極悪な奴ら/THE EVIL HERO   作:早乙女

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最初は「これ、ハイスクールD×Dか?」という部分がありますが、読んでいけば段々とそれらしさが現れてくると思います。



第28話「友からの招待状」

「はぁ・・・はぁはぁはぁ・・・」

 

「ヘッヘヘヘヘ、いいじゃねえか。お前のその肉を食わせろよ」

 

「おらおら、逃げないと捕まっちまうぜ」

 

「ヒヒヒ、ヒャッハァ!!」

 

「ヒュゥゥゥゥ!!」

 

「キャアァァァァ! 誰か、助けてぇ!!」

 

夜の繁華街で悲鳴を上げながら逃げ惑う1人の女性。それを追いかける4人組の男。その男たちの顔は茶色になっていて、口や目も人のものとは思えない代物になっていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・あっ・・・」

 

走り回っているうちに金網に道を塞がれてしまい、その女性の力ではとても飛び越えられそうにないもの。完全に逃げ場を失ってしまった。

 

「ったく、手間を掛けさせんじゃねえよ」

 

「もう逃げられないぜ。大人しく食われな!」

 

「い、嫌・・・こ・・・来ないで・・・」

 

「そんなことを言われて来ない妖魔がどこにいんだよ!」

 

「ホントだぜ、全く!」

 

後ろには金網、前には妖魔四匹、どこからどうみても袋の鼠だった。女性にはもう為す術はない。

 

「へっへっへ、夜の人間どもは警戒心が薄くってちょろいもんだぜ。特に人間の女ってのは一番襲いやすい」

 

「あ・・・あぁ・・・ああ・・・」

 

恐怖のあまり足が震える。そんなことは意にも介さずに近づいていく妖魔。

 

「さてさて、どこから食ってやろうかぁ?」

 

「そうだな・・・まずはその大きい胸から食いちぎってみようぜ」

 

「ひ、ひぃ・・・」

 

恐怖のあまりに声も出ない。それでも妖魔は近寄ってくる。

 

「おうおう、そんなに震えちまって。俺たちに襲われて嬉しいんだろうなぁ」

 

「違う・・・これから食われるから怖いんだろう」

 

「ヒッヒッヒヒヒ! お前、俺たちが怖いのかぁ?」

 

「た、たす・・・たすけ・・・」

 

声も震えて上手く出せない。そんな行動は妖魔たちの無情な心を満たしていくだけだ。

 

「こんな人気の無いところで誰が助けに来るかよ」

 

「バッカだよね~・・・頭がおかしくなちゃったのぉ?」

 

「誰か・・・助けて・・・」

 

「だから誰も来ないつってんだよ!!」

 

「ギャハハハ!! じゃあ、俺からいっただっきまーす!」

 

「イ、イヤアァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

女の絶叫が響く。そんな行動も嘲笑うかのように妖魔が迫ってくる。

 

・・・・・・コツン、コツン

 

コツン、コツン、コツン、コツン、コツン

 

路地裏に響く別の音。規則正しく響いてくる音。

 

「・・・あ?」

 

「何の音だ?」

 

コツン、コツン、コツン、コツン、コツン

 

コツン、コツン、コツン、コツン、コツン

 

「どこから聞こえてきてやがる?」

 

「コイツは・・・足音か? こんな時間に人間はいないはずだが?」

 

どんどん近づいてくる音。それは数に比例して大きくなっている。それは妖魔たちの背後から聞こえてきている。

 

コツン、コツン、コツン、コツン、コツン

 

コツン、コツン、コツン、コツン、コツン

 

妖魔たちが背後を振り替えるとそこには・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

着物姿の少女が暗闇から現れてきた。

 

表情は伺えないが、雰囲気からして苛立っているのは明白だった。それも単なる苛立ちでは片付けられないような。

 

「誰だ!?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「何だ、ガキか・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「おいおい、お子ちゃまがこんなところに何の用だぁ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「た、助けて! 助けてぇ!!」

 

少女は妖魔の問いにも、女性の叫びにも無言を貫いて答えようとしない。もはやそんな問いに答える価値すら持ち合わせていないのだろう。

 

「おい、何とか言ったらどうだ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「恐怖のあまりに声も出ないんでちゅかぁ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「よく見るとこの女、美味そうだぜ?」

 

「な、何をしているの・・・? そこに立っていないで助けてよぉ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

少女はやはり無言のままだ。妖魔にどんなに煽られても、少女の訴えにも足の動き一つ見せようとしない。

 

しかし、少女の中では沸々と何かが煮立っていた。この前のとは別の苛立ちがコイツらにだ。

 

そんな少女の心も知らずに妖魔の二体が少女に近づいていく。

 

「この美形な顔、ムチムチとした胸、サラリとした腕、食べただけで何かに染まりそうだぜ。ギャハハ」

 

「・・・・・・・・・」

 

少女は妖魔に間近で観察され、胸を触られ、腕を撫でるように触られている。頬に舌を当てられようとも、少女の様子は顔色一つ変えようとしない。

 

「何だよ? 俺が怖いってかぁ? ギャハハハ!! そうだよなぁ? さっきから声一つ、出さねぇんだもんなぁ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「安心しろよ。今から俺がお前を美味しく頂いてやるからよぉ。そう怯えんなっての」

 

「・・・・・・・・・」

 

少女を嘲笑する妖魔。何も喋らない、動こうとしない。そんな少女を怖がっていると思っているのだろう。

 

しかし、少女の心の中には何も感じていなかった。嫌悪も、恐怖も、コイツらを皮肉思うという感情も。

 

「おい、この女は俺が頂いちまっていいかぁ?」

 

「勝手にしろ。俺たちはそこの女を頂くからなぁ」

 

「おいおい、俺にも半分よこしてくれよ」

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁ、やめてぇぇぇぇぇ!!」

 

「ギャハハハハハハ!!!」

 

女性の悲鳴と妖魔たちの耳障りな笑い声が同時に響く。そして・・・・・・。

 

バキバキバキッ・・・バキッ・・・!!!

 

「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ギャハハハハハ!! いつ聞いてもいい悲鳴だぜ」

 

「やっぱり女の肉ってのは美味いもんだぜ。ハハッ」

 

「グアアァァァァァァァァッ!! ガアァァァァァァァァッ!!!」

 

女性の両肩から折れるような奇怪な音が響き、女性が絶叫を上げる。

 

「さてと、こっちも頂くとしますかね。この雌豚ちゃんの――――」

 

「・・・・・・れ」

 

「・・・・・・あ?」

 

今のは空耳か? この着物の少女から声が聞こえたような・・・。妖魔が思わず聞き返すと・・・。

 

「うるさい、黙れ・・・!!」

 

「っ!!?」

 

苛立ったような、怨念に満ちたような低くドスの利いた声が、この少女の口から発せられていた。

 

彼女の全身から炎が発せられたかと思うと――――

 

「あ――――」

 

ジュバッ!!

 

近寄ってきた二匹の妖魔のうち、一匹は炎に包まれ悲鳴も上げずに燃え尽きた。

 

バキッ!!!

 

更に少女の右手が一瞬ブレると変な音が一面に響いた。

 

「・・・へ?」

 

「ん?・・・何だ?」

 

少女に近づいたもう一匹の妖魔は一瞬何が起こったのか分からなかった。女性を齧っていた連中も変な音に気づいて少女の方を振り向いて呆然とした。

 

そして妖魔の一人は不意に自らの右腕を見ると―――――――

 

――――――――右腕があり得ない方向に・・・・曲がり、千切れる寸前だった。

 

「グ、グギャアァァァァァァァァアッ!!!」

 

遅れて状況を判断した妖魔が激痛に絶叫を上げた。

 

どうしてだ!? 俺の固い体はこんな人間のガキにへし折られるわけが・・・!?

 

頭の中で答えを見つける間もなく少女は右手を伸ばすと魔剣がどこからともなく現れ、それを受け取ると妖魔の絶叫の終わりを待たずに魔剣を横に振り被った。

 

ブシャアァァァァァァァッ!!!

 

首を刎ねられて司令塔を失った妖魔の体は鮮血を吹きながら、地面へと崩れるように倒れた。

 

ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ!

 

更に少女は即死したのにも関わらず、狂ったようにその妖魔の体を魔剣で何度も突き刺していた。

 

「き、貴様・・・!!」

 

「テメェッ! 一体何をした!?」

 

呆然としていた妖魔たちが我に返って、少女に怒りを露わにする。

 

すると少女は狂ったように刺していた魔剣の手を止め、妖魔たちの方に顔を向けた。

 

「・・・・・・黙れと言っているんだ」

 

「テ、テメェ・・・!!」

 

横柄ながらも苛立っているような態度を取る少女。妖魔の一体が激昂し体をボコボコとさせる。上半身の服を破きながらも筋肉質な茶色の体を変化させ飛びかかる。

 

そして妖魔の鋭い爪が少女の眼前に迫った直後、妖魔の両腕は一瞬のうちに無くなり、夜の空を舞った。

 

「ギャアァァァァァァッ!! ガァッ!?」

 

少女は間髪入れずに首を吹っ飛ばし、横に回ると直進していく妖魔の体を腰から両断し、更に背後から上に振り被って妖魔の体をバラバラにした。

 

青色の血を噴き出しながら、無残な肉塊となって地面に落ちた妖魔の体。その身体は即座に炎に包まれ燃え尽きた。

 

「な、何なんだよ、テメェ!?」

 

あまりにも残虐に妖魔を倒していく少女に、最後に残された妖魔の顔が怯えの表情になっていた。

 

妖魔は内心気付いていた。この女は―――――危険すぎる、と。

 

少女は消し炭になった妖魔の遺体を見つめていたが、不意に残った妖魔の方を向く。その顔は不機嫌そうな、でも今は苛立ちと怒りに満ちた顔だった。

 

「ひっ・・・?」

 

思わず悲鳴を上げる妖魔。そんな声とは裏腹に少女は頬に青い返り血を付着させながら炎を体から発し、魔剣を手にコツンコツンと妖魔の方へと迫っていく。

 

「く、来るなぁ・・・!!」

 

先程自分たちが襲い掛かった女性から漏れていた恐怖の声。そんな声を出しながら両肩から大砲のようなものを出すと少女に目掛けて火球を撃ち放った。

 

しかし火球はほとんどが当たっておらず、当たるかと思われた火球はあっさりと彼女の炎で相殺され、少女の歩みを止めることはできなかった。

 

怯むことなく迫ってくる少女。妖魔の心には恐怖しかなかった。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

茶色の固そうな翼を広げて、その場から逃亡しようとする妖魔。少女に背中を見せて飛び去った瞬間、少女も逃がすまいと飛び出すようにその場から消えた。

 

・・・しかし――――

 

ブシャアァァァァァァァァァァ!!

 

それと同時に妖魔の背中から液体の音が響いた。妖魔の背中にあったはずの翼が―――――消えて無くなっていた。

 

「グ、グアァァァァァァァァッ!!」

 

妖魔は絶叫を上げて地面へと落ちる。背中から青い血を噴きながら、痛みに呻く翼を捥ぎ取られた人喰いの悪魔。

 

何故だ・・・何故俺がこんなガキに・・・!

 

そんな背中の痛みが癒える間もなく、突っ伏した妖魔の目の前には少女が立っていた。奴隷を見下す将校のように妖魔のことを見つめている。

 

少女は魔剣を地面に刺すと右手に炎を灯す。普通の炎だが、その中には殺意や怒りが込められている。

 

「や・・・やめろ・・・グッ!?」

 

右手で妖魔の顔を掴んで持ち上げる少女。妖魔にはもはや抵抗の意思を見せる様子はない。ただ恐怖に駆られているだけ。

 

そんな妖魔に構わず少女は右手の炎を―――――妖魔へと移した。

 

「ギ、ギャアァァァァァァァァァァッ!!」

 

全身から炎が上がり絶叫を上げる妖魔。少女はその妖魔の掴んでいる左手に熱を灯し、離すとその拳で腹を蹴り飛ばした。

 

「グ、ガアァァァァァ! 熱いぃぃ、ウギャアァァァァァッ!!」

 

重い一撃が伝わり、前へとぶっと飛ばされた妖魔は全身を燃やされる熱さに絶叫を上げてのたうちまわり、体をくねらせる。

 

このまま放っておけば黒焦げになって死ぬほどの炎だが、少女は飽き足らずに魔剣を抜き取ると狂乱している妖魔の方へと迫る。

 

炎に包まれている妖魔の腹を踏みつけると転げまわっていた妖魔の動きが止まる。その代わり炎が燃える熱さから逃れようと上半身をくねらせ、足をバタバタと滅茶苦茶に動かしている。

 

バタバタさせる足が鬱陶しく感じたのか、少女は魔剣で妖魔の両足を太腿の付け根の部分から切断する。更なる絶叫を上げる妖魔。熱さと痛みでは痛みの方が勝利を収めたようだ。

 

少女の腹を踏みつける行為と上半身を暴れさせるせいで背中や切断された足から血を噴き出させ、地面に青色の海を作っていく妖魔。更にそこへ少女が腹に魔剣を突き刺し、捩じり込むようにグリグリさせ始めた。腹だけではなく魔剣を抜いては別の無事な部分に刺したり、両断された傷に捻じ込むなどをしていた。

 

もはや討伐でもなんでもない。拷問だ。小さな蟻の命をもぎ取るように痛めつけているだけの残虐非道な拷問だ。

 

「ウギャアァァァァァァァッ!! グギャアァァァァァッ!! ギャメロォォォォォォォ、ガアァァァァァァァァッ!! ダズゲデグレェェェェェ!!」

 

上半身を焼かれる熱さ、背中と両足を斬られた痛み、魔剣で捻じ込まれる痛み、この3つの痛みが妖魔を襲い絶叫を上げさせる。少女は助けを求める声にも耳を貸さずに、妖魔をいたぶり続けた。

 

すると段々と妖魔の声が聞こえなくなり、上半身の動きもゆっくりとなっていき、最後には妖魔の体は動かなくなった。上半身は燃え続けていたが、すでに茶色だった肌も無さないほどに黒焦げと化していた。

 

――――なんだ。もう終わりか。

 

少女はそう思いながら妖魔の腹から足を除けて、胸の部分から体を両断した。すでに灰と化している上半身には目も暮れず、燃えていない腹の部分を細切れにした。

 

もはや肉塊同然の状態にした後、今度は二匹目に倒した妖魔の首の方へと近づいていき、怒りを微塵に感じさせないほどの力で踏み潰した。潰れた後も原型を留めないほどに、踏んで踏んで踏みつけた。

 

更にはその妖魔の体に歩み寄ると魔剣で狂ったように何度も何度も、突き刺し始めた。

 

何度も、何度も、何度も、突き刺して、突き刺して、突き刺して、突き刺した。

 

――――足りない。足りない。刺しても刺しても、私の怒りが治まらない。

 

――――この心を満たすには、どうすればいい?

 

「な、何をしているの・・・?」

 

少女の異常ともとれる行動に、先ほど妖魔に襲われた女性が声を漏らす。その呼びかけに少女の動きが止まる。そして女性の方に顔を向ける。

 

少女はしばらく女性を見据えていたが、何を思ったのか突き刺した魔剣を抜いて背中に収めると女性の方へと向かって歩き出した。

 

「ひっ・・・い、嫌・・・」

 

女性は迫ってくる少女に怯えて、体を捩るように後ずさろうとする。先ほどの妖魔と残虐に殺していく少女の姿を見て腰を抜かしてしまったようだ。

 

しかし、逃げようとも後ろにあるのは行き止まり。どちらにしろ女性に逃げ場などありはしないのだ。単に壁を手で押しているだけだ。

 

そんな無駄な足掻きを続ける女性に近づく少女。体を震わせている女性を見据える。しばらく沈黙していたが、不意に少女が口を開いた。

 

「・・・・・・お前、確か変な薬を売っている密売人だったな」

 

「えっ・・・」

 

――――何で分かるの・・・?

 

「ポケットから薬が見えているんだよ」

 

「!!」

 

女性はよく分からないというような顔をしていたが、少女に指摘されるとハッとした。私の姿を見ているだけなのに、どうしてそんなことを思えるのか。その意味が自分がうっかり落としていた薬で全部理解した。

 

――――コイツを殺せば、満たされるか・・・?

 

少女は女性を見つめながらそんなことを思っていた。薬を売っているのだから、コイツだって私に言わせれば『悪』。殺しても問題はないはずだ。

 

どうせ上層部の奴らも、こんな人間一人死んだところでどうこう言うものではないだろう。人を助けろなどとは一言も言われていないしな。

 

少女は唐突に両手で女性の首に手を掛ける。

 

「い、嫌、ぐっ!? な、何を・・・?」

 

首に圧力がかかり、少女の指が喉に食い込んでいく。少女が首を持ち上げたために、へたり込んでいた女性の体が立ち上がっていく。

 

ギリギリギリ・・・・・・。

 

「うぐぅ・・・がはっ・・・や、やべてぇ・・・けほっ・・・」

 

辛うじて苦悶の声を上げる女性。喉から声を絞り出したせいか、そのまま咳き込む。

 

少女はまだ大して力を入れていないが、それでも女性に苦しみを与えるのには十分だった。女性は歯を食いしばり、少女の手を外そうともがいている。

 

ギュウゥゥゥゥゥ・・・。

 

「ぐ、ぐぅぅぅ・・・あ、あぁぁぁ・・・」

 

少女は更に手に力を加えて、親指を喉にめり込ませていく。女性の食いしばっていた口から涎が流れ始め、酸素を求めて口が大きく開いた。

 

「あぁ・・・うぁぁぁ・・・か、かはっ・・・」

 

更に首を持ち上げると女性が苦しみの声を上げ、とうとう地面から足が離れた。顔はすでに紅潮していて、苦しみに目を大きく見開いた。

 

もはや助けを求める声すらも上げられない。苦しみに体がもがき、呻く声を上げるだけ。足はバタバタとさせるも、そんな抵抗ももはや意味をなさない。

 

ギュウゥゥゥゥゥ・・・・・・。

 

「かぁ・・・ぁぁっ・・・こっ・・・こぉ・・・」

 

持ち上げた状態で更に首を締め上げ、女性の口からは声にならない声が聞こえてくる。女性の頭は酸素が回らなくなり、白目を剥きはじめている。

 

――――苦しむ表情もいいけど、もう頃合いか・・・。

 

少女は一思いに止めを刺そうと両手に一層の力を込めた。女性の首が、喉が押しつぶされていき――――

 

ゴキッ!!!

 

「ガァッ!!??」

 

――――骨が折れる嫌な音が響いた。

 

手を掴んでいた女性の腕はだらりと垂れさがり、抵抗の意思をまるで見せなくなった。

 

少女は女性が動かなくなるのを確認すると、そのまま投げ捨てた。

 

死体と化した女性には目も暮れずに少女は首を掴んでいた自分の両手を見つめる。そして両手をギュッと握りしめる。

 

――――やっぱり足りない。というか、気が晴れない。何で? 何でだ?

 

――――何でこんなにもムカムカするんだ・・・・・・!?

 

「アアァァァァァァァアァッ!!」

 

苛立ちが募り、怒り任せに女性の死体を蹴り飛ばす少女。体は壁に当たって腕や足が変な方向へと曲がった。

 

「モココ!! チャイ!!」

 

怒りの声で使い魔の名を呼ぶ少女。少女の目の前から魔法陣が現れて1羽の赤い鳥――チャイが現れ、肩からは1人の白い大福のような珍獣――モココが現れた。

 

少女は使い魔が出てくると無言で妖魔の惨状へと指をさす。察したチャイは飛んでいって妖魔の残骸を消し始めるが、モココは動こうとしなかった。

 

それどころかモココとは思えないほどに心配そうな顔をして、少女のことを見ていた。

 

「ねぇ、サクラ・・・いつも以上に苛立ってない?」

 

「・・・・・・何でそう思う?」

 

少女――――サクラは指さしていた腕を下ろすと、低く静かな声でモココに返答する。

 

「だってあの一件以来、サクラが穏やかだったところを見たことないもん」

 

「・・・・・・・・・」

 

モココが言いたいのはあの一件、要するに二日前のグレモリーとライザーのレーティング・ゲームの話だ。

 

グレモリー眷属はライザー・フェニックス率いる眷属にレーティング・ゲームに敗退した。最初は有利に事を進めていたグレモリーたちだが、徐々に間合いを詰められていった結果がその通りである。結果、普段は感情などを表さないサクラは怒りを露わにして絶交宣言したのである。

 

しかし、サクラが怒ったのは勝敗の結果が敗北になったからではない。あのリアスという『(キング)』が自分の友人――――兵藤一誠を危険に晒したことだ。友人を傷つけるなと言っておいたのに、あの女はプライドだけを盾にして兵藤を間接的に傷つけたのだ。

 

おまけにそれが自分の過去の出来事と酷似しているのも大いに腹が立った。サクラは過去に友人を失っていて、彼女も一誠と同様に諦めない不屈な精神の持ち主だった。どんなことがあっても、決して諦めない。やめようとしない。自分のためだったら命を捨てても構わないほどの人物だった。

 

あの時、力づくでも止めていればよかったと思い出した瞬間に後悔と自分に対する怒りが残った。だからこそ、あの場ですぐに止めようとしなかったリアスに腹が立ったのだ。

 

あれ以来、鬱憤を晴らすかのようにサクラは荒れていて、妖魔が現れれば人間とは思えないほどの非道な方法で討伐していき、不良に絡まれてもスルーし、必要以上に構われれば八つ当たりをするかの如く致命傷を負わせ、搬送された病院で本人たちが話したがらないほどの恐怖を与えている。

 

でも、何をやっても、糖分を取っても怒りが収まらないのだ。まるで自分が生産する機械になったように内側からどんどん怒りが溢れだしてくる。この場で耳障りな声を聞かされたら、衝動的にとんでもないことをやらかしてしまうのではないかぐらいの怒り。サクラはまさにそんな状態だった。

 

「・・・オレはいつもこんな状態だ」

 

「違うもん! サクラはいつもつっけんどんでモココのことを軽くからかってくる人だよ!」

 

「くだらないことを言っている暇があるなら死体を片付けたらどうだ? っていうか、オレの命令を無視するんじゃねえ」

 

モココの言葉を取り合おうとはせずに一蹴し、サクラが低い声で命じる。コイツもただでさえ声でムカつくのに、おまけに私のことを心配すると来るか?

 

「で、でも・・・」

 

「黙れ。オレに取り繕って評価を上げようだなんておこがましいんだよ」

 

「そ、そんなつもりじゃ――――」

 

ドッ! ブフォォォォォ!

 

モココの言葉を最後まで聞かずに、女性の死体に目掛けて火の玉を放つ。そして背中に収めてある魔剣の切っ先をモココに向ける。

 

もう聞きたくない・・・お前の声なんか・・・。

 

「・・・早く死体の処理をしろ」

 

「サクラ、モココの話を――――」

 

「早くしろッ!! お前も燃え滓にするぞ!!」

 

サクラは声を荒げて、魔剣をモココに刺さないかぐらいの距離まで近づけた。もう少し魔剣を近づけたら、刺さってしまうのではないかぐらいの距離だ。

 

「うぅ・・・・・・」

 

モココは泣きそうな呻きを上げながら、渋々サクラの肩から降りて灰と化した女性の死体を吸い込み始めた。

 

サクラは魔剣を下ろすと俯き始めた。もう何も考えない・・・考えたくない・・・。

 

するとサクラの背後が光り出し、出現した魔法陣から1人の銀髪メイドが姿を現した。

 

「こんな所にいらしたとは」

 

「・・・何の用だ」

 

銀髪のメイド――――グレイフィアにサクラは低い声で返答した。

 

「現在、お嬢様とライザー様の婚約パーティーが冥界で開かれております。グレモリー家が用意した会場にて」

 

「オレには関係ない。アイツとは金輪際、関わりたくない」

 

「承知しております。ただあの場に来られていないのはイッセー様とアーシア様、そしてサクラ様だけです。私はわざわざあなたにご報告に来ただけのことです」

 

「あっそ。・・・で?」

 

そんなことを報告されたから何だというのか。私にはどうでもいいことだ。

 

「そして本題はここからです。サーゼクス様があなたが無言で帰られてしまったようで、とても心配していたのです」

 

「・・・心配だと?」

 

・・・心配? 私を? 悪魔のくせに私を心配だと?

 

そう思えば思うほど、シキの空っぽの心に苛立ちが募っていく。

 

「ハッ、本当はオレのことなんか利用するだけのくせに。今更、良い人を演じて評価を上げようってか? おこがましいんだよ、どいつもこいつも」

 

サクラはそう吐き捨てると、振り向き様にグレイフィアに持っていた魔剣の矛先を向ける。

 

「どうか落ち着いて話を最後まで聞いてください。そうでないと私も実力行使をさせていただきます」

 

睨みあうサクラとグレイフィア。まさに一触即発の雰囲気だ。下手なことをすれば始まってしまうのではないか?

 

「フン」

 

しばらくするとシキは魔剣を下ろした。こんなことをしても自分の怒りが治まらないことをもう十分すぎるほど分かっているからだ。

 

サクラが少し落ち着いたところでグレイフィアが話を続ける。

 

「サーゼクス様はあのレーティング・ゲームの一件でシキ様の様子がおかしいことに気付いたのです。あなた方からとてつもない怒りのオーラを感じたと」

 

グレイフィアの話を聞いているシキの魔剣を握る手の力が一層強まる。思い出したくもないことを思いだされて、余計に苛立っているのだろう。

 

「だったら何だ。お前らがその鬱憤を晴らしてくれるのかよ? 偽善者」

 

「サーゼクス様はこのままでは悪魔の世界にも影響を及ぼしかねないのではないかと判断し、あなたのメンタルケアをすることを提案したのです」

 

「メンタルケア?」

 

サクラの言葉には乗らずに、話を続けるグレイフィア。

 

「サクラ様、怒りが治まっていないのでしょう? 怒りと言うのはぶつけるのはよくありませんが、だからといって溜めこむのはよくないというもの。でしたら――――」

 

グレイフィアはサクラに近づいて一枚の紙を手渡す。サクラは近づいてくることに警戒をしていたが、グレイフィアから紙を差し出されると成行き的に受け取った。

 

「その魔法陣が書かれている場所に行ってみてはいかがでしょうか? きっとあなたのお気に召すことがあるのかもしれません」

 

そう言うとグレイフィアはサクラに背を向けて歩き出す。それを見つめていたサクラがグレイフィアに疑問を投げかける。

 

「・・・これもあの魔王の策略か?」

 

その質問にはどうして自分にここまで構ってくるのかという意味合いも込められていた。グレイフィアは足を止めると振り向き様に口元に薄い笑みを浮かべた。

 

「さて、どうでしょうか? 私は魔王様のお考えを全て知っているわけではありませんので」

 

それだけ答えるとグレイフィアは魔法陣の光の中へと消えていった。

 

サクラは『真実の魔眼(トゥルース・シーイング)』で魔法陣を調べる。すると空っぽの心の中の引っ掛かりが、少し取れたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ましたとき、そこは見知った天井だった。

 

ここは、俺の部屋だ。でも、何でここに? 俺は一体何をしていたんだ?

 

ぼやける頭を必死に叩き起こすと、これまでの記憶が甦ってきた。

 

・・・勝負をしていたはずだ。部長とライザーとのレーティング・ゲーム、場所は旧校舎のレプリカ。

 

旧校舎が俺たちの本陣で、敵であるライザーは新校舎にむかって俺と木場と小猫ちゃんと一緒に向かっていたはずだ。

 

小猫ちゃんが倒れて、朱乃さんが倒れて、木場が倒れて、そして――――。

 

俺はここで意識をハッキリさせた。部長はどうなったんだ!? 勝負は!? 勝敗は!? 俺はどうしてここにいる・・・?

 

体を上半身だけベッドから起こすと・・・。

 

「・・・・・・起きたか? 死にぞこない」

 

枕元にいる女性が声を掛けてきた。それは俺の友人のサクラだった。

 

「サクラ! 部長は!? 勝負はどうなったんだ!?」

 

「・・・負けたんだよ、お前らは。グレモリーが無様に降伏してな」

 

ッ!!!!

 

そ、そんな・・・。俺は絶句して言葉も出なかった。

 

「う、嘘だろ・・・そんな、部長に限って!!」

 

「殺されかけたのを忘れたのか? グレモリーがとっとと降伏しないせいで、お前はもう少し遅れてたら死んでいたかもしれなかったんだからな」

 

「・・・あの時のこと、よく覚えてなくて・・・」

 

正直、よく覚えていなかった。ただがむしゃらに部長を守りたいという気持ちで体が勝手に動いていたような気がする。

 

しかしハッキリしていた記憶がある。それは部長が自分に向かって微笑みながら、泣いていた表情。

 

そうか・・・俺・・・負けたのか・・・。ライザーに・・・負けちまったのか・・・。

 

「俺のせいだ・・・あれだけ部長に啖呵を切っておきながら、目の前で無様にぶっ倒れて・・・」

 

「違う。お前のせいだというのはお前の単なる誤解だ」

 

「えっ・・・?」

 

どういうことだよ?・・・・はっ、そう言えば・・・!

 

「他のみんなはどうしたんだよ?」

 

「・・・今は冥界でグレモリーとライザーの婚約パーティーが行われているらしい。木場たちはその付き添いで行っていて、アーシアはここでお前の看病をしていたんだよ」

 

部長とライザーの婚約パーティーが開かれると聞き、俺は部長の言葉を思い出していた。

 

――――私はね。私をリアスとして愛してくれる人と一緒にいたいの。私はこの小さな夢を持っていたいわ。

 

・・・・・・すいません。部長・・・。

 

――――最強の『兵士(ポーン)』になりなさい。あなたならそれができるはず。

 

――――強くおなりなさい。あなたは私の可愛い下僕なのだもの。

 

・・・俺、強くなれませんでした。

 

「弱ぇ・・・何で俺は、こんなに弱いんだ・・・」

 

「辛いのか?・・・だったら忘れてしまえばいい」

 

「えっ・・・?」

 

サクラが放った言葉が俺には理解できなかった。忘れてしまえばいい・・・?

 

「あんな女のことなんか忘れてしまえばいい。そうすればお前は楽になれる」

 

・・・何を言ってるんだよ? そんなの、できるわけないだろ!?

 

とここでサクラがお前のせいじゃないという言葉の意味を教えてくれた。

 

「あのゲームに負けたのも、お前が傷ついたのも全部アイツのせいなんだよ。お前が気に病む必要なんかない。アイツの自業自得なんだよ」

 

何だよ・・・それ・・・。まるで部長が全部悪いと言っているみたいじゃねぇか!!

 

俺は思わず怒りでサクラの胸ぐらを掴んだ。今の言い方はさすがの友人でも許せなかった。

 

「部長を悪く言うんじゃねぇ!! どんなことをされても部長は部長なんだよ!!」

 

「お前の意見なんかどうでもいい。そうやってグレモリーを正当化して、自分が大きな顔をするつもりか?」

 

「ぐわぁっ!?」

 

俺は胸倉を掴んでいた手をシキに振り払われて、床へと突き飛ばされた。サクラは崩れた着物の正装を直しながら俺に言った。

 

「お前はどこまでも甘い男だ。この世には運命と必然という言葉がある。必然というのはそこに何らかの要因があるから必ず起こるというもの。運命というのは最初から決められたもので変えることなんか絶対にできないというものだ。グレモリーもあんなのでも上級悪魔だ。それが分かっているから、負けを認めて今回の婚約を承諾したんだろう」

 

サクラは語り尽くすと俺に背を向ける。

 

「分かったらあんな女のことなど諦めろ。お前の勝手な都合でどうこうできるようなものじゃないんだよ」

 

俺はサクラの語ることを呆然と聞いていた。今の話を聞かされると俺がどうしようもなく情けなく思えてくる。

 

俺はあのゲームで、ライザーに一矢報いることも無く、部長の前で倒れたのか。俺は本当に、どうしてこんなに弱いんだ・・・。

 

何が、俺が守るだよ・・・。

 

アーシアが攫われてきたときだってそうだ。俺は神器を使いこなせずに目の前でアーシアを攫われ、結局はシキに助けてもらっていた。

 

今回の部長だって、俺がもう少し神器を使いこなせていればあんな結果にはならなかったはず・・・・・・。

 

きっとサクラだって今の俺を見て幻滅しただろう。こんな情けない男に、もう指導すらしてくれないかもしれない・・・。

 

涙が止まらない。サクラがいるのにお構いなしに俺は泣いていた。悔しくて・・・弱くて・・・情けなくて・・・哀れで・・・。

 

でも・・・それでも、俺は・・・!!

 

・・・・・・今部長は、パーティーの真っ最中なのか。

 

「どうだ? 少しは自分が莫迦な夢を見ていると自覚したか? これが現実だということに気付いて諦めがついたか?」

 

・・・嫌だ。

 

「・・・・・・きない」

 

・・・嫌だ。

 

「・・・は?」

 

・・・嫌だ。嫌だ!!

 

「・・・納得できない」

 

・・・俺は絶対に、そんなものは認めない!!

 

「・・・今、何て言った?」

 

サクラが不愉快そうな顔で俺の方を振り向く。でも、そんなの構うもんか!!

 

俺はビシッとサクラに言ってやるんだ。やせ我儘かも知れないけど、俺はとにかくそんなのは嫌なんだ!!

 

「俺は納得できないと言ったんだよ!!」

 

俺は大きな声でサクラに言い放った。サクラの顔は少し驚いたような表情をしていた。しかし、すぐに怒ったような顔をして言う。

 

「・・・オレの話を聞いてなかったのか?」

 

「聞いてたさ! でも、俺は納得できない! たとえ勝負がつ着いたとしても俺は部長のあんな悲しむ顔を見て納得なんかできるかよ!!」

 

「グレモリーは家の決定に従ったんだぞ? お前が口出ししたところで運命に抗うことなんてできないんだよ」

 

「分かってる! 分かってるんだよ!! でも、俺はそれでも――――」

 

部長が嫌がることを肯定なんかできない!! あんな部長の悲しむ姿なんか見たくない!!

 

「・・・何でお前はそこまでして、あんな女を構う? お前を見殺しにしかけた女だぞ?」

 

「部長の『兵士』だからだよ! 俺を大切にしてくれた大事な部長だからだよ!!」

 

親同士の決めたことに嫌々従う部長なんか見たくない!! そして何よりも――――。

 

「・・・次はあんなことじゃ済まされないかもしれないんだぞ?」

 

「それでも、俺は――――部長を、助けたい!!」

 

あんな野郎に! あんな焼き鳥野郎に!! ライザーなんかに部長を渡したくない!!

 

理解してるさ。これは単なる俺の激しい嫉妬だ。あんなヤツに部長を渡してたまるかよ!!

 

「・・・・・・・・・そうか。そんなにあんな女が大事か」

 

サクラはしばらく沈黙した後、溜息を吐く。

 

「お前はとことん莫迦な男だ。アイツに性格が似てムカつくけど、ここまでオレに反抗してきたのはお前が唯一かもな」

 

俺に皮肉を口に出しながら、着物の懐から一枚の紙を取り出すと俺に放るように渡してきた。そこには魔法陣が描かれている。

 

「なら勝手にしろ。その魔法陣を使えば、ライザーとの婚約パーティーの会場に行くことができる。グレイフィアが渡してくれたが、オレにはそんなものは必要ない。他人の婚約に口を挟む趣味はないからな」

 

グレイフィアさんが・・・? どうしてこれをサクラに?

 

でも、これがあればパーティー会場に行くことができる!! 部長が嫌がるあの結婚を止めることができる!!

 

サクラは闇のモヤモヤとした雲のようなものを出すと、俺に背を向けて歩き出す。

 

「サ、サクラ!!」

 

俺が呼び止めるとサクラは歩みを止めて、俺の方を振り向く。

 

「・・・ありがとな!」

 

「・・・ばーか」

 

サクラは不機嫌そうな顔に口元に笑みを浮かべて、そう言い放つと雲の中へと消えていった。

 

この後はどうするって? 決まってるさ!!

 

部長を、取り戻す!!!!

 

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