞぉ~」

 

ドガッ!

 

「痛ッ! 分かったから蹴るなって!!」

 

サクラがいつの間にか俺の横に移動してお尻を蹴り飛ばした。モコナが相変わらず俺のことをバカにしやがる。

 

「・・・さあ、先程の続きをしますよ」

 

「次、負けたら男の大事なところを蹴ってやるからな」

 

・・・ああ、そうか。どうやら俺は死ぬようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほーら、イッセー! 気張るのよ!」

 

「おおっス!」

 

俺は今、険しい山道を駆け上がっている。背中には岩、縄で体に括り付けられていた。更にその岩の上には部長。

 

そして、俺の両肩の上には・・・・・・。

 

「チンタラ走るなよ。本当に尻に点火してやろうか」

 

サクラが座りながら、恐ろしいことを言ってのける。尻に火を付けるのは勘弁してくれ。それじゃあ修行にならないだろ・・・ってのもある。

 

「イッセー、遅いね。モココはこんなに速いのに・・・」

 

そして俺を煽るかのように横にはモココが宙に浮いている。

 

うるせぇ! 大体、お前が俺の横を飛んでること自体がおかしな話なんだよ!! 少しは修行に付き合えや!!

 

そんなモココのことよりも、俺はさっきから山を駆け上がったり駆け下りたりの繰り返し。舗装がされていない分、体力的にもキツイ。

 

何度も往復して足がガクガクな状態になった頃、部長は「OK」を出してくれた。サクラもこれ以上は他のトレーニングメニューに差し障るといって同意した。

 

え?・・・まだ、あるの?・・・。

 

「次は筋トレね。腕立て伏せ行くわよ」

 

「お前は徹底的に全体を鍛えてやるからな。このぐらいでへばってちゃしょうがないんだよ」

 

「へ、へーい・・・」

 

鬼だ。鬼部長だ! サクラも今回に限ってこれまでの修業よりも酷いくらい容赦がない。焼き鳥の眷属に負けたのが原因かもしれないが、少しは手加減して欲しい。

 

「今までのお前の修業を見てきて思ったが、お前は剣術・技術以前に基礎能力が不足している。だからその分、筋力と体力を上げていくんだ。この二つを補うだけでも、戦闘も技術も活きてくるものだ。特にお前は眷属の中でも、一番駆け巡る『兵士』なんだ。お前は一番の要だということを自覚しろ」

 

「う、うぃっす・・・」

 

「よろしい。じゃあ、部長」

 

「ええ」

 

サクラとリアスがそれぞれ目配せをすると、2人の手に岩が持ち上げられ――――

 

ドン! ドン!

 

「ぐわぁ!」

 

腕立て伏せの体勢になっている俺の背中に容赦なく岩を載せてくる。

 

部長は魔力で軽々と浮かせられるなんて、本当に魔力ってヤツは便利だぜ。それで荷物を運搬してくれればラクチンなのにな・・・。

 

でも、サクラはどうやら魔力を使わないで岩を片手で持ち上げているようだ。筋肉を使っているようには見えないのに、どうやってこんな岩を持ち上げているのだろうか。

 

ポン。トン。

 

「うぬぬ・・・」

 

そしてその岩の天辺にサクラと部長が乗る。ちょっとした振動でも体が悲鳴を上げるというのにな・・・。

 

「さて、腕立て伏せ五百回だ」

 

「イッセー、いってみましょう」

 

「オーッス!」

 

俺は腕を縮めたり伸ばしたりして、腕立て伏せを開始する。

 

重てぇ・・・体がキシキシと嫌な音を立てているような感じがする。腕もガクガクと震えている。

 

と、そこにモコナが何やら雑誌を広げて俺に見せてくる。

 

「ほれほれ、イッセー。こういう女が好きなんでしょ~?」

 

そこに写っていたのは・・・おっぱいの美少女だとぉ・・・?

 

そこにはムチムチとした巨乳の美女がたくさん写っている。モコナはパラパラとめくりながら、水着姿や私服姿、制服姿の美少女を見せていく。

 

うぅ・・クソッ! 腕立て伏せなんかしてなきゃ、あのおっぱいの美少女を触れるのに!!

 

いやいやいや、いかんいかんいかん!! 俺は今、シキや部長と修行しているんだ! 誘惑に負けるわけには!!

 

でも、でも、でもぉ・・・・!

 

ああああ、触りたい。触りたい触りたい!! サクラの、部長の、朱乃さんのおっぱいを・・・!!

 

ドスッ! ドスッ! ドスッ!

 

「ぐぉっ!?」

 

ふとそんなことを考えていると、背負わされている岩に衝撃が走った。

 

「チンタラ腕立て伏せするな! 邪念が籠ってんのバレバレなんだよ!」

 

俺の岩の上からシキの怒号が響き渡る。ガチで容赦が無いぞ。

 

それにしても、モココのヤツめ。修行でサクラと部長に頼まれたのかもしれないが、あんなエロい、いや姑息なことをしてくるとは・・・。

 

なんて思っていると・・・。

 

「ホレホレ、いいおっぱいが写ってるよ~」

 

「な、なにぃぃ!?」

 

た、確かに、その雑誌には俺好みのおっぱい・・・!!

 

ドスッ! ドスッ! ドスッ!

 

「ぐわぁっ! がぁっ!!」

 

「夜までやりたいのか、お前は!? チンタラ腕立て伏せをするなと言ったはずだぞ!!」

 

だってモココが誘惑してくるんだもん、女のおっぱいを好きになるのは男の本望だもん!

 

どうやら、俺の安息の地はまだ訪れないようだ。体がいい加減悲鳴を上げている。

 

この修業を夕方前に見事乗り切ったとき、俺はふと思った。

 

・・・悪魔じゃなかったら、俺は百回ぐらい死んでるって。

 

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