今回の視点はシキとイッセーです。
では、どうぞ!
夜中、私は寝汗の体でリビングへと来ていた。台所の蛇口を捻ってコップに水を注ぎ、それを一気に飲み干す。
最近は悪夢ばかりを見る。昔、私の大切な友人が死んでいく夢。それは、思い出したくもない夢。
ここ最近ずっとだ。合宿前にも何度か同じ夢を見せられている。そして今もだ。まるで何かを警告しているかのように。
何だよ。何なんだよ。悪夢、私に何か言いたいことがあるというのか?
思い出したくもない、私の何かを掻き乱すような夢ばかり見せやがって。一体、私に何をしてほしいというんだ?
分からない。私には分からない。苦しめてまで見せる理由が分からない。
私は首を横に振った後、余計な考えを振り払うように自分の部屋へと戻ろうとする。
するとある1つの部屋から1人の男が出てきて、忍び足でどこかへと向かおうとしている。確かあそこは兵藤と木場の部屋だったか。
となるとあの茶色い髪型をしている男は兵藤しかいないな。アイツ、こんな時間にどこへ行くつもりだ?
・・・怪しい。いかがわしいことでもするつもりか?
私は兵藤に気付かれないように気配を消して後を着ける。アイツが向かっているのは・・・2階か?
2階は確か女子だけの部屋だったはず。こんな時間に2階に行くとは・・・まさか。
私は階段を上っていく兵藤の後を更に着いていく。でも、よく見てみれば兵藤は寝巻ではなくジャージ姿だな。いかがわしいことではないのか?
2階へと上がり、兵藤が誰かの部屋に向かおうとしたところで私は声を掛ける。
「おい」
「!!」
兵藤が思わずビクンとなった。ゆっくりと私のほうを振り向く。
「サ、サクラ?」
「女子の部屋に何の用だ? 寝ているのをいいことに襲うつもりか?」
「ち、違う・・・! 頼むから静かにしてくれ」
私は普段喋っている声のボリュームだが、兵藤の声はヒソヒソ声と同じような声だった。
・・・静かにしろだと? 変質者に対してどこにそんな必要があるんだ?
私がこそこそと忍び足をしているようなヤツを易々と見逃すとでも思うのか。
「他の奴らに起こされて困ることでもするつもりなのか? なんなら今から辛くてキツイ修行を死ぬまでやらせてもいいんだぞ」
「違うっての! アーシアに用事があるんだよ」
・・・アーシアに? アーシアに何をするつもりなんだ?
「心を許しているヤツにあんなことやこんなことをしやすいから頼むのか。お前、随分と尻の穴が小さくて最低なヤツだな」
「違うって言ってるだろ! 修行だよ修行!」
・・・修行? 夜中の特訓メニューは無かったはずだけどな。
兵藤は自分の顔の前で手を合わせる。
「サクラ、頼む。今は見逃してくれ。俺はどうしてもアーシアにしか頼めないとできないことなんだ。だから頼む!」
よくわからんな。何でコイツはこんなにも必死になってるんだ?
そもそも、修行と言われてもその修行の中身が何なのかが分からん。それなのに容易に「いいですよ」などと言えるわけがないだろ。
・・・と思ったけど、もういいや。面倒臭い。
私は兵藤の前を通り過ぎて、自分の部屋へと戻る。
「・・・勝手にしろ。オレは寝る」
今更、コイツがどうこうしようが私には関係の無いことだ。アーシアと何をしようが、興味無い。
それに私はもう疲れているんだ。コイツのヘタレっぷりといい、悪夢といい、ここに来てからムカつくことばかりだ。
・・・正直、無駄な足掻きを続けているようなヤツは無性にイライラする。ああ、無常だ。
「・・・はあ」
私は溜息を付いた後、ベッドに身を投げた。
修行二日目。朝起きたら死ぬほどの激しい筋肉痛が俺を襲った。だって夜は夜でお風呂の後に特訓があったしな。
部長と毎日行っている朝の練習よりもかなりハードな内容だった。その上、シキが俺を苛めるように嬲ってくるから本当に洒落にならないほどの運動量を突破した。
昼に行っていた修行の何倍もの練習量だったからな。いくら活発だからといって悪魔でなけりゃ絶対に死んでる。
木場と同じ部屋って言われたときもテンションが下がったっていうのに。まあ、サクラがいるから目の保養にはなるだろうと思うけど。二階から女の子たちの楽しそうな笑い声が聞こえてきたときにはますます落ち込みが激しくなった。
でも、サクラがいるっていうのもまた俺にとっての問題点だ。だってサクラは俺と一緒にいると暇つぶしと言わんばかりに俺をからかい、弄り倒してくるし、不機嫌になると殴ってくるわ、八つ当たりしてくるわでもう本当に酷いものだったぜ。
サクラは女の子らしいことをほとんどしてくれないので、俺にとっては期待のしようがない。邪なことをしよう考えようものなら殴られるか、ロザリオを頭に捻じ込まれるかしかないのだ。せめて他の女子だったら喜んでこの勉強会をするんだけどなぁ。
「ブフォァ!?」
「変なことを考えてないで勉強に集中しろ」
どうやら俺がサクラの分析に頭を移動させて集中していないせいで、機嫌を損ねたサクラが頬に一発ビンタをかましてくれたらしい。さすがはサクラさん。実技でなくてもまるで容赦がないぜ。
そう。午前中は実技ではなく、勉強会の真っ最中。リビングに集まり、部長が俺とアーシアに悪魔の知識を教えてくれることになったらしい。
朝から何やら難しい名前や事柄を教え込まれ、訳が分からず頭が許容量を超えそうです。思わず眠りそうになるとサクラに頭や頬を叩かれて起こされる。精神持つかな・・・俺。
ある程度教えてもらい、木場が改めて問題を出してくる。
「僕らの仇敵である神が率いる天使。その最高位の天使の名前は? そしてそのメンバーは?」
「えーっと『
「正解」
はぁ・・・正解か。全員最後に『エル』っていう字があるから覚えやすかったな。何とかなった。
「・・・ふん」
何かサクラが不機嫌そうに鼻を鳴らしているんだが、どうかしたのか?
「じゃあ、次に僕らの王、『魔王』さま。四大魔王を答えてもらおうかな」
「おう、任せておけ! いずれお会いする方だ! バッチリ覚えているぜ! ルシファーさま、ベルゼブブさま、アスモデウスさま、そして憧れの女性魔王さまであるレヴィアタンさま!!」
「正解」
「いつかレヴィアタンさまにはお会いしてみせるぜ!!」
部長に聞いた。女性悪魔の頂点であるのが魔王レヴィアタンさま。とても綺麗な魔王様だと聞いた。縁があればお会いできるかもしれない!
本当に楽しみで仕方がない! 一体、どんだけ美人なのだろうか? もう、想像するだけで・・・。
バシッ!
「痛ェッ!」
「・・・何を興奮してるんだ、お前は」
浮かれている俺の後頭部をサクラが悪魔の本で殴った。しかも三下呼ばわり・・・まあ、確かに俺はまだ弱いけどさ。
「じゃあ次は堕天使の幹部の名前でも答えてもらおうか?」
出たよ・・・俺の苦手な堕天使のどもの名前・・・。しかもサクラの口から・・・。
堕天使のほうが他の勢力よりも幹部が多いんだよな。えーっと・・・。とりあえず、上の2人の名前は分かるぞ。
「堕天使の中枢組織を『
バシッ!
「あう!!」
「ベネムエ、コカビエル、サハリエルだ。こんな基本中の基本も覚えられないほど莫迦なのか、お前は」
わかんねーよ!! 幹部多すぎだろ!! っていうか、サクラが殴ったせいで記憶が飛んだってことは無いよな!?
「覚えておけよ。いつかはお前らと敵として相見える存在かもしれないんだからな」
「・・・あ、ああ」
そう言われてもな・・・堕天使はどうもダメだ。どうも好きになれない。どうせろくでもない連中ばかりなんだろうし。
それに奴らは『神の子』、つまりは
組織を作って神器を研究しているという話だし、有益なら仲間として引き入れるか、奪うかだ。有害ならその場で始末。本当にろくでもない連中だな。
彼らは悪魔にとっては一番の敵らしいし、今度会ったら俺も容赦はしない! アーシアを酷い目に遭わせるような輩に手加減なんかしないさ。
「後でオレからは『妖魔』と『
それとサクラが勉強会の前にこんなことを言っていた。妖魔は大体わかるけど、ファントムは初めて聞くな。でも、名前からしてとんでもない奴らに違いないな。
部長もファントム自体は聞いたことはあるらしいけど、概要までは知らないみたいだ。だから、その過程で俺たちに教えてもらうことになった。
「我々悪魔と堕天使、そして天使を率いる神は大昔、永久ともいえる時間の中で三つ巴の大きな戦争をしたの」
現在、部長が悪魔の歴史とその三つ巴の戦争について詳しく語っている。戦争が起こったのはこの前も聞いたことがあるけど、あまり詳細は知らないんだよな。
アーシアも他の部員たちも真面目な顔で部長の話に耳を傾けている。
サクラはというと・・・おいおい、寝てるし・・・。目を瞑るなよ、部長がせっかく話してるのに。
「しかし、勝利も敗北も無く、全ての勢力が激減しただけで戦いは終結したわ。悪魔は永遠に近い寿命を持つ代わりに出生率が非常に低いため、大戦の後で種そのものが絶滅の危機にあるの。大戦後は純血の上級悪魔が連なる『七十二柱』と呼ばれるほとんどの家系が断絶してしまったわ。私のグレモリー家とライザーのフェニックス家は『七十二柱』の生き残りというわけ。これが悪魔が人間を転生させて眷属を増やす理由よ」
なるほどな・・・。だから、悪魔はその、『
「レーティング・ゲームはそんな中で生まれてきたの。ゲームによって眷属に実戦経験を積ませ、その主である悪魔もその実力を示すことができるから。今ではゲームの実績が爵位や地位に大きく影響するようになっているの」
部長はここまで話すと「ふぅ・・・」と一息付く。
「この辺で少し休憩にしましょうか。さすがにみんなも疲れたでしょう? ってサクラ、あなた何で寝てるのよ・・・」
休憩を入れようとした部長が目を瞑っているサクラのほうに目が行く。ほら~・・・やっぱり叩かれると思ったぜ。
サクラは欠伸を一つした後に、目を開いて部長のほうを見る。
「聞く必要はない。だって全部知ってるし」
「でも、私が話してるのに――――」
「英語を教えてるハゲオヤジの中年と同じこと言わないでくれる? 聞き飽きたんだよ、そんな言葉。ふわぁ~・・・怠っ」
「もう・・・サクラに手を焼く教師たちの気持ちが分かるような気がするわ」
おい、サクラ! お前、部長に、先輩に対して失礼だと思わないのか!?
さっきからサクラはああ言えばこう言う状態だし、また欠伸をしておまけに肩を片方ずつコキコキと鳴らしている。
「あらあら。では、私はお茶を入れますわね」
朱乃さんはまるで2人の状況を楽しんでいるかのように微笑んでいる。あなたも少しは注意しましょうよ! そこは先輩らしく!
朱乃さんが戻ってきた後、次はアーシアが俺たちに授業を始める。
「コホン。では、僭越ながら私、アーシア・アルジェントが悪魔祓いの基本をお教えします」
おー、パチパチ。みんなの前に出て話を始めるアーシアに俺たちは拍手でエールを送る。サクラは・・・ただ見てるだけだったけど・・・。
途端に顔を赤面させるアーシア。可愛い反応ありがとうございます。
「え、えーっとですね。以前私が属していたところでは、二種類の悪魔祓いが存在します」
「二種類?」
俺の問いにアーシアがうなずく。
「ひとつは神父たちが聖書を読み、聖水を使い、人々の体の中に憑りついた悪魔を祓う『表』のエクソシスト、そして悪魔の皆さんが脅威としている『裏』のエクソシストとがあります」
アーシアの言葉にサクラが続く。
「兵藤もあったことはあると思うが、『裏』のエクソシストというのは神や堕天使に祝福されて光の力を借り、悪魔や魔獣などを懺滅するのが役目なんだよ」
サクラの言葉の後に部長が更に続ける。
「私たちの最悪の敵は神なの。その力を持つ彼らとは長年の歴史の裏舞台で争ってきた。天使の持つ光の力を使い、常人離れした身体能力で私たちを滅ぼしにくるわ」
「オレに言わせれば、堕天使以上にろくでもないとしか言いようがない。つまらない連中だな」
サクラが不機嫌そうに吐き捨てる。確かにそうとはいえるかもしれない。俺の脳裏にイカレ神父・フリードの姿が思い出される。
悪魔だけでなく、悪魔に関わった人間までを斬り捨てようとする。正直、もう二度と会いたくないくらいだ。
「お前らはオレとリリー、ウィル、エレンが悪魔祓いだったのは知ってるだろ?」
「ええ、知ってるわ。あなたたちが私たちに関わっているのがおかしな感じがするのだけどね」
うん、知ってる。サクラは悪魔祓いだった。でも、今は何らかの理由で『
理由は話そうとしない。訊ねようとしても見透かされていて、お前らには関係ないと言って取り合おうともしてくれないのだ。
「オレとウィルとエレンは『裏』のエクソシスト、リリーは『表』のエクソシストだったのさ」
「・・・ちょっといいですか?」
ここで小猫ちゃんが口を挟む。
「どうした、小猫」
「リリー先輩は神器を使ってましたよね?」
「リリーは元々アーシアと同じタイプのエクソシストだったんだよ。でも、教会を出てエデンに入った後は悪を倒す術を身に着けたんだ」
そこにアーシアが続く。
「リリーさんはダメダメな私とは違って優秀なエクソシストだったんですよ。悪霊から数多くの憑かれた人々を救ったと聞いています」
あの攻撃的なリリーちゃんがアーシアと同じタイプ・・・。信じられないな・・・だって今となっては全然想像できん。
今となっては、サクラたち『エデン』のメンバーと一緒にいることが安心すると思っている俺がいる。
本来ならサクラとリリーちゃん、ウィル、エレンさんは俺たちにとっては脅威のはずなんだ。でも・・・・・・。
「オレはお前らを滅ぼすことに興味はない。強いて言えば、オレたちが滅ぼすのはこの世界に混乱をもたらす『悪』なんだよ。お前らのような平和ボケな悪魔たちに敵対する意思はない」
四人が会合した時、サクラは部長の前でそう言い切ったのだ。だから、部長もサクラたちを信用していてたまにこうやって部活動を行ったりしているんだ。
・・・悪を滅ぼす。確かに、俺たちの平和を脅かす奴らがいるのは見逃しておけない気がするな。俺だってそう思う。
だって、そんな奴らがいるとまだ見ぬおっぱいが揉めなくなってしまうからな!
そう思っている間にアーシアがバッグから何やらたくさん取り出す。
「つ、次に聖水と聖書についてお教えします。まずは聖水、悪魔の皆さんが触れると大変なことになります」
「お前もだ、アーシア。悪魔がそんなものを頭から被ろうものなら、死んだほうがマシと思うような激痛を味わう羽目になるぞ」
「うぅ・・・そうでした・・・。私、もう聖水を直に触れられません・・・」
サクラの言葉に落ち込むアーシア。まあ、悪魔だしな。
「作り方もあとでお教えします。役に立つかどうかわかりませんが、いくつか製法があるんです」
「・・・もし作るんだったらオレが手伝ってやるよ。どうせお前はほとんどの材料も直に持てないだろ」
「はうぅ・・・で、出来ればお手柔らかにお願いします」
「・・・善処してやる」
ハキハキと講義をするアーシアに、サクラが救いの手を差し伸べるかのような発言をする。それを聞くとアーシアは手をモジモジさせながら肯定した。
サクラとアーシアって仲良いのかな? でも、見るからにはサクラがアーシアを弄っているようにも見えなくはない。
「次は聖書です。小さい頃から毎日読んでいました。今は一節でも読むと頭痛が凄まじいので困っています」
「悪魔だもの」
「悪魔ですもんね」
「・・・悪魔」
「うふふ。悪魔は大ダメージ」
「悪魔だからな」
「うぅぅ・・・私、もう聖書も読めません!」
部員とサクラから総ツッコミを受けて、涙目のアーシア。
「実際、聖書は悪魔を祓うのに使うことがある」
「? どうやってだよ?」
「カトリックの教会では『エクソシズムの儀式』と呼ばれていて、その出始めの祈祷文として聖書を読む。『悪魔に立ち去るように命じる』意味を持った文をな。悪魔が主に苦しむのはその文だろうな」
へぇー、そういう意味があるのか。聖書を読まれると悪魔は相当苦しむと部長からも聞いたことはあるけど。
「・・・聖書は目を通したことはあるけど、正直言ってくだらない。オレにとっては詭弁としか言いようがないな」
「そ、そんなことはありません! 聖書の内容だって素敵なんですよ!」
アーシアがなんか必死になっているな。悪魔になっても、エクソシストとしての思いを捨てきれていない証拠なのかな?
「ほう。じゃあ、その素敵な内容とやらを読んでみろよ」
「も、もちろんです! この一節は私にとっては好きな部分なんですよ・・・ひう! また頭痛が・・・ああ、主よ。聖書を読めなくなった罪深き私をお許しください、あう!」
聖書に目を通してダメージを受けたアーシアは、お祈りをしてまたダメージを受けている。何という、悪循環。そんなことを繰り返していたら、いつか死んじゃうよ?
「お前の言う大好きな一節を読むことを、神はお許しにならないみたいだな。まあ、悪魔はみんなそうだけど」
「あう! でもでも、もうちょっとがんばれば・・・はう!!」
「・・・見苦しい。でも、これはこれで面白い講義だな」
さっきから聖書を目を通そうとしてはダメージを受け、お祈りをしてはダメージを受けているアーシア。本気なのかボケているのか、非常に判断に困る光景だな・・・。
一方のサクラはその様子を見ながら、意地の悪い笑みを浮かべている。性格悪いな・・・サクラも。
「ところで、サクラ・・・」
ここで部長がサクラに視線を向ける。
「・・・何?」
「そろそろ私たちに『妖魔』と『
「・・・ああ。アーシア、そろそろ席につけ」
「は、はい」
サクラは頭の後ろを搔きつつも、立ち上がりどこからともなくホワイトボードを引っ張り出してくる。
「では面倒だが、妖魔と
サクラはコホンと咳払いをすると説明していく。
「まずは妖魔だな。おおよそのことは部長たちも知っているだろう?」
「ええ」
「妖魔は三大勢力が争いを起こしたころから存在している古の種族。血肉を好み、人間だけでなく悪魔や堕天使にも無差別に襲い掛かって食らうという文献が残っている。妖魔は勢力の争いには参加せず、ただひっそりと数を増やしていったのさ。欲望のままに無差別に襲い掛かることからはぐれ悪魔以上に危険な存在とされていて、教会、
うん。それは分かる。誰にでも襲い掛かるということは。俺も妖魔の姿を見て思わず身震いしてしまった。あれは、本当に気持ち悪かった。
「だが妖魔には二種類のパターンがある」
「二種類?」
俺の問いにサクラが頷く。デジャブってような気がするけど、気にしない気にしない。
サクラはマジックペンを取り出すとホワイトボードに絵を描いていく。
「知能が低く、討伐対象にもされている『獣型』、そして文字通り人の姿をしていて知能が高い『人型』がある」
「1つ質問してもいいかい?」
「何だ、木場」
「妖魔が人間に擬態をしていることがあったけど、あれはどういう分類に入るのかな?」
妖魔が人間に擬態・・・? マジかよ・・・。
「妖魔は食らった人間に擬態できるんだよ」
『!!?』
俺たちはその一言に驚愕した。中でも絶句していたような表情をしていたのは、木場と小猫ちゃんだろう。
「・・・ということは、先輩たちが討伐したあの妖魔は・・・?」
「人間を食らったんだろうよ。知能を付けるためにな」
「そ、そうなのか・・・」
「獣型の妖魔だっていつまでも莫迦だったわけじゃないからな。やがてほとんどの勢力に危険視されると確実に滅ぼされてしまうという懸念が生じてくるわけだ。そこで獣型の妖魔は生き残るために人間を食い殺して人と変わらない姿を取れるようになったのさ。知能も付けてな。でも、獣型なのは変わらないわけだ」
サクラがマジックペンで獣型と人型の絵の間に矢印を書く。人型であることを否定すると赤いマジックペンで矢印に線を引く。
うーん・・・確かに生物の授業では人間は元々海に住んでいたって先生が教えてくれたけど・・・妖魔がこんな姿になったかと思うと本当に人間が人間かどうか疑いたくなってしまうな。
「一方の人型の妖魔は知能を持ち、人間世界にも適応できる。こっちは別に人間の血肉には興味は無い。むしろ獣型の妖魔の被害が多い、といったところか」
サクラはホワイトボードを裏返して、二つの楕円を書き始めた。一つには人間界、もう一つには魔界と書いた。
「妖魔はこの世界と違っている場所、魔界に生息している。ここには人型と獣型の両方が生息しているが、人型は獣型の被害を受けることが何件も発生しているのさ。だから人型の妖魔も同じ種族とはいえ、獣型の妖魔を排除することも多い。でも、人型の妖魔の問題はそれだけじゃない」
ホワイトボードをまたひっくり返すと先ほど書いた妖魔の絵へと戻る。
「人型とはいえ妖魔は妖魔だ。1人野放しにしておくと下手をすると獣型の妖魔のように血肉を貪るようになってしまう危険がある。そこで対策としてとったのは上級妖魔の元で支配下に置くことだ」
「どうやって、ですか?」
アーシアが恐る恐る尋ねる。そうだ、アーシアは妖魔に襲われてから、極端に怖がるようになっちまったんだよな。
「上級妖魔が血を与えて、自らの眷属として服従を誓わせるのさ。獣型の妖魔にも応用できる」
「まるで私たちのやり方と同じね」
「実際そうだ。妖魔が血を与えるということは、眷属として加えるのと同じこと。もちろん人間も血を与えられれば妖魔になる。半分、だけどな」
シキがマジックペンの蓋を閉めると放るように上に投げながら問う。
「妖魔について話せるのはここまで。次は
ホワイトボードの妖魔の絵を消すと人の絵を描き始める。何で、人間の絵が必要なんだ?
「ファントムは魔界に住んでいる感情の種族だよ。名前の通り、人間の絶望を司り、その感情を糧として生きている。奴らは三大勢力の争い以前から存在している希有な種族で、神は必要ないと戦争には参加していない。ファントムはそれぞれ『純血種』と『転生体』の二種類が存在する。純血種は古代から存在している混じりけのない血を持つ種族。転生体は人間の絶望や血を与えることで誕生する種族のことだ」
「ファントムはどうして神が必要なかったの?」
「神の力を鬱陶しいと考えたのさ。元々ファントムは神に仕えていた獣型の種族だった。だが、神が感謝や敬意を表さなかったために、次第に神を嫌って敬遠し、自分たちの種の繁栄のために動くようになったのさ。それで神の力を手に入れるということは自分たちの種の意思に反する行為となる、だから神の力は必要なかった。そして自分たちの中にある獣型は消えず、次第に人間と同じような姿を取るようになったのさ」
サクラは部長の質問に答えると話を続ける。
「ファントムは程度の違いはあれども、基本的にはプライドが高くて野蛮人が多いんだよ」
「野蛮人が多い、ですか・・・?」
「ああ。種族の祖先は見下されていたからプライドを傷つけられるのが何よりも嫌う上、元々戦いの中で生きているから戦闘を好むイカれた連中が多い。だから、悪行に悪行を重ねて面白がっている凶暴な奴らなのさ。決して友好的な奴らではない。お前らも出会ったら気をつけることだな」
サクラの説明に部長や木場の顔が険しくなっていくように感じた。
「人間とファントムを見分ける方法はないのですか?」
「魔力の質で感じることだが、ファントムは気配を隠すのが上手い。だから、素人が簡単に見分けることなど不可能だ」
「気配を隠すのが上手い、か・・・」
俺たちはファントムがとんでもない存在であることに驚きを感じるしかない。
「・・・ファントムは人間の5倍の力を持っていて、悪魔と同じように『王』が存在する。上級ファントムと王だけが下僕や部下を持つことを許されるのさ。後、血を好むものが多い」
ちょっと待って! 何か聞き捨てならない言葉を言ったぞ!?
「ち、血を好む!?」
「まるで吸血鬼みたいだね」
「さっきも言ったと思うが、アイツらは基本的に戦闘を好む狂った連中だ。昔から殺したヤツから血を貰い、啜りながら生きている。まあ、アイツらの事は妖魔の進化版だとでも思ってくれたほうがいいかもな」
それって妖魔よりもたちが悪いって言っているようなものだよな!?
俺はサクラの言った言葉に絶句するしかなかった。そんな奴らがこの世界にいるとなると安心できない。何か不安だ。
「まあ、お前らが理解できるのはここまでか」
「ファントムについて少しは理解できたわ。でも、種族自体が血も涙も無さ過ぎて不愉快に感じてくるわ。正直、会いたくないものね」
サクラは背を向けて閉講の言葉を呟き、部長が結論づけた。
よく見るとみんな、サクラの話を聞いて暗い顔になってしまっている。サクラはそう判断して講義を中断したんだろう。
俺も正直言って信じられなかった。特にファントムについてだ。聞いていても嫌悪感しかなかった。
堕天使よりもえげつなくて厄介な存在かもしれない。俺はそう思った。聞いているだけでも分かる。
何だかやるせない空気のまま、午前中の勉強会は終了となり、午後の修業へと移っていった。
何日もの間、修行をしていて分かったことがあった。
俺には木場のような剣技の才能がない。
小猫ちゃんのような格闘技の才能があるわけでもない。
朱乃さんのような魔力の才能があるわけでもない。
一番分かったことは、俺は壊滅的に弱すぎるということだ。
みんなやサクラと修行していて自分がどれほど無能な存在だったかを突き付けられた。
それはゲームでは、役に立たないということ――――。
アーシアのような回復をすることもできない。
サクラのようにその場の対応できるわけでもない。
順調なのは、野菜の処理とアーシアとの修行だけ。
俺は本当に・・・弱くて役立たずだったんだ・・・。
オリジナルの用語の説明、分かりにくかったらすみません・・・。
もっと話が進めば、分かってくるようになると思います!