『リアス・グレモリー様の「
小猫が脱落したというアナウンスが聞こえた。それを聞いたとき、私の中の何かがチクチク刺すような感じがした。
それでも私は気のせいだ気のせいだと思いながら、サーゼクスの質問に答えている。
「勝てるわけがない。この勝負は最初から決まっているさ。何せ相手はあの不死身のフェニックスだからな」
サーゼクスは少し驚いたような顔をしていたが、私は更に言葉を続ける。
「フェニックスは何度殺しても死なない。首を跳ねられようが、首だけ残して消し飛ばされようが、心臓を刺されようがな。当然、部長の魔力だって通用しないわけだ。『肉体的』に倒そうとしている限りは部長に勝てる見込みは無い」
リアスだってそのぐらいはあの頭で理解しているはず。そのプライドだけは認めてやっている。何せその程度の強さがあってくれなければ、叩き落とした際の絶望がたまらなくなるってものだ。
もちろん、ライザーもあのぐらいなければな。アイツを恐怖で歪ませるとどうなるんだろうなぁ・・・?
「アンタらはそれが分かっているから婚約を取り付けたんだろう? 部長が肯定しようが否定しようが、どっちにしろ結婚することは必然的になるようにするためのさ」
両家は残酷だな。種を繁栄させるためには自分の子供を利用することすら厭わないんだからな。
私の家だってそんな奴らばっかりだった。自らの家系を絶えさせないためにお見合いなんかを取り付けて、結婚の機会を作ろうと目論んでいた。私はそれが嫌だったから、家を潰して出ていったんだ。
まあ、お姉ちゃんたちと妹たちは死んではいないけど。一部を除いて。
「まあ、両家の親はそうだね。でも私はさっきも言ったけど、リアスとライザー殿の婚約には反対しているんだ」
「ふん。綺麗事は言葉だけなら立派だよな。でも、世の中は自分の都合だけで生きていけるほど甘くはない。特に格好だけで粋がっているヤツはな」
エリートがエリートだなんて誰が言った? エリートの家系だからって優秀とは限らない。中には落ちこぼれもいるわけで。
物事には実力が必要なのだ。下剋上なのだ。弱いものは何もしない限り、一生弱いものなんだよ。
「キミの言い分も分からなくもないが、時にはそういうことも必要なときがあるんだよ」
サーゼクスは動揺もせずにそう言った。・・・随分と甘い魔王だな。シスコン? もしくは妹莫迦ってヤツか? どっちにしろ、やっぱりムカつく男だ。
そんなのが必要なときがあるんだったら、私に教えてほしいな。まあ、くだらないものだったら笑い飛ばすけどな。
『ライザー・フェニックス様の「
またしても響くアナウンス。どうやら木場がやったようだ。でも、私から見れば『
その『女王』―――『
「そういえば、桜くんには仲間がいたね?」
「・・・いるけど、それがどうかしたか?」
・・・この魔王は、唐突に物事を聞いてくる。確かに髪といい行動といい、部長にそっくりだな。
「いや、キミの仲間たちにも興味があってね。彼らからも人間とは違う血を感じるよ。特にあの・・・金髪の子。あの子にも特別な力が宿っているようだ」
・・・おい、リリーのことは教えていないはずだが。まあ、どうせリアスが教えたんだろうけど。もういいや、ツッコむのも面倒臭い。
「・・・アンタ、分かるのか? リリーのことも見たことないはずだろ?」
「言っただろ? キミたちの師匠は私の知り合いだって。もちろんキミたちのことも少しは知っているよ」
七傑の一部共はすぐに余計なことをベラベラと話したがる嫌な癖があるな。特にプライベートや身体に関しては。敵に回ったらどうするつもりなんだよ?
「『
やっぱり気付いているのか。普段から見れば、リリーは普通のお嬢様であることしか分からないが、名前を聞いただけで分かるとは、コイツは占いでもやってたのか?
「・・・あの3人はいつも一緒に行動してたから、変な癖が付いただけだ。そうでなきゃあんな奴らと一緒にいるもんか」
そうだ。アイツらとはいつの間にか一緒にいたんだ。故意に仲良くなろうと思ったわけではない。
「それでもキミの仲間なんだろう?」
「仲間、か・・・」
・・・仲間。そんな言葉で片付けることができたらどんなに面倒臭くないことか。私が細かいことを気にしない女だったらどんなに良かったことか。
そもそも、何を根拠に仲間だなんて言っているのだろうか?
そんなことを考えていると私の脳裏に、私に関わった人が次々と目の前から消えていく光景が目に浮かんだ。
・・・・・・っ・・・・・!
初めて会って、コイツらはいつまでも一緒にいてくれる・・・そう思っていたのに・・・。
・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。
一緒に寝泊まりして、一緒に仕事して、一緒に称えあって、かけがえのない存在だったのに・・・。
・・・うっ・・・く・・・はぁ・・・あ・・・。
つい最近まで一緒に笑い合っていたのに・・・気が付くといなくなっていた・・・。
・・・・くっ・・・はっ・・・あっ・・・。
満足したらいなくなる幽霊のように・・・煙のように私の前から姿を消していった・・・。
・・・ああ・・・あぁ・・・ああ・・・。
それから私に関わってきた人とも、会話をしてきたが、その人もいつの間にかいなくなっていた。
・・・・・・あぁ・・・っは・・・・。
その度に私は、胸がチクチクするような痛みを感じた。心臓が絞られるような苦しさを感じた。
・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。
・・・仲間って何?・・・仲間って何?・・・仲間って何?・・・。
・・・ん・・・っく・・・・。
・・・仲間の何が大事なんだ。一緒にいるヤツなんかいずれは裏切って消えていくだけの関係だろ・・・!
・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。
そんなもの、苦しいだけ・・・辛いだけ・・・悲しいだけじゃないか・・・!!
・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。な、何だよこれは・・・やめろッ・・・!!!
「?・・・どうしたんだい?」
「!!!」
サーゼクスの言葉で我に返った私。私は一体、何をしていた・・・? 急に動悸を起こしてしまうなんて。
・・・気のせいだ。どうってことはない。面倒臭い・・・!
私は頭の中でそう念じながら、何かを振り払うように首を振るとモニターに目線を意識した。
「何だか、過呼吸を起こしていたよ。調子が悪かったんじゃないのか? 少し横になってたほうがいいんじゃないのか?」
「・・・なんでもない」
「しかし・・・」
「なんでもないんだ、放っておいてくれ」
少し声を大きくしながら返す私。構われるのは嫌いだ。
・・・仲間の定義がよく分からない。仲間って何だ?
やめろ・・・いや、もう何も考えないほうがいい。これ以上続けると私はおかしくなってしまうかもしれない。
目を逸らすようにモニターを見ると兵藤が獣耳を生やした2人の少女と対戦していた。たしか、ニィとリィと言ったか?
『Boost!』
地面に膝をつけているところを見たところ兵藤は防戦一方のようだ。モニターから聞こえる電子音からブーステッド・ギアは力を蓄えている最中のようで、それが使えなければただの人間同然の彼には辛いものがあるだろう。
その付近では木場と剣士姿の少女――――たしか、カーラマインが剣の打ち合いを演じている。
ドオォォォォォン!!
別のモニターでは校舎の屋上でリアスとライザーが一戦を交えている。お互いに滅びの魔力と炎の魔力をぶつけ合っている。
ライザーは全くの無傷、服一つ破れていないが、リアスのほうは所々服が裂けており、心無しか息もあがっている。
・・・プライドを持つのは立派なことだが、ここまでか。
ところが、兵藤はボロボロの体で立ち上がる。あの2人にボコされて、立ち上がる体力なんか残っていないはずなのに。何でアイツはあんなに頑張っているんだ?
そして手に装着されている赤い籠手を頭の上に掲げる。
『俺に力を貸しやがれ! ブーステッド・ギア!!』
『Dragon Booster!!』
赤い閃光を放つ兵藤の左手。アイツに力が・・・増えた・・・? 今までだって雑魚と変わらない力だったのに・・・?
少し驚いている私とは裏腹に、更に兵藤は叫び続ける。
『もっとだ! あのときはサクラとアーシアだった!! 今度は部長だ!! 俺の想いに答えて見せろ!! ブーステッド・ギアァァァァァァッ!!』
『Dragon Booster Second Liberation!!』
籠手から音声が発せられ、兵藤の左腕が赤いオーラに包まれる。籠手が徐々に姿形を変化させていき、オーラが消え去ると・・・。
籠手の姿が変わっていた。甲の部分にある宝玉の他にも、腕のほうにももう一つ宝玉が現れ、フォルムも少し変化していた。
・・・なるほど。あれが想いの力という、籠手の持つ根本的な力の源というわけか。それに調和してアイツの力もどんどんと倍増されていく。堕天使に勝ったのも、あれで頷けるな。
兵藤は驚いていたような顔をしていたが、何かを理解したのか自然と笑みを浮かべた。そしてカーラマインと激突している木場のほうへと顔を向ける。
『木場ァァァァァァァ!! お前の
木場は当惑していたようだが、剣を地面に突き刺し高らかに吠えた。
『
魔剣創造――――そうか、木場は私と魔剣使いだったのか。
グラウンドが光り輝いていき、地面から魔剣が姿を現していく。兵藤がそこに駆け出す。
『ブーステッド・ギア! 第二の力!! 「
『Transfer!!』
光り輝く地面に兵藤が拳を放つ。金属の激しく擦れるような音が響くと、兵藤たちの辺り一面が刃の海と化していた。しかも、魔剣の一つ一つに様々な形状が形作っていた。
・・・今ので理解した。あの力は他人にブーステッド・ギアで高めた力を相手の神器に譲渡して力を向上させ、より多くの魔剣を創造できるようにした。
前言撤回。アイツはちゃんと成長しているじゃないか。・・・ただ、覚醒するのが遅すぎな気がするけどな。
魔剣に貫かれたライザーの眷属たちは苦悶の声を上げながら、光に包まれていく。
『ライザー・フェニックス様の「兵士」二名、「騎士」二名、「僧侶」一名、リタイアです』
『よっしゃ!』
片手でガッツポーズをする兵藤。驚いていた木場とも勝利を称えあっているようだ。
一気に五名倒されたことにより、ライザーの残る眷属は『女王』と『王』と『僧侶』の残り三名のみとなった。
ふーん、あれが私が興味を抱いていた兵藤の力だったというわけか。思った以上に面白い力だ。莫迦が取り柄のアイツは先程まで苦戦していた敵をあっさりと倒したので、少しは見直してやってもいいかもしれない。
・・・・・・何て思うのは戦いの素人が考えることだろう。それはこの状況が終わらない限りはそんなことを思ってはいけないのだ。戦争と同じ。
もう忘れているのか? それとも単に学習能力がないだけか? 追い詰められて形勢逆転した後の甘い考え。敵を倒したぐらいで浮かれているなんてな。
ドオォォォォォォォォォォン!!
・・・ほらほら聞こえてきた。絶望の破壊音が。そして、グレモリー眷属にとっては信じられないアナウンスだっただろう。
『リアス・グレモリー眷属の「女王」一名、リタイアです』
あのリアスの眷属の中でも最強である姫島が、ユーベルーナに敗北した。
別のモニターを見れば分かる。先程の崩れていく校舎から姫島が、真っ逆さまに落ちていき光に包まれていたのを。これはリアスにとっては痛手のようなものだろう。
ドォォォォォォォォォォンッ!!
更に響く絶望の音。兵藤たちが立っている地面が激しく振動し、小猫のときと同じ爆発音が響く。するとさっきまでは無傷だった木場が煙を立ち上らせながら地面に突っ伏していた。兵藤が駆け寄るまでもなく、鮮血を吹いていたグレモリーの有能な騎士は姿を消した。
『リアス・グレモリー眷属の「騎士」一名、リタイアです』
これで残ったのは兵藤とリアスとアーシアの三人だけになった。人数は互角であって、実際に互角じゃない。もうリアスの負けは確定したようなものだった。
兵藤のパワーアップは凄いが、ライザーの眷属を倒せるまではいかなかったようだ。ユーベルーナは木場を倒した後、兵藤に目も暮れず嘲笑いながら飛んでいく。
それを追いかける兵藤。ここで私はサーゼクスに気になることを問い詰めてみる。
「・・・なあ」
「何だい?」
「・・・ファントムって知ってるか?」
サーゼクスは少しの間、沈黙した後に改まったように口を開く。
「・・・知っているよ」
「そうか。じゃあ、アイツのこともか?」
「アイツ?」
「・・・『虚無の魔王』『闇の女王』と言えば分かるか?」
それを聞いたサーゼクスの顔が少し驚いたような表情になると、一変してやや険しい表情に変わった。
どうやら何かを知っているようだな。それにしても、彼のこんな顔を見るのは意外だ。普段は物怖じの一つもしないくせに。
「・・・彼女がああなってしまったのは私の責任でもある」
「・・・・・・」
何をやらかしたのかは知らないが、この男がアイツに対して酷いことをするとは思えない。そんな気がした。
一方の兵藤はすでにリアスとアーシアの元に到着していた。あの神器が確かなら、兵藤の体はとっくに・・・。
リアスは魔力の弾を飛ばしていたが、ライザーの左腕を消し飛ばしてもすぐに再生した。
『
『黙りなさい、ライザー。積まれてる? 読んでる? 笑わせないで。「王」である私は健在なのよ!』
もう勝負は着いているというのに、諦めたりはしないリアス。その反応にライザー溜息を吐く。
『・・・やむを得ないな。あれをやれ』
『はい』
ライザーが命令をするとユーベルーナは上空へと飛ぶ。
一方のアーシアは兵藤の傷を涙目になりながら、『
そのとき、紫色の魔法陣がアーシアの足元に浮かび上がり、大爆発を起こした。ユーベルーナが魔力で足元を爆発させたんだな。
『アーシア! イッセー!』
リアスが叫ぶ。煙が晴れたとき、そこには兵藤が背中に傷を負っていた。どうやら兵藤が庇ってダメージを受けたようだ。まだそんな気力が残っているのか。
アーシアは全くの無傷だが、爆発のショックで気を失っていた。
『すみません。まさかあの坊や、体で受けるとは・・・』
『・・・まあいい。とりあえず、トワイライト・ヒーリングは封じた』
『てめぇ!!』
ライザーに対する怒りを露わにする兵藤。だかこれで本当にリアスたちはピンチだ。回復役もいなくなった上に、相手は全くの無傷。勝利は絶望的だ。
あの爆発を受けたのにも関わらず、全く応えていない。『兵士』のプロモーションの能力か。『女王』になっているから、防御力が上がっているのだろう。
『部長! 戦いは続行ですよね!?』
『ええ』
アーシアを抱えた兵藤が問うと、リアスは迷いなく肯定する。・・・・・・何だろう? この光景、どこかで似ているような・・・。
――――リーダー! 戦いはまだ終わっていませんよね!?
――――ええ。我らの精神力を、アイツらに思い知らせてやるんだ!!
とある戦争での親しかった隊長との、最期の会話――――。
・・・・・・何で・・・何でこんな記憶が浮かぶんだ・・・!?
『俺、馬鹿だから! 読みとか、詰んだとか分からないけど・・・俺はまだ、戦えます!! 拳が握れる限り、戦います!!』
――――私はまだ・・・戦え、ます・・・! サクラ、殿・・・! まだ槍は握れ、るんです・・・立ち、上がれるんです・・・だから、私は・・・戦います!
大きなダメージを負っても、諦めずに戦おうとする友人――――。
・・・・・・やめろ。こんなものを私に見せるな。
『よく言ったわ、イッセー。一緒にライザーを倒しましょう!』
――――鈴音も、一緒に戦うのだ! サクラの一番隊長として逃げるわけにはいかないのだ!!
あの時、止めていればよかった。そう自分を後悔したときの記憶――――。
・・・・・・やめろ。
『待ってろ、アーシア。必ず勝つ。そして、一緒に帰るんだ』
――――鈴音は絶対に帰ってくるのだ! また一緒に三人で甘いものを食べるのだ!!
・・・・・・やめろ。
アーシアを傍らに置き、ブーステッド・ギアを左腕にライザーへと向かっていく兵藤。
『Boost!』
「一回、ブーストォ!!」
『Boost!』
「二回、ブーストォ!!」
『Brust』
違う音声が流れるとライザーの目の前で崩れ落ち、その弾みで屋根の上を転げ落ちる兵藤。落ちたもう一つの屋根の上で血反吐を吐いてしまう。
・・・もう肉体が限界なのだ。ブーステッド・ギアは強化して戦い続けると自分を疲弊させる。むしろ、下級悪魔の兵藤に無理をして戦い続けるのが奇跡に近かったのだろう。
『・・・終わったな』
『ライザー!!』
リアスは声を上げながら、魔力の弾を飛ばす。・・・ライザーの言う通り、もう悪足掻きにしか見えないだろう。
『リアス! キミだってこの程度の魔力しか残っていない! 素直に負けを認めてさっさと投了したらどうだ?』
『誰が・・・!』
ライザーを睨みつけるリアス。根気だけは認めてやってもいいかもしれない。
『・・・大丈夫っすよ。部長・・・。俺、どんなことをしたって勝ちますから・・・』
血反吐を吐きながら言う兵藤。屋根を上ろうとしているのか?
――――大丈夫です・・・サクラ殿。私、どんなことをしてもあなたを守ります・・・。
黒い球体から生えた触手に縛られてもなお、私に言葉を返す友人――――。
だから、やめろ!! 何なんだよ!! 何でこんな記憶が思い出されるんだよ・・・!!
『俺・・・最強の「兵士」になるんです・・・そう、部長と約束したんです・・・部長が鍛えてくれたんだし・・・それに、サクラも、一緒に俺を見守ってくれたし・・・』
――――私・・・あなたの騎士になりたいんです・・・約束、したじゃないですか・・・私はあなたを見捨てないって・・・。
・・・・・・やめろ。やめろ。
『俺・・・まだ、戦えます・・・約束、守りますから・・・!』
――――私・・・まだいけます・・・! あなたとの約束、守るんですよ・・・!
・・・・・・やめろ。やめろ。やめろ。
『この死にぞこないがぁッ!!』
不快に思ったライザーが兵藤に迫り、打撃攻撃を繰り返す。それでも兵藤は言葉を続ける。
『俺、まだ戦えます・・・部長の、「兵士」ですから・・・サクラの、友人ですから・・・!』
――――私は、まだ戦える・・・。あなたの、騎士ですから・・・!
そう言葉を紡ぎながら黒い球体によって痛めつけられていく友人――――。
・・・・・・やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。
『まだ戦えますから・・・勝ちますから・・・!』
――――まだ戦える・・・あなたを、守る・・・!
・・・・・・やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。
『イッセー、下がりなさい! 下がって!!』
『俺・・・俺・・・』
『イッセー! 何故、私の命令が・・・!』
――――やめて!! もう戦わないで!! 私はもうどうなってもいいから、もうやめてぇッ!!
――――私は・・・私は・・・。
――――友人なら、私の言うことを聞いてッ!!!
もう意識が朦朧としているのにも関わらず、戦おうとする友人。私の言葉を受け付けなかった――――。
・・・・・・やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。
『俺・・・部長が、笑ってくれるなら・・・サクラが、満足してくれるなら・・・』
――――私は・・・あなたが、生きていてくれるだけで・・・幸せです・・・。
・・・・・・やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。
『イッセー・・・』
兵藤の言葉に涙を流すリアス。
『不愉快だッ! たかが下僕の分際で、このライザー・フェニックスに立てつくかッ!?』
ライザーは右手で兵藤の髪を掴みあげると、左手にフェニックスの炎を宿す。
私に迫る黒い球体―――怯える自分――――。
『ライザー、何をするつもりなの!?』
『なぁにッ!? この男の意を汲んで焼き尽くしてやるだけだ!! 治療なども意味を為さないほどに・・・ゲーム中の死亡は事故として認められるからなぁッ!!』
迫る球体―――触手の先端から棘が生える―――。
『・・・フッ』
『!?・・・貴様・・・貴様ァァッ!!!』
触手が――――怯える私のほうへと、伸びる―――。
『イッセー! 止めてライザーァァァァッ!!!』
貫かれる友人――――呆然とする、私――――。
・・・・・・やめろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
『私の負けよ・・・投了します・・・』
『・・・・・・チェック、メイトだ』
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「桜くん・・・?」
「・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・私は、無言のまま、闇の回廊を開いた。
『リアス様の投了を確認。このゲームはライザー・フェニックス様の勝利です』
リアスは戦いが終局に移り始めたとき、本当は理解していた。
自分はもう、詰んでいると。サクラの期待には答えられそうにないと。
でも、『兵士』の少年・兵藤一誠だけは諦めずに戦っていた。詰んでいるというのに、もう負けは決まっているというのに、それでもイッセーは戦い続けた。
自分への想いだけで、一緒に修行に付き合ってくれたサクラへの想いだけで――――。
けどライザーの攻撃ですでに兵藤は終わっていたのだ。全身汗まみれになって血まみれになって、酷い有様でもリアスは彼が愛おしかった。こんなに自分のために戦ってくれる彼が・・・。
「・・・イッセー、よくやったわ。もういいの。よくやったわ」
優しくイッセーを抱きしめるリアス。彼はもうすでに意識を失っていた。
そんな彼に膝枕をしてあげるリアス。確か、いつの日かやってほしいと言っていた。
「・・・お疲れ様、イッセー」
優しく、そして悲しそうに声を掛けるリアス。すると彼女の背後で闇の回廊が現れ、そこから出てきたのは黒いローブを羽織ったサクラだった。
「・・・最悪だな」
サクラの低く冷たい声を背後から受けて、体をビクンとさせるリアス。
「・・・このゲームといい、あの光景といい、オレも見ていて不愉快だった」
「・・・ごめんなさい。私はあなたの期待には答えられなくて――――」
「黙れ。知ったような口でオレの気持ちを代弁したように言うな」
「・・・っ」
サクラはリアスに歩み寄ると胸倉を掴んで、口を開いた。
「お前・・・何でライザーと衝突する前に、兵藤を止めなかった? お前はあの時、もう負けだということが分かっていたはずだ! それなのに何故だッ!?」
「・・・・・・・・・」
「お前は自分の下僕を傷つけてまで、ゲームに勝ちたかったのか!?」
「違う! そうじゃないわ!!」
「じゃあ、何故止めなかった!? 答えろグレモリーッ!!」
「・・・・・・っ」
サクラは低く冷たい口調だったが、段々とイライラが募り、怒鳴るような口調へと化していった。
それにリアスは先程の言葉で傷ついた。それは聞き流していれば、どうってことのない台詞だったのに。
――――グレモリー。サクラが自分のことをそう呼んだ。それはもう彼女が拒絶の意味で呼んだ呪詛のように思えた。
「・・・何故、答えない」
「・・・もう、私は・・・私は、誰にも傷ついてほしくないの・・・」
「どの口がそんなことをほざく? そもそもお前がとっとと投了していれば、その莫迦はそこまで傷つくこともなかったんだよ!」
サクラは更に言葉を続ける。
「所詮、お前は自分の眷属のことなんか何も考えていないんだ! だから平気で他人を傷つけるようなことができるんだ!」
「私は・・・私は・・・」
リアスはサクラの辛辣な批判にぽろぽろと涙をこぼす。もはや何も言い返すことができない。だって全部、この子が言っているのは事実なのだから。
サクラは泣いている表情のリアスをしばらく見つめた後、乱暴に胸倉から手を離す。無表情でリアスを見下ろすサクラ。
「お前らの負けなんか最初から容易に予測できた。でも、兵藤があそこまでライザーに立ち向かうのは予想外だった。お前のせいだよ。兵藤が傷ついたのはライザーのせいじゃない。お前のせいだ。お前のくだらないプライドの高さがソイツを傷つけたんだ。さっさと降参していれば、ソイツも苦しむことは無かっただろうに」
そしてリアスに背を向ける。
「・・・もういいよ、お前。時間の無駄だ。お前みたいなヤツと付き合ってるのもいい加減うんざりだ。勝手にしろ」
「!・・・ま、待って!」
冷酷な言葉を言うサクラ。リアスの止める声も聞かずに、闇の回廊を開くと入ろうとする。
「・・・ああ、後これだけは言っておこうか」
サクラは無表情な顔で振り向き様にリアスにこう言い放った。
「お前に、グレモリーの名を語る資格は無い。精々あんな男の尻に敷かれてんのがお似合いだよ。絶望してろ」
「っ!!・・・ああ・・・ああ・・・」
サクラは今度こそ、闇の回廊を通って帰っていった。その行方はもう、誰も知らない。
そして心を深く抉られたリアスは呆然とした表情のまま、サクラの消えていった場所を見つめていることしかできなかった。