なんだかんだ、おふざけしてるところとシリアスとでAパートBパートに分かれてるような感じだなぁ……
3日ほどかけてポスター作りや会場設営を行い、いよいよ体育祭を決行することとなった。ボールも用意したし、床にテープを貼ってラインも作った。なんの競技でもできる。
最初の競技はゆきの提案でリレーになった。尚、チーム分けとしては悠里チームに悠人、六郎、くるみが入り、ゆきチームに美紀、孝弘、和良が入った。
第一走者は六郎と和良だ。スタートラインで2人は手首足首を回して準備している。
「ロク!負けるなよ!」
「タカくん! 頑張ってー!」
くるみとゆきの声援に2人は手を振って応える。そして、スタートの合図はジャンケンでゆきと決まり、ゆきがスタートラインの脇に立って横に手を伸ばした。
「よーい……どん!」
ゆきが手を振り上げると同時に六郎と和良が全力疾走する。いつも重い装甲引っさげて走っている2人は、今日に限っては身軽なため、足が速い。そして、ガタイのいい2人が全力疾走する姿は猪のようにも見えた。それか、坂道を猛スピードで転がり落ちる肉団子だろうか。ここまでは互角である。
第2走者はくるみと美紀だ。陸上部のくるみはバトンを受け取るなり素早いスタートダッシュを決め、美紀と差をつける。シャベルを背負っていても引けは取らない。だが、美紀も粘る。遅れを3m以内に抑えようと必死に走っている。
「おらーくるみ!早く!」
「負けんなみーくん!」
第3走者の悠人と孝弘は既にリレーゾーンでスタートダッシュの構えを取っている。お互い、負ける気はない。
先に悠人がくるみからバトンを受け取って走り出す。遅れて孝弘がスタートすると、ぐんぐん間が縮んでいく。ピッチャーをやっていた悠人より、ショートをやっていた孝弘の方が足が速い。ポジションの問題かはさておき、走力であれば孝弘が悠人を大きく上回っているのだ。
くるみのつけた差がこの区間で逆転してしまう。悠人がぐんぐん引き離されたところでアンカーへバトンタッチとなった。
前を走るゆきを悠里が追いかける。2人ともそんなに運動が得意な方ではないが、出せる力を全力で出しているのが見て取れた。
最終コーナーを回る頃には間がかなり縮んでいた。逆転の可能性に、倒れて呼吸を整えていた悠人が飛び起きる。
そして、ゴールに2人がほぼ同時に滑り込み、リレーは引き分けとなった。止まりきれなかった悠里が座っていた悠人に飛びついてしまうというハプニングも発生したが。
第2種目はフリースローだ。それぞれのチームが交互に投げてシュートの多い方が勝ち、という単純なルールだ。
最初にゆきが気合を入れてボールを投げるが、ボールはリングに激突し、ゆきに跳ね返ってきた。あわやゆきに直撃かと思われたが、咄嗟に飛び出した和良がヘディングでボールを吹き飛ばし、和良の脳細胞という尊い犠牲のおかげでゆきは怪我せずに済んだ。
「危なかった……」
「カズくん大丈夫? 7×5わかる?」
「36だろ?」
思い切り間違った答えを聞いた悠人は担架を用意すべきか本気で迷った。間違って覚えたのだろうか? 否、化学工業科なら化学式とかで掛け算じみたものは使うはずである。こいつが間違うわけはない。間違いなく頭がイカれたのだろう。
「りーさん、カズがイカれた。担架どこ?」
すると、悠里は真剣に悩む悠人に対し、苦笑いを浮かべながら答えた。
「カズくんがイカれているのは前からじゃないかしら?」
「それもそうか。この擲弾兵は元からイカれてたな。」
「即答すんな馬鹿野郎!」
自作爆弾をポンポン投げる和良がイカれているなんて、周知の事実だったと悠人は認識を改め直した。
その後、悠里は力不足でゴールまでボールが届かず、美紀とくるみが双方シュートに成功、六郎と和良は力を入れすぎたのか、ボードに当たったボールはリングを超えて外に落ちてしまった。
そして最後、まずは孝弘の番である。
「タカくーん!頑張れー!」
ゆきは飛び跳ねながら孝弘を応援する。孝弘はボールの弾道を思い浮かべながら慎重にシュートを打つ。ボードに当たったボールは勢いを失って落下し、リングにすっぽり収まった。
「このくらい余裕だっ!」
「ナイスシュートです。」
「どーも。」
孝弘は美紀とハイタッチするとコートから下がる。次は悠人の番だ。
「おらーユート! ピッチャーがミスったら恥ずかしいぞ!」
「やっちまえユート!」
「ユートくん、頑張って!」
六郎、くるみ、悠里の応援すらも耳に入らないくらい悠人は集中していた。落ち着け、冷静に弾道を見りゃいい、悠人は自分に言い聞かせてシュートを打つ。
だが、少し上すぎた。ボードに当たったボールはリングにかすることなく落下してしまった。体育くらいでしかやった事がない上に、野球とは投げ方が違うため、悠人はバスケのシュートを苦手としていたのだ。もちろん、決戦で外した悠人はその場にへたり込んでしまった。
「お疲れ様、ユートくん。」
悠里は項垂れるユートの頭にタオルをかける。緊張からか滝のように汗を吹き出していたのだ。シャツも一部が汗を吸って変色していた。
「悪い……」
「いいわよ。次で巻き返すわよ?」
その後、バレーやらバトミントン、さらには校外遠征班がボウリング場で入手したピンとボールでボウリングまでやった。
そして、楽しいひと時も終わってしまい、悠人は和良、くるみ、悠里、美紀と片付けをしていた。残りのメンバーは先にシャワーを浴びに行っている。
「あー、楽しかったー!」
「うるせえぞタカ。少し静かに片付けらんねーのかよ?」
「でも、楽しかったわよ?」
悠里は楽しそうに笑っている。運動はストレス解消に効果的である。
「ああ、またやろうぜ!」
「フリースローは勘弁な。」
くるみに対して悠人は苦笑いを浮かべつつ答える。そのついでに、近くにあったテニスボールを手にとって太郎丸に見せると、遠くへ投げた。太郎丸は吠えながらボールを追いかけて体育館の端から端へと走っていく。
「少しは慣れた?」
太郎丸と遊んでいる悠人の横で、悠里が美紀に声をかける。
「そうですね……慣れたかもしれません。」
「な、面白いやつだろ?」
くるみはそう言うと美紀へテニスボールを下手投げする。
「何がですか?」
美紀はそれをキャッチしつつ、くるみに問い返す。悠人と孝弘は片付けを終えて散弾銃のメンテナンスを始めていた。
「いや、ゆき。変なことばっか言うけど、こういうのも楽しいっていうかさ……」
「そうですね……」
「まあ、あいつにゃ俺らも散々助けられてる。小動物的可愛さってやつか?」
孝弘がそう茶々を入れ、悠人と共にケラケラと笑う。時々、アホな男子4人とゆきで何かをやっている事があり(いきなりダンスパーティ始めたりチャンバラ始めたり)なんだかんだ楽しんでいるのだ。
「……ゆきちゃん、これからどうするんですか?」
「ん? あいつのことだから風呂の後にサイダーでも一杯引っ掛けるんじゃねえか?」
背を向けていた悠人がその場に寝転がって言う。その手には組み立て終わった散弾銃が握られていた。もちろん、弾は入っていない。
「そうじゃなくて……このままじゃダメですよね。」
「何が?」
悠人はキョトンとした表情で言う。何がダメなのか悠人には理解できていないのだ。
「ゆきちゃんは学園生活部に欠かせない子よ。楽しいこといっぱい思いついてくれるから、みんな助かってる。それじゃダメ?」
悠里がいつも通りの笑顔で答える。この時、やっとゆきの幼児退行及び現実逃避の事を言っているのだと理解した。ゆきが楽しそうに紹介していた音楽室も教室も、あの日の爪痕が生々しく残っているのに、ゆきにはそれがまるで見えていないようだったのだ……普通ならそう言う反応をして当然だろう。
「そうやって甘やかしてるから、治るものも治らないんじょないですか?」
「甘やかすとか治るとか、そう言うものじゃないのよ。」
「どう違うんですか? そんなの、ただの共依存じゃないですか。」
悠人と孝弘はヤバイぞと少し焦り始めた。このままでは自分たちの時以上に険悪になってしまう。悠里にとって学園生活部の仲間(校外遠征班は恐らくノーカンだろうと悠人たちは思っている)は心の拠り所である。それをあんな風に言って仕舞えば、ケンカどころでは済まなくなるとおバカな男子でも見て取れた。
「まあまあ待て待て、その辺にしとけ。」
勢いよく飛び起きた悠人と孝弘は2人の間に入って遮る。こういう状況下での仲違いほど危険なものはない。みんな意識はしていないだろうが、閉鎖空間での生活とはストレスが溜まるものなのだ。悠里もどこかでストレスを溜め込んでいてもおかしくないし、ほぼ監禁に等しい状況にいた美紀は尚更だろう。それをこんなところで噴出されたら血を見る事態になりかねない。
「あなたに何がわかるんです? 北高なんかに……」
ああ、やっぱりか。悠人も孝弘も溜息をついた。なんであんなヤンキーどもとまとめて思われるのかと少しだけ悲しくなった。
「北高だからな。進学校の連中より時間に幅が持てる分、余計な知識はたっぷりつけられる。軍隊と心理学は切っても切れない関係だし、ついでで覚えてみたりな。あと、ヤンキーどもはみんな死んだから一緒にすんな。これでも北高ではまともな部類だ。」
「脅しですか?」
「そう思う?」
悠人は手に持っていた散弾銃を背中に吊り下げると、片付け忘れていたテニスボールを手にとって握りしめた。
「シュレディンガーの猫って知ってるか? 半々の確率で毒ガスの出る箱に猫を入れといて、生きてるのかそれとも死んでるか……箱を開けなきゃわからないってやつ。」
「それがどうかしたんですか?」
「ゆきの心と同じだ。現実突きつけてマトモになるかどうかはやってみなけりゃわからない。んでもって、成功したらいいけど失敗したら……どうなるか予想つくか?」
美紀は言葉に詰まった。現実を見せつけてハイおしまいではないという事実を突きつけられ、反論出来なくなってしまった。
「心はガラスと同じだよ。脆そうに見えて案外硬いけど……」
悠人はテニスボールを握ると、投球の構えをとる。練習試合でマウントに立った時のように、その辺の窓ガラスへ向けてテニスボールを思い切り投げた。狙い通りに飛んだストレート球はいともたやすく窓を破って見せた。砕けたガラスは外へ飛び散っていく。
「こんな風に、砕けちまったら元には戻らねえ。俺たちもそうだ。」
「おい馬鹿野郎。医者がいねえのに肩壊したらどうする気だマヌケ。」
孝弘に怒られた悠人は肩をすくめると、立てかけてあったネイルガンを拾い、シャワーを浴びるために校舎に戻って行った。
ーーーーー
その晩。運動後のシャワーとは別に、1日の締めとしてのシャワーを浴びた悠人は頭にタオルを巻き、ご機嫌そうにポーリュシカポーレを口ずさみながら部室に入った。すると、なんだか女子が険悪なムードになっており、思わずポケットから胃薬を取り出そうとしてしまった。
「ロク助、状況。」
一気に最悪の気分に突き落とされた悠人は呑気に挽きたてのコーヒーを啜っていた六郎に近寄って小声で問いかける。
「みーくんが勝手に下行った。りーさん叱った、ゆきが補習行った。以上。コーヒー要る?」
「頼む。クリームと砂糖忘れんなよ。あと、今夜あたり一悶着ありそうだから全員完全武装。」
「わーった。」
そう返事した六郎は悠人のマグカップに暖かいコーヒーを注いだ。