しんと静まり返っている、夜の教会。
綺麗に内装を整えているその中では、ある集会が始まろうとしていた。
「よく来てくださいましたね。リリス。エステル」
教壇のある舞台の上でエレンが赴任してきた桃髪の女性―――リリスとシスター服の少女―――エステルを歓迎する。顔は無感情なままだったが。
エステルは無垢な笑みを浮かべていたが、その前に座っているリリスはどこか不機嫌そうな顔をしていた。
「ねぇ、何でこんなムカつく場所に拠点を構えてるわけぇ?」
「と、いいますと・・・?」
リリスの抗議ともとれる質問に、エレンが訳が分からないといったような顔をする。
「だから、何でリリスたちの仇敵が使うような場所に居座ってんのかって聞いてんの」
「何故と言われても・・・この教会が拠点として一番使いやすかったというか、他に構えられそうな場所も無かったというか・・・」
「他にもサクラの家とかリリーの家とかあるじゃない。何でよりによってここなんか―――」
いまだに不満を漏らすリリスに遮って声を掛けるものがいた。
「嫌だよ。オレの家で毎度毎度こんなことをやるなんてウザいし、鬱陶しい」
「リリス、そんなの知らなーい。こんな不愉快な場所にいたくないだけだしー」
「それはお前の都合だろ。エレンはともかくお前のような蛆虫にいられるのは迷惑だ」
「サクラったら蛆虫みたいにウジウジうるさーい。それにさっきから声遮って意見すんじゃないわよ❤」
「そんなの知らない。先に都合押し退けて意見したのはお前だろ」
「アンタが横槍入れるからでしょ!!」
「そうするように誘導したのもお前だろ!!」
バチバチバチバチ・・・・!!
睨みあうサクラとリリス。誰が見ても両者の間には、火花が飛び散り一触即発の雰囲気。
「サクラとリリスったら仲良しだね~」
「「よくないッ!!」」
茶々を入れるエステルに、二人は声を荒げる。
「でも喧嘩はそのぐらいにしないと。エレンが困ってるでしょ~」
エステルが宥めても2人は睨みあっていたが、やがてお互いに顔を横に向けた。
「・・・エレン、さっきの妖魔退治の件で聞きたいことがあるんだけど」
「何ですか?」
「妖魔の数がお前の報告と違うんだよ」
「・・・何ですって?」
それを聞いたエレンが目を細める。サクラは目を逸らさずに言葉を続ける。
「確か報告だと妖魔の数は1体だったはずだよな? ソイツを倒した後に、妖魔が20体以上出現したのを目撃したぞ。これはどういうことだ?」
そういうサクラの顔は無表情だが、どこか不機嫌そうだ。リリスのせいというのも否定はしないが、そうではなく単純に今回の報告に誤っていたことに対する苛立ちである。
報告に誤りがあればサクラにとってそれはそれで面倒臭いことだし、限ったことではないがもしかするとやられてしまうかもしれない。そんなことがあっては自分の平穏を保つことができないからだ。
「おかしいですね・・・確かに一体だけという情報のはずですが・・・」
エレンが考え込むように顎を手に当てるが、シキはそれを聞いて長椅子へと体を脱力させる。
「・・・誤りが無いならいい。どうせ誰かがあの場に適した妖魔を放っただんだろ。それしか考えられない」
サクラの苛立ちがほんの少し解消された。エレンに怒りをぶつけずに済む。怒りをぶつけるのも面倒臭い。
エレンがここでふと思ったことを聞く。
「周りに妖魔以外の気配は感じましたか?」
「そこにいる余計な増員の気配しか感じなかったな。むしろコイツらのせいで何も感じなかったっていう可能性も考えられるな」
それを聞いてリリスが黙っているはずもなく、サクラに口を開く。
「あら、リリスのせいだって言いたいわけ? リリスたちはいつものように妖魔を退治しただけよ。気に喰わないからって変な言い掛かりしないでくれる?」
「だから頼んでないって言ってんだよ」
「リリスはアンタに頼まれた覚えもないわよ」
また口論をし出すシキとリリス。互いにああ言えばこういうで、ちっともやめようとする気配がない。
「はいはい。話が進みませんから、口喧嘩はそこまで」
「「ふん」」
エレンが宥めるも、2人は鼻を鳴らすだけだ。
「しょうがないよね~。この二人はエデンの養成時代のライバル同士、目を合わせれば何かとつけて、いっつも喧嘩ばかりしてたもんね~」
エステルが楽しそうな笑みを浮かべながら言う。その言葉に不愉快に感じたのが、一人。
「コイツが勝手に絡んできただけだ。毎度毎度現れてはオレの邪魔ばかりしやがって。本当に目障りでしょうがなかった」
「アンタがアタシに敬意を払わないからいけないんじゃない。話しかけたのにいっつも無視するし、気に入らないのよ、アンタは」
「何でお前なんかに敬意を払わないといけないんだよ? オレと同じクラスで同等の生徒のくせに」
「アタシは神聖なる獣のファントムだからよ。廊下なんかで優雅に居眠りしてるだけのファントムなんかに同等として扱いたくもないわ」
「何が『神聖なる獣』だよ。お前みたいな傲慢そうな獣なんかじゃ、本物の神様が可愛そうだぜ」
「何よッ!!」
「何だよ・・・?」
バチバチバチ・・・!
口喧嘩が止まらないサクラとリリス。遂には短剣とトレンチナイフを出して、今にも斬り合いが始まりそうな予感だ。
「まあ何にしても、この町にまた妖魔を放つ奴らが現れたってことだろ? ソイツさえ倒せば解決すんじゃねぇか」
その言葉にサクラたちよりも後ろの長椅子に座っていたウィルが口を出す。その口調はどこか淡々としていた。
「まだ確証はありませんが、調査の必要がありますね・・・。私たちの活動を邪魔する愚か者に罰を与えるためにもね」
「ウフフ。エレンちゃんったら、怖いね~。惚れ惚れしちゃう♪」
エステルが子供のような笑みを浮かべながら言う。
「二人ともいい加減にやめなさい。ファントムとあろうものが恥ずかしい」
「「フン」」
エレンに注意されて武器を収める2人。お互いに背を向けたその顔は顰めた表情のままだ。
その直後、教会の扉が開かれる。入ってきたのはリリアンヌ・ダルクとアーシア・アルジェントだ。
「あ、あの・・・悪魔の私がこんなところに入ってきて大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫よ。ここには天使の加護もないし、矢を放たれるようなことはないからだいじょ―――げっ」
リリーがアーシアの手を引っ張りながら入ってくる。アーシアは不安そうな顔をしていたが、今度はリリーが中に視線を向けた瞬間に嫌そうな顔になった。
「あら、久しいわね。金髪2人~❤」
「リリーちゃん♪ アーシアちゃん♪」
対して2人を見てリリスは意地の悪そうな笑みへと変え、エステルは目をキラキラと輝かせた。
「リ、リリスさん・・・エステルさん・・・」
「なっ、なんでアンタたちがここにいんのよ!?」
アーシアは少し体を震わせながら言ったが、リリーは会いたくなかったのにと言わんばかりに声を上げた。
「リリスがいちゃいけないってワケェ? 随分な態度ね。リリスがどこにいようとアンタには関係の無いことよ」
「ぐっ・・・チッ・・・アンタたちの顔なんか見たくなかったのに・・・」
リリスがそのように反論すると悔しそうな顔をして舌打ちをする。
「2人とも、久しぶり~」
「きゃっ・・・エ、エステルさん?」
「ちょ、ちょっと・・・!」
エステルが笑顔で2人に抱き着くと、アーシアは少々困ったような顔をし、リリーが顰めたような顔をする。
「2人に会えなくて寂しかったんだよ。2人の温もりが恋しくてしかたなかったんだから~」
そう言うエステルの手は2人の下半身へとなぞるように伸びていく。
「ひっ・・・」
「あっ・・・ちょっとどこ触ってんのよ!?」
「2人の可愛いところに決まってるじゃない。可愛いところは優しくて弄り回してあげるのが基本でしょ?」
アーシアの怯えた顔やリリーの講義の声にも意に介さず、尻を撫で回した後、2人のスカートの中へと手を入れ―――。
「ああ・・・ダ、ダメです・・・そこはぁ・・・」
「こら、そこ触んな!・・・あっ・・・」
エステルの手が冷たいのとスカートの中を弄られそうになる恐怖にアーシアの体が震えだした。リリーは顔に嫌悪感が丸出しである。
「あぁ、うっ・・・」
ゴチンッ!!
さすがのリリーも我慢の限界に来ていたのか、エステルの頭に鉄拳をお見舞いした。
「やめろ、この変態!! アーシアが怖がってんでしょ!!」
「んむぅ・・・リリーちゃんのいけず~。滅茶苦茶にして犯しちゃうぞ♪」
エステルは2人から体を離して殴られた頭をさすり、そう言いながら最後にウィンクをかます。
さすがのリリーもその発言と仕草に体の底から震えが湧き上がり、身体を守るように腕を回した。
「き、気持ち悪いからやめてよッ!!」
「つれないなぁ。昔は一緒の部屋であんなことやこんなことをした姉妹公認の仲なのに~」
「アンタと性関係を契った覚えはないし、認めた覚えもないわよ!! 想像するのも恐ろしいわ!!」
エステルの止まらない発言に、リリーは殴りたくなってくる。いっそのこと土の中に埋めて、二度と出てくるなと言いたい。
「と、ところで、リリーさんはこのお二人とは知り合いなのですか?」
アーシアがリリーに訪ねるが、その身体はどことなく小さく震えている。
「そうなの。私とリリーちゃんは一緒に愛を契りあった―――」
「違う。この二人はアタシがアーシアと一緒の教会にいたときの単なる知り合い。教会は違ったけど、その頃は一緒に表のエクソシストとしてコンビやトリオで仕事をしたことも多かったのよ」
エステルの声を遮って、リリーが説明する。
「えっと・・・つまりは私と一緒の教会のときに仕事で会っていたということですか?」
「まあ、そういうことよ」
アーシアの質問にも、返答するリリー。
「リリーちゃんのいけずぅ。昔は私のこと大好きってあんなに言ってたじゃない」
「言った覚えはないし、好きだと思ったことも無いわよ!!」
「むぅ・・・」
リリーの言葉に顔を膨らませるエステル。しかし、すぐに忘れたかのように笑顔になる。
「でも、そんなリリーちゃんも可愛いんだけどね~」
「あっ、ちょっと抱き着くなってのッ!! 変なとこも触んな!!」
エステルがリリーに抱き着き身体を撫で回し、リリーはそれをグググと引き剥がそうとしている。アーシアはどうしたらいいか分からず苦笑するしかない。
そのやり取りをつまらなそうに見ていたリリスが立ち上がってアーシアに近づく。
「えっと・・・リリスさん?」
リリスは怪訝そうにアーシアに顔を近付けるとクンカクンカと臭いを嗅ぎはじめる。アーシアはその様子を見て不安そうな顔をしていたが、やがてリリスが「ふーん」と声を漏らす。
「アンタ、悪魔に転生したんだ?」
「は、はい・・・イッセーさんや皆さんと一緒にいたかったので・・・」
「それで、まだ神に祈ってるってホントなワケ?」
アーシアの解答には返答せず、リリスが更に聞く。
「そ、そうです・・・まだ私は神の未練を捨てきれていないものですから・・・」
「ちょっとリリス、アーシアに何聞いてんのよ?」
リリーが横槍を入れようとしたが無視、リリスはそれを聞いて沈黙する。
―――頭おかしいんじゃねぇの? コイツ❤
リリスの思考に侮蔑の感情が生まれたとき、リリスは「ぷっ」と嘲笑を噴き出した後・・・。
「アッハハハハハハハ!!」
大笑いをした。悪魔の唖然とした思考、人間から落ちながら無駄な行いをしている無様さ―――。
それらの思考が混ざり合い、まるで決壊が起こったかのようにおかしくてたまらなかった。
アーシアは彼女の哄笑に唖然としていた。
「何、バカみたいにうるさく笑ってんだよ?」
背後に座っていたシキが首をこっちに向きながら不満の声を漏らす。
リリスは笑いが治まった後、アーシアに向かい合ってこう言い放った。
「・・・バッカじゃないの?」
「・・・・っ!」
リリスの曲げていない直線的な言葉に、アーシアはショックを受ける。自分が信じていた神をその場で否定されたから。
「アンタが神に祈りを捧げるなんて自殺行為みたいなものよ。そんな偽りの存在なんて忘れちゃいなさい❤」
リリスの口調は先程の哄笑とは違い、声は無感情だった。まるで何かに嫌悪しているかのような冷たいものがあった。
リリスが放った言葉に同調したかのように、エステルがリリーへのじゃれ合いを止める。
「む、無理です! だ、だって私の人生はいつでも神と共にあって―――」
「下等種族がリリスに口答えする気ィ~? 殺すわよ❤」
リリスが声を遮ってアーシアを睨む。アーシアはそれだけでも身震いがした。
「その中身は薄汚い欲望まみれのくせに。よく言うでしょ? 亡霊っていうのはいつまでもそういうものに未練に縋ったまま引きずり続けてるって。ましてや悪魔のアンタが神なんかに祈るとか、本当の自分を隠してるだけの偽りなのよ」
「ち、違います! 私の信仰は偽りなんかじゃないです!!」
アーシアも体の震えを抑えながら必死に反論する。
しかし、リリスはやれやれといったような仕草をして、アーシアの胸倉を掴む。
「あっ!」
「じゃあ聞くけど、アンタは祈って救われたことがあるワケ?」
「そ、それは・・・」
アーシアは反論できなかった。教会を追放されてからも、明るい未来を信じて神に祈り続けた。しかし、それでも自分に手を差し伸べてくれたものはいなかった。それでどう説明すればいいのか?
リリスは「ふん」と鼻を鳴らす。
「何もないでしょ? だから、アンタは無駄なモンに命を預けてるだけなのよ。そしてソイツはいらなくなれば簡単に見捨てる。アンタはもうソイツにとってはいらない子なのよ。信じたって無駄無駄❤」
「ああ・・・ああ・・・・」
絶望寸前のアーシアの耳元に顔を近づけてこう囁いた。
「信じたって救われるモノなんてないわ。そこにあるアンタの未来は絶望しかない。まあ、アタシは他人の、ましてやアンタの絶望した顔を見て興奮できるならそれでいいけどね❤」
「そ、そんな・・・いや・・・いやあぁぁぁぁぁ!!」
アーシアはリリスの言葉を聞いて絶望したような顔になり、何かのトラウマが甦ったかのように悲鳴を上げ頭を抱え、膝をつく。その目は恐怖に見開かれている。
リリスはアーシアから手と顔を離してアーシアの顔を見下げる。
「アッハハハハ! 何よ、その顔? ウケるんですけど~」
「今のアーシアちゃんったら可愛い♪ 食べちゃいたいくらいに」
アーシアの顔を見ても罪悪感が沸くどころか、リリスは嘲笑し、エステルは恍惚としたような表情になる。
リリスは満足したように、彼女の横を歩いて扉へと向かっていく。
しかし、エステルはアーシアの背後に瞬間移動をし、彼女の首筋に目掛けて口を開け――――。
「エステル!!」
エレンの怒鳴り声にエステルが動きを止める。そしてその態勢のまま、エレンに視線を向ける。
「やめなさい! 私にこれ以上厄介事を持ち込ませるな!」
「・・・あーあ、エレンが怒ちゃった~、ウフフ」
エステルは落ち込むどころか、笑みを浮かべてその様子を楽しんでいるかのように見える。
「エステル、行くわよ!」
「リリスったら強引だなぁ♪ ホントは食べたいけど、今のままのアーシアがいいから我慢するね。またね、2人とも」
扉を開け放とうとしているリリスに呼ばれたエステルがいそいそと後を着いていく。今のアーシアの表情に何の意も介さないまま、明るい笑顔で。
リリスはそれを確認すると教会の扉を開け放つ。
「ちょっと2人とも、どこに行くんですか!? まだ話は―――」
「どこに行こうとリリスの勝手でしょ。こんな不快なところにいたくないっつーの❤」
「どうせ私は待機組でしょ? だったらエレンの話を聞く必要なんかないじゃない。ちょっと周辺を観光してくるね~」
リリスは自分の髪を手で掻き分けながら、足早にエステルと去っていってしまった。
サクラもリリスが帰ったのを待っていたかのように無言で立ち上がり、足早に扉へと向かっていく。
「ちょっと、シキまで・・・!!」
「オレをくだらないことで呼び寄せないでくれる? ウザい。アイツのせいで余計に不愉快になった。疲れたからオレは帰る」
「だから、まだ話は終わって―――」
「そんなの知るか。お前らで勝手にやってろ」
エレンの言葉を遮って、サクラはそう吐き捨てる。アーシアのほうも一瞬見たが、何も声を掛けずに教会から出て行った。
「わ、私は・・・私は・・・」
アーシアは体をガクガクと震わせている。まさか、世話になっていたリリスさんにそんなことを言われるなんて・・・。誰かに何か酷いことを言われたら、精神が死んでしまうかもしれない状態だ。
リリーもリリスの言葉には反論できず、ただ顔を顰めるだけであった。アーシアにどう言葉を掛けていいか分からない。だってアタシも―――なんか―――だから。
でも、彼女なりにアーシアの親友として、精一杯できることはある。
リリーはアーシアの肩に手をやってこう声を掛けた。
「アーシア。あんなヤツの言うことなんか忘れて、帰りましょう。アンタのやってることは間違ってないんだから」
「・・・リリーさん。は、はい・・・」
何も言わずに彼女を気遣ってあげることだけだ。アタシも―――が―――だから、アーシアに酷いことを言ってしまう立場の存在なのだ。
アーシアの声は暗かった。リリスさんとは教会時代から一緒に信仰していたのに、あんなことを言われるなんてショックだった。例え悪魔になっても友人でいられると思っていたのに・・・。
後にこれはリリーがアーシアから聞いたことだが、リリスとエステルとは最後にいた教会に異動する前の教会での知り合いだという。あまりにも自分が人見知りをしていたから、2人が自分に目を付けて絡むようになったという。意地悪をされたこともあったけど、その頃は仲が良かったと語っていた。
しかし、今は――――。それ以上はアーシアは多く語ってくれなかった。
リリーはアーシアの肩を抱きながら、ゆっくりと扉に向かって歩いていく。そして、振り向き様にエレンを睨みつける。
「アンタのせいだからね。アイツらが来るって、こんなことになるって分かってたら、アーシアを連れてこなかったのに・・・! そういうのはちゃんと報告しなさいよ! いつもアタシを引っ張り回してるくせに!」
それだけ言い残すとリリーはアーシアと一緒に教会から出て行った。
2人残った教会でエレンは歯軋りをする。
「ああもう!! 何なんだよ、アイツらは!!??」
「・・・マジでウゼェ」
怒りの言葉を吐くとエレンは近くにあった椅子を蹴り飛ばした。その様子をウィルは冷たい表情で見つめ、ボソリと呟いた。
◆◆◆◆
カキーン。
「オーライオーライ」
晴天の空に金属音がこだまする。兵藤が飛んできたボールをグローブでキャッチする。
「ナイスキャッチよイッセー」
笑顔で親指でグーをするグレモリーの声。あくびをしている私にはその声が耳に入ってきた。
カキーン。
また金属音がこだますると私は私のほうに飛んできたボールをキャッチする。
「サクラもいいわよ」
「ふん」
アンタに褒められてもね・・・嬉しくないんだよ。私は守るよりも攻撃のほうがいいんだから。最もアンタに上から言われるのが気に入らない。
旧校舎の裏手にある草地の少ない場所でオカルト研究部は野球の練習を行っていた。これは別に悪魔家業でもなんでもない。
「来週は駒王学園球技大会よ。部活対抗戦、負けるわけにはいかないわ」
グレモリーがムカつくぐらいに元気な声をしている。前まではあんなにフラフラだったくせに。
そう、この学園には毎年、部活対抗の球技大会がある。種目は野球、サッカー、バスケ、テニスなどがあり、それらを丸一日楽しむのだ。
私にはそんな面白味のない競技を行って何が楽しいのか分からない。これなら妖魔を殺していた方がよっぽど面白味がある。
でも、文系・運動系問わず全ての部活動はこの競技に参加する義務があり、おまけに競技は当日まで分からないというもの。はぁ・・・面倒臭い。
ホントは疲れるから、私は参加したくなかったのだが・・・。
『私はもうレーティングゲームでもこの運動競技であっても負けるわけにはいかないわ! 部員の一員であるあなたの力が必要なの!』
グレモリーがこう懇願してきたので、仕方なく私は練習に参加している。まあ、コイツが勝ちに執着するようになったのは一つの成長と見てもいいのだろうが。
何をやらされるかは分からないがとりあえず、何もしないのもあれなので無難なものからやっていくことに決めたらしい。それが、今行っている野球というわけだ。
まあ、運動も妖魔退治とは容量はほぼ同じだから苦にはならないのだが、ボールをキャッチしたりバットで打ったりする競技の何が面白いというのだろうか。これなら外国でライフルを構え、猟で鹿でも仕留めてたほうがまだいい気がする。
やがてこんな感じでいいだろうとバッティングの練習は終わり、次はノック、いわゆる守備でゴロになったときの練習というヤツだ。
グレモリーもえらく気合が入っている。たかが競技ぐらいで熱くなる理由が分からん。何か目ぼしいものが貰えるわけでもあるまいし。
グローブをはめてグラウンドへとばらける私たち。
「部長はこの手のイベントが大好きですからね」
「分からんでもないです。俺んところのお姉様は負けず嫌いですもん」
「そういうことですわ。まあ、余程のヘマをしない限りは私たちが負けることはないと思いますけど」
それはそうだろ。相手のチームは人間だけど、こっちは人外がそろっている。当日は手加減したとしても、負けるなんてことはないだろう。
でも、ルールと感覚が分かっていないとそれはそれで本末転倒だ。運動力はあっても、それらを体で覚えていかないと何をすればいいか分からなくなるからな。
「リリー、いくわよ!」
カーン!
パシッ!
「ふっ!」
グレモリーがバットで弾いたボールをリリーが転がりながらキャッチし、一塁へと投げる。
お嬢様な割には意外にも運動神経は良いリリー。体操着に着替えていつもの長い金髪もゴムで後ろに縛ってポニーテールにしている。
普段なら汚れるからこんな競技は嫌だと言いそうなリリーだが、今回の練習に参加しているのはちゃんとした理由があった。それはメンバーが一人足りないことに起因している。
今日はもう一人の金髪―――アーシア・アルジェントが来ていないのだ。その理由はこの前教会に来たときに、何かあったか知っているから大抵わかる。
あの日以来、アーシアは学校で一度も見かけたことが無い。アイツがどうなろうと知ったことではないが、アーシアの様子がおかしいことに気付いた兵藤が何度も彼女の元を訪ねても、アーシアは一向に外へ出たくないと言い出すのだという。
リリーが渋々兵藤の家に訪れたときには――――。
『ねえアーシア、出てきて!』
『しばらく一人にしてください・・・』
『アーシア、どうしたんだよ? まさか・・・学校で苛められたのか!?』
『アーシア、そうなの!? お願いだからここを開けて!!』
『そうじゃないんです。お願いですから懺悔の時間をください・・・』
兵藤とグレモリーとリリーが必死に呼びかけても、暗い声が返ってくるばかりで外には出てきてくれなかったらしい。よっぽどアイツらに苛められたのが苦しみになっているのだろう。
私はもちろん、行っていない。さっきも言ったが、アイツがどうなろうと私の知ったことではない。
「次、行くわよ! 祐斗!」
しかし、様子がおかしいと思うのはアーシアだけではなかった。今度は木場のほうへとボールを飛ばすグレモリー。
「・・・・・・・・・」
コン。
うつむいていた木場の頭にボールが落ちた。取ろうともせず、見ようともせずに。
まあ、あんな感じになっている理由は大抵予想がつくが、それとこれとは話が別なわけで。
「おい木場! シャキッとしろ!!」
思わず声を上げる木場。それに気付いたのか木場が兵藤に顔を向ける。それは笑顔ではない呆けたような顔だった。
「・・・あ、すみません。ボーっとしてました」
木場はそう言うと地面に落ちたボールを拾って、グレモリーへと投げる。溜息を吐きながらグレモリーがボールをキャッチすると木場に問う。
「祐斗、どうしたの? アーシアもそうだけど、最近ボケっとしててあなたらしくないわよ?」
「すみません」
素直に謝る木場。
ここ最近、難しい顔ばかりをしている木場。定例のオカ研会議でもどこか遠い目をして話し合いにちっとも参加している様子が無い。
聞けばその姿が女子の話題にもなっていて、『物思いにふける王子』だとか言われているらしい。
私はどうでもいいが、この学校の女子共は本当にアイツの心配をしているのだろうか。憂いのある表情に興奮するとか、変態ばかりか。
そういえば、名前は忘れたがライザーの騎士の戦いのときもああいう目をしていたな。興味は無いので、内容もとっくに忘れたけど。
聖剣と木場のことに関しても気になるが、今はそんなものはどうでもいい。今は球技大会に向けて頑張るべきだ。
ふとグレモリーのほうに目を向けると何やら雑誌を取り出しているようだが、あれは野球のマニュアル本か何かか?
本に頼るのもいいが、あまり鵜呑みにしすぎるのもよくないことだ。結局、最後まで信じなくてはいけないのは自分の体なのだから。
横を見れば兵藤と姫島が話し込んでいて、何やら兵藤がショックを受けているようだが、まあ私には興味の無いことだ。
「さーて、再開よ!」
グレモリーがバットを振り上げ、練習が再開された。
◆◆◆
「2人に話があるの」
兵藤の部屋、そこに私を含め4人の人型が集まっている。兵藤とグレモリーとリリーだ。そこにはアーシアの姿は無い。いまだに塞ぎこんでいるのだろう。
球技大会の練習が終わったその夜、私とリリーは兵藤の家へとお呼ばれされた。まあ、どんな話かは大抵予想はついている。
リリーもアーシアのことを言ったら素直に着いてきた。ただ単に兵藤の家に来るだけでは来なかっただろうな。
「・・・アーシアのことか?」
「ええ。あなたたち、何か知らない?」
「最近、アーシアの様子もおかしいんだよ。リリーちゃんと一緒に帰ってきてからリビングに食事へと現れないし、話し合おうとしても部屋に閉じこもったまま出てこないし・・・」
グレモリーと兵藤は真剣な顔で聞いてくる。その真剣さが本当に腹が立つ。
「オレは知らない。知ったことじゃない」
「でも、リリーちゃんと一緒に行ったんだろ? 原因がお前ら以外に考えられないんだよ」
・・・そういえば、アーシアを連れてきたのはリリーだったよな。
「・・・リリーなら知ってるんじゃないのか?」
「ア、アタシに振るの!?」
「振るも何も、お前が一番アーシアのことを知ってるだろ。こんなとこまで意地張ってないでさっさと話してやれよ」
「・・・・・・・・・」
リリーは俯いて黙ったままだ。素直に話せよ、面倒臭い。
「リリーちゃん、話してくれないか? 俺はアーシアが心配なんだ。頼むよ」
「・・・・・・・・・」
兵藤がリリーに懇願する。リリーはしばらく黙っていたが、やがてようやく口を開いた。
「・・・苛められたのよ」
「「!!?」」
グレモリーと兵藤は驚愕する。
「グレモリー先輩たちには言ってなかったけど、今日機関のメンバーが2人こっちに配属されることになったのよ。そいつらはアタシとアーシアの同僚で、悪魔になってもお祈りを捧げることを否定されて、自分の生きる価値すら否定されたのよ」
リリーが声に怒りを滲ませる。
「何があったかは知らないけど、アイツらはアーシアにとってはトラウマなのよ。だから、エレンがさっさと報告していれば連れてこさせずに済んだのに・・・!!」
右の拳を潰さんばかりにギュッと握るリリー。
「・・・要するにかつての友人に心を傷つけられたってことね」
「・・・そういうことよ」
「何だよ、そりゃ・・・ソイツら、許せねぇ!」
リアスや兵藤の顔に怒りが滲んでいるような気がした。アーシアのために怒れるってことはそんだけ大切にしてるってことだな。
ふと兵藤が外に出ようとするので私は声を掛けた。
「おい、どこに行く気だ?」
「決まってんだろ! ソイツらを一発ぶん殴ってやんだよ!!」
兵藤が壁を拳で叩きながら言う。熱いのは結構だが・・・・・・。
「どうやって? 場所も分からないのに?」
「サクラとリリーちゃんの仲間なんだろ!? だったらソイツらに会わせて―――」
「莫迦を言うな」
今度は私が兵藤の声を冷たい声で遮って意見をする。
「ソイツらは機関の中でも結構な実力者。お前ら悪魔を殺すことなんか毛ほどの抵抗も無いヤツらだ。眷属の中でも最弱のお前が突っ込んだところで返り討ちに合うだけだ」
「だ、だけどよ!」
「とにかくグレモリー共々勝手に死ぬのは許さん。どうせオレらが連絡したって応じるわけがないだろうし、仇討ちなんか無駄なことだ」
「くっ・・・!」
まあ、私も連絡するのは面倒臭いし、アイツのことは外国にいたときから大嫌いだからな。
「サクラの言う通りよ。その子たちが誰なのかが分からない以上は迂闊に突っ込むのは危険だわ。怒りたいのは分かるけど、ここは少し落ち着きましょう」
グレモリーがそのように諭しても、兵藤は納得がいかないような悔しそうな顔をしていた。
「とりあえずはアーシアを慰めてやるのが先決だろ? アイツらに会ったらお前はますます冷静さを失うだけだからな」
「そこまで性格が悪いの?」
「そんなヤツらなんだよ。アイツらは」
「・・・分かったよ」
顔に心の気持ちが出ているようだが、とりあえずは兵藤は落ち着いたようだ。
「でも、どうやって慰めるの? 部屋の外にも出てきてくれないのに・・・」
「そんなの、出てきてくれないなら話すような環境を作り出すしかないだろ」
「お、おい・・・!」
私はアーシアの部屋の前へと歩いていく。そして扉を手の甲で叩く。
コンコンコン。
「サクラだ。扉を開けろ。お前と話したいことがある」
・・・・・・・・・。
返事が無い。もしかして、寝てるとか? それか無視か?
ドンドンドン!
「おい、開けろ。アーシア、いるんだろ。ここを開けろ」
先程より強くドアを叩く私。
・・・・・・・・・。
『・・・サクラさん、ですか?』
やっぱりいたか。部屋に閉じこもっているんだから、それもそうか。
「オレの声じゃなかったら誰だって言うんだよ。分かったらさっさとここを開けろ」
『・・・お願いですから放っておいてください』
アーシアの暗い声が聞こえてくるが、そんなことは私の知ったことではない。こんなヤツは見ていても聞いていてもイライラするし、面倒臭い。
「お前の意見なんか聞いてない。いいからさっさと出てこい」
・・・・・・・・・。
・・・返事が無くなったな。
ああ・・・イライラするな・・・。
ガチャガチャガチャ、ドンドンドンドンドン!!
「出てこいつってんだろ。おい!」
私は多少怒気を含みながら、ドアノブを乱暴に回し、扉を蹴るように叩く。鍵まで掛けてやがる。どこまで深刻なんだよ。
私はその後も借金取りのような強引な行いを続ける。
「お、おい・・・サクラ・・・!」
「そ、そこまでしなくても・・・」
「黙れ」
兵藤とリアスが見かねた様子だったが、私は牽制して続ける。それでもアーシアは出てこず、私は思わず舌打ちをした。
・・・そうか。乱暴にされたいのがお好みってわけか。ふーん、わかった。
「サクラ・・・炎なんか出して何する気だよ?」
「・・・・・・」
扉から少し離れると右手から炎を出し、鍵穴に目掛けて放つ。別にこれは部屋を燃やそうとしているわけではない。だが、これで鍵は開くはずだ。
ダァン!! ダァン!! ダァン!!
『ひぅ!? な、なんですか!?』
扉に蹴りを入れて無理矢理抉じ開けようとする。本当はドアノブを回せば開くのだが、無性に苛立っていた私は壊さずにはいられなかった。
ダァン!! ダァン!! ダァン!! ドォォォォォォン!!
蹴りを何度も続け、脆くなったところを思いっきり蹴り飛ばすと扉が吹き飛んだ。
「きゃあぁぁぁぁ!! な、何事なんですか!?」
「ちょ、ちょっとサクラ! やり過ぎだってば!!」
アーシアやリリーの驚いた声も気にせず、私はずかずかと部屋の中へと入り込む。
アーシアはどうやらベッドで丸くなっていたようだ。もしかしたら、まだ落ち込んでいたのかもしれないが、私には関係のないことだ。
さっさと出てこなかったので少し怒りを覚えていた私はアーシアを不機嫌そうな目で見る。
「サ、サクラさん・・・」
アーシアの目には涙が浮かんでいたが、私にとっては同情する余地もない。
「・・・下級悪魔のくせに反抗しやがって。いつからお前はそんなヤツになったんだ?」
我ながら低い声だったと思っている。イライラしていると本当にこんな調子の声が口から漏れてしまう。
私がゆっくりとアーシアに近づいていくとアーシアは小さな悲鳴を漏らした。
「こ、来ないでください・・・!」
「オレに指図しないでくれる? 不愉快なのが余計に不愉快になるんだよ」
アーシアの拒否の言葉を容易く斬り捨て、私はだんだんと彼女に近づく。彼女の怯えている顔が心底たまらないな。
・・・おっと。忘れてた。ドアがぶっ壊れてるんだっけ。直して鍵を掛けておかないと私の行動が見られてしまうな。
私は小さな声でとある使い魔を口で呼び出す。
「ドワーフ共、ドアを直せ」
『りょーか~い!』
小さな可愛らしい小人の集団7人が私の命令を受け、吹き飛んだドアを七人がかりで運び、入り口のほうへと持ってきたかと思うと金具を取り付けに掛かっていく。
「ちょっとサクラ・・・壊したドアを修復して何を・・・?」
まあ、ドアは問題ないだろうな。グレモリーが何か言っているようだが、無視。
あとは・・・。
「ひっ・・・」
アーシアの体が小刻みに震える。私を恐れているような表情だ。ククク・・・いいな、もっと怖がれ。
私はアーシアに向かって歩みを進める。それをする度にアーシアの震えが大きくなっていく気がする。だが、私は気にしない。知ったことではないからだ。
「い、嫌ぁ・・・! あぁ!」
アーシアは私から後ずさろうとしたが、ベッドから転げ落ちる。それでも這いずって私から逃れようとしている。
まあ、こうして逃げている姿も悪くはないが、私は腰から短剣を引き抜いて、アーシアに目掛けて投げる。
ドスッ!
「ひっ!」
アーシアの顔が青ざめる。私の投げた短剣が自分の眼前の床に突き刺さったからだ。まあ、退路は塞いだし捕まえやすくはなったか。
「逃げるな。面倒臭い」
「あ・・・あぁ・・・」
アーシアは尻餅をついたような姿勢で振り返り、怯えた顔で私を見る。その表情を見た私はアーシアをもっと苛めてやりたいという欲求にそそられた。
気付けば部屋は真っ暗になっており、背後を見ればドワーフたちがすでにドアの修復を終えていた。これで好きにできるな。
私はアーシアの前まで近づくと無言で首を掴む。
「ぐっ!?」
アーシアの口から空気を噴出するような声が漏れるが、私は気にせずに彼女の体をそのまま持ち上げる。
「うっ・・・ぁ・・・」
ああ・・・人間の苦しむ顔は最高のスパイスだな。悪くない。でも、私はこんなことがしたいんじゃない。
私はアーシアの首を掴んだまま、ベッドのほうに近づくとそのまま彼女を放り投げた。
「きゃあ! ハァ・・・ハァ・・・」
アーシアは首の圧迫から解放されたことで、ベッドの上で息を整えている。私はそんなベッドの上に乗り、アーシアに近づく。
「オレに反抗的な態度を取っただけでなく、逃げようとするなんてな。逃げないほうがマシと思えるようなお仕置きが必要のようだな」
「ひぃっ・・・や、やめてください・・・」
顔色の悪いアーシアはガタガタと震えるが、それが私の心に黒い何かを目覚めさせようとしているということに気付いていない。
私はアーシアに近づきようやく彼女の足に触れた。
「あっ!・・・ああ・・・あぁ・・・」
「喚いたらさっきみたいに首を絞めてやるからな。愛する男も抱けないまま、死にたくないだろ?」
今にも悲鳴を上げそうだったので動きを止めて、声で脅しを掛けておく。それが耳に届き、私の言っていることが嘘じゃないと察したのかコクコクと頷く。
よく分かってるじゃないか、アーシアも。コイツもただドン臭いだけの莫迦ではないというところだな。
私はアーシアの体を押さないように這うように進み、眼前まで近づく。涙目な上に怯えたような顔をして、可愛いな。本当にもっと苛めたくなる。
でも、私の目的はそんなことではない。たまには我慢も必要なことがある。例えただの『暇つぶし』でもな。
私はアーシアの顔をしばらく見つめた後、彼女の首に手を回し抱きしめる。
「え・・・?」
戸惑うアーシア。その体はまだ震えている。私の着物越しでも充分にそれが伝わってくる。
「お前がどういった事情を抱えているかは知ったことじゃないけど、あんなヤツらの言葉なんか気にするな。どんなことを考えていようとそれはお前の意思だ。間違ったことなんかしていないさ」
「サクラ・・・さん・・・」
大したことは面倒なので言わないが、アーシアにこんな言葉を掛けてやる。
たかがあんなことでウジウジしているのがウザい。さっさと落ち込みから回復して欲しいものだ。私どころか、アイツらにも迷惑だからな。
この程度の暖かさで通ると思ったが、根は大分深刻だったようだ。
「で、も・・・私は・・・」
「あんなヤツらの言葉など忘れてしまえ。どうせ覚えていたってお前にとっては何の得にもならない。お前は1人じゃない。そうだろ?」
「辛い、です・・・あのようなことを言われて、生きていくなんて・・・」
・・・ああ。もう面倒臭い。この女は本当にウザすぎる・・・!
こうなったら強引にあの手で行くか。少し手荒な行為かもしれないが、私にはどうでもいいことだ。自殺なんかされたら困るしな。
「じゃあ、オレが忘れさせてやるよ。お前が迷惑を掛けた分も含めてな」
私は懐からアンプルを密かに忍ばせながら言う。
「え、それって・・・?」
アーシアは怪訝そうな声を上げていたが、私は気にせずにアーシアの綺麗な首筋に向けて口を開き―――。
「あっ! い、痛い・・・」
「んっ・・・っ・・・は・・・」
「うっ・・・あ・・・」
「ん・・・っ・・・痛いか? まだ終わってないぜ」
「や、やめ・・・あっ・・・!・・・いっ・・・」
「んっ・・・・・・!」
「・・・っ・・・う・・・」
やはりいいな。私らにとっての『餌』であるコイツは。儚げな声といい顔をしてくれる。堪らない。
私はそう思いながら、アーシアの、外からは分からない場所をもっと責め立てた。
サクラがアーシアの部屋に入ってから数分が経った。いまだに俺たちはサクラが召喚した変な小人に直されたドアの前で待っていた。
部長は腕を組みながらドアを見つめていて、とても心配そうに見守っている。リリーちゃんも廊下を行ったり来たりしていて落ち着かない様子だ。
俺はサクラのことだから大丈夫だとは思うけど・・・正直、心配だな・・・。この前の部長の件もあって、アーシアに乱暴を行っているかもしれない。でも、アーシアとサクラは何だかんだで仲がいいし、それはあり得ないだろうと信じた。
うーん・・・でもやっぱり心配だ! ドアを開けて確認しよう!
そう思った時、部屋のドアが開けられてシキが出てきた。
「サクラ! アーシアは?」
リアスは出てきたシキに問うと、彼女は数秒の沈黙の後口を開いた。
「・・・寝てる。泣き疲れたんじゃないか?」
特に表情を変えるというわけではなく、サクラはそれだけ言う。部長とリリーちゃんがホッとした顔になる。
俺もホッとしたが、乱暴はされたという疑念は消えていない。どんな手を使ったんだよ・・・サクラは・・・。
しかし、サクラは何も言わずに下へと降りてくる。
えっ・・・ちょっと待てよ! 肝心な説明は!?
「おいサクラ! アーシアは大丈夫なのかよ!?」
「・・・うるさい」
「お前、この前の部長みたいに乱暴したんじゃないだろうな!?」
俺が呼び止めるとサクラは苛立ったような口調で言う。些細な大声でも嫌うんだよな・・・。
「サクラ、ありがとう。付き合わせちゃって、ごめんなさい」
部長が去っていこうとするサクラにお礼を言う。サクラは特に反応することなく、歩き出していく。何か言ってやってもいいんじゃないのかな・・・?
でも、俺の意図を察したように、サクラは立ち止まって振り返り様にこう言ってくれた。
「アンタらの莫迦な面で確かめてみたら?」
サクラはやはりそれだけ言うと、階段を降りて行った。
まるで信憑の無さそうな言葉だが、サクラは俺の友人だからな。何も言ってくれなくても、乱暴なことはしていないと信じたい。
「ああ・・・アーシアってばホントに平気なの? アタシの愛しのアーシア・・・」
リリーちゃんはいまだに落ち着かない様子だ。教会時代の親友だったんだっけな。そりゃサクラのあんな性格じゃ心配するのも無理は無いな。
「リリー、そんなに心配なら見守りましょう。あなたの大切なお友達を」
「アンタに言われなくても分かってるわよ」
俺と部長はアーシアの部屋の扉をそっと開ける。部屋は真っ暗だが、特に荒らされたという形跡はない。
そして、アーシアが安らかな顔で眠っている姿を見て俺たちは安心を覚えた。
しかしその後、俺たちにとってあんな想定外の事態が起きるとは思ってもみなかった。
◆◆◆
「ったく・・・アイツのせいで本当に不愉快よ。腹が立つ・・・いつか殺してやるわ」
「そんな物騒なこと言っても、サクラは死なないよ?」
「うっさいわね。分かってるわよ、そんなこと」
「それにしてもさっきのアーシアちゃんの顔、可愛かったぁ~。ウフフ、もっと見てみたいな♪」
「それについては同感ね。アイツはリリスたちの快楽道具なんだから❤」
「ウフフ。ところで、ヴァチカンで何かあったみたいだけど、リリスは何か知ってる?」
「興味ないわよ。あんな存在を見ていないものを崇める人間共の巣窟の事情なんて」
「私はちょーっと興味があるかな。出来たら教えてほしいなぁ~」
「よく知らないけど、何か盗まれたらしいじゃない。人間はやっぱりバカばっかりね」
「もっと詳しく教えてよ~」
「あのメガネのほうがよく知ってるんじゃないの? ソイツに聞けば? だってあそこに所属してるんでしょ」
「リリスはいけずだなぁ~。まあ、それがいいんだけどね。放置プレイされてるみたいで♪」
「キモいからその発言やめろ❤」
「ウフフ、ごめんね~?」
「チッ・・・・・・」
「リリス、どこいくの~?」
「どこだっていいでしょ?」
「愚かな人間たちの生態を確認するなら私も行きたいな~」
「知ってんなら聞くなっての。背後を歩かないでくれる? 虫唾が走るから」
「リリス、いけず~。待ってよ~♪ ウフフ」