学園生活部 校外遠征班!   作:Allenfort

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第14話 大掃除

悠人が話し終えると、職員室には重苦しい雰囲気が漂った。無理もない。悠人は本当に話してよかったのか、もっとソフトに話すべきだったかと僅かに後悔の念を抱いていた。

 

「ユートくん……」

 

「悪い、ずっと黙ってて……」

 

悠里は首を横に振る。分かっていたのだ。分かっていたからこそ、屋上に慈の墓を建てたのだ。悠人が黙っていたのも無理は無いことだ。悠人たちは奴らになってしまった慈をその目で見ているのだから、ショックが大きかったはずだ。

 

部室に沈黙が訪れる。居心地の悪い沈黙だ。誰もが具にでも逃げ出したい気分になる。そんな時、部室のドアがいきなり開き、ゆきが太郎丸を抱えて入ってきた。なぜかアオコにまみれている。

 

「りーさーん……太郎丸を追いかけてたらプールに落ちちゃったよ……」

 

半泣きのゆきが言う。屋上にプール何てないから貯水槽の事を言っているのだろう。一度として清掃していないからアオコだらけなのも頷ける。

 

そんな格好で廊下を歩いてきたのだから、廊下は水浸しのアオコだらけだ。勿論、悠里が怒らない訳がない。悠人たちには後ろ姿しか見えないが、今すぐ逃亡したくなる恐怖心に駆られてしまった。

 

「ゆーきーちゃーん……?」

 

「ひいぃっ!」

 

太郎丸も縮み上がっている。悠人たちは心の中で合掌しつつ、清掃用具の準備を始めた。正直、その場から逃げたくてたまらなかったのだ。トンズラにーげろー。

 

ーーーーー

 

貯水槽ではニジマス、フナ、コイが飼われていた。水を抜いて掃除をするには、まずその魚たちを捕まえなければならない。とはいえ、これが結構大変なのだ。

 

「そっち行ったぞタカ坊!」

 

「こいやぁ!」

 

悠人、孝弘、六郎が貯水槽の端っこで大網を張り、それに向かって和良が突撃、魚を追い込んでいく。追い込み漁(もどき)を、女子たちは楽しそうに見ていた。

 

「そっち行ったよー!」

 

ゆきが笑いながら言う。和良に挑もうとしたのか、勇気あるニジマスが猛スピードで和良の股間に突撃した。和良は体をくの字に曲げ、白目を剥きそうになりながら倒れていく。男にしかわからないその激痛に、思わず男子3人は股間を手で押さえてしまった。

 

「「「か、カズー!」」」

 

お前の意思は無駄にはしないとばかりに3人は網を狭め、魚を捕らえる。和良は仰向けに浮かび上がっているが、魚を捕らえる事を優先した。浮かび上がった和良は魚の後に水揚げされた。(この後、スタッフが美味しくいただいたりはしませんでした)

 

魚をバケツに避難させ、その間に男子は貯水槽をデッキブラシでこすり、汚れやらアオコを落とす。女子はホースで水を撒くのが役目だ。時折、女子のいたずら心に男子が犠牲になる。

 

「ふめらっ!?」

 

悠人の頭をホースの水が襲った。変な声を漏らし、女子は笑っている。勿論残りの男子3人も指を指して爆笑しているが、その3人も次々とホースの餌食になっていった。

 

「やったな……!」

 

男子は反撃とばかりに用意していた水鉄砲を女子目掛けて撃ちまくる。だが、水鉄砲とホースでは勢いが違う。次々と顔面に水を噴射され、沈黙していった。無残にもやられた男子たちは大の字になって倒れ、追い打ちを食らいまくっていた。

 

「水圧には勝てなかったよ……」

 

孝弘は悲しげに呟いた。

 

ーーーーー

 

「やっと終わった……」

 

六郎はへたり込みながら掃除し終わったプール(貯水槽)を眺めていた。その間、他の3人は水着に着替えた女子を見て口笛を吹いたり、その姿に目を釘付けにされたりと色々な反応を見せていた。六郎はここ連日の電気工事の疲れもあった為、女子の水着姿を堪能する体力も残っていなかったのだ。

 

「なあユート、くるみの健康的なボディライン、いいと思わないか?」

 

「俺はりーさんのワガママボディが……」

 

そんな事をヒソヒソ言っていた孝弘と悠人を水鉄砲攻撃が襲った。更にはホース攻撃も追加され、2人揃ってプールにダイブする羽目になってしまった。

 

「何考えてるんだタカ!」

 

「ユートくんのエッチ!」

 

勿論、その光景を見た他のメンバーは爆笑している。悠人と孝弘はもがきながらもなんとか上陸し、床に大の字になって倒れて酸素の美味さを堪能することになった。

 

「……生きてる?」

 

「生きてる。」

 

孝弘はそう答えると咳き込みながら立ち上がり、どこかへと歩いて行った。その間、悠人は目を閉じてうたた寝を始めてしまった。

 

「立て、アレン二等兵!」

 

何分経っただろうか、和良の声で悠人は叩き起こされる羽目になった。誰がアレン二等兵だと文句を言おうと思ったが、その前に手を掴んで無理やり立たされる羽目になってしまった。

 

「レンジャーが道を開く! 行け!」

 

訳も分からず悠人は渡された水鉄砲を握りしめる。お前はどこのシェパード将軍だとツッコむ前に状況を整理する。プールを挟んで男女が水鉄砲で撃ち合っているという光景だ。つまり、水鉄砲でサバゲーをやっているのだ。

 

「こういう事かね。」

 

悠人は面白そうと感じ取り、すぐさまそれに参加することにした。その辺の花壇に隠れ、チャンスを見ては撃ち込む。相手に見せる部分を小さくすることで、被弾しにくくするのだ。サバゲーならやり込んだ。間違いなく勝てる。

 

飛んできた水を葉っぱが防ぐ。狙い通りと言えよう。少しだけ身を乗り出して反撃し、ゆきに命中させる。

 

勝った、そう思って思わずニヤけた悠人の頭上へ、何かの塊が2つ降ってきた。悠里が投げた水風船だ。

 

「グレネード!」

 

六郎の叫びも虚しく、悠人は脳天に水風船を食らってしまった。水の重さと重力加速度に負けた悠人は後ろにつんのめり、大の字になって倒れる。青空がとても眩しく見えた。

 

「野郎ども! ユートの仇を取れ!」

 

和良が景気良く両手に持った水鉄砲で反撃に出る。この水鉄砲合戦に死亡判定はない。気がすむまで打ち合う。それだけの話なのだ。だから、男子は飛んでくる水に怯むことなく撃ち返す。悠人も倒れながら撃ち返し、積極的に反撃していた。

 

「来るぞ!」

 

悠人が叫ぶ。遠くから悠里がまたしても水風船を投げてこようとしていたのだ。

 

「撃て!」

 

男子の水鉄砲攻撃が悠里に集中する。それを援護しようと美樹やゆき、くるみが積極的に撃ち返してくる乱戦になっていった。

 

水風船が悠里の手を離れ、宙を舞う。孝弘はそれを目で追い続ける。放物線を描いて飛んでくる水風船の弾道を見極め、手を伸ばす。

 

水風船が手に収まると同時に手を引き、衝撃を和らげる。水風船を破裂させることなく、孝弘はキャッチして見せた。

 

「ホットポテト!」

 

孝弘はそれを投げ返した。野球部ポジション遊撃手の本領発揮だ。華麗な送球で何人ものランナーに絶望を味わわせたその肩が猛威を振るった。

 

水風船は悠里の近くに落下し、水を撒き散らした。それに驚いた悠里は持っていた水風船を取り落として破裂させてしまう。攻撃手段は奪った。あとは男子のターンである。

 

「突撃にぃ……!」

 

悠人のかける突撃準備の号令で男子は水鉄砲を構え、突撃の態勢をとった。何か違和感を感じながらも。

 

「前へ!」

 

男子は走り出す。目標は悠里、ゆき、くるみ。その3人に肉薄し、水鉄砲攻撃を食らわせるのだ。

 

そこまで思って初めて気づいた。1人足りない。どこへ行った?

 

そして、走る4人の側面に美樹は立っていた。その手にはホースが握られている。待ち伏せされたのだ。突撃破砕線置いてたのかよ……悠人は諦めに近い感覚を覚えた。

 

美樹はホースの口を指で圧迫する。猛烈な水圧を食らい、男たちはプールへと吹き飛ばされていった。脳筋男子はプールに沈みながら、悔しさを覚えていた。

 

ーーーーー

 

そんなバカ騒ぎが終わり、夜になった。悠人は屋上から双眼鏡で周辺を警戒していた。何も変わりはしない。そう、あの日から何も変わらないのだ。変わったのといえば、双眼鏡で見ているだけでも恐怖心を掻き立てられるようになってしまったことくらいであろう。

 

六郎はまたどこかに行って電気工事をしている。ソーラーパネルが最大限の発電をできるのも六郎のおかげだ。武器の整備や日用品の制作、修理は孝弘がやってくれるし、和良は何やら新兵器を作っているようだ。自分には何ができるだろうか。建物の修繕はほぼ済ませたし、バリケードの損傷も少ない。建築科の出番はほとんどなくなってしまった。その上、戦うこともできない。

 

「まさかまさかの穀潰しに成り下がったかなぁ……」

 

「あら、穀潰しなんていないわよ?」

 

悠人がその声に反応して振り向くより早く、悠人の後頭部を柔らかい何かがガッチリ固定した。それが何かを察した悠人は顔を茹でダコのように赤くしつつ、硬直してしまっていた。

 

「り、りーさん……?」

 

「ユートくんがいないと困るんだから……誰が壊れた校舎を直すのよ? それに、設計図を見つけたのもユートくんの手柄じゃない。」

 

「いやまあそうだけど最近はさ……ちょっと太って……」

 

「そう言ってたかだか2kgじゃない。太ったのうちに入らないわよ。」

 

「1kg増えて悲観してた人がよく言う……」

 

悠人はそんな不用意な一言によって悠里のヘッドロックを食らう羽目になってしまった。後頭部あたりに天国があるが、首が地獄である。悠人は悶絶しつつも悠里の腕を叩いてギブアップの意を伝えた。

 

「全く……デリカシーは無いのかしら?」

 

「事実じゃねえかよ……」

 

悠人は苦笑いを浮かべながらも悠里と向き合う。すると、悠里がなにやら覚悟を決めたような表情を浮かべていた。悠人はそれを訝しげに思った。

 

「どうした?」

 

「ユートくんって、好きな人とかいるの?」

 

悠人は思わず噴いてしまった。いきなり何を言い出すんだこいつはとばかりに目を見開いて悠里を見た。悠里は何やら顔を赤らめているし、悠人は嘘だろうと自分に言い聞かせていた。

 

「好きな人って、お前こんな状況下で……」

 

何故か、悠人の脳裏には悠里の顔が浮かんだ。楽しそうに笑って自分を呼ぶ悠里が思い浮かぶのだ。

 

悠人は観念したのか、坊主頭をガリガリと搔きむしる。気付いてないように振舞っていただけなのだ。もうそんなフリも出来ないだろう。

 

「……ああいるよ。りーさんだよ。」

 

「へ……?」

 

悠里は驚いたように硬直し、すぐにポロポロと泣き始めた。もちろん、悠人は動揺した。

 

「えええ!? ちょ、どうしたんだよ!?」

 

「ごめんなさい……嬉しかったから……」

 

悠里は涙を拭いながら笑う。悠人はもうこうなりゃヤケだとばかりに悠里を抱き寄せた。行動力は取り柄なのだ。思い立ったら即断実行でその場を乗り切る。

 

「驚かすなよ……いつもみたいに笑ってりゃいいじゃねえか。」

 

「ええ……私も好きよ、ユートくん。」

 

悠里が笑顔を見せる。この笑顔にはかなわないなと思いつつも、悠人も笑って見せた。すると、悠里はモジモジしながらも目を閉じ、唇を悠人へ突き出した。その意図を察した悠人はもちろん動揺する。女っ気の無い工業高校にいた弊害である。

 

目を泳がせてモタモタしていたら悠里は「ん!」と唸って催促してきた。逃げられないと観念した悠人は、思い立ったら即断実行でその場を乗り切るというポリシーに大人しく従う事にした。

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