学園生活部 校外遠征班!   作:Allenfort

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第5話 招かれざる客

案外、奴らの群れを突破するのは難しくなかった。野球部やラグビー部で鍛えられた足には装備重量があっても奴らを振り切るだけのスピードを出すことができた。のろまな奴らを離れたところから攻撃できるのだから、大した脅威には感じない。

 

うーあーうるさい奴らのせいでお互いの声がよく聞こえないので、4人はハンドサインを使ってコミュニケーションを取る。悠人の愛読書であるコンバットバイブルを覚えるほど読み込んだ賜物である。

 

人影は屋上に見えた。階段を上がればきっと辿りつける。人が多い方が生存率は上がるだろう。そんな目算があった。とはいえ、なぜ屋上という行き止まり(デッドエンド)に逃げ込んだのだろうか? 悠人はなんとなく疑問に思った。援軍が来ない籠城など自殺に等しい。否、たまたまそこにいて閉じ込められただけか。そう結論づけた。

 

「もう直ぐ屋上だ。戦闘用意。」

 

先頭の六郎が言う。六郎はその辺で拾ったフルフェイスヘルメットを被り、ホームセンターにあったアルミ板を腕に巻きつけている。無いよりはマシになるだろう。

 

後ろの3人は言われる前からリベットガンを構えて待機していた。いつでも撃てる。撃つことに最初は罪悪感や心理的障壁を感じた。でも、3体目を撃つ頃には、みんなそんなものは消え失せていた。生き残りたければ撃て、死にたくなければ撃って、屍を踏み越えろ。それ以外にありえない。

 

屋上へ続く階段には奴らがたむろし、ドアをガンガン叩いていた。ドアの向こうからは微かに悲鳴じみた声が聞こえる。まだ生きているのかもしれない。

 

「撃て野郎ども! 1匹たりとも逃すな!」

 

悠人が叫ぶと、奴らはドアを叩くのをやめて一斉に振り向いた。その視線の先には、タフな工業高校生4人がリベットガンを向けていた。

 

その銃口から飛び出した釘が奴らの頭に突き刺さっていく。だが、階段を埋め尽くす奴らを倒すには些か火力が不足しているようにも思えた。

 

「ああチクショウ! カズ! 吹っ飛ばせ! タカ! ショットガンを使え! 弾種、バードショット(鳥撃ち)弾!」

 

悠人と孝弘は銃砲店で譲ってもらった散弾銃に持ち替え、バードショット弾を装填した。1発のショットシェルの中に細かい弾が数十から数百入っている散弾だ。日本で所持できる民間用の散弾銃はマガジンに2発しか装填できないようになっている。だが、2人がもらってきたレミントンM870は予め薬室に1発込めておけば、マガジンの2発とで計3発装填できる。

 

「くたばれクズどもが!」

 

先に孝弘が発砲する。とはいえ、散弾が散らばるには約2mの距離を要する。少し近いのか、あまり散弾がバラけていないようだ。それでも、リベットガンと違って2〜3体ほどまとめて吹っとばせるのは強みだ。

 

「弾切れ!ユート!」

 

「おう!」

 

孝弘の散弾銃が弾切れを起こすと、今度は悠人が前に出て発砲する。そうすることでお互いの再装填を援護するのだ。ちなみに、狙撃銃をもらった六郎は仕方なくリベットガンで応戦している。

 

「爆破準備完了! 巻き込まれるな!」

 

和俊が小型ガスボンベに即席爆薬を貼り付けた爆弾に点火、奴らの群れに投げつける。それを見た3人は曲がり角に身を隠した。爆発に巻き込まれたら痛い目を見る。

 

階段からドン、と爆音が腹の底まで響いてくる。それと同時に奴らの呻き声も聞こえてきた。ガス爆発とガスボンベの破片があたりの連中を吹き飛ばしたのだろう。何体かが階段から吹き飛ばされ、目の前に落下してきた。とりあえず、致命傷を負って動かなくなっているようだ。

 

「まだ残ってるぞ! 殲滅しろ! 一匹たりとも逃すな!」

 

悠人が先陣を切って倒し損ねた敵を倒しに行く。至近距離での乱戦ならこっちだとばかりにネイルガンを構える。側面には銃砲店でオマケとしてもらったハンティングナイフをビニールテープで銃剣のようにくっ付けてある。

 

「ユートに続け! あのバカを死なせるな!」

 

孝弘がそう叫んで突撃すると、和良と六郎もそれに続いて突撃する。死に物狂いの突撃で、4人が我に返った頃には動いているのは自分たちだけという有様だった。ハンティングナイフからは血が滴り、和良と六郎のフルフェイスヘルメットのバイザーは返り血に染まってしまった。

 

「集合。屋上に奴らがいないとは限らないから、突入体制を取れ。俺のコンバットバイブルにあっただろ?」

 

悠人がそう言うと、孝弘を先頭として、和良、六郎の順で壁に肩をつけるようにして並び、悠人がドアの前に立った。全員、ネイルガンをいつでも撃てるように構えている。

 

「行くぞ!」

 

悠人はドアノブを捻り、思い切りキックしてドアを蹴破る。間髪入れずに孝弘が飛び込み、和良がそれに続く……はずだった。

 

孝弘は何者かに頭をシャベルでブン殴られて昏倒した。いつもサバイバルゲームで使ってる陸自仕様のヘルメットを被っていなければ、頭蓋骨にまでシャベルの刃が届いていたかもしれない。

 

「タカ!」

 

和良が飛び込み、孝弘を昏倒させた犯人にネイルガンを向ける。どう見てもそいつは目がイっちゃってる女子だった。ネイルガンを腹部に向けて威圧するが、いつ口火を切ってくるかは分からない。(相手を威嚇する際は、頭より腹部に向ける方が有効なんだとか)

 

六郎と悠人も飛び込み、周りの女子生徒たちに威嚇する。後から来たクセにと言われそうだが、自分の身を守るにはこれしかない。こういう時は化け物より人間の方がおっかないのだ。

 

「おいタカ! 生きてるか?」

 

悠人はミリタリーブーツの踵で孝弘の肩を蹴る。孝弘は身悶えすると、ガンガンと痛む頭を抱えながらなんとか起き上がった。まだフラフラしているが、命に別条は無さそうだ。

 

「クソッタレ……全くもって派手な歓迎してくれるじゃねえか……苦労して化け物ども殲滅したと思ったらシャベル攻撃かよブリャーチ!」

 

暫く一触即発の状態が続く。先に気を抜いたら殺られる。どちらにもそう言う雰囲気が漂っていた。

 

「どっちも武器を下ろして!」

 

その声の主は若い女性教諭だった。すると、女子生徒がシャベルを下ろしたので、悠人も武器を降ろせとハンドサインを送り、ネイルガンを下ろさせる。すると、孝弘がその場に膝をついた。思ったよりダメージが大きかったらしい。六郎がヘルメットを外して孝弘を引っ張り、その場から離れたところに寝かせる。脳震盪のようだ。

 

「あなたたちは何者? この学校の生徒ではないようだけど……?」

 

さっきのシャベル女とは別の女子生徒が悠人に声を掛けた。悠人は警戒を解かぬままそれに答える。

 

「巡ヶ丘北工業高校2年生、南原悠人以下4名。外から生存者の姿を認めたので化け物の群れを強行突破してここまで参りましたよ……っと。これでいいか? あと、噛まれたりはしていない。これ付けてるからな。」

 

悠人は袖をまくってみせる。腕にはアルミ板が巻き付けられており、奴らの歯を防げるようになっていた。

 

「北工業高校……?」

 

ああやっぱり警戒されるか、と悠人は心の中で溜息をついた。この辺りじゃ東商業高校と並んで治安の悪い高校として知られているからだ。何度不良の抗争に巻き込まれかかったか数え切れない。学校にバリケード作って不良共を防いで築城の神と呼ばれるようになるわ散々だった。悠人はなんであんな学校入ったんだろう? と思い返した。

 

「そ。迫り来るヤンキー共を即席バリケードで撃退したっけ、在りし日の学園闘争再びかと校長に勘違いされて、大目玉食らった築城の神ですよーだ。で、さっきシャベル女にぶっ倒されたのが、工作機械あればなんでも作る変態。」

 

「おいこの野郎……変態じゃねえ変人だ……」

 

「何? 猿人? どっちでもいいか。」

 

「機械使う猿人がいてたまるかよ……」

 

そんなことを言っていたら、耳(?)つきの帽子……ニット帽だろうか? を被った女子が笑いだした。

 

すると、閉じたドアからまたドンドンと音がしてきた。誰か来たのかそれとも奴らが……

 

「おーいカズ、爆弾まだある?」

 

「ありったけ。」

 

「上出来。ロク助一番装甲厚いだろ? ちょっと様子見するから手伝ってくれ。殲滅したらタカを俺が担ぐ。」

 

悠人がパッパと指示を出して戦闘態勢を整える。すると、普通そうな女子が声を荒げた。

 

「ちょっと! 何する気!?」

 

「あー? 俺たちゃ招かれざる客のようだから移動するんだよ。制圧しなきゃここ通れないだろ? 別の出口あるわけでもあるまいし、そこのダクト通ろうにもぶっ倒れてるタカ担いで降りられるわけねーし。ロク助、一瞬だけ開けるから生きてるか死んでるか見てくれ。」

 

「了解。」

 

悠人は慎重にドアノブを回すと、ドアが開い物凄い勢いで押された。

 

「死んでる! かなりいるぞ!」

 

「撃て! 押されそうだ!」

 

六郎はわずかに開いたドアから奴らへネイルガンを撃ちまくる。わずかに押す力が弱くなった。そう感じた悠人は和良に『爆破しろ』とハンドサインで合図する。和良はニヤニヤしながら導火線に点火して、わずかに開いたドアから廊下に即席爆弾を投げ込んだ。

 

「押せ!」

 

悠人が叫ぶと、六郎が射撃を中断してドアを一緒に押して閉じた。それと同時に2人はドアに足を向けて伏せる。

 

ドン、と爆音が響き、静寂が訪れる。一掃したようだ。

 

「クリアだな。早くタカを連れて行こう。持てない荷物は遺棄するかの……」

 

悠人は孝弘のバックパックを見て溜息をついた。ちょっと捨てるには惜しいのだ。

 

「ねえ……今出て行くのは危険よ?」

 

女性教諭がそう悠人たちに言う。

 

「とはいえ、ここじゃ雨風しのげないですよ? 下を制圧してバリ張るならまだ話は別ですがね。まあ、俺らの居場所がないのには変わりねっすよ。」

 

六郎は諦めの混じった声色でそう言う。奴らが来る前にここから撤退したかった。

 

「そんなことないわよ。1人でも多い方が心強いわ。それに……怪我してるお友達を連れてここから出るのは……」

 

六郎は倒れている孝弘を見た。まだ安静にしていた方がいいだろう。下手に動かせるような状態ではない。

 

「ねえユート。どうする?」

 

「しゃーねーだろロク助。敵の敵は味方の理論で協力するしかねえ。タカがまだ動かせそうにない。脳出血とかねえことを祈るばかりだ……日没までに下の階を制圧、バリを張る。」

 

「あたしもやるぜ……」

 

さっきのシャベル女が言う。信用できるのか? 悠人は疑念を抱いた。

 

「じゃ、俺がそいつと組む。俺ならシャベル一撃くらい耐えられるからよ。」

 

六郎がそう名乗りを上げた。悠人は静かに首肯する。

 

「そう言うわけでよろしく頼む。俺は西岡六郎。ロクとかロク助って呼ばれてる。」

 

「あたしは恵比寿沢胡桃。さっきは悪かったな……」

 

「謝罪ならこれ終わった後にしてくれ。時間が惜しいからな。」

 

くるみと六郎は握手をする。周りからも文句はなさそうだし、これでいこうと悠人は決めた。

 

「カズ、俺を援護してくれ。ロク助とくるみはおれが作業してる反対サイドを守ってくれ。絶対こっちまで入らせるな?」

 

「ユートこそ、頑丈なバリ張れよ? 頼むぞ築城の神様よ!」

 

「うるせえエレクトロニックショッカーめ。クソ長くて呼びにくいんだよその厨二じみたあだ名。さっさとショッ○ーでも○ストロンでめ好きな組織に改造されちまえ。」

 

「うるせえバーカ!」

 

そんなこんなで、作戦は始まった。

 

ーーーーー

 

「あああああ!」

 

くるみが雄叫びをあげながらシャベルを振り回し、奴らの頭をかち割る。六郎はその脇からネイルガンに装着したハンティングナイフで奴らを串刺しにしていく。釘の残りが気になってきたので、少しでも節約したかった。バリケード構築にも釘が必要だからだ。

 

すると、悠人と和良が走ってきた。向こう側のバリケードを作り終えたのだろう。

 

「遅え!」

 

「間から入れないようにと、倒されないように2列にしてたんだよ! そいつらはカズが殺るから机持ってきてくれ!」

 

悠人と和良がやってくる奴らとの戦闘を受け持ち、六郎とくるみは手頃な教室から机を集める。天板が木製であるのが救いだ。

 

「これを喰らえぇぇぇ!」

 

廊下から和良の雄叫びが聞こえてきた。不味いと直感した六郎は廊下に出ようとしていたくるみを制止する。

 

「待て! 出るな!」

 

すると、和良が教室に飛び込んできた。だが、悠人が先頭に夢中で反応が少し遅れたようだ。

 

「このクソ野郎!」

 

その次の瞬間、爆音が轟いて奴らのバラバラになった体とともに、悠人が吹き飛ばされた。まるで棒高跳びでもしているような感覚で、頭を廊下にぶつけた衝撃で我に返った。額にガスボンベの破片が一枚突き刺さっていたのを忌々しそうに引っこ抜いて投げ捨てると、立ち上がってバリケード作りを再開した。

 

簡易的なバリケード作りは2時間ほど掛かった。人員をバリケード内に移動させた後、六郎は女子とともにバリケード内の清掃(六郎は主に死体の始末)後の2人はあちこちを漁って針金や釘など、使えそうなものを引っ掻き集めてバリケードの補強に掛かった。机同士を針金やワイヤーで縛り、更に短く切った針金をつけて有刺鉄線に変えていく。暗くなる頃には、一応の安全地帯が完成した。

 

ーーーーー

 

そんな功労者の4人はその夜、狭い教材準備室に閉じ込められた。武器も食料や水の入ったバックパックも没収されている。あの教師……めぐねえこと佐倉慈が弁護してくれたが、真面目そうな奴……若狭悠里が危険だと主張し、隔離というか監禁される羽目になったのだ。ブロックタイプの栄養補助食品と水を幾つか渡され、後のものは全て没収……俺たちが命がけで入手した糧を、どうしてこうもあっさり奪われなければならない? それに、俺たちはこんな事されなきゃならない事をしたのか? 悠人たちの心の中に疑念や怨み、怒りが渦巻く。

 

理不尽すぎる。ここまで奴らを倒したことで蓄積していた罪悪感やストレスが、この一件で憤怒に姿を変えた。まるで燃料のように、悠人たちの怒りを激しくした。

 

暗い部屋の中、4人は項垂れながらも目つきは鋭いままだった。ここを4人で制圧してしまおうか……そんなことを本気で思うくらいに4人の精神状態は悪くなっていた。

 

その時、誰かがドアをノックした。悠人たちは咄嗟に身構え、殴り合いになっても対応できるよう覚悟を決めた。

 

入ってきたのは慈だった。4人は多少肩の力を抜くが、まだ警戒は解かない。すると、慈は低姿勢で構えている4人の前にしゃがんだ。4人は困惑しつつも、それにつられてその場に座る。

 

「ごめんなさい……あんなに頑張ってもらったのにこんな事になって……」

 

4人は何も言わない。少し落ち着いてきたとはいえ、まだ心の中では不満がくすぶっている。

 

「私がどうにか話をつけるから、もう暫くだけ耐えてもらえないかしら……?」

 

「でも……!」

 

六郎が立ち上がった。耐えきれなくなっているのだろう。

 

「俺たちがあんなに苦労して引っ掻き集めた物資も何も取り上げかよ! 自分たちが生き残るために集めたのに、まだ協力するともなんとも言ってない奴らに横取り!? それで俺たちはどうしろと!? 武器も装備もなきゃ食料を確保にも行けねえ! 餓死しろってのかよ!? やってられるか! どうして……どうして……!」

 

六郎は泣き出してしまった。ただでさえ死体であるとはいえ、人を撃った。そのストレスや、この一件でのストレス、そのすべてに押し潰されそうになっているのだ。

 

慈はそんな六郎をそっと抱きしめた。六郎は突然の事に反応できず、ただされるがままになっている。

 

「ごめんなさい……」

 

六郎はそのまま泣き続けた。これのおかげで4人は自決や武器を奪い返して制圧、ということを実行せずに済んだ。

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