売れないミュージャン、ニックは


とある雨の日、1匹の子猫に出会う。


これは彼らの音楽

僕らの歌を描いた物語。



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僕らの歌

今日は雨の日。

 

 

強烈な雨風が、目に入る。

 

 

 

 

 

前が見えない。

 

 

 

まるで、俺の人生の様に。

 

 

 

 

 

「今日も獲物は0か...」

 

雨で湿気たケースに入れたアコースティックギターを抱えながら、

彼は深刻そうに呟いた。

 

「後でまたバイトか…。さすがにキツいな…。かといって休むワケにはいかないし…。」

 

よりによってこんな雨の日に路上ライブなんてするんじゃなかった。

 

やっても結果はわかっているのに。

 

 

 

彼がとぼとぼと歩いていると、道端に落ちていたチラシが気になった。

 

拾って見てみると、「Music tournament 応募者募集!」という

文字が目に入った。全国的にも有名な、音楽番組だ。

 

「出てみてぇなぁ、優勝賞金は…100万か。まぁ、夢のまた夢だけど。」

 

彼は雨で濡れたチラシを4つに折りたたみポケットに入れ、また家への帰路に足を前へ運ばせるのだった。

 

 

 

 

 

みゃおん

 

 

 

 

 

 

彼の帰路を遮るように、1つの掠れた声が聞こえてきた。

 

彼が声のした方に目をやると

 

そこには 小さな 馬の被り物…

 

ん?

 

 

馬の被り物?

 

馬の被り物が 何で動いてるんだ?

 

 

恐る恐る近づいて 被り物を取ってみると

 

 

衰弱した 子猫がいた。

 

 

子猫は、彼の顔を見ると

 

みゃおん と 甘えるようにして 鳴いた。

 

 

「お前も、1人なのか。」

 

 

俺といっしょだ。

 

 

「可哀想に、びしょ濡れじゃないか。」

 

彼は衰弱した子猫を抱えると、また再び家への帰路へと駆けたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…よし、出来たぞー。」

 

家に着いた彼は真っ先に子猫に応急処置をし、食事を作っているところだった。

 

「お前、本当にちっさいなぁ。お、でも食い意地は良いみたいだな。」

 

子猫は先程とは変わって、かなり元気になったようだった。

 

彼は腕時計に目をやる。

 

「バイトの時間だな…。ちょっとだけ ここで待っててくれるか?」

 

子猫は返事をするように尻尾を振った。彼はその返事を理解し、子猫に手を振って場を後にした。

 

 

 

 

 

「ただいまー。」

 

と、彼が帰ってくると

 

とてとてとて と廊下を子猫が彼の方へと駆けてきた。

 

どうやらすっかり、彼に懐いてしまったようだ。

 

「遅くなってごめんな。お詫びにほら、おもちゃ買ってきてやったぞ。」

 

そう言うと彼はビニール袋から、青いボールを取り出した。

 

子猫はそれを見ても何かわからなく戸惑った様子だったが、すぐに転がしたり、噛んだりして遊び始めた。

 

「気に入ってくれたか。そりゃ良かった。」

 

と、彼は笑顔を見せた。

 

「さて、どうすっかな…こいつ。」

 

彼は腕時計を見た。針は午後5時を回っていた。

 

「まだ時間があるな…。もっかい弾いて、その時に保健所にでも連れて行くか…。」

 

そう言うと彼は、アコースティックギターの入ったケースとリュックと子猫を抱いてドアを開けた。

 

 

 

家から歩いて10分ほど、彼らは公園の噴水の前辺りに座り込んだ。

 

「これでダメだったら、もう辞めようかな…。」

 

そう言うと彼は立ち上がり、ギターを構えた。

 

 

 

そして、奏で出す。

 

 

 

彼のギターから奏でられる音は まるでオーケストラの様に壮大で、

 

とても魅力的だった。

 

 

 

周りを歩いていた人達が一斉にこちらを向き、彼の周りを囲うようにして彼の演奏に耳を傾け始めた。

 

 

 

今回なんか、ギャラリーが多いな…

 

 

 

彼はこの客足の変わりように、驚きを隠せなかった。

 

 

 

そんな中、演奏はクライマックスへと突入し

 

 

 

彼の奏で歌う音楽は、一層と盛り上がっていく

 

 

 

 

そして、彼は右手を大きく上に挙げ

 

 

 

 

最後の1フレーズを演奏し、ライブは終了した。

 

 

 

 

 

周りから、割れんばかりの拍手が巻き上がった。

 

 

 

彼は動揺を隠せなかったが、観客に礼を言うと、逃げるようにその場を去った。

 

 

 

涙が止まらなかった。

 

 

初めての歓声に 初めての拍手に

 

 

 

「やった…やっと夢が叶った…。」

 

 

 

 

彼は子猫を抱きしめ、家へと駆けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

家に着いた彼らはリビングの床に腰を下ろす。

 

子猫はボール遊びへと足を運ばせた。

 

しばらくすると彼は、何か思いついた様に口を開いた。

 

「自己紹介がまだだったな。俺はニックってんだ。一応ミュージシャン。まぁ、全く売れないけどな。」

 

彼は子猫へ簡潔に自己紹介を済ませると、立て掛けていたアコースティックギターのネックを、大事そうに撫で始めた。

 

「こいつは俺の相棒だ。もう7年の付き合いになる。俺の右手みたいなもんだ、絶対欠かせない。」

 

子猫は彼の話を聞かず遊んでるように見えたが、彼は話を続けた。

 

「毎日のように路上ライブをやってよ…。それでも拍手を送ってくれた客はごく数人だった…、現実を見せられたよ。」

 

そう言うと彼はギターを構え

 

さっきの曲のラストの1フレーズを演奏し始めた。

 

演奏しながら 彼は言う。

 

「でも、今日みたいなライブは初めてだった。観客のあんな声援、聞いたこと無いしよ。涙が出ちまった。」

 

1フレーズを演奏し終わった彼は、子猫に言う。

 

「お前が来てから、変わった。俺の演奏は変わった。大袈裟だけど、運命を感じるぜ。」

 

そして彼は、子猫を抱き上げて言った。

 

 

 

「俺んとこで暮らさないか?俺といっしょに、みんなを驚かそうぜ。」

 

 

 

子猫はそれに応えるように、みゃおん と鳴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、バイトから帰ってきた彼は子猫を呼んだ。

 

「ハル!行くぞ!」

 

 

彼は子猫を ハル と名付けたようだ。

 

 

彼らは弾む様な足取りで、いつもの公園の噴水前へと

足を運ぶのだった。

 

 

 

それからの彼らのライブは、流れるような快進撃を見せた。

 

 

人から人へと話題になり、公園は人でいっぱいになった。

 

 

ギターケースの半分がお金で埋まるほど、彼らの人気は絶頂だった。

 

 

 

 

ある日の事だった。彼が作曲にペンを走らせてていると、子猫が近寄ってきた。

 

「お、どうした?ハル。今、俺は曲作ってんだ。俺ら2人の曲。」

 

彼はそう言うと、ポケットから何か取り出した。

 

それは、あの雨の日に拾ったチラシだった。

 

「俺、1週間後のこの大会に出てみようと思うんだ。今の自分を試したい。どこまでいけるか気になるんだ。いいか、ハル?」

 

もちろん と言うように子猫は みゃおん と返事をした。

 

よし と返した彼は 引き続き作曲の続きを始めた。

 

1フレーズ弾き、少し考えノートに書き、を繰り返す。

 

部屋には、彼のギターとペンの走る音だけが聞こえる。

 

 

 

あまりにも、静かだ。

 

おかしい。

 

 

 

そう感じた彼はノートから目を離し顔を上げた。

 

 

 

彼の目に飛び込んで来たのは 横に倒れた子猫だった。

 

 

「ハルッッ!!」

 

 

彼はペンを投げ捨て、一目散に子猫に駆け寄った。

 

 

 

何故急に?

 

 

 

「息はしてるな…早く動物病院に。」

 

 

彼は家から飛び出すと、子猫を抱え動物病院へと駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

動物病院に着き、子猫は緊急で手術室へと入った。

 

 

彼の頭の中は不安と心配でいっぱいだった。

 

家の鍵をして来なかったが、そんなの関係なかった。

 

どんなものよりも、子猫が彼にとっては1番の宝物だったからだ。

 

ギターは彼の右腕でも、子猫は彼の兄弟のような存在だったからだ。

 

「無事でいてくれよ…、ハル…。」

 

 

 

約2時間後、手術中のランプが消えた。

 

それを見た彼は一目散になって手術室から出てきた医師に駆け寄った。

 

「先生、ハルは…ハルは無事なんですか!?」

 

「…はい。なんとか一命は取り留めました。」

 

「そうですか…よかった。」

 

「ですが…」

 

その医師の言葉に、彼は耳を疑った。

 

 

 

 

 

 

 

「ハル…。」

 

子猫は、人工呼吸器に繋げられた経口チューブで何とか一命を取り留めている状態だった。

 

 

 

 

「原因は悪性の脳腫瘍でした。今、あの子猫が生きているのは奇跡だと思います。あと数分遅れてたら、本当に危なかった。ですが…」

 

 

医師の言葉に彼は耳を疑った。

 

 

「全ての腫瘍を切除する事は出来ませんでした。再発の可能性があります。あの子猫の命はもって…あと約1週間でしょう。」

 

「そんな…」

 

彼はその場に泣き崩れた。

 

彼の頭には疑問が飛び回っていた。

 

なぜ?

 

何でウチのハルが?

 

いつから?

 

 

彼は一気に絶望に追いやられた。

 

 

 

「ハル…。お前、ずっと苦しかったんだな。頭にでっかい爆弾抱えて、ずっと苦しかったんだな。」

 

彼は、病院のベッドに寝かされた子猫の頭を撫でた。

 

とても 温かかった。

 

余命を付けられた様には思えないほど

 

子猫の身体は 温かかった。

 

 

「ハル、俺、歌うよ。1週間後、あの舞台で。だから、お前は俺らの歌をここで聞いていてくれ。安心しろ、俺たちはどこでもいっしょだ。」

 

彼は決心したようにそう言った。

 

彼の耳には、子猫の口から みゃおん と聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

1週間後、彼は舞台に立ち 歌った。

 

 

 

 

涙を流して

 

 

あの時 作曲していた歌を 歌った。

 

 

 

 

 

 

聞こえるか ハル

 

 

俺らの歌だ

 

 

 

 

 

彼のアコースティックギターから奏でられる音楽は

 

 

 

 

 

彼らのこれからの人生を表しているかのように

 

 

 

楽しげな 音楽だった。

 

 

 

 

 

 

 

彼が演奏を終えたとき、割れんばかりの拍手と歓声が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

数ヶ月後

 

街では彼らの音楽が流れてる。

 

 

 

 

 

彼らの音楽は世界中に流れている。

 

 

 

 

 

 

 

僕らの歌は ずっと 続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この物語を読んでくださった皆さん ありがとうございます。

何か意見があればお願いします。

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