極悪な奴ら/THE EVIL HERO   作:早乙女

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第5話「オカルト研究部」

夕暮れの小さな公園。砂場、ジャングルジム、滑り台、ブランコがあるごく普通の公園だ。そこに幼い1人の少年と1人の少女がいる。

 

一緒に2人で滑り台を滑り、ブランコでは1人1席を漕ぐ。ジャングルジムで鬼ごっこをして遊んだり、砂場では小さなミニチュアのお城を作ったりもした。

 

「いっせーくーん! もっとあそぼうよ!」

 

「ぼくはいいよ。なんかあきちゃったし・・・」

 

少女の滑り台からの呼びかけに少年は木製の剣をクルクルと回しながら答える。あれだけのことしても少女のほうは遊び足りなかったようだが、少年のほうはすでに飽きてしまっていた。

 

その様子は留守番をしている子供のようにどこか寂しげだった。

 

「あっ」

 

手元が狂い、木製の剣が地面へと投げ出される。

 

そこに着物姿の幼い少女と金髪のミニドレスの少女が通りかかり、着物姿の少女が拾い上げる。剣を振ってみた後、少年のほうを見遣る。

 

「これおまえのか?」

 

剣を持ったまま少年に話しかける。誰かと話していることに気付いた金髪の少女が振り向く。

 

「マナ、どうしたの?」

 

「これをちょっとな。なに、すぐ済むさ」

 

金髪の少女に軽く返答した後、少年のほうへと近寄る。

 

「こんなのであそんでるのか。全く以てお子さまだな」

 

そう言って少年のほうに木製の剣を差し出すも、少年は『お子さま』という発言に引っ掛かりを覚えたのかムッとしたような顔をしていた。

 

「おれのはこれだ。じゃーん! かっこいいだろ?」

 

着物姿の少女は木製の剣を少年の側に置いた後、赤い炎の装飾を施した玩具の剣を出してみせる。その表情はどこか明るかった。

 

「おまえだって――」

 

「おまえじゃない。マナだ」

 

目を背けながら言う少年に、着物姿の少女は顔を顰めながら名前を名乗った。

 

「おまえのなまえは?」

 

「・・・・・・イッセー」

 

マナと呼んだ少女に名前を訪ねられ、少年は素気なく答える。

 

「よししょうぶしようぜ!イッセー」

 

「え? なんでそうなるんだよ。」

 

いきなり勝負を挑まれ、イッセーは意味が分からなかった。しかも初対面の人に対して。

 

「今、ちょっと退屈してるんだよ。おれと付き合え」

 

「・・・いいよ。そんなの面白くないし」

 

卑屈になっているイッセーに、マナが笑みを浮かべる。

 

「おれに負けるのが怖いのか~?」

 

「なんだと!?」

 

マナはからかうような口調で言うとイッセーも怒り出す。マナは公園内の広いところへと立ち、玩具の剣を構える。

 

「行かないんだったら、こっちからいくぜ。いっぱつでおまえの負けだ」

 

どうやらマナはイッセーと遊びたい様子。イッセーも幼いながらもそう察したのか、先程まで暗かった顔の口元に笑みを浮かべた後、木製の剣を持って立ち上がった。

 

「へっ、ぼくはこう見えても剣はとくいなんだ。やってやるよ」

 

「おう! そうこなくっちゃな!」

 

「あとで泣くなよ!」

 

イッセーも木製の剣を構える。

 

金髪の少女はその様子を見ている。そこに滑り台の上にいた茶髪の少女が側に駆け寄てそれを見入る。

 

「あなたたち、どこからきたの?」

 

「とおいとおいくにからきたんだ。ひこうきにのってね。」

 

「ふーん。それにしてもあのカワイイ服着ている子っておとこのこみたいだね」

 

「マナはおんなのこだよ。おとこのこにまけないぐらいげんきなね」

 

茶髪の少女と金髪の少女が2人の様子を見ながら談笑している。この2人も初対面である。

 

イッセーとマナはお互いの剣を構えたまま、その数秒後・・・。

 

「「はあぁ!」」

 

2人はほぼ同時に駆け出してチャンバラごっこを始める。ぶつかるたびに木製の音とプラスチックの音が公園内に響く。

 

剣儀の末に先にへたって座ったのはマナのほうだった。

 

「ヘヘヘ。まあ、あれだな。今回は引き分けってことにしといてやるよ」

 

「ええ?・・・・・・ああ」

 

マナの負けず嫌いな発言に驚いたイッセーだったが、笑みを浮かべて答えた。

 

「いまのはどうみても、マナがはしゃすぎてバテたようにしかみえなかったよ。なにがしたかったの?」

 

「そうそう、いっせーくんのほうがそんなうごいてなかった。」

 

「はあ!? リリー、おまえ。こういうときはふぉろーするものじゃないのかフツー? きょうはちょうしわるかったな~とか、てかげんしすぎだろ~とか」

 

リリーと呼ばれた金髪の少女の的確な指摘にマナが反論する。こういうところは子供っぽい。

 

「・・・ともだちなくすぞ。」

 

そしてそっぽを向いたまま、シュンとしたような声で言った。

 

「ごめんね。うそをつくと鼻がのびちゃうから。」

 

「おまえ、まだそんなめいしん信じてるのか?」

 

リリーのあまりに正直な意見に、マナは反論の余地すらない。マナは顔を少し膨らませた後、両手を後ろの頭に回して寝転がった。

 

「あ~あ、ゆうじょうって泣けるよな~。おまえも友達はえらんだほうがいいぞ」

 

顔を上げてイッセーに向かって言った後、口元にニヤリと笑みを浮かべる。

 

「・・・ぷっ、あはははは!」

 

「はははははは」

 

「うふふふふふ」

 

「あはははははは!」

 

マナの笑顔に見ていたイッセーも思わず笑い始め、他の2人も釣られて笑い、4人で互いに笑いあった。

 

「マナー! どこにいったの? もう帰るわよー!」

 

「リリーも帰る時間よー!」

 

そこに大人の女性2人の声が聞こえる。どうやらマナとリリーを探している様子。

 

「あ、おかあさんだ!」

 

「お姉ちゃんも来たな」

 

「マナ、いこっか」

 

「ああ」

 

リリーは声のほうへと歩き出し、マナも起き上がって彼女の後に続く。

 

「もういくのか?」

 

「いっちゃうの?」

 

イッセーと茶髪の少女は台詞は違えど考えていることは同じと捉えられることを言った。茶髪の子は少々、寂しげな口調だった。

 

「ああ。お姉ちゃん、待たせてるからな」

 

「わたしもお母さん、まってるから。またいつかあそぼうね」

 

マナとリリーは明るかった。そしてマナがイッセーのほうに向き直った。

 

「おれたちはもう、友達だ。イッセー。」

 

そう言ってイッセーに右手を差し出す。イッセーも最初は戸惑っていたが・・・。

 

「・・・ああ。ぼくたちは友達だよ。マナ。」

 

そう言ってマナの差し出した右手を握り、握手する。そして互いに笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

ピンポーン

 

インターフォンの音にベッドで私は瞑っていた目を開く。・・・・・・誰だ?

 

訪ねてくる友人など私にはいない。せいぜい来るのは配達員やセールスマンぐらいだ。

 

宅配便は贈られてくるものによってはサインをして受け取り、セールスマンはうざったいので短剣を突きだして追い払っている。押し売りは帰れと言うヤツだ。

 

こんな朝からそんなものが来るなんてあり得ない。不審者か? いや、インターフォンを鳴らす不審者などいないか。

 

私は時計を見る。ああ・・・もうこんな時間か。けどまだ眠い・・・。

 

私は欠伸をしながら、階段を降りて玄関のドアノブを回す。扉を開いた私の目に映っていたものは。

 

「おはよう。風花さん」

 

「よ、よう。サクラ」

 

紅い髪の美女とその後ろで微妙な表情をしている友人の姿だった。

 

まず思ったことを一つ。・・・何でこいつらがここに?

 

住所を教えた記憶もないが、別にバレても何らかの問題が起こるわけでもない。どうでもいいか。

 

「あなた、昨日も着物姿だったわね。よく似合ってるわよ」

 

「うわぁ、お前随分とデカい家に住んでるんだな」

 

リアスが私の着物姿を称賛し、兵藤が私の家を見て驚いている。

 

他人に評価されることの何の意味があるんだ? 私は好きなものを着て、好きなことをする。何をしようが私の勝手だろ。

 

私は2人をしばらく見つめた後、家の中へと戻る。自室に戻って制服に着直す。

 

リビングに行ってトーストを口に銜えた後、玄関の外へと出る。リアスの背後、兵藤の隣に並んだところで私たちは歩き出した。

 

そう言えばコイツ、何で? 私はトーストを摘みながら、兵藤に気になったことを聞いてみた。

 

「・・・お前、どうしてリアス先輩と一緒にいるんだ?」

 

「い、いやあ、俺にも何が何だか分からないっていうか、朝起きたら先輩がいたっていうか・・・」

 

「何だよ、それ。」

 

兵藤が若干戸惑ったような感じで答える。何か怪しい・・・。一体、何があったんだ?

 

その疑問は前にいるリアスが振り向きながら答えてくれた。

 

「あら、兵藤一誠くん。昨夜はいろいろなことをしたじゃない。裸で抱き合ったり、一緒に寝たり――」

 

「ちょっ、先輩!!」

 

微笑みながら説明をし始めたリアスに兵藤が慌てたように遮る。ああ、なるほどな・・・。ようやく理解した。コイツ、私が見ていないところでそんなことを・・・。

 

とりあえず私が言いたいことは一つ。

 

「・・・お前、性欲の塊だからといってそこまでするなんて。いい加減、恥ずかしいと思わないのか?」

 

「ち、違うぞ、サクラ!!! 誤解だ!!! 俺は決してやましいことをしたかったわけではなくて・・・」

 

「やましいことをしたかったんじゃなかったら、どうして裸で抱き合う必要があるんだ?」

 

「そ、それは俺の意志じゃなくて・・・。ああそうだ!! 治療をしてくれたんだよ先輩が」

 

治療だと? 確かにコイツは昨日の堕天使に傷を負わされたわけだが・・・。

 

そういうことか。つまりは傷の治療のために裸で抱き合っていたと。なるほどな、彼女が悪魔ならそれは納得だ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・って、そんなわけあるか!

 

「寝言は寝て言え、変態野郎」

 

「ほ、本当なんだって!!!」

 

「治療するために裸になるとか、もう少しマシな嘘を付けないのか、お前は?」

 

「だから、嘘じゃねえって!!! 信じてくれよ!!」

 

誰が納得するか。そんな説明で。コイツが絶対、何かしたに決まっている。

 

堕天使に襲われたのはそれが目的だったのか。動機にしてはあまりにも不純すぎる。

 

本当にコイツは変態だ。どうしようもない、救いようのないくらい、筋金入りの変態野郎だ。

 

・・・もういい、この話は。聞くだけ不愉快だ。

 

私はこの後の兵藤の言い訳には耳を貸さずに歩き続けた。

 

そして学校近くを歩いていると私たちは注目の的になっていた。その理由は・・・。

 

「どうしてあんな奴が・・・」

 

「リアスお姉さまと桜様があのような下品な男と・・・」

 

「一緒にいるなんて信じらんない!!」

 

「桜様から離れなさいよ、ヘンタイ!!」

 

同じ学校の生徒からの視線がどうも厳しかった。主に兵藤に向けてだけどな。

 

男女問わず悲鳴が上がり、時には兵藤を妬むかのような罵声が聞こえてくる。中にはショックで気絶している生徒もいた。

 

ただの登校じゃないか。兵藤と歩くだけで何でこんなにも周囲が騒がしくなるんだ? 全く理解できない。

 

しかも今回はリアスがいることもあって、余計に五月蠅くなっている。

 

学校の校門を抜けて、校舎の玄関を通ったところでリアスと別れた。

 

「あとで使いを出すわ。放課後にまた会いましょう」

 

微笑みながらそう告げて、リアスは去っていく。でもまだ周囲は五月蠅い。

 

さっさと教室に入って寝よう。黄色くてやかましい声から逃げてしまおう。

 

私と兵藤も教室へと向かい、兵藤とはクラスが違うので途中で別れることになった。

 

「じゃあ、また後でな!」

 

「・・・・・・」

 

私は兵藤の言葉には反応せず、無言のまま自分の教室へと歩んだ。

 

教室の扉を開けると、女性陣が私に歩み寄ってきた。

 

「桜様、大丈夫!?」

 

「エロ兵藤に酷いことされなかった!?」

 

どうやら私が兵藤とリアスと登校していたことはクラスにも伝わっていたようだ。

 

改めて思うが、何で騒ぎになるのかが理解できない。少しは静かにしてほしい。

 

「・・・別に平気だ」

 

心配そうに聞いてくる女性陣に一言告げると、私は机に突っ伏した。

 

黄色い声はもう聞き飽きた・・・。私はそのまま眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

放課後。帰りのHR後で私が眠っていた時のことだ。

 

「風花さん」

 

私の頭に誰かの男の声が響いてくる。突っ伏した顔を起こすと横には金髪の顔のいい男の姿を見た。

 

私と同じクラスの木場祐斗だ。この前、私とリリーのことを尾行した男。学園では爽やかなイケメンスマイルで女生徒のハートを射抜いているとか。

 

ちなみに私はイケメンなどに興味は無い。人の顔の良さなどどうでもいいし、どんな性格をしていようが私の邪魔にさえならなければいい。

 

「やあ。どうも」

 

「・・・ん」

 

私を起こした木場は笑顔で挨拶をしてくる。人気と言われる理由がなんとなく分かる気がするが、別にどうでもいいか。

 

「お前がグレモリーの使いで来たのか」

 

「そうだよ。僕についてきてほしい」

 

「なら、さっさと行くか」

 

私の無表情な顔とは逆に、笑顔で続けるこの男。その瞬間、周囲からまたしても黄色い声が湧き始めた。

 

「桜様と祐斗くんが一緒に歩くなんて!」

 

「もうこれはレアとしかいいようがないわ!」

 

「2人とも素敵だもんね!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・殺したい、アイツら。

 

私は殺意を抑えながら、席から立ち上がる。すると木場もそれを察したのか、踵を返して歩きはじめる。騒がしい声をBGMにしながら、私は後を続いた。

 

廊下を歩く途中、木場が口を開いた。

 

「風花さん、この前は悪かったね。君たちが眷属の敵にならないかどうか確かめたかったんだ」

 

「・・・別に気にしてない。もし邪魔したら斬り捨ててたところだけどな」

 

私はお前らと敵対するつもりはない。いろいろと面倒だ。手合せしたいのは本音だが。

 

私たちは同学年の別のクラスへと入っていく。兵藤とリリーを迎えに行くためだ。

 

黄色い声が沸いてくる中、私たちは兵藤とリリーのクラスの教室に入り、兵藤が座っている机へと真っ直ぐに向かった。

 

「やあ」

 

木場が兵藤に挨拶をする。兵藤が嫌そうな顔で祐斗のことを見る。

 

そういえばコイツ、イケメンが大嫌いだったな。この前の昼休みも何かと吠えていたしな。

 

ウィルとも先輩とはいえ、相性が悪そうだな。アイツも結構、顔は悪くないほうだし。

 

「で、何の用ですかね」

 

面白くなさそうに返す兵藤だが、木場はそのまま笑顔で返している。

 

「リアス・グレモリー先輩の使いで来たんだ」

 

「・・・OKOK、で、俺はどうしたらいい?」

 

兵藤が素気ない言動で答える。

 

「僕についてきてほしい」

 

その言葉を放った瞬間、周囲の女生徒から黄色い悲鳴が上がった。・・・ホント五月蠅いな。

 

アイツらの喉笛を引き裂いてやりたい気分だ。

 

「そ、そんな木場くんと桜様が兵藤と一緒に歩くなんて!」

 

「汚れてしまうわ!」

 

「桜様の高貴さに傷がついちゃう!」

 

「木場くん×兵藤、桜様×兵藤っていうカップリングなんて許せない!」

 

「ううん、もしかしたら兵藤×木場くん、兵藤×桜様かも」

 

・・・うざい。もうマジでうざったい。一部わけのわからないことまで言ってるし・・・。

 

体がプルプルと震えているのが自分でも分かる。これは私の中の警告音か?

 

「あー、分かった」

 

兵藤が了解する。ここで木場が教室の周囲を見渡す。

 

「ダルクさんはどこにいるのかな?」

 

私はリリーの席を見てみるもそこには彼女の姿が無い。アイツ、どこいったんだ?

 

スマホを取り出してアイツに電話を掛けようとするが、画面に1件のメールの受信があった。

 

その受信メールの宛名は『リリアンヌ・ダルク』と書かれており、開いてみると内容はこう書いてあった。

 

『先に旧校舎の前で待ってまーす❤』

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

先に行っているのか、アイツ・・・。家に帰っていたら後で張り倒していたが、先に行っているなら待つ手間も省けたな。

 

正直、今はここにはいたくない。いろいろと五月蠅そうだし。

 

「・・・リリーは先に行ってる」

 

「そうか。じゃあ、行こうか」

 

私は兵藤と一緒に木場の後を着いていく。

 

「お、おい、イッセー!」

 

ふいに丸坊主の兵藤の悪友が呼び止める。もう名前も忘れたな・・・。松なんとか、だったけな。

 

「心配すんな、友よ。決闘とかじゃないから」

 

やっぱりアイツらでも友達のことは心配するんだな。変態を除けばいいところがあるじゃないか。

 

「これ! 『僕と痴漢と時々うどん』をどうするんだ!」

 

松なんとかがそう言いながらDVDを天にかざす。・・・あれは多分、あれだな。

 

兵藤は天を仰いだ。まるで栄光を共に掴んだ仲間と別れるかのように。

 

とりあえず私が思ったことは一つ。

 

・・・・・・前言撤回。変態はどこまでいっても変態だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

木場のあとに連れられてやってきたのは校舎の裏手にある旧校舎。古めかしい感じのある二階建ての木造校舎だ。

 

昔はこの学園で使われていたらしいが、今では全く使われておらず、人気も全く無い。

 

私はたまにこの周囲を昼寝の場所として選ぶこともあるが、この建物が酷いと思ったことは一度もない。

 

「ここに部長がいるんだよ」

 

・・・部長? もしかしなくとも、リアスのことか?

 

その呼び方からするとリアスはどこかの部活に所属しているということになるが、どこの部活に所属しているのだろうか。

 

まあ付いていけば彼女に会えるということは明白だな。木場は彼女の使いなんだし、当然か。

 

行けばリリーとも合流できるしな。あのお転婆娘は小猫に会いたいって言ってたし。

 

そんな私の思った通り、旧校舎の玄関に入るとリリーがそこでお出迎えをしてくれた。

 

「ヤッホー! サクラ。祐斗くんもこんにちは」

 

「やあ、ダルクさん。君はどうしてここに来たんだい?」

 

「私たちの先輩、っていうよりも仲間が旧校舎に案内されてたから、私もついてちゃったのよ。そしたら私がサクラと祐斗くんと野生ゴリラを迎えろっていうから命じられて」

 

なるほどリリーが先に行ったのにはエレンとウィルが関わっていたのか。ということは2人はもう、目的の部屋にいるんだな。

 

・・・ん? 野生ゴリラ? 誰のことだ?

 

「・・・あのキミ。野生ゴリラって誰のことだ?」

 

私の疑問を兵藤が訪ねてくれた。するとリリーは睨みながらこう言い放った。

 

「アンタのことに決まってんでしょ。エロトリオの1人、兵藤一誠」

 

アイツのS顔、久しぶりに見たな。リリーは更に言葉を続ける。

 

「アンタの悪行はよく耳にしてるわ。着替え中の女子の更衣室を覗いたり、人の家の風呂場を覗いたり、更には嫌がる女を連れ込んで犯してるとか」

 

「ってちょっと待て! 最初のは事実だけど・・・その後のことは全くのデタラメだっての!!!」

 

「嘘おっしゃい! 他の女生徒からちゃんと聞いたんだから!! そんでもって、犯しまくった挙句に使えなくなったらその女を捨てるってことも聞いてたんだからぁ!!!」

 

「そんなことしたことねぇよ!! どんだけ鬼畜に思われてんだよ、俺は―ってわあぁぁぁああぁぁ!!!」

 

リリーに詰め寄ろうとする兵藤だが、木片につまづいてしまう。

 

ポヨン

 

私はこのとき思ったことが一つある。その、転んでしまった兵藤。

 

多分、倒れた――というよりも突っ込んだ場所が悪かったんだと思う。

 

ポヨン

 

「ひゃっ! ん・・・ぁあん」

 

リリーが小さな悲鳴を上げる。兵藤が窒素から逃れようと顔をもぞもぞと動くたびに、リリーの口から甘い声が漏れる。

 

そう、兵藤が突っ込んだ先はリリーの胸だったのだ。それも顔を胸の中に埋めている。

 

リリーの声が聞こえたのか顔を上げる兵藤。リリーのほうは、顔を真っ赤にして兵藤を睨んでいた。

 

「・・・ええと・・・いい胸をしていらっしゃいますね?」

 

リリーは怒りに体をプルプルと震わせる。そして兵藤を両手で突き飛ばす。

 

「この、野生ゴリラァァァァァァァッ!!!」

 

「ギャアァァァァァァァァァッ!!!」

 

突き飛ばされてよろめいた兵藤の首元にリリーのミドルキックが炸裂。回転しながら兵藤の体が宙に舞う。

 

あのキック・・・。悪魔じゃなかったら死んでいるな、兵藤は・・・。

 

そして倒れた兵藤に更に追い打ちをするかのように、兵藤の背中を踏みつけまくる。

 

ハイヒールじゃなかっただけマシだったと思ってる。あれで踏まれると結構ダメージ大きいし・・。

 

「このッ!! このッ!! このォッ!!」

 

「ガアッ!! グフォッ!! ちょっ、やめガハアッ!!」

 

・・・放っておくといろいろとまずそうだ。このままではリリーが兵藤を再起不能にしかねん。

 

木場も2人の様子を見て苦笑しているが、困惑しているようだし、そろそろ止めるか。

 

「・・・おい、そのぐらいにしておけ」

 

私はリリーの背後に近寄って、彼女を羽交い絞めにする。

 

「離して、サクラ!! 変態には死を、変態には死の体罰が必要なの!!!」

 

リリーは足をばたばたとさせながら、私に訴えてくる。

 

「死んだら体罰じゃないだろ。それにこんなことをしている場合じゃない。アイツらを待たせてんだから。これ以上、面倒なこと起こすなよ」

 

「・・・あ」

 

リリーはようやく状況が理解できたのか落ち着く。やっと収まった・・・。

 

私はリリーから手を離して、木場のほうを向く。

 

「悪いな。迷惑かけて」

 

「いや、いいんだよ。そろそろ行こうか」

 

「ああ」

 

「・・・あ、痛たたたた」

 

私たちは先に進む。校舎の中の階段を上り、2階へと上がる。

 

2階は廊下が綺麗だった。使われていない教室にも塵一つ付いていない。古い建物なのにクモの巣や埃もない。

 

掃除はちゃんとされているみたいだな。グレモリーの眷属が掃除しているのか。

 

そう思っているうちに目的の場所に着いた様子だ。木場がとある教室の扉の前で止まる。

 

戸のプレートを見ると、そこには『オカルト研究部』と書かれていた。

 

オカルト研究部か・・・意外だな。あの先輩がそんなことをしているとは。悪魔だから当然、なのか。

 

そんなことというのは自分で思ってみてよく分からんが、オカルトは碌なものがないことぐらいは知っている。

 

「部長、連れてきました」

 

「ええ、入ってちょうだい」

 

木場が確認を取ると中のリアスの声が聞こえてくる。

 

木場が扉を開け、私たちも後を続いて入るとそこは異様な光景だった。

 

室内の至る所には文字が書かれており、部屋の中央には特徴となるようなこの教室の大半を占める大きな魔法陣が置かれている。

 

・・・悪趣味さ満載だ。普通の人が住むような部屋じゃないな。

 

更にそこにはソファーがいくつかあり、前には大きなデスクがある。あまりこの部屋にはマッチしていないような感じに思える。

 

「おっ、やっと来たな!」

 

「遅いですよ、桜。でもまあ、彼女もまだ用意はできていないようですが」

 

ソファーにはこちらから見て右側にエレン、その向かい側に小柄な少女――小猫が座っており、その近くでウィルは小猫の羊羹を食べる姿を見ていた。

 

「あっ、ヤッホー! 小猫ちゃーん」

 

「うおっ!」

 

リリーがウィルを突き飛ばして、黙々と羊羹を食べる小猫の近くに寄る。

 

「ったく野蛮だねぇ」

 

突き飛ばされて尻餅を付いたウィルが頭を搔きながら答える。その言葉に怒りは感じられない。

 

リリーはウィルに目も暮れずに、どこからかケーキの箱を取り出す。敢えてどこかは言わない。

 

「小猫ちゃん、ショートケーキ食べる?」

 

「・・・いただきます」

 

明るい口調で話しかけたリリーに小猫が口を開く。

 

「きゃあぁぁ、カワイイ~!」

 

ケーキの箱を机の上に置くと、頬に手を当てながら悶える。誰がどうみても変態だな、コイツ。木場も苦笑しちゃってるし。

 

またどこからか自分用の椅子を取り出してソファーを挟んで手前に置き、そこに座った。

 

そして小猫の羊羹を食べる姿を小動物を見るかのような表情で見ている。

 

すると小猫はこちらに気付いたのか、兵藤と私のほうに視線を向ける。

 

「こちら、兵藤一誠くんと風花桜さん」

 

木場が私たちを紹介してくれる。ペコリと頭を下げてくる小猫。

 

「ああ、どうも」

 

兵藤が頭を下げ、私も無言で頭を下げる。小猫はそれを確認するとまた羊羹を黙々と食べ始める。

 

・・・愛想の悪い子だな、コイツ。それとも人見知りなのか?

 

昔のリリーにそっくりだ。でも系統は違うな。いつも知らない人に会うと私の背後に隠れていたっけ。

 

私は無言で右側のソファーへと着席する。エレンと同席で隣同士になったわけだが。

 

そこにエレンが耳打ちで話しかけてくる。

 

(下で何かあったのですか? 何かドカドカという音が聞こえましたが・・)

 

どうやら1階の出来事はそちらに聞こえていたらしい。

 

(・・・リリーが、ちょっとな。まあ気にするほどのことでもない)

 

エレンは興味がなかったのか、これ以上何も追求してこなかった。

 

ふと部屋の奥からシャワー音が聞こえてくる。この部屋にシャワーがあるのか?

 

キュッと水を止める音が聞こえた。

 

「部長、これを」

 

リアスとは違う人の声が聞こえてくる。

 

「ありがとう、朱乃」

 

どうやら白いカーテンの奥で誰かが着替えているようだ。

 

「・・・いやらしい顔」

 

ぼそりとつぶやいた小猫の言葉に私は向いてみると、兵藤が言葉通りいやらしい顔をしていた。

 

「ちょっと、何鼻伸ばしてんのよ、この変態!!」

 

「頭の中に穴だらけのチーズでも詰まってんじゃないんですか?」

 

「グハッ!!」

 

私のジト目睨み、リリーの罵声、エレンの蔑むような言葉を浴びせられ、兵藤がその場で崩れ落ちた。

 

どうやらエレンも兵藤の変態ぶりに難所を示しているようだ。・・・兵藤、自業自得だ。

 

ジャーっとカーテンの開く音が聞こえ、奥からリアスが現れる。濡れた髪が綺麗だと思ってしまった。

 

リアスは私たちを見かけるなり微笑む。

 

「ゴメンなさい。昨夜、イッセーのお家にお泊まりして、シャワーを浴びてなかったから、いま汗を流していたの」

 

それでカーテンの奥にいたのか。とはいっても、何故シャワーがあるのかという疑問は消えるわけがないが。

 

ふとリアスの後方に笑みを浮かべている黒髪ポニーテールの少女が目に映る。確か、姫島朱乃だったっけ。

 

リアスと並び「二大お姉さま」と称されていて、大和撫子と言われている人だとか。

 

「あらあら。はじめまして、私、姫島朱乃と申します。どうぞ、以後お見知りおきを」

 

ニコニコ顔で丁寧な挨拶をしてくれる朱乃。和風感漂う佇まいで、いつも絶やさないスマイル。

 

今、思った。私、この人、苦手だ・・・。過去の嫌なことを思い出してしまいそうになる。

 

「こ、これはどうも。兵藤一誠です。こ、こちらこそ、はじめまして!」

 

兵藤は緊張しながら、朱乃に挨拶を交わす。声が裏返ってるぞ。

 

「ごきげんよう、姫島先輩。私、リリアンヌ・ダルクと申しますわ。よろしくお願いします」

 

リリーもご丁寧に清楚のある挨拶を交わす。こちらは緊張してはおらず、むしろ慣れているという感じだ。

 

外面だけは完璧なんだけどな、コイツ・・・。

 

「・・・風花桜。よろしく」

 

私も自分なりの挨拶を遂げる。これでいいだろ。挨拶なんて長くするだけ面倒だし。

 

「うん。」とそれらを確認するリアス。

 

「これで全員揃ったわね。兵藤一誠くん。風花桜さん。リリアンヌ・ダルクさん。紫藤エレンさん。ウィルヘルム・ロックハートくん。いえ、イッセー、サクラ、リリー、エレン、ウィル」

 

「は、はい」

 

「ん?」

 

「何ですか?」

 

「はい」

 

「あいよ」

 

「私たち、オカルト研究部はあなたたちを歓迎するわ。悪魔としてね」

 

多分、名前を呼ばれた1人を除くものがこう思っただろう。

 

・・・私たちは悪魔じゃないんだけどね。

 

まあ何はともあれ、オカルト研究部の部屋に私たち+兵藤と悪魔たちが改めて対面した。

 

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