学園生活部 校外遠征班!   作:Allenfort

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第6話 和解

次の日。戦闘服のままで眠っていた悠人は窓から射す朝日に叩き起こされた。これだけのことが起こってまだ1日……おはよう、人生で最もクソッタレな朝。世紀末及び監禁2日目。とはいえ、初日よりは少しだけ落ち着いた気がする。頭に血が上り過ぎていたのかもしれない。

 

化け物どもに釘や弾丸を撃ち込んだ瞬間が沸々と脳裏によぎり出した。人を撃った、そんな思いが今になってよぎり始めた。悠里たちにネイルガンだって向けたけど……正直撃てなかった。足が震えているのは気づかれなかっただろうか? トリガーにかけた指が震えているのも……兵は殺されることより殺すことを怖れると聞いたことはあるが……本当のようだ。じゃあ何であいつらを撃てた? きっと、生存に必要かどうかだろう。

 

悠人は腕立て伏せを始めた。ミリタリー関連の本に書いてあったのだ。捕虜になるなどして監禁された場合は簡単な日課を定め、それをこなすことで精神を安定させると。めぐさんがきっとなんとかしてくれると、今は信じて待つしかない。それにしても、昨日は麗しき女性の前で号泣してしまうとは、情けないことをしてしまったと多少自己嫌悪していた。

 

さて、そろそろ眠りこけてる3人を叩き起こすとしようか。悠人は金属製と思われる戸棚をミリタリーブーツの爪先でガンガン蹴った。

 

「起きろ起きろ起きろ! マスかきやめ! パンツ上げ!」

 

「おはようございますハー○マン軍曹!」

 

「は、ハート○ン軍曹だと!?」

 

「微笑みデブとだけは呼ばないでください!」

 

某鬼軍曹の真似をしてみたら、この3人には効果てきめんであった。1発で起きた。次からこうやって起こすとしようか。

 

すると、ガラッと勢いよく扉が開き、なぜか金属製の鍋を被って銃剣つきネイルガンを持った慈が飛び込んできた。これには悠人たちも驚いた。

 

「な、何事……!?」

 

どうやら、悠人が棚を蹴飛ばした音に驚いたようだ。まさか仲間を叩き起こすために棚を蹴飛ばしました、なんて言えないので、咄嗟に悠人は出任せを言った。

 

「ゴキゴキがいたので蹴り殺そうとしたら逃げられました……」

 

もちろん、そんな事を聞いた慈はキャーと悲鳴を上げ、ネイルガンを放り投げて逃げ出してしまった。ゴキゴキは外をうろついてる奴らより怖いのかもしれない。

 

「やばいぞユート! マジで出やがった!」

 

孝弘が叫んだ。悠人は咄嗟にネイルガンを構えると、一撃でゴキゴキを串刺しにしてみせた。身の毛もよだつとはまさにこの事だ。

 

「時に……バールとかない?」

 

ゴキゴキを貫通した釘は床に刺さっていた。あの釘に素手で触りたくはない。嫌だ嫌すぎる誰かバールをくれ。タクティカルグローブをゴキで汚染されたくねーよ俺のは指ぬきだよと、思案する悠人の前で押し付け合いが始まる。

 

もちろん、慈が悲鳴を上げてすっ飛んで行ったのだから、当然悠人たちが何かをやらかしたと思った悠里たちが没収した武器を持ってすっ飛んでくるわけで……

 

「う……動くな!」

 

悠里は慣れない散弾銃を悠人たちに向けて叫んだ。アレにはバードショット弾が装填されている筈である。もちろん、撃たれたらミンチよりひどい事になる。だが、悠人たちは冷静だった。取り乱す事もしなければ、ただ呆れたという目で悠里を見ていた。

 

安全装置(セーフティ)が掛かったままだぞ?」

 

昨日、悠人たちは没収される寸前に銃に安全装置を掛けていた。相手は銃に関してはド素人のはず。それに賭けてツカツカと悠人は悠里に歩み寄っていく。

 

「こ、来ないで……!」

 

銃身が震えている。否、悠里が震えているのだ。指を掛けたトリガーは引かれることはない。引いているけど引けないのだ。

 

悠人は銃身をつかんで悠里の手から散弾銃を奪い取ると、ハンドグリップを前後にスライドさせて装填してあるショットシェルを抜き取った。

 

「レミントンM870。アメリカのレミントンアームズが開発した散弾銃で、堅牢な作りであるために世界各国で民間用の他、軍や警察でも使われてる。日本でも狩猟用として手に入るぞ。誰でも買えるわけじゃないけどな。」

 

悠人はショットシェルを拾ってポケットに突っ込むと、銃口付近をつかんで銃床を床につけ、気をつけの姿勢をとってみせた。

 

「あ……」

 

悠里は震えていた。人に銃口向けて、トリガーを引こうとしたのだ。訓練された軍人ならまだしも、ただの女子高生には心理的負担が大きいだろう。

 

「案外、人って殺されることより殺すことの方を恐れるのかもしれないな。ほら、震えてるぞ?この銃、そんなに重いか?」

 

悠里はその場にへたり込んでしまった。息は荒く、脈も早い。悠人は最初に奴らを撃った時、異常に心拍が高まり、意識を持っていかれそうなほどのプレッシャーを感じたことを思い出した。自分はタガが外れたのだろうか。それとも、乗り越えてしまったのだろうか。複雑な思いで悠里を見つめていた。

 

「お前は撃つな。後には戻れなくなるぞ……?」

 

悠人はしゃがんで有利と目線を合わせると、そう語りかけた。

 

「おい! 誰かバール持ってないか!? これ抜きたいんだけど!」

 

「うわっ、何だよそれ!?」

 

その後ろでは、孝弘とくるみがゴキゴキの串刺しを見て悲鳴をあげていた。結局、バールで釘ごと引っこ抜いて窓の外に捨てたらしい……

 

ーーーーー

 

午後、悠人たち4人は生徒会室に集められていた。他には悠里、くるみ、ゆき、慈がいる。どうも、男4人組の処遇に関しての話し合いらしい。ところで、女子が何だか具合悪そうにしているのは気のせいだろうか……ああ、ゴミ箱から顔を出しているMREレーションのパックで理解できた。アレを食ってしまったか……

 

米軍で使っている戦闘糧食で、食べ物に似た何か、だのミステリーだの形容される程マズイと有名であり、賞味期限が切れて民間に払い下げられたものを六郎が機械工作コンテストの賞金叩いて買ったものなのだ。本来はディスプレイ用、食べるなら自己責任でお願いします……というものだ。

 

「……食ったようだな、MREを……」

 

男子4人の中で唯一試食経験のある六郎は何とも複雑な表情を浮かべた。昨日の仕返しと思えば多少は気が楽になるが、それ以上に哀れで仕方ないのだ。きっと、付属のタバスコが足りない上に、わざと便秘になるように作られているという予備知識もなしだから、現在進行形で痛い目を見ているだろう。まあ、3番のメニューだから豆のトマトソース煮はマシだっただろう……

 

「……ごめんなさい。」

 

悠里は六郎の視線の先、MREのパッケージを見てしまい、顔を青ざめさせながら謝罪した。さすがに可哀想になった悠人はさりげなく助け舟を出すことにした。

 

「ロク助、あれってワザと便秘になるようにできてるんだっけか?」

 

六郎は悠人の意図を理解したのか、縦に頷いてみせた。

 

「ああ。戦場でトイレ行きたいなんてならないように食物繊維少なくしてあるからな……付属の緩下剤入りのガム噛まねえと地獄を見るぞ。」

 

これに気づいてくれるといいな、ガム捨てたか誰かが全部噛んだとかじゃなければ助かるはずだ。

 

「それで……何の用だ?」

 

孝弘はそろそろ本題に入れと言わんばかりに切り出す。

 

「そうね……まずはこれ、返すわ。」

 

慈は昨日悠人たちから没収したバックパックと武器を机に置いた。多分、MREという地雷が仕掛けてあったことも返還に一役買ったのだろう。クッキーや水はいくつか無くなっているが、まあいいだろう。

 

「よかったよかった……米軍払い下げのALICEパック、高かったから戻ってこなかったらどうしようかと……」

 

「おいユート、飯の心配よりそっちの心配かよ? わからなくもねえけどさ……」

 

六郎は苦笑いを浮かべてバックパックに頬ずりする悠人を見つめた。

 

「それでもう一つ……ここに残る気はないかしら?」

 

は? と男子4人は素っ頓狂な声を上げた。昨日のアレの後にこれかよと。とはいえ、この学校は捨て置くには惜しい設備が山ほどある。ソーラーパネルを見た時なんて、電気科の六郎が目を輝かせていたのだから。

 

「昨日はごめんなさい……その……北高生だって言うから危ない人と思って……」

 

そういう悠里の横で慈がウインクしてみせた。それで悠人たちは理解した。説得が上手くいったのだろう。

 

「じゃ、どうやって危ない人じゃないって判断したんだよ?」

 

おいカズ、そこを突っつくな。お前は俺らの中では一番危険な人物として扱われているからな? と3人は同じことを考えていた。特に、悠人は昨日の誤爆をまだちょっと根に持っているようだ。

 

「これよ。」

 

慈が取り出したのは、図書室などで無料配布されている技術系の薄い冊子だった。そこには、全国機械工作コンクール最優秀賞のチーム、悠人たち4人の写真があった。

 

「まさか、ノリで始めたコレに助けられるとはな……」

 

孝弘は肩を竦めて苦笑いを浮かべた。あのプロジェクト1番の功労者は案外謙虚なようだ。

 

「ええ。おかげで真面目なんだって分かったわ。それに、本当に危ない人なら昨日何度も私たちを撃つチャンスはあった……でしょう?」

 

悠人に3人から視線が突き刺さる。今は従えと言った張本人であるが故にだ。そういや何で撃たせなかったんだ? という疑念だろう。後でゆっくり言い聞かせよう、悠人はそう思った。

 

「だって悠人が撃つなって言うんだから仕方ねーだろ。」

 

六郎はそうボヤく。悠人は余計なこと言うなとばかりに六郎の頭を小突いた。結局、悠人たちは学校に残ることに決めた。武器は自己管理や食料の確保などの条件をつけて。悠人の指示とはいえ、まだ不満に思っていた六郎も、慈の説得を受けて残ることにした。

 

ーーーーー

 

「かーっ! シャワーが気持ちいい!」

 

「おいロク助、シャワーくらい黙って浴びろよ。」

 

和良は六郎を嗜める。4人は校内のシャワー室を借りて汗を流していた。正直、あっちこっち走り回ったおかげでかなり汗臭くなっていたはずだ。猿や犬よりひどい臭いかもしれない。

 

そうしてサッパリした4人は予備のズボンを履き、上半身は何も着ずに脱衣所で水を飲んでいる。そこへ、誰かの足音が近寄ってきた。が、シャワー後の一杯に夢中な4人はそれに気づかなかった。

 

「きゃぁぁぁ!?」

 

4人が何事かと振り向いてみれば、悠里とくるみとゆきが腰を抜かしていた。

 

「な、な、な、何て格好してるんだよ! というより、何でここにいるんだ!?」

 

「凄い! マッチョマン!」

 

くるみと悠里は手で顔を覆っている(でも指の隙間から見てる)し、ゆきは和良の腕に飛びついてぶら下がっている。流石ラグビー部の和良、ゆきにぶら下がられたくらいではビクともしない。ダボっとした戦闘服の上からは分かりにくいが、悠人と孝弘は野球部、和良と六郎はラグビー部で鍛えられているため、かなりがっしりしている。

 

ちなみに、男子4人は何でそんなに悲鳴を上げられるのか理由が理解出来なかった。慈にシャワー使っていいと言われたから、てっきり話は通してあるものと思っていた上に、長い男子ばかりの工業高校ライフの弊害か、上半身何も着ずに恥じらうことがなかったからだ。

 

結局、和良はしばらくゆきの遊び道具にされていたらしい。

 

ーーーーー

 

長い回想を終えた悠人は天井を見上げた。懐かしいなアレ。そんな感慨に浸っていた。あの時撃たなくてよかったと思えた。

 

「よ、よく耐えましたね……」

 

「何に?」

 

美紀が何のことを言っているのか、悠人には理解出来なかった。

 

「いや……武器とか没収って、その場で普通撃ちますよね……?」

 

「いや……だってあの時後ろにソーラーパネルあったから流れ弾当たったらヤバかったし……」

 

「そんな理由!?」

 

「それは理由の半分。あとは……俺たちゃ後から割り込んだわけだし、他にも……」

 

悠人は分解していた散弾銃を組み立て、何もないところへ向けて構えた。

 

「俺たちはこいつを実戦で使ってるわけで……あの時りーさんたちを撃ったらどうなるかが鮮明に浮かんでさ……」

 

「まあ確かにな……りーさん撃ってたらトラウマ残ったろうな……化け物撃つのは生き残るために仕方ねえって割り切れるけど、りーさんたち撃つのは割り切れそうもねえし……あんときゃありがよと分隊長!」

 

孝弘は悠人の頭を小突く。

 

「誰が分隊長だ間抜け。めぐさんの説得にも感謝しとけ。じゃなきゃ撃たないって決心決めかねたんだからな。めぐさんに今は信じて武器(工具)を、置いて、なんて言われたら抵抗の意思も失せるっての……」

 

悠人は溜息をついて眉を曲げた。もし、ここを制圧すると決めていたらどうなっていただろう? だが、コーヒーをすすって思考を断ち切った。何が正しくて何が間違っているなんて、人それぞれだ。今正しかったと思っても、それは今の状況というバイアスがかかっているから正確とはいえない。でも、俺はこれが正しいと信じてそうした。ならばその結果に満足するべきだろう。

 

「おいユート、セーフティ掛け忘れてるぞ?」

 

孝弘が横から手を伸ばして散弾銃のセーフティを掛けた。すると、悠里がビクッと震えたような気がした。悠人はいたずら半分に、悠里の耳元で囁く。

 

「……セーフティ。」

 

すると、やっぱり震えた。あの時のアレのせいでセーフティが怖くなったか? そう思うと何だか笑えてきた。くるみや美紀もその様子を見て笑っている。

 

「な、何よ!」

 

悠里に背中をポカポカ叩かれながら、悠人はニヤニヤ笑っていた。弱点みーっけ、顔にそう書いてあった。

 

「りーさんも、あの時に比べりゃ丸くなったよな。」

 

「ユートも丸くなってるわよ? 頭が。」

 

「う、うるせえ! 元々だろう! 野球部だったんだからよ!」

 

悠人は頭にタオルを巻いて坊主頭を隠した。同じく坊主の孝弘もそそくさとヘルメットを被って頭を隠していた。

 

「そういえば、私の時はどうでしたっけ?」

 

美紀がふと、そんなことをいう。

 

「ああ、ロク助が誤爆食らって吹っ飛んだ時のか〜……そういや、あれって記念すべき校外遠征班20回目の遠征だったな。」

 

悠人は悠里のヘッドロックを食らいながら答える。悠人は別にマゾヒストではないが、悠里はそんなに力がない上に、ヘッドロックされた状態だと悠里の豊満な胸が後頭部に当たるため、何だかんだ役得なのだ。

 

「そうね……あの時は……」

 

学園生活部の面々はまた回想を始めた。

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