極悪な奴ら/THE EVIL HERO   作:早乙女

7 / 53
第6話「正者の境界《エデン》」

「粗茶です」

 

「ああ、どうも」

 

「いただきます」

 

「アタシは結構です」

 

「・・・オレもいい」

 

姫島が粗茶を出してくれたが、私はあまり苦いものは好きではない。だから断った。

 

兵藤とエレンは貰った粗茶を啜っているが、リリーは自分の紅茶を啜っている。

 

・・・不謹慎すぎるだろ。

 

「うまいです」

 

「なかなかの味ですね」

 

「あらあら。ありがとうございます」

 

嬉しそうに笑う姫島。あの笑顔は悪くないな。

 

テーブルに囲んで座る私、兵藤、エレン、木場、小猫、リアス、そして自分の椅子に座るリリー。

 

「朱乃、あなたもこちらに座ってちょうだい」

 

「はい、部長」

 

姫島がリアスの隣に腰を下ろす。

 

「ウィル、あなたも座っていいのよ?」

 

「いや、御構い無く」

 

「あらそう」

 

1人だけソファーの後ろに立っていたウィルは手を振りながら断る。

 

ここで全員の視線が兵藤に集まる。思わず緊張が表情に現れる兵藤。

 

「・・・とりあえず何もわかっていないこの男に説明するべきではありません?」

 

視線をリアスに向けたエレンが口を開く。まあ、ただの人間だった兵藤には理解してもらわんとな。

 

「ええ、そうね」

 

兵藤をソファーの真ん中に座らせ、エレンは兵藤の座っていた席に座る。

 

その際エレンが兵藤の座った跡を掃っていたが、どこまで嫌なんだよ。

 

リアスは咳払いをして口を開く。

 

「イッセー、単刀直入に言うわ。私たちは悪魔なの」

 

本当に単刀直入だ。兵藤も困惑している。

 

実際、グレモリーの眷属たちは一般人から見れば普通の学生にしか見えない。分からないのも当然か。

 

「信じられないって顔ね。まあ、仕方ないわ。でも、あなたも昨夜、黒い翼の男を見たでしょ?」

 

確かに兵藤は昨夜、黒い翼の男を見ている。もう夢ではないことは私が説明した、と思う。

 

「あれは堕天使。元々は神に仕えていた天使だったんだけれど、邪な感情を持っていたため、地獄に堕とされてしまった存在。私たち悪魔の敵でもあるわ」

 

・・・神・・・天使。その言葉を聞いていると思わず黒いオーラを垂れ流してしまいそうになる。

 

でも今は不謹慎だ。ここは落ち着かなくては・・・。

 

湧き上がる何かを抑えながら、私は兵藤に説明するリアスの話に聞き入る。

 

「私たち悪魔は堕天使と太古の昔から争っているわ。冥界――人間界でいうところの『地獄』の覇権を巡ってね。地獄は悪魔と堕天使の領土で二分化しているの。悪魔は人間と契約して代価をもらい、力を蓄える。堕天使は人間を操りながら悪魔を滅ぼそうとする。ここに神の命を受けて悪魔と堕天使を問答無用で倒しに来る天使を含めると三すくみ。大昔から繰り広げられているのよ」

 

リアスが悪魔と堕天使の戦いの軌跡を長々と説明する。

 

三すくみの関係などうでもいいが、神の命・・・? バカバカしい・・・。

 

傍観するだけのでくの坊に何の価値があるというんだ。守る義理も奪う価値もありはしない。

 

「いやいや、先輩。いくらなんでもそれはちょっと普通の男子高校生である俺には難易度の高いお話ですよ。え? オカルト研究部ってどういうこと?」

 

・・・決して高くない。単にコイツに理解力が無いだけだ。

 

この莫迦の頭の中に何が詰まっているんだろうとすら疑問を抱きたくなる。

 

というか、普通の高校生とか言っているが、普通じゃないからここに呼ばれているんだろう。いい加減自覚しろ、バカ。

 

「お前、まだ普通じゃないって自覚ないのか? ホント、おめでたい頭してんな」

 

「うるせぇよ、イケメン! 知らないんだからしょうがないだろ!」

 

「おいおい、イケメンとはいえ、俺はお前の先輩だ。口の聞き方には気をつけたほうがいいぜ?」

 

「~~~~~ッ!」

 

私の心の中の罵声を代弁するかのようにウィルが小馬鹿にすると、イケメンの大嫌いな兵藤が睨む。

 

やっぱり相性が悪いじゃないか。ウィルも口を挟んでからかうなよな。面倒臭い。

 

「・・・話を戻してもいいかしら?」

 

リアスが苦笑しながら言う。兵藤は怪訝そうな顔をしつつもリアスのほうに視線を戻した。

 

「オカルト研究部は仮の姿よ。これは私の趣味。本当は私たち悪魔の集まりなの」

 

どこからどう見ても部活仲間の会話だが、これは彼女の言うとおり悪魔の集まりだ。

 

というかオカルトが趣味とか、やっぱり悪趣味だなこの女。

 

兵藤の顔を伺ってみるが、まだどこか信じられないといったような顔だった。

 

「それじゃあ、この子は知っているかしら?」

 

リアスが一枚の写真を取り出す。そこに映っているのは天野夕麻だった。

 

その写真を見た兵藤の顔が険しくなった。

 

「あの日、あなたはこの子とデートしていたわよね」

 

「冗談ならここで終えてください。そういう話は正直ここでしたくない」

 

兵藤の声に怒気が含まれているのが分かる。声がいつもより少し低くなっていた。

 

それもそうだ。デートした彼女に殺されたなんて、兵藤にとっては夢でも笑えない話だ。

 

他人に話して誰も信じてくれなかったコイツにとっては腫れ物。容易に触れてはいけないものなのだ。

 

それにしてもリアスはどこからそのような情報を仕入れているのだろうか? 闇世界にでも通じているのか?

 

「私たちは居合わせていないので知らないのですが、この黒いのが一体何だというのですか?」

 

エレンがリアスに訪ねてくる。そうか、コイツら私が出ていったときには教会内にいたんだっけな。知らないのも当然だ。

 

「この子は、いえ、これは堕天使。昨夜、イッセーとシキを襲った存在と同質の者よ」

 

知っている。アイツからは同じ気配がしたし、同じ力を使っていた。

 

「なるほど。このカラスがこの辺りをゴロツキのように徘徊していると?」

 

「そうよ。そしてこの堕天使はとある目的があってイッセーに接触した。その目的を果たしたから、イッセーの周囲から自分の記憶と記録を抹消させたの」

 

「目的?」

 

「そう、あなたを殺すため――」

 

それを聞いた兵藤の顔に驚愕が現れる。私は何となく分かるが、兵藤は理解できないようだった。

 

「何で俺がそんな!」

 

「落ち着いてイッセー。仕方がなかった・・・・いいえ、運がなかったのでしょうね、殺されない所持者もいるわけだし・・・」

 

運が悪かった・・・そんなもので片付けられるものとは思えない。

 

私はそんなことを思った。何か納得できない言葉が一つあったためかもしれない。

 

この世に偶然なんか無い。全ては必然だ。兵藤に何かがある限り、その女に関わったことで殺されることは決まっているようなものだ。

 

例えデートを先延ばしにしようがなかろうがいつかは、な。

 

「彼女があなたに近づいたのはあなたの身にある物騒なモノがついていないか調査するためだったの。反応が曖昧だったんでしょうね。だから、時間をかけてゆっくりと調べた。そして確定したのよ。あなたが神器(セイクリッド・ギア)を身に宿すものだと」

 

神器(セイクリッド・ギア)?」

 

兵藤の疑問に木場が口を開く。

 

神器(セイクリッド・ギア)は特定の人間の身に宿る規格外の力。歴史上に残る人物の多くが神器所有者だと言われているんだ」

 

「現在でも神器を宿す人々はいるのよ。世界的に活躍していらっしゃる方々の多くも神器を有しているのです」

 

「大半は人間社会規模でしか機能しないものばかり。でも中には私たち悪魔や堕天使、天使にとって脅威となる力を持った神器もあるの」

 

木場に続いて姫島が説明、そしてさらにリアスが続く。

 

神器か。私も一応持ってはいるが、使ったことはほとんどない。というか、今の私にはまだ使えない代物のようだ。

 

「イッセー、手を上にかざしてちょうだい」

 

「え、どうしてですか?」

 

「いいから、早く」

 

リアスに命じられた兵藤は疑問を感じつつも手を上へとかざす。

 

「目を閉じて、あなたの中で一番強いと感じる何かを心の中で想像してみてちょうだい」

 

「一番強い存在・・・。ド、ドラグ・ソボールの空孫悟かな・・・」

 

そんなものがどこかにあったような気がするが、確か人物がドンパチやるだけの漫画だったな。それのどこが面白いんだ?

 

背後を見てみるとウィルが後ろを向いて笑いを堪えている。横を見ればリリーとエレンが紅茶と粗茶をそれぞれ啜っている。

 

1人は完全に兵藤を嘲笑しているような感じだったが、2人はどこか複雑そうだ。

 

一体どうした? でもなんか、兵藤に失礼なことをしているようにも感じる。

 

「それじゃあ、それを想像して、その人物が一番強く見える姿を思い浮かべるのよ。ゆっくり腕を下げて、その場から立ち上がって、そしてその人物の一番強く見える姿を真似るの。強くよ? 軽くじゃダメ」

 

兵藤はリアスに言われたとおりに、でもどこか少し躊躇しながらも行動を取り始める。

 

そして最後に何らかのポーズを取る。漫画の必殺技を撃つときの構えか?

 

いい年にもなって空想の人物を真似るなんて幼稚すぎる。私でもやっていないぞ。

 

「ドラゴン波!」

 

・・・コイツ、本当にやりやがった。

 

両手を上下に合わせて波動を放つように前に突き出すと兵藤の左腕が光り出す。

 

そして光が止んだときには赤色の籠手のようなものが装着されていた。

 

変身ヒーローのアイテムのようなものが腕に装着されたかに見えるが、いや発想が幼稚か。

 

コイツがさっきから幼稚なアクションしかしないから、私がそう思ってしまうだけだ。

 

「な、なんじゃこりゃあぁぁぁぁ!」

 

兵藤が叫ぶ。いちいちやかましい男だな。

 

驚くのも無理はないと思うが、騒ぐほどのことなのか?

 

「それが神器(セイクリッド・ギア)。あなたのものよ。一度ちゃんとした発現ができれば、あとはあなたの意志で発動可能になるわ」

 

あれが兵藤の神器(セイクリッド・ギア)か。見た感じ悪くはないと思う。

 

でも何か足りない。あの神器からは力が感じられないし、まるで電池の入っていない機械のようだ。

 

「あなたはそれを堕天使に危惧されて殺されたの。そして私が悪魔に転生させたのよ」

 

そしてリアスの背中からコウモリのような翼が生えた。リアスだけでなく、木場、小猫、姫島の背中からも同じような翼を生やしている。

 

「改めて紹介するわね、祐斗」

 

リアスに名を呼ばれ、木場がスマイルを向ける。

 

「僕は木場祐斗。風花さんやイッセーくんと同じ二年生ってことは分かっているよね。えーと、僕も悪魔です。よろしく」

 

「・・・一年生。・・・搭城小猫です。よろしくお願いします。・・・悪魔です」

 

小猫が小さく頭を下げる。

 

「三年生、姫島朱乃ですわ。いちおう、研究部の副部長も兼任しております。今後もよろしくお願いします。これでも悪魔ですわ。うふふ」

 

姫島が深く頭を下げる。そしてリアスが紅い髪を揺らしながら堂々と言う。

 

「そして、私が彼らの主であり、悪魔でもあるグレモリー家のリアス・グレモリーよ。家の爵位は公爵。よろしくね、イッセー」

 

そう言って各個人の自己紹介は終わった。さて、そろそろか。

 

リアスはエレンと私、リリー、ウィルのほうにそれぞれ視線を向ける。

 

「さて次は貴方達の番ね。風花桜、リリアンヌ・ダルク、紫藤エレン、ウィルヘルム・ロックハート」

 

はてさて、どうなることやら。まあ、私はどうでもいいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは貴方達が何者なのかということを教えてくれるかしら」

 

リアスがエレンたち4人に訪ねる。

 

嘘を教えるのもあまり好きではないですね。この際、教えてやってもいいでしょう。

 

エレンは粗茶を啜った後、咳払いをして口を開いた。

 

「まず、『正者の境界』と書いてエデン・・・。聞いたことはありますか?」

 

「エデン・・・。そう、貴方達が・・・。」

 

リアスが険しい顔をする。まるでマズイ相手に遭遇してしまったかのような顔だ。

 

「部長、エデンって・・・?」

 

「ええ、まさかこんなところで会えるとは思わなかったわ」

 

祐斗の少し驚いた顔にリアスが答える。

 

「エデン・・・。私たち悪魔を含む三大勢力と深い関係を持つ非法組織。一説には悪魔や堕天使がその組織に始末させられたと聞いたことがあるわ」

 

リアスの説明に祐斗の顔も険しくなるが、ここでウィルが口を挟む。

 

「確かに俺たちは悪魔や堕天使を退治したこともあるぜ。でもな、無差別にやってたわけじゃない。そいつらには共通点があるのさ」

 

「・・・共通点?」

 

小猫が首を傾げながら言う。羊羹を食べながら。

 

「それはな――。そいつらが世界を脅かすような存在だったってこと」

 

「簡単に言えば悪を滅ぼしたということです。エデンの表向きは妖魔やはぐれ悪魔を狩るデビルハンターたちの組織。その裏ではこの世にはびこる悪を抹殺するのが真の目的である組織なのですよ」

 

「エデンはそれぞれ『七傑』『八将』『機関』『十八星』の4つのグループに分かれているんです。アタシたちはその中の『機関』に所属しています。『機関』は十三人のメンバーで構成される組織のこと。ちゃんとそれぞれ数字を持っているんですよ」

 

コイツら、いろいろとしゃべりすぎなのではないだろうか。先程から口を開いていない式がそう思っている。

 

一誠はただ黙って聞いているだけだが、さっきから言っていることがチンプンカンなようだ。

 

「・・・貴方達のことはよく分かったわ」

 

「それはよかったです」

 

彼女たち、やっぱり面白いわ。特にそこのサクラって子、堕天使を追い払ったあの力は凄まじかった。

 

厳然たる思いとして、単なる興味本位ではなく、ぜひとも欲しいわね。

 

「ねえ貴方達、単刀直入に言うけどオカルト研究部に入らない? ぜひとも貴方達の力を貸して欲しいの」

 

リアスが4人を勧誘するも、その言葉にエレンが急に真剣な表情になった。

 

しばらくの沈黙の後、エレンが目を瞑って口が開く。

 

「・・・はっきりと言っておきますが、あなた方に忠告したいことがあります」

 

その言葉に周囲に緊張が走る。

 

「私たちは上に命じられたためにこの地区にいます。あなた方は今後一切、私たちの邪魔をしないこと。それだけです。要するに監視を付けるなどをしてこちらの任務の進行を削ぐようなことはやめていただきたいということです」

 

エレンが冷たい表情でリアスを見つめる。

 

「それをそう簡単に了承なんかできると思う? 貴方達の問題としているというのであれば、尚更よ。私はこの土地の責任者として問題となりそうな貴方達を放置することはできないわ」

 

リアスがエレンに反論する。確かにこの地区はグレモリーの縄張りでもある。そんな簡単に「ああそうですか」などと言えるわけがない。

 

よく見れば祐斗、小猫、朱乃、それに遅れて一誠も警戒態勢に入っている。

 

「おいおい、俺たちはお前らと争いたいわけじゃないんだぞ。それにそこにいるサクラはイッセーを二度も助けようとしたんだぜ。忘れたわけじゃねえだろ?」

 

「確かにそうだけど・・・」

 

「それとも、何? 先輩は意志もないアタシたちを自分の土地だからという理由で横暴なことするわけですか?」

 

「そういう事を言っている訳じゃないわよ・・・」

 

「邪魔をするのであれば、私たちはあなたがたを“悪”とみなして始末しますよ? 例え下僕に慈悲深いと言われるグレモリー家でもね。それに仮にも私たちは『十三機関』のメンバー。伊達に番号を背負ってるわけじゃありませんよ?」

 

エレンが冷たい笑みを浮かべながら言う。

 

その言葉にリアスが押し黙る。私は今までに経験やこういった修羅場になりそうな数は踏んできてはいない。

 

自分だってプライドというものがある。でも今、ここでプライドをぶつけたらそれこそ一触即発になってしまうかもしれない。

 

それでも私は何かを言わなくてはいけない。例えそれが可笑しくても・・・。

 

「オレたちはな、掟だとか制約だとかで縛られるのが大嫌いなんだよ。そういうのは、行動を制限されるという意味で不愉快だということ。要するに邪魔だという訳だ」

 

桜は不愉快そうに言う。

 

話が続かなくなり、エレン、リリアンヌ、桜の三人が立ち上がる。

 

「・・・お邪魔しましたね」

 

4人は部屋から出ていこうと扉の方へと歩む。するとリアスが口を開く。

 

「それでも・・・」

 

「「「「?」」」」

 

「私は、グレモリー家次期当主であるリアス・グレモリーは、貴方達を見逃すことはできないわ!」

 

ビシッと指を4人のほうへと差しながら、発するリアス。

 

先程の理論や正論を覆すことのない、まるで子供の言葉だ。

 

別に根拠があったりするわけでもないが、それでも真っ直ぐな言葉だ。

 

何故だろう・・・? 私はどうしてこうまでも、コイツを――コイツらを面白く感じてしまうのか?

 

「ククク・・・ハハハハハハハ!」

 

突然、笑い始めたのは口数の少ない桜だった。それも楽しそうに面白そうに――。

 

よく見ると他の三人も笑みを浮かべていた。

 

リアスたちはその様子を見て呆気にとられていたが、リアスが我に返って憤慨する。

 

「ちょ、ちょっと! 笑うことないじゃない!」

 

「ククク・・・お前ってホント、莫迦だよな」

 

「馬鹿ですね」

 

「馬鹿ね」

 

「馬鹿だな」

 

「う、うるさいわね! あんまり馬鹿馬鹿言わないで頂戴!」

 

4人から馬鹿呼ばわりされ、顔を赤くして子供のように怒るリアス。

 

「気に入ったぜ。オレはこの部に入ることにする」

 

「・・・本当ですか?」

 

「ただし、仮入部だけどな。オレらのことも少しずつ教えてやる。お前らはお前らの活動をもっと教えろ」

 

桜が仮入部ながらも入ることを宣言した後、エレンが口を開く。

 

「・・私たちは組織のこともあるのであまり入部ということはできませんが、桜とリリー2人ぐらいなら大丈夫でしょう。それと他には連絡を取り合うということで最低限の協力はできますのでそれでいきましょう」

 

「あらあら、それなら安心ですわね」

 

彼らは仮にもエデンのメンバーなのだ。あまり他の勢力に深入りをすると上に叩かれかねない。

 

でも遠いところからならばこの周辺で何かあったときに連絡をすればお互いを助けられる。今はこのままでいいだろう。

 

「これ、私の連絡先です」

 

エレンは電話番号とメールアドレスの書かれた紙をリアスに手渡す。

 

「ええ、分かったわ。よろしくね」

 

リアスが微笑みながら言う。そして4人はリアスたちの方を向く。

 

「改めて自己紹介をしましょう。私は紫藤エレン。グレモリーさん、姫島さんと同じ三年です」

 

「俺はウィルヘルム・ロックハート。同じく三年。姫島さんはもう知ってるだろ? ああ、言いにくかったら『ウィル』って呼んでもいいぜ」

 

「アタシは2年のリリアンヌ・ダルク。リリーって呼んでください。ダルク家の次期当主の1人です。よろしくお願いします」

 

「オレは2年の風花桜、今後ともよろしくな」

 

今ここに仮ではあるが、エデンと悪魔たちによる協力体制が敷かれることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「うおおおおおおおおおおお!」

 

私は今、大声で叫びながら自転車を漕ぐ兵藤の後ろに座っている。

 

チラシ配りをするためだ。簡単な魔法陣が描かれたチラシのこと。

 

欲のある人間がこのチラシを手に取って願いを込めれば、悪魔が召喚されるようになっているらしい。

 

今兵藤の持っている携帯にはマップが表示されており、赤い点が点滅している。そこに向かってコイツは自転車を全力で漕いでいる。

 

その家に着くとポストにチラシを投函して、次の場所へと向かう。これをさっきから繰り返している。

 

私は配っているのかだと? そんな雑用みたい真似を私がするとでも思うのか? 私は仮入部で今は見学中のようなものだ。

 

そもそもこれは悪魔の仕事であって、私はそれ以前に悪魔ではない。着いて行っているのも、ただの興味本位だ。

 

「ちくしょおおおおおおお! 仕方ないよな! 仕方ないもんな! 俺、悪魔だもーん!」

 

絶叫しながらペダルを漕ぐツンツン頭のこの男。近所迷惑な上に安眠妨害だろ・・完全に。

 

「五月蠅いな。騒いでないで漕げ」

 

「痛ッ! って、どわあああああ危ねえええ!」

 

苛立った私は兵藤の頭を小突いてやった。すると自転車が体勢を崩して倒れそうになるも、何とか踏ん張って体勢を元に戻した。

 

危ないとは思ったが、私はムシャクシャしてやった。反省はしていない。

 

「おいサクラ、危ねえだろ! もう少しで転倒するところだったじゃねえか!」

 

「お前の運転が未熟なだけだろ。人のせいにするな」

 

「いやいや、未熟も何もお前に頭ど突かれて転倒しそうになったんですけど!?」

 

兵藤が私のほうに顔を向けて抗議してくるも、私は別に悪いことをしたとは思っていない。

 

というか、そんなことよりも・・・。

 

「運転するときは前を向いて運転しろ。ほら、危ないぞ」

 

「え? って、うわああああああ!」

 

私に指摘されて前を向いた兵藤が驚いてハンドルを切る。道の真ん中に飛び出した動く物体を避け、参事を免れた。

 

落ち着かないな・・・コイツの運転。秋山でもこんな雑な自転車の運転はしない。

 

そもそも運転に集中していないとしか言いようがない。だから黒猫を轢きそうになるんだ、この莫迦は。

 

「やっぱり下手糞じゃないか。お前は自転車の運転もできないとなると、後何が残るっていうんだ?」

 

「人をダメ人間みたいな言い方すんのやめろ!! 軽く傷つくから!!」

 

・・・ダメ人間だろ、どっからどう見ても。

 

ああ、違った。変態が取り柄のダメ人間だったな。いやそういえば、コイツはもう人間じゃなかったな。

 

「俺だって褒めるべきところはあるさ!」

 

「・・・例えば?」

 

「ええっと・・・・煩悩に貪欲なところとか?」

 

「・・・お前の変態ぶりなど、褒める価値もない。しかもそれ、マイナス評価だし」

 

「うっ・・・ええい!!構うもんか!! 俺はスケベだ!!欲望の塊だ!!ウジウジしたって仕方がない! 俺はこのまま突き進むだけだ!!」

 

言葉に詰まった兵藤が認めたように大声で叫び始める。だから、五月蠅いっての。不謹慎だっての。

 

「ハーレム王に俺はなるっ!!」

 

私は兵藤のその宣言に言葉を紡ぐことができなかった。

 

何故だろう・・? 格好良く言っているのに、全然かっこよくない・・・。

 

兵藤が悪魔家業を行ってから数日。彼は夜中、ひたすら自転車を漕いでいる。私を後ろに乗せて。

 

私は妖魔を狩る日が無いときは大抵、旧校舎を訪れては兵藤の仕事ぶりを傍観している。

 

毎日リアスのために気持ち悪いほどの汗を流し、チラシを投函し続ける。

 

よくも飽きずにやるものだ。まあ、私も気持ちは分からないこともない。

 

思い出したくもないが、私には師匠がいる。ソイツは面倒なことはすぐに他人に押し付けて、厄介事を起こしては呑気にしているズボラなヤツだ。それでいて人の反応を見て面白がっている。

 

私はアイツのそんな態度を見ていると頭に来てしょうがなかった。だけど真面目なときは真面目になることもあるから、本当に意地の悪いヤツだった。

 

というか、よく考えてみれば兵藤と私の上司の関係を比べると全く共感できる辺りが一つもないな。私には正直、苦労と苛立ちしかなかったからな。

 

それはそうと悪魔というのは私も勉強ぐらいはしている。

 

悪魔という者は人間に召喚され、契約を結び、その者の願いを叶える種族だ。

 

他の者にもそうだが願いは大きければ大きいほど、その代償は大きくなり、時には命を貰う場合もあると言われている。

 

しかし最近の契約者は命を奪ってまで願いを請うようなものいない。あるとするならそれは昔の話やおとぎ話の中のことだ。

 

コイツがキーキー喚き散らすこともあるが、悪魔の存在は人間には認知されないことになっており、他の一般人には見えていないらしい。

 

まあ私も妖魔を退治するときは存在を認識されないけどな。残骸の掃除も大抵モコナにやらせているしな。

 

でも私はそれでもうるさいのは嫌いなので、兵藤を時折ど突いたりもしている。面白いからな。

 

勘違いされないように言っておくが、私はコイツとイチャイチャしているわけではない。変態とじゃれるなど死んでもお断りだ。

 

だから私は部活に行く際には変な勘繰りをされないように、先に旧校舎へ行って待ち合わせをしている。

 

それにしても兵藤がチラシを配っても配ってもモニターの点滅が止むことは無い。それに召喚した人間は一度行うと、癖になって何度も召喚するようになるらしい。

 

人間ってどこまで欲深くて浅はかな種族なんだ。

 

それでいて必要なくなれば、ソイツを切り捨てようとする。この世で残酷な生き物だぜ。

 

「うおおおおおおおおおおおッ! 早く女の子に囲まれたい――やはぁぁッ!?」

 

「五月蠅いぞ。雑音を立るな」

 

・・・案外コイツ殴るの楽しいかもしれない・・・。

 

それにしても女の子に囲まれたいって、もう女の子には囲まれているじゃないか、莫迦、鈍感。

 

 

 

 

 

 

 

ある日の放課後のこと。今日もエロ兵藤と一緒に旧校舎に待ち合わせる私。

 

私もよく飽きないものだ。興味なんか一週間ぐらいで薄れていたはずなのに。

 

まあ兵藤を殴っていいストレスの解消になっているからかもしれないな。仕事を見てても退屈だし。

 

「おーい! サクラー!」

 

兵藤の声だ。こちらに駆け寄ってきているな。

 

「遅いぞ、兵藤。5秒も遅刻だ」

 

「はあ!? 別にいいだろ、5秒ぐらい!」

 

「いいわけあるか。女を待たせる男は嫌われるぜ?」

 

「あっ、おいちょっと! 待てよ!」

 

私は返事を待たずに旧校舎へと踏み入る。今日もいつもの部室へと向かっている。

 

どうせ今回もチラシ配りという犬みたいな仕事をやらされるのだろう。兵藤のヤツ、従順すぎて逆に気持ち悪い。

 

あとどうでもいいことかもしれないが、兵藤が姫島のことを「朱乃さん」、小猫のことを「小猫ちゃん」と呼ぶようになった。本人たちがそう了承したからだ。

 

でも木場は木場のままだ。彼がイケメン嫌いなこともあって、名前を呼んでいない。それどころか呼び捨てだ。

 

私は呼んでいないのかと聞かれれば、名前なんかどう呼ぼうが一緒だろ。何故に呼び方を変えるという面倒なことをしなくちゃいけないんだ。

 

名前っていうのは親しみを込めて呼ばせるものだと聞いたことがあるが、私にはそういうことはよく分からん。

 

・・・うん、どうでもいいな。余所の人の逃げた下等種族ぐらいどうでもいい。

 

「入りまーす!」

 

「・・・・・・」

 

兵藤が元気よく入り、私も無言のまま入る。

 

すると部室は真っ暗だった。窓には暗幕が掛けられており、光をシャットアウトされているような状態だ。照らしているのは床のロウソクだけ。

 

部員は兵藤と私を入れて全員そろうという感じでおり、私たちは最後だったようだ。

 

ちなみにエレンとウィルは部活には来ていない。協力するとは言っていたが、あくまでも連絡を取り合う間柄。部活に大抵来ているのは仮入部している私とリリーだけだ。

 

「来たわね」

 

「やっと来たわね、サクラ」

 

リアスが私たちの姿を確認すると姫島に指示を送る。リリーもいたのか。

 

「はい、部長。イッセーくん、魔法陣の中央に来てください」

 

姫島が兵藤に向かって手招きをしてくる。兵藤が魔法陣の中央に立った。

 

「イッセー、あなたのチラシ配りも今日で終わり。よくがんばったわね。シキ、イッセーの面倒を見てくれてありがとう。お疲れ様」

 

リアスが笑顔で言う。私は無表情でコクリと返す。

 

そうか、この犬みたいな仕事ももう終わりか。長かったな。

 

「ねえねえ、あの山猿に変なことされなかった?」

 

山猿? もしかしなくても兵藤のことか。

 

リリーが私に駆け寄って心配そうな顔で訪ねてくる。ちなみにこれは兵藤と一緒にいると起こる毎回のことだ。

 

「・・・何もされていないと言っているだろう。お前もしつこいぞ」

 

「だってぇ~サクラが山猿に嫌らしいことされてないか、心配なんですもの~」

 

リリーの抗議には無視。いちいち相手にしていると埒が明かない。

 

別に嫌らしいことはされていない。顔をすることはあるけれども、仕事は真面目にやっている。コイツが自意識過剰なだけだ。

 

兵藤もこっちを向いて、「失礼なヤツだな!」ってな感じでムッとしてるし。

 

私はこの場を紛らわそうとリアスに向かって口を開いた。

 

「そろそろソイツにも契約をさせるのか?」

 

「ええ、イッセーにも改めて悪魔の仕事を本格的に始動してもらうわよ」

 

「おおっ! 俺も契約取りですか!」

 

「そうよ。もちろん、初めてだから、レベルの低い契約内容からだけど」

 

まあ悪魔に成りたての兵藤がこなすのはレベル1からが当たり前だろうな。

 

リアスによれば小猫に予約契約が2本同時に入ってしまったとのこと。両方行くのは無理だから、兵藤に片方を契約に行かせるということ。

 

要するに兵藤は小猫の代打ってわけだな。兵藤・・・哀れだな。

 

「サクラ、あなたはイッセーに付き添ってあげて頂戴」

 

リアスが私に要請してくる。面倒だが、悪魔の契約の仕事には興味深い。ここで知るいい機会だろうな。

 

私はコクリと頷いて了承した。しかし、ここで一つ問題が生じる。

 

「部長。付き添わせるのはいいですが、サクラさんは私たちの眷属というわけではないので、魔法陣から行くのは無理だと思いますが・・・」

 

「それもそうね。どうしましょう・・・」

 

姫島の指摘にリアスは手に顎を当てて考え込む。そう、私はグレモリーの眷属ではない。

 

魔法陣での転送は眷属しかできないので、眷属でない私は目的地にジャンプすることができない。

 

まあ別の方法は分かっているが、それを代わりに説明してくれる者がいた。

 

「あ、それなら大丈夫です。サクラ」

 

リリーが考えているリアスに答え、私の方を向く。

 

私は無言で部屋のスペースに右手をパーにして突きだす。すると黒く穴のような大きさの丸が地面に現れ、そこから黒い煙がモヤモヤと噴出しゲートのような形になった。

 

「それは何なの? 最初に貴方達に会ったときも現れたけど」

 

「これは『闇の回廊(シャドウズ・ゲート)』と言って私たち『機関』の主な移動手段です。このゲートを使うことによって、私たちは行きたいところに行くことができるようになるんです」

 

リアスの疑問にリリーが説明してくれた。

 

「そう、それなら安心ね」

 

リアスは納得してくれたようだ。それでは私は一足お先に現地に赴くことするか。

 

「ちょっと待って! あなた、契約者の場所分かってるの?」

 

私は闇の回廊に入ろうとするが、リアスの引き留めに足を止める。

 

リアスの方に顔を向けてこう言った。

 

「・・・もう分かっている。私に抜かりは無いよ」

 

今の私の瞳はアイツらには青く光って見えていることだろう。

 

私のことを見て呆気にとられるリアスたち。私は兵藤の方を向いて言う。

 

「兵藤、先に行ってるぜ。来いよな」

 

「あ、ああ、分かった」

 

動揺したように兵藤が言葉を返したが、多分私の瞳がおかしかったのだろう。そう思うと何だか、悲しいな・・・。

 

私は黒いゲートをくぐり、契約者の元へと赴いた。

 




契約者の話は続きません! 話が進まないから!

でも、いつしか書きたいと思います!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。