武器より工具の方が強い。きっとそうだ。
窓から差し込む眩しい光が顔を差し、
だんだんはっきりしてきた視界に入ったものは寝袋に入った自分の体。そして、学校の教材準備室の風景。そして、立てかけてある散弾銃と机に置かれた
「起きろタカ。朝だ。」
悠人は隣で爆睡していた友人、
「んがー……おはー、ユート。カズとロクは?」
「ここにいる。」
そう答えたのは
「起きるのはえーな……」
孝弘は伸びをしてから寝袋を出る。その間に悠人は着替えを済ませていた。服装は巡ヶ丘北工業高校のツナギだ。
彼らは巡ヶ丘北工業高校の生徒だったが、今はここ、巡ヶ丘学院高等学校に身を寄せている。
「あー、朝飯何かな……」
孝弘は寝間着に使っていたジャージや汗に濡れたシャツを脱ぎ、パンツ一枚になる。そんな時、ドアの磨りガラスに人影が映った。そして次の瞬間、ノックもなくドアが勢いよく開いた。
「皆さーん! 朝ごはんで……」
野郎4人といきなりドアを開けた女子、
「きゃあああああ!」
4人を叩き起こすために持っていたであろうフライパンとお玉は、音を出すための道具から打撃武器に変わった。その2つの武器が孝弘の頭を直撃し、小気味のいい音を響かせるのにそう時間はかからなかった。
ーーーーー
「あーりゃ爆笑ものだったぞ! 何たって、カーンって音がしたんだからな!」
生徒会室での朝食中、六郎は笑いながら今朝の出来事を話す。男子4人組と美紀の他に、女子が3人。丈槍由紀、恵飛須沢胡桃、
「あ、あんな格好でいるほうが悪いんですよ!」
「おめ、ノックせずに入ってこれかよ!?」
「あらあら……」
悠里は少し困ったような表情を見せる。
「おいタカ、お前が起きるの遅かったのも悪いと思うぞ?」
和良は美紀に味方するようだ。
「なっ、オメー! 裏切り者め!」
「仲良いねー!」
その様子を見ていたゆきは笑いながら言う。確かに、仲は悪くない。
「あら? ゆきちゃんそろそろ遅刻するんじゃないかしら?」
「あ、いっけない!」
ゆきはカバンを手に取ると生徒会室を飛び出して行った。
「学園生活部、か……」
悠人は天井を眺めて呟いた。学校にあるものを使い、学校で生活する。そんな部活だ。転校生4人組はこの部活に入り、生活するうちに"そういうものなのだ"と思い、慣れ始めていた。
「ええ。」
悠里は一言だけ言う。悠人は視線を天井からホワイトボードへ移した。学園生活部とでっかく書かれ、端っこにはイラストも添えられている。
「ま、これもこれでアリだろう?」
くるみはニヤニヤしながら言う。
「まーな。ところで胡桃、お前のシャベル、出来たぞ。」
孝弘はその辺に立てかけていたシャベルをくるみに渡した。
「おお! どこをどうしたんだ?」
「金属用ベルトサンダー(ヤスリのついたベルトを高速回転させて物を削る工作機械)で研いだ。切れ味抜群。」
「サンキュー!」
くるみはシャベルを持ってニヤニヤしている。くるみにとってシャベルは土を掘る道具ではない。武器だ。
「アレにだけは殴られたくない……ところでりーさん。足りないものとかある?」
その様子が恐ろしくなった悠人は無理やり話題を変えた。
「そうね……パックご飯と缶詰の在庫が減ってきてるわ……」
「了解。俺らで調達してくる。くるみ、俺たちのいない間は頼むぞ。」
「任せろって。頼むぞ、学園生活部校外遠征班♪」
くるみは孝弘の背中をバシバシ叩く。
「なんで俺をしばくんだよ!?」
「そこにいたから♪」
「解せねえ!」
そんな様子を見て、生徒会室にいた面々は笑っていた。
校外遠征班、学校で生活する上で、購買部で買えない物品を非力な女子に代わって校外で調達、運搬してくる要員である。それが、転校生4人組である。
ーーーーー
4人が眠っていた教材準備室。今は寝袋はきちんと折りたたまれて端っこに置かれている。そして、4人はツナギから趣味で購入した灰色の戦闘服に着替えていた。その上から孝弘が加工したアルミ板を入れたレプリカの防弾チョッキを着込む。
悠人はふと窓の外を見た。なんて事のないグラウンド。そこには人……いや、もう既に人で無くなってしまった化け物がたむろしていた。
人を襲い、喰らう化け物の群れを突破し、ゴーストタウンと化した市街地から食料や水を調達して生還してくる……それが、校外遠征班の本当の役目だ。
主に学校内を巡回し、化け物がバリケード付近にいたら始末する役目のくるみより、遥かに危険な役目であった。その役目を押し付けられたのではなく自分から買って出たのだ。4人は不満には思っていなかった。
「武器は持ったか?」
悠人が言うと、3人は縦に頷いた。銃砲店で食料と水をチラつかせて譲ってもらった散弾銃と狙撃銃、ハンティングナイフ、そして、彼らのいた巡ヶ丘北工業高校にあったネイルガンや片刃のノコギリを武器として所持していた。
そして、出発前に一つやると決めていることがあった。それをやるため、4人はコーラのボトルと紙コップを持って屋上に向かった。
ーーーーー
屋上では悠里が菜園の手入れをしていた。悠人がドアを開けると、それに気づいたようで立ち上がって4人の方を向いた。
「やっほー、りーさん。」
「行くの?」
「だから来たんだよ。」
悠人は軽いノリで答える。すると、悠里は悠人の頬を引っ張った。
「私は一応先輩よ?」
「いひぇひぇ……分かりました……」
「やっぱり変ね。いつも通りに話していいわ。」
「つねられ損だよ……」
悠人は苦笑いを浮かべつつ、3人の元へ向かった。
屋上菜園には一箇所だけ十字架が立てられている。その十字架にはリボンが結びつけられており、誰かの墓ということは一目でわかる。
校外遠征班の4人はその十字架の前で紙コップを持ち、悠人がそのコップにコーラを注いでいく。今日は悠人の番なのだ。
そして、注ぎ終わると十字架に向けて一言挨拶をする。
「行ってきます。」
そして、一気にコーラを飲み干すと、コップを思い切り地面に叩きつける。生きて帰れないかもしれない役目だから、別れの杯のつもりなのだ。
「行くぞ野郎ども!」
悠人が叫ぶと、3人もおうと返した。
「りーさん、行ってきます。」
「気をつけてね。」
4人は悠人を先頭にして、1階へ向かう。
悠里は4人が地面に叩きつけたコップを回収する。そのコップにはそれぞれ『生きて帰る』『全員生還』『学園生活部の為に』『生き残るために』と、それぞれのメッセージが書き込まれていた。
「また、行っちゃったわね……」
ーーーーー
校内の廊下には机や椅子を組み合わせ、さらに鉄条網で補強されたバリケードが点在している。建築科の悠人が組み上げたバリケードだ。
そのバリケードを鉄条網に触らないよう注意しながら乗り越えていく。バリケードを越えたのなら、その先は死と隣り合わせの外だ。このバリケードの内側にまで感染を広めないため、奴らに噛まれたものはこのバリケードの内側に戻ることは許されない。チームの誰かが責任を持ってトドメを刺さないとならないのだ。
「よし。銃は最後の手段に取っておけよ。コンビニとホームセンターに行って食料と弾薬を調達する。」
悠人が指示をする。そして、何も言わずに縦一列に並び、進みだした。
校門を出ると、そこは地獄が広がっていた。辺り一帯に立ち込める腐敗臭すら、もう鼻が麻痺して感じない。
最前列を悠人が、六郎が左を、和良が右を警戒。後ろは孝弘が守る。その状態で進み、それぞれが近い敵に向けてネイルガンで頭に釘を打ち込む。
ネイルガンはガスで釘を打ち出すため、音が小さく、奴らに気付かれにくいという利点がある。
奴らを倒しながら進む悠人の顔は笑っていた。死と隣り合わせになって、生きていると実感できる。それが面白い。
六郎が近寄ってきた奴の胸ぐらをつかんで押し倒し、孝弘お手製のナイフで鳩尾と喉を突き刺した。
孝弘はあらゆる工作機械を駆使してあらゆるものを改造、制作してしまうため、『魔改造の貴公子』というあだ名を持っている。4人の防弾チョッキに入っている装甲も、持っているナイフも、照準器や銃床を付けたネイルガンも、孝弘が改造したものなのだ。
工具を手に、道を作って突き進む。生き残るために。学園生活部のひとときの平穏を守るため。
「行くぞお前ら!」
悠人が3人に喝を入れる。そんな姿を、悠里、くるみ、美紀は不安そうに眺めていた。
アニメ版準拠時々コミックといった感じに進めていこうと思います。キャラ名の表記はコミックを参考にしています。
さあ、これからどうなることやら……