そして、サクラとリリーのキーキャラ2人が登場します。原作を知っているならこの章で登場の、そうあの子たちです。
どじゃぶりの雨の中、木場は傘も差さずに歩いていた。
その目はいつものようなスマイルではなく、冷めた表情だった。
木場は全身を濡らしながら想っていた。部長と喧嘩してしまった、と。あの雪の中、自分を助けてくれた部長に初めて反抗的な態度をとってしまった。
だが、エクスカリバーの復讐のことを忘れることはできなかった。自分が今まで動かなかったのは、学園という場所があるからにすぎない。
仲間もできて、生活も得ていて、『木場祐斗』という名前を与えられて、生き甲斐も彼女に教えてもらった。だけど、これ以上の幸せを得るのは悪いに決まっている。
同志たちが苦しんで死んでいったのに、自分だけが生きてここにいる。それだけが許さなかった。
びちゃ、びちゃ。
ある道の角で聞こえる水の音に木場は足を止める。そこからよろよろと走ってきたのは黒い服に身を包んだ男だ。
「た、助けてく―――グアァァ!」
男は腹部から血を流していて、力を失ったかのように倒れ伏した。木場はその男が誰なのかを見たことがあった。
神父―――今の木場にとっては憎悪し、殺してもいいような存在だ。
しかし、その男は地面を血で濡らしたまま動かない。よく見るとすでに死んでいる。
そして、その背後からもっと見覚えのある人物が現れた。
「やあやあ。おひさだね~。誰かと思ったらクソ悪魔君ところのクソイケメンさんではありませんかぁ?」
人を小馬鹿にしたようなふざけた口調、白髪の少年、そして誰から見ても悪意しかない嫌な笑み―――。
「フリード・セルゼン・・・!!」
その男の名を口にした木場の顔は、敵意に満ちたような表情になった。
「・・・まだこの町に潜伏していたのか」
「はいはい、しっかりきっかり潜伏していたでありますよぉ? 俺っちはすんばらしい再会劇に涙涙の大安売りでございますよ!!」
相変わらずのふざけた言動に、木場の中に苛立ちが募る。
そんな木場を余所に、背後からもう一人現れる者がいた。
「騒々しいわね、フリード。誰かに知ってる顔にでも会ったの?」
ゆっくりと現れるのは、藍色のベレー帽、藍色のシスター服、ウェーブの掛かった白い髪をした少女。
「姉さん。いやいや、ちょっとしたクソ知り合いに会っちゃったのよー」
ふざけた言動を崩さないフリードに対し、少女のほうは無表情で言葉を受ける。その少女も木場は同じく見たことのある人物だった。
「シフォン・アリシア・・・キミもいたのか」
「あら、誰かと思えばあのときのイケメン君じゃないですか。こんなところで会うなんて奇遇ですね」
木場がいることを認識すると無表情から悪意のある笑みを浮かべるシフォン。
「おや? 今日はあなた一人ですか。いつもみたいな闘志が感じられないんですけど」
「生憎、今日の僕は至極機嫌が悪くてね」
シフォンの口調とは裏腹に、木場は怒気を含んだ声で言い魔剣を精製して手に持つ。その声に反応したのは、シフォンより少し前にいたフリードからだった。
「ヒャハハハハ!! そいつは好都合だねぇ! 俺っちも神父狩りに飽きてきたところだしさぁ。姉さん、
木場を嘲笑うフリードの言葉にシフォンは笑みを浮かべる。そして魔剣を構える木場はフリードの持っている剣から何かを感じ、それは生涯忘れられないものだった。
「その輝き・・・そのオーラ・・・」
木場は更に敵意を強めた。憎らしいその、自分にとって禍々しい剣が目の前にある。
「いいわよ。ただし少しだけね」
「うっしうっし、ヒャハハハ!! 姉さんから許可も貰ったことですし、バッチグー! ナイスタイミング! お前の持ってるクソ魔剣と俺様の聖剣・エクスカリバー、どっちが強いか試させてくんねぇ? 以前のお礼は殺して返すからさぁ!!」
フリードが持っていたのは、聖剣にして木場の怨敵―――エクスカリバーそのものだった。
しばらく睨み合う両者。その場に殺気と緊張感が漂う。そんな中、先に動いたのは―――。
「斬り捨て懺悔ぇぇぇ!!」
「!!」
フリードがエクスカリバーを振るい、木場が魔剣でその斬撃を受け止める。鍔迫り合いとなっているが、木場のほうが少し押され気味だった。
「酷く端正な顔が歪まくってまっせぇ! この聖剣エクスカリバーの餌食に合わせてきたぁ?」
「ほざくな!!」
「あぁん!」
挑発的でふざけた言動を繰り出すフリードに木場は怒りで押し飛ばすも、フリードは全く意に介さず地面に着地する。
「そのイケメンらしさの欠片もない激怒だなぁ、なんつって!」
舌を出しながら相変わらず挑発的な言動を繰り出してくるフリードに、木場は睨みを強くする。
「ホーリーレイザー!!」
木場の魔剣から黒い線状の何かが放たれる。ホーリーレイザー―――以前のフリード戦でも使い、フリードの持っていた光の剣を喰らって無効化した技だ。
黒い線がエクスカリバーを縛るも、エクスカリバーの放つオーラによってあっさりと消滅した。
「ああ、それ無駄っすよ! ざーんねんでしたぁ」
調子を崩さないフリード。しかし、木場も怒り任せに戦っているわけではなかった。
「試しただけさ。その聖剣が本物かどうかをね。これで心置きなくキミと共に八つ裂きにできるわけさ!!」
「あうぅ!!」
フリードへと走って魔剣を振り下ろす木場。そのまま剣を振るってフリードと共に責め立てる。
ザシュッ!!
そして肉体を斬り裂く音が響く、その発生源は―――。
「ぐあぁ!!」
―――木場の右肩からだった。
その背後には、赤い布のようなものを爪状に変えて木場に振り下ろしたシフォンの姿があった。
突然、怨敵を目の前に背後から斬られた木場は鈍い痛みを感じ、膝を着く。
「ふふふ。対悪魔の用の絶対な武器を簡単に壊させるわけないでしょう? まあ、あなたのその剣じゃ無理ですけどね」
横槍を入れたシフォンが赤い布を引っ込めながら、不敵な笑みを浮かべる。
「ああ、言う必要も無かったざんすけど、姉さんのその布も悪魔をあの世に送れるんっすよ。聖骸布っていうのさぁ、まあこれから死ぬクソイケメンに何でなのかは理解させないけどねぇ」
そう言いながら木場に近寄るフリード。目の前にはフリード、背後にはシフォンがいる。これはどう考えても絶体絶命だ。
そんなことを思ったときに、一つのナイフが飛んでくる。
「あぁ?」
気づいたフリードはそれをエクスカリバーで弾き飛ばす。
チュドォォン!!
「あぁん。な、何ィッ!?」
砕けたナイフは宙を舞うとそのまま爆発を起こした。突然の出来事に珍しく驚くフリード。
木場も突然の行為に呆然としていたが、ハッとすると隙だらけのフリードに右脚を繰り出して足払いを掛ける。
「はぁ!」
「ああ!?」
地面に尻餅を付いて転ぶフリード。そんな状態でも口調は崩れない。
「隙狙うとか、きったねぇ!」
「悪魔らしいだろ? フッ!!」
木場はフリードに向かって魔剣を振り下ろすも、フリードは立ち上がって回避し走りながら距離を取る。
一方のシフォンは飛んできたナイフを冷静に分析していた。
「あのナイフは・・・」
シフォンは見覚えのあるといったような反応を見せるが、そのとき背後から声が聞こえた。
「見つけたわよ~。クソ闘士共」
その声に反応して振り返ると塀の上に、桃色の髪の少女・リリスとシスター服の少女・エステルが向かい合うように立っていた。
「やはりあなたでしたか、エデンの不良品たち」
シフォンはその姿を見ると不敵な笑みを浮かべる。そして赤い布を浮かび上がらせると槍状にして一気に2人へと放つ。
挨拶がわりのような攻撃に2人は飛び退いてかわす。そして地面に降り立つと笑みを崩さず言う。
「随分とご挨拶ね。このリリス様を貫こうとするなんて」
「不良品とは言っても、私たちも伊達に数字は持ってないよ~」
「自分を驕っている者ほど不良らしさが際立ちますよ」
「ハッ、言ってなっての❤」
リリスはトレンチナイフを構え、エステルは蠍のような尻尾を出し、右手にはダガーを持つ。
「面倒だからさぁ、要求を受け入れてくれる? エクスカリバーを渡せ❤」
リリスが真っ向からそう言う。しかし、シフォンはそれを不敵に笑うだけ。
「『はいどうぞ』とでも言うと思いますか? これだから不良品は―――」
シフォンは背中からレイピアを出現させて右手に構えると、赤い布に包まれた聖骸布をうようよとうねらせる。
そのとき、木場と激突しているフリードと二人に向かって言葉を発しているシフォンの耳の横に何かの魔法陣が出現する。
「あれぇ?」
「っ!!」
木場はそんなことを気にする様子もなく、フリードに魔剣を突き刺そうとするも回避される。
シフォンはリリスの投げてきたナイフとエステルの尻尾をかわす。飛び退いた先でフリードとシフォンの隣に並んだ。
「悪りぃ!! 呼び出しがかかっちまったぁ!!」
「・・・そのようですね。不本意なことに」
木場に向かって吐き捨てるフリードにシフォンも瞑目して、聖骸布を引っ込めレイピアを消滅させる。
「待ちなさいよ!! アタシの命令無視して逃げる気!?」
リリスが憤るも、シフォンは笑って受け流すだけだ。
「生憎、私はあなたたちと遊んでいる暇はないのですよ。要求を呑む義理もないですしね」
「ってなわけでぇ、バイチャラバイッ!!」
フリードは懐から丸い玉を取り出すと地面に叩きつけた。その瞬間、まばゆい光が周囲を包み込んだ。
木場とリリスたちは眩しさに手で目を覆う。そして光が止み、目を開けたそこにはフリードとシフォンの姿はなかった。
「・・・チッ、逃げられたか」
「みたいだね~」
舌打ちをして頭を搔くリリスに、エステルは笑みを浮かべながら言う。せっかく見つけたのに逃げられてしまうとはリリスのプライドが許さなかったが、あっという間にそれも興が冷めた。
リリスはトレンチナイフをしまうと木場の姿を見る。エステルもダガーを太股のベルトに帯刀し、尻尾をしまうと木場のほうを見る。
木場もリリスのほうに視線を向けていた。リリスは何かを察したように不敵な笑みを浮かべると口を開く。
「・・・精々もがいてればいいんじゃない? 教会の不良品」
「!!?」
木場はその言葉に驚いたように目を見開いた。何故自分が教会に関わっていたことを知っているのか?
木場がそんなことを理解する間もなく、リリスは興味が無いといったような感じで背を向けて歩いていく。
「あぁ、待ってよ~」
エステルはリリスが歩き出すとリリスのほうへ歩いていく。
木場も歩いていくリリスとエステルの姿を背後から見つめていた。それはもう、敵意なのか殺意なのかわからないといったような顔で・・・。
◆◆◆
同じ頃、とある街はずれの教会。その外に風花桜は立っていた。
着物姿で赤い革ジャケットは変わらないが、その上にはいつもの黒いローブではなく白いローブを着込んでいる。
その表情は誰からも分かるほどに酷く無表情で、古びた教会を見つめている。
ここは堕天使も天使の管轄もない、神父が死亡し今は誰にも使われていない教会、雨の中の部室内で感じた気配はここから感じていた。
ステンドグラスはすでに割れていて、まるで神がここにいることを拒み、忌み嫌っている者の仕業であると見える。そんなことはサクラにとってはどうでもよかったのだが。
心の中でサクラは、教会闘士を
そんな彼女の近くに、同じように白いローブを包んだ金髪の少女―――リリアンヌ・ダルクが現れ、サクラの側による。
「・・・アイツらの気配を感じたのってここ?」
「・・・・・・ああ」
二人の間に挨拶は無い。もはやそんなものは何の意味もなさないからだ。リリーが単刀直入に聞き、サクラが答える。
「・・・いくぞ」
「うん」
サクラはそう言うとリリーと一緒に教会へと歩いていく。
一方、教会の中では同じように白いローブを着込んでいた2人組の少女がいた。
建物の中は荒らされたようになっていて、神を象徴する偶像は上半身が無く、長椅子も一部は滅茶苦茶に壊されていて、教壇の上にある十字架に至っては見る影もない。
「・・・随分と荒れ果てたものだな」
教会の惨状を見ながら言うのは、袋に包まれている何かを持っている青髪の少女。
「つい先日、堕天使と悪魔が一悶着を起こしたって聞いてたけどね。妖魔もそこに絡んでたとか」
青髪の少女に続いて話すのは栗毛の髪の少女。
「しかし遅いな。待ち合わせ場所は本当にここで合っているのか?」
青髪の少女がフードを取りながら言う。
「間違うはずないわ。ここは私が両親と過ごしたところよ。子供の頃にね」
栗毛の少女がフードを取り、縛ってあるツインテールを出しながら言う。そんな少女の手には自身の幼少期の頃の写真があった。そこには少年の姿も写っている。
二人は日本の教会の神父と待ち合わせをしている。本来ならば出迎えにきてくれるはずなのだが、その神父の姿がどこにもない。まだ来ていないのか、それとも行った先で問題が生じたのか。
「とりあえず、ここで待っているか」
二人は近くの壊れていない長椅子に座り、待ち合わせている人物を待つことにした。
「そういえば、あの2人の消息は掴めた? ゼノヴィア」
栗毛の少女が真剣な表情で青髪の少女―――ゼノヴィアに唐突に話す。ゼノヴィアは少し表情を暗くすると、首を振る。
「・・・何も情報は無しだ。行方不明になってからは、足取りも全く掴めていない。そう言うイリナはどうなんだ?」
栗毛の少女―――イリナもそれを聞いて表情を暗くさせる。
「私も周辺でいろいろと情報を捜し歩いたわ。でも、情報は何一つ無し。メールも送ってるけど、やっぱり返信がなくて・・・もしかしたら、仕事先でもう―――」
「縁起でもないことを言わないでくれ。私の友人が巻き込まれて死ぬわけがない」
ゼノヴィアがイリナの言葉を遮って言う。その声には若干の怒気が含まれていた。
「誰も死んでいるなんて言ってないでしょ! 私だってあの2人のことは必死で探してるの! それに私の血の繋がっていないお姉ちゃんの消息だってわかっていないんだから!」
イリナがムッとしながら言う。
ガチャッ!
「「!!」」
そんなとき、背後から扉が開け放たれる音が響く。教会の中が外のわずかな光で少し明るくなった。
2人は立ち上がって背後を振り返る。自分たちと待ち合わせている神父が来たのかと思い、ゼノヴィアは少し苛立ちを籠めながら文句を言ってやろうとした。
雷の光で照らされその姿が明らかになるが、来た相手は神父ではなく、自分たちと同じローブを着込んでいる2人の人物だった。
ふとそのうちの一人が一歩前へ出ると右手を天に掲げる。するとどこからともなく剣が飛んできて、それを握るとゼノヴィアたちのほうへと向かって飛び出してきた。
「な、何!?」
相手の唐突な行為にイリナが戸惑っている中、相手は飛び上がってゼノヴィアに向かって剣を振り下ろす。
ゼノヴィアは布に包まれている物―――剣を布から出すと相手の剣を受け止める。剣と剣の押し合いになるも、若干押され気味でゼノヴィアの足元の床が歪に凹む。
「誰だ、お前は!?」
剣の押し合いに苦戦しながらもゼノヴィアは相手に向かって問う。その言葉に相手はニタリと笑みを浮かべる。
「・・・お前の知り合いだよ」
「私には出会い頭に飛びかかってくるような知り合いはいないのだが・・・」
「剣を見てもまだ気づかないのかよ?」
ゼノヴィアは疑問の声を上げるが、その隙を突かれて剣を押し返され、ゼノヴィアの体が押し飛ばされる。
「ゼノヴィア!」
イリナが声を上げてゼノヴィアに近寄る。
相手は尻餅を付いたゼノヴィアに追撃しようとはせず、右手で薙ぎ払うように剣を振るう。すると右側にあった長椅子が吹き飛んで、叩きつけられ粉々になった。
その剣に刻まれている髑髏のような造形を見て、ゼノヴィアは目を見開いた。
「その剣は魔剣・・・しかも、その剣は・・・!!」
「やっと気づいたか? ゼノ」
「!!」
『ゼノ』と呼ばれたことにゼノヴィアが更に驚く。相手は剣を下ろすと白いローブのフードを取るとその素顔を見せた。
「・・・よぉ」
「サクラ、なのか?」
「え、えぇぇっ!?」
ゼノヴィアがふと呟いた言葉に、イリナも驚く。
「何、2人揃ってマヌケな顔してんのよ?」
サクラの背後から聞こえる素気ない声。それはもう一人の人物、サクラの背後まで歩み寄ると同じように白いフードを取るとそこに金髪のしかめっ面が映っていた。
「リリー!?」
「・・・久しぶりね、イリナ」
驚いたイリナに、ツインテールに縛った金髪を出しながら素気なく言葉を交わすリリー。まるでここに来るのが嫌で嫌でしょうがないといったような様子だ。
ゼノヴィアとイリナは信じられなかった。何故なら任務中にいろいろと情報を集めようとしたが、収穫は無し。そんな一つも情報が掴めなかった仲間がまさか、任務先の日本で出会うことになるなんて・・・。
「ほ、本当に・・・?」
「サクラとリリーなの・・・?」
ゼノヴィアとイリナは驚きを隠せないといった表情。一方、サクラとリリーはかつてと変わらない不敵な顔と顰めた顔だ。
「おいおい、元相棒の顔も忘れたのか?」
「誰と見間違えるってのよ?」
これが長年音信不通だった4人の、信じられないような奇妙な再会だった。
・・・・・・数分後。
「まさか、任務先で行方不明と言われていた君と会うことになるとはね」
「オレも思わなかったぜ。赴任してる日本にお前がやってくるなんてな」
現在、ゼノヴィアとサクラは談笑をしていた。長年会っていなかった相棒との再会、ゼノヴィアは嬉しくてしょうがなかった。
「サクラはその、配属先の教会で何をしていたんだ?」
「・・・いろいろとやっていたよ。主に祈りを捧げたり、S級ランクの魔獣の討伐任務をやらされたりな」
サクラが話しているとゼノヴィアはふと思い出したかのように、懐からロザリオのようなものを取り出す。
「お前、まだそれ持ってたのか?」
「別にいいじゃないか。私と君の、友情の証なんだから」
「・・・まあ、オレも何だかんだで持ってるけどな」
サクラもそう言いながら、懐からロザリオを取り出して見せ、ニタッと笑ってみる。
「アンタも変わんないわね。その腑抜けた顔は」
「ふ、腑抜けた顔って何よ!? 私はあなたの顔をもう一度、一目でも見たかったのに!」
「フン。サクラが行かなかったら、誰がアンタに会いになんか行くかっての」
「もぉ! そんなことばっかり言って!! 少しは目を見て話しなさいよ!!」
プリプリ怒るイリナに対して、彼女とは目も合わさずに素気なく返すリリー。イリナは幼少期からの知り合いなのに、そんな態度することないじゃないと思った。
リリーはイリナの反応に溜息を吐くと顔を向ける。
「・・・アンタの両親は元気なの?」
「うん、お父さんもお母さんも元気にしてるよ」
「ふーん。・・・エレンも元気よ」
「えっ! お姉ちゃんもリリーたちのところにいるの!?」
その反応にリリーはイライラしたように返す。
「いるわよ、五月蠅いわね。大体アンタ、少しは教会闘士らしくしたら? そんなんだから『自称』とか言われんのよ」
「『自称』なんかじゃないもん!! 私は主に命を捧げることを誇りとしてる教会闘士なのよ!!」
「・・・それが闘士らしくないつってんのよ」
リリーはイリナのある言葉に眉を一瞬だけヒクつかせ、素気なく返す。それは何かに引っ掛かりを感じているような苛立ちの反応だ。
その4人は長椅子に座って会話を続けている。
イリナとゼノヴィアは極秘任務で日本に赴任していることを
2人はそれを聞かされて一応は納得した。そういった事情だったなら連絡が取れないのも仕方がないが、それにしても司教はどうして日本にいることが極秘なのだろうか。
しばらく会話を続けた後、ゼノヴィアはあることをサクラに訪ねた。
「なあ、サクラ。私たちと待ち合わせることになっている神父の姿を見なかったかい?」
サクラはその問いに首を振り、口を開く。
「・・・調べている最中だが、この町では最近、神父狩りというのが行われているらしい。神父の死体をよく見るよ。ここに来ないってことはそれに巻き込まれたんだろう」
「・・・そうか」
「なんてこと! 神の使いである神父を殺すなんて罰当たりにもほどがあるわ!! 私が断罪して裁いてあげるわ!!」
ゼノヴィアは瞑目し、イリナは憤慨する。
「・・・教会の犬の分際で」
「・・・いい気味ね、ホント」
サクラとリリーは小さな声で独り言のようにぼそりとつぶやく。それは教会コンビ2人には聞こえないように後ろを向きながら。
「? どうかしたのか、二人とも?」
「なんでもないよ」
「・・・なんでも」
ゼノヴィアの疑問の声にサクラは瞑目しながら即答し、リリーは素気なく返す。
その直後、ゼノヴィアはハッとしたように立ち上がり、布に包まれた剣を持つ。
「イリナ、そろそろ行くぞ」
「えー、せっかく会えたんだからもうちょっと―――」
「そう言って前に悪魔がいた家でも長居をしただろう。私たちには大切な仕事があるんだ。時間を無駄にはできないよ」
「もぉー分かったわよ」
まだ話し足りないイリナの不満そうな反応をゼノヴィアは諭す。イリナはその言葉に渋々といった感じで立ち上がる。
「もう行くのか?」
「ああ。本当はもっと話したいけど、私たちにはやるべきことがあるんだ」
「という訳だからもう行くね」
「・・・そうか。今度はそっちから会いに来てほしいな」
「もちろんだ。じゃあまた」
そう言うとイリナとゼノヴィアは教会を後にした。また会えることを願って・・・。
2人が去った後、サクラとリリーは教会の中を見渡していた。
「・・・相変わらず、気持ち悪いところね」
「・・・今回ばかりは同感だな」
リリーは嫌悪感を隠そうともせずにそう言いながら偶像を蹴りつけて倒し、サクラは長椅子に寝転がっている。その様子はゼノヴィアやイリナと話したとは思えないほどに冷徹だった。
「アイツら、どうだった?」
「・・・・・・・・」
リリーはサクラのほうを向いて問うと、サクラは数秒沈黙した後に口を開いた。
「・・・・・・中途半端」
「は?」
「中途半端で全く変わってない。端的に言えば、イライラする」
「・・・そうね。神なんかに祈って何が楽しいのかしらね? 損するだけなのに」
サクラの答えにリリーは納得したように返す。
ふと静かな教会内にバイブの音が響く。サクラは懐からスマホを取り出し、画面を見ると『紫藤エレン』と表示されていた。
サクラは『応答』をスライドし、耳に当てる。
「・・・何だ」
サクラはスマホから聞こえてくる声に耳を傾ける。どうせつまらない仕事だろうと思いつつも、聞こえてきたのは意外な応答だった。
サクラはその応答に不敵な笑みを浮かべる。
「・・・そうか。わかった」
『通話終了』をタッチして通話を切る。そしてどこかへ向かうように立ち上がる。
「サクラ、どこに行くの?」
「・・・仕事だよ。お前も一緒に来い」
「えっ、仕事って何の?」
サクラはリリーの疑問に足を止めると、顔を向けて笑みを浮かべたまま答えた。それはもう心底楽しみにしているように。
「教会の奴らを絶望に陥れることができる仕事だよ」
リリーはそれを聞くと目を見開き、そしてサクラと同様に不敵な笑みを浮かべる。
「へぇー、それは楽しそうねぇ・・・」
リリーはそう言うと、再び歩き出すサクラの背後を歩いていく。
2人は教会の外へと出た後、サクラは教会を見上げながら右手に炎を灯す。
「神父もいないんだったら、こんな教会必要ないよな?」
そう吐き捨てると灯した右手で炎を握りつぶすと指をパチンと鳴らす。
ドォォォォォン!!!
教会から轟音が響き、地面から火柱に包まれた。
「すっかりイライラが溜まっちゃってるのね、サクラ」
「・・・あんな神だの何だの聞かされてムカつかないほうがおかしいだろ」
サクラはそう吐き捨てると燃え上がる教会に背を向けて歩き去っていった。
◆◆◆
パンッ!!
「あぁん!!」
とある教会、その中で乾いたような音が響く。シフォンがフリードに平手打ちをして吹っ飛ばしたのだ。
そんなフリードを見下げるシフォンの顔は、まるで見下すかのような冷たい表情をしていた。
「私は『少しだけ』と言ったのにどういうつもり? フリード」
「だってあのクソイケメン、俺の剣を受けずにちょこまかと逃げ回って―――」
「あら、弟の分際で私に口答えをする気? とんだ愚弟ね」
シフォンはフリードの言い訳を遮って、苛立ったような口調で吐き捨てる。そしてフリードに近寄ると胸倉を掴んで顔を引き寄せる。
「あなたはここがどこだか分かってるわけ? 始めてでもないでしょうに」
「分かってんだよ! この辺はクソ悪魔に魅入られてる奴らの―――」
パンッ!
シフォンは平手打ちを見舞ってフリードの言葉を中断させる。
「グフッ」
「そういうことを聞いてんじゃないの。誰の管轄内なのかって聞いてんのよ」
「ク、クソ悪魔の、グレモリーの団体様の土地だよ・・・」
「そう、ここはグレモリーが占拠してる土地。あんたが無闇にその聖剣の力を振るったら、あの人たちにバレて計画が台無しになる。そんなことも分からないの? 寄りにもよってあのイケメン君にその力を振るうなんてね」
「す、すまねぇ・・・」
シフォンの説教を受けて、フリードが謝罪する。シフォンはフリードを乱暴に突き飛ばすと再び彼を見下げる。
「謝るくらいだったら、少しは計画のことも気にして行動することね。あなたの軽率な行為が私らにも迷惑が及ぶことにもなるのだから・・・」
「本当に、すまねぇ・・・」
「全く、悪魔一匹殺せないなんて使えない弟ね・・・」
シフォンはフリードに冷たく返す。フリードの謝罪の言葉を耳に入れずに背を向けて、フリードに言ったというよりは独り言のようにぶつくさと言う。フリードはシフォンの言葉に反応したわけではないだろうが、背後で歯軋りをしていた。
「まあ、よいではないか。グレモリーの一人の悪魔に知られたところで計画に狂いが生じるわけでもあるまい」
聖堂の奥から2人に向かって諭すような声が聞こえてくる。シフォンはその声に反応して体を向ける。
「これは私らの問題なので、あなたが口を出すことではないです」
「ふむ、別に構わないがな。お前たち、姉弟の関係に興味は無い」
シフォンが聖堂に向かって歩いていき、声を掛ける。
「それよりも聖剣のほうは順調ですよね? 叔父様」
そのシフォンの声にニヤリと笑みを浮かべたのは、神父の格好をした初老の男だった。
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