極悪な奴ら/THE EVIL HERO   作:早乙女

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第8話「怪物共の血祭」

 

私は任務を終えて、旧校舎の中の部屋へと向かっている。

 

それは済むというにはいろいろと危ない場所。そう、オカルト研究部の部室だ。

 

オカルトという名の悪趣味な趣向を持つリアスによる、悪魔のための集会所だ。

 

私は悪魔ではないが、歓迎はされているので暇なときに来ている。

 

とはいっても、悪魔見習いの兵藤のサポートをリアスに頼まれることのほうが多い。

 

面倒だが、そこに行けば兵藤でストレスを発散できるので私にとってはいい特典だ。

 

・・・まあ、勝手な解釈だけどな。私にとっては使い勝手のいい玩具でもあるからな。

 

部室近くまで来ると黒髪のポニーテールの清楚な女性がいた。

 

彼女はドアを少し開きながら、中の様子を覗いている。

 

「姫島先輩?」

 

「あら、サクラさん」

 

私が話しかけると姫島はこちらを向いて、微笑みを向けてきた。

 

「何をしているんだ? 入らないのか?」

 

「うふふ、ここを覗いてみてください」

 

と言って、開いているドアの隙間を指さした。・・・一体、何だ?

 

私は疑問に思い、ドアの隙間を覗いてみると中にはリアスと兵藤がいた。

 

しかし、中にいるリアスの表情はどことなく険しい顔だった。兵藤はソファに座ってそんなリアスに向き合っている。

 

「教会の関係者にも関わってはダメよ。特に『悪魔祓い』は我々の仇敵――」

 

どうやら兵藤はリアスに説教をされているようだ。言葉には教会、悪魔祓い、神の祝福といった気になるワードが飛び出す。

 

もしかして放課後の出来事に関してだろうか。アーシアと一緒に歩いた放課後の帰り道。

 

兵藤もアーシアもお互いのことは知らないわけだし、アーシアも悪魔であることは知らない。

 

悪魔祓いと悪魔は敵同士だ。どちらかがやるか、やられるかの生死をかけた、言わば死闘。

 

でもアーシアはそんな子には見えない。むしろ悪魔でも助けていそうな顔つきだ。

 

私は悪魔を滅ぼすことに興味はないが、楽しみを潰すようなヤツは殺す。それだけだ。

 

その後も無に帰すなど、色々と兵藤には理解し難い言葉が告げられた後、リアスはハッとしたように首を横に振った。

 

「ゴメンなさい。熱くなりすぎたわね。でも今後は気を付けてちょうだい」

 

「はい」

 

リアスが元の優しい顔に戻ったところで私と姫島は中に入る。

 

「あらあら、お説教は済みましたか?」

 

「おわっ、ってサクラもいたのかよ?」

 

背後に立った私と姫島を見るや兵藤は驚いたように声を上げた。

 

・・・失礼なヤツだ。変態のくせに。

 

「オレがいたら悪いのか?」

 

「だ、誰もそんなこと、言ってないだろ・・・」

 

私は不機嫌な顔で兵藤を見ると、彼は少々顔を強張らせて否定した。

 

「どうかしたの、朱乃?」

 

リアスの問いに姫島が顔を曇らせながら言った。

 

「大公から討伐の依頼が来ました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

時間は深夜。暗黒に満ちた世界。

 

私とグレモリー眷属たちは周囲を生い茂る草木の中、遠目に廃屋の見える建物の近くにいる。

 

不気味な雰囲気が漂うこの場所で、私たちはとある輩を殺すために来ている。

 

それは『はぐれ悪魔』だ。

 

はぐれ悪魔――。それは爵位の持つ悪魔に転生させてもらった悪魔が主を裏切り、または主を殺して主なしになる悪魔が現れるという事件が悪魔の間で発生している。

 

その悪魔は主の元を去って、自分の欲望のままに暴れ回る。それが『はぐれ悪魔』だ。

 

兵藤が堕天使に狙われたのも、そう勘違いされたのが原因だ。まあ、私が追い払ってやったが。

 

ともかくはぐれ悪魔は野良犬のような存在なのだ。野良犬は大抵が最終的に保健所へ連行されて、駆除されるのが運命。

 

同じようにはぐれ悪魔も最終的には消滅させられるという運命だ。はぐれ悪魔は見つけ次第、消滅させるのが各勢力のルールである。

 

「・・・血の臭い」

 

小猫がぼそりとつぶやいて、制服の裾で鼻を覆う。

 

・・・確かに。嫌な感じはするな・・・。

 

周囲が静けさに包まれている分、何かの予兆を漂わせる。

 

敵意と殺意が満ち溢れており、私は中から清々しい何かが湧き上がってくるのを感じる。

 

・・・この感情は・・・何だ・・・?

 

兵藤のほうを見てみると足が震えており、今にもここから逃げ出したい、っというような感じだ。

 

それに比べて腰に手を当てて立っているリアスのほうがどことなく頼もしげに見えた。

 

・・・まだ無能だな、兵藤は。

 

「イッセー、いい機会だから悪魔の戦いを経験しなさい。サクラ、あなたも、私たちの戦いを見せてあげる」

 

「マ、マジっスか!? お、俺、戦力にならないと思いますけど!」

 

「・・・・・・」

 

無茶ぶりをされた兵藤が、素っ頓狂な声を上げる。

 

いきなりこんな声を上げるようなヤツは戦闘者としては向いてないな。

 

「そうね。それは無理ね」

 

あっさりと言い渡すグレモリー家次期当主。

 

むしろコイツには一番弱い妖魔すら殺せるのかも微妙なところだな。

 

「でも、悪魔の戦闘を見ることはできるわ。今日は私たちの戦闘をよく見ておきなさい。そうね、ついでに下僕の特性を説明してあげるわ」

 

リアスの言葉に兵藤が怪訝そうな表情を浮かべる。理解度の低いヤツめ。

 

「悪魔、堕天使、天使が三つ巴の大きな戦争を起こしたのは言ったわよね? 三大勢力は神を巡って大軍勢は永久とも思える瞬間を争った結果、どの勢力も酷く疲弊して勝利する者がいないまま、戦争は終結したの」

 

リアスの説明に木場が続く。

 

「悪魔も大きな打撃を受けて、爵位持ちの悪魔や大悪魔の方々も部下を大半も失ってしまったんだ。もはや軍勢を保てないほどにね」

 

更に姫島が続く。

 

「純血の悪魔はその際に多く亡くなったと聞いています。しかし、今でも堕天使や神との睨みあいは続いていて、隙を見せれば危うくなりますわ」

 

そしてリアスへと話が戻る。

 

「そこで悪魔は少数精鋭の制度を取ることにしたの。それが『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』――」

 

「イーヴィル・ピース?」

 

「爵位を持った悪魔は人間界のボードゲーム『チェス』の特性を下僕悪魔に取り入れることにしたの。下僕となる悪魔の多くが人間からの転生者だからって皮肉を込めてね。主となる悪魔が『王(キング)』、私のことね。そして『女王(クィーン)』『騎士(ナイト)』『僧侶(ビショップ)』『戦車(ルーク)』『兵士(ポーン)』と五つの特性を作り出したの。軍団を持てなくなった少数の下僕に強大な力を分け与えてあげることにしたのよ」

 

ちなみに言うが、私たちは話をしながら、はぐれ悪魔を探している。

 

「そしてこの制度が爵位持ちの悪魔の間で好評を博したの。そして自分の下僕を『私の方が強い!』『自分の方が使える』っていうように競うようになったのよ。そしてその結果、チェスのように上級悪魔たちが自分の下僕を使って戦わせるようになったの。それが『レーティング・ゲーム』というものよ。」

 

要するに自分たちが強いということを競い合うゲームのようなものというわけか。

 

悪魔の世界もいい趣味をしているな。ある意味、下手すると危ないと言ったところか。

 

更に言えば、ゲームで勝利を重ねれば、その分、自分は立派な悪魔であるということの証明にもなる。

 

「部長、俺の駒の役割と特性は何ですか?」

 

「そうね。イッセー、貴方の役割と特性は―――」

 

「現れたみたいだぞ」

 

私が言葉を遮って言うと、リアスが言葉を止めた。

 

「・・・そうみたいね」

 

リアスも警戒し始める。

 

私でもその意味がよく分かる。ここに来て敵意と殺意がとてつもなく大きくなったからだ。

 

更に私の中に大きな、笑いが込み上げてきそうな何かが湧き上がってくる。

 

何かがこちらに近づいてくる。さすがの兵藤にも分かるようだ。彼の体が震えている。

 

「不味そうな臭いがするぞ? でも美味そうな臭いもするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」

 

地の底から聞こえるような不気味な声。聞いているだけで、私の中の何かが掻き乱されていく。

 

・・・ああ、ああ、ああぁ・・・何だ、この感情は!!

 

「はぐれ悪魔バイザー。あなたを消滅しにきたわ」

 

リアスが一切、臆さずに言い放つ。

 

ケタケタケタケタケタケタケタ・・・・

 

人間は発することのできないであろう不気味な笑い声が響く。

 

「ククク・・・・」

 

私は思わず笑い声をこぼしてしまった。これは戦闘前の喜びというのか。

 

「・・・風花先輩?」

 

「いや、何でもないよ」

 

小猫が怪訝そうに私に話しかけてきた。

 

普通の人なら恐怖で頭がおかしくなってしまったのかと感じるかもしれないが、私にはそのようなものは感じなかった。

 

私にもいまいちよく分からない。分かることといえば、私の感情が何かを欲しているとしか言いようがない。

 

視線を暗がりのほうに移すとゆっくりと何かが現れてきた。それは上半身が裸の女性。

 

いや違うな。重い足音が響いたかと思えば、次に現したのは巨大な獣の体。

 

要は女性の上半身と獣の下半身を持つ異形の姿をしたはぐれ悪魔である。両手に槍のような得物を二つ持っている。

 

下半身の太い足が四足あり、爪は鋭く、尾は蛇のように見える。しかも尾は勝手に動いているかのよう。

 

どう考えても人間ではない。何とも形容しがたい怪物だ。

 

それはどうでもいいとして、それにしても・・・。

 

「・・・丸裸でうろつくなんて変態だな。露出魔め」

 

「いや、ツッコむところそこじゃねえだろ!」

 

私の些細なつぶやきに兵藤が突っ込む。肌を晒すヤツは変態じゃないのか?

 

それにしても、はぐれ悪魔は変なヤツばっかりなんだな。ようやく実感した。

 

「主の元を逃げ、己の欲求を満たすためだけに暴れ回るのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを消し飛ばしてあげる!」

 

「こざかしいぃぃぃぃ! 小娘ごときがぁぁぁ! その紅の髪のように、お前の身を鮮血で染め上げてやるわぁぁぁぁ!」

 

吠える化け物。・・・五月蠅い、雑音だな。

 

やっぱりケダモノは嫌いだ。五月蠅いし、すぐに喚くし・・・・・・それに。

 

「洒落たような死に言葉を吐くなんて、自分が雑魚だって言ってるようなものだな」

 

「あら、気の合うこと言ってくれるわね。祐斗!」

 

「はい!」

 

近くにいた木場がリアスに命令され、普通の人間では目に写らないスピードで駆け出す。

 

「ほう、中々のスピードじゃないか。いつか手合せしたいな」

 

「えっ、サクラ、見えてんのかよ!?」

 

「お前のようなエロいだけの無能と一緒にするな」

 

・・・アイツの速さが見えていないとは。コイツ、ホントに悪魔か?

 

ここでリアスが駒の特性についてのレクチャーをし始める。

 

「祐斗の役割は『騎士』、特性はスピード。『騎士』になったものは速度が増すの。そして彼の最大の武器は剣。目では捉えきれない速力と達人級の剣さばきが合わさることによって、あの子は最速のナイトになれるの」

 

目に留まらぬ速さでバイザーに接近し、一度足を止める。手には西洋剣らしきものを握っており、それを鞘から抜き放つとその場から木場の姿が消える。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

その瞬間バイザーの悲鳴が木霊し、よく見れば得物の付いた両腕が斬り飛ばされており、傷口から鮮血が噴き始める。

 

・・・あの速さはさすがだな。私のスピードとどちらが上か、手合せしたくなる。

 

そのバイザーの足元には小柄な人影、小猫が立っていた。

 

「次は小猫ね。あの子は『戦車』。駒の特性は――」

 

「小虫めぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

小猫に気付いたバイザーが叫び声と共に、巨大な足を彼女に振り下ろす。ズシンと音を立てて土埃が舞う。

 

踏みつぶしたと確信しているらしいが、埃が晴れるとバイザーの足は少し離れており、その下には小猫が足を持ち上げていた。

 

「『戦車』の特性は至ってシンプル。バカげた力と屈強な防御力。あの程度の力じゃ小猫は潰れないわ」

 

・・・なるほど、あれは大した力だな。戦力としては申し分ない。

 

小猫は持ち上げていた足を押し返すと空高くジャンプをする。

 

「・・・吹っ飛べ」

 

そしてバイザーの腹に拳を打ち込む。化け物は後ろに大きく吹き飛んだ。

 

さすがは怪力少女。化け物をパンチ一発でぶっ飛ばすとは。

 

でも、ウィルも主に腕力だったな。どちらが強いのだろうか。

 

「最後に朱乃ね」

 

「はい、部長。あらあら、どうしましょうか」

 

姫島がうふふと笑いながらバイザーの方へと歩み寄る。

 

「朱乃は『女王』。兵士、戦車、騎士、僧侶の全ての駒の特性を兼ね揃えた、私の次に強い最強の者よ」

 

「ぐうぅぅぅぅぅぅぅ」

 

姫島を睨みつける化け物。それを見て不敵な笑みを浮かべる黒髪ポニーテール。

 

「あらあら。まだ元気みたいですわね。では、これはどうでしょうか?」

 

姫島が手を天にかざすと天空が光り輝き、化け物に向けて雷が落ちる。

 

雷を受けて激しく感電する化け物。数秒もしないうちに化け物は黒焦げになった。

 

「あらあら、まだ元気そうね。もっともっといけそうですわね」

 

更に化け物に目掛けて雷を落とす朱乃。本当に容赦が無い。

 

三発目の雷がぶち当たるころには化け物の悲鳴も断末魔に近いものになっていた。

 

その朱乃さんの表情は嘲笑に満ち溢れた怖い顔だった。

 

ああいう顔、私は好きだ。私の戦闘意欲も搔き出してくれるからな。

 

「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なの。雷や氷、炎といった自然現象を起こす力ね。そして彼女は究極のSよ」

 

確かにあの顔は完全に相手を嬲り殺しかねないほどのサド顔だ。

 

エレンと同じかもしれないな。アイツも結構、他人をからかうのが好きだしな。

 

兵藤は姫島が雷、更に炎で攻撃する姿を見て顔を強張らせる。

 

「大丈夫だよ、イッセーくん。副部長は仲間には優しいから」

 

木場がそうは言うものの、兵藤の表情は晴れる気がしなかった。

 

姫島が一息ついたところで、リアスが確認して頷く。

 

そして倒れたまま戦意を失った化け物の近くに歩み寄る。

 

「最期に言い残すことはあるかしら?」

 

「・・・殺せ」

 

「そう、なら消し飛びなさい」

 

冷徹な一言と共にリアスは化け物に向かって手をかざすと、掌から黒い魔力の塊を打ち出す。

 

魔力の塊が化け物を包み込み、魔力が宙に消えると化け物の姿は消滅している。文字通り、化け物は消し飛んだのだ。

 

「終わりね。みんな、ご苦労様」

 

これにてはぐれ悪魔の討伐は終了。・・・意外と呆気ないものだな。

 

「部長、あの聞きそびれてしまったんですけど・・・」

 

「何かしら」

 

リアスが笑顔で兵藤に応じてくれる。

 

「俺の駒・・・っていうか、下僕としての役割ってなんですか?」

 

紅髪の美少女はニッコリと微笑みながらハッキリとこう答えた。

 

「『兵士』よ。イッセー、あなたは私の『兵士』なの」

 

それを聞かされた兵藤は一番下っ端だと思っているのか、ガックリと項垂れる。

 

チェスに下っ端も上司もない。言わばどの駒も動きは違うが、使えないヤツなんていないということ。

 

でも兵藤はな・・・。正直、呆れを通り越すかもしれない。

 

「さて、帰りましょ・・・ん?」

 

帰ろうとしたリアスが足を止めて、後ろを振り返る。何らかの気配を感じているようだ。

 

私はもうとっくに気付いていて、バイザーがいた暗闇のほうをずっと見つめている。

 

「部長、どうしたんですか?」

 

「まだ何か気配を感じるの・・・はぐれ悪魔は倒したはずだけど・・・」

 

すると暗闇のほうからぬうっと茶色い肌をした獣が複数現れた。それはウサギのようにも見えるが、それとは全然違う。

 

「・・・あれは、まさか!?」

 

「うわっ!? 何だよ、アイツら!?」

 

リアスと兵藤がそれぞれ驚きの反応を見せる。

 

「・・・血の臭いがさらに強くなりました」

 

よく見ると小猫が先程よりも顔を顰め、むしろ不機嫌そうな表情になっていた。

 

「妖魔だな。化け物の食い散らかした死体に集まってきたんだろう」

 

「妖魔が、何故こんなところに・・・!」

 

妖魔たちは死体へと集まって、肉を食いちぎり貪っていく。

 

もはや笑みが止まらない。胸の中の湧き上がりが頂点を達した。

 

・・・もう限界だ。衝動を抑えきれない・・・。アイツら・・・殺す・・・。

 

それにコイツらにもそろそろ私の実力を見せてやらないとな。ククク・・・。

 

「お前らも妖魔の話ぐらいは聞いたことはあるだろう?」

 

「ええ、知ってるわ。どんな種族にも無差別に襲い掛かって、血肉を食らう大昔から生きている種族。私たちの間では、というよりも各勢力の間でもはぐれ悪魔と同じくらい、いやそれよりも危険な存在で見つけたらすぐに討伐するように進言されているわ。でも、おかしいわね・・・妖魔がこんな町に存在すること自体、考えられないのだけれど・・・」

 

リアスの言葉に更に木場が続ける。

 

「それに僕と小猫ちゃんも前に見たけど、妖魔には擬態する能力があるみたいなんだ。シキさんが躊躇なく剣を振るったのを見て、僕も戸惑ったけど、まさか妖魔が人間に化けているとは思わなかったよ」

 

「そ、そんなとんでもない奴らがこの世界にいるってのかよ!?」

 

「この世界に存在しないってことは、魔界の住人の誰かが解き放ったか、空間の捻れが原因でこちらに現れてしまった、ということが考えられるな」

 

そこまで話すとリアスたちは再び身構えるが、私が制する。

 

「ここはオレに任せてくれないか?」

 

「大丈夫なの? かなりの数みたいだけど・・・」

 

「あのぐらいは大したことは無い。それに今度はオレがお前たちに戦いを見せる番だしな」

 

それにせっかくの獲物をコイツらに横取りされてたまるものか。

 

私は右手を天にかざす。するとどこからともなく魔剣リべリオンが飛んできてそれを手に取る。

 

妖魔にリべリオンを剣先を向けて、歩み寄りながら口を開く。

 

「相変わらず食事のマナーがなってない連中だな。そういう風に食っているところを見るとお前らは野犬か何かか? まあどっちでもいいけどな」

 

私が挑発めいた台詞を言い放つと、妖魔たちが一斉にこちらを見つめた。

 

・・・いい殺気だ。胸がうずくぜ。

 

「ククク・・・」

 

私は妖魔たちの中に瞬間移動して、リべリオンを構える。要するに妖魔たちに囲まれるような状態になったわけだ。

 

さあ、華麗なる血祭(ダンス)の始まりだ。

 

せいぜい死の舞踏を踊って、私を楽しませろ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

私はまるで、本物の戦場でも見せられているような感じだった。

 

目の前では1人の女の子が大量の妖魔に囲まれている。

 

「あそこまで強いなんて・・・」

 

「・・・凄い切れ味」

 

「拳でも戦えるんですわね・・・」

 

そして次々と奇声を上げながら襲い掛かってくる妖魔を、手にする魔剣で躊躇なく斬り捨てていく。

 

時には右手を熱するように赤く染め、アッパーをするかのように妖魔の頭に打ち当てる。重い一撃があの妖魔から響く。

 

その度に妖魔から鮮血が噴き出し、彼女の着物や体を返り血で濡らす。

 

妖魔の肉体は吹き飛んで叩きつけられる。血がドクドクと流れ地面を濡らす。

 

サクラの周囲で死体と返り血が宙を舞う。

 

私はその光景に思わず恐怖を覚えてしまった。手が震えている。

 

それは・・・そのときの・・・彼女の顔が・・・清々しく・・・笑っていたから・・・。

 

いつもは無表情の彼女なのに・・・まるでその戦いを待っていたかのように、あるいは血を求めているかのように、楽しそうに笑っていたから・・・。

 

「アハハハハハハ! どうしたどうした!? 犬は群れても狼には慣れないってかぁ!?」

 

どう見ても、彼女は戦いを求めているような人だ。いや、もはや人と呼ぶにも困惑するかもしれない。

 

みんなはその光景にただ唖然として見ていた。イッセーは膝をついて吐きそうになっていた。

 

怖い・・・。心が折れそう・・・。

 

心の中で私はそう感じていた・・・。

 

・・・ダメよ、リアス・グレモリー! 気をしっかり持たないと!

 

あの子はあれでも、私の後輩でオカルト研究部の一員なの! しっかり向き合わないといけないわ!

 

一度奇声が上がり、ガーゴイルのような羽を生やした妖魔が現れ、サクラを威嚇するかのように飛び回る。

 

「あらあら、飛び回る妖魔さんもいるんですわね」

 

サクラは口元に笑みを浮かべたまま微動だにしない。

 

そして飛び回っているうちの一体がサクラに襲い掛かる。

 

それと同時にサクラが魔剣を左手に持ち替え、右手に赤い炎を灯す。

 

そして接近する妖魔の顔を掴み、炎を引火させる。

 

炎は瞬く間に全身にまで回り、断末魔の奇声を上げて、妖魔は灰と化した。

 

あの子、魔力も使えるのね。朱乃と同じ魔力を。

 

それを見て怒ったのか、妖魔たちが一斉にサクラのほうへと襲い掛かる。

 

するとサクラは炎を発している右手を閉じる。そして襲い掛かる妖魔に目掛けて、掌を突き出す。

 

鬼火のような炎が掌から放たれ、妖魔たちは次々と炎に包まれて消滅していく。

 

「・・・す、すげぇ」

 

イッセーが感嘆する。確かに凄いわね。一人であれだけの数の妖魔を片付けちゃうなんて。

 

ドオォォォンッ!!

 

「な、何!?」

 

突如、デカい轟音が響き渡る。思わず私たちもよろけそうになる。

 

そして暗がりから私たちも驚くほどの、不気味な姿の妖魔が現れる。先程の妖魔よりは比べ物にならないくらいの大きさだ。

 

「こ、こんなデカい化け物までいたのかよ!?」

 

イッセーの顔が驚きに染まる。妖魔はを知らない彼なら当然だろう。

 

でも私だって驚いている。もはや単なる化け物だ。私たちとは次元が違う。

 

ムカデのように長い胴体だが全ての足は鋭い刃になっており、頭の部分はムカデだが縦に開く口があり、中は緑色に怪しく光っている。

 

更に腹の部分、要するに尻の部分にはドラゴンのような尻尾が生えており、その当突出している鱗も刃になっている。

 

妖魔はサクラを見つけると威嚇するように睨む。

 

「オレと遊びたいのか? 何なら弄(あそ)んでやるよ!」

 

無茶にもほどがあるわ・・・。あんなにデカい化け物を一人で相手をする気なの!?

 

サクラはニヤリと笑うと魔剣を右手に持ち替え、妖魔へと向かっていく。

 

妖魔は前足の右側の三本の足をサクラに向かって振り下ろす。突き刺した瞬間、サクラの姿が消える。

 

その瞬間、前足の左側の三本の足が胴体から斬り飛ばされる。傷口から血が噴き出す。

 

鳥のような奇声を上げ、妖魔が尻尾をサクラに目掛けて振る。

 

「ぐっ!!」

 

サクラは魔剣で防ぐも尻尾攻撃により、廃屋の中へと吹き飛ばされ土煙が舞う。

 

「サクラッ!!」

 

叫び声を上げるイッセー。

 

しかし土煙からすぐさまサクラが飛び出し、妖魔へ目掛けて魔剣を振り下ろす。

 

妖魔は右足の刃で魔剣を防ぎ、互いに押し返す。

 

サクラは地面に着地するも、そこに妖魔が食らおうと襲い掛かる。

 

サクラはすぐさま、後方に飛び上がって退避。土煙が上がる。

 

しかし地中へと尻尾まで潜り込ませて、妖魔がサクラの背後の地面から顔を出し噛みつこうとする。

 

「ちっ!!」

 

サクラが舌打ちをしてから飛び上がって回避。妖魔に背を向けて走り、妖魔は地中と地上を行き交いしながらサクラの後ろを追いかける。

 

ドォンドォンと大きな音を立てながら、サクラと妖魔が鬼ごっこ。

 

するとサクラが廃屋のほうへと走り、小屋の中へと入っていく。

 

もはや廃屋の扉に突っ込んで中へとサクラを追う妖魔。

 

ドゴォンッ ドゴォンッ!!

 

廃屋の中の轟音が響いた後、恐らく小屋の窓から顔を出したであろう妖魔がサクラを見失い、きょろきょろしている。

 

サクラは、一体どこに・・・?

 

「おい」

 

声が聞こえたと思うと空から影が落ちてくる。妖魔もその方向に視線を向けるも対応しきれていない。

 

妖魔の顔に魔剣が突き刺さる。脳天にしっかりと突き刺さったのだ。

 

頭から血が吹いたかと思えば、妖魔の頭から尻尾にかけてひびが入り、そこから鮮血を噴き出しながら完全にバラバラになった。

 

サクラは廃屋の屋根へとトントンと飛び、地面へと着地した。

 

「た、倒した・・・」

 

サクラの顔は血の雨で濡れていたが、顔は元の無表情に戻っていた。着物も血で濡れている。

 

「あ~あ、汚れちゃったな。後で洗濯をしないとな」

 

そうつぶやくとサクラは視線を私たちのほうへと向ける。

 

「どうしたんだ? もう、終わったぞ」

 

「え、ええ・・・あまりにもあなたが強すぎてこちらも引いちゃったわ」

 

首を傾げながら言うサクラに私は声を詰まらせたように言う。

 

「す、す・・・」

 

イッセーが体を震わせている。それもそうね。あんな凄惨な光景を見せられれば、誰だって恐怖するわ。

 

しかし、私の思っていたものとは別の反応だった。

 

「すげえじゃねえか、サクラ!! あんな数の化け物を一人で倒しちまうなんて!! 俺にもどうしてあんなに戦えるのか教えてくれよ、なあ!!」

 

サクラの両手を握って上下に振らせながら言うイッセー。

 

「君の強さには本当に感心するよ。僕も羨ましい」

 

「すごいですわ、サクラさん。私も思わず見とれてしまいましたわ」

 

「・・・最強です」

 

見ると他の眷属も感嘆してサクラのほうに詰め寄っていた。サクラはどこか困惑しているような様子。

 

私もどちらかというと恐怖と深い興味を覚えた。額に汗を浮かばせながら、それでも顔を不敵にしながらこう思った。

 

・・・あの子、ますます面白いわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、戦いの後のお片付けをしないとな」

 

私は妖魔の残骸が彩る惨劇の光景を見て言った。誰も寄りつかないとはいえ、片付けないと汚らしいもんな。

 

それを聞いていたのかリアスが口を開いた。

 

「片付けなら私の魔力で消してあげるけど?」

 

「いや、さすがに先輩に頼むのはどうかと思うし、ちまちまやるよりはこっちのほうが手っ取り早い」

 

私は額に着いていた返り血を拭うと信頼なる相棒の名前を呼ぶ。

 

「モココ!!」

 

「モココを呼んだ? サクラ」

 

天を仰ぐ声に私の肩の上から返答が返ってきた。よく見ると白い獣のような珍獣・モココがいつのまにか私の肩にいた。

 

「モココ、いつのまにそこにいたのか?」

 

「だってサクラの呼ぶ声が聞こえたんだもん。待ちきれなくて出てきちゃった♪」

 

「ククク・・・お前には適わないな」

 

私は肩にいるモココの頭をわしわしと撫でてやる。・・・可愛いやつめ。

 

「なあ、サクラ。そのウサギみたいなヤツは何なんだ?」

 

兵藤が質問すると私の肩の上のモココが飛んで・・・。

 

「ブッ!?」

 

兵藤の顔に目掛けてボールのように体当たりをした。クルクルと回り、私の肩の上に着地した。

 

「ウサギ言うなぁー!! モココはモココだよ!!」

 

モココが兵藤に向かって怒る。とはいっても怒っているようには見えない。

 

「あらあら、可愛い生き物ですね」

 

「抱いてみるか? 別に害は無いぞ」

 

「モココはペットじゃないんだけどな~」

 

目を輝かせる姫島に私は肩の上のモココを抱いて渡す。

 

すると姫島はプニプニと触った後、顔をすりすりとし始める。

 

「ふかふかしてますわね」

 

どうやらご満悦の様子だ。あの快感はリリーも感じていたかな?

 

「・・・私にも」

 

「どうぞ♪」

 

姫島は小猫にモココを渡す。するとプニプニと肌を触りはじめた。

 

「・・・モチモチ」

 

「いや~ん、そんなに触られるとモココ、照れちゃう~」

 

表情では分からないが、どうやら気に入った様子。

 

この可愛さが分かるヤツがいるんだな。よく分かるよ・・・。

 

「変わった生物ね。見たこともないわ・・・」

 

「サクラさん、その生き物は何て言うんだい?」

 

リアスがマジマジと興味深そうにモココを見つめ、木場が問いかけてくる。

 

「モココはモココさ。数え方は1玉、2玉って数えるらしい」

 

「いや、答えになってねえだろ・・・」

 

「失礼しちゃうよね~。モココをそんなふうに数えるなんて」

 

兵藤が鼻を摩りながらツッコむ。いちいちうるさいヤツだな・・・。

 

「それにしても、ソイツがどうやってあの残骸を片付けるんだ?」

 

「おお、そうだったな。モココ、頼むぜ」

 

「りょ~か~い!」

 

モココが小猫の手から離れ、ピョコピョコと地面を歩く。

 

「何する気なの?」

 

「まあ、見てなって」

 

リアスが疑問を抱く中、モココは凄惨な光景の前へと立つ。

 

そして閉じていた目をカッと見開き、口を大きく開けて吸い込みを始めた。

 

「ヒュォワァァァァァァー!」

 

廃屋がガタガタと揺れるほどの吸引力を見せ、妖魔の残骸がモココの口の中へと引き込まれていく。

 

そして次に地面を濡らしていた血も螺旋状に回りながら吸収されていく。

 

数分後には残骸も血も一つ残らず、綺麗さっぱりとした光景になった。

 

「ギプッ。ごちそうさまでした♪」

 

「・・・お粗末様」

 

「ええぇ!? 一体、何が起こったんだよ!?」

 

私はモココの元に歩み寄って持ち上げ、肩の上へと乗せる。イッセーのツッコミは置いておくとして。

 

「すごいわね・・・」

 

「無茶苦茶だね・・・」

 

「あんな大きな残骸まで吸い込むなんて、モココちゃんの口の中は一体どうなっているのでしょうか?」

 

「それは~モココだけの~ヒ・ミ・ツ❤」

 

感嘆と疑問を抱くリアスと木場と朱乃に、モコナは可愛らしくウィンクしたのだった。

 

どうウィンクしたのかは知らないが・・・。

 

こうして本日の悪魔家業はこれにて終了したのであった。

 

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