極悪な奴ら/THE EVIL HERO   作:早乙女

36 / 53
第30話「下級悪魔&神殺しVS不死鳥」

会場の中央に設けられた特殊な空間。サーゼクスはこの中ならば好きなだけ暴れてもいいとサクラとイッセーに許可している。

 

その周囲を会場にいる悪魔たちが好奇の視線を向けてきている。部員メンバーもリアスと一緒に関係者席に同席し、その隣にはサーゼクスが座っている。

 

フェニックス側にもライザーの身内と眷属たちがいる他、彼の妹も一緒に列席している。

 

そして、空間の中央ではライザーとイッセー、サクラが対峙している。イッセーはすでにブーステッド・ギアを具現化させているが、一方のサクラは何も持たずに腕を組んだまま欠伸をしている余裕な感じだ。ライザーも余裕の表情をしている。

 

「開始してください!」

 

この場を仕切る悪魔が戦いの開始を告げる。イッセーは戦闘の準備は出来ている。あとはライザーと戦って勝つだけだ。

 

「お前の力は割れている。自分の力を倍増していく力。そして倍増した力を仲間や武器に譲渡する新しい能力を持ったようだな。そこの女はただの傲りだろう。この俺に勝てる力が無いから、言葉だけで強がっているんだろうな」

 

どうやらイッセーの神器の能力は知られているようだ。『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』のことも知っている。

 

シキは後半の言葉を耳にするとライザーに向かって口を開く。

 

「あっそ。だったらオレもお前にいいもの見せてやるよ。・・・まあ、こんなものは本当は出したくも使いたくもないんだけどな。楽しみが増えるんだったら、仕方ないな」

 

後半の言葉はボソボソと周囲に聞こえないように言うとサクラは着物を諸肌脱ぎをする。胸囲にさらしを巻いた上半身が周囲に露出されることになる。

 

するとサクラの背中が光り出し――――。

 

バッ!!

 

――――二対八枚の白い羽が生えた。

 

その様子にサーゼクスを除く、周囲の悪魔たちが絶句する。この中でも一番に驚いていたのは、イッセー、リアス、ライザーだっただろう。

 

「サ、サクラ・・・? お、お前・・・?」

 

「嘘・・・・・・」

 

「なっ! 貴様・・・天使だったのか!?」

 

三人がそれぞれ口々に言うも、サクラは意に返さずただ不敵な笑みを浮かべているだけだ。

 

「どうした、お前ら? 三大勢力の争いを認知しているお前らにとっては別に珍しいことでもないだろ。それにいつオレが人間だなんて言った?」

 

サクラは当たり前のことのように言う。確かにサクラは人間と呼ばれることを特に気にしてはいなかったが、だからといって人間だとは一言も肯定していなかった。

 

「先程の惨事をやらかしたヤツが天使だと!? ありえん・・・断じてあり得ないぞ!!」

 

ライザーは首を振ってサクラの存在を否定する。イッセーも腑に落ちないことがあるので、聞いてみる。

 

「その割には黒いことしかやらかしていない気がするんだけど・・・」

 

イッセーも天使が純粋なものとはどこかの本で読んだことはあるから知っているが、明らかに性格の悪いサクラが天使だとは認めにくかった。

 

「お前らの意見なんか聞いてない。つーかお前ら、羽をよく見ろ。オレは天使じゃなくて鳳凰だ」

 

サクラが当然のことのように言うと、その言葉にサーゼクス以外の周囲の悪魔たちが騒然とした。

 

でもよく考えてみれば、サクラの頭には天使の象徴である輪っかがない。翼は白いけれど、

 

「鳳凰が、そんな白い羽をしているわけないじゃない・・・!」

 

リアスがそう叫ぶとサクラはリアスのほうを無表情に見ながら言った。

 

「少しばかり訳ありがあってな。親の影響のせいかオレの羽は白いんだよ。醜くくて汚れてて嫌になるくらいな。・・・まあ、そんなことはどうでもいい」

 

サクラは切り捨てると右手を引き寄せるように引くと、どこからともなく魔剣が飛んできて彼女の近くの地面に突き刺さった。轟音が響き、空間のフィールドに大きな亀裂が走った。

 

そのままサクラは一本の刀を炎にして生成すると右手に持ち、更に左手で魔剣を抜いて持つ。右手でクルクルと刀を回しライザーのほうに向けた。

 

「今日はオレの炎で作った刀も用意してやったぜ。イメージ元は人間界で日本古来から伝わるオーソドックスな刀、日本刀だよ。お前のために特別な特典を付けて作ったから切れ味は抜群だ。光栄に思え」

 

「ふん。そんな鈍で俺を倒せると思ってるのか!」

 

「倒すんじゃない。痛めつけてやるんだよ。不死の力など持たないほうがマシと思うくらいにな」

 

ライザーに向かってそれだけ言い放つと今度はイッセーに視線を向ける。

 

「何を呆けてるんだ? さっさと戦闘準備しろ」

 

「あ、ああ!」

 

我に返って返事を返すとイッセーはリアスのほうに満面の笑みを浮かべる。

 

「部長、十秒でケリを付けます」

 

「・・・イッセー?」

 

訝しげな表情を見せるリアス。大丈夫ですよ、今見せます。

 

「十秒とは大きく出たな。ならば俺はお前らを五秒で片付けてやるとしよう。以前のようにはいかんぞ! リアスの『兵士』!」

 

「部長! プロモーションの許可をお願いします!」

 

イッセーの叫びにリアスは頷く。その瞬間、イッセーの胸が高鳴る。これはリアスにプロモーションを許可された証だ。

 

「『プロモーション』! 『女王(クイーン)』!」

 

最強の駒である『女王』へと昇格したイッセー。彼の体に力がみなぎってくる。

 

「部長ッッッ!! 俺は木場のような剣の才能はありません! 朱乃さんみたいな魔力の天才でもありません! 小猫ちゃんみたいに馬鹿力もないし、アーシアのような治癒の能力もないし、サクラみたいに武闘や特殊能力もありません! それでも、俺は最強の『兵士』になります!!」

 

リアスに向かって叫ぶ、誓いの言葉。自分の部長へと捧げる、誓いの言葉。

 

とここで、サクラが声を掛ける。

 

「・・・お前は莫迦なのか? それとも気付いてないだけなのか」

 

「えっ?」

 

「アーシアを助けに行こうとしたときのことを思い出してみろ。堕天使を倒したとき、お前は何を想った? 今までは弱かったのに、どうしてお前は堕天使を倒せたんだ?」

 

「それは・・・!」

 

イッセーはあのときのことを思い出した。アーシアを助けに行こうとしたとき、元カノの堕天使にアーシアを利用しようとしたことに怒りが沸いた。そして自分は想ったのだ。一発でいいから殴らせてほしいと。すると不思議と力が湧いてきて、気が付くと堕天使をぶっ飛ばしていた。

 

―――そうか。俺はあのとき、アーシアを苦しみから解放したいと思ったんだ。だって俺はアーシアの・・・。そして今は部長の・・・。

 

何かに気付けた様子のイッセーはサクラにいい表情を見せた。

 

「ありがとな、サクラ! 俺、何か気付けた気がするよ。俺の持っているもの・・・」

 

「・・・ふん」

 

イッセーは籠手の宝玉を光らせながら叫ぶ。

 

「俺はあなたのためなら神様だってぶっ倒して見せます! このブーステッド・ギアで! この唯一の武器で! 俺は、あなたを守ってみせますッ!! 輝きやがれッッッ!!! オーバーブーストォッッッッッ!!!!!!」

 

『Welsh Dragon over booster!!!!』

 

籠手の宝玉が一層輝き出し、イッセーを真紅のオーラが包む。力が、神器の中のドラゴンの力が流れ込んでくるような気がした。

 

イッセーの肉体がみるみるうちに赤い何かが装着されていき、左手でだけでなく右手にも赤い籠手が出現した。籠手にある宝玉が両手の甲、両腕、両肩、両膝、胴体の中央にも出現している。しかも、背中にはロケットブースターのような装置も付いている。

 

その姿にライザーは驚愕していた。

 

「鎧!? 赤龍帝の力を鎧に具現化させたのか!?」

 

ライザーの見解は大体あっている。見た目は小型なドラゴンになったようなもので、顔にも兜のような鎧が装着されている。

 

「これが赤龍帝の力! 禁手(バランス・ブレイカー)赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』だ! 俺を止めたきゃ魔王様に頼みな! 何しろ『禁じられた忌々しい外法』らしいからな!!」

 

「ほう。お前にそこまでの想いがあるとはな? ククク、面白い・・・」

 

それを見ていたサクラは笑うとイッセーよりも一歩下がった。

 

「一番手はお前に譲ってやるよ。時間制限があるんだろ?」

 

「ああ!!」

 

イッセーは両の手のひらを少し開けるように合わせ、手のひらとの間に魔力の塊を作り出す。そしてそれをライザーに目掛けて放出した。

 

魔力は巨大な帯となってライザーに目掛けて放出されていく。

 

「デカい!!」

 

ライザーは予想に反する魔力の塊だったのか、受け止めることはせずに避ける体勢を作り出している。

 

それを見ていたサクラは左手で日本刀と魔剣を二本持つとライザーが魔力の塊を避けた瞬間に、瞬間移動をしライザーの眼前で人差し指を向ける。

 

真紅の魔力が人差し指に集まっていき、やがてそれはピンポン玉ぐらいの大きさになる。

 

「『閃光(ライオ)』」

 

人差し指に集まった魔力の塊を光線状にしてライザーに放出させるサクラ。状況が掴めていないライザーは対応することもできずに身構える体勢を取り、そのまま光線が直撃した。

 

「ぐ、うぅぅぅぅぅ!!」

 

魔力に吹き飛ばされるライザー。それを見ていたイッセーは鎧の噴出口から魔力を吹かせて、ライザーへと突っ込んでいく。

 

しかし猛スピードで迫ったせいか、コントロールができずにそのまま壁へと激突した。

 

「・・・あの莫迦は」

 

サクラが魔力の放出を終わらせるとタックルを空ぶったようになったイッセーに向かって言った。一方のライザーはライオで吹き飛ばされて同じように壁に激突していた。

 

イッセーは壊れた壁の欠片を払いながら、ライザーもゆっくりと立ち上がり、三人は再び対峙する。

 

「赤龍帝のクソガキ! 天使の小娘! 悪いが手加減はしないぜ! 認めたくはないが、今のお前らはバケモンだ!! 主であるリアスの前で散れ!!」

 

「だから、天使じゃないっての」

 

咆哮を上げるライザーの背中に巨大な炎の両翼が出現し、彼の全身が炎が渦巻くと同時に会場が激しい熱気に包まれた。

 

会場にいた悪魔たちが防御壁を作るくらいだから、その威力は相当なものだろう。

 

「火の鳥と鳳凰! そして不死身フェニックスと称えられた我が一族の業火! その身に受けて燃え尽きろォッ!!」

 

「てめぇのチンケな炎で俺が消えるわけねぇだろォォォォォォォォォォッ!!!!」

 

ライザーは全身に炎を纏いながら、イッセーは噴出口を吹かせながら、2人同時に駆け出していく。そして互いの拳と拳がぶつかり合う。会場のど真ん中で下級悪魔の下僕と不死身が殴り合いを展開している。

 

殴り合いの中でも体中に熱さを感じているイッセー。この鎧が無かったら本当に自分の体は骨しか残らなかったのかもしれない。この鎧を脱いだ瞬間に、2人の力の差は歴然となるのだから。

 

サクラは何もせずに2人の殴り合いを見守っている。いくらムカムカしているとはいえ、私が友人の水を差すような真似をしたくはないからだ。

 

「怖いか! 俺が怖いか! 当たり前だ! お前はブーステッド・ギアが無ければただのクズだ! その鎧が無ければお前の体はすでに焼失している! そうだ! お前からその籠手を取ってしまえば、お前は何の価値も無い!!」

 

イッセーが恐怖をしているのを見ていたのか、ライザーがにやけながら言いたいことを言いまくる。でも、籠手が無ければ自分はただの人間も同然だ。何も残らないのだ。

 

悪魔同士の本気の戦い。本当はこんな怖い思いをしたくない。でも、それでも!!

 

部長がそんな自分を拾ってくれた。だから今の自分がいるんだ。部長に感謝がしたいんだよ!! だから、俺は――――。

 

お互いの本気の拳が互いにぶつかり合う。イッセーは痛みと熱のせいで吐血してしまう。

 

「所詮その程度―――ゴバァッ!?」

 

しかし、ライザーもイッセーと同じように吐血した。何故だ? イッセーの力はまだ未熟なはずだ。

 

「貴様・・・何をした・・・?」

 

「・・・ふーん、なるほどね」

 

ライザーは分からなかったが、サクラは少し考えただけで分かったようで不敵な笑みを浮かべていた。

 

イッセーが手を広げるとそこには十字架が握られていた。

 

「部長の『僧侶(ビショップ)』は元シスターでね。奥にしまいこんでいたものを借りてきたんだよ! 十字架の力をブーステッド・ギアで倍増させてアンタを殴った。高めに高めた聖なる攻撃は上級悪魔でも効果てき面、いくら不死身のフェニックスでも癒せないんじゃないのか?」

 

「バ、バカな! 十字架の力は悪魔を激しく痛めつける! いかにドラゴンの鎧を纏っていようと手にするのは――――!」

 

そのときにライザーは始めてイッセーの左腕が変化していたことに気付いた。全身をドラゴンの鎧が包んでいたので気付かなかったが、間近で見ればさすがに気付いた。

 

「まさか貴様・・・籠手に眠るドラゴンに・・・自分の腕を・・・?」

 

「ああ、そうだ。俺は力を得るために左腕を代価にくれてやった! 俺の左腕はもうドラゴンの右腕だからな! 十字架は利かない!!」

 

「正気か貴様!? そんなことをすれば二度と元の腕には戻らないんだぞ!? それが分かってやっているのか!?」

 

「それがどうした!?」

 

5のカウントを刻む中、イッセーは言った。くだらない会話をしていても、カウントは刻んでいくのだ。

 

「俺みたいなヤツの腕一本で部長が戻ってこられるんだぜ? こんなに安い取引はないだろう?」

 

イッセーの言葉を聞いてライザーが目元を引き攣らせた。あれは少し恐怖を抱いた証拠だ。

 

「ハハハハハッ!! やっぱりお前は面白いわ!」

 

一方のサクラは表情が伺えないほどに笑いを零していた。面白い・・・アイツは本当に面白い・・・!! やっぱり友人やってて良かったなぁ・・・!!

 

「なるほど、だから迷いの無い一撃を放てるのか・・・。怖いな・・・俺は初めてお前に心底畏怖した。だから、俺は全力でお前を倒すッ!!」

 

今のライザーはまさに火の鳥。周辺を炎に包みながらイッセーへと突っ込んでいく。イッセーも負けじと噴出口から魔力を吹かせながら、ライザーへと突っ込んでいく。

 

激しく拳がぶつかり合い、その衝撃は一層の激しさを増していく。

 

しかし、ここでイッセーの視界が元の調子に戻った。何と鎧が解除されていたのだ。

 

「な、何でだよ!? まだ、10秒も経ってないのに!・・・ぐ、あぁ!」

 

鎧が解けた拍子にイッセーは力が戻り、よろけて地面に倒れ込んでしまう。

 

『お前はこの力を手にするためには代償は十分だったが、今のお前の基礎能力では制御するのがこれで限界だ』

 

「じゃあ、また代償を払ってやる! 目でも! 足でも、何でもくれてやるから!!」

 

『2度目の具現化はお前には無理だ。体がバラバラになるだけだぞ』

 

「くそ・・・ここまで来て・・・!」

 

ライザーは倒れたイッセーの襟元を掴んで宙に浮かせる。文字通り首を絞め上げられている状態になっているわけだ。

 

「ここまでのようだな。『兵士』の力でよくやったと褒めてやろう。正直、俺も危なかった。お前が1年、もしくは半年、ドラゴンの力に慣れていたら俺は倒されていたかもな」

 

冗談で言っているわけではなく、ライザーの表情は本気そのものだ。実質ライザーも体も服もボロボロになっていた。再生能力の高いライザーでも聖なる力をまともに喰らえば、再生能力は遅くなるようだ。両翼の炎が弱くなっていることから、ダメージは相当なもののようだ。

 

「さて、そろそろ眠ってもらおうかな。お前が起きている頃には式も終わっているだろう。そこの小娘も――――!!??」

 

ライザーはシキのほうに視線を向けるが、そこにシキの姿は無かった。

 

「なっ、どこだ!? どこにいる!?」

 

ライザーがイッセーを持ちながら、サクラを探すがどこにもいない。

 

その刹那――――。

 

ジュバァッ!! ブシャアァァァァァァァァァァッ!!!!!!

 

突如ライザーの炎の羽が消え去る。一瞬、状況が分からなかったライザー。それを理解した瞬間――――。

 

イッセーを掴んでいた腕に炎の刀が突き刺さり、イッセーが地面へと落ちた。

 

「ぐあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

イッセーを掴んでいた腕の痛みに絶叫を上げた。

 

「熱くなりすぎなんだよ、ばーか」

 

地面に落ちたイッセーの横を全身から炎を発しているサクラが翼を羽ばたかせながら降りてくる。その右手は赤く染まっていて、熱が込められていた。

 

そしてサクラはライザーの前に瞬間移動し、赤い拳を顔面に叩き込む。

 

「ゴハァッ!!」

 

前へとぶっ飛ばされるライザー。重い一撃を喰らい、体がガクガク震えていた。

 

「な、何故だ・・・? 俺がそんな炎の刀如きに・・・」

 

「お前、自分が誰だって忘れてんのか?」

 

「はぁ? 何を訳の分からないことを、俺はフェニックス家の―――」

 

「違う。そうじゃないっての」

 

ライザーの苦痛の含んだ声に答えるとサクラが翼を羽ばたかせながら姿を消し、その瞬間にライザーの背中に熱いものが走った。

 

「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

炎がライザーの背中に当たり、ライザーが再び絶叫を上げる。彼は炎を手に纏わせながら振るうが、そのときにはサクラが瞬間移動をしているということすら気づかなかった。

 

彼がよろけた拍子にサクラは再び炎の剣を生成し前に瞬間移動し、突き刺すように突き出し頬に剣を掠めさせる。

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ただ掠っただけなのに、それでもライザーが激痛に叫ぶ。彼の精神を着実に削っていく。

 

のたうちまわるライザーだが、直後に体を震わせながら立ち上がり、サクラのことを睨む。

 

「おのれ・・・!!」

 

ライザーはサクラに向かって炎を放つが、サクラは左手で炎をあっさりと受け止める。すると炎がサクラの左手に吸収されていく。

 

それを見たライザーが唖然とする。

 

「バ、バカな・・・俺の炎を・・・」

 

「面倒臭いから言わなかったけど、オレも代々炎使いなんでね。っていうか、お前オレを莫迦にしてるわけ?」

 

左手でライザーの炎を潰すと右手で炎を球を生成し始める。サクラは無表情でそれを手のひらから放った。それはライザーの炎とは比べ物にならないほどの聖なる力を感じるもの。

 

「バカが! 炎を司るこのライザー・フェニックスに炎など――――」

 

ライザーは炎使い相手に炎を放つことを嘲笑していたが、それこそが慢心しているが故の甘い考え。全ての炎を操れると思ったら大間違いなのだ。

 

ライザーは炎を体で受け止めたが、その瞬間に彼の体が燃え始める。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

絶叫を上げるライザー。更にその炎が体中を焼き焦がしているかのような激痛が襲い、彼に更なる絶叫を上げさせている。

 

イッセーは訳が分からず、その場を見ていた。ライザーは炎を操る悪魔のはずなのに、何故シキの炎が通じているのか。

 

「さっきも言ったが、オレは鳳凰でお前は悪魔だ。悪魔が聖なる炎を食らったら、そうなるのも当然だろ」

 

「ああ、そういうことか・・・!」

 

鳳凰は東西を司る聖なる鳥・朱雀の血族で、彼と同じ聖なる力を使うことができる。ましてシキの放った炎は鳳凰の聖なる力が宿っているので、いくら炎を操る悪魔のライザーにとっては毒も同然なのである。

 

イッセーもサクラの言った言葉に納得したようだった。同時にその炎を理解した瞬間、余計に寒気がするのを感じた。

 

そんなイッセーに、サクラが声を掛けた。

 

「兵藤、アイツの体を消火してやれ」

 

「えっ? あっ、ああ!!」

 

イッセーは炎に苦しんでいるライザーに駆け出すと、籠手にしまいこんでいた小瓶を取り出す。それは上級悪魔には効果が無いと言われているアイテム。この場にいる悪魔が鼻で笑うくらいの代物だろう。

 

「な・・・何、故・・・俺が・・・炎、に・・・」

 

でも、今の俺は左腕に何を持っている? どのような力を宿している? それさえ分かればもう馬鹿にできない代物だった。

 

「こいつも食らいやがれ!!」

 

イッセーは小瓶の蓋を開けると中に入っている液体――――聖水をライザーの全身に振りかけた。

 

「ブーステッド・ギア・ギフト!!」

 

『Transfer!!』

 

倍増された力が籠手から流れ出し、ライザーに振りかけた聖水へと譲渡される。

 

「し、しまっ――――」

 

気付いたときにはもうすでに遅い。聖水が彼の顔や体中に降りかかる。

 

ジュワァァァァァァァァッ!

 

水が熱で蒸発しているような音が会場に響き渡る。

 

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

激痛にのたうちまわるライザー。聖水が彼の体を激しく焦がしていき、彼の体から煙が立ち上っていく。

 

「・・・死ぬのか?」

 

「いや、あんなんじゃ死なないな。いくら効果を高めていても、聖水ごときで悪魔は殺せないよ。でも、精神と肉体は激しくボロボロになるかもしれないけどな」

 

隣に立っていたシキがイッセーに説明する。そして、面白いものを見るかのような表情をしながらイッセーに声を掛ける。

 

「お前、本当に面白いヤツだな。十字架と聖水を使うためとはいえ、ドラゴンに体を売るなんて莫迦としか言いようがないな。正直言って、悪魔の風上にも置けない」

 

ムッとするイッセーだが、「でも」とまた会話を付けたし言葉を続ける。

 

「嫌いじゃないぜ、お前のそういうところ。むしろ退屈しない」

 

そう一言言うとイッセーが持っていた十字架を拾って突き出す。イッセーは遠回しな誉め言葉だと受け取り、そんな彼女にキリっとした笑みを向ける。

 

「さてと、名残惜しいけどそろそろ大詰めだな」

 

「ああ」

 

何が名残惜しいのかは分からないが、イッセーはサクラからドラゴンの左腕で十字架を受け取るとギュッと握り締め、更に懐にしまっていた2本目の聖水を取り出して拳に振りかけた。

 

「アーシアが言っていた。十字架と聖水は悪魔が苦手だって。それを同時に強化して使ったら相当なダメージだよな」

 

聖水の効果に苦しんでいるライザーがイッセーの次の一手を見て、表情を引き攣らせる。

 

「木場が言っていた。視野を広げて相手と周囲も見ろと」

 

体中に流れている魔力のオーラを一点に集中させ、更にそれをドラゴンの力に変化させて十字架と聖水に譲渡させる。

 

『Transfer!!』

 

「朱乃さんが言っていた。魔力は体全体を覆うオーラから流れるように集める。意識を集中させて魔力の波動を念じればいいと」

 

そして体勢を整えて、相手に打撃を繰り出すために拳を構える。

 

「小猫ちゃんが言っていた。打撃は体の中心線を狙って、的確かつ抉り込むように打てばいいと!」

 

イッセーの拳の標準がライザーに狙いを定める。

 

「そして最後にサクラが言っていた! 不屈の心と相手を思う強い気持ちを持てと!!」

 

イッセーが全部、オカルト研究部の部員全員と友人に教えてもらったことだ。覚えたことは全部役に立つさ。あとはそれを打ち込むだけ。

 

ライザーが慌てふためく。

 

「ま、待て! わ、分かっているのか!? この婚約は悪魔の未来のために必要で大事なものなんだぞ!? お前らのような何も知らない小僧たちがどうこうするようなことじゃないんだ!!」

 

「難しいことは分からねぇよ・・・でも、お前に負けて気絶した時、うっすらと覚えていたことがある」

 

悲しそうで今にも泣きだしてしまいそうなリアスの表情。それを頭の中に浮かべたイッセーは怒りの闘志を燃やす。

 

「泣いてたんだよッ! 部長が!! そしてさっきも泣いていたッ!! てめぇを殴る理由はそれだけで十分だッ!!!」

 

次にライザーの恐怖している姿を見て、不敵な笑みを浮かべたサクラが口を開く。

 

「御託はそれだけか? ハッ、そんなものオレにはどうだっていい。オレはこの体が戦えればそれで十分なんだよ。お前がやりたいように婚約でもなんでも好きにすればいいだろ。だけど――――」

 

サクラは途端に顔を無表情に戻して、左手で炎の剣を生成した後、低い声でこう言い放った。

 

「・・・オレの楽しみを奪うようなヤツは、オレの邪魔をするようなヤツは――――消えて無くなれ」

 

サクラが言い終わるとイッセーが一気に飛び出し、十字架と聖水付きの虹色に輝いた拳をライザーの腹に正確に抉り込んだ。

 

ドゴンッッ!!

 

「ガハッ!!」

 

血反吐を吐きながら、数歩だけ後ずさりするライザー。そのイッセーとライザーの間にシキが割って瞬間移動をして――――。

 

ザシュッッッ!!!!

 

「ゲハァッ!!!!」

 

炎の剣と魔剣を交差するように斬り払った。ライザーは更なる血反吐を吐き、声を上げられぬまま背後へと倒れたのであった。

 

サクラはすっきりしたかのように、左手の炎の剣を消し、魔剣を背中に収めると両手を頭上で組んで伸びをし始める。そして首を左右に倒してボキボキと鳴らす。

 

ここでイッセーが疑問に思っていることをサクラに訪ねる。

 

「なあ、サクラ」

 

「・・・何?」

 

「コイツ大丈夫か?」

 

「さあな。一応手加減はしてある。言っただろ、オレはアイツを報復でいたぶりたかっただけだし」

 

サクラは当然のように言うと、自分の羽をしまった。そしてリアス側の観客席のほうへと歩いていく。

 

(サクラって、本当にエグいな・・・)

 

イッセーは彼女の発言によって改めて、サクラに畏怖の念を抱いていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

サクラとイッセーがライザーと決闘をしていた同時刻。リリーとラウラは禍々しい気配を追っていた。

 

今、彼女たちがいるのは広いフェニックス邸の豪邸。その一つである他の建物よりも少しばかり小さく、それでもそれなりに大きな建物に来ようとしていた。

 

「確か、この建物から一番大きな気配がしたわよね」

 

リリーが不満そうに言う。あの後、禍々しい気配を追っていたのだが、気配があちらこちらに変わったりして追い詰めるのに苦労したのだ。あまりにもイライラして、その間にリリーはハリセンでラウラをしばきまくっていたとか。

 

リリーは建物の近くでラウラの上から地面へと降りるが、中に入ろうとしたときに異様な光景だということを理解する。気配をラウラに追跡させ、ついでに自分は建物を見渡してきたが、この建物は他と比べてどこか違う雰囲気がある。

 

それは――――明かりが点いていないということだ。

 

こんな大きな豪邸なのだ。フェニックス家に関わる悪魔たちは何百人も住んでいるだろう。だったらこの建物にも悪魔がいてもおかしくはない。でも、明かりが点いていないのはどう考えても腑に落ちない。

 

建物の内部の都合上、明かりが消されているのか、それとも何かあったのか。どちらかは定かではないが、とにかく怪しさが募る。

 

「ラウラ、気配はしてるの?」

 

「クンクンクン、クンクンクン・・・・・・!!」

 

リリーに言われてラウラは臭いを嗅ぎはじめる。するとこの建物に向かって鼻を向けた瞬間に、ラウラは顔を顰めた。

 

「・・・どうなの?」

 

「・・・・・・血の臭いがするですぅ」

 

「なんですって?」

 

「悪夢のような気配は確かにここからしてるですぅ。でも、同時に血の臭いもするのですよぅ」

 

やっぱりこの建物は、何かあったんだろう。邪魔されないためにはここで確かめる必要がある。もし敵だったらそのときは決まってる。

 

「ラウラ、中に入るよ」

 

「・・・分かったですぅ」

 

リリーとラウラは正面の扉から建物の中に入っていく。するとリリーは顔を顰め、ラウラも唖然としたような顔になる。

 

「な、何ですぅ、これは・・・!?」

 

「っ・・・!」

 

2人がこんな顔をしたがるのも無理はない。廊下は甲冑と絵が飾ってあることに特におかしなことはない。その場に似つかわしくないある部分があったからだ。

 

――――床や壁、甲冑や絵の一部に血が付着している。

 

血は赤い色だから悪魔の血であることは明らかだ。純血の妖魔だったら青い血を流しているはず。これは悪魔の誰かが誰かにやられた、もしくは怪我を負わされたとか。しかし、肝心の遺体が見当たらない。考えられるなら妖魔に食われてしまったのではないだろうか。

 

2人は警戒しながらも、廊下を歩いていく。すると一つの部屋の扉が少し開いているのを発見する。

 

パーン、パパパァーン

 

「?・・・・トランペット?」

 

何でそんな聞こえるの? 悪魔の気配しないはずなのに・・・。

 

タンタタタンタンタン

 

「?・・・これは、ドラムの音ですぅ・・・?」

 

ギギギギギー

 

「バイオリンの音・・・・・・」

 

何故か楽器の音が聞こえてくる。しかも、発見した部屋の中から。その音色は何だか聞こえるには上手な気がするが、リリーとラウラには不快な音でしかなかった。

 

そもそも、廊下がこんな惨状の中で楽器を弾いているヤツがいるなんて、神経がおかしいのにもほどがある。

 

リリーとラウラは扉に忍び足に近い足取りで歩み寄り、扉の中を覗いてみる。しかし、中は電気が点いていない上に誰もいなかった。

 

「誰もいないですぅ。確かに音はここからしたのに・・・」

 

「ここは、音楽室ね・・・」

 

部屋の中はどうやら音楽室。ピアノやハープが置かれていて、壁には肖像画や高そうな絵などが飾ってある。しかし、それは赤い血で濡れていて妙な状況だった。

 

「でも、禍々しい気配はここからするですぅ」

 

「・・・・・・」

 

妖魔の仕業には違いないと2人は部屋の中に入り、警戒しつつも辺りを見渡してみる。壁もよく見れば所々陥没している部分があり、高級そうな椅子も無惨に壊されていた。

 

音もさっきもラウラが言った通り聞こえたし、いないなんてことは絶対にないはずだ。どこかに隠れているに決まっている。

 

壁の肖像画を見ているラウラ。そんなラウラをリリーが咎める。

 

「ラウラ、何やってんのよ。真面目に探せっての」

 

「このモジャモジャ頭で赤いスカーフを首に巻いている男は誰ですぅ?」

 

「有名な音楽家でしょ?・・・ってそんなことはどうでもいいのよ!」

 

リリーはラウラの頭をハリセンでド突く。

 

「ブヘッ!? リリー様、酷いですぅ・・・」

 

「酷いのはアンタのそうやってすぐふざけるとこと探査能力よ」

 

漫才のような会話を繰り広げている中・・・・・・。

 

パパパパァ~。

 

ギギギギィィィィィー。

 

「「!!?」」

 

トランペットとバイオリンの音が聞こえた。2人は警戒を更に強めて周囲を見渡す。

 

「・・・・・・!!」

 

するとリリーが突然、入り口近くを振り返った。

 

「リリー様?・・・ですぅ!?」

 

ラウラも一緒になってリリーと同じ方向を向くと驚愕した表情を見せる。

 

見たものは地面から闇が溢れだし、そこから巨大な何かが現れた。それは騎兵隊のような格好をしていて、どちらかと言えば人間のような姿をしている。しかし、両手は従来の妖魔のように鋭く尖っていた。

 

片膝を地面に付け服従のような姿勢を取っていたそれは立ち上がるとリリーとラウラのほうを見る。騎兵隊のような格好なので帽子に違和感はないが、顔は妖魔のように茶色く醜かった。

 

要するに人間のような顔をしていないということだ。

 

「妖魔・・・!!」

 

「アイツから血の臭いがするですぅ・・・!」

 

妖魔だと分かり、槍を構えるリリーとその背後に隠れるラウラ。一方の妖魔は手を振り上げて構えの姿勢を取る。右手には稲妻のような形をしたタクトを持っている。

 

妖魔が両手を振り下げて広げると周囲にドラム、トランペット、バイオリンが姿を現した。

 

「あの楽器じゃないですぅ?」

 

「言われなくても分かってるっての」

 

そして妖魔は指揮者のようにタクトと左腕を振ると周囲に浮いているトランペットとバイオリンが2人に近づく。

 

パッパッパッパァ~~。

 

「!!」

 

「リリー様、危ないですぅ!! ああぁぁぁぁ!!」

 

トランペットから音と共に音波が発せられ、リリーに襲い掛かる。ラウラはリリーを突き飛ばして音波から回避させるも、自分が音波の直撃を喰らってしまった。

 

ラウラは壁にぶち当たり、そのまま床へと落ちた。

 

「ラウラ!!」

 

リリーはラウラのほうに駆け寄ろうとするが、そこにバイオリンが音をかき鳴らし怪音波を発する。

 

ギギン、ギギィィィィー。

 

「!! くっ・・・!」

 

バイオリンの怪音波がリリーの前すれすれで通り過ぎ、ピアノに当たった。リリーは何かを察したのか飛び退くと、ピアノが爆発を起こした。

 

妖魔の操る楽器たちが邪魔でラウラに近寄ることができない。本体を叩けば楽器たちも消えると思うが、どうせ楽器たちに邪魔をされるに決まっている。

 

何か打開策を考えようとしたとき・・・・・・。

 

「・・・何の騒ぎだ?」

 

「!!??」

 

背後から声が聞こえ、思わずその場から飛び退いて背後を見るリリー。そこにいたのは緑髪の左側を結わえている女だった。

 

「ったく人が出撃前に昼寝をしてたってのに、バンバンドカドカうるせえ音を立てやがって・・・!!」

 

リリーは彼女の姿を捕らえるとすぐさま睨みつける。女も頭をポリポリと搔きながら苛立ったような口調だったが、リリーの姿を見ると不敵な笑みを浮かべた。

 

「アンタは・・・!!」

 

「へぇー。お前、あの着物女と一緒にいやがった金髪のマセ尼だろ? こんなところで会うなんて奇遇じゃねえか。ああ?」

 

リリーは槍を構えて戦闘態勢に入る。

 

「誰がマセ尼よ!! どうしてアンタみたいな中国かぶれがここにいんのよ・・・?」

 

「アタシはベールさんに準備ができるまでここにいろと言われただけだよ。アリスが用意したこの妖魔と一緒にな」

 

女は面倒臭そうな顔しながら、頭をポリポリと搔く。

 

「本当はこんなたりぃ仕事受けたくないんだけどな。ベールさんの命令と来ちゃ仕方ねえモンな」

 

「あっそ。だったらとっととここから消えてくれる? アタシにこれ以上仕事を増やすような真似はしてほしくないのよ」

 

リリーのその言葉を聞くとくノ一の女は頭を搔くのをやめて、大刀を取り出してクルクルと片手で回す。

 

「まあ、そんなつれないことを言うなよ。待ってばかりで退屈してたんだ。少しはアタシと楽しいことをやろうじゃないか。マセ尼」

 

両手で柄の真ん中部分を持ち、ニヒルな笑顔で戦闘態勢に入る。

 

「だからマセ尼って言うなっての、中国かぶれがッ!!」

 

煽るようなからかい言葉にリリーは憤慨して槍を持ちながら、女へと突っ込む。女は怯むことなく、リリーの槍を受け止め押し合う。

 

「こんな程度で頭に血を上らせてるようじゃ、冷静な判断なんかできやしないぜ」

 

「うっさいわね!! 余計なお世話よ!!」

 

「世話はしてないんだけど、なッ!!」

 

女に押し飛ばされるも、リリーは倒れないように踏ん張って堪える。

 

「それにアタシにはリリアンヌっていう愛しのお母様から付けられた名前があんのよ!!」

 

「だったらアタシにもリーシャっていうベールさんがくれた名前があるんだけどな。それよりも、アタシばっかりよそ見してていいのかい?」

 

「はぁ? 何言って――きゃあぁぁ!!」

 

一瞬、女――リーシャの言うことが分からなかったリリーだが、考える間もなく足元で爆発が起き、吹っ飛ばされた。

 

この女にばかり構っていたからすっかり忘れていた。先程の騎兵隊の格好をした妖魔がいることに。バイオリンをかき鳴らしてリリーの足元を爆発させたのだ。

 

そこへリーシャが飛び上がって大刀を振り上げる。

 

「もらったぁ!!」

 

リリーはカスミに気付くと転がって大刀を避け、体を起こすと耳に付いているイヤリングに触れる。

 

『Freeze!』

 

「はあぁぁぁ!!」

 

電子音が聞こえたかと思うと、リリーはそのまま槍の刃を地面に突き刺した。するとリリーの周囲の地面が凍りついていく。

 

「うぉっと!? マジかよ!!」

 

リーシャは危険を察してそのままその場から飛び退き、騎兵隊の妖魔の肩の上に乗った。そして妖魔はそのまま浮いている楽器と共に飛び上がり、音楽室の天井を突き破った。

 

半径10メートルを凍らせた後、リリーは槍を引き抜くと妖魔の突き破った天井から上を見る。二階まで突き破っていて、見るも無惨な状態だ。

 

その穴の開いた天井からリーシャが妖魔の上から見下げている。

 

「悪いけどアタシらはアンタと遊んでる暇は無いんだわ。じゃあな」

 

「ちょっと待ちなさいよ!!」

 

リリーの怒りの声を嘲笑うかのように、リーシャは妖魔と共に飛び去って行った。穴の開いた天井を憎々しげに見つめるリリー。

 

これでは跡を追いかけられないと考え、未だに気絶しているラウラに駆け寄る。

 

「ラウラ、いつまで寝てんの!? アイツらを追うわよ!」

 

「・・・ん~、ダックワーズもう食べられないですぅ~・・・」

 

ラウラは先程のダメージを負ったとは思えないほどにぐっすりと寝ていた。しかも、ムカつくことに良い夢を見てやがる。

 

リリーの顔に青筋が立つと彼女はハリセンを取り出して・・・・・・。

 

スパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!!!

 

「何がもう食べられないだ、このボケがッ!! 起きろつってんだよッ!!!」

 

「ブヘッ、フヘッ、プへッ、ブヘッ、フヘッ、プヘッ!!」

 

ラウラに高速でハリセンを何発も喰らわす。まるでそれは往復ビンタをしているかのようだ。

 

ラウラがようやく目を覚ます・・・というよりも、リリーが鬱憤を思う存分晴らしたところで。

 

「ほら、さっさと追うわよ!」

 

「もう、リリー様は人使いが荒いですぅ・・・」

 

ハリセンで散々叩かれて、頬をおたふく風邪のように膨れ上がらせたラウラが非難の声を上げる。それを聞いたリリーがラウラを睨みつける。

 

「あぁ? 何か言ったぁ・・・?」

 

「い、いえ、何でもないですぅ」

 

リリーはラウラの背中に乗って、天井の穴から飛び上がる。

 

建物を出た2人はリーシャと妖魔を探すと、2人は案外あっさりと見つかった。先程リリーたちが侵入しようとした建物へと向かっているようだ。

 

「リリー様、あの方向は婚約パーティーの会場がある場所ですぅ!」

 

「分かってるわよ。さっきも見たんだから。追うわよ!!」

 

「ですぅ!!」

 

リリーとラウラは跡を追いかける。大分距離を引き離されてしまったようだが、今でも飛んでいけば追いつける。

 

しかし、そんな彼女たちの進行を塞ぐように蝶のような羽を持つ飛行型の妖魔が4体も立ち塞がる。

 

「ちっ・・・!」

 

「べ、別の妖魔ですぅ!?」

 

「慌てるんじゃないわよ。アタシが全部倒すからアンタは飛び回りなさい」

 

槍を構えながら立ち上がるリリーの言葉に驚くラウラ。今までは別々で妖魔に対抗していたのに、今回は乗りながら戦うなんて・・・。

 

・・・・・・・・・。

 

しかし、ラウラは覚悟を決めたように真面目な顔になる。

 

「こうなったらやぶれかぶれですぅ!! うりゃあぁぁぁーっ!!」

 

ラウラは高速で妖魔の一体に突っ込んでいく。

 

『Freeze!』

 

リリーは槍の矛先を向けるとラウラと妖魔の距離が短くなったところで槍を体に突き刺す。妖魔は全身まで凍り漬けになった後、バラバラに砕け散った。

 

「このまま手柄を横取りされてたまるかってのよ」

 

リリーはラウラの背中の上でそうつぶやき、二人は残りの妖魔へと向かっていく。

 

これは、悪夢の始まりである――――。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。