極悪な奴ら/THE EVIL HERO   作:早乙女

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第4話「疑惑と邂逅」

幾度かの苦難を乗り越えて日本へと戻ってきた桜。後に駒王学園に入学した。

 

学校には過去にもどこかの遠い国で通ってきたことのある桜。通うときはもちろん、幼いころから着ているお気に入りの着物姿だ。

 

駒王学園は制服指定だが、制服というものを知らなかった桜は入学早々、着物を着て来てしまった。先生などのお叱りもあって、学校指定の制服を着てくるようになった。確かにいちいち選ばなくてもいいので面倒ではないが、個人的に恰好的に好きではない。

 

しかしこの初日の着物姿が学校中に注目を浴び、また男とも女とも似つかない綺麗な顔が女生徒にも男子生徒にもウケた。その後は妖魔を狩れない退屈を紛らわすために水泳部以外のあらゆる部活のスポーツをこなして、いつのまにか人気を得ていった。ちなみに本人に自覚は無く、ただ五月蠅いだけの連中としか思っていない。

 

1年生のある日のこと。

 

「なあ、アンタ」

 

誰かに揺さぶられた桜は目を覚ます。顔を起こして横を見てみると、決して顔立ちは悪くない少年の顔が目に映った。

 

「帰らないのか? もう夕方だぞ」

 

「・・・・・あ」

 

少年に指摘されて窓を見てみると、外はすっかり夕暮れ。カラスが鳴いて家に帰らなくてはならないことを知らせてくれる時間帯である。

 

どうやらHRの時間にまた居眠りを始めてしまい、ぐっすりとこの時間まで眠りこけてしまったようだ。誰か起こすことぐらいしてくれればいいのに・・・。

 

「お前は帰ってないのか?」

 

「だって俺今日、日直だったしな」

 

「・・・そうか」

 

桜は興味の無さそうに返すとそのまま、教室を後にしようとする。家に帰るのが面倒くさい。でもここにいても、しょうがないから家に帰るしかない。

 

「・・・なあ」

 

「ん?」

 

少年は桜に呼びかける。桜は立ち止まって後ろを振り向く。

 

「どうせならさ、一緒に帰らないか?」

 

「・・・・・・は?」

 

「お前いつも一人でいるだろ? だから少し気になっちゃって・・・。ダメか?」

 

「・・・・・・」

 

桜は言っている意味がよくわからなかったが、セクハラ紛いの発言をされたような気分になった。

 

桜は少年のほうを振り向いて、自分の体を抱きかかえながらこう言った。

 

「・・・変態」

 

「・・・え?」

 

ジト目で少年の顔を見る。気のせいか馬鹿にしているような顔にすら見える。

 

「オレの体が目当てだったのか。お前、随分と淫乱な男だな」

 

「いやいやいや、何でそうなるんだよ!? お前がいっつも一人で寂しそうにしてるからって言ったじゃねえかよ!! 人の話聞いてました!?」

 

何を勘違いしているのか。少年が桜に突っ込みを入れる。

 

「・・・そうだったか? じゃあ、オレの胸が見たいのか?」

 

今度は胸を隠しながら言った。

 

「ああ、確かにちょっと気になるかも――って違ぁぁぁう!! だからどこのどういう点でそういう解釈に至るんだよ、アンタは!!?」

 

胸というキーワードに反応するも大声で叫びながら、再び突っ込みを入れる少年。桜は白々しく溜息を吐きながら言った。

 

「お前、五月蠅いぞ。キーキー騒ぐな」

 

「お前が叫ばせてんだろうが!! 何、他人事のようにしらばっくれてんの!?」

 

話をしているうちに2人だけの寂しい教室が明るく朗らかな空気へと変わっていった。

 

桜の口元に笑みが浮かび、口から笑い声が漏れる。

 

「ハハハハ。面白いな、お前」

 

少年は桜の突然の表情にどういう声を掛けていいか分からなかった。

 

「冗談だよ、冗談。」

 

「・・・え?」

 

「一緒に帰るんだろう? 早く行こうぜ」

 

「あ、ああ」

 

少年は歩き去っていく桜の後に駆け寄り、横一列に並んで歩いていく。

 

「そう言えば自己紹介がまだだったな。俺、兵藤一誠。みんなからは『イッセー』って呼ばれてる。」

 

「・・・風花桜」

 

「よろしくな、サクラ!」

 

「・・・・・フッ」

 

「お前今、鼻で笑わなかったか?」

 

「・・・気のせいだろ」

 

少年・一誠と一緒に帰っていた際の桜は終始無言だったという。でもこれが桜と一誠が友人になった瞬間であった。

 

桜はそのとき、こう思った。『退屈しないからかい相手ができた』と。

 

後に桜は一誠がとんでもない問題児だということが判明し、生徒会長に頼まれて変質者のような行動の彼を見ては制裁を加えるようになったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

1人しかいない自分の寝室で、私は目を開けた。

 

部屋の中は静寂に包まれており、それが何とも落ち着ける。

 

(夢か・・・)

 

兵藤と最初に話したあの日。何だかよく分からないが、心がほぐれたような気がした。

 

その大事な友人が昨日の夕方、黒い羽の生えた少女――堕天使に殺された。腹を光の槍でブスリと風穴を開けられて。

 

その直後、自分の前に紅髪の少女が姿を現した。彼女は自分を見たときに『やっと会えた』とでも言いたげな表情をしていた。

 

彼女は普通の人間ではなく、悪魔だった。そう言えば悪魔は他者を転生させることができると聞いたことがある。あの眷属は仲間や下僕には慈悲深いと聞いたことがある。

 

根も葉も根拠もない噂だったが、人外ならそういうことができてもおかしくはない。だから、とりあえずは彼らを信じて一誠のことを任せた。

 

友人は今、どうしているだろうか? もし生き返っているのであれば、自分の今の状態に戸惑っているに違いない。もしや昨日の出来事を夢だと勘違いするのではないだろうか。

 

・・・・・・考えても仕方がない。起きるか。重たい体を動かして、今日も学校へ行こう。

 

私はベッドから体を起こし、リビングを通って台所へと向かう。今日はちゃんと朝食を作るか。

 

私は台所に入るなり、冷蔵庫を開けた。野菜室には牛蒡とほうれん草、冷凍庫には鰻があったか。金平牛蒡とおひたし、うなぎの蒲焼にしてみるか。蒲焼はご飯を用意して、ゴマと海苔をのせてお茶を掛ければ、ひつまぶしになるからな。食事の楽しみが増えるだろ。

 

「お嬢様。食事なら私が」

 

「いや、1人で大丈夫。お前は洗濯物でも畳んでおいてくれ」

 

「・・かしこまりました」

 

身の回りのことぐらい自分で出来なくちゃいけないからな。特に食事を作るのは生き残るための知恵の一つだろう。

 

でも秋山に仕事をさせないのはどうかと思う。必要ないように感じるが、仮にも私の世話をしてくれている人だ。偉そうに仕事ぐらい与えておいても、罰は当たらないだろう。

 

さてと、では調理を始めよう。私は棚から包丁を取り出した。鰻が生きていないのが難だが、朝っぱらから暴れられても面倒なのでまあいいだろう。

 

この後、料理を完成させて食事を済ませ、制服へと着替えて学校へと赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あくびをしながら、学校へと赴く私。実を言うとそんなに行きたくない。授業はババアとジジイのつまらない話を聞いているだけだし、女や男は群がってくるし、鬱陶しさと鬱憤だけが募ってしょうがない。

 

唯一悪くないと思えるのは家庭科という授業だ。食材を持ち込んでも文句は言われないし、個人個人で自分の好きなものを作れる。ゆっくりと研究染みたことを出来るので退屈しない。

 

でも今日は家庭科の授業が無い。朝と昼は退屈な時間が多くなるだろう。

 

誰かを殺したい・・・妖魔をザクザクと切り刻みたい・・・。早く夜にならないかな・・・。

 

そんなことを考えながら学校へと歩いていると兵藤を発見した。でもどうも元気がない。まるで遅くまで夜更かしをしていた人みたいだ。

 

元気の無い理由は大体分かる。あの兵藤からは普通の人間の気配がしないからだ。感じるこの気配は・・・悪魔だ。昨日出会ったあの紅の髪の女性――リアスと同じ・・・悪魔。彼は私の知らないうちに人間をやめてしまった。

 

悪魔は闇の中で生きる存在であり、逆に日の光に弱い。だから悪魔になったばかりの兵藤にとっては日の光が辛いのだ。でもあの様子を見る限り、彼は気付いていないに違いない。

 

リアスがどうにかしてくれたのだろう。そうでなければ兵藤は今頃、こうして学校に登校してきてはいない。悪魔になってしまったのは気になるが、そんなことはどうでもいい。

 

私は学校近くと校内の黄色い声を不愉快に感じながら、教室へと入る。机に突っ伏して、居眠りの体勢に入る。

 

「桜さん。今日も居眠りなのね」

 

「寝ている姿もカッコいいわね~」

 

・・・・・・は? 何だよ、それ。

 

他人の寝ている姿を見て何が面白いのかが分からない。何の変哲のないオブジェを見ているようなものだろ。

 

何か今日に限って黄色い声――いや、盛りの猫みたいに周囲がやけにうるさい。不快だ。別の場所で寝ることにしよう。

 

でもこれじゃあ、HRどころか一時限目もサボりになってしまうな。まあいいか、どうせ聞いても面白くも何ともないし。

 

私は突っ伏した机から立ち上がって自分の教室を後にする。・・・・・・眠い。

 

あくびに口に手を当てながら移動していると同じ学年の教室の近くを通りかかったところで気になる話が聞こえた。

 

「お前ら、マジで夕麻ちゃんのこと覚えてないのか?」

 

兵藤の声だ。教室の中から聞こえる。その声には軽く動揺が含まれているような感じだった。

 

私は教室の入り口から隠れるようにして、その会話に耳を傾ける。

 

「だからさ、俺らそんな子知らないって。マジで病院とか行ったほうがいいんじゃないか? なあ、元浜」

 

「ああ、何度も言うが俺たちは夕麻ちゃんなんていう女の子を紹介されていない。そもそも、お前に彼氏なんかあり得ない」

 

丸坊主の松田と眼鏡の元浜が可哀そうなものを見るような目で兵藤に言う。おそらく天野夕麻が兵藤を殺した後に、周囲の人間から記憶消し去ったのだろう。

 

彼女の存在など最初から無かったかのように。

 

「んなはずあるか! ちゃんとメアドだって・・・」

 

携帯を弄りながら確認する兵藤だが、途中で言葉が止まった。おそらく兵藤の携帯から夕麻のメールアドレスも携帯番号も全て消えていたのだろう。莫迦の考えてることなど分からんが、それしか考えようがない。

 

兵藤は怪訝しつつも席へと戻ろうとするが、教室の外にいる私のことが視界に入った。そういえばコイツ、死ぬ前に私のことを見ていたな。

 

全く・・面倒なことになった。私は、私のことを何も知らないコイツに正体がバレるだけでも人間関係が壊れてしまうくらいだというのに。

 

兵藤が昨日のことを何か知っていると思ったのだろう。こっちに近づいてくる。さて、どうしようか・・・。

 

そう思ったその時、兵藤に何か物が飛んできて頭にぶつかる。

 

「桜様に近づくな、ヘンタイ!」

 

「そうよ! 汚れちゃうじゃない!」

 

教室内の非難の声と共に兵藤に、女生徒の手にしていた物が次々と投げつけられる。兵藤ってホントに嫌われているんだな。悪名が祟ってる分、彼には別の意味で同情する。

 

改めて思うが、私のどこがいいのか全然分からない。格好いいと思ったこともないし、綺麗だなと思ったこともない。自分でいうのはおかしいと思うが、私は普通だ。

 

「痛てぇッ! ちょ、やめろって、があっ!」

 

兵藤の制止の声も聞かずに女生徒は物を投げ続ける。そんなに投げるものが教室にあっただろうか。まあどうでもいいが。

 

でもこれじゃあ、話そうにも話せないな。私が兵藤に近づいたところで、周囲が余計にうるさくなりそうだ。それ以前に私は眠い・・・。

 

私は教室内の騒ぎ声を背後に、昼寝の場所を探して歩いて行った。

 

ドンガラガッシャン!! ドスッ ドスッ

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・何か妙な音がしたような気がしたが、どうでもいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女はいなかった? 俺の幻想? そんなわけあるか! 俺は昨日確かに夕麻ちゃんと・・・!

 

最初、俺はからかわれていると思った。いつものように変態発言をするかのようなテンションで。

 

一度真剣に悪友のバカ2人と話したが、嘘でもない本当のことであると痛感する。

 

俺は確かにこいつらに夕麻ちゃんを紹介した。彼女を見るなり「なんでイッセーなんかに彼女が!」「おまえ犯罪でも犯したのか」といった失礼極まりない言動を放ってきた。

 

そして俺も鼻高々に「お前らも彼女作れよ!」と余裕の言葉を突き付けてやったんだ。俺はそのことを根強く記憶に残している。

 

なのにこいつらはそのことを覚えていない。それどころか夕麻ちゃんと会ったことすら記憶に残していない。まるで夕麻ちゃんそのものが存在しなかったかのように。

 

そのことを裏付けるかのように、俺の携帯からメールアドレスや電話番号も消えている。記憶にある電話番号を掛けても繋がらない。やっぱり俺に彼女がいたのは、幻想だったのか?

 

・・・いや待てよ。そういえば、サクラにも彼女を紹介したことがある。「俺、こいつと付き合うことになった」と俺は心底嬉しそうな声で話した。サクラは「そうか」と言いながらそっけない言動をしてお先に歩き去ってしまった。

 

サクラが無愛想な性格なのは知っている。2年も友人をやっているからな。でもあの顔には無表情だったが、どこか寂しげな感じを残していた気がした。このこともちゃんと俺の記憶の中にある。

 

でもサクラは彼女を紹介したことを覚えているのか? 俺は教室の外からこちらを見ているサクラに話しかけようとしたが、女生徒の執拗な妨害にあってしまった。

 

まるでケダモノを見るかのような目で俺を睨み、鉛筆や消しゴムなどを飛ばしてきた。何か椅子や机、ハサミを投げつけようとした奴もいた。

 

クソッ! 俺はただサクラに話を聞きたかっただけなのに、何でこんな仕打ちを受けなきゃならねえんだよ。

 

おまけに机や椅子、ハサミを投げようとスタンバイしているものもいて、コイツら俺を殺す気か!? 投げつけられたときは半端なかったぞ! 直撃しなかったからよかったけど、ぶつかったらマジで死んでるぞ、ホント!!

 

サクラが人気があるのは知っていたけど、そこまでなるものなのか? フツー。

 

というわけで俺はサクラに話しかけることが出来ず、サクラはそのまま歩き去ってしまった。

 

「災難だな、イッセー。男が桜に話しかけようとすると大抵こういう目にあうんだぜ」

 

「過去にも男が桜に話しかけようとすると女生徒が怒り出して、ハルマゲドンが起こったという噂もある」

 

松田と元浜が歩み寄って、恐ろしいことを俺に言ってのける。

 

ハルマゲドンって何!? 男が話しかけようとしただけでそんなとんでもねえことが起こるって、理不尽すぎる!! 別にサクラが鬼畜ってわけじゃないけど、サクラはどんだけカリスマ性持ってんだ!?

 

サクラの人気があまりにも異常すぎることが分かったが、他にも気になることがあった。

 

それは夕麻ちゃんのデート以来、俺の体が変わってしまったように思えてならなかった。朝の太陽の光がどうも苦手で、陽光が肌に突き刺さるようでキツイ。とにかく朝が全然起きられず、母親に叩き起こされる毎日だ。

 

逆に夜には活発的になる。体の内側から色々なものが湧きだして、常にハイテンションな状態となる。スタミナも切れず、フルマラソンも常にジョギング感覚で走れるぐらいの状態になる。

 

夕麻ちゃんのことといい体の状態といい、俺は異常者なのか? でも俺は彼女の顔を今も鮮明に覚えているんだぜ?

 

何か納得できない。俺の周囲は何か変だ。

 

悩む俺の肩に松田がポンと手を置いた。

 

「桜のことを気にしているのか? そう気を落とすな。今日は放課後に俺の家に来い。秘蔵のコレクションをみんなでみてそんなことは忘れようじゃないか」

 

「それはいいね、松田くん。イッセーくんはぜひとも連れて行くべきだと思う」

 

「もちろんさ、元浜くん。俺らは欲望で動く男子生徒だぜ? ありのままに生きなければ産んでくれた両親に失礼ってもんさ」

 

グフフフと嫌らしく笑いながら言う2人。変態だ。どっからどう見ても変態にしか見えない。

 

まあいいか。俺は変態でも生きている男だ。今はそんなことは気にせずに青春を謳歌しよう。

 

「わーったよ! 今日は無礼講だ! 炭酸飲料やポテチで祝杯しながらエロDVDを鑑賞しようじゃねぇか!」

 

半ばヤケクソになりながら、俺も賛同した。

 

「おお! それだよ、それ! それでこそ、イッセーだ!」

 

「みんなで青春をエンジョイしようじゃないか!」

 

盛り上がる2人。夕麻ちゃんやサクラのことは一先ず保留だ。たまには俺でも息を抜こう!

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・ふと思ったが、こんなところをサクラに見られていたら、どうなっちまってたんだ・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。一限目をすっぽかした桜は、頭を搔きながら校舎の中をうろついている。特に目的はなく、ただ単に歩いているだけ。

 

二限目の数学の授業には参加したが、そこでも彼女は眠りっぱなし。だが先生に注意されて黒板に書いてある問題を解けと言われるとあっさりと正解を書いてしまう。

 

仕舞いには約一名を除いた生徒たちが桜に詰め寄って教えを問おうとするため、先生の授業はそっちのけ。桜が優秀なだけに口止めもできず、先生ですら扱いに困ってしまうのである。

 

そして結局、桜の尊敬する種が増えていってしまうために、彼女の溜息も比例して増えるばかりだ。

 

ふと桜はとある部屋の前で足を止める。表札には『音楽室』と書かれている。

 

室内からはポロンポロンとピアノの弾く音が聞こえてくる。誰かがピアノを弾いているとしか考えられない。

 

桜は音楽室の扉を開いて室内へと入る。入って早々、音楽家の肖像画や白い旋律が書かれているのが視界に入るが、中ではピアノを誰かが弾いている。曲名はショパンの「革命のエチュード」。

 

ピアノのある方を見てみるとそこには紫ヘアーの少女――エレンが座っている。いつもの修道服ではなく駒王学園の制服を着て、頭をゆらしながら鍵盤を叩いている。

 

桜は近くの椅子を持ってきては座り、彼女の奏でる旋律に聞き入っている。

 

音の強弱が十全に表現され、曲がどんなことを訴えているかが伝わってくる。それは怒りに満ちていたり喜びにあふれているものだったりする。

 

と桜はエレンにそう聞いたことがあるのだが、何のことだがさっぱり分からない。ただの曲だろと言ったらものすごく怒られた記憶がある。何で怒られたのかも分からなかった。

 

ふとエレンの演奏が終わり、手を鍵盤から膝の上に置く。

 

「・・・リアス・グレモリーに会いましたね?」

 

エレンが正面を向いたまま、口を開く。どうやら自分がいたことには気づいていたらしい。

 

「ああ、昨日の夕方頃にな」

 

桜もエレンの質疑に応答する。エレンが桜のほうを振り向く。その顔には朗らかな笑みが浮かんでいた。

 

「では今夜、彼女に会いに行くとしましょう。兵藤一誠は悪魔になっていますし、彼の後を尾行すればリアス・グレモリーも現れるはずです」

 

「・・・お前、前はダメみたいなこと言ってなかったか? 急に会うとか言いだしてどうしたんだ?」

 

桜が怪訝そうな表情で言った。この前は確かに狼狽にも似たエレンの言葉を聞いた。そんな人が1日で態度をガラリと変えるなど、何かがあるとしか言いようがない。

 

「リアス・グレモリーが何の取り柄もないあの男を転生させたと聞きましてね。私も興味が湧いたんですよ。彼女たちのことをもっと知りたいと」

 

昨日はエレンはいなかったはずなのに、コイツはどこから私たちのことを見ていたんだ?

 

桜は疑問符すら浮かんだが、思考するのが面倒なので気にしないことにした。

 

するとエレンが直後に「あっ」とでも言いたげそうな顔をした。

 

「私も行きたい、と言いたいところですが、私はまだ調べなければならないことがありますので1人で向かってください」

 

「・・・お前、わざとらしく顔色を変えなかったか?」

 

「そんなことはありませんよ。でも安心してください。グレモリー眷属との邂逅には私も同席するので」

 

「・・・・・・」

 

桜はこれ以上口を開かず、椅子から立ち上がるとそのまま黙って音楽室を後にした。

 

1人残されたエレンには分かっている。桜が何も言わずに黙るということは了解と言っているのだということを。

 

「全く・・・素直じゃないな」

 

エレンはそうつぶやくと首にかけてあるロザリオを握った。

 

一方、音楽室を出た桜のほうは・・・。

 

「・・・面倒くさがり」

 

さりげなくエレンのことを罵っていた。ムスッとした顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

その夜、私は昨日の公園に来ていた。あの日、友人――兵藤が殺された場所だ。

 

もちろん盛装は済ませてある。いつもの白い着物姿だ。でも今日は革ジャンは着ていない。着物には特殊な加工をしてもらってあるので十分に動けるし、大した問題では無い。

 

私は噴水あたりまで来たところで周囲を見回してみる。妖魔の気配は無いな。それどころか血だまりを作るほどあんなに体から血を流していた兵藤の血痕の跡すら残していない。

 

あの堕天使の仕業だな。バレないように隠蔽したとしか考えられない。もしくは妖魔が血を啜ったか。ここで確かにアイツは殺された。ここに来れば、また何かが起こるかもしれない。

 

夜の外はいろいろと危険がいっぱいだ。事件も大抵、この時間帯に起こったりする。おまけに羽の生えた者や日の光に弱い者、不気味な姿を持つ者がこの世界に存在しているからな。そう思うと余計立ちが悪い。

 

それにしても・・エレンのヤツめ。仕事を丸投げするとか、本当に性格が悪い。あんな状態じゃ、いつか爆発してしまうことは目に見えているというのに・・・。

 

まあでも、行動は1人のほうがいい。大勢いたって足手まといにしかならない。「自分の身は自分で守れ」だ。これは誰にも覆させはしない、私だけの信念。

 

この行動に特に意味は為さない。別に兵藤が心配だからではなく、単なる私の好奇心だ。討伐じゃなかったら、私は今頃こんなところにいるものか。

 

・・・ん? 誰かこちらに近づいてきているな。

 

私は腰に提げてある短剣を握りながら、気配の方向を警戒する。異様な感じはしないが、念には念を入れておく。

 

影が見えてくるとそこに現れたのは私の友人だった。

 

「・・・兵藤?」

 

「あ、サクラ・・・」

 

兵藤は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐさま自分が倒れた場所を見つめた。

 

こんな遅くまで何をしていたんだ? コイツ。まあ大体、予想はつくけどな。

 

「お、俺、夕麻ちゃんとデートをしていて、最後にここに来たんだ。」

 

兵藤は突然、昨日のことを語り出した。私は兵藤が見つめている場所を見ながら、黙って話に聞き入る。

 

私も兵藤を祝福してやりたかったが、私の中にいる何かがそれを拒んだ。あれは一体、何だったんだ?

 

「そしたら、夕麻ちゃんから羽が生えて、俺を笑いながら、そして――」

 

「・・・光の槍で腹を貫かれ、殺されてしまった、か?」

 

「!!! あれはやっぱり、夢じゃなかったのか!!?」

 

兵藤の言葉を遮るように私はそう言った。その時の兵藤の顔は驚きを隠せない。

 

それもそうだ。兵藤の周囲の一般人はみんな夕麻のことを忘れていた。彼女の制服からその学校を訪ねてみても、彼女のデータすら存在していない。そんな状況で私が覚えているだなんて、莫迦のコイツにはとても思わなかっただろう。

 

「なぁ、教えてくれ、夕麻ちゃんはいったい・・・何者なんだよ」

 

兵藤は私に近づいて、両手を肩に置きながら言った。

 

言ってもコイツには信じられるか分からない。でもまあ、とりあえず理解できる範囲で言ってみるか。

 

「・・・アイツは人間じゃない。アイツは―――っ!」

 

私は兵藤に説明をしようとしたが、その時私の目の前に黒い羽が舞った。

 

すると何者かの邪な気配を感じ、私は顔を顰めた。この気配は・・・。

 

視線を気配の方向へと向けるとそこには異形な存在が舞い降りてきた。トレンチコート姿で帽子を被った、黒い翼の生えた男。

 

「どうしたんだよ? ・・・!!」

 

兵藤が不思議に思い、私と同じ方向に視線を向ける。あの男からは敵意を感じる。

 

「これは数奇なものだ。こんな都市部でもない地方の市街で貴様のような存在に会うとはな」

 

男は兵藤のほうを睨みながら言った。普通の人から見れば何を言っているのかと思うかもしれないが、私には分かる。これは・・・他者を見下しているときのセリフだ。

 

歩み寄ってくる男の殺意に恐怖を感じた兵藤が後退りを始める。

 

「逃げ腰か? 主は誰だ? こんな都市部から離れたところを縄張りとしている輩だ。階級の低い者か、物好きのどちらかだろう。お前の主は誰なのだ?」

 

主か・・・そういえば、悪魔は皆、主を持つのが普通であると聞いたことがあるな。主のいないもしくは刃向った悪魔はこの人間界でうろついていると狩られてしまうとか。

 

兵藤は突然、男に背を向けて走り出した。男も黒い翼を生やし、兵藤の後を追っていく。

 

面倒なことになったな。このままでは兵藤が殺される。

 

・・・ん? 待てよ。あのカラス、私のことを無視しやがったな? 目も暮れずに兵藤の後だけを追いやがったな?

 

・・・莫迦にされたもんだな。この私をオブジェのように扱うとは・・・。

 

1人残された私は2人の後を追おうとするが、そこに奇声を上げて妖魔の群れが出現する。まるで堕天使が呼び寄せたかのように。

 

私はすぐさま右手を上げて魔剣・リべリオンを引き寄せ、目の前の妖魔の群れに剣先を向ける。

 

「・・・邪魔すんな」

 

そしてリべリオンを横へと振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は走った。全速力で走った。命がけで走った。夜中にパワーアップしているあの力で走った。

 

そうしなければ、殺されるからだ。夕麻ちゃんと同じ、あの黒い羽を生やした男に。

 

もうわけがわかんねぇよ! 夕麻ちゃんのことといい、主といい、もう俺の頭はこんがらがっている。

 

夜の闇を掻き分けて、俺はひたすら逃げた。

 

「逃がすと思うか? これだから下級な存在は困る」

 

走る俺の目の前をあの黒いスーツ姿の男が舞い降りる。

 

・・・・天使? でもそれはファンタジーすぎるだろ!

 

コスプレ? にしては凝っているな。本物? ってそんなわけないだろ!

 

「ふむ。主の姿も無ければ、仲間の姿も無い。消える素振りも見せなければ、魔法陣すらも展開しない。はぐれであれば、その困惑している様子も察しがつく」

 

男はわけの分からないことをぶつぶつと言っている。一人でしゃべって一人で納得すんな!

 

「もしかして、貴様『はぐれ』か? ならば殺しても問題あるまい」

 

物騒なことを口走る男は手に何かをかざしてくる。手を向けている先はどう考えても俺だ!

 

耳鳴りがする。俺はこの現象を覚えている。夕麻ちゃんに殺されたときもこんな嫌な感じだった。

 

男の手の中に光が集まっていき、槍のようなものが形成されていった。

 

やっぱり槍かよ! 今の俺にはどんなものか分かる。あの槍は危険だ。

 

――――殺される!

 

そう思い俺は後ろを向いて逃げようとしたが、その瞬間腹を槍が貫いていた。

 

腹から何かが湧きあがって、俺は口から血を吐いた。

 

痛い! 超痛ぇぇぇぇぇぇぇ!

 

俺はその場で地面に膝を付いた。腹に激痛が走り、それは耐え難いものへと変化していく。いやもう激痛なんて呼べるレベルじゃないかもしれない。それに腹から内側を焦がしているかのような感覚が襲う。

 

俺は手で槍を抜こうとしたが、手に痛みが走る。熱い。手を見ると触れた部分が火傷をしていた。

 

「あ・・・ぐあぁぁぁぁぁぁ・・・」

 

俺は呻いた。痛い、マジで痛い! 痛さで涙が止まらない。

 

そこへコツコツと歩いてくる足音。見上げる俺にあの男がもう一度光の槍を作り出す。

 

「痛かろう? 光はおまえらにとって猛毒だからな。その身に受ければ大きなダメージとなる。最初は弱めの光を使えば死ぬと思ったが、意外と頑丈だな。次で一思いに止めを刺してやろう」

 

あんなものを食らったらさすがの俺でも死ぬ!

 

ああ・・俺の人生はここで終わるのか・・・。彼女が出来たと思ったら殺され、そして今はこのわけのわからない変質者によって命を奪われようとしている。

 

そんな時に頭に浮かんだのは紅い髪をしたあの美女。学校で見かけるたびに紅い髪が俺の目に鮮烈に映し出される。

 

せめて死ぬならあの女の腕の中で死にたかったとすら思ってしまう。夕麻ちゃんという彼女と付き合ってその子に殺されたばかりなのに、乗り換えるのが早すぎじゃねえかとすら思ってしまう。

 

でもなぁ、死ぬならせめて美女のおっぱいを揉んで死にたかったなぁ・・・。って最後の最後まで何を考えているんだろうな、俺は。

 

儚い人生のまま、死を覚悟した。その時。

 

ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

「!!?」

 

何かの機械音のような音が近づいてくる。そしてその音は大きくなり、強風が吹き荒れたような大きな音に変わった。

 

男は何かの気配に気づいたのか、俺の側から飛び退く。その刹那・・・。

 

バアァァァァァァァァァァァン!!

 

俺の頭上を赤い閃光のようなものが通り過ぎた。な、なんだ!?

 

俺は痛みに耐えながら閃光の飛んできた方向を振り返ってみると、そこには白い着物姿の少女が人差し指を突きだしていた姿だった。

 

サクラだ! 俺を助けに来てくれたのか!?

 

っていうか、今の攻撃危なかったよな? 膝付いてなかったら俺、上半身吹き飛んで死んでたよな!?

 

でもアイツは俺を助けに来てくれた! よかった!

 

俺は安堵した途端に、倒れこんでしまう。意識が消えかけてきた。目が霞む。

 

アレ? これヤバいんじゃないか?

 

そう思ったまま俺は、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

「つれないねぇ、このオレを無視するとは」

 

私はスーツ姿の男に赤い閃光を飛ばした。コイツが友人を殺すところだったからだ。男は飛び退いた後、私を睨みつける。

 

「貴様、何故悪魔の味方をする?」

 

「お前には関係ない。それよりもその黒い翼、光の槍といい、お前、あの女の関係者か?」

 

「あの女だと・・・?」

 

男は疑問符を付けたような様子だったが、何かを察したのか私に先程よりも強い殺気を飛ばしてくる。

 

いい殺気だ・・・相当な手馴れと見える。

 

「まさか貴様、レイナーレが攻撃してきたと言っていたあの女か?」

 

「レイナーレ? ・・・ああ、天野夕麻という女の本名ってわけか」

 

納得した。コイツは天野夕麻――レイナーレという堕天使の仲間なのだ。でもコイツらは一体、何を目論んでいるんだ? この周辺をうろうろしている私たちが言うのも難だが、ここはグレモリーの縄張りだったはず。

 

男は両手に光の槍を作り、こちらに向けてくる。

 

「我らに刃向って、ただで済むと思うな」

 

「こっちのセリフだ。人の獲物に手を出しやがって」

 

私は魔剣を右手に持ち替えて軽く振った後、剣先を男に向ける。風圧で私の右横の地面にヒビが入った。

 

そして少しの間があった後・・・。

 

ダンッ!

 

私は真正面から男のほうへと突っ込んでいく。男は右・左と光の槍を投げつけてくるが、一本目を魔剣で砕き、二本目は瞬間移動をして交わした。

 

その瞬間、私は男の脇腹に蹴りを入れた。男は呻き声を上げながら、横に吹き飛ぶも体勢を立て直して光の槍を作り出す。

 

「ぐ・・・このッ!」

 

光の槍をこちらに再び飛ばしてくる。莫迦の一つ覚えとはこういうことを言うのか? それともこれしか攻撃方法が無いのか。

 

私は魔剣で全ての光の槍を砕いた後、人差し指に赤いオーラを集める。

 

「『閃光(ライオ)』」

 

赤いオーラは閃光となって、男へと発射される。

 

男は上へと飛んで閃光を交わす。その隙を突いて私はヤツの頭上へと瞬間移動し魔剣を振り下ろした。

 

バシュッ!

 

「ぐわァァァァァッ!」

 

男は絶叫を上げながら鮮血をまき散らした。一刀両断までとはいかなかったが、ヤツの左腕を吹っ飛ばしてやった。

 

「貴様ァァァ!! よくも!! よくも俺の腕をッ!!」

 

怒りに怒る男の左腕は肩から先が無くなっていた。

 

そうそう、これだよこれ。敵を切り刻む・・・この快感!

 

「腕ぐらいでキーキー喚くな、うざい。そういう雑音はオレにとって不快なんだよ」

 

「殺す!! 絶対に殺してやる!!」

 

「ハッ・・・やってみろ。次はその鬱陶しい右腕も切り裂いてやるよ」

 

男は光の槍を振り上げ、私は魔剣を再び男に構える。

 

そうだ・・! もっともっと私を楽しませろ!!

 

そう思った瞬間、男の手元で爆発が起こった。

 

「その子達に触れないで頂戴」

 

この艶っぽい声、聞き覚えのある声だ。

 

私の背後に現れたのは、紅い髪の女――リアス・グレモリーだった。昨日の夕方にあの現場にいた女。ようやくお出ましか・・・。

 

ゆっくりとこちらに向かってくるリアス。その姿は何とも凛々しい限りだった。

 

「・・紅い髪・・・グレモリー家の者か・・・」

 

憎々しげにリアスのことを睨みつける男。

 

「リアス・グレモリーよ。ごきげんよう、堕ちた天使さん。この子にちょっかいを出すなら、容赦しないわ」

 

「・・・ふふっ。これはこれは、その者はそちらの眷属か、この町もそちらの縄張りというわけだな。まあいい。今回のことは詫びよう。だが下僕は放し飼いにしないことだ。私のようなものが散歩がてらに狩ってしまうかもしれんぞ」

 

「ご忠告痛み入るわ。この町は私の管轄なの。私の邪魔をしたら、容赦なくやらせてもらうわよ」

 

先程よりも冷たい目つきで男に言うリアス。あの殺気は・・・いいな。

 

コイツとやりあえばどんだけ私の欲求が満たされることか・・・!

 

「その台詞、そっくりそちらへ返そう。グレモリーの次期当主よ」

 

そういうと今度は私に視線を移した。殺気の無くなったコイツには・・もう興味が失せた。

 

「この腕の借りは返してもらうぞ、女」

 

「お前に興味は無い。失せろ。次にオレの邪魔をしたら、首を刎ねてやる」

 

私はさぞかし冷たい表情で言っただろう。気のせいか、殺気も放っていたような気がする。

 

「くっ!! ・・・まあいい、我が名はドーナシーク。再び相見えんことを願おう」

 

男は翼を羽ばたかせ、宙へと浮く。私とリアスを睨んだ後、夜の空へと消えていった。

 

「また会ったわね、風花桜さん」

 

「・・・ああ」

 

リアスが私のほうに視線を移し、話しかけてくる。

 

・・・さてリアスがいることだが。私に交渉する義務はないな。すっぽかすに限る。

 

私は魔剣を背中に収め、その場から立ち去って行こうとした。

 

「ちょっとお待ちなさい」

 

まあ呼びかけられることは分かっていた。私はリアスの声に足を止める。

 

「その子を助けてくれたことには感謝するわ」

 

リアスは私に感謝の言葉を言ってきた。私は別に感謝されるようなことはしていない。

 

途端にリアスの目付きが鋭くなる。いい顔だ・・・。

 

「でもね、人間であるあなたが堕天使を追い払うなんて、普通では考えられないもの。あなた何か神器を持っているの?」

 

・・・リアスが何かを聞いてきたが、私には関係の無いことだ。コイツらに教える義理は無い。

 

私は黙って再び歩き出したが、前方を黒髪ポニーテールの少女と小柄な少女が塞いだ。

 

「あらあら、逃げなくてもいいじゃありませんの。お話を聞くだけですのよ?」

 

「・・・逃がしはしません」

 

そこまでして私のことが知りたいか。全く・・・物好き共め。

 

まあいい。別にバレて困るようなこともないし、誰かが困っていても私には関係の無いことだ。

 

「神器は『今は』持っていないが、魔剣なら持っているぞ」

 

「魔剣・・・ということはあなた、エクソシストか何かなの?」

 

リアスが先程よりも眼光を鋭くしてくる。こっちに殺気がビンビンと伝わってくる。黒髪ポニーテールの少女は金色のオーラを出し、小柄な少女はファイティングポーズを取る。

 

でもこっちも怒りが込み上げてくる。私がエクソシストだと・・・!?

 

「あんな紛いものの連中と一緒にするな」

 

気付けば私は低い声を出し、リアスたちに殺気を放っていた。

 

こうなったら、ひと思いに殺してやろうか。私はとある詠唱をしようとした。

 

「はいはい、そこまでですよ。桜」

 

しかしどこからか澄んだ声が響き、私の近くから黒い煙のようなものがモヤモヤと出始め、ゲートのようなものが出現した。

 

・・・闇の回廊。ということは。

 

「全く・・あなたはすぐそうやって怒りを撒き散らすのですから」

 

「なになに? 桜ったら、ここで何かしてたの? 私も混ぜて欲しかった!」

 

「ここで揉め事を起こすのは得策じゃないと思うぜ」

 

そこから現れたのはエレン、リリアンヌ、ウィルの3人だ。いまここに私の同志たちが全員集合した。

 

「こんばんは、リアス・グレモリーさん。うちの仲間が世話になりましたね」

 

「え、ええ。こんばんは。あなたたちはそこにいる子の仲間なの?」

 

「そうですよ。風花桜。私たちと苦楽を共にしてきた仲間です」

 

リアスは若干眉をひくつかせながら質問すると、エレンが答えた。

 

白々しいヤツだな・・・後からのこのこと出てきておいて、私に謝罪の言葉も無しか?

 

「!! あなたは!?」

 

「よっ。また会ったな。姫島さん」

 

黒髪ポニーテールの少女がウィルのことを見て、驚愕している。

 

たしかウィルのヤツ、会ってたって聞いてたけど彼女のことだったのか。

 

「小猫ちゃん。ヤッホー!」

 

「・・・こんばんは、ダルク先輩」

 

リリアンヌは笑顔で小猫と呼ばれた少女に向かって手を振る。その子は驚いてはいたが、冷静に無表情で返す。

 

コイツらも知り合いだったのか。でも私はあの小猫っていう子のことは知っているな。あの時、木場と尾行していた女だ。

 

「2人とも彼らと知り合いなの?」

 

「ええ。この前話したと思いますが、彼は私を助けてくれた人ですわ」

 

「・・・ダルク先輩は私にいつもお菓子を振る舞ってくれました」

 

「そう・・・そうだったの」

 

コイツら・・・さり気無く孝行してやがったな。まあ私も兵藤によく絡んでいたけどな。

 

「仲がいいのは何よりですが、そんなことよりもリアス・グレモリーさん。私はあなたたちのことを知りたいのです」

 

「私もあなたたちのことが知りたいわ」

 

「では話しましょう。・・・と言いたいところですが、まずはそこにいる兵藤一誠という男をどうにかするべきなのでは?」

 

エレンが言いながら倒れている兵藤のほうを見る。リアスも視線をそちらに移すと口を開く。

 

「それもそうね。では後日、使いの者を送るわ」

 

「分かりました。決まりですね。では明日、お会いしましょう」

 

そう言うとエレンの体は黒いモヤモヤに包まれて消え去った。

 

「小猫ちゃん、まったねー!」

 

リリアンヌも明るい声で言いながら、モヤモヤに包まれて消えた。

 

「じゃあな、姫島さん」

 

ウィルも姫島に別れを告げて、モヤモヤに包まれて消えた。

 

「・・・・・・」

 

私は無言のまま、瞬間移動をしてその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

桜たちが去った後、朱乃はリアスに話しかけた。

 

「本当によろしいんですか部長? 彼らのことを信用しても」

 

「大丈夫よ、少なくとも私たちに敵対している様子は無いようだし。何よりも――」

 

気絶している一誠に目をやる。

 

「あの桜って子は、この子を2度も助けようとしたんだから。でもちょっとムキになってた気もするわ」

 

「・・・分かりました」

 

朱乃と小猫はリアスよりも先にその場を去った。

 

1人残されたリアスは式たちが立っていた場所を見て、玩具を見つけたような笑みを浮かべた。

 

「あの子たち・・・面白いわね」

 

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