極悪な奴ら/THE EVIL HERO   作:早乙女

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第25話「静かなるこの夜」

 

・・・最近、夜になって眠れなくなっている私。

 

また、あの悪夢のせいだ。今日も見た。自分の大切な人が次々と血を噴いて倒れていく。

 

私がもう二度と思い出したくない・・・あの日のこと・・・。

 

私はあの日、いつものように大切な仲間と共に妖魔の討伐へと赴いていた。ここまではいつも通りのことだった。

 

しかし、親友と一緒に妖魔を捜索している最中に遠くから絶叫が響き渡り、そこへ赴くと仲間が血を流して倒れていたのだ。胸に穴をポッカリと開けて。

 

それを火種に仲間が次々と何者かに殺されていき、そしてアイツも・・・。

 

殺したのは・・・黒くて、よくわからない、ブラックホールのような物体だった。

 

そんな夢であって現実でもある夢を、私はここ最近延々と見せられているのだ。

 

・・・一体、何が・・・したいんだ・・・?

 

いい加減にしろ。もう、やめろ。ふざけるな。何か私に言えよ。

 

問いかけても悪夢は何も答えてくれない。私に答えを見つけろとでもいうのだろうか。

 

洗面での自分の姿を鏡で見ながら、私は苛立ちとよくわからないモヤモヤに悩まされていた。

 

・・・もういい。忘れよう。何度見させられようが、私には関係ない。何度も忘れればいい話だ。

 

そう割り切ってしまえばいいと私の頭がそう言っている。でも、私にはそんなことができているのだろうか。

 

・・・知るか。知るもんか。そんなことは、本当にどうでもいい・・・!

 

私はますます苛立ちながら、台所で水を飲み干すと、リビングを通り外へと出た。今は眠れる気分じゃない。

 

別荘の外へと出るとそこにはそれなりに大きな湖が広がっている。グレモリー家も相当なお嬢様だということが分かる。

 

正直、自然の風に当たってスッキリしたかったので、私は別荘からは少し離れた森へと向かった。

 

・・・森は落ち着く。木々に囲まれていて、特にこんな夜は一人でいると安心する。

 

私は手頃な木の枝を探し出し、それを見つけるとその上に飛び乗って寝転がる。

 

うん。気持ちのいい風だ。夜はどうせ虫もいないだろうし、誰にも邪魔されずにゆっくりと自分の時間を過ごせる。

 

それにここからは夜空の月も拝めるから、一石二鳥だろう。

 

私は密かに持ち出した水筒を取り出すと蓋を開けてそこに注ぐ。中身はおしるこ。小豆と水と砂糖を入れて煮たものだ。

 

・・・・・・ん。甘い。

 

おしるこを飲みながら、私はこれまでのアイツの修業を振り返ってみる。

 

・・・正直言うと、ほぼ壊滅的。特に成長しているとはいえないな。

 

今日も木場や小猫、姫島と修行に取り組んでいたが、やればやるほどにアイツらとあの莫迦の差が生まれてしまう。それはアイツらは元からそういった才能を持ち合わせているからとしかいいようがない。それも死にもの狂いで手に入れた技能だ。

 

でも、あの莫迦にはそんな才能は全く無いし、自分の備わった技能ですら手に入れることもできていない。これから先、努力してもアイツらとの差が縮まるのだろうか。

 

それはもう何年かかるのか。十年、百年、千年、いや一生無理かもしれない。

 

・・・やっぱりアイツは、私の期待はずれだったのだろうか。アイツには私の興味を引く何かを感じるというが、この修業を続けても全くそれが見られる気配がしない。

 

それに比べてドン臭女のアーシアは、魔力の修業でぐんぐん成長していっている。今では炎や水、雷も小規模ながら使えるようになってきた。兵藤は未だに米粒程度の魔力しか作れていない。兵藤もアーシアも、普段なら分からないかもしれないが、これだけの差が生じている。

 

兵藤は一体、何なのだろうか。所詮は悪魔界の希にみる落ちこぼれか。それとも堕天使を倒しておきながらこの期に及んで、何かが覚醒していないのか。

 

私にとってはどうでもいいけど、このままで本当に平気なのか? 相手はあのフェニックスだ。

 

フェニックスのことはよく知っている。命を司る聖獣として崇められた存在。涙は人々の傷を癒し、血を飲めば不老不死になれるという伝説として人間たちには知られている。

 

フェニックスというのだから相手は不死身だろう。どんなに致命傷となる傷を負っても、死ぬことは無い。寿命が尽きても灰となって、再びその中から新しく生まれ変わる。

 

・・・・・・フェニックス・・・不死身・・・婚約・・・両親の決め事・・・レーティングゲーム・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・ククク、ハッハッハッハッハッハ!!

 

そうか! そういうことか!! リアスも皮肉なものだな!!

 

あの婚約はそう、最初から両親に仕組まれていたものだったんだ!

 

リアスが拒否しても大丈夫という意味合いで両親はフェニックス家を婚約者を選んだ。リアスが拒否することは分かっていたから、あのメイドはレーティングゲームで審判を下すという判断をした。結局、どっちに転んでもリアスは婚約を選ばざるを得ない。

 

フェニックスは殺しても死なないんだ。だから、いくらリアスたちが強くなっても、あのフェニックスには一切勝てない。リアスの両親も随分と悪いことをするな。ククク・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

「狂った・・・静寂(サイレンス)に潜んだ・・・黒の揺り籠(クレイドル)・・・過信に揺れて・・・」

 

気付けば私は歌を口ずさんでいた。退屈している証拠だろうな。

 

まあいい。歌を歌うのは私も好きだ。

 

「そっと錆びついた銀の薔薇・・・握りつぶしてね・・・酷い傷みを・・・忘れればと」

 

そういえば、教会にいたころはよくアイツらと讃美歌を歌ったものだ。お祈りはくだらなかったけど、讃美歌だけはよかった。

 

パイプオルガンで弾かれる幻想的な曲。歌詞の意味は、正直どうでもよかった。歌えればそれでよかったし。

 

「静かに眠るお前の・・・首に残った証・・・」

 

教会にいた頃を思い出す。問題児とか言われてたな、私。礼拝なんかくだらないといってサボってばかりで神父やマザーを怒らせ、自分が好きな動物を連れ込んで教会をクソまみれにしちゃったこともあったな。他にもいろいろと思い当ることはあったけど。

 

私は礼拝よりも妖魔や魔獣狩りのほうがしたかった。だって本業はそっちだから、相手を殺せるという快感を得られるから。たとえ獣でも。

 

・・・まあ、そんな思い出なんか忘れてもいいけどな。今は怒りしか感じないし。

 

「永遠の呪縛だとしても・・・今この愛おしさと切なさを胸に・・・」

 

「サクラ?」

 

「!!?」

 

突如、背後から声が聞こえた。私を呼び捨てにし、そしてこの透き通ったような通る声。相手は大よそ見当がついている。

 

私は顔を顰めながら後ろを振り向き、その対象者――リアスを細い目で見た。

 

「覗き見の上に、立ち聞きか?」

 

「ごめんなさい。そんなつもりはなかったの。ただ、歌を歌っている声が聞こえて」

 

「・・・ふん」

 

そよ風め・・・私の声を流してリアスのほうに聞こえるようにしていたな。全く、本当に余計なことをしてくれる。

 

私は鼻を鳴らすと地面へと降り、その場から立ち去ろうとする。せっかくの一人での楽しみが台無しだ。

 

「ちょっと待って」

 

リアスに呼び止められ、足を止める私。何だよ。私はさっさと離れて1人の空間にいたいんだが?

 

「少し、お話をしない?」

 

「・・・お前と話すことなんか無い」

 

「そう言わないで。私はあなたと一度2人で話をしてみたかったの。お願い」

 

「・・・・・・」

 

心の中で舌打ちをする私。正直、付き纏われるのは嫌いだ。私は1人で暇をつぶしたい。

 

誰かに絡んでいると碌なことがない。過去にリリーと絡んでキスを迫られたこともあるし、アーシアはドジをやらかして私の手を焼いてくれる。本当に碌でもない。

 

「・・・そんなに話したいのか?」

 

「ええ」

 

でも、彼女の口から『お願い』という言葉を聞いたのは確かだな。そんなに私と一緒にお話しがしたいのか。

 

・・・まあ、お願いをするのなら仕方がない。付き合ってやってもいい。適当に対応して1人になればいいだけの話だ。

 

私は溜息を吐くと木の近くに腰を下ろして寄りかかった。するとリアスも微笑んで私の隣に腰を下ろして木に寄りかかった。

 

座ったのはいいものの、その後は無言の空間だった。リアスは手に持っている本に目を通したまま、私と話そうとしない。

 

何だよ。私と話がしたいんじゃないのか? 何も話がないのなら私はとっとと一人になりたいんだが?

 

そう思っていると唐突にリアスが沈黙を破った。

 

「ねえ、サクラ」

 

「・・・何」

 

「私の眷属になる気はないの?」

 

・・・またその話か。いい加減やめてもらいたいな。

 

「何度も言ったが、眷属にはならない」

 

「どうして?」

 

「・・・面倒臭い」

 

「むぅ・・・」

 

リアスがムスッとした顔をする。そんなに私の言葉が癇に障ったのか?

 

「うるさいのはアイツらだけで充分だ」

 

「エレンとウィルとリリーのことね」

 

「それ以外に何かあるか? 何年も一緒にいるんだ。あんな鬱陶しい連中と」

 

「・・・そう。でも、大切な仲間なんでしょ?」

 

「ふん」

 

エレンとウィルの2人とはエデンに入ってからの付き合いだが、友達だとは思ったことないな。

 

アイツらはただの同士だ。悪と戦うだけの。それ以上でもそれ以下の関係でもない。

 

「あなたってアーシアには優しいわよね」

 

「・・・何の話だ?」

 

私がアーシアに優しいだと? どこをどう見ればそういう見解に陥るんだ?

 

時々この部長の、私たちの日々の行動を見る目がおかしいとすら思うことがある。それを交えた上での私の見解だ。

 

「修行のときに魔力の使い方を教えてあげていたし、お風呂のときだってアーシアの体を優しく洗ってたじゃない。今日の勉強会のときもフォローしてあげてたわ」

 

「・・・あんなのただの気紛れだ。それにアイツには兵藤がついてるじゃないか」

 

そうだ。気紛れに過ぎない。あのドン臭女が見ていてイライラするだけだ。ただそれだけのこと。

 

「確かにイッセーがいるわ。でも、あなたと一緒にいるときだってあの子は笑顔だったわよ。サクラ、あなたは十分優しいわ」

 

「・・・勝手にそう思ってれば?」

 

「じゃあ、そう思うことにするわ」

 

・・・微笑みながら言うところがムカつく。何でこの女と話しているとイライラするのだろうか。私は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

私は優しくなんかない。そんな感情は持ち合わせていない。私はずっと前からそんな感情は捨て去ったんだ。組織の人物として活動するために。

 

情は自分を甘くする。情を持っていて死んだヤツなんて数多く見てきた。生きるために人の情なんか私には必要ないんだよ。

 

感情なんか無意味だ。感情なんか・・・。

 

「・・・おい」

 

「?」

 

「・・・ファントムのことでまだ教えてなかったことを教えてやる」

 

「・・・何かしら?」

 

リアスは少し沈黙した後、本を閉じて私のほうを向いた。聞く覚悟はあるみたいだ。まあ、『王』だしな。

 

「・・・ファントムは人間の心を持ち合わせていない」

 

「・・・どういうこと?」

 

「勉強会のときに言ったと思うが、ファントムは元々獣だ。人間なんか最初からやっていない。いくら人の姿を持っていても、心を持ち合わせる感情なんか存在しないということだ」

 

「・・・・・・」

 

リアスは黙った。この女はまだ箱入り娘なのかもしれない。世の中にはまだまだ残酷なことはたくさんある。受け入れなければこの世界から生き残ることなんて不可能だ。

 

「・・・なあ」

 

「・・・?」

 

「・・・部長は何も感じない、何も思わない自分だったら、どう思う?」

 

「・・・・・・」

 

リアスはまた黙った。この女の癖なのか?

 

そう思っているとリアスが恐る恐る口を開いた。

 

「・・・分からないわ」

 

「・・・・・・」

 

「眷属には厳しくすることはあるけれど、冷たく当たったことはないわ。そもそも、感情が無くなった自分が想像できないもの」

 

「・・・質問を変えてやろうか?」

 

「・・・え?」

 

「・・・自分の仲間が感情を失くしてしまったら、どうする?」

 

このぐらいの質問には解答が出せるはず。私はそう思って別の質問をしてみた。私だったら何もしないけどな。

 

リアスは少し考えた後、口を開いた。

 

「・・・感情を抱くように善処する、かしら」

 

「・・・は?」

 

「私にもかつては人間らしい心を失くした仲間がいたわ。でも、その子は私たちと接していくうちに人間の心を取り戻していったの。だから感情のある子たちと一緒にいることが一番いいことなのではないかしら。少なくとも私は、そう思うわ」

 

・・・私から見ればリアスの言葉は莫迦莫迦しいとしか捉えようがない。

 

感情の無いヤツが感情のあるヤツと一緒にいるからといって感情を取り戻すとは限らない。感情の無いヤツは感情の無いままだ。そうなるとリアスの考えはまだ甘いといったところ。

 

慈悲が人を救うとは限らないのだ。時には無慈悲にならなければならないときだってある。でも、この女はまだそれを分かってはいないだろう。

 

「・・・ねえ、サクラ」

 

「・・・何」

 

「さっきの歌、私にも聞かせてくれる?」

 

「・・・聞いてどうする?」

 

「さっきの歌、なんだか悲しくて切なかった。でも、素敵な歌だったわ。お願い、あなたのその素敵な歌声を聞かせて」

 

正直、私の歌は人に聞かせるものではないのだが・・・。そもそも、何で私がリアスなんかに歌を歌わなければならない?

 

確かに私は歌を歌うことが嫌いなわけじゃない。私は1人でいたいのにどいつもこいつも私に絡んできて、鬱陶しいから嫌なだけだ。

 

・・・はあ、仕方がない。このまま拒絶してもいいけれど、それはそれで面倒臭いし、一節ぐらいなら歌ってやるか。

 

「狂った・・・静寂に潜んだ・・・黒の揺り籠・・・過信に揺れて・・・もし、終わりがあるなら、教えて欲しい・・・無垢な瞳に応える意味は無く・・・」

 

私はリアスに歌ってやることにした。まあ、こんなヤツに理解できるとは到底思えないけどな。

 

日本には豚に真珠という言葉がある。豚に高級な真珠を与えても見向きもしないように、貴重なものは価値の分からない者にとっては何の役にも立たないということ。

 

要するに、この女に私が幼いころにアリア姉さんが歌ってくれたこの歌の価値なんかこれぽっちも理解できるわけがないってことだ。はっきり言って聞かせるだけ無駄だな。

 

その無駄なことを何故、私はやっているのだろうか。私にはやっぱり理解できない。

 

・・・・・・ああ、怠い。考えるのも、答えを見つけるのも面倒臭い。

 

「2人眠れ・・・・」

 

一節歌い終わるとリアスはパチパチと拍手をしてくれた。拍手なんか必要ないと言っているだろ・・・。拍手なんかうるさいだけだ。

 

「・・・やっぱり悲しい歌ね。何ていうか、心に何かが響いてくる歌だわ」

 

「・・・・・・・・・」

 

もしかして、この女はこの歌の価値を理解できているのか?

 

・・・・・・いや、偶然だろ。まだ私は半分もこの歌を歌い終えていないんだからな。

 

「・・・姉さんが歌ってくれた歌だ」

 

「・・・お姉様、ね」

 

リアスは悲しそうに俯く。落ち込んだり、泣いたりするヤツってのは一番面倒だ。正直、関わりたくない。

 

「あなたはお姉様に愛されているのね。それに身近に接してて」

 

「・・・お前にオレの何が分かる」

 

コイツに私の家族の何が分かるというんだ。知ったような口を聞くヤツも嫌いだ。

 

「お前は眷属やゲームのことだけを考えていればいい。いつもみたいに凛とした偉そうな口調で突っ立っていればいいんだ」

 

「あなたは私をどういう目で見てるのよ・・・でも、そう、ね」

 

「兵藤はオレの友人だ。傷つけたらオレは許さない」

 

「分かってるわ」

 

不意にリアスはにじり寄ってきて、私の体を抱きしめた。シャンプーの香りが私の鼻孔をくすぐる。

 

「ありがとう。あなたと話せてよかったわ」

 

「・・・・・・」

 

コイツはたまに優しいところがある。敵に対しては感情が無いかのように容赦が無いのに、こうやって温かい一面を見せてくる。

 

でも、優しさが人を救うとは限らない。時にはそれが棘として他人に突き刺さることがあるのだ。優しさは罪、ともいうだろ?

 

「・・・いつまで抱きしめてる? 離れろ、暑苦しい」

 

「ああ、ごめんなさい。嫌だった?」

 

「・・・・・・別に」

 

私はリアスの肩を押して体を離すと、リアスも一歩下がって謝罪の言葉を口にする。

 

別に嫌じゃない。昔、姉さんも母さんもこんなことをしてくれたような気がする。ハッキリとは覚えてないけど。

 

そのとき、自分の懐に振動が走るのを感じる。私のスマホだ。誰だ、こんな時間に。

 

私は懐からスマホを取り出すと画面を見てみる。その名前は・・・・・・ある上層部のムカつくヤツの名前だった。

 

顔を顰めつつも、私はリアスに背を向けた状態で『応答』をタッチしながらスライドし、耳に当てた。

 

「・・・・・・何の用だ・・・・・・・・・能書きはいいからさっさと説明しろ・・・・・・・・・分かった・・・」

 

私は画面をタッチして通話を切ると、別荘とは離れた方向へ歩いていく。

 

「どこへ行くの?」

 

「・・・仕事だ。早朝には戻る」

 

「そう。いってらっしゃい」

 

私は微笑んだリアスの言葉に応えることなく、妖魔の退治をしに歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、悪魔と一緒にいるなんて可愛いところもあるものね。壊してやりたいくらい」

 

「本当にあの子があの『大鳳凰の娘』なのですか?」

 

「そうよ。もう何年も会ってなかったけど、あの男か女かも分からない顔は覚えてるわ」

 

「おい、あんな目付きの悪そうな女を監視してどうしよってんだい? アタシはいい加減見てるだけってのもたりぃんだけど?」

 

「辛抱なさい。あの子を更なる絶望に叩き落とせば、アタシ好みの子に変貌するのよ」

 

「あの子の持ってる魔剣・・・痛そうですね・・・ザクザクしてほしいです・・・」

 

「少しは自重しましょう、リオンさん。後で私たちが気が済むまで嬲ってあげますから」

 

「アタシは嫌だからな! 痛みに善がってるような変態に付き合うなんてゴメンだぜ」

 

「ねえ!ねえ! あの紅髪のお姉ちゃんがいるってことは小猫ちゃんもいるのかなぁ? アリス、あの子と一緒に遊びたいなぁ」

 

「勝手な行動は許さないわよ、アリス。私がいいと言うまで大人しくしてるのよ」

 

「ぶぅー。ベール様、最近遊んでくれないんだもん! アリスも退屈しちゃうよぉ・・・」

 

「テメェには猫と兎と鼠がいるんだからそれで充分だろ!」

 

「その子たちで遊ぶのも、悪い大人たちを拷問するのも飽きちゃった。だからあの猫ちゃんと遊ぶの!」

 

「生意気言うなぁ? テメェ・・・これだからガキってのは嫌いなんだよ!!」

 

「私じゃ・・・ダメですか?・・・ナイフで私の体を傷つけて―――」

 

「リオンさんは引っ込んでてください。話がややこしくなるでしょう?」

 

「少し静かにしたらどう? アンタたち。そういう下賤な行為は私のいないところでやりなさい。さもないと・・・・・・殺すわよ?」

 

「うぅ・・・・・・ごめんなさい・・・」

 

「・・・チッ」

 

「申し訳ありません、ベールさん」

 

「嬲る声・・・いいですぅ・・・」

 

「リオン、後でアンタはお仕置きね」

 

「お仕置き、楽しみです・・・」

 

「・・・まあ、いいわ。いい? アンタたち、アタシらの目的を置いて勝手な行為をするのは的外れよ。多少のお遊びはいいかも知れないけれど、アイツらが出てくるまでは大人しくしていることね。そのときが来るまでは奴らの拷問でもしてなさい。いいわね?」

 

「了解です」

 

「・・・分かった」

 

「はい・・・ベールさん」

 

「アリス、ベールさんの頼みなら何でも聞くよ!」

 

「お利口ね、アンタたち。そして、マナ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタは世界にとって疫病神だってことを知らないのかしら? フフフ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャアオォォォォォォォォォォ!!!

 

私は最後の一体の妖魔を切り伏せる。妖魔は体を両断されて動かなくなった。

 

妖魔のいる場所はそんなに遠いものではなかった。リアスのいる別荘から少し離れた川の近くに15体もの妖魔がいた。

 

魔剣の妖魔の青い血を掃ってから背中に仕舞い、周囲を見渡してみると今回も我ながらこの場を汚くしたなとすら思う。

 

妖魔の両断された死体は散らばっているし、所々川や草木の上には青い血が付着しているし、他者が見れば地獄絵図なのではないかと思うだろう。

 

・・・まあ、いつものことだから気にならないな。

 

今日はもう疲れているので、妖魔の後処理をいつものようにモココとチャイに任せて先に別荘に戻ろうとしたが、ふと何かの気配を感じ腰の短剣を掴む。

 

「はぁっ!」

 

短剣を素早く引き抜き、気配がした一本の木に向かって投げナイフのように投げた。

 

カァ!! カァ!!

 

木の枝にカツンとぶつかると黒い物体が慌てたように翼をバサバサと羽ばたかせ、夜の空へと飛び去っていく。

 

あれは、ヤタガラスか? こんな人間界の山奥に、何であの生物の姿が?

 

それに一枚の羽を拾ってよく見てみるとこれは・・・私の家に落ちてきた羽の艶や素材と一緒だな。やっぱり誰かに見られているのか?

 

・・・まあ、いい。誰かが見ていようが興味無い。

 

私は少し思考して気にも止めず、落ちた短剣を拾い上げると別荘の方へ戻っていく。

 

自分の部屋に戻る途中、白のネグジェリを着た金髪の少女の姿が目に入った。

 

「サクラさん?」

 

「・・・ん?」

 

アーシアは私に会うなりきょとんとしたような顔をしていた。私はそんな彼女の姿を数秒見つめた後、彼女に近づく。

 

「え・・・あ、あの・・・サクラ、さん・・・?」

 

戸惑うアーシアを尻目に、私は首筋に顔を近づけて匂いを嗅いでみた。

 

「・・・いい香りだな」

 

「な、なななな、なんですかいきなり・・・!?」

 

アーシアは顔を紅潮させながら私から一歩下がる。何で匂いを嗅いだぐらいで顔を真っ赤にしてるのか理解できない。

 

私は逃げようとするアーシアの手を引っ張って引き寄せ、自分の体に抱きしめる。

 

「きゃっ・・・あ、あの、サクラさん? これは・・・」

 

「ククク・・・」

 

「ひゃあっ! な、何を・・・」

 

アーシアが可愛い悲鳴を上げる。私はただ首筋を舐めただけなのにな。

 

それにしても、可愛い首をしているな。この場で歯を突き立てて、流れる血でその首を穢してやりたいくらいだ。

 

本当はもっと痕を付けてやりたいところだけど、今のコイツはリアスにとっては大切な体だ。このぐらいにしておかないとな。

 

・・・でもまあ、怪我させなければどうにでもいいか。

 

私は心の中でそう考えるとアーシアの首筋にしゃぶりついた。この白い肌の味だけは、感じてもいいだろう。

 

「ひ・・・ひゃっ・・・サ、サクラさ・・・あぁ・・・」

 

チューペットを吸うようにしゃぶり回すとアーシアが小さな悲鳴と嬌声のような声を上げる。よく見ると体が小刻みに震えているな。感じているのか?

 

・・・美味しいな。教会で箱入り娘のような生活をしていたとはいえ、綺麗な肌に似合って甘美な味をしている。本当に極貧の中で育ったのか? この女は。

 

私は試してみたいことがあったので首筋をしゃぶりつつ、アーシアのネグリジェの裾を捲り上げると彼女のお尻を撫でまわした。

 

「あっ・・・サクラさ・・・や、やめ・・・ひゃっ・・・」

 

お尻を弄られて余程恥ずかしいのか、アーシアの顔が更に紅潮していく。体が大分、温かくなってきたはずだ。

 

「あ・・・はぁ・・・うぅ・・・ぁ・・・」

 

嬌声のような声を上げながら段々とアーシアの体が仰け反るようになっていく。それでも私はしゃぶる口と撫でまわす手を止めない。

 

・・・甘くなってきたな。やはり何かを感じていたり、恥ずかしがったりすると肌は甘くなるのか。

 

私はこれらの行為を続行しようとしたが、不意に誰かの気配を感じて動作を止める。

 

この気配はもう分かってる。リアスだろう。ルールブックを読み終えて戻ってきたのか。

 

「サ、サクラさん? きゃっ!?」

 

・・・まあ別に見られても問題は無いと思うが、私はアーシアをお姫様抱っこするような格好で抱えて2階へと上がっていく。

 

自分の部屋の扉を開けると私はのそのそと歩み寄り、ベッドの上にアーシアを放った。

 

「きゃっ・・・あ、あの、あっ」

 

動揺して私のほうを向くアーシアのすぐ近くに私は横になる。要するにアーシアと一緒にベッドに入ったってこと。

 

「・・・一緒に寝ろ」

 

「で、でも・・・」

 

「いいから寝ろ」

 

「・・・は、はい」

 

アーシアに強引に言い聞かせると私は黙って目を瞑る。別に1人が寂しいとか、そういうんじゃない。

 

悪夢というのは現実世界で誰かが私に干渉すると変化があるんじゃないかと聞いたことがある。だからアーシアを隣で寝かせれば、たまにはよく眠れるんじゃないか?

 

「あ、あの・・・サクラさん?」

 

「・・・何」

 

「さっきのは一体、何だったんでしょうか?」

 

「・・・気にするな」

 

「何か首の辺りを吸われたような気がするのですが・・・」

 

「長生きしたかったら知らずにいることだ。言っただろ」

 

「は、はい・・・」

 

私はアーシアの質問を一刀両断する。そんなことにいちいち答えてられるか。面倒臭い。

 

それに私は温泉で言ったはずだ。リアスたちが私のことを知る必要はないと。私を知ったところでアイツらが理解できるものでもない。

 

そもそもこの女は優しいということは私も知っている。私のことを話したら余計なお節介を焼くに決まっている。そういうのを私は嫌いだ。

 

「サクラさん」

 

「・・・ん?」

 

「リリーさんとはどういう関係なのですか?」

 

・・・ああ、そう言えばアーシアはリリーと私の関係を知らないんだったな。まあ、このぐらいは教えても問題ないだろう。

 

「・・・幼いころからの腐れ縁だよ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「オレの姉さんがリリーの母さんと仲が良くてな。その縁で何度もリリーの家に遊びに行ってた。昔は子供だったからよく冒険したり莫迦やったりしたもんだよ」

 

「そうだったのですか。あっ・・・サ、サクラさん?」

 

私はアーシアを後ろから抱きしめるような形で話しかける。

 

「だから今でも一番の友達だよ、アイツは。最近ちょっとムカつくけど、アイツといるのは嫌いじゃない」

 

「大切な、お友達なんですね。羨ましいです」

 

「お前もだよ、アーシア」

 

「えっ? あ、あのサクラさん、苦しいですよぅ・・・」

 

私はアーシアの抱きしめに力を入れる。コイツの体は、暖かい・・・。

 

「お前はオレと同じ臭いがする。お前といるのは、嫌いじゃない」

 

「!」

 

その時、アーシアの瞳から一筋の涙が流れた気がする。私の手のひらに暖かいものを感じたからだ。

 

全く、アーシアは泣き虫だな。でも、そういうところも嫌いじゃないよ。

 

「・・・ありがとうございます、サクラさん」

 

「・・・・・・」

 

お礼を言われる筋合いなんかないのにな。そもそも、何でお礼を言われるのが分からない。

 

アーシアは私と元・悪魔祓いだ。同じ臭いがするのは間違いない。でも、別の何かも一緒な気がするんだ。

 

「私も、サクラさんが大切なお友達です」

 

私のことを友達だと言ってくれるのは彼女で何人目だろうか。・・・興味ないな、数えてもいないし。でも、そんな多くなかった気がする。

 

私の身近にはリリー以外にも何人かいたし、でも友達という声を聞いたことはほとんど無かったな。

 

・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・。

 

・・・ククク。ああ・・・この穏やかな声を絶望に落とすとどんな感じになるのだろうか。

 

私は優しくされると余計に苛めたくなってしまう。こんなにも心を許しているヤツを泣かせたらどんな反応をするのかやってみたくてたまらない。

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

・・・チッ。アーシアはもう眠ってしまったのか。難儀をかけるヤツめ。

 

でも、もう私は疲れているんだ。今更、この女をどうこうしようだなんて思ってはいない。

 

私はアーシアを起こさないように体を離して起き上がり、窓の外を見てみる。空を見上げると星空の中に、ぽっかりと満月が浮かんでいた。

 

・・・ああ、そうか。道理で今日は体が疼くわけだ。本来ならアーシアと一緒にいるのはよくなかったことだったな。私でも何を仕出かすか分からないからだ。

 

でも、不思議とこの女といると体の疼きが治まっているような気がしてならない。完全ではないけど、私もこの女の近くにいれば少しは人間らしくいられるのかもしれない。

 

何故かは分からない。っというか、考えたくもない。さっきも言った通り、私は疲れているんだ。

 

私はアーシアが眠っているベッドに横にならず、代わりに窓の近くの木製の椅子に腰を下ろす。今日はここで眠るとするか。

 

おっと、その前にやることがあったな。

 

「・・・モココ、チャイ」

 

2人の名前を呼ぶとふと頭に重みを感じ、テーブルの上に燃えるような鳥がいるのを見つける。

 

「アーシア、寝ちゃったの? っていうか、何でサクラの部屋にアーシアが?」

 

「オレが連れて来た。文句あるわけ?」

 

「い、いや、別にないけど・・・」

 

「それよりも、いつまでオレの頭の上に乗ってるんだ。降りろ」

 

「あ、ごめんね。サクラの頭って乗っかりやすくて」

 

「・・・ふん」

 

モココが私の頭の上を降りてテーブルの上に着地する。私は2人に要件を聞く。

 

「妖魔の後始末は終わったのか?」

 

「・・・モチのロン」

 

モコナは相変わらずのおふざけ口調で肯定する。チャイはテーブルをクチバシで一回突くことで肯定した。

 

「チャイ、例のカラスについては何か分かったか?」

 

チャイに問いかけると肩の上に飛んできて、私に耳打ちをする。

 

・・・ふーん、そうか。アーシアをストーキング、というよりも私のことを監視している輩が知っているヤツだということが分かった。

 

どうせアーシアの、正確にはアーシアの神器を奪おうとしているようだが、私の目の黒いうちはそんなことはさせん。

 

一応、上からアーシアの監視も命令されている。こればっかりは従わないと上のジジイ共がうるさいからな。仕方なくだ。

 

「ご苦労、モココ、チャイ、引き続き探索は続けろよ、明日の朝までな」

 

「りょーかい」

 

モコナは小さな魔法陣を使って消え、チャイは静かに灰となって姿を消した。

 

・・・さて、私も眠りにつくとしよう。

 

いい夢が見れそうだと無駄な期待を馳せながら、私の意識は暗闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、感付かれたみたいね」

 

「さすがは・・・エデンの機関のナンバー4・・・ですね」

 

「機関の連中なんてろくでなし奴らが集まった欠陥品みたいなもんよ。秘めてる力が体内にあるからあそこまでのテクニックを発揮できるワケ」

 

「秘めてる力ってなんだよ? アタシたちみたいな連中のことか?」

 

「ファントムは高貴で偉大なるものよ。大抵のことは何でもできるわ。でも、あの子はなっているけどなっていないだけよ」

 

「よく分かりませんが、結構な代物であるということですか?」

 

「まあ、そういうことなるわね。マナは昔から何でもできる秀才の持ち主だったし、姉たちにも厳しく躾けられていて一応の作法も知っているしね」

 

「アリス、あの怖そうなお姉ちゃんには興味ないな~。小猫ちゃんと遊びたい!」

 

「猫と遊んでりゃいいじゃねえか。何考えてるか分かんない気持ち悪い猫とよお」

 

「アリス、カスミちゃんはカルシウムとお尻の穴が足りないと思うんだけどな~」

 

「んだと、テメェッ!!」

 

「喧嘩はお止しなさい。気付かれちゃうでしょ」

 

「また、あの・・・2人喧嘩を始めちゃいましたけど・・・止めなくて・・・いいんですか?」

 

「ほっときなさいよ。シフォン、リオン、今はこっちに集中しなきゃね」

 

「そうです・・・あの2人は仲良しですから・・・」

 

「とてもそうには見えませんけど・・・まあ、喧嘩するほど何とやらと言いますしね。大丈夫でしょう」

 

「さてと、アタシたちは今後の行先をじっくりと眺めることにしましょう。うふふふ」

 

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