極悪な奴ら/THE EVIL HERO   作:早乙女

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第33話「傷跡」

「フェニックス卿。今回の縁談、このような結果になってしまい、大変に申し訳ない。無礼承知で悪いのだが、今回は―――」

 

「皆まで言わないでください、グレモリー卿。純血の悪魔同士、お互いに欲が強すぎたようだ。私もあなたも、同じ悪魔故の強欲さを見たのか、それとも戦争での地獄を見たのか。結局は同じ悪魔なんですな」

 

「いえ、私もあの子に自分の欲を重ねすぎたのです」

 

「兵藤くんと風花くんと言ったかな。彼らにはお礼が言いたかった。息子には負けるということが必要だった。あれは一族の能力をあまりにも多く過信しすぎた。今回のゲームでフェニックスは絶対ではないということがいい勉強になっただろう。それが分かっただけでも十分でしたよ今回の婚約は」

 

「フェニックス卿・・・」

 

「しかし、今回のことでも驚かされてばかりだった」

 

「ええ。赤龍帝の力を受け継ぐ少年と異形の力を身に宿した少女がまさかのこちら側にいる。よりにもよって、私の娘が拾うとは思っていませんでした。そういえば、先ほどの冥界のパーティーが襲撃され、あなたの息子と娘が襲われたと連絡が入りました」

 

「なんと・・・私の息子たちは無事なのか?」

 

「命に別状は無いということですが、しばらくの間は療養が必要であるかと。襲ったのはあの少女の義姉であると聞いております。魔界の支配者でファントムと呼ばれるものであると」

 

「ふむ・・・しかし、その魔界の者が表立って冥界に現れるとは何かの不吉な予兆が予想できますな」

 

「私の息子とは因縁があるようですが、それが大事に繋がらなければ良いのですが・・・」

 

「赤龍帝、異形の少女、魔界からの支配者・・・これは冥界で波乱が起こりそうですな」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「サーゼクス様。パーティーでの後処理は大方完了いたしました」

 

「ライザーくんとレイヴェルちゃんの容態は?」

 

「レイヴェル様は軽傷ですが、ライザー様はかなり体を壊されてしまっております。命に別状はありませんが、しばらく治療と療養が必要であるかと」

 

「そうか。ご苦労だったね、グレイフィア」

 

「・・・・・・あのベールという女は、一体サーゼクス様とどういう因縁があったのですか?」

 

「・・・・・・私は、冥界の、未来の悪魔たちのために、魔王として行動を起こしているつもりだった。しかし私は、彼女の親戚に対して過ちを犯してしまったのだよ」

 

「過ち・・・?」

 

「そう。その過ちが原因であの子は歪んでしまったんだ。『大人はみんなを助けてくれる者じゃないの?』ってね」

 

「・・・サーゼクス様は」

 

「ん?」

 

「・・・サーゼクス様は、そのことをまだ後悔しているのですか?」

 

「・・・うん。彼女とは説得して関係を良好なものにしたいと考えている。しかし、あのような状態ではもう手遅れかもしれない」

 

「どうしてでしょうか?」

 

「彼女はもう――――魔界を壊し始めてしまっているからね」

 

 

◆◆◆

 

冥界襲撃から数日が経ったある日、いつものように私は公園のベンチに1人寝転んでいた。

 

太陽が眩しいな。いっそのこと、この地球に落ちてしまえばいいのにと思ってしまう。

 

疲れているのかと言われれば疲れているが、今日は何だか動きたくない気分なのだ。家にも帰りたくないし、誰かに絡まれたくもない。こんなところで野宿をしたって良い感じだ。

 

あの後、部活に顔を出さなくなってからは気持ちが少し軽くなった気がするのだ。何ていうか、トゲトゲの床の上で重荷を乗せられる拷問である石抱き責めから解放されたような気分だ。

 

というのも、アイツ――――グレモリーとは口を利きたくもないし、姿を見たくもないのだ。私の友人をまるでモルモットのようにライザーにボコボコにされるのを傍観するというクズが行うようなことを平然と行ったからだ。

 

まるで過去の自分を見ているようで本気で嫌だった。もし私があのゲームに参加していたら、グレモリーを叱り飛ばしていただろう。でも、私は眷属ではないのだ。むしろ眷属にもなりたくない。

 

兵藤はどうしてあんな女なんかが良いんだろうな、あんな軽薄な女が。私には到底理解できそうもない。

 

ライザーを粛清した後、私が仕方なくあの女を担ごうとする前、アイツは何だか申し訳なさそうにしていたが、何も聞きたくなかった。どうせ世迷言しか言葉に出ないのだから、聞いてやる価値もないのだ。

 

―――――ああ、ホント。この町からさっさと消えたいわ・・・・・・。

 

我ながら酷薄なことを思っているが、私にはあの女を護衛しなくてはならないという任務があるのだ。簡単に終わらせることなんかできない。ああ、面倒臭ッ・・・。

 

心の中で溜息を吐いていると私に人影が迫ってくる。目を閉じながら把握してみると、その人数は・・・2人か。

 

まあ、この特異な気配はよく分かっている。一つは魔力が大人を越えるぐらいに大きい女、もう一つは果てしなくお子様以下の魔力しか宿していない男だ。

 

右目を薄く開けて視線を向けてみると、ほら。やっぱりな。

 

「よ、よお・・・サクラ・・・」

 

「サクラさん・・・」

 

「・・・・・・ふん」

 

私はしばらく2人を見つめていたが、鼻を鳴らすと目を瞑って視線を戻す。お前らの考えていることなんか分かってるんだ。でも、聞いてやらない。

 

「な、なあ・・・サクラ」

 

「・・・・・・何。何か用?」

 

兵藤が呼びかけると、目を瞑ったまま私は返答する。どうせ言いたいことなんか分かってるんだ。

 

「まさか、部室に戻ってこいなんて言うつもりじゃないよな?」

 

「う・・・」

 

・・・ほら。私の思った通り。コイツらは私に部活へと戻ってきてほしいと思っているらしい。当然、そんなの死んでも御免だ。

 

「ソイツはグレモリーからアンタらへの命令か?」

 

「そ、そうなんですけど・・・」

 

「あっそ。ムカつくな、アンタらの上司は。オレは部活に戻るつもりなんてないし、あんな部長と一緒にいるなんてイライラさせられるだけだ。・・・そんなところに突っ立ってられると目障りだからどっかへ消えてくれ」

 

「サクラさん・・・うぅぅ・・・」

 

私はコイツらに明確に拒絶の言葉を吐くと背を向けて寝転がる。アーシアの泣きそうな声が聞こえてくるが、私には関係ない。

 

そんな私に兵藤が背後から真面目な声で呼びかけてくる。

 

「・・・サクラ、もう一度部長に会ってやってくれないか? 部長はお前が最近来ないことに落胆しているし、いつもの元気がないんだよ。部長が何したのかは知らないけどさ、部長だってきっと反省してると思うんだ。だから、頼む」

 

「・・・・・・・・・」

 

アイツが・・・反省? いや、そもそも・・・。

 

「反省してるならどうしてアイツから来ないんだよ?」

 

「それは・・・・・・」

 

こんな莫迦を使いに行かせてる時点で失礼に値するだろう。しかも、アーシアまで一緒に巻き込んでいる時点でふざけてんのかと思われる話だな。

 

私は体勢を仰向けに戻してコイツらに言い聞かせようと口を開いた。

 

「普通は誤った行いをしたヤツが謝罪に来るもんだろ。わざわざ部室に来させなければできない理由なんてあるのか? その時点でお前らへの不信感を抱くんだけど」

 

「う・・・えっと・・・」

 

「大体、お前らと一緒にいて何のメリットがあるんだ。付き纏われうろちょろされてウザいし、部長に呼び出されたかと思えば疲労になるようなことをさせられる羽目になるし、お前らの行動を見ていると本当にイライラして敵わない。そんなことをするくらいなら、自給のアルバイトをしてたほうがよっぽどマシ」

 

「そ、そこまで言いますか・・・?」

 

「もういいだろ。とっととオレの目線から消えろよ」

 

具体的な事例を出して明確な拒絶の意思を露わにすると私はもう一度、目を瞑った。

 

冗談じゃない。私はアイツらのお守係じゃないんだ。エデンでタダでさえ面倒な仕事を引き受けているというのに、これ以上付き合ってられるかよ。

 

「そ、そんな・・・サクラさん、見損ないましたよ・・・!」

 

アーシアが涙目で睨みながら訴えてくるが、私はその言葉に若干の怒りを覚えた。

 

バキッ!!

 

私は拳でベンチの背もたれにヒビを入れると、体を起こして言葉を返す。

 

「見損なった? 見損なったのはアイツのほうだ。兵藤を危険な目に遭わせておいて、自分は傍観者気取りってわけか? ふざけんな」

 

私は思わず声を荒らげると地面に足を叩きつけ、小きな亀裂を入れる。2人は私の姿に目を見開いていた。

 

私はそんな2人の驚いた表情に構わず、更に言葉を続ける。

 

「お前らもよく考えてみろよ。アイツは、リアス・グレモリーは、仲間よりもゲームの結果のほうを選んだも同然なんだぜ。見て見ぬフリをして、そしていざお前が殺されそうになると相手に泣きつく。ゲームの結果は分かってたくせに、くだらないプライドなんかを持ってゲームに負けた。そんな女を、オレが信用すると思ってるのか? 関わりたくもないんだよ、そんな不愉快なヤツ」

 

私は言葉を止めて2人を見ると両者とも呆然と見つめている。

 

「お前らが立ち退かないならオレが立ち退いてやるよ。昼寝の邪魔をされないところにな」

 

私はベンチだったものから立ち上がると2人の間を通り過ぎるように去って行こうとする。もうコイツらと話していても時間の無駄だ。一人でいられる静かな場所へと向かおうかな。

 

「それでも・・・・・・」

 

後ろから兵藤の声がするが、私は気にしない。ただ足を動かすだけだ。

 

「それでも、俺はあの人の下僕だ!」

 

叫ぶ声に私は思わず、足を止めて振り返ってしまった。どうしてだろう。アイツの言葉なんか綺麗事でしかないのに・・・。

 

「確かに部長は、そういうところがあるかもしれない。ゲームで気絶する前だって、俺にしか見せない涙を見せていたんだ。でも、みんながみんなお前みたいに強いわけじゃない。部長だって俺たちにも見せない未熟な部分だってたくさんあるはずなんだ。だからさあ、もう一度部長を信じてやってくれよ。ダメなところがあるなら俺だって部長をフォローする。だから――――」

 

最後に放った言葉で、私は確信した。コイツが本気であの女に仕えようとしているということに。

 

「だから、一緒に来てくれないか?」

 

・・・兵藤。お前は優しいな。本当にウザいくらいに。

 

みんながみんな強いわけじゃない? そんなことは私でも知ってるよ。だからムカつく。人の心に触れてくるようでムカつくんだよ・・・!

 

「・・・・・・そんなにオレに部室に来てほしいのか?」

 

私が返した言葉に2人は頷きを返す。

 

何で私はこんなことを聞いているんだろう? コイツらに未練があるっていうのか? いや、それはありえないな。

 

私は顎を当てて考えてみる。聞いてはみたが、別に行くとは言ってない。行かせるんだったらそれなりの報酬を払ってくれないとな。

 

・・・・・・ああ、そうだ。

 

「じゃあ――――」

 

誰にでもできる簡単な手があったな。あれをやってもらおうか。

 

「・・・キスしてくれるんだったら行ってやってもいい」

 

「・・・・・・はぁ!?」

 

「・・・・・・えぇ!?」

 

私が微笑を浮かべながらの提案を聞き、数秒の沈黙の後、素っ頓狂な声を出して驚く2人。コイツら、何を驚いているんだ。

 

「聞こえなかったのか? もう一度言えとか面倒臭いこと言うなよ」

 

「い、いや、聞こえたけど・・・!」

 

「おかしいですよぅ・・・そんな交換条件・・・」

 

おかしいわけあるもんか。私に動いてもらうんだ。これは当然の見返りだろう。

 

「何だよ。童貞と処女のくせにキスもできないのか?」

 

「い、いや、そういうわけじゃなくてだな・・・! それに童貞は関係ないだろ!?」

 

「む、むむむ無理ですぅ! まだ、イッセーさんとも抱いてもらえてないのに・・・」

 

「・・・・・・じゃあ、行かない」

 

私はそう吐き捨てると公園近くの木へと寄りかかって目を瞑った。キスぐらいで顔を真っ赤にするとか、ホントにウザい。

 

「お、おい! サクラ!」

 

「サクラさん! わがままなこと言わないでくださいよぅ・・・!」

 

「・・・・・・・・・」

 

兵藤とアーシアが抗議の声を上げるが、無視。私は早々に寝たいんだ。

 

大体、わがままを言ってるのはお前らのほうだ。はあ、何でコイツらの友人なんかやってるんだろうな。そんなものを作っても邪魔になるし、うるさいだけなのに。

 

・・・もしかして、私にはまだ友人が必要だという心がどっかに残っているのか?

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・いや、あり得ないな。何かの勘違いだろう。私はエレンやウィルたちのことは仕事で付き合う程度にしか感じていないし、側に置きたいとも考えていない。

 

いつものくせで私に寂しいなどというどうでもいい感情だと錯覚してしまっただけだろう。うん、きっとそうだ。

 

っていうか、コイツらさっきから私の前でこそこそ話なんか始めて離れないんだが。見かねた私は2人に声を掛ける。

 

「しないならさっさとオレの周囲から失せろ。今から眠りたいんだから」

 

私はそう言って再び目を瞑った。最近はよく眠れている日々が続いているのだ。ライザーを倒した余韻からなのかは分からないが、とにかく気持ちがいい。

 

・・・そういえば、アイツの妹のレイヴェルという女はリリーに似ているな。まあ、リリーはどちらかというとお嬢様の態度という品に欠ける部分があるけどな。

 

つい似ているからノリで助けてしまったが、私はまだリリーには愛着を持っているんだろうな。幼馴染だからか? まあ、どうでもいいけど。

 

「わ、分かりました・・・。キス、すれば部室に来てくれるんですね・・・?」

 

「じゃあ、早くしろよ」

 

「は、はい・・・」

 

声が聞こえたので目を開けてみるとそこには緊張気味な表情をしたアーシアの姿が横にあった。キス如きで頬を赤らませるとか、本当に意味が分からない。

 

私は目を開けながら無様なその姿を見てやることにした。しかし、アーシアはキスをするという行いに躊躇しているのか、なかなか顔を近づけようとしない。

 

可愛い顔を見せてくれるのも面白いが、あんまり待たせるのは嫌いだな。

 

「するなら早くしてくれる? オレの気が変わらないうちにさあ」

 

「は・・・はいぃぃ・・・」

 

イライラしたので、私はアーシアにキスを急かした。アーシアはぎこちない返事をするとしばらくの間、戸惑った後に覚悟を決めたのか、私に顔を近づけてきた。

 

正確に言うなら、顔の右真ん中、頬に10cm、5cm、2cm、1cm・・・・・・。

 

チュッ

 

――――私の頬に、彼女の唇が触れた。

 

アーシアはキスを終えると素早く私から顔を離した。恥ずかしがることでもないだろうに・・・・・・。

 

するとそこに兵藤の口が正面から私に迫ってくるのだが、正直気持ち悪かった。

 

パチンッ!

 

「グフェッ!?」

 

顔が数cm触れるか触れないかの辺りで思わず、右手が飛び出してしまった。この莫迦は少しは遠慮するという言葉は無いのか。

 

アーシアも何で頬にキスしたのかは分からないが、まあ交換条件は成立したわけだし、面倒だけど会いに行くしかないな。

 

私は無言で立ち上がると2人のことも気にせずに、少し離れた道路の真ん中に右手で闇の回廊を出す。

 

「え? あ、あの・・・?」

 

「今日の深夜0時、部室へと向かうと伝えておけ。・・・・・・それにしても」

 

戸惑っているアーシアに向かって、私は振り向き様にこう言い放った。

 

「・・・お前、キスがド下手だな」

 

「えっ!?」

 

本当は行くのが面倒臭いけど、私自身もアイツに会って確かめたいこともあったしな。ちょうどいい機会だろう。

 

私は絶句しているアーシアをそのままにして、背を向けたまま闇の回廊へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

サクラが了承したその日の夜、オカルト研究部の部室は重苦しい雰囲気に包まれていた。その原因となっているのは、デスク越しで向き合うサクラとリアスである。

 

オカルト研究部の悪魔家業が行われている時刻、サクラは突然闇の回廊を使って現れ、この部室へとやってきたのだ。もちろん、ドアのノックもちゃんとやっている。

 

リアスはサクラが来るまでの間、イッセーとアーシアから彼女が来るという報告を聞き、来るであろう時間を予測してすぐに下僕たちに準備を進めさせていた。当然、粗相の無いように行わなくてはいけない。リアスも一度サクラの機嫌を損ねているのだ。先輩なのにどうして後輩を諂わないといけないという疑問は本人の未熟さと仲間に対する考慮の足りなさを見返してみれば十分に分かるだろう。

 

そして、深夜0時。サクラはオカルト研究部の部室へと訪れた。扉を開けるなり、ソファへと直行し無言で座った。足を組みながら、まるでどこぞの社長のような座り方をしながら眠そうに欠伸をしていた。

 

息が詰まりそうな表情で2人を見守っている一誠。アーシアも隣でオドオドしながら気が気でない様子だった。もしかしたら、何か彼女の機嫌を損ねるようなことをしてしまったのではないかと思い始めてもいる。

 

小猫はいつものようにソファでお菓子を食べており、祐斗は少し思い詰めたような顔で2人の様子を見ている。朱乃はリアスの右後ろでいつものニコニコな笑顔で2人の様子を見守っている。

 

しかし、そのような光景はただでさえ部室へと来たくないサクラを余計に不機嫌にさせるだけであった。

 

そして、サクラの言葉から長い沈黙が破られる。

 

「・・・何か用? 言うだけ言ってみれば? どうせくだらないことだと思うけど」

 

「っ・・・・・・」

 

リアスは言葉が出てこなかった。サクラの言葉が棘のように突き刺さるからだ。下手なことを言えば、呆れられて帰ってしまうかもしれないからだ。

 

「なあ・・・言うなら早くしてくれる? オレはとっとと帰って寝たいんだけど」

 

「・・・・・・ねえ、サクラ・・・」

 

「・・・・・・ん?」

 

ようやく口を開くリアス。申し訳なさそうな顔でサクラのことを見る。

 

「・・・あ、う・・・」

 

リアスはサクラに謝りたいのだが、うまく言葉が口から出てこない。サクラが言い知れぬ殺気を放っているのが原因なのだが、そのような光景はサクラをますます苛立たせた。

 

「黙ってちゃわからないんだけど? 言うなら早く言えよ。くだらないことでオレを待たせるな」

 

サクラが苛立ったような口調で言う。リアスは一切笑っていないサクラの顔に、言葉にすることのプレッシャーをすっかり感じてしまっていた。

 

「・・・なさい・・・」

 

「・・・は?」

 

「・・・ごめん、なさい・・・」

 

「・・・・・・」

 

リアスからぎこちないが、謝罪の言葉が耳に入った。ただし、それだけだ。後は無言の空間が場を支配した。サクラにはそれだけではすっきりした気がしなかった。

 

「・・・それで終わり? 謝っただけで済むならファントムはいらないんだけどな」

 

「・・・・・・・・・」

 

「今のアンタの謝罪はオレにとっては何の抑止にもならない。謝るだけなら猿にだってできるだろ。アンタの言葉はオレには響かない。リリーもアンタとは一緒にいたくないんだとさ。本当に情けない『(キング)』だな。正直ガッカリした」

 

サクラはソファーから立ち上がると懐から『退部届』と書かれた封筒を2通取り出すとテーブルに叩きつける。もうここには居たくないと言っているかのよう。

 

「無駄な時間だったな。今度会うときは殺してやるから」

 

サクラはそのままリアスたちに背を向けて歩き出す。それを見てリアスは目を見開き、立ち上がった。

 

「っ!! 待って!!」

 

リアスの呼び止める声にサクラの歩みが止まる。リアスは俯きつつも、サクラに向かって言葉を発していく。

 

「ごめんなさい。私、本当にバカなことをしたと思ってる・・・あなたには本当に迷惑を掛けたわ・・・」

 

深々と頭を下げるリアス。彼女に対する精一杯の謝罪も込めて。大してサクラは無表情でリアスに背を向けたままだが、リアスの声は耳に入れている。

 

「皆、私のワガママのために頑張ってくれたのに、私がそれを全て無駄にしてしまうなんて・・・王としては失格だわ・・・おまけにあなたまで巻き込んで・・・」

 

自嘲するように言うリアス。今回は全て自分が悪いのだ。自分のワガママのために関係の無い周囲の仲間たちを巻き込んだのだから。

 

「私はまだ悪魔としては未熟者で、王としてもまだまだ未熟者・・・だからこそ、あなたの力が必要なの。だからお願い、もう少しだけあなたの力を貸して・・・お願い」

 

リアスの言葉にしばらく立ったままでいるサクラ。彼女は明らかに反省しているようだが、前の電話のときもすでにお願いは聞いたわけだ。また同じことを仕出かさないとも限らない。そうなったら面倒だ。

 

サクラは振り返り沈黙していた口を開いた。

 

「・・・アンタの言葉は信用できない」

 

「えっ・・・?」

 

「もっと言えば、口先だけの女に成り下がったアンタなんか、オレにとっては何の価値も無い」

 

サクラの言葉に呆然とするリアスだが、サクラは更に言葉を続ける。

 

「どいつもこいつも、いつもそうだ。言葉だけは綺麗にして、行動はすぐに言ってることと逆のことをする。言葉なんか嘘っぱちだ。だったら最初からそんなこと言わなければいいんだ。どうせ叶わない約束なのに・・・!」

 

その内容はリアスに語っているかどうかも分からない非難したものだった。

 

――――私はあなたのことを一生、守りますから。

 

――――いつまでも、一緒なのだ!!

 

かつて散っていた友人の言葉を思い出し、サクラの心に憤りの炎が生まれるも、すぐに冷静に戻る。ここで感情的になってはダメだ。そもそも、私は感情など捨てた身なのだから。

 

それでもリアスに対して酷薄な笑みを浮かべながら言う自分がいるのだ。

 

「どうせアンタは、オレの力に魅入られてここに留めておきたいと思ってるんだろ? そんな言葉なんか、すぐに忘れるんだろ? 言葉だけで人を安心させておいて、貶めるための何かを企んでんだろ?」

 

「ち、違うわ! 私は・・・ただあなたと分かり合いたくて・・・!」

 

「ハッ・・・どうだか。言葉なんか言ってしまえば簡単だろ」

 

リアスが反論するも、サクラの心には届かなかった。

 

「所詮、言葉なんか何の役にも立たないんだよ。悪口を言おうが煽てようが、言うことに何の重みも感じないな。要するに、オレがアンタの言葉に従う必要なんてどこにもないってこと」

 

サクラは遠回しに冷酷な結論を出すと、リアスが顔を俯かせ体を震わせ始める。

 

「・・・何、体なんか震わせてんの。寒いのか? いや、それはあり得ないな。もしかして泣きそうなの?・・・やめてくんない? そういうの。泣いているヤツを見ていると本当にイライラすんだよ。泣けば誰でも助けてくれるなんて思うなよ」

 

リアスに酷薄な言葉を投げかけるサクラ。ただでさえ面倒臭い状況に面倒臭いことが起きて本当に腹立たしい限りだ。

 

「そうじゃないだろ」

 

溜息を吐いたサクラがそう言うと、リアスがゆっくりと顔を上げる。その顔はすでに涙目で目を開いていた。

 

「言わなきゃ分かんないの? 言葉じゃなくて、態度で示せって言ってんの。何でこんな簡単なことを思いつかないんだよ」

 

サクラはソファに再び腰かけ、イライラしたような口調で言う。

 

「態度って・・・どうすれば・・・」

 

「そんなの自分で考えろ。高3にもなって他人に何でもやり方を請うのか? 面倒臭い・・・」

 

困っているリアスに、天井を見ながらサクラが言う。その後はお互いに沈黙した時間が続き、張り詰めた空気が部屋を満たしていた。

 

リアスはどうやって態度を示せばいいのか。土下座をしてお願いしますと言えばいいのか? いや、そんなことをしても信用できないと一蹴されるだろう。言葉は意味がないと言ったのだ。サクラの欲しい答えではないのかもしれない。一体どうすれば・・・。サクラが納得する答えを見つけられそうにないでいる。

 

(おいおい、不味いんじゃないのかこれは・・・。もしこのまま仲直りできなかったら・・・)

 

イッセーはこの空気に耐えられそうになかった。リアスに助言をしようと口を開きかけたとき、殺気を感じた。サクラが思いっきりこちらを睨むように見ている。まるで答えはコイツに見つけさせろと言いたげな表情だ。言いたいことを飲み込んで、様子を見ているしかなかった。

 

(く、空気が重いです・・・どうして、こんなことに・・・)

 

アーシアは困ったような表情をしている。頬に一筋の汗が伝っている。いつもはみんなが笑って過ごす楽しい部活の場のはずなのに、今では気を抜いた押しつぶされそうな空間と化している。何か言いたくても、自分も主を裏切って悪魔となった身だ。口出しができなかった。

 

さすがの小猫もお菓子を食べる手を止め、祐斗も朱乃も険しい表情で2人を見ている。

 

無言の空間が数分間続いた後、イラついたように口を開く。

 

「・・・・・・オレが考えてやらないとダメなのか?」

 

「!・・・・・・・・・」

 

リアスは体をビクンと震わせるが、俯いてばかりで口から答えは出てこなかった。それを数秒見たサクラは再び溜息を吐くと、更に言葉を続ける。

 

「人ってのはさ、何か必要なことや興味のあるものを見つけたりすると物事を達成させるか飽きるまではその場に留まるという習性があるんだよな。それは動物や悪魔、堕天使だって一緒だろ?」

 

「・・・どういうことなの・・・?」

 

「つまりオレが言いたいのは――――アンタがオレの興味をそそるようなことをすればいい」

 

リアスが目を開いて、顔を上げる。

 

「要するに、オレにここにいたいという気を起こしてやればいいんだよ。簡単な話だろ?」

 

「・・・私の力を、見せればいいの・・・?」

 

リアスがそう答えると、サクラは首を振って口を開く。

 

「アンタの消滅の力に興味は無い。そんなものはオレには響かない。もっと別のものにしろ」

 

自分が持つ消滅の力は一蹴された。これも興味が無いと言うのであれば、他に何を見せればいいというのか。

 

リアスが口を閉ざすとサクラがイラっとした様子で口を開く。

 

「また黙った。アンタって本当に救いようのない莫迦だよな」

 

サクラはソファから立ち上がるとテーブルの上に膝を乗せて進み、リアスへと近づく。リアスは思わずソファへと寄りかかるような姿勢になりながら、顔を離すもサクラの顔は眼前に来ていた。

 

「アンタの誘えるものはまだあるだろう。ここだよ、ここ」

 

「ひっ・・・」

 

サクラはリアスに不機嫌な顔から酷薄な笑みへと変え、リアスの肩から腕に掛けて、スカートを捲って太腿から脹脛に掛けて指先で撫でるように触った。思わず小さな悲鳴を上げるリアス。

 

私の体に興味があるとでも言うの? でも、サクラは私の体と肌に興味があるとは言い難い。

 

少し考えてリアスはハッとした。自分の中に流れるもの・・・それは。

 

「ま、まさか・・・」

 

「そうだ。アンタが考えている通り――――血だよ」

 

サクラの告白に、リアスが目を見開いた。そんな彼女の表情に気を留めるまでもなく、サクラはソファへ座り直した。

 

「アンタの血でオレを誘えばいいんだよ。妖魔だって血は大好物だ。それと同じだろ?」

 

・・・同じとは思えない。だってサクラは妖魔でもない。あの戦いを見て分かるが、彼女は鳳凰なのだ。血を欲するなど考えられるわけがない。

 

「まあ、とりあえずコイツを貸してやるよ」

 

サクラはそう言って短剣を抜くと、テーブルの上へと放った。

 

リアスは意味が分からなかった。何で血を求めるのに、自分の短剣を差し出す必要があるのか。

 

「な、何を・・・?」

 

「何って、見れば分かるだろ。短剣だよ。アンタがソイツで自分の体を傷つけて、オレに血を差し出せばいいんだ」

 

それを聞いたリアスは呆然としていた。さすがにこの言動にイッセーたちも驚愕を露わにしていた。

 

「サクラさん・・・さすがにそれは・・・」

 

「お、おい・・・いくらなんでも・・・」

 

「外野は黙れ」

 

祐斗とイッセーが口を開くも、言い終わる前に一蹴した。サクラは邪魔されるのが何よりも嫌いだ。

 

「そ、そんなこと・・・」

 

「できない、なんて今更ここまで来て言わないよな? アンタが何もしないならオレはこのまま帰るだけだ。当然だろ? ただ座っているようなヤツにオレが興味を示すわけがないもんな」

 

サクラはソファで寝る体勢になりながらそう言った。リアスの間に迷いが生じていた。

 

自分で自分を傷つけるなんておかしいとしか思えない。でも、ここで断ればサクラは本当に自分を見捨てて行ってしまう。この気持ちがリアスの頭を混乱させていた。

 

しかし、リアスは意を決した。テーブルに置かれた短剣を拾うと、サクラに向かって告げた。

 

「・・・・・・分かったわ」

 

「部長!?」

 

その発言にイッセーが驚くと、リアスは振り向いて微笑みを見せた。

 

「大丈夫、心配しないで。少し、血を出すだけだから」

 

リアスはそれだけ言うと前を向いてサクラと向き合う。

 

「で? どこを切るの? 足? 手首? 太腿? それとも目でも抉るか?」

 

サクラは次々と場所を言い当て、最後の体の部分には酷薄な笑みを浮かべていた。

 

リアスは多少戸惑ったような表情をしていたが、サクラの言っている場所では大して彼女の興味を誘えないだろう。彼女はすでに大したことのない場所をやると見据えているだろうとと考えている。

 

まだ、彼女が言っていない興味が誘える場所を言ってみた。

 

「・・・・・・首にするわ」

 

「ふーん、いいんじゃない? じゃあ、こっちに見えるように短剣を首に添えろ」

 

リアスはサクラの言われたとおり、首の右横辺りに短剣の刃をあてがった。しかし、その手は怯えているのかカタカタと震えている。

 

その様子を見てサクラは酷薄な笑みを浮かべた。

 

「アンタがそうやって剣をあてがっている姿は意外とそそる。だって一歩間違えれば自殺みたいなもんだしな」

 

「っ・・・」

 

「あとはその短剣を前に引けば、首の肉がスパッと切れて中から血が吹き出てくるんだろうなぁ・・・ククク」

 

サクラが加虐的な言葉を投げかけながら笑う。リアスは短剣を前に引こうとするも、一つ間違えたら命を失うかもしれないのだ。その恐怖が押し寄せてきて、手が動かない。

 

「どうした? 早く短剣を前に引け。そしてその血でオレを誘ってみろよ。まあ、アンタのそうやって怯えて躊躇してる姿を見ているのも悪くはないけどな」

 

サクラが自分を焦らしてくるも、リアスは片手で持っている短剣を両手で持つように握り締める。

 

イッセーたちも緊迫した様子で目を離さず見つめている。自分たちの主がいつ倒れるかを備えるかのように。

 

リアスはしばらく躊躇して動けなかったが、数分経つとサクラはいい加減に苛立ったような口調で言ってくる。

 

「なあ、いつまでそんな格好してるワケ? いい加減にその姿も見飽きてんだけど。やらないなら短剣を返してくれる? それともリベリオンで心臓辺りを貫いたほうがいいのか?」

 

手を頭の上に組み寝る体勢でいるサクラの目は本気だ。このまま何もしないでいれば、本当に帰って行ってしまうかもしれないし、ましては自分が魔剣に刺されてしまうかもしれない。そういう感情が気持ち的にリアスを焦らせていた。

 

リアスはサクラの言葉を受けて目をギュッと瞑ったが、覚悟を決めたように目をキリッとさせた。そして――――。

 

ザクッ

 

短剣を前に引き、自分の首の肉を切った。

 

「うっ・・・く・・・」

 

痛みに呻くリアス。歯を食いしばるも、彼女の首からはサラサラと血が流れていく。制服の右肩が血に染まっていく。

 

「部長!!」

 

イッセーが思わず悲鳴を上げる。それを聞いたサクラが目を開けて、リアスのほうを見ると感心したような顔をした。

 

「・・・本当に切ったのか。最初にいたときから莫迦だと思ったけど、アンタは本当に莫迦だな。そこまでしてオレが欲しいのか?」

 

「もちろん、よ・・・あなたには、まだ、お詫びをしていない、んですもの」

 

首の傷を抑えながらリアスがサクラに言う。サクラはその様子を見て酷薄な笑みを浮かべる。本当はもう血の臭いが漂っているのだが、彼女はリアスのその歪んだ顔をもっと歪ませたくなった。

 

「アンタの意思はよく分かった。でも、そんな程度じゃまだオレを誘うには足りないんじゃないのか?」

 

「えっ・・・?」

 

「その傷口を抉って、オレを誘ってみせろ。もちろんその短剣でな」

 

「なっ・・・」

 

「痛いだろうなぁ。そんな傷を抉ったら化膿してもっと酷くなるんだろうな」

 

酷く傷をつけたというのにまだ足りないというサクラの言葉にリアスは絶句した。これ以上短剣で抉ったら、下手をすれば治らない傷になってしまうかもしれない。

 

「できないんだったら仕方がないな。オレはアンタに退部届を叩きつけて帰るだけだ。剣なんか家にいくらでもあるしな。その短剣を置いていっても何の問題も無い」

 

更に酷薄な発言を叩きつけて、リアスを煽るサクラ。もうサクラの目が嘘を言っていないということは明らかだ。

 

リアスは覚悟を決めて短剣を首の傷に近づけるが、あの痛みを味わうのはさすがに怖い。短剣が傷を抉ろうとしなくなった。正確に言えば、手が怖くて動かないのだ。

 

「また止まるのか? オレのためを思えばできるだろう? オレの力と引き換えにアンタは自分の命さえも捧げるなんて惜しくないだろう。・・・・・・そのぐらいの気持ちさえあれば、自傷なんて安いもんだろう」

 

見かねたサクラが更に後押しするかのように残酷な言葉を投げかける。それでもリアスの手は動かない。仲間のためなら命を捧げても良いと思うようにはなったが、いざやろうとなると体が震えるのだ。

 

サクラは溜息を吐いて、別の言葉を言う。

 

「短剣が無理なら自分の指を使えばいい。自分の体同士なんだからそのぐらい平気だろ」

 

サクラは少し甘めの発言をリアスに言った。リアスにとっては甘くなったとは思えないが、それでも刃先で更に傷を抉るよりかはまだマシだった。

 

リアスは短剣を床に落とすと自分の首の傷と反対の手を近づけ、首の傷に自分の人差し指を挿入した。

 

「っ・・・う・・・」

 

痛みに顔を歪めつつも、リアスはそのまま親指を傷の中に入れ傷口を広げようと開いた。

 

グリ・・・グリグリ・・・。

 

「うぁ・・・ぁ・・・・」

 

額を汗で濡らしつつ苦鳴を漏らすも、2つの指で傷口を更に広げていく。傷口から血が更に流れていく。

 

ピチャ・・・ピチャ・・・。

 

カーペットに首からの血が垂れ、赤くしていく。部屋に充満していた血の香りが、更に香りを強くして広げていく。

 

サクラはもうこのぐらいでいいだろうと言わんばかりに、恍惚としたような表情をしていた。

 

「ああ・・・血の芳醇な香りが広がっていくな。紛れも無いアンタの血だ」

 

サクラはソファから起き上がると立ち上がり、冷笑を浮かべながらリアスへと近づく。

 

「何だか、アンタの血の匂いには逆らえそうにないな」

 

「ぅ・・・きゃっ!?・・・」

 

サクラはリアスの横に座り、横から彼女に抱き着くと首の傷に顔を近づけると口で傷を覆いつつ、舌でその傷を舐めた。

 

自分とリアスの間に隠し持っていた小瓶を滴り落ちているリアスの血をすくいつつ・・・。

 

「っ! 痛っ・・・」

 

「動くな。面倒臭い」

 

リアスは首筋に痛みと熱さを感じるも、サクラはそんなことを気にも止めずに一言申すとしゃぶるように傷を舐め、その後も傷口を吸い続け血を飲んだ。

 

「ん・・・ちゅ・・・っ・・・」

 

「ふっ・・・ぅ・・・」

 

リアスは小さな苦鳴を漏らしていたが、サクラは傷周りの血も舌で舐め、更に傷から滴る血を口に含ませていく。

 

サクラはリアスのほうに視線を向けながら、彼女に言う。

 

「アンタは莫迦だけど、血は極上の味だ。それは認めてやる。ちゅ・・・ん・・・。もう少しだけアンタらに付き合ってやるよ」

 

「!・・・っ・・・う」

 

――――アンタらに付き合ってやる。

 

諭すようなその言葉を聞いたリアスは痛みを感じつつも、サクラに安堵したような微笑を浮かべる。するとそのまま力が抜けたように、前のめりに倒れてしまった。サクラは倒れそうになったリアスの体を支える。

 

「気絶したのか。面倒だな・・・しっかりと生きているヤツは」

 

「部長!」

 

「部長さん!」

 

イッセーとアーシアがリアスの元に駆け寄る。サクラは手を貸せと言わんばかりにイッセーにリアスを差し出すと彼は彼女を託された。

 

アーシアはすぐに緑色の光を首筋に当てて、彼女の傷を治していく。リアスの表情は何かをやり切ったような安らかなものだった。

 

サクラはソファから立ち上がると床に落ちていた短剣を拾って鞘に戻し、テーブルに置いてある退部届を2通拾い上げ、部室のドアへと向かっていく。

 

「サクラ! お前、こんなことして恥ずかしくないのか!?」

 

背後からイッセーの叫び声に、サクラが立ち止まる。

 

「別に・・・」

 

「さっきのはさすがにやり過ぎだと思うよ、サクラさん。部長が可愛そうだ」

 

祐斗が非難を交えたような変わらない口調で言う。サクラはしばらく沈黙した後、口を開いた。

 

「アンタらの部長がせっかくここまでやったっていうのに、アンタらはそれを台無しにしたいのか?」

 

「違います! ただ―――」

 

「ならもう終わったんだからどうでもいいだろ。ごちゃごちゃとうるさいヤツらめ」

 

朱乃の言葉を遮ってサクラはそう言うとドアに向かって歩き始めた。

 

―――私のことを、利用したいだけのくせに。

 

サクラは心の中でそう思いながら、ドアノブに手を掛けると振り向き様に退部届を一枚手に取ってこう言った。

 

「グレモリーが目を覚ましたら伝えておけ。『アンタらなんかいつでも捨てられる。オレをこの場に留まらせたいのなら、アンタが努力するしかない』ってな」

 

手に持っているそれを炎で燃やし、灰とするとサクラはドアを開けて部室を後にした。

 

「サクラ・・・お前は、そんなことがしたいヤツだったのかよ・・・!」

 

イッセーは彼女が立ち去った後、何とも言えない表情で扉を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

ふぅ・・・・・・。

 

やっと面倒な話し合いが終わった・・・。本当に面倒だった・・・・・・。

 

でも、あのグレモリーの血が美味しかったのはいい誤算ではあるな。誤算過ぎて・・・ムカつくな。

 

『お前、こんなことして恥ずかしくないのか!?』

 

やり過ぎたなんて思ってない。むしろこのぐらいはまだまだ甘いほうだよ。もっと苛めてやりたかったけど、これ以上はアイツがコワれる。

 

私が廊下へ出ると闇の回廊からウィル、エレン、リリーの三人。いつもの私の仕事仲間だった。

 

「どうでした?」

 

「・・・何がだ」

 

「リアス・グレモリーとは、どうでした?」

 

エレンが何かを問うと思ったらそういうことか。くだらない。

 

「どうもしない。あんな女はどうなろうとオレは困らないな。しかも、ムカつくことにアイツが黒だったとはな」

 

「黒ってどういうことですか?」

 

「しらばっくれるなよ。あの女もアーシアと同じ、7人のうちの1人だ」

 

『!!』

 

3人がその言葉に驚愕を示した。とはいっても、そんなに驚いてはいなかったが。

 

「まさか、嘘よ・・・あんな仲間を大事にしない女が・・・?」

 

「嘘じゃない。だったらこの小瓶の血を少し舐めてみるか?」

 

私は小瓶を取り出すとその中に入っている赤い液体を3人に見せた。これはグレモリーから採取した血だ。後で老害共に手渡すんだけどな。

 

エレンとウィルとリリーに小瓶の中の血を少し、それぞれの指に垂らしてあげると三人はその血を舐めた。

 

「・・・・・本当ですね」

 

「・・・・・確かに」

 

「・・・・・美味しい」

 

三者三様の反応を私は見るとまだ残っている血の入った小瓶にコルクの蓋をして懐にしまった。

 

「まあ、情愛の深いグレモリーのことですから。納得はいきますね」

 

「信じられない・・・あんな女が・・・」

 

エレンはずれた眼鏡を元に戻しながら言い、リリーは何だか納得していない様子だった。

 

後ろめたいのは私のほうだ。だって・・・・・・。

 

「また、あの老害共に護衛しろと言われるのか? 本当に頭が痛いな。まだ、あんな女と付き合わなきゃいけないなんて」

 

「まあいいじゃねえか。まだまだ、アイツらは飽きそうにないしな」

 

「これからどうなるのか。楽しみですね」

 

エレンとウィルは目を赤く光らせながら酷薄な笑みをするが、リリーは俯いて考え事をしている様子だ。

 

私はリリーに一通残った退部届を差し出して言う。

 

「お前はどうするんだ?」

 

リリーは数秒沈黙していたが、そのうちやけくそになったかのように苛立ちを露わにした。

 

「ああ、もう! 分かったわよ!!・・・まあ、アタシもアーシアがあの女の魔の手にいるわけだし、取り戻すまでは一緒にいるわ」

 

「ふっ・・・そうか」

 

・・・相変わらず、素直じゃなくて面倒臭いヤツだ。でも、それがコイツの気に入っているところなんだけどな。

 

私は手に持っていた退部届を燃やすと灰になったそれをその場にばらまいた。

 

「グレモリー眷属とは、まだまだ楽しめそうだな」

 

ウィルがそう言うと私たちはいい玩具でも手に入れたかのような笑い声を廊下で響かせながら、闇の回廊を使ってその場を去った。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「ぐあぁぁぁぁぁ!!」

 

一人の修道服を着た老人が身体を剣に肩から腰に掛けて切断され、地面へと落ちた。血の海が地面に広がっていく。

 

「一丁上がりィ!! ハハハハハハハハ!!」

 

白髪の男は奇々怪々とした不気味な口調をしながら、物言わぬ屍と化した老人を見て高笑いを上げる。

 

「イヤァー♪ 本当にこのエクスカリバーちゃんはすげぇざますよ。ちょっと試しに神の名を語るクソジジイをチョンパしてみたけど、スパンと真っ二つになって落ちていくんだもんなァ。内臓もチョビチョビ丸見えって感じー? じいさんには感謝しないといかんざんすねぇ!」

 

男は剣を腰に収めると老人の遺体には目も暮れずに背中を向けて歩きはじめる。

 

「さてさて、まだまだ斬って斬って斬りまくらないと俺の衝動が治まらないぜぇ! 他に俺の熱き心をフリーズしてくれるクソはいないざんすかねぇ?」

 

男は高笑いを上げながら、森の中へと消えていった。

 

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