深夜。イッセーはとある廃ビルで1人の男を追跡していた。
黒いコートをなびかせながら、角から角へと逃げる男。イッセーは『
追跡していくと男は一つの部屋の中へと逃げ込んだ。
「おいコラ、待てッ!!」
怒鳴りながら閉まる扉を見たイッセーは駆け寄り、部屋の扉を開け放つイッセー。途端、扉の前で待ち構えていた男がイッセーに迫る。
「うおっ!?」
驚くイッセーだが、その一瞬の隙が相手の行動を許してしまった。男はイッセーの頭を手で踏み台のように使うと、空中で宙返りをして彼の背後に着地をした。
バランスを崩してうつ伏せに倒れそうになったイッセーだが、踏ん張って堪える。その間にも男はイッセーを振り替えることも無く、逃亡していく。
「クソッ! ちょこまかとッ!!」
イッセーは押された頭を抑えながら、忌々しそうにぼやいた。そして、逃げる男を追跡していく。
一方、アーシアには一匹の虫が迫ってきていた。
「あぁっ!?」
「アーシアちゃん!!」
恐怖で自分を庇うかのように頭を抱えるアーシア。朱乃が前に出ようとするが、その虫の速さ故に間に合わないそうにない。
「アーシア!!」
「リリー様!!」
「邪魔よっ!!」
「ぐはっ!?」
そこに小猫とリリーが2人掛かりで、アーシアの前に出る。そのリリーの前にラウラが出たが、腹を蹴り飛ばされてゴロゴロ転がった。
そこに虫が接近するも、虫は小猫の体の前で制止して飛行している。
「!?」
小猫はまるで変質者の視線を感じたかのように、目を開いた。虫は小猫の前で止まって飛行しているが、攻撃してくる気配はない。
すると虫は今度はリリーの体の前に近寄って止まった。
「な、何よ・・・?」
警戒しながら虫を睨む付けるリリー。虫はリリーのある体の一部で見定めるかのように左右に飛ぶと、急にその体の一部を突くように触りはじめた。
ツン、ツン。
「ちょっ!?・・・な、何して、ぁん!・・・何でアタシの胸を・・・ひゃん!!」
「・・・リリー先輩・・・!」
左にツンツン、右にツンツンと虫に胸を突かれて嬌声にも似たような声を上げる。リリーの胸は爆乳ではないが、それなりに大きさを持っている胸だ。その胸を虫が必要以上に責め立てる。
「あぁ、ぁん!! やめってってばぁ!! ん、あぁぁんッ!!」
嬌声を上げながら、リリーが捩るように悶える。虫は突くのをやめて、今度はリリーの胸先に止まり、足で弄るように触りはじめた。
「んぅ、んぁああん! ちょっとっ! アタシの胸にくっつかないで、ぁぁぁぁあんぅ!!」
リリーが抗議の声を上げながら、後ずさりしていくも虫のほうはどこ吹く風。まるで女性の胸を堪能するかのように、リリーの胸先を足で撫でまわす。
「あん、んっ、んぁぁぁん!! んぅぅ、いい加減にしなさいよッ!!」
嫌悪と怒りがほぼ達しているリリーが虫を右手で払いのける。息を切らせながら、憎悪を示すかのように虫を睨みつける。
胸から吹っ飛ばされ、空中で回転した虫は朱乃の視界を捉えると空中で体勢を整える。そして、今度は朱乃のリリーよりも大きな胸を突き始めた。
ツンツン、ツンツン。
「あらあら・・・」
朱乃は困ったような顔をしながら虫の行動を見る。
「朱乃さん・・・!」
ツンツンツン、ツンツン
「まあまあ、あぁん!」
胸の敏感なところを突かれたのか、平気だった朱乃が嬌声を上げる。そんな声にもお構いなしに虫が朱乃の胸を突きまくる。
「どうして女の子の胸ばかりを、んぅ。狙うのでしょう・・・あぁ!」
「・・・危うくいくところだったわ。敏感なところばっかり狙うなんて、嫌らしい虫ね」
朱乃が途切れ途切れに嬌声を上げながら言った。リリーも胸を両手で庇いながら、虫を睨みつけている。
しかも、アーシアと小猫のことは素通りしておいて、狙っているのはリリーと朱乃の胸だ。この虫は二方のどこに違いを判断しているのだろうか。
「そ、そのお胸が、大きくて目立つからでしょうか・・・」
「・・・っ」
「・・・・・・へぇー、大きな胸だったら、誰だっていいんだ・・・?」
アーシアの言葉に、小猫はこの虫の考えを察して険しい顔になった。リリーは言われるまでもなく、睨みつけるような顔を更に険しくさせた。
シュンッ・・・グサッ!!
その瞬間、朱乃の胸を付いていた虫に一本の槍が貫き、壁に突き刺さった。リリーが朱乃に当たらないように虫の動きを瞬時に見極めて槍を投げつけたのだ。虫はピクピクと痙攣した後に、動かなくなった。
「フン・・・死ね、変態」
「あ、あら・・・」
リリーは鼻を鳴らして虫に背を向ける。朱乃はここまでやる必要があるのかという苦笑を浮かべていたのだった。
そんな頃、男を追跡中のイッセーはまだ捕まえられてはいなかったが、その顔は余裕の表情だった。
(よし! 追い込んだ!!)
扉を開けて廃ビルから出た男。そこは、屋外の階段だった。
と、上の階段から響く靴と金属の音。そこにはイッセーの主であるリアス・グレモリーがゆっくりと歩みを進めていた。
なお、下の階段には祐斗、そして空には二対八枚の翼を生やしたサクラが飛行している。更に扉にはイッセーがスタンバイしていて、完全に男を挟み撃ちにしていた。
「ごきげんよう、はぐれ悪魔さん。主の元を離れ、己の欲求を満たし暴れ回る不貞の輩。その罪、万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを吹き飛ばしてあげる!」
もはや袋の鼠であることを悟った男は悔しそうに唸るとリアスに向かって複数の魔方陣を展開する。
「無駄よ」
男が魔力を放つよりも速くリアス・グレモリーは右手から魔方陣を展開し、赤い滅びの魔力を撃ち出す。魔方陣はあっさりと消し飛ばされ、はぐれ悪魔は反動で吹き飛ばされ手すりに叩きつけられる。
「祐斗、サクラ!」
「はい、部長!」
「・・・・・・」
リアスの声に、剣を携えた祐斗が迫る。サクラは不愉快そうに鼻を鳴らすと祐斗の背後へと瞬間移動する。
男は反射的に2人の脇をすり抜けて逃げようとしたが、すれ違い様に剣を一閃した祐斗がそれを許さない。男は肩を斬られ前のめりによろける。そこに待ち構えていたサクラがを足を高く上げて、男の脳天に踵を打ち据えた。
うつ伏せに倒されて呻くはぐれ悪魔に祐斗が剣を突き付け、サクラが前から見下げるようにするとはぐれ悪魔は観念したかのように呻いた。
「・・・こんなヤツ、剣を抜くまでも無い」
サクラが不機嫌そうにそう呟いた。
「あらあら、もう終わったんですの?」
「朱乃さん、小猫ちゃん、リリーちゃん、ラウラさん」
実は別ルートから男の逃げ道を塞いでいた小猫、朱乃、リリー、ラウラがイッセーが出てきた出口から現れる。
「こっちも終わったわよ」
「ご苦労様」
リリーが不愉快そうに言う。
「・・・弱かったです」
小猫が手厳しい言葉を言うと、リリーがすでに動かなくなっている虫を槍から引き抜いて男の側に放る。すると虫は泡を噴き出しながら消えてしまった。
「これがコイツの使い魔・・・キモッ」
「しかもコイツ、キメラだな。ということは、その男は錬金術師か」
サクラが消えていく虫を見て、男を見ながら言った。
「この虫さんはリリーちゃんや私の胸を集中的に狙っていましたわ」
「胸を?」
「・・・イッセー先輩みたいな虫です」
「そうね。エロ猿みたいな虫だったわ」
「同感せざるを得ないですぅ」
「すみませんね・・・虫みたいな存在で」
小猫とリリーがジト目でイッセーを見ながら言った。イッセーもゴキブリ並みだとは言われたこともある。でも、例えが例えなだけに褒めているようには聞こえない。
「はぁ~。み、皆さん・・・」
「大丈夫か、アーシア」
そこに肩で息をしながらアーシアが現れ、イッセーの言葉にコクリと頷く。
「は、はい・・・三人に、守って、頂きましたので・・・」
傍から見ても物凄い疲れようだ。呼吸音が乱れながらも、アーシアは途切れ途切れに言葉を紡いだ。
「もう、アンタは体力が無いんだから走って来なくても良かったのよ? どうせこの廃ビルには大した気配も無かったんだから」
「いえ、皆に、追いつきたいと、思いましたので・・・」
どこまでも律儀なアーシアに、リリーは呆れたように首を振った。
「さて、はぐれ悪魔さん。チェックメイトよ。それとも降参せずに向かってくる覚悟はあるのかしら」
はぐれ悪魔の前に立ち、尊大に振る舞いながらリアスが言う。本来ならば、暴走しているヤツはその場で消し飛ばしていたし、散々に痛めつけて抵抗力を無くして死を望んだはぐれ悪魔もいた。
「いや、降参しましょう。彼のグレモリー家が相手では流石に部が悪い」
リアスの挑発的な言葉には乗らずに、男が両手を上げて降参の意志を示す。しかし、その顔は不敵な笑みでリアスのある一部を見ながら言っていた。
「・・・良い乳をしていらっしゃる」
「てめぇ! 部長になんてことを言ってやがる!」
男に抗議の声を上げるイッセーだが、その言葉に小猫、リリー、サクラが軽蔑の視線でイッセーのことを見る。
「アンタが言うな、変態ボケナスビ!!」
「・・・よかったな。友達になればお前の趣味を共感してくれるんじゃないのか?」
「自分のことを棚に上げてる男は痛いですぅ・・・」
「・・・イッセー先輩みたいな悪魔です」
「うぅ!・・・すみませんね・・・俺みたいで・・・」
次々と言葉の槍を刺されるイッセー。四人はもう少し態度を柔らかくしてもいいんじゃないかとすら思った。
「朱乃。彼を拘束後、魔方陣で冥界へと転送して頂戴」
「了解しましたわ」
リアスが男の前を退くと命令された朱乃が前へと出てきて、手を上に掲げると光の紐のようなものが作られる。
「うふふふふ。もっと抵抗して頂けたら、私も楽しめましたのに」
恍惚とした表情で扇情的でなおかつサディスティックなことを言う朱乃。光の紐が男を拘束して、彼の下に魔方陣が展開される。
しかし、それでも不敵な笑みを崩さない男。その態度にサクラは怪訝な表情を浮かべていた。
「冥界の裁きに身を委ねなさい」
「ええ。やるべきことはやりましたからね」
男の意味深な発言に部長が疑問の声を漏らすが、不敵な笑みを崩さないまま男は光と共に冥界へと転送されていった。
「・・・リアス先輩」
リリーは険しい顔をしながら呼ぶ。リアスは一瞬、体をビクつかせながらリリーのほうを振り向いた。
「この廃ビルを調べてみたら、とんでもないものを見つけました。来て」
「あっ、リリー様、待つですぅ!」
リリーは感情の籠らない声でそれだけ言うと廃ビルの中へと戻っていく。ラウラは慌てて着いていくもリリーの「うっさいわね!」という怒鳴り声が聞こえてくる。
サクラはリアスを振り向き様に不機嫌そうな普段の顔で見ながら、ふんと鼻を鳴らすと目を逸らして2人の後ろを着いていった。
リアスはその様子に少し悲しい顔をしていた。
「・・・部長」
「・・・分かってるわ」
「きっと、分かりあえるときがきますよ・・・」
「・・・ありがとう、イッセー」
自分だって分かっているの。サクラやリリーと自分の距離が少し離れているということは。
廃ビルの中へと戻り、階段で一階まで降りていくとその階段の横の広いスペースへとやってくる。
「この下よ」
リリーが示したのは床下にある扉のようなものであった。この廃ビルには隠し通路が存在していたのだ。
サクラが躊躇なく床下の扉を開け放つとそこには地下へと続いていく階段があった。サクラたちはその長く続いている地下へと降りていく。
「な、なんだよこりゃ!?」
たどり着いた場所はフラスコや大きなケースが置いてあるいかにも怪しい場所であった。水槽もあるが、そこには脳が剥き出しになった不気味な魚が泳いでいる。
「研究室、みたいね」
「報告では、夜な夜な何かの実験を繰り返していたとか」
朱乃が説明をする。彼女がリアスとのやり取りをしている間に、他の部員たちは思い思いの場所を調べ始める。
「ん? これは何の資料だ?」
ふとイッセーが棚の中に仕舞われている資料のようなものを取り出す。中をパラパラと捲っていく。中身は生物や植物、そして魔物や妖魔に関するものばかりだ。
やがて、一つの何かを裏付けるような資料へとたどり着いた。
「これは・・・」
イッセーの呟きに、サクラとリリーが両サイドから覗き見る。
「・・・これはあの変態が残した研究レポートか?」
「みたいね。しかも、これキメラの作り方みたいだけど」
「アイツはそんなものを作って何をしようとしていたんだ?」
イッセーの見ているレポートを見ながら言う2人に、アーシアが疑問の声を呟く。
「あのぅ、キメラというのは?」
「・・・キメラっていうのは、複数の生物を掛け合わせた合成生物のことだ」
「あの変態、どうやら錬金術か何かの専門らしいけど、キメラなんかを作って何をするつもりなのかしらね?」
サクラがアーシアに説明する中、リリーは不機嫌そうな顔でレポートを見ながら言う。
「ちょっと私にも見せてくれる?」
「ああ、はい」
イッセーが言われた通りのレポートをリアスに見せる。すると数秒後、リアスが渋い顔になって資料を突き返してきた。
「・・・サクラ、リリー、私にはただの料理のレシピにしか見えないのだけれど・・・」
「そう思ってるんだったら、あなたはまだまだ資料の読み方がなってないってことですよ」
「どういうこと?」
「誰にも読まれないように暗号化してるんです。恐らくあの変態悪魔は、自分でうまく行ったレシピを他の悪魔の欲望に使われないように暗号化しているのかもしれません」
「キメラだけでも十分あくどいと思うですけどですぅ」
それを聞いて小猫が感嘆の声を漏らす。顔は無表情だが。
「・・・よく分かりますね」
「・・・よく、オレらの仲間の実験莫迦が解読してくれというものだからな。このぐらいは何度もやらされたよ」
「その実験バカも、アタシらにとっては面倒なヤツなんだけどね」
サクラとリリーは昔を思い出しながら溜息を吐く。その実験バカに関わって、あまりいい思い出がないのだろう。
「それで、あのはぐれ悪魔は何が目的だったのかしら?」
「知りませんよ。この資料には作り方しか書いてないし、アイツの目的も分からないわ」
それを聞くとリアスはふぅーと息を漏らす。
「まあ、いいわ。重要そうな資料は冥界へと転送して、後は破壊しましょう。サクラ、リリー、目ぼしい資料を集めてきてもらえるかしら?」
「・・・・・・」
「・・・・・・分かりました」
リアスの声を聞いて険しい顔をするサクラとリリー。コイツに命令されるのは遺憾だけど、断る理由も無いので仕方なく適当に資料を持って来ればいいと考えた。
指示通り、レポートも含めて重要だと思われる資料を集めて、残りは綺麗さっぱりリアスの魔力とサクラの炎で抹消する。
しかし、あのはぐれ悪魔の目的が何なのかという疑念は消えることは無かったのだった。
◆◆◆
翌日の休み時間、俺は窓の外を見ながら昨日の出来事を思い出していた。
サクラとリリーちゃん、やけに部長に敵意を向けていたよな・・・。やっぱりこの前のレーティング・ゲームの出来事も原因なのかな。でも、サクラはサクラであれはやり過ぎな気がするし、お互い様って感じがするんだよな。ゲームのことはよく覚えてねーけど。
そういえば、あのはぐれ悪魔、やるべきことはやったとか言ってたな。研究室みたいな場所があったということは、すでに何かの研究は完成してる? そのために主の元を逃げ出したのか? あと、気持ちはすげー分かるんだけど・・・。
「何かやたら胸に拘っていたような・・・」
「胸だとぉぉぉっ!?」
「どわぁっ!?」
怒鳴り声が聞こえてびっくりした俺が前を見ると、元浜が眼鏡を光らせながら迫っていた。っていうか、いたのかよ!!
「おい、イッセーッ!!」
元浜の勢いに乗りながらエロ坊主の松田が俺の胸ぐらを掴み、泣きながら詰め寄ってきた。男の泣いた顔って気持ち悪ぃな・・・。
「な、何だよいきなり!」
「テメェ! 最近、リアス先輩と登下校することが多くねえかッ!?」
「あまつさえ、腕を組んで帰ってるという噂まで!! これまさに言語道断ッ!!」
元浜まで泣きながら俺に詰め寄ってきて、2人の悪友に責め立てられ困惑する俺。
「お、落ち着け! 松田、元浜!」
俺は2人を諌めようとするが、他にもコイツらに隠してることがあるから諌められる立場じゃねぇんだよな。
・・・い、言えるか・・・! アーシアに加え、部長まで俺の家で暮らしてるだなんて!! エプロン姿で手料理まで作ってもらって振り向き様に・・・。
『おかえり、イッセー♪』
って言われているだなんて!!
その上・・・抱き着かれたり、膝枕までされたり、一緒のベッドで2人で眠っているだなんて言えるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
でも、俺は松田を引き剥がすと余裕たっぷりの笑みで言ってやった。
「まあ、俺のお姉様だからな」
そう言うと悪友2人は悔しそうに呻きだす。野郎の嫉妬心は心地いいぜ。最近はイケメン野郎に手柄を取られて、悶々としていたところだったもんな。
「クソッ!! 勝ち誇りやがってッ!!」
「それで今、間近で見る部長の豊満な胸を弄りまわしているということかッ!?」
おっぱい? 誰がおっぱいの話なんかしたんだよ?
「いや、誰も部長のおっぱいだなんて―――」
「おっぱいィィッ!? やはり貴様ァァァァッ!!」
「お前が言ったんじゃねえか!!」
今日もしつこい奴らだぜ、このバカ2人は。最近、この手の追求が本当に多くなっているような気がするな。
まあ、疎遠になるよりはマシなんだろうけどさ・・・バレたらバレたでモテない軍団なんかを作り出してとんでもないことになりかねないしな。気を付けよう。
松田がまた詰め寄って嫉妬の言葉を吐くかと思ったら、コイツの口から出たのは別の噂だった。
「おっぱいっていえば、イッセー。お前、知ってるか?」
「へ?」
おっぱいで思い出すことって何だよ? また、エロDVDとかか? と思ったけど、これは違った。
「最近、女子がやたら欠席や早退をしてるらしいぜ」
「何か変な病気でも流行ってるのか?」
「いや、診察結果はただの貧血だそうだ」
「貧血?」
その貧血とおっぱいとどう関係があるんだよ? 照らし合わせてみても、共通点なんか見えてこないぞ?
「問題はここからだ。その女子たちに共通点がある。皆、巨乳の子ばかりなのだ」
「きょ、巨乳の?」
巨乳の女子生徒が貧血を起こしてるって・・・そういえば、昨日のはぐれ悪魔も胸が好きだったな。
「うむ。駒王学園女子全員のデータを持つ俺が言うんだ。間違いない!!」
「このままでは、学園の巨乳ギャルの崩壊の危機だぁ!!」
悪友2人が喚きだすも、俺は昨日のある一件について思い出していた。うーん・・・昼休みに部長にでも聞いてみるか。
俺はそんなことを思いつつも、休み時間はお開きになったのであった。
◆◆◆
昼休み。私は教室にはおらず、屋上でリリーと一緒にご飯を食べようとしていた。空を見上げれば、太陽が今日も私たちを照らしてくれている。撃ち落としてやりたいくらいにな。
本当はこの後の授業もすっぽかして1人でのんびりとしたかったのだが、不幸なことにリリーと会ってしまった。断って泣かれても喚かれても面倒臭いので、仕方なくお昼だけでも付き合ってやることにしたのだ。
教室も外もギャラリーという鬱陶しい輩が来ても嫌なので、私たちは人気の無い屋上でお昼を食べることにした。ああ、静かで良いところだ。この金髪ツインさえいなければな・・・。
リリーはアーシアを誘ったらしいのだが、兵藤と一緒に彼の母の力で作った自身のお弁当を食べてもらうために、グレモリーと一緒について行ったらしい。まあ、彼女のような女と張り合いたくもなる気持ちも分かるが。
「ねえ、サクラ」
「・・・何?」
「いつになったらこの駒王を出ていくの? アタシ、あんな傲慢そうな赤髪女と一緒にいたくないんだけど?」
リリーがお弁当のタコウィンナーを摘みながら言う。
何だ・・・そんなことか。私だって本当はあんな女とはおさらばしたいよ。でもな・・・。
「・・・上層部からの命令だ。アーシア・アルジェントとリアス・グレモリーを護衛せよとのな。オレらがどうこうしたところでどうにもならん。任務終了と言われるまでな」
「もう限界なのよ! あんな女と一緒にいるの!! アタシはアーシアを連れ出して、イギリスに帰りたい」
不平不満を漏らすリリー。上層部に聞かれたら命令違反として処理されるかもしれない。
捕捉のために一つ言っておくが、私ら機関は別に自由というわけではない。働かないアリはその場で抹消される。そういう存在なのだ。まあ、その理由は追々話すとしよう。
そんなことよりも私は一つの話に苛立っていた。コイツには帰る場所があるが、私には帰る場所なんかない。そのアイデンティティが余計に私の気持ちを掻き立てた。
「・・・そんなことをしたらエレンの小言どころじゃ済まなくなるかもしれないぞ。捕まったら最悪、アルカトラズに投獄されるか拷問されるかがオチだ」
「うっ・・・分かってるけど・・・」
「分かってるけど、何だよ?」
ハッキリ言わない奴は嫌いだ。虫じゃないんだから蚊の鳴くような声で言わないでくれるかな? うざっ・・・。
「サクラさあ、最近リアスに執着してない? アタシを差し置いて」
私はそれを聞かれるとお弁当を摘む箸が止まった。コイツはどこでそんなことを聞いたんだ? 妙に勘が鋭いところもあるしな。
「・・・そんなわけないだろ。オレは雑魚には興味ない」
「だ、だよね。サクラがあんな女を好きになるわけがないしね」
リリーがとんでもないことを言い出すが、好きになることなんか一生あり得ない。弱い奴は嫌いだ。
「まあ、そんなことはどうでもいい。リリー」
「何?」
「昨日のあの男が言っていたことだが・・・」
「昨日の男って・・・ああ、あの変態悪魔のことね。それがどうかしたの?」
「少し気になってな。お前はどう思ってる?」
リリーにそう聞いてみるとフォークを持つ手を止めて、私の質問に答えた。
「・・・なんともないって言ったら、嘘になるわね。明らかに何かを仕込んでる感じだったし。あのレポートも怪しいわ」
「そうだな。あのキメラには厄介なドラゴンの素体まで入っていたからな。でも、戦争目的で使われたものではないというのはあの実験資料とエレンの調査から確かだな。じゃあ、何が目的なんだ?」
売買目的にしても、キメラじゃあり得ない。テロを起こそうにも、量産をしていないところを見るとあまり考えられることでもないし、あとは戦争目的と同様だな。
他にも考えられる節はあるが、どうもあてはまるとは思えん。何を考えている? あのはぐれ悪魔は・・・。
「そういえば、最近この学園の女子が欠席することが多くなってるのよ」
「学園の女子が・・・それはなんでだ?」
「先生によるとその女子たちは貧血らしいのよ。しかも、胸の大きな女子が主らしいわ」
学園の女子・・・胸の大きな女子・・・。共通点はあるな。でも、それと何の因果関係が・・・。
すると懐から振動を感じたので、手を突っ込んで取り出すとスマートフォンの電話・・・ではなくメールだった。
メールアプリを開いて送られてきたメールを確認すると、私はそのメールに不快感を覚えた。
『失礼します。お伝えしたいことがありますので、放課後に部室へと集合してください』
・・・毎回思うのだが、あのメイドはどこから私のスマートフォン情報を把握しているのだろうか。あの女が漏らしているのか?
まあ、今更どうでもいいけど。正直、あの女の部室に行くのは非常に不本意だ。アイツは所詮、単なる私の暇つぶしに過ぎないくせに。血が美味しいのは認めるが。
しかし、あのはぐれ悪魔の情報を知らせてくれるかもな。グレモリーはあのメイドに調査を全て任せていると言っていたし、何らかの情報を提供してくれるということで行く意味はあるかもしれない。
私は懐にスマートフォンを戻すとリリーに声を掛ける。
「・・・リリー」
「何?」
「放課後、あの女の部室に行くぞ」
「ええ~?」
リリーがあからさまに嫌そうな声を出す。私だって本当は嫌だよ。
「お前の言う変態悪魔の情報が分かるかもしれないぞ」
「別に知りたくないし、どうでもいいし~」
言い方が癪に障る幼馴染だ。これだから、エデンで友達ができないんだよ。
「・・・アーシアとお前の首がどうなってもいいって言うのか?」
「えっ?」
「さっきも言ったと思うが、オレたちの仕事はアーシアとグレモリーの監視だ。勘違いしないで欲しいのは、アイツらの仕事に付き合うわけじゃない。あくまでも監視だ。正直、アイツらは精神的に弱い部分があるから頼るのも心配だ。おまけに死なせたら、オレたちがどうなるか分からないんだぞ」
そう言い聞かせるとリリーは「うっ」と詰まったような声を漏らす。
「わ、分かったわよ・・・一緒に行く」
観念したリリーが肯定する。こうでも言っておかないとコイツは任務に付いて行かないしな。
私はそう思いながら、手に持っている箸の動きを進めようとしたが、再び振動を感じてスマートフォンを取り出す。
その画面を見たとき、私は密かに笑みを浮かべた。
◆◆◆
放課後、サクラとイッセーたちはオカルト研究部の部室に集められていた。
リアス、イッセー、サクラ、朱乃、アーシア、リリーといったように三人ずつテーブルを囲むようにソファへと座っていて、リリーの横にはラウラが立っている。テーブルの上の通信用魔方陣からはホログラムのグレイフィアが映っていた。
6人はここでグレイフィアからの調査報告を聞く。
「では、あのはぐれ悪魔はサクラやリリーが言った通り、魔物関連の錬金術師だったわけね」
「はい。その件で一つ問題が発生しまして」
「問題ですって?」
グレイフィアの言葉にリリーが顔を険しくする。
「研究室で作り上げた、冥界の食獣植物とドラゴンのキメラをこの町に放ったというのです」
「やっぱりな。資料にはキメラのことも書かれていた。予測程度で正確なデータは得られるはずがないから実際に作ってもいるし、ヤツがあの反応ならすでに解き放ったことも予想できる」
サクラはエレンからすでに報告は受けているので、グレイフィアの報告と照らし合わせて自身の結論を予測付けた。
「食獣植物はともかく、ドラゴンというのは厄介ね・・・」
リアスの呟きに、イッセーが自らの左手を見つめる。
ドラゴンは悪魔や天使とは違う逸脱した力の塊だと、前にグレイフィアやシキが教えてくれた。そんな恐ろしいものが存在してるとなると事は簡単にいかないように見える。
ここでシキが口を開く。
「だが、一つ疑問点がある」
「疑問ってなんですぅ?」
「エレンの調査によるとあの資料の内容からして、ドラゴンのキメラが混ざっているとはいえ戦争目的で作られているわけではないことが判明している。じゃあ、ヤツが何の目的であのキメラを作り出したのかということだ」
「一体、どういう目的で作ったのでしょうか?」
サクラの言葉にリアスたちは考え始める。しかし、何を目的で作られているのか皆目見当も付かない。
「通信は以上です。新しい情報が入り次第、また連絡致します」
「ええ。お願いね」
リアスがそういうとグレイフィアとの通信が切れた。
それを見計らったかのようにサクラからバイブの音が鳴り始め、懐からスマートフォンを取り出す。エレンから連絡が来たようだ。
その画面を見てサクラがフッと笑う。
それと同時に部室のドアが開き、祐斗と小猫が帰ってきた。
「部長、帰還しました」
「・・・ただいまです」
そのときの祐斗の表情を見て、リアスが微笑む。
「お疲れ様。その表情だと何か収穫があったみたいね」
「ええ、見つけました。恐らく、この学園の女子を狙うものを」
「女子?」
イッセーが疑問に思うも、サクラが立ちあがりポールスタンドに掛けていた赤色のジャンパーを羽織った。
「どうやらそのようだな。エレンも見つけたと報告が入った」
◆◆◆
私たちはその見つけたというキメラの元に向かって、林の中を歩いている。
「じゃあ、急にたくさんの女子が体調を崩したりって言うのは・・・」
「事実だな。エレンの調査では複数の女子生徒から魔力の波動を感じたとの報告だ」
兵藤の疑問に私が答える。だとしても、これは暫定事項だ。
「魔力の?」
「あっ、そういえば。何か体調を悪そうにしている女子生徒から不快なものを感じたと思ったのよね。それが要因か」
リリーも何かを感じていたらしい。顎に手を当てて呟いた。
「私はそれで気になっていたから、祐斗と小猫に陰で動いてもらっていたの」
「オレもエレンとウィルに動いてもらってたけどな。アイツらは今、現場にいるだろ」
グレモリーと私で説明しながら、木場の案内する場所に着く。そこには大木ぐらいの大きさのバラの蕾のような植物があった。このキメラか・・・。
「植物の魔物、ですか・・・?」
「いいえ」
アーシアの言葉をグレモリーが否定する。
それと同時に蕾が蠢き、花弁が開くとその中から除いたのは黄色のドラゴンだった。