別れ際、『また会おう』という意味を込めて言う言葉だろうか?はたまた『別れる』という意味を与える言葉だろうか
それは『もう会えない』というのを伝える言葉だろうか?
さよなら、とは一体何だろうか
別れ際、『また会おう』という意味を込めて言う言葉だろうか?はたまた『別れる』という意味を与える言葉だろうか
それは『もう会えない』というのを伝える言葉だろうか?
ある日の夕方、俺は何もするわけではないけれど学校にあるベンチの上にいた
煮えたぎってしまいそうなほどに強い日光をもろに受けながらも、俺を通り過ぎていく涼しい風があるため暑さは和らいでいて、ちょうどいいくらいの涼しさを味わっている
「はあ」
溜息が漏れる
日はどんどんと地平線の彼方へと向かう、まるで世の終わりのように、赤い空は黒く染まって行く
「さよなら、夕方」
何となく、なぜ言ったかはわからない
ただ偶然言ってみたかった、それだけだ
何の意味のない、感情のないその言葉は、何故かいつものさよならという言葉よりもしっくりと来て
「こんにちは、夜」
今度は俺ではない
俺の後ろから聞こえてきたのは女性の声、澄んだ声が告げたのは人が出会う時の言葉
「貴方は夕日に挨拶する趣味でも?」
「そういう君だって夜に挨拶する趣味が?」
「いいえ、ただ……そうですね、貴方に続いた、と言っておきましょうか」
そう言いながら俺の横に座ったのは美少女というにふさわしい少女だった
流れるような金色の髪が印象強く、その次に印象といえば、彼女の碧色の目が、吸い込まれそうなほどに透き通っていることだろうか
「初めまして、君は?」
「人に名前を訪ねる時は自分から名乗るものでしょう?」
「……織村快です」
「初めまして、アイリス・ルーンフェルトと申します。よろしくお願いしますね?」
「よろしくね」
俺に笑顔を見せ自己紹介した少女のことを俺は少しは知っている
我が校の生徒会長にして、一番人気のある存在、それが彼女だ
常に成績はトップ、やれないことはないとまで言わせるほどの完璧超人
さらにその容姿からファン、そして彼女相手に恋に落ちる生徒は後を絶えない。既に非公式ファンクラブが存在し、数日前に1000人をこえたとか
「なんで君がここに?もうほとんどどころか全員と言っていいほど帰ったけど」
「私は優等生ではないのですよ?」
「俺からすれば優等生だけど?」
「そうでしょうか?」
「そりゃもう。逆に見えないほうがおかしい」
なんだか嫌味を言われてるみたいで少し腹が立った
俺はこの学校では、俗に言う劣等生という分類に所属する
そこそこの進学校であるここに入るにはそれなりの成績を有し、俺も受かったからにはまあいいほうなのだろう。けれどどの学校にも結局ワーストは存在し、俺は下から数えたほうが早い
逆に彼女は常にトップ、数えたらとかではなく、常に1位を取っている。俺と彼女とでは天と地の差があると言っても過言ではない
のに関わらずそんな人間の前で優等生じゃないって、絶対嫌味だろ
まあ自分で優等生って言う方がもっと嫌味に聞こえるけれど
「それで?なんで君がここにいるんだ?」
「理由があってここにいるわけではありませんわ。言うなれば、ただの偶然です」
「偶然、ねえ」
俺は彼女に怪しげな人を見るときの目を送るが、彼女は一向にその笑顔を崩さない
俺たちが通う学校は進学校であるために規則もかなり厳しく、最終下校時間は6時だ
けれど今の時間帯は7時になろうとしている、なのに彼女は学校に残ったままだ
明らかにおかしい。俺が言えることではないけれど、こんな時間帯にいること自体許されてはいないのだ
なのに彼女はここにいる、こんな時間までここにいて、今の所帰ろうという気も無さそうだ
……あやしい
「織村君は『さよなら』という言葉をどう思いますか?」
「さよなら?」
「そう、さよならです」
未だ崩していない笑顔を向け、突拍子のない話を持ち込まれた
「別れの際に言う言葉だろう?」
「それはさよならの使い道ですわ。私が聞いているのは『さよならは一体どのようなものか』ということです」
さよならとは一体どの様なものか?
よく考えればそんなこと考えずに使ってたな、意味もうやむやな気がするし
「貴方が言った言葉も確かに意味としてはあってます。別れの言葉としてこれは一番の汎用性があるでしょう。けれど最近の方々は言葉の意味を曖昧にして使っています。私はそれが少し悲しいのです」
「なんで?」
「さよならほど、華麗で残酷で幸な言葉はないからです」
「へ?」
初めて彼女が笑顔ではなく、悲しげな表情で告げた言葉の意味を、俺は理解できなかった
さよなら、たった四文字の言葉の中にそれほどの意味があるとは思えない
けれど、彼女は先ほど見せた悲しげな表女とは裏腹に、真剣な眼差しを俺に向け、続ける
「さよなら、とは別れの言葉。人生もう会えないかもしれない人に送る残酷な言葉。たった一言で終わってしまう華麗な言葉。けれどそれにはかならず幸が付いてくる。なぜかわかりますか?」
「何故?」
「私は答えを聞いているのであって聞き返されることは望んでいません。けれどここから先は私個人の考えですので、素直に答えましょう」
ふふふ、と笑った彼女は、自分の思ったことを素直に口にした
「昼が終わり、夜が来る。その逆も然り、夜が終われば朝が来る。終わりの後には、必ず出会いがあるからです」
「出会い?」
「そうです。遅かれ早かれ、新たな出会い、再開という形での出会いが必ず存在します。必ずしもそれが未来その人に幸せをもたらす出会いとは限りませんが、それでも誰かと出会える事はとても幸せなことだと、私は思うのです」
そういった彼女の顔はとても悲しそうで、でも何故かそれが言えて嬉しそうな、よくわからない表情を作った
何故、俺に言ったのだろうか?彼女とて親友と呼べる人がこの学校にいなくとも友達と呼べる人は居るだろうに、なぜ初対面の俺に言ったのかは、俺にはわからなかった
「貴方はこれを聞いて、どう思いますか?」
なんて聞いてくるものだから、俺はただ答えた
「結局、悲しい言葉には変わりはないよ」
等価交換、と言うには少し不公平がある
先に不幸を送りつけ、いつ幸せが訪れるかわからないのにずっと待つなんて、あまりにも悲しいものだ
だから俺は、彼女の言葉を少し弄って、口にした
「さよならって、華麗で残酷で、曖昧な言葉だね」
ええ、そうですわね
彼女の声が遠くなった気がして、俺は咄嗟に横を見た
既に彼女の姿は隣になく、段々と暗い奥に消えていく少女の姿があった
最後、彼女がこちらを振り向き、口を開いた
聞こえないはずのそれは、なぜか俺の頭にゼロ距離で言われたような感覚を与えながら大きく刻んだ
『さよなら』
それが、彼女との会話の最後の言葉だった
それから数日、彼女は姿を見せなかった
それは俺の前から、他の生徒から、先生から、この学校からだった
何も告げられていない彼らは風邪だとか、なんだとかで休んでいるのだろうと思って気に留めている様子はなかった
けれど、次の言葉が、そんな人たちの思いを砕いたのだ
「アイリスさんは、イギリスの学校に留学されました」
その言葉だけで、どれほどの人が悲しんだだろうか。その言葉をどれほどの人が信じれただろうか
しかも俺と会話した後から来なくなったから、最後の話し相手は他でもないこの俺だ
なんで最後にあんな話をしたんだ?……
「……それで」
最後の会話の題材がさよならだったのはこれが理由か
と言っても彼女の真意はわからないけれど
「ばかだなぁ」
君は、それを伝えるためだけに、あんな遅い時間まで誰かを探していたのかい?
それとも、本当に偶然かい?はたまたそれは君が最初から決めていたことだったのか?
どれだったとしても別れを告げていないのは、君はもうここに戻ってこないという事を意味指しているのからなのか
どれもわからないけれど、それでも
「昼が終わり、夜が来る。その逆も然り、夜が終われば朝が来る。終わりの後には」
必ず出会いがある
それはいつかはわからないけれど、彼女は確かに口にしている
『再開という形での出会い』もあると
ならば、俺はそれを待とう
最後に君がさよならを俺に送ったのなら、俺はその次の言葉を、君がまた来た時に送ろう
それまで、俺は君を待ち続けよう。それが君の望んだことだと信じて
ーーーそれが、今俺にできたたった一つの願いだ
あれから数年
この学校の教師に成り上がった俺はベンチに座り込んだ
あの人変わらない夕日、徐々に消えていく夕日に、俺はいつもと同じ言葉を送る
「さよなら、夕方」
「こんにちわ、夜」
俺の言葉に続いた声は、まるで俺の言葉と一対の言葉のようにしっくりとしたものだ
あの日以降、誰一人として返さなかった言葉の続きは、彼女しか知らないはずで
「おかえり」
「ただいま」
さよなら
それは美しくも儚い言葉
別れと出会いをつなぐ、運命の言葉
未来、人間が永遠に口にする、希望の言葉
運命が2人を引き合わせる為にサイクルさせる、彼らの言葉
彼らが紡ぐ、彼らが綴る、『奇跡の言葉』