学園生活部 校外遠征班!   作:Allenfort

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第2話 天体観測

午後5時。校外遠征に行った悠人たち4人は無事に帰還し、悠里に帰還報告をしていた。

 

「まあ、そんなわけで、全員生還。ただ、ロクがカズの投げた即席爆弾の巻き添えを食らって怪我した。今タカとみーくんが手当てしてる。」

 

「そう……お疲れ様。」

 

「荷物、そこにまとめてあるから。タカはゆきに化学教えてるし、俺は晩飯まで寝るよ。さすがに疲れた。」

 

悠人の顔には疲労の色がはっきり出ていた。服もあちこちに返り血が付いているところを見ると、かなりの苦戦を強いられたのだろう。なんせ、和良が即席爆弾を使うほどなのだから。

 

「ええ。その……ごめんなさいね。」

 

悠里の突然の謝罪に、悠人はキョトンとした。

 

「どうしたのさいきなり?」

 

「あなたたちが初めてここに来た時、ひどい事しちゃったし、今も危険な事をさせてるから……」

 

すると、悠人はニッと笑って言葉を遮った。

 

「いいって事よ。俺たちが望んで始めた校外遠征だ。それに、アレは正常な反応だろうから気にはしてねーよ。それより、今回の遠征で食料以外にも面白いものを拾ってきた。晩飯の時にでもみせるよ。とりあえずおやすみ。」

 

「ええ、お休みなさい。」

 

悠人は退室すると、寝床へと走り、夕飯の時間まで死んだように眠りこけていた。

 

ーーーーー

 

キイィ、という音と共に教材準備室の扉が開く。悠人はそれに気づく事はなく、灰色のデジタル迷彩のズボンと、オリーブドラブのTシャツ一枚という格好で眠っていた。

 

その様子を見た悠里は起こすかどうか迷ったが、悠人の体を揺すって起こす事にした。

 

「ご飯よ。」

 

「ん? ああ……」

 

悠人は腕時計を見る。既に6時になっていた。起きるにはちょうど良かった。

 

「どう? 疲れは取れたかしら?」

 

「なんとかな……」

 

寝起きでボンヤリしていた悠人は無意識のうちに悠里の顔を覗き込んでいた。その事に気づいた悠人はすぐに顔を背けると、上着を羽織って立ち上がった。

 

さっさと生徒会室に行って食事にしようと思ったが、リベットガンを取るのを忘れていた。慌てて棚から取ろうと振り向くと、悠里が悠人にリベットガンを差し出していた。

 

「大切なものなんでしょう?」

 

「……まあな。こいつがなければ俺らが死ぬ。」

 

悠人はリベットガンを受け取った時、わずかに悠里の指に触れた。それに思わずドキッとしてしまうのは、男子ばかりの工業高校にいた影響なのだろうか。あまり女子に慣れていないのだ。

 

「そう……行きましょう。」

 

「そうだな。」

 

悠人は先に教材準備室を出た悠里を追いかけるようにしてその場を後にした。ほんのり赤くなった顔を元に戻してから生徒会室へ行ったので、遅くなった理由を言えずに怪しまれたのは言わずもがな。

 

「あれ、ロクは?」

 

悠人は生徒会室に六郎がいなかったので、疑問に思った。飯の5分前には必ず来ているような奴なのに、今日に限って遅刻とは珍しい。すると、美紀が口を開いた。

 

「結構強く頭をぶつけていたみたいで……今はまだ安静にしています。」

 

やっぱりか、と悠人は肩を竦めた。校外遠征中、奴らの大群に遭遇し、ケミカルボマーこと和良が最終兵器の即席爆弾を使用したのだが……物陰に逃げ込むのが遅れた六郎は爆風に吹き飛ばされ、電柱に頭をぶつけたのだ。

 

「一体どんな爆弾投げたらそうなるんだよ?」

 

くるみは相変わらずシャベルを握りしめたまま苦笑いを浮かべている。

 

「……粘土と爆竹とアルミホイル、あとカセットコンロ用のガスボンベで作った。」

 

「本格的にヤバイやつじゃないか!?」

 

爆発の威力は実戦証明済みである。これがなければ校外遠征班は全滅していただろう。巻き込まれた経験のある悠人は身震いしていた。

 

「化学実験って危ないんだねー。ね、めぐねえ?」

 

ゆきが窓際の席へ話しかける。だけど、そこには誰もいない……

 

「まあな……めぐねえがあの場にいたら、俺たち説教食らってたぜ。なあ、ユート?」

 

「おうおう、めぐねえの説教長いからなー。」

 

和良と悠人は上手いこと話を合わせる。これにはもう慣れていたのだ。

 

「そういえば、面白いものがあるって言っていたわよね? 一体何かしら?」

 

悠里がそういうまで、悠人はすっかり忘れていた。

 

「おっといけね。タカ、ブツはどうした?」

 

「ここに。」

 

孝弘は天体望遠鏡のセットを取り出した。これも遠征の戦利品である。生活必需品の他に、娯楽も仕入れるのが役目なのだ。

 

「望遠鏡だ!」

 

ゆきが目を輝かせる。持ってきてよかったな、とばかりに悠人と孝弘は顔を見合わせた。

 

「今夜、天体観測しようぜ。部長、いかがでしょうかね?」

 

悠人がそういうのは様式美とでも言うべきだろうか。答えはもうわかりきっているのだから。

 

「許可するわ。午前0時に屋上に集合。寒いから暖かい格好でね。」

 

ーーーーー

 

午後11時30分を少し回った頃、校外遠征班4人は屋上で天体望遠鏡のセッティングをしていた。六郎はなんとか回復したが、まだ安静にしていろと悠人に言われ、端っこの方で座ってココアを飲んでいる。

 

「冷えますよ?」

 

突然現れた美紀が六郎に毛布をかぶせる。六郎は抵抗せず、暖かい毛布に身を預けた。

 

美紀はその隣に座ってセッティングの様子を眺める。天体望遠鏡が無くても、星がよく見えていた。

 

「夜空、綺麗だね……」

 

「そりゃ、街が真っ暗だからな。俺はこっちの方が好きだ。」

 

街の明かりが消え、星々がまるで自分の舞台を取り戻したかのように煌々と輝いている。六郎は星と星を指でなぞって星座を探していた。美紀もそれに倣って星と星をなぞるが、なかなか星座は見つからない。

 

その隣で六郎は背負っていた民間モデルの狙撃銃を取り出し、スコープで空を見ていた。

 

「んー、さすがにこれで金星人の頭撃つのは無理だな。」

 

「距離がありすぎるし、今の時間は金星見えないよ……」

 

美紀は苦笑いを浮かべる。六郎も冗談半分でやっていたので、すぐに狙撃銃をケースに仕舞った。

 

「間に受けるなよ。ジョークだ。」

 

六郎は立ち上がろうとしてよろけた。まだ爆弾のダメージが残っているのだろうか。

 

「大丈夫?」

 

「ああ……初対面の時も俺、爆弾で吹っ飛ばされていた気がする……」

 

そこへ、ゆきたちがやって来た。六郎が腕時計を見ると、既に0時になっている。

 

「俺はここでボンヤリしてるから、みーくんは星見てこいよ。」

 

「え……でも……」

 

「いいからいいから。ここからでもよく見えるし。」

 

ふと、悠人たちのところを見ると、ゆきが取扱説明書と睨めっこしながら操作している。和良がサポートし、なんとか目標の星を見つけたようだ。

 

望遠鏡を覗くゆきは感嘆の声を漏らし、目を輝かせている。そんなゆきに早く代われとくるみが急かす。悠人と孝弘、悠里は笑いながらその様子を眺めている。

 

美紀も望遠鏡の取り合いに参加し、六郎は1人離れたところで寝転んでいる。望遠鏡で一つだけの星を見るより、寝転がって満天の星空を眺める方が個人的には好きだった。

 

そんな六郎の所に缶コーヒーが転がってきた。犯人は悠人だ。

 

悠人は自分の分の缶コーヒーを持って六郎の隣に立つ。六郎も起き上がってコーヒーを飲みだした。

 

「どうした? みーくんと話してなくていいのか?」

 

そう言われた六郎はコーヒーを吹き出しそうになった。

 

「お前こそ、りーさんのとこに行かなくていいのかよ?」

 

「まーな。俺よりあいつらといる方が楽しそうだし。星空は一つの星だけを眺めるより、夜空に広がる星空を眺めた方が綺麗だろう?」

 

悠人は暗に距離を取って眺めるのがいいと言っているようだった。六郎は悠里たちの所を見る。女子4人がワイワイ騒いでおり、孝弘と和良はそれから離れて見守っている。

 

「結局、俺たちゃ女子の輪には入れないし、余所者だからな。校外遠征だって、結局は回り回って自分の食料とかを確保するためのものだし。」

 

悠人はそう言って缶コーヒーを啜る。無理して飲むブラックコーヒーの苦味に顔をしかめているのか、現状を考えて顔をしかめているのかはわからない。

 

「だけどよ……少なくとも面白い。だろ?」

 

六郎はソーラーパネルを見る。電気科で学んでいたため、ここではソーラーパネルや電気関係の保守を任されている。少なくとも、自分の得意なことができるから面白いとは思っている。

 

「まあな。俺もバリ作るのそれなりに楽しんでるし。」

 

建築科だった悠人は奴らを防ぐためのバリケードの設置、保守。学校内設備の修理などを担当し、少なくとも精力的に活動している。

 

「ところでロク、飯は食ったのか?」

 

「ああ。みーくんが食わせてくれたよ。」

 

そう言ってケラケラ笑う六郎の脛を悠人はミリタリーブーツの硬いつま先で蹴った。

 

「って!」

 

「あーあ。心配して損した。」

 

悠人は六郎のために持ってきた缶詰は後で自分で食べようと決めた。

 

ーーーーー

 

天体観測終了後、悠人は1人望遠鏡の撤収作業をしていた。撤収は1人の方がやりやすいからと言って、他の面々を戻らせたのだ。

 

時々、色々な不安に押しつぶされそうになる。そんな時はこうして作業に没頭して、忘れようとする。それが悠人なりのメンタルコントロールだ。

 

望遠鏡を箱に仕舞い、さあ戻ろう。そんな時に悠里が現れた。

 

「どうした?」

 

「まだ戻らないのか気になっただけ。寒いでしょ?」

 

「どうってことない。」

 

悠人はそう答えると望遠鏡の箱を担いだ。すると、近寄ってきた悠里が悠人の前髪をめくり、額を見る。そこには大きめの切り傷が付いていた。

 

「怪我してるわ……」

 

「ボンベの破片だ。死にはしないし感染もしていない。そのうち治る。」

 

「次から、危ないなら荷物なんて捨てて戻ってくるのよ? 命が1番大切なんだから。」

 

大切なのは俺らの命より食料だろ? そんな言葉が喉まで出掛かったが、悠人はそれをかろうじて飲み込んだ。言ってはならない。

 

「心配はありがたいが、荷物は投棄しない。これがなければ俺たちも死ぬ。」

 

「そう……」

 

話は終わったと判断した悠人は荷物をすべて抱えて寝床に戻って行った。時々、ストレスのせいか感情が不安定になる。下手に悠里に八つ当たりしたくはない。だから、少し距離を取っておこう。そう思う悠人であった。

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