小猫と共に妖魔へと向かっていくリリー。騎兵隊の妖魔がタクトを振り回すとトランペットとバイオリンが動き、怪光線と怪音波をそれぞれ放つ。
リリーは耳のイヤリングに手を添わせる。
『Freeze!』
「ふっ!」
そして怪光線と怪音波を槍で横薙ぎに払うとその二つは氷漬けになり、砕け散った。更に力任せにその余波から冷たい風にトランペットとバイオリンは吹き飛ばされた。
クルクルと回って制御不能になっている隙を小猫は見逃さない。背後からリリーの上へと飛び上がる。
「・・・やあ」
バイオリンへと足の踵を振るって地面へと叩きつけた。砕けたバイオリンはそのままピクピクと震わせ、そのまま動かなくなった。
「『
その間にリリーは槍先に青いオーラを集めると薙ぎ払うように放射した。クルクルと回っていたトランペットは青いオーラの波に飲み込まれて消滅した。
「へぇー、なかなかやるじゃねぇか。でも、コイツも大事な楽器を壊されてご立腹だぜ」
リーシャの言った通り、悔しそうに地団太を踏む妖魔から邪悪なオーラが発生し人間の顔をしていない目は赤紫色に怪しく光った。リリーと小猫に緊張が走る。
しかし、不意に小猫の足に何かが巻かれる。白くて粘着性のあるもの、そう白い糸だ。
「!?・・・あっ・・・!」
小猫は足を引っ張られて地面へと倒れ込んでしまう。そのまま足をズルズルと引きずられていく。
「小猫ちゃん!!」
糸の跡を目で追ってみるとそこは少し体は潰れているが、それでも立っていた蜘蛛型の妖魔だった。傍を見るとラウラが気絶して倒れている。
「あの役立たず・・・!」
「おいおい、よそ見してていいのかよ!?」
その状態のまま騎兵隊の妖魔はタクトを先程よりも激しく振るった。すると残っていたドラムが叩き鳴らし、先程のよりも一回り大きな黒い魔力の弾を複数作り、リリー目掛けて飛ばした。
「! きゃあぁぁぁぁぁ!!」
リリーは咄嗟の判断ができずに、魔力の弾を喰らって吹き飛ばされてしまった。
「「!! リリーちゃん!!」」
「リリー先輩・・・!」
三人はリリーに駆け寄ろうとするも、朱乃と祐斗は妖魔が邪魔で近づけず、小猫も糸で妖魔に引きずられていて近づくことができない。
朱乃は炎を放って攻撃するも、妖魔の吐く糸で相殺されてしまう。祐斗は一方の剣は妖魔の糸で絡めとられているために、もう一方の剣で妖魔を攻撃しようとするも、鋭い足に防がれることに。
小猫は糸を粘着してしまうために触ることができず、妖魔に引っ張られるばかりだ。
「そろそろ頃合いか?」
見ていたリーシャは刃に龍の模様を記した大刀を取り出すとクルクルと回しながら倒れているリリーに近づく。それと合わせるように騎兵隊の妖魔がタクトを振り回して、ドラムをリリーへと近づける。
「うっ・・・く・・・」
リリーは先程のダメージでなかなか立つことができずに、顔を歪めながら迫ってくるリーシャとドラムを睨む。
「ハッ。エデンのお嬢様風情も大したことねぇのな。まあ、不良品と言われてる機関の奴らなら当然か」
「うる、さいわね。少なくとも、サクラの姉気取りの豚女なんかよりは、マシよ。ぐ、あぁぁぁぁ!」
リリーは虚勢を張りながら言うと、リーシャはそんな言葉に不快感を露わにし彼女の左肩を大刀で突き刺す。
「テメェ調子に乗ってんなよ。ベールさんを馬鹿にするヤツはアタシが許さないぜ」
「うっ・・・い、田舎・・・風情・・・ぐふっ」
その言葉を聞いたリーシャはますます不機嫌そうな顔をしてリリーの腹を踏みつけると回していた大刀の矛先をリリーに向ける。
「・・・・・・ああ。もうお前、邪魔だ。死ね!」
リーシャは大刀を両手で構えるとそのままリリーへと振り下ろした。
朱乃も祐斗も小猫も妖魔の対応に追われていて、ラウラは気絶している。誰も手を出せる人がおらず、万事休す。
誰もがそう思った・・・・そのとき・・・。
ダァン! ダァン! ダァン! ダァン! ダァン! ダァン!
窓から銃声が響き、外から電撃を纏った弾が複数撃ち込まれる。朱乃と祐斗が戦っていた妖魔たちへとぶち当たり、体の一部を吹っ飛ばし絶命させた。
ズバァァァァァァァァァァァァァァァン!!!
更に緑色のオーラを纏った光線が撃ち込まれ、カスミのすぐ近くの宙を飛んでいたドラムへと直撃し飲み込まれた。その衝撃で騎兵隊の妖魔もよろけて背後へと倒れてしまった。
「ああ?」
カスミは突然の出来事に思わず大刀の手を止め、窓の外を見た。
それが彼女に対する油断だった。リリーはリーシャのほうを見て笑みを浮かべ、右手で大刀を掴む。
『Freeze!!』
ピキピキピキピキッ!!
「なっ!」
電子音と共にリリーの握った大刀がリリーの手から凍っていく。矛先から柄の部分まで凍りついていく。
『Freeze!』
更に電子音を響かせるとリリーは左手に氷を纏わせる。
「
そして、その左手をリーシャ目掛けて振り被った。
「ぐぉぉ!!」
リーシャは武器を持ってないほうの手で防ぐも、突然の力技で吹っ飛ばされる。
『Freeze!!』
リリーはうつ伏せの体勢になると作り出した粗末な槍を小猫と戦闘中の妖魔のほうへと放る。電子音が鳴っていたので、妖魔の頭部に突き刺さった槍は妖魔を凍らせ粉々に砕け散った。
「小猫ちゃん! それを使って!」
妖魔の魔の手から解放された小猫に向かって叫ぶ。小猫はもう一体の妖魔の糸から飛び退き、連射される糸を避けながら砕け散った氷の近くに落ちている粗末な槍を取ると妖魔に向かって走る。
妖魔は向かってくる小猫に目掛けて糸を連射するも、それを雷が焼き消す。朱乃が背後から雷を放っているのだ。
妖魔は変わらず糸を発射するが、小猫に避けられ、また朱乃の雷で正確に打ち消される。小猫が眼前へと迫ると妖魔は立ち上がるような姿勢で鋭い足を小猫に突き立てようとする。
「『
祐斗の声が響くと妖魔の周囲に複数の魔剣が出現し、鋭い足の攻撃を防ぐ。鍔迫り合いになっている隙に小猫が飛び上がり両手で持った槍を突き立てる。
「やあー」
ドスッ!
ブシャアァァァァァァァァァァ!
頭部に槍を突き刺された妖魔は青い血を噴き出させて背後へと倒れ、ビクンビクンと体を震わせるとそのまま力が抜けた。
「やったわね・・・小猫ちゃ、うっ・・・」
その戦いを見ていたリリーが左肩を抑えながら寄るも、痛みのせいで小猫の近くで膝をついてしまう。
「リリー先輩、大丈夫ですか?」
小猫が槍を捨てるとリリーの側に駆け寄り、彼女に右肩を貸して支える。
「ありがとう。でも、こんなのただのかすり傷だから」
リリーが小猫に微笑みを見せる。そこへ怒ったような女性の口調が耳に通る。
「任務を怠って愚かしいことをしているからそうなるんですよ」
ギクッとしたリリーはゆっくりと窓のほうを見るとそこには巨大な狼へと乗ったエレンとウィルの姿だった。
「げっ」
「エレンさん!」
「こんばんは、木場祐斗、姫島朱乃、塔城小猫」
エレンは狼の体の上から飛ぶように窓から入ると3人に挨拶をした。
「ウィルくん!」
「よっ! 姫島さん。木場と小猫も元気そうだな」
ウィルもエレンと同様に窓から入ると3人に挨拶した。
「・・・アンタら、何しに来たのよ?」
リリーが2人を睨むと、エレンもリリーのほうに寄りながら睨み返す。
「冥界への任務を押し付けたあなたの様子を見に来てやったんですよ。サクラ同様にサボリの常習犯であるあなたのことですから、どうせ失敗してるだろうと来てみれば、任務を怠けてこんなところで油を売っているとはどういう要件ですかあなたは?」
「アタシがどうしてようとアンタに関係ないでしょう! 余計なお世話よ!!」
「あなたにわがままを言う権利はありません。罰としてあのお仕置きを受けてもらいますからね」
エレンがそう言うと、リリーの顔が青くなった。
「ちょ、ちょっと待ってよ!! アタシ怪我してんのに!」
「ちょっとも怪我もクソもありません。あなたは任務を怠ったんですからね。当然の報いでしょう」
一通り、リリーへの対応を済ましたところで騎兵隊の妖魔のほうへと向き直る。
「さて、このゴミをさっさと始末しましょう」
「何、勝手に仕切ってんのよ!?」
リリーが抗議の声を入れたと同時にリーシャが双剣を取り出してエレンに目掛けて振りおろす。そこへウィルが間に割り込んで大剣で防ぐ。
「不良品風情が、よくもアタシをコケにしてくれたね。こうなったらみんなまとめて妖魔の餌にしてやるよ!!」
「ソイツは面白れぇな! やってみろってんだよッ!!」
リーシャが怒りの顔で圧しているのに対し、ウィルは楽しそうに笑っている。
互いに剣を押し返すとリーシャは退くように下がる。それに合わせて騎兵隊の妖魔が立ち上がって黒い怒りのオーラを発する。
「興味は無いけど、一応聞こうか。何故お前がここにいる?」
「・・・答える義理はねぇな。やっちまいな!!」
リーシャに問うエレンだが、答えようとはせず右手で指を差す。
黒いオーラを発している妖魔はエレンたちに目掛けて飛び上がる。エレンたちは蜘蛛の子を散らすように避けると、妖魔の着地した地面に衝撃波が走った。
「楽器が無くなったとはいえ、あの大きさは洒落にならないですわね」
「デカい分、性質が悪いぜ」
朱乃がそう言い、ウィルがぼやく。
妖魔はタクトに黒い魔力を溜めながら長さを伸ばすと頭上へクルクルと回しながら、小猫へと目掛けて投げつけた。縦で回転しながら迫るタクト。小猫はリリーを支えたままでいるので、戦闘態勢に移れない。
そこへ祐斗が『
「うわぁっ!」
タクトに弾かれて吹き飛ばされる祐斗。タクトはブーメランのように妖魔の手へと返った。
「祐斗先輩・・・!」
「祐斗くん、大丈夫!?」
「ああ・・・大丈夫だよ・・・」
「3人とも危ない!!」
小猫とリリーと祐斗がお互いを心配する間もなく、朱乃の声が響くと妖魔が飛び上がって迫ってきていた。そこへウィルが瞬間移動をして3人の側へと来ると片手で妖魔の足を抑え、奥へと妖魔を吹っ飛ばした。
「お前ら、少しは自分の身の心配もしろ」
「・・・すいません、ウィルさん」
ウィルが軽く叱りつけると木場は思わず謝ってしまう。
シュシュシュシュシュ
「おわぁっ!?」
そこにウィルへと目掛けてタクトが飛んできた。肩へと当たりよろけて尻餅を付いてしまう。
「ウィル!?」
「アッタタタタ・・・乱暴な野郎だな」
「『
尻を打って呻いているウィルの横に、銃を手元に2丁出現させたエレンが歩み寄る。
「うっせぇ。倒したと思ったんだよ」
「妖魔は投げ飛ばしては倒せません。あなたもよく分かっているでしょう」
指摘されて呻くウィルだが、鼻を鳴らすと立ち上がって大剣を妖魔に目掛けて構える。
「こうなったら二人であの妖魔を狩るぞ。別に俺一人で倒せないとか、そういうわけじゃないからな」
「はいはい。私も最近、欲求不満でしたから」
「さっきも妖魔を皆殺しにしてたヤツがよく言うぜ、このドS」
エレンはクスクスと笑いながら、ウィルは怪訝そうに見ながら戦闘態勢に入る。その間に騎兵隊の妖魔は頭上でタクトをグルグルと回し2人に目掛けて投げ飛ばした。
ウィルは前を出て剣を構え、縦にクルクルと飛んできたタクトを受け止める。バチバチッと火花が散るも、ウィルはタクトの軌道をずらして上へと飛ばした。
タクトは妖魔の手へと戻っていくも、ウィルは妖魔の前に瞬間移動して大剣を振り上げる。
「オラァッ!!」
ガキンッ!
妖魔のタクトとウィルの大剣がぶつかり合う。その隙にエレンが妖魔の足元へと瞬間移動をし、右手の銃を構えてぶっ放した。
ダァンッ! ドォォォン!!
紫色の光を纏った弾丸が妖魔の手首に当たって爆発するように弾け、手に持っていたタクトを弾き飛ばした。
その勢いでウィルは飛ばされるも、空中で体勢を立て直して緑色の魔法陣を縦に出現させるとそれを踏み台にして妖魔へと特攻する。
「はあぁぁぁぁぁぁ!!」
ザシュッ! ブシャアァァァ!!
妖魔の右肩に大剣を振り下ろし、肩から右腕を切断する。思わず痛みで後ろへとよろけ、出血する右肩を抑える妖魔。
妖魔は態勢を立て直そうとしているのか飛び上がってエレンたちから離れるが、エレンは無防備な妖魔の姿を見逃さず左手に持っていた銃で標準を合わせ、紫色のオーラをチャージするとぶっ放した。
ウィルも大剣を頭上で片手で回転させると妖魔へと目掛けて投げ飛ばした。
「さっきのお返しだぜ。オラッ!」
ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥン! ジュバアァァァァァ!!
シュシュシュシュシュ! ザシュッ!!
紫色のエネルギーの弾は妖魔の体中央を貫き、大剣は右足の付け根の部分から切断した。妖魔は当然、着地に失敗し前のめりに地面へと倒れた。
しかし、普通の人が死んでもおかしくないくらいに貫かれているのにも関わらず、妖魔は残った足と左手でバタバタと暴れはじめている。
エレンとウィルは妖魔に止めを刺そうと近寄る。
『Freeze!! Freeze!! Freeze!! Freeze!!』
すると後方から電子音が流れ、2人は足を止める。4本の粗末な槍が妖魔へと目掛けて飛んでいき、足、左腕、腰、後頭部へと突き刺さる。
ピキピキピキピキッ ピキピキピキッ ピキピキピキッ パキーンッ!!!!
槍の刺さった根元から妖魔の体が凍りついていき、完全に氷漬けになると
2人が背後を見ると怪我を氷で固めていたリリーが小猫の肩を無しに、立ち上がっている姿があった。
「アタシだけ除け者なんて酷いんじゃない?」
2人に向かって不敵な笑みを浮かべ勝ち誇ったように言い放つリリー。
「本当は治ってたくせに、調子がいいんですから」
「結局、獲物を横取りかよ。チェッ」
「ぶち抜いたぐらいで調子に乗ってるからでしょ?」
エレンは目を瞑って呆れたように呟き、ウィルは頭の後ろに両手を回して苦笑していた。
「リリー様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ぐぇっ!?」
そこに叫び声と共にラウラというメイドがミサイルのようにリリーの腹へと直撃した。
「よかったですぅぅぅぅぅ!!! 何事も無くってぇぇぇぇぇ!!!」
ラウラはリリーに抱き着き、鼻水を垂らしながら泣いている。一方のリリーは下手をすれば気絶していたんじゃないかという痛みに悶えている。
「リリー様がどうかしてたら、ラウラもどうかなってたですぅぅ!!」
「うぅぅぅ・・・痛いじゃないのよ、このボケッ!!」
「ぐはぁっ!?」
ラウラはある程度痛みが治まったリリーに、殴り飛ばされた。
「それに、アタシに気安く抱き着いてんじゃないわよ、この変態!!!!」
「グフェッ!!?」
スパンッ スパンッ スパンッ スパンッ スパンッ!!!
「どの面下げてアタシに話しかけてんのよ!? 本当に使えないわね、メイドのくせに!!」
「ご、ごめんなさいですぅ!!」
「大体、何アタシの許可なく気絶してんのよ、アンタはッ!!!!」
「しょうがじゃないじゃないですぅ! 妖魔があまりにも強すぎてラウラにはどうにもできなかったですぅ!」
「だったら最初から引っ込んでればいいでしょうが!! ラウラのくせにカッコつけるなんて、アタシへの媚のつもりなわけ!?」
リリーとラウラは相変わらずのド突き漫才という名の喧嘩を始めてしまっている。とはいっても怒ったリリーがハリセンを持ってラウラをボコボコに殴りつけている様子だ。
「えーっと・・・」
「全く・・・今はそれどころじゃないでしょうが・・・」
祐斗と朱乃はどうしたらいいか分からず苦笑しており、その姿を見てエレンの溜息は余計に大きくなった。
「あーあ、妖魔が台無しになっちまった。アリスに怒られちまうなー。魔王様はどこにもいねぇし、アタシの武器も使いもんになんねぇし、ここは退きどきか」
リーシャはその惨状を見て面倒臭そうに頭の後ろを搔きながら吐き捨てると、踵を返しエレンたちに背を向けて歩き出した。
「待て! お前にはまだ話が!」
逃げることに気付いたエレンがリーシャに向けて銃を向ける。リーシャは足を止めて振り向くと馬鹿にしたような笑みを浮かべたままこう言い放った。
「待てと言われて待つ豚野郎がどこにいんだよ?」
そのまま前を向いて歩き出したリーシャは魔方陣に包まれて姿を消した。
「・・・・また、逃げられた」
エレンは銃を下ろすとしまうように消滅させる。無表情でしばらく俯いていたが、途端に気の抜けたエレンは溜息を吐くとリリーのほうに歩み寄る。
「さてとリリー、あなたとはゆっくりとお仕置きをしないといけませんね」
「えっ、ちょっ、アタシはまだお仕置きを受けたいなんて言ってないわよ!?」
「問答無用です。さっさと一緒に来なさい」
「ちょっ、エレン!! 首根っこ掴まないでよ!! いやぁ! あのお仕置きなんて!!」
異論を許さず一蹴すると喚くリリーも意に返さずに、ラウラのほうに首を向ける。
「ちなみにラウラ、あなたもですよ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「当たり前でしょう。あなたも一介のメイドでありながらリリーを止めなかったんですから。同罪です」
「うぅぅ・・・わ、分かりましたですぅ」
ラウラは大人しく従うことにしたようだ。エレンはリリーの首根っこを掴むとそのまま引きずりはじめ、大きな扉へと歩いていく。
「離せぇ! 離してよぉ!! あのお仕置きだけは嫌ぁ!!!」
「キャンキャンうるせぇ女だぜ」
「全くですぅ。自業自得ですぅ」
「お前が言うなぁ!!」
「ガハッ!!」
ウィルは呆れつつも、その後ろを一緒に歩いていく。ラウラは淡々と呟くも、引きずられてるリリーから皿をぶつけられた。
「ちょっと待ってください!!」
祐斗が3人を呼び止める。するとエレンとウィルは歩みを止める。
「あの、中国風の格好の、リーシャという女とはどういう関係なんですか?」
祐斗が3人に問う。しばらく長い沈黙が流れていたが、唐突にエレンが口を開いた。
「・・・・・・私たちの敵です。長年、追い続けている私たちの・・・」
エレンはそれだけ言うと闇の回廊をもう片方の手で出現させる。
「それよりも、あなた方にはやることがあるのではないですか? いろいろと」
首だけ後ろを向けてそう言うとそのまま前を向いて闇の回廊へと入っていく。
「小猫ちゃん! まったねぇ!!・・・・・・生きてたら」
逆にリリーは手を振って別れの挨拶をするとエレンに引きずられていった。ウィルも振り向き様に、ラウラもお辞儀をしてこう言った。
「んじゃ、お邪魔しました。姫島さん、またな」
「では、失礼しましたですぅ」
ウィルもラウラも闇の回廊へと入っていった。
リーシャ・・・エレンさんたちが追っている敵・・・ベールの仲間・・・。
ということはベールたちはシキたちが追っている指名手配犯、とも考えられるが・・・。
「・・・祐斗先輩。考えるのは後にして、元の場所へと戻りませんか?」
「・・・そうだね。サクラさんたちが心配だし」
「急いで戻りましょう」
側に寄った小猫にそう言われると祐斗は肯定し、朱乃の言葉で3人はこの会場を後にした。
◆◆◆
3人が会場に向かった同時刻。ライザーは倒れ伏し、リオンはライザーの頭に足を乗せていた。
「あのフェニックス、大したことないわね。雷攻撃と炎一撃であの様なんだからぁ」
「どうしたんですか?・・・もっともっと私に立ち向かってきてくださいよ。それとももう起き上がる気力もないんですか?」
「ンン・・・オオォォォォォォォォォォォ・・・グオォォォォォォォォ!!!!」
ベールが嘲笑する中、ライザーは立ち上がろうとするがビクともしない。リオンは微笑を浮かべながらただ単に足を置いているだけだ。
それもそのはず、リオンは『
「・・・退屈です・・・」
「グッ・・・クソ・・・! 何故だ・・・何故、大昔に消えたはずの種族が今頃になって冥界へと姿を現したんだ・・・?」
欠伸をしたわけでもないリオンの台詞に、ライザーは屈辱にまみれた言葉を返す。
「文献なんかに惑わされてすっかりアタシたちの存在を否定してるみたいだけど、アンタら悪魔の書いた研究書や伝奇なんか愚かな気取り屋が書いたくだらない妄想に過ぎないわ。アタシたちはねアンタら無能な悪魔が知らないだけでずっと魔界で暮らしてるのよ。今、七人の魔王の権力争いが勃発して魔界はかなり物騒でね。だから、アタシは力を手に入れて権力の頂点に立とうと考えてるわけ。まあ、半分はただ戦えればいいと考えてるだけなんだけどね。そのためにはあの子が必要なのよ。魔王とは挨拶がしたかっただけなんだけど――――でも、アンタみたいな小生意気で粋がった貴族を見てると虫唾が走るのよ」
ライザーの問いに笑って答えるベールだが、最後の一言は冷たい声を発した。
ドガッ!!!
その間にリオンが倒れているライザーの胸ぐらを掴むと手に持っていた本で殴り飛ばした。
「ごばぁっ!!」
吹き飛ばされ倒れるライザー。微笑を浮かべているリオンに、眷属たちは震えが止まらない。
自分たちの主人が為すすべなくやられている・・・。俄かには信じられない状況だった。
「あなたつまらないですね・・・もう寝てくださいよ」
さすがのリオンも微笑を無表情に変えて、低い声を発している。醜い奴ほどしつこい―――リオンはそんなライザーに不快感を覚えたのである。
「っ・・・なめるなぁ・・・! 貴様みたいな女に! いつまでもやられてると思うなァァァァァァァァァァァ!!」
ライザーはリオンに向かって叫ぶが、前にリオンの姿は無い。彼女は言葉を聞いた瞬間に、ライザーの背後へと瞬間移動していたのだ。
「『
リオンが手のひらをかざすと5体の龍状の雷が現れ、ライザーの周囲を取り囲むと口から光線状の雷撃を放った。
ギュウィィィィィーン! バリバリバリバリバリバリッ!!!
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ライザーが絶叫を上げる。更に感電している体へと龍状の雷が特攻して追い打ちを掛けた。
「ライザー様ぁ!!」
先程よりも威力の強い電撃を喰らい、黒焦げになって白目を剥いたライザーが地面に倒れ伏した。
「おにい・・・さま・・・」
レイヴェルはやられた兄の姿を見て一筋の涙を流した後、そのまま首を絞め上げられた苦しさのあまり力が抜けた。
リオンは本を閉じると元の位置へと瞬間移動をし、ライザーを見下げた後にベールの元へ歩いていく。
「・・・ソが・・・」
しかし、背後から声が聞こえるとリオンは足を止めて無表情だが不愉快そうともとれる表情でライザーを見る。一方のベールはそれを見て感心したような表情になる。
「ふーん、まだ立てるの? やられたと思ったんだけどね」
「クソが・・・クソがァァァァァァァァ!! ユーベルーナ!・・・今持っているフェニックスの涙をよこせェェェェェェェ!!!」
すっかり自暴自棄状態のライザーがユーベルーナに向かって叫ぶ。
フェニックスの涙とは、いかなる傷もその場で直すことができるアイテムのこと。涙はレーティング・ゲームでも使われることが多く、高値で取引されているのでフェニックス家の財政が潤っていると言われるものだ。
「もうおやめくださいライザー様! これ以上は見ていられません!!」
「うるせぇ! いいからさっさとよこせェェェェェェェェェェェェェェェェッ!!!!」
ユーベルーナの言葉にも耳を貸さず、ライザーはただフェニックスの涙を要求する。あまりの醜悪さにベールも呆れ果てているところだが・・・。
「いいわよ別に。バカには体で伝えないと分からないんだから」
ベールは一旦結界を解くと、ライザーはユーベルーナからフェニックスの涙を奪い取る。それを飲み干した後にベールが再び結界を張る。
一気に2つも飲んだのでライザーの魔力が大幅に上昇した。
「ハハハハハハッ! どうだ!? これさえあれば俺は無敵なんだよッ! フェニックスの炎で消し飛べェェェェェェ!!」
ライザーは今までにないくらいの巨大な炎をリオンに目掛けて投げつける。炎はリオンに向かって飛んでいき、爆発音を起こし土煙が舞った。
勝利を確信するライザーだったが、土煙が晴れたときにその余裕の顔は脆くも崩れ去った。
「なっ!」
ライザーの目には巨大な炎が本に吸収されていく様子があった。明らかに本よりも炎のほうが大きさは確実に上だが、燃やすことはできずにそのままゆっくりと吸収されていく。
「そんな薬でドーピングした程度でアタシたちに勝とうだなんて思わないことね」
「この程度ですか・・・残念ですね。『
炎が完全に本の中へと消えるとページが閉じ、リオンがそう呟くと再びページが開き、先程喰らったときよりも極大の黒い光線が放たれた。
ドガァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!
大爆発が起こり、土煙が晴れるとそこにはボロボロになって倒れ伏したライザーの姿があった。
「気絶したフリですか?・・・おこがましいですよ」
本を手元に戻したリオンはライザーに近づくと髪を掴んで持ち上げ、本で顔を数回殴りつける。
「ゴバァッ!! ブファッ!!・・・ガハァッ!!?」
更にライザーの体に本のページを開いてくっ付けると、ライザーの鳩尾に衝撃を加わり血の混じった吐瀉物を吐く。実はページから不気味な黒い手が現れライザーに拳を浴びせたのだ。
リオンはそのままライザーから手を離して、床に転がったライザーを蹴り飛ばす。そしてライザーの腹をゲシゲシと何度も踏みつけはじめた。
「やめて!! もうやめてよぉ!!!」
「私が代わりになるからもうやめてくれっ!!」
ライザーの眷属はたまらずベールに向かって叫ぶも、本人は観戦に欠伸をしたまま何も返答しない。
「リオン、もう飽きちゃった。終わらせて頂戴」
「分かりました・・・『
リオンは距離を取ると5体の龍状の雷を手から放ち、ライザーに直撃し感電させる。
「ぐがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
断末魔のような絶叫を上げるライザー。雷が止んだ後には体をピクピクと痙攣させ、煙を上げながら地面に倒れ伏した。
リオンはその姿を見ると本を閉じて、今度こそベールの元へと帰ろうとする。
「終わったわね。・・・・・・ん?」
リオンはそう呟くと結界を解こうとするが、ライザーのほうを見て怪訝そうな表情をする。リオンも不意に気配を感じて足を止める。なんとライザーはまだ立ち上がろうとしていたのだ。
「ふ・・・ふざけるなぁ・・・俺は・・・フェニ・・・ックスだ・・・!」
「もうおやめください、ライザー様!! それ以上は壊れてしまいます!!」
「アンタの下僕の言うとおり、もう決着は付いたのよ。負け犬は無様に這いつくばってなさい」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!! 俺はまだ・・・負けてねぇ・・・フェニックスの看板を、背負ってるんだよォォォォォォォォ!!!」
往生際の悪いライザーの姿に、ベールとリオンから妥協の色が消えた。
ああ・・・もう面倒臭い・・・飽きた・・・・・・。
―――――つまらない玩具は・・・・・壊シテシマオウカ。
「・・・・・・リオン」
「はい」
「――――壊せ」
「・・・・・・はい」
その低い声が放たれた瞬間、リオンは無表情で前に向き直り返事をする。本のページをパラパラと開き、とあるページで止まるとリオンが本と共にドス黒いオーラで包まれる。
「『
リオンが呟くと本の背から黒い影のようなものが伸び、ライザーへと迫る。
「な、なんだ・・・!? ぐっ・・・うわあぁぁぁぁぁ!!」
ライザーは影に捕まり、本に引き寄せられるとページが開かれた状態の本にがっしりと拘束される。
「な、なんだこれは!? クソ・・・外れない・・・!」
拘束を解こうとするライザーだが外れず、炎を出そうとするが、何故か手から炎が出てこない。
「な、何故だ・・・? 何故俺の炎が出てこない・・・?」
「・・・・・・食らえ」
戸惑いの声を上げるライザーだが、それを待たずにリオンが抑揚のない声で言う。すると本の背から更に黒い影が5本伸びる。その先端はドリルのように尖っていた。
「ひっ・・・や、やめぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
始めて、恐怖の声を上げるライザーだが、そんな彼の体に黒い影が貫く。痛みに体を仰け反らせ、全身をガタガタ震わせながら一際大きな絶叫が上がる。
「アッハハハハハハ!!! クハハハハハハハハ!! 無様ね! 大人しく寝ていないからそういう目に遭うのよ!」
ベールはその様子を見て高笑いをする。嘲笑されているライザーは影に体内を食い荒らされる激痛を味わい、その激痛は時間をかけて広がっていく。
「グアァァァァァァァァァッ!! ギャアァァァァァァァァァッ!! ウギャアァァァァァァァァァッ!! グギャアァァァァァァァァァァッ!!」
あちらこちらで激痛が走り、絶叫を上げ続けるライザー。その絶叫は次第に人間が上げるものとは思えない獣じみた咆哮と化していく。
「ギャギャギャギャギャッ、ギャアァァァァァァァァッ!! ウガアァァァァァァァァァァァッ!! ギェアァァァァァァァァァッ!!!」
「やめてっ!! 本当にもうやめてくれっ!!」
「酷いよこんなの!! 彼はもう戦える状態じゃないのに!!」
ライザーの状態に我慢ならず、ライザーの眷属たちが怒りを交えた抗議の声を上げる。
「フン。戦える状態じゃないヤツは大人しく倒れ伏してるのが普通でしょ? そこの下衆悪魔が悪いんじゃない。フェニックスの看板だの、プライドだの、くだらないことでアタシたちに刃向うんだもの。アタシたちはもうイライラして我慢ならないのよ」
ベールは更に言葉を続ける。
「でもまあ、あなたの下衆なご主人様に免じていいこと教えてあげる。あの影ね、言わばあの本の真の力を出しただけよ。先程の魔法攻撃はリオンがその本から編み出したおまけみたいなもの。本当の能力はね、魔力を食らい、肉体を食らい、物体そのものを蹂躙する呪いの影を作り出す。それがリオンの持ってる神器『
「ギエエェェェェェェェェェェェッ!! ハグギャアァァァァァァァァァァァッ!!!」
ベールが説明している間にも、ライザーの壮絶な絶叫が響き渡っている。
「まあ、アンタたちもあんな傲慢な主人から解放されるんだから良かったじゃない」
「え・・・?」
目を赤色に光らせながらベールが言葉を紡ぐ。ライザーの眷属は訳が分からないといったような表情をする。
「あのフェニックスはリアスに惚れてるんでしょ? アンタたちという下僕がいながら、他の女にうつつを抜かして自分たちに構ってくれていない。違うかしら?」
「そ、それは・・・」
言葉を詰まらせるライザー眷属。思えば自分たちもライザーに可愛がられてはいるが、それはリアス・グレモリーとは比べ物にならないくらいの大したことの無い接待だ。
「だったらいっそのことあんな男と縁を切ってしまえばいいのよ。ハーレムだがなんだが知らないけど、そういう下衆な男は一定の女をえこひいきするに決まってるんだから。そんなヤツと一緒にいてアンタたちは幸せな人生を送れると思う?」
「ち、違う、私たちはライザー様の・・・・・・」
ベールの言葉を聞いて、ライザー眷属の一部から狼狽の声が上がっていく。
「まあ、そんなことをしたらはぐれ悪魔となって、惨めに哀れに消されるのが運命よね。皮肉だわ。女たらしの下衆主人の下にいても、逃げ出しても、結局アンタたちがたどり着く道はただ一つなのよ」
「ああ、ああ・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
ライザー眷属から戦意が消えていく。怒っていた顔が徐々に悲しげな顔になり、目のハイライトが徐々に消えていく。
「――――地獄よりも苦しい絶望だけよ」
それを言い放った直後、ライザー眷属は全員膝をついて動かなくなってしまった。もう、ライザーの上げる絶叫すら耳に通っていない。
「アッハハハハハハ!!! ぬるいもんねぇ! アタシの神器を発動させ、ちょっと言葉を交えたぐらいであっさりと催眠術にかかるんだからぁ。これでこの眷属も終わりね。下衆主人はエサにされ、この妹は一生アタシの家畜、そして役立たずの小娘共は絶望に立ち直れない。最高の劇場だわ。アッハハハハハハハハ!!!」
高笑いをするベール。悪魔たちを散々絶望の淵に追いやった挙句、最後には壊してしまう。まさに彼女こそが本当の悪魔と言えるのではないだろうか。
そんな勝利を確信するベールに・・・・・・・。
ヒュッ!! ザシュッ!!
「・・・っ!!」
一本の魔剣が縦に回転しながらベールの背後から迫り、レイヴェルを掴んでいる彼女の右腕を斬り落とした。魔剣はクルクルと回転すると地面へと突き刺さり、少し亀裂を入れた。
ベールが攻撃を受けた影響でライザーとリオンを覆っていた結界が解かれた。
「くっ・・・!!」
「!!・・・ベールさん・・・!」
ベールは切断された傷を抑えながら背後を振り返ると、そこには不機嫌な顔で睨むサクラの姿があった。
リオンもベールが攻撃を受けたことに思わず背後を振り向く。攻撃を途中で止めて駆け寄るリオン。本から影が消滅しライザーはドサリと地面に落ちた。
サクラの背後の10体の蜂型の妖魔は原型を留めないほどにバラバラにされており、大きな血の池が生成されていた。
「あらら。倒しちゃったの。相変わらず化け物ね、アンタは」
「・・・お前のような人間以下がそれを言うか?」
サクラはそう毒づくと地面に刺さった魔剣を抜き、ライザー眷属の前に瞬間移動して魔剣を構える。
「ベール、今すぐここでお前を断罪してやる」
サクラがベールを睨みながらそう言う。
そこへ祐斗、小猫、朱乃の3人が会場から飛び出してきた。
「サクラさん! ってあれは、サクラさんがベールに、勝っているのか・・・?」
祐斗がそう呟くとサクラは彼らが来たことに気付いて言う。
「おい。ライザーの眷属たちをどうにかしてやれ」
「・・・それはどういうことですか?」
小猫が問う。
「アイツの催眠術を受けて正気を失っているんだ」
「!?・・・分かりましたわ」
「どうしてだが分からないけど、分かったよ」
「・・・分かりました」
何だか分からないが、とりあえず状況を理解した3人、祐斗は倒れているレイヴェルを担ぎ、小猫と朱乃はライザー眷属たちの側に寄ってケアをしようとする。
それを見ていたベールは興味を失ったように息を漏らすと言った。
「まあ、いいわ。アンタの顔を見れただけでも満足だし、坊やたちが戻ってきたということはリーシャは失敗したようね」
ベールは体に力を入れると切断面から新しい右腕が生えた。持っていた神器の力で失った右腕を何事も無かったように再生させたのだ。
「リオン、引き上げるわよ」
「・・・はい・・・分かりました」
リオンは本を拾うと椅子に座り込んで宙に浮き、ベールもそれを確認すると地面から足を離し冥界の空へと浮く。
「おい、待てッ!!!」
サクラは怒鳴り声を上げると、翼を生やしてベールのほうへと飛んで魔剣を振り下ろす。しかし、ベールの張った結界に防がれて攻撃が当たらず、逆に彼女の右手から放った黒い魔力の弾に吹き飛ばされた。
「ぐぁっ!!」
「アンタとはそのうち遊んでやるわよ。アタシもアンタにばっかり構っている程、暇じゃないもの」
ベールはクスクスと笑いながら言う。
「また会いましょう。絶望の淵に落ちないで生きてたらだけどねぇ、アタシの可愛い『
そう言い残すとベールとリオンは満月をバックに闇に包まれて消えていった。
「くっ・・・・・・!」
2人に逃げられたことに歯噛みをするくらい、悔しそうに顔を歪めるサクラ。しかし、その姿も諦めて俯いたような状態になった。その表情は決して晴れやかとはいかないものだ。
サクラは立ち上がって土埃を払うと無言でその場を立ち去って行こうとする。そこに祐斗たち3人がサクラの元へと駆け寄る。
「サクラさん、あのベールという女がキミのことを妹って・・・」
祐斗は最後に言い残して去ったあの言葉が耳に入っていたようでサクラに尋ねてみた。サクラはしばらくの沈黙の後、口を開いた。
「・・・オレはあんなヤツを姉だと思ったことは無い。暴虐の限りを尽くして、魔界の上層部共を皆殺しにしたあんな女なんかにな」
「魔界の上層部を・・・?」
「皆殺しに・・・」
祐斗、朱乃、小猫は驚きを隠せなかった。サクラはそんな彼らの顔を見ることも無く、その場を闇の回廊で立ち去っていった。
3人はライザーの眷属たちのケアをしている間にこんなことを思っていた。
「・・・僕たちは、あんなのと相手をしなくてはいけないみたいだね」
「体が震えますけど、このような行為、許せませんわね・・・」
「・・・・・・ファントム」