極悪な奴ら/THE EVIL HERO   作:早乙女

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第31話「闇の女王、現る」

ライザーを打ち倒した後、サクラはリアスの前に立っていた。それはもう不機嫌そうな顔で。

 

「サ、サクラ・・・?」

 

リアスはサクラが突然目の前に現れたことに驚いたような顔をしていたが、それと同時にサクラに申し訳ないような感情を抱いていた。

 

しかし、そんなことを考える間もなく急にリアスの体が宙に浮いた。

 

「きゃっ。ちょっ、サクラ・・・?」

 

いつの間にかサクラに肩に担がれたリアスが声を上げる。サクラはそんなことを気にする間もなく、イッセーの前に瞬間移動をする。

 

「サクラ? おわっ!?」

 

担いでいたリアスをイッセーに渡すとシキはイッセーに背を向けた。

 

「早く行け。お前らがいるとイライラする」

 

イッセーは驚いたような顔をしていたが、すぐに笑顔になった。

 

「ああ!」

 

返事をするとイッセーはリアスと同じ紅髪をしたダンディな男―――リアスの父親に歩み寄り、深く頭を下げてこう言い放った。

 

「部長を、俺の主であるリアス・グレモリーを返してもらいます。勝手な振る舞いをして申し訳ありませんでした。でも、部長は連れて帰ります」

 

リアスの父は静かに俯いたまま、何も言わなかった。少なくとも黙認はしているということであろう。

 

イッセーはサクラから受け取った魔方陣の紙を取り出すと裏側に向ける。眩い光の中で現れたのは鷹ともライオンとも似つかない翼を持つ生物――――グリフォンだった。

 

グリフォンの背に乗り、その前に手を取ってリアスを乗せる。

 

「部室で待ってるからな!」

 

イッセーはリアスと共にグリフォンに乗って冥界の空を飛び、会場を去っていった。

 

サクラは無言・無表情でイッセーたちが飛び去っていくのを見守っている。その姿が完全に見えなくなると静かに目を瞑り、その場を立ち去ろうとする。

 

「サクラさん」

 

背後から木場が声を掛けるとサクラは足を止める。そこへ朱乃と小猫も寄ってくる。

 

「・・・何」

 

「行かなくてよかったのかい?」

 

サクラはしばらく沈黙していたが、ふと口を開く。

 

「・・・別に。アイツらの動向なんかオレの知ったことじゃない。言っただろ。結婚でも何でも好きにすればいいって」

 

「サクラさんは何だかんだいって優しいですわよね」

 

朱乃の言葉を聞いて、サクラのイライラが増した。勘違いにも程がある。何を知ったようなことを。

 

「優しい? どこが?」

 

「・・・何かと理由を付けても結果的に部長さんを助けることになった。それは優しいことだと思います」

 

小猫がサクラの疑問に答えた。どんな態度・考えでも結局は来てくれたし、リアスを助けたことにはなったのだから。

 

しかし、サクラの頭はモヤモヤしていた。私が優しい? 小猫の言った通り、私は優しい人物なのか? ライザーをあんなにボコボコにしておいてもか?

 

・・・分からない。やっぱり私には分からないな。優しさの定義というものが。でも、私にはそんなものはいらない気がする。

 

「・・・言っておくが、オレはまだアイツを許してないからな。あくまでもあの焼き鳥男をボコボコにするために来たんだ」

 

サクラは面倒臭いと思い、もう考えるのをやめた。考えれば考えるほど、イライラしてくるものだから。とりあえず、今ある答えを返しておいた。

 

ドォォォォォォォォォォンッ!!!

 

背後から爆発音のようなものが響いてくる。

 

「ふざけるな・・・ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

サクラと木場たちが背後を振り返ってみると、その音の発生源は先程の決闘に敗れたライザーからだった。彼の周囲には衛兵らしき悪魔たちが倒れていて、下僕悪魔たちも必死で止めようとしている。

 

「何処に行ったぁッ! 赤龍帝のクソガキィィィィィィィッ!!!」

 

完全に荒れていた。全員も見れば分かるが、イッセーに敗れた怒りであることが明らかだ。それを証明するかのようにイッセーやサクラに傷を付けられた跡がある。明らかに戦えるような状態ではないのに精神力で立っているのか、それとも体から湧き上がる馬鹿の力なのか。

 

「ふーん? アイツ、まだ戦えたのか。じゃあ、あれは死んだふりか?」

 

「多分違うと思うよ。それよりも何だかヤバそうな雰囲気になってるね」

 

「完全に怒りで我を忘れていますわ」

 

「・・・ヒステリーです」

 

「精神的に追い詰められたせいか、冷静な判断ができなくなっているな」

 

祐斗、朱乃、小猫はライザーを抑えるために戦闘態勢に入る。サクラは腕を組んだまま、欠伸をしていた。

 

「何で俺が! 何で不死身の俺が! あんな下級悪魔のクソガキに負けなきゃならねぇんだぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ライザーは完全に暴れながらイッセーへの怒りを露わにしている。

 

「・・・うるさいな。頭に響くんだよ、アイツの汚い声は」

 

サクラはいつものように淡々と言うだけだった。何を感じるわけでもなく、何を動じるわけでもなく。

 

ライザーの眷属たちが落ち着かせようとするのだが、彼女たちに今のライザーが止められるわけがなかった。

 

「邪魔だぁっ!どけェェェェ!!!」

 

「きゃあっ!」

 

ライザーは自分の下僕たちを炎で吹き飛ばした。どうやら傍から見れば、やっていことと悪いことの区別も付いていないようだ。

 

グレモリーの眷属3人はその暴挙に怒りの顔を見せていたが、サクラは怒りを露わにするわけもなく、ライザーに単に笑みを浮かべるだけだ。

 

「聖水のせいでとうとう頭がおかしくなったか。ハッハハハハハ!! 下衆悪魔なら下衆悪魔で、上級悪魔も上級悪魔だな!」

 

「五月蠅いッ! 黙れッ! もう少しで、もう少しでリアスは俺のモノになったのにィィィィィィッ!!!」

 

「お前には燕の巣のほうがお似合いだろ。落ちぶれた鳥には寒空の下で暮らすほうが快適だしな。ああ、ベースが焼き鳥だから問題ないか」

 

「人間如きが俺をコケにする気かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

ライザーが巨大な炎を手のひらか放つ。それを見てサクラは背負っている魔剣を手に取って構える。

 

「オレを殺ろうってのか? 面白い。やってみれば?」

 

サクラが炎で作り出した剣を構えて二刀流になろうとした、その刹那・・・。

 

ドッ! ジュバッ!

 

黒色の一筋の魔力が炎を貫き、かき消した。

 

「品の無い声が響いてくると思ったらここだったのね」

 

その場にいた全員が空を見上げると赤い満月をバックに、二つの影が宙を飛んでいた。

 

一人は漆黒のタイトなドレスを着ていて、短めの黒のマントを羽織り、赤いリボンがポイントの綺麗なウェーブのかかった銀色のショートヘアをした少女。胸元の銀色の珠のペンダントトップが光り、金色の瞳は怪しく光っている。

 

もう一人は藍色の真っ直ぐに伸びた長い髪を持ち、黒衣を着ている。紫色の瞳が怪しく光り、椅子に座りながら重そうな本を読んでいる。

 

「あれがフェニックスの才児、ライザー・フェニックスってわけ? 随分と汚らしい性格をしているわね。リオン、ガセネタなんじゃないの?」

 

「いいえ。確かに才児とは・・・書いてあります。しかし、私は・・・認めたくはありませんね」

 

「アッハッハッハッハ!! そうね。こんなヤツが才児だなんて、長男と次男は可哀そうよねぇ」

 

「フフフフ・・・」

 

2人はライザーを興味なさそうに見ていると、その無様な姿に嘲笑し始める。当然ライザーが怒りを露わにしないわけがない。

 

「何だ貴様らはァァァァァァッ! 屑のくせに、俺の邪魔をするのかァァァァァァァッ!!!」

 

「うるさいわね。騒音を立てないでくれるかしら? 全く、冥界の悪魔ってのは何でこうも血の気の多い奴らが多いのかしらね」

 

「っ・・・ベール・・・!」

 

サクラは2人の姿を見て魔剣を構える。自分の名前を呼ばれた少女は振り返ると、その姿を見て不敵な笑みを浮かべる。

 

「あら久しぶりね、マナ。もう2年も会ってなかったかしら?」

 

「その名前でオレを呼ぶな!」

 

「そう怒らなくたっていいじゃない。だって本当の名前でしょ? アンタのもう一つの人格の――」

 

「黙れッ!」

 

サクラが怒鳴るも、ベールは全く動じることなくやれやれといったような感じで首を振りながら言い返す。

 

言葉を遮り憤る姿を見てフッと笑うと、次に木場と小猫と朱乃のほうを見る。3人はベールとリオンに警戒をしていた。

 

「この前はアタシのシフォンが世話になったわね。『魔剣創造(ソード・バース)』の『騎士(ナイト)』木場祐斗、猫又の『戦車(ルーク)』塔城小猫、少し訳ありな『女王(クイーン)』姫島朱乃」

 

「「・・・!!」」

 

「!! 何で私の正体を・・・!?」

 

3人とも驚いた顔をしていたが、祐斗は自分の素性よりも気になることがあった。

 

「まさか、キミがあのシスターが言っていたベール・・・!」

 

「そう。アタシはベール。見紛うことなきファントムよ。よろしくね」

 

「・・・ちなみに、私はリオン。ファントムです」

 

笑みを向けられた直後、3人は重圧に襲われた。祐斗の向けている剣はカタカタと震えており、冷静な小猫も一筋の汗が流れていた。朱乃も平静さを装いつつも、心の底から恐怖が湧き上がる感じがした。

 

ファントム――――人型しか存在しない奇怪な生物の総称。多くは人間の絶望から誕生するが、混じり気のない純血のものがいると言われている魔族。

 

そう名乗る2人の少女に祐斗たち3人は戦慄も覚えていた。しかも、この前の古ぼけた教会で何かを仕掛けていたのだ。

 

ベールはサクラたちとライザーの間に入るように地面に降り立つ。

 

「ベール、何故お前がここにいる・・・?」

 

「そうね。リアス・グレモリーとライザー・フェニックスが婚約パーティーを開くと聞いたの。リアスが出るということは普通に考えてグレモリー眷属のアーシア・アルジェントも付き添いで現れるでしょう? その子に会いに行こうかと思ったのよ」

 

一呼吸おいて、ベールが更に言葉を続ける。

 

「でも、アーシアはいないみたいね。・・・まあいいわ。アタシの興味のあるアンタらの仲間はみんなここを去ってしまったみたいだし、また近いうちにご挨拶に向かうわ」

 

「アーシアはお前なんかに渡すものか」

 

「あら。あの子の私物気取りでいるわけ? 別にアンタの物になったわけでもないのに」

 

シキは魔剣を構える姿勢を崩さず、ベールを睨みつける。アーシアは組織で監視中の身だ。奪われたら上の老害共がまたうるさい。面倒臭いけど、奪われるわけにはいかないのだ。

 

「アーシアさんは僕たちの仲間だ。キミに渡すわけにはいかない」

 

「もしもアーシアちゃんに何かをしようとしているなら、許しませんわよ」

 

「・・・先輩に触らないで」

 

3人も警戒を強める。本当は恐怖を抱いているが、ここで負けたら誰が大切な仲間を守ると言うのか。

 

「あらあら、威勢のいい子供たちね。アタシたちにビビらないなんて。気に入ったわ」

 

ベールはいい玩具を見つけたような笑みを浮かべる。

 

サクラは何とも無かったが、グレモリー眷属の3人は正直恐怖を感じていた。

 

「さっきから何を喋っているッ!? そこを退け! 退かないと貴様らも焼き殺すぞォォォォォォォォッ!!」

 

ライザーはいまだに激怒していた。その声を背後から耳に入ったベールが一転して、不愉快な表情を浮かべる。

 

「せっかくの『妹』の再会と眷属の邂逅を邪魔しようとするなんて、とんだ下衆悪魔ね。クソガキ以下にも程があるわ。いいお灸据えにアタシが少しだけ遊んであげる」

 

ライザーのほうを振り向いて、手のひらをかざすと黒色の野球ボールと同じぐらいの魔力の球体を作り出して放とうとするが、その行為を右手が遮った。

 

「・・・リオン、何のつもり?」

 

「このような男はベールさんが手を下すまでもありません。ここは私に殺らせてください」

 

椅子から立ち上がったリオンが本を抱えながらベールの前に立っている。その言葉を聞いて邪魔をされて不快な顔をしていたベールが不敵な笑みを浮かべて考えるとリオンに向かって口を開いた。

 

「そうね。リオンに勝てないんじゃ、アタシにも勝てないわよねぇ、アッハハハハ! いいわ。あなたに譲ってあげる。でも、その代わり――」

 

ブンッ

 

ベールの姿が一瞬少しぶれるとライザーの眷属、特に金髪縦ツインロールの妹・レイヴェルは何かに触れられたような違和感を感じた。

 

それに気付く前にベールは左手に黒い籠手のようなものを出現させ、中指を立てて自分の方向へ動かす。

 

「あれは・・・!?」

 

「・・・先輩と同じ、籠手?」

 

「えっ、ちょっ、きゃあっ!」

 

眷属の3人が驚く間にレイヴェルの体が引っ張られ、ベールの方へと飛び込んでいく。ベールはレイヴェルがある程度で近づいてきたところで右手を伸ばし――

 

ガシッ

 

「うぐっ!?」

 

――――彼女の首を掴んだ。

 

「レイヴェル!!」

 

「この下衆悪魔の妹はこっちで預からせてもらうわよ」

 

グググググ・・・・・・

 

「がはっ!?・・・う・・・くっ・・・」

 

ベールはクスクスと笑いながら、レイヴェルの首を絞め上げる。しかも足は地面に付いていないために、レイヴェルの足はバタバタともがくように揺れていた。

 

「レイヴェルゥゥゥゥゥ!! 貴様ァァァァァァァッ!! 俺の妹に手を出すとは許さんッ!!」

 

「あらぁ、アンタが怒り任せに吹き飛ばそうとした女の一人じゃない。今更、兄貴面するなんておこがましいとは思わないのかしら?」

 

「黙れェェェェ!! レイヴェルを離せェェェェェェェェェ!!!」

 

「アッハッハッハ!! 助けたかったら、アンタ一人でアタシから取り戻して見せなさいよ。まあ、この女は不死身だから死なないでしょうけど、この子の精神が持つまでの話かしら」

 

「あ・・・くぅ・・・」

 

怒り狂うライザーを自身が絞め上げているレイヴェルの顔に頬ずりをしながら嘲笑するベール。彼女はライザーとリオンをドーム状の結界で包む。誰にも手出しをさせないようにするための手段でライザー眷属は結界に弾き出された。

 

リオンは右手に持っていた本を自分の前に浮かせるとパラパラとページがめくられ、とあるページで止まるとリオンの手に納まった。

 

一方の祐斗は魔剣の切っ先をベールのほうに向けていた。

 

「ベール・・・キミは挨拶に来ただけじゃなかったのか・・・?」

 

祐斗たちもレイヴェルを実質人質に取ったベールに怒りの顔を向けている。ここで挑発をされれば飛びかかってしまいそうな勢いだ。

 

「そうよ。確かにそう言ったわね。でも、売られた喧嘩を買わないなんてバカのやることよ」

 

「なっ!」

 

「アタシはこの下衆悪魔がうるさいから黙らせようとしているだけよ。いくらコイツでも妹のことは大事に思っているだろうし、少し手荒なことをすれば黙ってくれるだろうと思ってたんだけど、ここまで怒りが湧き上がっているとは予想外だったわ」

 

ググググ・・・・・・。

 

「ぐぅ・・・ぅぅ・・・」

 

ベールは変わらない不敵な笑みを浮かべながら、レイヴェルの首を一瞬だけ強く絞めた。その顔は苦しさのせいで歪んでいる。

 

その様子に朱乃も小猫も黙ってはいられなくなった。

 

「レイヴェルちゃんを離しなさい。その子は関係ないはずです」

 

「・・・・・・」

 

こんな怒りの言葉にもベールはクスクスと笑っているだけだ。朱乃と小猫も戦闘態勢に入る。

 

その刹那・・・・・・。

 

ドォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

突然、爆発音が響き渡った。思わず背後を振り返る祐斗たちとサクラ。その音源は、パーティー会場のほうからだった。

 

「あっちも始まったわね」

 

「どういうこと・・・?」

 

ベールの意味深な言葉に、祐斗が思わず聞き返す。

 

「言いそびれたけどアタシにはもう一つ目的があるの。それはね・・・・・・魔王を殺すことよ」

 

『!!??』

 

ベールの後半は感情の籠らない声で言い放った言葉にサクラを除くその場の全員が驚愕を露わにする。

 

「魔王がこのパーティーに参加しているとアタシの下僕から連絡があってね。ちょうどいいから挨拶してやろうかと思って、パーティー会場に妖魔をけしかけたのよ」

 

ベールは笑みを浮かべながら言う。会場に魔王様がいることは断定できないが、中にはまだ他の上級悪魔たちがいるはず。妖魔の習性から早く助けに行かないと会場が血祭に上げられてしまう・・・。

 

ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!

 

また、響く爆発音。ベールはクスクスと笑いを零す。

 

「あーあ。今の爆発音で何人の悪魔が地獄に行ったんでしょうねぇ? アッハハハハ!!」

 

ベールの外道ぶりに歯軋りをする祐斗。そんな彼女はレイヴェルを絞め上げながら高笑いをするだけだ。

 

サクラが祐斗の前に立つと魔剣を構える。

 

「サクラさん・・・?」

 

「お前らは会場に行け。コイツはオレが相手をする」

 

サクラは3人を会場へと行くように顎をしゃくる。この女は3人が束になっても勝てないことが目に見えている。コイツらがいたところで私の足手まといになるだけだ。邪魔になるくらいならいっそのこと妖魔を相手にさせたほうが自分にとっては都合がいい。

 

「でも、サクラさん一人では―――」

 

「早く行け!・・・会場を地獄絵図にしたいのか?」

 

もっともらしいことを言いながらサクラが怒鳴る。お前らは邪魔だ、さっさと行け。

 

祐斗たちは躊躇したが、レイヴェルはサクラに任せておけばいいと考え覚悟を決めた。それに3人ともサクラの強さは目の当たりにしているのだ。

 

「・・・分かったよ。ここは任せる」

 

「気を付けてくださいね、サクラさん」

 

「・・・行きます」

 

3人は屋敷の中に入ろうとするが、ベールがフフフと笑いながら掴んでいないほうの手で指をパチンと鳴らす。するとスズメバチを模したような大きな妖魔が3体現れ、3人の前に立ち塞がる。

 

「妖魔!?」

 

「どこに行くつもりなの? 慌てなくたっていいじゃない。アタシと遊びましょう?」

 

どうやら3人を行かせないつもりらしい。早く行かないと事態は悪化するばかりなのに・・・。

 

祐斗たちは戦闘態勢に入る。どちらにしろ倒さなければ進めないのなら倒すしかない。

 

それを見たサクラが舌打ちをするとその場から瞬間移動をして、右端にいる妖魔を足で蹴り飛ばす。ぶっ飛ばされた妖魔に巻き込まれ他の2体もまとめて吹き飛んだ。

 

「サクラさん!」

 

「早く行け!!」

 

「・・・すみません。サクラ先輩」

 

3人は頷くと会場の中へと駆け込んでいった。消えていった辺りからベールがサクラに声を掛ける。

 

「アンタ、いつから他人を助けるような慈善行為をするようになったワケ? 他人に興味の無いアンタが」

 

「勘違いするな。オレはアイツらが邪魔だから追っ払っただけだ」

 

サクラは立ち上がろうとする妖魔たちを前に魔剣を構える。ベールはその行動に不愉快そうにしていたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。

 

「素直じゃないところも誰かさんにそっくりね。まあいいわ。あの子たちが会場に行ったところで状況は変わらないし」

 

ベールはフフンと笑いながら言う。あの3人が行ったところでどうにかできるものでもない。そう余裕を崩さない発言だった。

 

ベールは更に指を鳴らすともう7体のスズメバチ型の妖魔が現れ、合計で10体になった。

 

「このぐらいいれば足りるでしょ? アンタの邪魔立てをする妖魔は」

 

吹き飛ばされた3体の妖魔たちは不気味な羽音を立てて復活するとそのうちの一体が襲い掛かった。サクラは飛び上がって回避すると残りの2体の妖魔が腹の先の部分を彼女に向けて小さな針を飛ばし始めた。

 

サクラは特に動揺することもなく、魔剣を回転させて針を弾き飛ばすと飛ばしたうちの一体に目掛けて魔剣を振り下ろした。真っ二つに裂けた妖魔は血を噴いて絶命した。そこへ更に2体の妖魔が突撃していく。

 

ライザーの眷属たちはベールに向けて戦闘態勢に入る。

 

「レイヴェル様を離せッ!!」

 

「貴様の行為は騎士道に反するぞ!!」

 

「お姉ちゃんを離してッ!」

 

しかしそんな彼女たちを見てもベールはクスクスと笑い、平然としたままだ。

 

「威勢がいい敵共もいいけど、少しは自分たちの立場をわきまえさせる必要があるわね」

 

「何ですって!?」

 

ベールは掴んでいないほうの手で籠手を展開すると人差し指の切っ先をレイヴェルの右胸に突き刺した。

 

「がぁっ!? あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!」

 

レイヴェルが苦痛の声を上げるが、後に濁った絶叫に変わった。ベールが右胸に刺した人差し指をグリグリと穿るように動かし始めたのだ。

 

それを見たライザー眷属たちは顔を動揺の色に変える。

 

「やめろッ!! レイヴェル様に手を出すなッ!!」

 

「やめてほしければ、大人しく武器を捨ててアンタの主がボロ雑巾になるのを見届けることね」

 

「っ・・・」

 

ベールは許せないが、下手に手を出して主の妹を傷つけさせるわけにはいかない。

 

ライザーの眷属たちは戦闘態勢を解き、武器を持っているものは地面へと捨てた。顔には悔しさが隠せない。

 

それを見たベールはフフンと鼻で笑うとレイヴェルに刺していた人差し指を抜いた。そして半半ば気絶しそうになったレイヴェルの鳩尾を蹴って覚醒させ、首を絞め上げて意識を覚醒させる。

 

「がはっ・・・! がぁ・・・あ・・・」

 

「レイヴェルゥゥゥゥ!! クソッ、どけクソ女ァァァァァァァァッ!! 俺は貴様ごときを相手にしている暇はねぇんだよォォォォォォ!!」

 

「・・・・・・耳が痛みます、フフフフ。もっと怒ってください」

 

結界の中でレイヴェルを見ていたライザーが怒りに吠える。リオンが手にしている本が光りはじめる。

 

「『龍雷(ドラゴン・サンダー)』」

 

リオンの手から5体の龍状の雷が放たれる。朱乃が放った雷よりも強力な魔力を持つものをだ。

 

「ふんッ! そんなもの、俺の炎で!!」

 

ライザーは炎で応戦するが、龍状の雷に噛み消され、そのまま直撃して感電した。

 

「何ッ!? ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ライザーは地面へと吹っ飛ばされた。そんなリオンはライザーに追い打ちを掛けるべく歩いて近づいていく。

 

ライザーは巨大な炎の塊を放つも、リオンは本を宙に浮かせるとパラパラとめくられていき、とあるページをライザーに向けた。飛ばした炎の塊は本の中へと吸収されていき、完全に無くなるとそのままパタンと閉じられた。

 

「お、俺の炎を!!?」

 

「お返ししますよ・・・『倍返の閃光(カウンターライオ)』」

 

リオンは本を手で叩いてクルクルと回転させる。すると本はライザーのほうを向き、ページが開かれて強力な黒い光線が放たれた。

 

チュドォォォォォォォォン!!!

 

「ライザー様ァ!!」

 

結界の中で爆発音が響く。浮いていた本はまるで意志を持っているかのようにリオンの手元へと戻った。

 

やがて煙が晴れるとそこにはボロボロになったライザーが息を絶え絶えにしながら立っていた。

 

「アッハハハハ!! まるで相手になってないわね。リオンは退屈なんじゃないかしら」

 

「あ・・ぁ・・・おに・・・さま・・・」

 

ベールはライザーを嘲笑うのに対し、レイヴェルは苦しそうな顔をしながらも兄のほうに視線を向ける。その顔は先程、絶叫して息を一気に吐いてしまったせいか真っ赤になってしまっている。

 

「まだ立てるんですか? ウフフ・・・もっと怒ってください・・・?」

 

リオンはライザーがまだ立っていることに口元で微笑み、首を傾げながら彼にお願いをする。

 

その行為を馬鹿にしていると取られたライザーは怒り、背後に炎の翼を生やす。

 

「な、なめるなぁ・・・俺は・・・不死鳥フェニックスだ・・・リアスにも勝った・・・不死身の悪魔なんだぞ・・・!」

 

「面白い冗談ですね・・・今までのゲームも本当はまぐれだったんじゃないですか? 下衆悪魔さん」

 

「黙れェェェェェェェェェェッ!!」

 

ライザーは両翼から無数の刃を飛ばす。リオンは冷静にページをパラパラと開かせると右手をライザーに向かってかざす。とあるページに止まると本が光りはじめる。

 

銅盾(ブロンズ・シールド)

 

右手から半径10mほどの大きな銅色の盾が出現し、ライザーの刃を防いだ。

 

「くっ・・・クソがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ライザーは今度は拳に炎を纏わせて殴り掛かるも、リオンは本を浮かせ開いたページによって防がれる。ライザーの纏わせた炎が本に吸収され消えていく。

 

更にページから大きな口が開き、ライザーの拳を噛み千切った。

 

「ひ、があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

思わず後ずさりをするライザー。噛み千切られた拳はフェニックスの力によって再生していく。先程の決闘のダメージが残っているせいか、再生のスピードが遅くなっている。

 

「『神炎(ゴッド・フレイム)』」

 

ライザーと同じ大きさの炎がリオンの右手から放たれ、ライザーに襲い掛かる。

 

「くっ・・・そんな、俺と同じ炎で・・・」

 

「フッ・・・馬鹿ね」

 

ライザーは拳の傷を抑えながら炎を受け止める体勢でいるも、その行為をベールは馬鹿にしたような口調で言った。

 

そう。ライザーは忘れているのだ。先程のイッセーとサクラとの決闘を。そしてその炎も普通ではなかった。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

体中を炎で包まれ焼き焦がされていく激痛を味わいながら、ライザーの絶叫が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

祐斗たち3人は会場の中をと駆けていた。中は煙が立ち込めていて、まるで火事でも起こったかのような惨状だ。

 

「すでに取り返しのつかないことになっていますわね」

 

「・・・でも、急がないと」

 

「いると考えられるのはさっきのパーティー会場だと思う。2人とも行きましょう」

 

小猫と朱乃は祐斗の言葉に頷くとパーティーが行われていた先程の場所へと向かおうとする。あそこには悪魔たちが集まっていたから妖魔たちにとっては格好の餌場となってしまうはず。

 

祐斗はそう考えたのだ。

 

しかし、向かっていく最中に道を塞ぐように外から廊下の左右の窓ガラスを破って2体のウサギ型の妖魔が現れた。

 

「・・・えい」

 

「はぁっ!!」

 

3人は思わず立ち止まるも、顔を見合わせて頷くと手前の一体を小猫はスライディングをして懐へと入ると拳で天井へと殴り飛ばし、落ちそうになったところを祐斗が魔剣で横から真っ二つに斬り捨てた。

 

「雷よ!」

 

奥にいたもう一体を朱乃は雷を浴びせて感電させた後、炎を放って妖魔を黒焦げにし、その体を小猫が飛び上がり拳で粉砕した。

 

「行きましょう!」

 

「はい!」

 

妖魔をそれぞれ倒し、3人は止まることなく先へと進んでいく。

 

そして大きな扉へと到達し開け放った時、人影が吹き飛ばされるのが目に入った。

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!!」

 

悲鳴を上げて地面を転がり、ちょうど扉を開けた祐斗たちの目の前に突っ伏して倒れたような状態になった。それは金髪ドリルツインでドレス姿の、自分たちが知っている仲間のリリーだった。

 

「大丈夫ですぅ!? リリー様!!」

 

そこへメイド――ラウラがリリーに駆け寄り体を起こす。

 

「大丈夫よ・・・ったく鬱陶しいわね、あの楽器もどき!」

 

後半は目の前の巨大な騎兵隊が操っている楽器に向かって憎々しげに吐いた。その妖魔の肩の上には露出度の高い忍者服を着ているくノ一の姿が頭をポリポリと搔きながら立っていた。

 

「いい加減に体力が持たなくなってきたんじゃねぇか? 今ここで大人しくおねんねしてりゃあ、そこのメイド共々見逃してやってもいいぜ」

 

「うっさいわね・・・誰がアンタの話になんか乗るもんですか!」

 

リリーは右肩を抑えながら立ち上がり、右手で槍を構えた。

 

「・・・リリー先輩」

 

小猫がリリーに声を掛けて近寄ると、リリーもその声に気付いて振り向いた。

 

「小猫ちゃん? それに祐斗くんに朱乃先輩? 何でここに来たのよ!?」

 

「あれも、妖魔なのですか?」

 

「それにしては人の姿をしているね」

 

祐斗と朱乃は騎兵隊の姿をした巨大な妖魔を見て言った。3人に気付いた昔の中国風衣装の女―――リーシャが訝しげな顔をする。

 

「あぁ? 何だテメェら?・・・・・・ああ、お前らベールさんの言ってたグレモリーの家畜共か」

 

しばらく3人を見ていたリーシャは察すると、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ベールって・・・まさかキミも!?」

 

「おうよ。アタシはリーシャってんだ。よろしくな」

 

騎兵隊の妖魔がタクトを振ると、トランペットが音を鳴らしながら怪光線を放つ。祐斗とリリーたちは転がって回避すると彼らの立っていた床が抉れた。

 

「挨拶代わりに鳴らしてやったんだがどうよ?」

 

「アンタふざけてんの!? そんな挨拶があるわけないでしょうがッ!!」

 

「リリー様、ツッコみどころがおかしいですぅ!」

 

怒ったリリーをラウラが制する。すると怒りの矛先をラウラに向けられた。

 

「ラウラのくせに、アタシに口答えするんじゃないってのよ!!」

 

「・・・リリー先輩、落ち着いて」

 

「そうですぅ! 落ち着くですぅ! 今はそんなことをしてる場合じゃないですぅ!!」

 

小猫ちゃんがリリーを落ち着かせようとするも、後のラウラのせいで余計に怒りを覚えた。

 

「小猫ちゃんに便乗してるんじゃないわよッ!!」

 

「グフェッ!?」

 

ハリセンで祐斗と朱乃の前へと吹っ飛ばされるラウラ。そこに朱乃が声を掛ける。

 

「ええと、あなたは・・・?」

 

「あっ。紹介が遅れたですぅ。私はリリーに仕えるメイドのラウラと申しますぅ。よろしくお願いしますですぅ」

 

「え、ええ・・・」

 

「ああ、うん・・・」

 

祐斗と朱乃の2人に握手をするラウラ。さっきまで殴られたばかりだというのに変わり身の早さに、2人は引き攣った笑みを浮かべた。

 

そこにラウラへと目掛けて椅子が飛んできた。椅子は2人に当たらない擦れ擦れでラウラに直撃した。

 

ドゴッ!!

 

「ギャボォ!?」

 

ラウラは何とも間の抜けた声を漏らしながら、10mも吹き飛んで壁に激突した。椅子を投げたのは案の定、リリーだった。

 

「何、呑気に自己紹介なんかしてんの、このボケナスビ!! 今それどころじゃないでしょうがッ!!」

 

頭を撃ち付けて半ば気絶したラウラに向かって、リリーが怒りの声を上げる。祐斗と朱乃はそれを呆然と見ていた。

 

そこへ騎兵隊の妖魔がタクトを振り回すとバイオリンとドラムが動き出し、バイオリンは怪音波を祐斗と朱乃に向かってかき鳴らし、ドラムは叩き鳴らしながら周囲に複数の魔力の弾を作り、小猫とリリーに目掛けて飛ばした。

 

祐斗と朱乃は飛び退いて回避し、小猫とリリーは飛び退きつつも魔力の弾を槍で回転させて弾いた。

 

「もうテメェらの夫婦漫才は見飽きてんだよ。コイツらも見てるよりも、テメェらをまとめて血祭に上げたほうが楽しいってよ」

 

リーシャは欠伸をしながらそう言う。リリーは槍を持って前に出て戦闘態勢に入り、祐斗たちも戦闘態勢に入る。

 

「リリーちゃん、僕たちも手伝うよ」

 

「・・・私も戦います」

 

「私も援護しますわ」

 

「あの楽器が邪魔で本体に近づけないのよ! そっちの相手をしてて!」

 

3人は頷くと妖魔に向けて身構える。それを察したのかリーシャもニヤリと笑みを浮かべる。

 

「何をごちゃごちゃ話してんだよ。メンドクセーからさっさと血祭をはじめようぜ! まあ、アタシは見てるだけだけどな」

 

そう言うとリーシャは妖魔の肩から降りる。更に指をパチンと鳴らすと窓ガラスを破って6体の蜘蛛型の妖魔が出現した。

 

「コイツらも退屈そうにしてるから遊んでやってくれや」

 

リーシャは欠伸をしながら言う。

 

「っ・・・どうやらやる前に増援を倒さないといけないみたいだね」

 

「そうですわね。私は祐斗くんと蹴散らしますから、リリーちゃんと小猫ちゃんはあの大きな妖魔を相手にしてください」

 

「・・・分かりました」

 

「言われなくても!」

 

朱乃は右手に電撃を纏わせ、祐斗は神器で魔剣をもう一本出し、二刀流で妖魔へと挑む。リリーは騎兵隊の妖魔へと駆け出し、その背後を小猫が着いていく。

 

その道を塞ぐかのように蜘蛛型の妖魔が2体が立ち塞がるも、朱乃が雷を落として妖魔を感電させ行動不能にする。

 

更に別の2体の妖魔が腹の先を前に向けて糸状の粘液を放つ。それを2人の側面から祐斗が妖魔の糸を剣で絡め取り、もう一本の剣で切り刻む。

 

妖魔へと止まらずに向かっていく2人にもう2体の妖魔が飛びかかってくる。

 

「ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

そこへラウラが猛スピードで妖魔へと特攻し、2体とも吹き飛ばして壁へと押さえつける。叩きつけた反動からか壁に蜘蛛の体液かと思われる青い血が付着している。

 

ラウラが明らかに無茶なことをしていることに気付いたリリーが思わず足を止めてしまう。

 

「ラウラァ!!」

 

「早く行くですぅ・・・リリー様ァ!!」

 

精一杯力を入れなければ弾き飛ばされてしまいそうなくらい必死に押さえつけながら、ラウラが振り向いて行くように促す。

 

「・・・リリー先輩!」

 

リリーはそれを見て呆然としていたが、小猫の言葉で我に返り頷くとそのまま巨大な妖魔へと向かっていく。

 

残酷な宴は、まだまだ終わらない―――。

 

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