時系列的には第一章の後日談です。
どうも、こんにちは! 兵藤一誠です!
これは、アーシア、サクラ、リリーちゃんがオカルト研究部に入部し始めたころの話だ。
この日もオカルト研究部のメンバーは全員集合していて、思い思いの時間を過ごしている。うんうん、今日も女の子と一緒にいられて幸せだぜ。一人、邪魔なイケメンがいるけどな。
俺の残念な悪友である松田と元浜たちと一緒にいるときよりも、楽しい一時だ。なんて言うとアイツらにぶん殴られそうだから、その言葉は心の中に飲み込んでおこう。シキとリリーちゃんに白い目で見られそうだし、胃が痛くなってちょっと耐え難いかな?
まあ、それはともかく、本日も定例のオカルト研究部の会議がある。今回の議題はというと・・・・・・?
「ねぇ、イッセー。駒王学園七不思議って知ってるかしら?」
「七不思議って・・・それって所謂、学校の七不思議と同じようなものなんでしょうか?」
「そうね。同じようなものね」
眼鏡を掛けて書類に目を通している部長がそう答えた。眼鏡姿の部長は結構可愛いなぁ~。
「普通に考えてそうだろ。何だと思ったんだ、この莫迦は」
「ホントよね。そんなこと、バカでも分かるでしょうよ。ああ、大バカだから分からないのね」
サクラとリリーちゃんがこっちに振り向きもせずに、チェスをしながら俺にキツイ一言を浴びせてくる。別にいいじゃねえか・・・聞いてみただけなんだし・・・。
「この学園にも七不思議があるのよ、七不思議」
「へぇー、始めて聞きました。知ってた? 小猫ちゃん」
微笑みながら言う部長に俺は感心覚え、隣に座っていた小猫ちゃんに訪ねてみた。小猫ちゃんはリリーちゃんに貰ったチーズケーキを食している。
美味しそうだな・・・リリーちゃん、俺にもくれないかな。
「・・・オカルト研究部の部員としては、当然です」
小猫ちゃんはさも当然のことのように言う。
「確かに。オカ研に属しているなら当然だよな。サクラとリリーちゃんは知ってたの?」
「知ってるけど、興味ない。大体、七不思議なんか生徒共のくだらない妄想だろ」
「ホントよね。みんなしてそんなこと考えちゃって。いい加減に非現実から脱却して欲しいものだわ」
うーん。2人は知ってるけど、奥深いところまで知っちゃってるみたいだな。っていうか、非現実から脱却って・・・俺たちは存在そのものが非現実みたいなものな気がするんだけど・・・。だって悪魔だし。
オカルト研究部という表向きの活動で、悪魔家業をやっているわけだが・・・あれ? そういえば・・・。
「部長、こういうオカルト的議題をすること自体がレアですよね? いっつもお菓子とお茶を嗜みつつ談笑してばっかりだし、この間なんか突発的に将棋大会なんか開いてたじゃないですか!?」
将棋大会の前には、チェスやオセロなんか始めちゃったりなんかして、挙句の果てには命を落としかねないような大会を開いてましたよね? オカルトらしく幽霊の話や心霊スポットに行ったりとかもまるでしていないし、やるオカルトなことといえば悪魔家業だけだよな。
すると朱乃さんがニコニコした顔で答えた。
「あらあら、そういうのは野暮ですわ。アーシアちゃん、紅茶のおかわりはいかがかしら?」
「はい。いただきます」
「オレにもくれ」
「アタシにも頂戴~」
「あらあら、はいはい」
朱乃さんがアーシア、サクラ、リリーちゃんのティーカップに紅茶を注いでいく。そして、ティーカップを三人に差し出す。
「ありがとうございます、朱乃さん。お茶会とても楽しいです」
「ん。ソファ最高。何もしたくないな。っていうか、そういう面倒なことしたくないし」
「ありがとうございます。アタシもサクラとアーシアと一緒にいられればそれでいいわ」
「うふふ、よかったですわ」
3人が紅茶を啜って、癒しのある雰囲気を作り出している。あの辺だけ何だか暖かそうだ。気のせいか、サクラとリリーちゃんの顔に赤らみが見えるような感じだ。朱乃さんも3人の様子を見て嬉しそう。
いや、だからそういうことをするんじゃなくて、もうちょっと身の周りに起こっている幽霊的なものを調査したほうがいいと思うんだけど・・・。あの空気にはそういうことをしようっていう感じがまるでないな。
「・・・そういえば、将棋大会最下位でしたね。イッセー先輩」
「悪魔ならチェスや将棋を嗜むのもありだと思うよ」
唐突に小猫ちゃんと木場が言う。ホントにそういう話題しか出ないよな・・・。
「・・・なあ、木場。ここホントにオカルト研究部なのだろうか?」
もういっそのこと茶道部や将棋部、ゲーム部のほうが合ってるような気がするんだけどな。
「まあ、その話は置いといて。七不思議よ。実はこの部に入部したばかりのイッセーとアーシア、サクラ、リリーに駒王学園の七不思議を見てきてほしいの」
「七不思議を見る? それって俺とアーシアとサクラとリリーちゃんが、ですか?」
「また唐突だな。なんか裏があるようでならないんだけど。リリー、チェックだ」
「ああぁぁぁん、また負けたぁぁ・・・。これで15敗目よ・・・。えっ、アタシも行くんですの?」
チェスをやりつつも、部長の話はちゃんと聞いてるサクラとリリーちゃん。でも、なんだか嫌そうな顔をしているのは隠せていないな・・・。俺でも分かる。
「そうよ。せっかくのオカルト研究部なんだから、部活も堪能しないといけないわ」
「今だって紅茶飲んで、ゲームして楽しんでるだろ。それで堪能して来いとか、ホントに意味が分からん」
どっちが屁理屈を言ってるのかは分かんないけど、どっちもどっちのような気がするぞ。サクラのほうが屁理屈っぽいけど、部長も部長だよな。
「そう言わないの。悪魔の仕事が終わったら、4人で探検して来てほしいのよ」
「探検って・・・構内を、ですよね? 悪魔の仕事後だなんて、深夜じゃないですか」
そんな時間に俺たちに学校へ行けって言うんですか!? もし変なものが出てきたら、どうすればいいんですか!?
「うふふ。雰囲気あるでしょう? きっと楽しいですわよ」
朱乃さんが微笑みながら言う。俺にはあれが敵を嬲るようなドSな表情に見えた気がするぜ。
「うぅぅ。夜中に探検なんて・・・ゴ、ゴーストさんが出てきたらどうしましょう・・・?」
アーシアが自分の体を抱きながら言う。まあ、それが普通の反応だよな。
「・・・悪魔が幽霊を怖がっちゃダメです」
「そうよ、アーシア。悪魔のくせに怖がってたら笑われるわよ」
「で、ででででも、悪魔になったからって怖いものは怖いですぅ・・・」
小猫ちゃんとリリーちゃんがきっぱりと言う。
小猫ちゃんは相変わらず厳しいな~。リリーちゃんは、あれ? 気のせいかティーカップを持つ手が震えている気がするんだけど。
リリーちゃんをしばらく見ていると俺のほうを睨み付けてきた。
「何、見てんのよ? 変態」
「い、いや! 何も見てないよ!?」
リリーちゃんから慌てて目線を逸らす。あぶねぇ・・・あんまり直視したら殺されるところだった・・・!
俺は話を逸らすかのように部長にあることを訪ねてみた。
「そういえば、幽霊っているんですか?」
「ええ、いるわよ。でもこっちは悪魔なんだから、怨霊や生霊がいたら振り払いなさい」
部長はさも当然のように言う。こっちは元・人間で悪魔についてもよく分からないのに、振り払えとか簡単に言ってくれますね!?
「アーシア、アタシも一緒に行ってあげるから、安心なさい」
「うぅぅぅ、あ、ありがとうございます・・・」
リリーちゃんが震えるアーシアを抱きしめながらそう言った。体が震えているのは・・・見なかったことにしよう。
「オレは行かないぞ」
「「ええっ!?」」
サクラが一言でスパッと言いだし、両手を頭の後ろに当ててソファに寄りかかりはじめる。
「何でそんな面倒なことをしなきゃならないんだよ? 七不思議なんかくだらない妄想、それでいいだろ。オレは動きたくないの」
「で、でも、本当に妄想なのか行かなきゃ分からないですし・・・」
「そ、そうよ。もしかしたらサクラの興味のあることがあるかもしれないじゃない?」
2人は明らかに声が上ずっているけど、サクラは意にも介さずに背を向ける。シキは前から雑用を好まないからなぁ。たかが『七不思議』の調査のために、働きたくもないんだろう。
「行くなら3人で行けよ。そんなに大勢で行ったところでオカルト現象なんか起こるわけないだろ」
・・・まあ、そうかもしれないけど。確かに幽霊は驚かすのは好きだ。みんなで行ったって驚かしようがないから出てこないかもしれない。サクラはそう読んでるんだろうな。
この言葉にリリーちゃんが涙目になっていき、抗議する。
「その七不思議も、妖魔の仕業ってこともあるかもしれないじゃない!」
「ひぃっ!?」
リリーの言葉に、アーシアが悲鳴を上げる。
「・・・・・・妖魔?」
リリーちゃんのその言葉に、サクラが体をピクリとさせ2人のほうを振り向く。リリーちゃん、どんだけサクラに来てほしいんだよ・・・?
するとリリーちゃんがサクラの体に飛びつく。2人はその勢いでソファから転げ落ちた。
「っ!!? おい、離せっ・・・!」
「お願いお願い!! 一緒に来て!! お願いです、お願いしますぅ!! サクラが来ないと不安なんですぅ!! お願いしますだぁぁぁ!!!」
「嫌だって言ってるだろ!! 離せっ!!!!」
「嫌嫌嫌嫌ぁっ!!! サクラが行かないなら絶対に離さないぃぃぃぃ!!!」
2人のバタバタと暴れる様子が展開され、リリーちゃんの喚き声が響き、シキがリリーちゃんを必死に引き剥がそうとしている。何なんだよ、この光景・・・。まるで復縁をしないと死んでやると言っている彼女みたいだな。
するとサクラは疲れたのか、抵抗を止めてバタリと両腕両足を地面に落とした。リリーちゃんは未だに「うぅぅぅぅ」と漏らしながら体にしがみついている。
しばらく沈黙が訪れた後、サクラが口を開く。
「・・・・・・きつねうどん」
「えっ?」
リリーちゃんが顔を上げる。
「きつねうどんを後で奢ってくれるなら行ってやってもいい。兵藤の金でな」
きつねうどんを奢るという条件でシキは一緒に行ってやれるのか。何だかんだで、サクラは優しいな。俺の金で奢ってやるなんて・・・。
・・・・・・・・・は? 今、なんて言った? 俺の金で?
俺が密かに絶句している中、リリーちゃんはぱぁーっという明るい顔になった。
「うん。後で奢ってあげるね! 猿の金で♪」
「ちょ、ちょっと待てぇぇぇ! 何で俺が!?」
何でこの二人のいざこざで俺の小遣いが吹き飛ばなきゃならないんだよ!!! お前ら金持ちなんだから、絶対に金あんだろッ!!
と、抗議をする前にリリーちゃんが俺に睨みを聞かせてきた。
「・・・何よ。文句でもあんの?」
「い、いえ。なんでもないです」
「男だったら女に気を利かせなさいよ。全く、これだから男は・・・」
理不尽な要求をされているのに、俺は何も言えなかった。下手をしたら氷漬けにさせられかねん。
はあ・・・後でサクラにきつねうどんを奢らないといけないのか・・・。この辺に深夜に空いてる店あったかな。後で調べておくか。
部長はその光景をうんうんと感心したように眺めている。少しぐらいは俺の心配もしてくださいよぉ・・・。
「それじゃあ、イッセー、アーシア、サクラ、リリー、深夜の学園七不思議を体験してくるのよ」
「怖いですけど・・・分かりました! イッセーさんやサクラさん、リリーさんと一緒に頑張ります!」
アーシアは不安そうな顔を浮かべていたが、決意したようなキリっとした顔になった。
「はーい! リリーちゃん、行っきまーす♪」
「はあ、面倒臭・・・」
リリーちゃんは嬉しそうに部長のほうを向いて、手を挙げながら言った。サクラは溜息を吐き、着物の埃を払いつつ呟いた。
「あはは・・・エライことになったな・・・」
こうして俺たちは深夜の学園に潜入することになった。悪魔家業の後。
大丈夫かな・・・幽霊も・・・俺の財布も・・・・・・。
◆◆◆◆
深夜、悪魔家業の後、4人は夜の学校へとやってきた。狼が吠え、蝙蝠が飛び交いそうな雰囲気の夜の校舎だ。
これから4人で駒王学園の七不思議ツアーが始まるわけだが、中にはサクラのようにそんなものに乗り気ではないものもいるわけで。
イッセーとサクラは少し離れた位置に並行に歩いていて、アーシアとリリーはそれぞれサクラの左と右の袖を掴みながら隠れるように校舎の中を歩いていた。
「夜中の学校は、やっぱり雰囲気あるな・・・。昼間はあんなに明るくて人がいたのに、今は誰もいなくて真っ暗なんだもん」
イッセーは落ち着かない様子で歩いているが、サクラにくっついている金髪少女2人はもっと落ち着かない様子だった。
「・・・おい。お前ら引っ付くな。歩きにくい」
「だってぇ・・・うぅぅぅ、怖いですぅぅ・・・」
「ア、アタシはサ、サクラがどっかで逃げ出さないように抑えてるだけよぉ・・・こ、怖くなんかないもん・・・」
「だったら離れろよ、ウザい」
「酷いッ!」
サクラの訴えにアーシアは若干涙目、リリーは袖をギュッと掴みながら分かりやすい虚勢を張り、彼女から離れようとしない。シキは眉を引くつかせながら苛立っている様子だ。
カタンッ。
「きゃっ!?」
「ひぃっ!? ちょっ、何なのよもう!?」
どこからか軋んだような音が聞こえ、アーシアが悲鳴を上げ、リリーも驚いた。
「イ、イッセーさん。い、今、そこで、何か物音がしたような・・・」
「き、気のせいだよ、アーシア」
「そ、そうよ! 変なこと言わないで!」
体を震わせながら言うアーシアをイッセーが落ち着かせようとする。リリーももろ必死になっていた。
「ま、まあ、何か出てきたら俺やシキが悪魔と幽霊の超次元バトルになってでも守るからさぁ!」
「オレは悪魔じゃないけどな。まあ、邪魔者は殺すに限るしな」
イッセーとシキがそう言うが、アーシアはまだ落ち着いていない様子だった。
「い、一応は聖水と聖書も持ってきました。いざとなったら聖水を振りかけて、聖書を読み上げます! こ、これでも
「いやいや、聖書を読み上げたら俺とアーシアは悪魔だから大ダメージだよ! 幽霊と一緒に成仏しちゃうからね!」
アーシアも少々自信ありげに言うが、こんなときだけ鋭いイッセーはツッコミを入れた。
「まあ、聖水ぐらいならアーシアにも使えるだろ。直接触れなければダメージは受けないからな」
サクラも面倒臭いと思いつつも、アーシアのフォローを入れる。聖書は無理だけど、聖水は工夫すれば使える、というような正論を述べただけなのだが。
「うぅぅぅぅ・・・」
アーシアは未だに袖をギュッと握り締めながら体を震わせている。今にも泣きそうな様子だった。
サクラはそれを見ると溜息を付く。そしてアーシアに近づき、彼女のことを抱きしめた。
「きゃっ、サクラさん!?」
「何かあっても、オレと兵藤が守ってやる。お前の好きな相手と尊敬してる2人が守ってやるんだ。何も心配するな」
サクラはそう言いながらアーシアの頭を撫ではじめた。
兵藤は最初、訳が分からないような顔をしたが、察したのか一緒にアーシアの顔を撫ではじめた。
「そうだぜ。俺とサクラが守ってやるから。怖がる必要なんてないぜ」
アーシアは最初驚いたような顔をしていたが、すぐに赤らめた可愛らしい笑顔になって。
「は、はい! ありがとうございますぅ!」
暗い校舎の中、3人がほんわかとした雰囲気が漂っていた。
「えっ? ちょっと! 何よ、この空気!? アタシだけ置いてけぼり!? ねえサクラ、アタシの頭も撫でてよぅ!!」
その空気に除け者にされている金髪ツインテールが一人。すっかりこの雰囲気に動揺して仲間に入れてもらおうとするのだが。
「お前は別に怖がってないんだからいいだろ」
「怖いわよ、アタシだって!! アタシだってか弱い乙女なんだから!!」
「か弱い乙女は兵藤を殴ろうとなんかしない」
「で、でも・・・!」
「お前は人体模型にでも抱き着いてればいいだろ。空気読めよ、マセガキ」
「ガーン・・・」
リリーはその場で石のように固まってしまった。
しばらくアーシアを撫で続け、落ち着いたところでサクラは体を離す。そして前を歩き出す。
「ほら、さっさと終わらせて帰るぞ」
「は、はい!」
「おう!」
「はっ! あっ、ちょっと待ってよぅ!!」
リリーは自分だけ置いてけぼりを喰らうのを恐れつつ、またサクラの腕に抱き着く。
「だからくっつくなっての」
「嫌っ! 絶対に嫌ぁっ!!」
アーシアはもう引っ付くようなことをしていないが、リリーは未だにサクラに甘えたいようだ。アーシアとイッセーはその様子に苦笑していた。
ふとアーシアはこんなことを口にした。
「イッセーさんとサクラさん、凄いです。こんなに怖い雰囲気の学校を歩いてるのに、平気な顔をしていられるなんて・・・」
「まあ、慣れてるからな」
「私も、悪魔として見習わなければいけません!」
アーシアがそう言うと、イッセーは何だか詰まったような声を出した。
「いや、これはその・・・あははは」
「まあ、その心意気があるなら大丈夫だろ。兵藤、最初の七不思議に行こうか」
兵藤は「ああ」とリアスから渡されたメモを取り出すと最初の項目を見てみる。
「ああ、えーっと・・・まず最初の七不思議は『トイレの花子さん』だな。行こうぜ」
「は、はい!」
「ん・・・・・・」
4人はこうして最初の七不思議の場所である校舎の3階のトイレへと向かうのであった。
「えーっと・・・3階の女子トイレの端っこ、ってここか」
どうも、みんなのアイドル・プリティ悪魔っ娘、リリアンヌ・ダルクです!
・・・・・・今、アタシの挨拶で顔を顰めたヤツ。後で殺すからね!!
まあともかく、アタシたち4人はこのエロ猿の持っている華奢なメモに沿って3階の女子トイレの入口へと来ていた。
このトイレの個室に花子さんという幽霊がいるらしい。ふ、ふん! 花子さんだかブス子さんだか知らないけれど、出てきたら今すぐにあの世に逝かせてやるんだから!
ポタ・・・・・・。
「はうぅ!? いい、い、今、何か音がしました・・・!」
「そそ、そ、そんな訳ないでしょ! だって幽霊の気配なんか感じないもん!」
いや、ホントは幽霊の気配はしてるんだけど・・・別に怖い訳じゃないもん!! ただ単に足が座ってるだけなんだから!!
「ただの水滴の音だろ。うるさいな」
「・・・そ、そうですよね」
「ふ、ふん。分かってたもん」
そういえば、ここから来る途中も階段の軋んだ音や窓ガラスの音なんかでビビりながら来てたわよね。
アタシはビビんなかったのかですって・・・? ビビるわけないでしょっ!! 文句あんの!? サクラに引っ付いてるのだって、みんながはぐれないようにしてるだけだし!
エロ猿がメモを見ながらアタシたちに詳細を説明する。
「えーっと・・・このトイレの3番目の個室を3回叩いて、『花子さんいますか?』と尋ねるそうだよ」
「分かってるなら、アンタ行ってきなさいよ」
アタシはエロ猿に向かってそう言った。それを聞いた瞬間、コイツに動揺の顔が浮かび、両手を前に突き出して振り振りさせる。
「いやいやいや! 俺、男だから!! 女子トイレに入るわけにはいかんでしょ!!」
「何でだよ? 別に校舎には誰もいないんだし、お前が入ったって問題はないだろ」
「そうよ! アーシアを守るとか言っといて、今更怖気づいてるわけ!?」
サクラに便乗してアタシも言ってやった。
このエロ猿も肝心なところでチキンなんだから! 今更、女子だの何だの言ってる場合じゃないでしょう!?
「いや、怖気づいてるわけじゃ・・・」
「だったら行きなさいよ!! か弱い乙女を暗い部屋に取り残すつもり!?」
アタシはもう後押しをして、このエロ猿に向かうように言った。そうするとコイツは覚悟を決めたのか、こう答えた。
「わ、分かったよ・・・」
そう言って兵藤は女子トイレの前に立つ。やっと覚悟を決めたのね・・・このチキン猿は。
アタシたちはしたくもないけど、エロ猿のことを後ろから見守ろうとする。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・あれ?
何で、コイツ行こうとしないのよ? さっきからアタシたちの前から一歩も踏み出そうとしないんだけど・・・。
するとコイツの体がフルフルと震え始め、そして窓のほうに走りながら叫んだ。
「無理!! やっぱ無理!! 何か、俺行ったらいけない気がする!! 男として何かを失いそうな気がするぅぅぅぅぅ!!」
ちょっと!! 何、逃げ出してんのよ!? 使えないわね!!!
するとサクラがエロ猿からあっさり目線を離し、アーシアに目線を向けた。
「じゃあ、アーシア。お前が行け」
「わ、私1人で行くんですか!?」
「あまり大勢で来ると出てこない可能性があるからな。ここは1人でいいだろ」
ええぇぇぇ!? アーシア、1人で行かせるのぉ!? それも何か納得いかない!!
「ちょっとサクラ! アーシアも体を張る必要はないのよ・・・!?」
「あ、あうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・!!」
アタシはアーシアに無理して行かせないようにするが、アーシアは頭を抱えて唸るばかり・・・。
アタシの親友にもしものことがあったらどうすりゃいいわけ!? 今までだってずっと会えなかったのに・・・こんなんでまたお別れなんて絶対嫌よ!!
そんなアタシの心中を察することも無く、アーシアは返事を返した。
「わわ、わ、分かりました! 行ってきます! 3人共、絶対に、そこからいなくならないでくださいね!!」
明らかに虚勢を張ってるじゃない、もう・・・。来てほしいなら来てほしいと言えばいいのに・・・。
「ああ。花子さんが襲ってきたら、俺たちが出てきてなんとかする!」
もっともらしいことを言うエロ猿。当たり前でしょ。逃げるなんてほざいたら尻が3つに割れるまで蹴ってやるんだから!
「いなくならないよ。お前を置いていなくなるほど、オレは腐ってなんかいない」
サクラは優しい・・・その優しさをアタシにも少しは分けて欲しいなぁ・・・。
でも、やっぱりアタシも心配だ。頭痛がする・・・。何か嫌なことが起きる予感だ・・・。
よし、そうと思ったらすぐに行動しないとね。
「アタシも一緒にいてあげてもいいよね?」
「・・・好きにすれば?」
サクラは察しているのか、即決だった。彼女から許可はもらったことだし、さっさと行って逃げてきましょう。
アタシはアーシアの手を取りながら言った。
「アタシも一緒にいてあげるから。行きましょう。こんなの2人に増えたって変わんないわよ」
「あ、ありがとうございます。リリーさん」
アタシたち2人は女子トイレの中へと入っていく。トイレはしっかりと清掃されていて、鏡は美しいほどに綺麗だ。
うぅぅ・・・結構、雰囲気あるなぁ。一瞬、自分の姿を見てビビりそうになちゃったよぉ・・・。
そーっとアタシたちは近づきながら、3番目のトイレの個室へと向かっていく。その状態は2人で互いの袖を掴み合っているような格好だ。
その扉に近づけば近づくほどに、アタシの頭痛が酷くなっていった。
「うぅぅぅぅ・・・怖いよぉぉ・・・」
「ア、アタシがいるんだから大丈夫よ・・・」
アーシアは泣きそうな声を漏らしつつも、2人で3番目の個室の前に立った。ここで行動を再確認しておく。
「えっと、3番目の個室の扉を、ノックするんですよね?」
「・・・・・・・っ」
「リ、リリーさん?」
頭が、痛い・・・。
アタシはよろけて倒れそうになった。
「リリーさん!?」
アーシアが手を伸ばして、倒れそうなアタシの体を支える。アタシは、倒れずに済んだ。
「だ、大丈夫よ・・・。それよりも、分かってるんだったら早くやりなさい」
「は、はい・・・」
アーシアはアタシの体から離れて、扉の前に立つ。アタシは、支えが無くても立ってる。大丈夫・・・。
でも、もう今すぐにこっから出ていきたい・・・っていうか、今すぐに帰りたい・・・。
コン、コン、コン。
「は、花子さん、い、いらっしゃいますか・・・?」
声が恐怖で引き攣ってるわよ、アーシア。でも、そんなアーシアも可愛いんだけどね♪
・・・・・・部屋から返事が返ってこない。ということは、いないのかしらね。この七不思議は、嘘か。
でも、何でかしら。さっきから違和感を感じるのだけれど・・・。
アーシアもいないと判断したのか、入り口のほうを向いて外にいる2人へと言う。
「あの、イッセーさん! サクラさん! いらっしゃらないようですけど!」
入り口のほうから声が返ってくる。
「よーし! それならさっさと次に行こうぜ!」
「なら、早く来い!」
エロ猿にしてはまともなことを言うわよね。正直、アタシも霊的な頭痛がしていて、ここから一刻も出ていきたい気分なんだけど。サクラは相変わらずね。
「あっ、はい!」
「言われなくても、行くわよ」
アタシたちがトイレから出ようとしたその直後・・・。
――――ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ。
・・・先程の個室から、不気味な笑い声が聞こえてきた。するとさっきの頭痛がまた酷くなった。
「・・・はっ!? 何やら声が・・・。リリーさん、じゃないですよね?」
「アタシじゃないわよ。アタシがあんな変な声出すわけないでしょ?」
もしアタシの声だったらもっと可愛らしい声だし、こんなくぐもった感じの声は聞こえてこないと思うわ。
「ま、まさか・・・本当に、トイレの花子さんが・・・?」
「そのまさか、かもね・・・」
でも、どうしてだろう。この声、どう聞いても女の声には聞こえない。
花子さんは女の子のはず・・・・・・まさか・・・。
―――赤い紙が欲しいか? 青い紙が欲しいか?
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! こ、こ、来ないでくださいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「・・・アーシア、聖水」
「はっ! そうだ! 聖水、あっ」
アタシはアーシアが取り出した聖水の瓶を奪い取ると、個室の扉を開け放つ。
「この、変態悪霊がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
怒りの叫びを上げながらアタシはコルクの蓋を外すと聖水の入った瓶を投げ入れた。
―――へ、変態!? あっ、ギャアァァァァァァァァ!!
聖水の入った瓶はトイレの中へと入り、ジュアァと焼けるような音が鈍く響いた。
アタシは更に、個室の中のレバーを引いてトイレを流した。
幽霊の気配が消えたのか、不思議と頭痛が治まった。どうやら幽霊は消滅したようだ。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! イッセーさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!! サクラさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
アーシアはどうやら先程の悪霊の断末魔を聞いて、悲鳴を上げながら入口へと走り去ってしまったようだ。
アタシはトイレがしっかりと流れたのを確認すると、個室から出てトイレから出た。
「お、おい! どうした、アーシア!?」
「何かうるさい叫び声が聞こえたけど、何かあったのか?」
「へ、変な笑い声が聞こえてきて、赤い紙とか青い紙とか怖いことを言っていたので、聖水を投げようとしたらリリーさんが聖水を取り上げて!!」
・・・あの個室も、変に声を出さなかったら見逃してやってたのに・・・!
「信じらんないっ!!!!」
アタシは思わず声を張り上げる。いや、張り上げたくもなる。だって・・・・・・。
「トイレの花子さんが男だったなんて!! 何で寄りにもよって女子トイレに憑りついてんのよ!!?? 男子トイレに行けばいいじゃない!!!! あまりにも下劣だったから聖水投げてやったわよ!!」
「ええぇぇ!? 聖水攻撃しちゃったの!?」
「当然じゃない!! 変態な悪霊なんかこの世からいなくなればいいのよ!!!!」
男は女子トイレに入るべきではないのだ。だってそこは女の子だけの領域だから。このエロ猿はまだマシだったわ。ホントに入ろうとしたら、窓から放り出そうと思ったもの。
「・・・トイレの花子さんは赤い紙だの青い紙だの言わないだろ」
「えっ、そうなの? ってそうでなくても、男が憑りついてるだなんて許せないわよ!! 地獄に堕ちろ、クソ悪霊がっ!!!」
「リ、リリーさん、落ち着いてください! 口調がまたおかしくなってますよ!?」
アタシはトイレの花子さんなんていうものは知らない。でも、今は男がトイレにいるなんてたとえ死人でも許せない。
「初っ端からエクソシストの仕事だなんて、ロケットスタートも良いところだぜ! 意外にエネルギッシュでビックリだよ!!」
「・・・まあ、もう分かったんだから。さっさと次に行こうぜ」
「あっ、は、はい!」
「・・・今度は変な七不思議じゃなければいいけどね」
アタシはしばらく憤りが収まらなかったが、アタシたちは次の七不思議の場所に向かうのであった。
実は何だかんだで七不思議に興味を持ち始めている、風花式だ。
いや、興味を持ち始めているというか、呆れ始めてるんだけどな。主に連れの3人に。
まあ、そんなことはどうでもいい。私たちは3階の女子トイレを離れて、次の七不思議に足を進めようとしている。
「さっさと終わらせて帰ろう・・・」
珍しく兵藤と意見があったな。私もこんな茶番はさっさと終わらせて帰りたい。
「もちろんですぅ・・・怖くて泣いてしまいそうですぅ・・・」
「アタシももう帰りたいわ・・・」
アーシアは先程の出来事のせいか、少し泣きそうな顔になってきているが、リリーは若干疲労も見え始めていた。あんなに叫べば疲れるのも無理はないだろうな。
ここで兵藤が先程のメモを取り出して、残りの七不思議を確認する。
「えーっと、部長から貰ったメモによると残りの七不思議は・・・」
1:音楽室で一人でになるピアノ
2:夜中に動き回る人体模型
3:夜の闇に繋がる13階段
4:音楽室に飾ってあるベートーベンの肖像画の目が光る
5:深夜に動き出す二宮金次郎の像
6:夜中に体育館で聞こえる盆の音
7:プールから浮かび上がる無数の手
8:深夜に旧校舎で行われる魔の会
・・・・・・・・・・。
「7つよりもっとあるのは気のせいか?」
さっきの花子さんも含めると、9つあるんじゃないのか?
「ホントだ! 7つ以上あるじゃねえか!!」
「っていうか、この学校に二宮金次郎の像なんかないでしょ!」
「それに最後、深夜に旧校舎で行われる魔の会って俺らじゃん!! もろに悪魔の集会じゃん!!」
兵藤とリリーが2人で仲良くツッコミをしている。ホントはコイツら、気が合うんじゃないのか?
「日本の学校って昼夜でこんなにも違うものなのですね・・・。昼はあんなに賑やかでも、夜は幽霊や怪物が徘徊する魔の巣窟だなんて・・・!」
アーシアはどこか勘違いをしている発言をした後に、目をギュッと瞑って顔の前で手を合わせ始めた。
「ああ、主よ。この学び舎を、お守りください・・・!」
お祈りをし始めた元・シスター。・・・まあ、この後どうなるかは察しのいいアンタらには分かるかと思うが・・・。
「・・・あうっ、うぐっ! お祈りしたら・・・またダメージを受けましたぁ・・・」
当然、このシスターは頭痛を起こす。教会にいたときの癖と化しているのか、全く学習能力の無いコイツはいつになったらお祈りは危険だということを理解するのだろうか。
「ああ・・・お祈りダメージには気を付けてね・・・」
「まあ、魔の巣窟なのは否定しないけどね。こんな、魔性の変態もいるわけだし」
「へ、変態は関係ないだろ!!」
・・・私はもう付き合う気にもなれない。こんなのを相手にしていると先に進まないぜ。
「莫迦なことやってないで、行くぞ」
「イッセーさん・・・次はどこに行くのですか?」
お祈りのダメージが少し残っているような声で、アーシアが訪ねる。兵藤はさっきのメモを取り出して言う。
「うーん。一番近いのは、音楽室だね。七不思議が2つも攻略できるからお得だな」
「なら、さっさと行くぞ」
私はさっさと音楽室へと足を進めた。
音楽室の近くに来ているのか、演奏をしているような音が聞こえている。
「はうぅぅぅぅぅぅ! 早くもピアノの音が聞こえてきますぅぅ・・・!」
「袖を掴むな。伸びるだろ」
その声はアーシアにも聞こえているようで、私の袖を掴みながらカタカタと震えている。
「落ち着いてくれ! マジかよ!? いんのかよ、幽霊!!」
「ああ、頭が痛いわ・・・精神的に・・・」
3人が思い思いの言葉を呟いているうちに、音楽室の扉の前に着いた。さっきリリーが女子トイレの近くで頭を抑えていたが、今回は割と大丈夫なようだ。
「開けるぞ」
私が扉を開け放つと、先程よりも鮮明にピアノの演奏の音が聞こえてきた。しかし、中に人がいる様子は無い。
ピアノの音は鳴っているが、演奏している人の姿はない。この部屋、やっぱりなんかいるのか。
私はヅカヅカと平然と中へと入ったが、他の3人は恐る恐る中へと入ってくる。
「お、お邪魔しますぅ・・・」
アーシアは怯えており、落ち着かない様子だ。リリーは落ち着きのない様子で入ってきた。
入ってきた3人は周りをきょろきょろと見渡す。それでも、やっぱり人の姿は無い。
「だ、誰も、いないか・・・」
「だ、誰もいないのに、ピアノだけが鳴ってますぅ・・・!!」
「だぁ! マジか!? 誰もいないのに演奏しちゃってるよ!!」
「見りゃ分かるでしょ! そんなこと!!」
3人はうるさいな。少しは落ち着いてことを理解できないのか?
・・・・・・!!??
音楽室の、ピアノよりも前のほうから気配を感じた。これは、幽霊の気配ではないな。じゃあ、何だ?
「!? 誰かに見られているような・・・まさか・・・」
どうやら兵藤も気配を感じたようだ。コイツの危機回避能力が無意識に作動したのか? まあ、どうでもいいが。
気配のしたほうなら分かってる。それは、この部屋の壁に飾ってある何枚もある肖像画のうちの一つ。頭の髪がモジャモジャとしている、そう。ベートーベンの肖像画からだ。
「ベートーベンの肖像画の目が、ピアノに反応して光ってやがる!! 幽霊の仕業なのか!?」
まあ、何らかの気配はしているな。でも、これはさっきみたいな霊じゃない。悪さを仕出かすものではないようだ。
「お父さんお父さん、魔王が来るよ! いや、悪魔的に魔王様に会えるのは光栄なのか!?」
「いや、それベートーベンの曲じゃないし、魔王が簡単に来るわけないでしょ!?」
兵藤はすっかり頭が混乱しているのか、意味不明なことを言いだし、唯一の取り柄であるリリーがツッコミを入れていた。
「・・・一つだけ、疑問が」
「な、何・・・?」
「魔王を作曲されたのは、シューベルトさんだと思ったのですが・・・」
「だから、アタシがツッコんだじゃない!! 魔王はベートーベンじゃないって!!」
アーシアとリリーがその言葉を呟いた途端、さっきまで聞こえていたピアノの演奏が止まった。
シーン・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・もしかしなくても、そうか?
「えっと・・・ベートーベンさん?」
兵藤がバツの悪そうな声で演奏者に訪ねる。すると・・・・・・。
――――――――。
――――――――。
―――――――か。
―――――――帰れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! 今すぐここから去るのだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
肖像画のほうから怨憎の籠ったような声が聞こえてきた。うるさい・・・頭に響く・・・。
そして兵藤は本物の幽霊とご対面しているわけだが、怖がってるどころではなかったようだ。
「間違いを指摘されたら即帰れって酷くないですかぁ!?」
・・・!? 何やら、また別の気配が・・・! そこは、兵藤の後ろだと・・・?
「イッセーさん、後ろ!!」
「え・・・・・・?」
後ろにいる異形の者に気付いたアーシアが叫ぶ。イッセーは振り返るとそこには・・・・・・?
――――う~~ら~~め~~し~~や~~~~
・・・・・・私は敢えて空気を読んでツッコまないことにしよう。
「えっ、何?」
リリーもどうやら気付いているようなので、私はリリーに近づいて耳打ちでそう伝える。
「うん、分かった・・・サクラがそう言うなら・・・」
リリーも了承してくれたようだ。私は兵藤の方に視線を向けて見守るとしよう。
「どわぁっ!? 白装束を着た黒髪の女幽霊!! えっ、そんなことメモにあったっけ!?」
――――気にしちゃダメよ~。そんなことより、えーい!
白装束の女幽霊は兵藤に前から思いっきり抱き着いた。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!! 幽霊に抱き着かれたぁぁぁぁぁぁ!!!」
・・・本当にこの莫迦は。何で触れられてる時点で幽霊じゃないと気付かないんだろうな。
更に女幽霊は兵藤に胸を押し付けるかのように強く抱きしめ始め、足同士を絡ませていく。
所謂『おっぱい』を押し付けられているせいか、兵藤の顔が徐々に恍惚となっていく。
――――ベートーベンさんの間違いを許してください、ね。お詫びに私がサービスしちゃいますから。音楽室で秘密の演奏会、ちょっぴり私が心霊撮影会も、魅力的かしら~。
その甘い言葉に兵藤が徐々にだらしのない顔つきになっていく。いい加減に疑問を持てよ、この莫迦は。
どうせ、おっぱいを押し付けられて嫌らしいことでも考えているのだろう。あれ・・・どうして私はイライラなんかしてるんだ?
「幽霊って凄いな・・・いやいやいや!! 俺は悪魔だ!! 幽霊のおっぱいなんかに負けない―――嘘です負けます・・・幽霊のおっぱい最高!!」
胸を顔に押し付けられて、完全に屈指してしまう兵藤。もう私のイライラは限界だった。
「うぅぅぅぅぅ・・・女幽霊さん、イッセーさんから離れてくださいぃぃぃぃ!」
私よりも前にアーシアは兵藤を手玉に取られていることに気が付いたのか、幽霊がいることも忘れて2人に近づき、女幽霊の手から兵藤を引き剥がす。
――――あらあら、仲良しですわね。妬ましいですわ。う~ら~め~し~や~~~。
・・・おい。もう素が出てるぞ。何でこの莫迦は気が付かずに、嫌らしい顔つきをしているんだよ。
「ああ、おっぱい・・・もったいない♪」
「イッセーさんっ!!!」
「ふんっ!」
「・・・・・・」
ゴォンッ!!
「いってぇぁぁぁぁ!!」
私とリリーが兵藤の頭を拳で殴りつけた。この莫迦は殴られて、ようやく正気に戻ったようだ。
「いつまでだらしのない顔してんのよ!? さっさと逃げるわよ!!」
「は、はいっ! 怪奇現象のオンパレードな音楽室なんか一刻も早く出たほうがいい!!」
「あっ、はいぃ!!」
嫌らしい顔をしてたヤツが言っても説得力が無い。まあ、怪奇現象は一か所だけだったけどな。
私たちは音楽室から今すぐ廊下へと出て、その場から走り去っていく。
――――あらあら、もう言っちゃうの? うふふ、また来てね~~~。
女幽霊が私たちを見ながら言っているが、二度来るかこんなところ。っていうか、隠せてない。
音楽室から出たんだし、もうツッコんでいいよな? 心の中で。
・・・・・・何で、アンタが音楽室にいんだよ!!!!????
こうして音楽室を脱出した私たちは、まだこの七不思議ツアーの本当の恐怖を知る由もなかったのだった。
・・・はあ、私はもう帰りたいんだけどな・・・・・・。
面倒だけど・・・・・・続く・・・。
「ええっ!? まだ続くんですか!?」
「みたいよ・・・はぁ・・・頭が痛い・・・」