学園生活部 校外遠征班!   作:Allenfort

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第11話 救出

夜の帳の降りた部室で、校外遠征班4人とくるみ、悠里はテーブルにおいた校内地図を見て会議を行っていた。

 

「よし、バリケード付近の見回りを強化する。校外遠征はしばらく行かなくてもよさそうだから、俺たちは1週間くらい夜間警備に当たる。昼夜逆転生活を覚悟しな。」

 

悠人がマーカーペンで巡回ルートを指示すると、残りの男子3人は縦に頷いた。いつものルートにプラスアルファされたような感じであるため、そう負担が増えるわけでもない。

 

「必ずツーマンセルで動くこと、これを忘れずに。孝弘、注意事項。」

 

悠人が孝弘に促すと、孝弘はマーカーペンで地図のあちこちに目印をつけた。

 

「ここにトラバサミを仕掛けた。俺の自作で、奴ら相手に実験済みだが過信できないし、自分たちが引っかからないように注意。以上。」

 

「よし、校外遠征班は用意を始め、10分後に巡回を開始する。その間陣地内はくるみが防御。」

 

悠人が言い終わると同時に、校外遠征班の男子は駆け足で準備に取り掛かった。しっかりと腕や足、胴に孝弘がアルミ板を加工して作ったアーマーを仕込み、万一に備える。そして、散弾銃やライフルを背負い、手にはネイルガン。完全武装である。

 

最近、バリケード前に自作の有刺鉄線を置き、奴らの足止めに使えるか試している。これに足を取られてすっ転ぶようなら、実戦投入する予定なのだ。トラバサミより作るのに手間がかからないし大量生産できる。

 

悠人と孝弘がバリケードに近づくにつれ、自分たち以外の足音が聞こえるようになった。最初は和良と六郎の足音かと思ったが、ブーツの音ではない。くるみと悠里は椅子に座って家計簿つけていたし、距離がおかしい。となると、消去法で考えられるのはゆきと美紀だ。

 

あの馬鹿、悠人は心の中で舌打ちした。ゆきの扱いについて不満を持っていたのは感じて取れたが、よりにもよって夜に抜け出そうとする奴があるか。トイレに行っただけであって欲しい。悠人はそう願ったが、すぐにそんな願いも打ち砕かれることになった。小銭が廊下を跳ねる音がしたのだ。奴らをおびき寄せるためにやったのだろう。

 

「タカ坊、あの音……」

 

「間違いねえな。さっさとあの馬鹿を連れ戻そう。自殺行為にも程があるってのに!」

 

ところで、バリケードを越えたとしたらどうやって有刺鉄線を避けたのだろう?バリケードから飛び降りたわけでもあるまいし。悠人と孝弘はそう疑問に思いつつもバリケードに急ぐ。

 

有刺鉄線の上には枕が置かれていた。あれを飛び石にしたのだろう。戦場では防弾チョッキを飛び石代わりにして超えることもあるのだから、これは正しい乗り越え方だ。そう感心しそうになるが、そんな時間はない。

 

孝弘が咄嗟に床に耳をつけ、音を聞く。大勢の足音が聞こえる。そして、悠人の耳には僅かにだが美紀とゆきの声が聞こえた。

 

「タカ坊、あっちはトラバサミ仕掛けてなかったか!?」

 

「マズいな、行こう! ドンパチ始まれば奴らに混じってロク助とカズも来るだろ!」

 

和良、六郎に比べて軽装(和良、六郎はアルミ板2枚重ね、悠人、孝弘は1枚)で身軽な2人が音のする方角に急行する。とはいえ、ズボンのスネと大腿部、上着の腕、二の腕にアルミ板を縫いつけ、ボディアーマーにもアルミ板を仕込んでいるため、なにも持たない時よりは遅くなってしまう。

 

だが、幸運なことに美紀とゆきは悠人たちに向かって走ってきていたのだ。女子2人が奴らに追いつかれる前に合流できた悠人と孝弘は何も言わずにその場にしゃがむと、ネイルガンを奴らに向けて撃ち始める。

 

「さっさとバリケードまで戻れ! 援護してやる!」

 

孝弘がそう叫び、その間に悠人は1発だけ散弾銃を撃つ。後ろの脇道にはバリケードやトラップを仕掛けてあるため、奴らが入ってくる危険性は少ない。なら、来るなら前からだ。そして、この銃声なら他の2人も気づいてくれるだろう。奴らならともかく、あいつらならトラップに引っかからないで助けに来てくれるだろう。

 

悠人はふと腕時計を見る。さっきの女子2人の走るスピードからして、バリケードを越えて拠点に戻るまで3分と言ったところだろうか。それまでここで持ちこたえるしかない。

 

「ユート! いくら100連発のネイルガンと言っても、弾切れたら再装填に時間掛かるぞ!」

 

「分かってる!だから対策はある!」

 

孝弘に対して悠人がそう答えると、リュックから綺麗に畳まれた有刺鉄線を取り出し、それを目の前にばら撒いた。

 

「これで足止めになる。」

 

「なるほど。」

 

悠人はついでとばかりに丸ノコの替え刃を取り出す。そして、パッケージから取り出すと、フリスビーのように奴ら目掛けて投げつけ、見事に仕留めて見せた。但し、効率は悪そうだ。

 

「これ使えねえ!」

 

「たりめーだろ! ネイルガンの方がよっぽど使える!」

 

そんなことを言い合っているうちに、じりじりと距離がつまり始めた。数に押されている。すると、後ろからドカドカと2つの足音が聞こえた。

 

「遅れた!」

 

悠人の横に和良が滑り込み、一言詫びると同時にネイルガンを構え、撃ち始める。六郎も孝弘の隣で撃っている。

 

「遅え! そろそろ引き上げるぞ!」

 

4人は立ち上がると、後ろにバックステップでじりじりと下がっていく。奴らは有刺鉄線を踏み、ジャラジャラと金属音を鳴らし、針金に足やズボンを引っ掛けて転倒し、さらに後続も巻き込まれていく。だが、その倒れた奴を踏み台にしてどんどん越えてくる。

 

「ひょええ、くわばらくわばら!」

 

六郎は額に冷や汗をかきながらフルフェイスヘルメット(新品)のバイザーを下ろす。接近戦の時に顔を引っ掻かれたり噛まれたりしないようにだ。和良は最初から下ろしているし、悠人と孝弘はそもそもバイザーがない。

 

「走れ!バリケードまで逃げろ!」

 

悠人の号令で4人は全力疾走する。だが、この先でバリケードを乗り越えなくてはならないのだ。それにどうしても時間を取られてしまうだろう。

 

「仕方ない、バリケードに着いたら六郎先に登って援護! タカ坊、俺の順で登って最後にカズ!」

 

悠人はすかさず指示を出す。和良は一番防御を固めているため、どこを噛まれても防げるであろうという判断だ。殿にはもってこいである。

 

「へーへー、俺はいつも噛まれ役!」

 

和良は文句を言いつつも散弾銃の残弾数を確認する。散弾銃は孝弘の手によって銃身を切り詰められ、近接戦に特化しているのだ。

 

バリケードが見えてきた。奴らは結構引き離したかと思ったがそうでもない。大きく引き離すには廊下の長さが足りないのだ。

 

「有刺鉄線! 飛べ!」

 

六郎が咄嗟に叫び、4人で有刺鉄線を飛び越える。そこから3m先にバリケードがある。全員で登っては倒れる危険があるので、1人ずつ悠人の指示通りに登っていく。六郎は援護と重り役を兼ねているのだ。

 

六郎が登りきった頃には奴らが迫り、第一陣が有刺鉄線に足を取られて立ち往生していた。その間に孝弘がバリケードの向こう側へ移動する。

 

そして、和良が登り始めた時に奴らの第二陣が転んでいる奴らを踏み台にして有刺鉄線を越えて来た。悠人はグローブを濡らすほどに手汗をかき、心臓が早鐘を打っていた。死にたくない、そんな原始的な恐怖が悠人を襲うが、それでも逃げ出すことなく、いや、逃げられないからこそ、ネイルガンを握りなおす。装着されているハンティングナイフを引きちぎって右手に持ち、左手には孝弘お手製のナイフを持つ。こっちのほうが効率がいい。

 

まずは先頭の奴に蹴りを入れ、後ろの奴らごと押し返す。野球部の脚力舐めんな、そんな掛け声とともに放たれた渾身のキックは奴らの群れを1mほど押し返した。そして、振り下ろした足で有刺鉄線に足を取られている奴の頭を踏み砕く。

 

また迫る、腐敗しているのか、柔らかくなり始めた頭部にナイフを突き立て、仕留める。また来た、そっちは孝弘お手製のナイフが仕留める。

 

耳鳴りがする、視界が歪む。奴らが遅い。

 

だが、多勢に無勢。壁に追いやられ、左腕を掴まれた。必死に抵抗するが、3体に押さえつけられて動けない。右手のハンティングナイフを振り回すが、それもすぐに掴まれてしまう。

 

噛まれた、アルミ板が二の腕を圧迫し、そう感じ取った。それと同時に、悠人を動悸が襲う。腕を、肩を、次々と噛まれる。悲鳴が響く。自分であげた悲鳴に気づかないほど、悠人は焦っていた。歯はすべてアルミ板が防ぐ。肉体に傷が入らずとも、精神に傷をつけるには十分すぎる出来事だ。

 

そんな時、悠人を別の衝撃が襲う。それがガス爆発の衝撃波と気づくことはできなかったが、悠人を隙間なく取り囲んでいた奴らは全て倒れ、今度こそ死体に戻っていた。和良の即席爆弾を六郎が投げたのだ。爆発したガスボンベの金属片は奴らが肉の壁となって防ぎ、悠人に当たることはなかったが、爆風をくらい、壁に頭を打ち付けた悠人はその場でぐったりと倒れこんだ。ヘルメットをしていたから、脳震盪ではないだろう。死に直面した恐怖と、張り詰めていた緊張の糸が切れた事で失神してしまったのだろう。

 

次に目覚めると、視界が霞んでいた。だが、目の前で自分を覗き込んでいるのが悠里と気づくにそう時間はかからなかった。

 

「りーさん……?」

 

「ユートくん……良かった、目が覚めて……!」

 

何がどうなっているのか悠人は理解できていない。悠里の話を聞くからには、あの後失神したまま目が覚めず、丸2日眠っていたらしい。その間、校外遠征は残りの男子3人で行っていたんだとか。悠人は少し申し訳ない気持ちになりつつも、ゆっくり起き上がった。

 

そんな悠人を悠里がそっと抱きしめる。悠人は恥ずかしさや嬉しさ、その他諸々の感情が入り混じり、頬を赤く染めたまま固まることしか出来なかった。

 

「……もう無理しないで。」

 

「ありゃ回避不能だった。不可抗力。」

 

すると、背中に回された悠里の腕にさらに力が入り、悠人の顔に胸が押し付けられる。柔らかいとかなんとか思うより先に、呼吸ができずに苦しいと悠人は感じた。生命の危機が最優先だ。なんとか顔を動かして脱出すると、鼻が触れそうな距離に悠里の顔があった。もちろん、年頃の健全な男子である悠人は赤面して退避を試みたが、しっかりと悠里に拘束されているため、身動きを取ることができなかった。

 

「何すんだよ……!?」

 

悠人は最初は焦っていたが、すぐにその焦りも消えてしまった。悠里が震えているのに気がついたからだ。

 

「あのまま……ユートくんが死ぬんじゃないかって思って、すごく怖かった……」

 

「……ごめん。」

 

悠人にはこういう時、どう行動して、どう声をかけるのがベストかなんて分かりはしなかった。何をどうすればベストかなんて分からないように。

 

「ううん、いいの。ちゃんと無事だったんだから……」

 

「今回ばかりは爆弾投げたロク助とアーマー作ったタカ坊に感謝だな。」

 

そんな時、悠人の腹が盛大にファンファーレを奏でた。2日何も飲まず食わずだったのだ。喉が渇いたし腹も減った。そして、悠里はくすりと笑っていた。

 

「ご飯にしましょう。お腹減ったでしょ?」

 

「ああ。なんでもいいから食いたい。腹減った。」

 

2人は笑いながら立ち上がると、部室へと向かう。まるで、何事もなかったかのように。

 

部室のドアを開けると、悠人と悠里を除いたメンバーが全員揃っていた。和良はTシャツ姿で腕立てしてるし、ゆきは太郎丸とじゃれている。六郎と孝弘、くるみは何か得体の知れない工作をしているし、美紀は読書中だったようだ。

 

「おいカズ、お前いつものゴルカ戦闘服どうした?」

 

「汗くせえから洗濯中。今頃屋上で干物になってる。んで、おめーが寝てる間にみーくんが部員になったぞ。」

 

悠人はふーん、と言ったような表情で美紀を見る。どんな心境の変化があったかは知らないが、ともかく良しとしよう。そう思った。そして、ガハハと豪快に笑いながら美紀の肩をたたく。

 

「よろしく頼むぜ、新入りよ!」

 

「よろしくお願いします……」

 

まあ、あまりの威勢の良さに美紀が引いたのは言わずもがな。

 

ーーーーー

 

「あー、あったねそんなこと。」

 

悠人はイラストの背景を描きながら言う。建築科ではしょっちゅう図面を引いていたためか、絵はそれなりに描ける。というわけで、誰かの描いた人物画に背景をつける担当となっていた。

 

悠人が目覚めてから早10日。そろそろ悠人も郊外遠征に参加できるかというところであった。これまでは頭打って、さらには失神していたため、大事をとって安静にしていたのだ。

 

「無理しちゃダメよ?」

 

「わーってるよりーさん。今度はヘマしねえから。」

 

悠人は短く刈り上げた髪をわしゃわしゃと搔きむしる。その横で、くるみはガンベルトに色々ポーチをつけたりして機能性を体験していた。ちなみに、悠人の予備品である。

 

「そう言えば、お米が少なくなってましたね……」

 

美紀のその言葉に誰もが凍りついた。(その場にいない六郎とゆきを除く)米がなくなるのは辛い。発狂してしまう。米が食いたい。We must EAT!

 

「よし、久しぶりにフルメンバーで郊外遠征じゃい!」

 

さっきからちまちまと点描をやっていた孝弘が拳を高々と振り上げて叫ぶ。そして、郊外遠征班は久しぶりに4人で遠征を行うことになった。あんな事になるとは予想だにせず。

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