奴が来る。
逃げても逃げても何処までも追って来る。
嫌だ。まだ死にたくねぇ。
何処が悪かった?何が奴の逆鱗に触れた?
軽巡が駆逐艦の世話をして何が悪い。
海の上、何処までも続く水平線。皆の姿が脳裏をよぎる。俺の部隊の駆逐艦達が次々に沈み、補充されまた沈み…。みんな、すまなかった。許してくれ。皆の骸が俺に手を伸ばしてくる。その間にも奴は俺との距離を詰める。
隠れる場所なんてない。走り続ける。走れ。走れ。逃げろ。怖い。あんな奴に殺されるなんて…。
弾がかする。燃料が限界だ。くそ、もうだめかも知れない。幸い出撃が多かった俺の練度はそこそこ高い。しかし、奴ほどではない。もう、大破してるかもしれない。自分の損傷も痛みさえもわからなくなってきた。
捕まったら、奴の刀の錆にされてしまうのだろうか。それとも、駆逐艦達みたいになぶり殺しだろうか。奴の手が迫る。左手だ。右手には、刀をしっかりと握ってやがる。
雨雲だ!助かった。此処に入れば、鎮守府の空母の飛ばしてきた艦載機も索敵機も機能しない。奴も、旧型艦だ。少しは、苦労するはず。
ズドーン!!
な、何が…。息が…苦しい。
あの時みたいに無惨に死ぬのか?俺。
「沈めよ。おとなしく。てめえの姉達や艦隊みたいにな!」
キソサーン。キソサーン。声が聴こえる。ごめんな、俺がもっとしゃんとしてれば…。提督のこと、止められれば…。お前ら、死ななかったもんな。
「い、嫌だ…ね。誰がおま…えみたいなグズに。」
ぐ、ぐぐぐ…。首が首が締まる。死にたくねぇ。
グハァ…。
離されたが、腹に刀が深々と…。息ができない。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。
助けて…姉さん……。
キソー!
ねぇ、キソ~。
キソ~。
きそー。
「木曾、大丈夫クマ(ニャ)?」
「あ、あぁ、大丈夫だ。」
またあの夢か…。
大丈夫。
腕も繋がっている。生きている。
「酷く魘されていたクマ。」
「本当に大丈夫かニャ?」
球磨姉さんに抱き寄せられて、多摩姉さん背中を擦られる。恥ずかしいけど、この二人の愛情表現の一つなのだろう。
「大丈夫だ。ただの夢だ。死ぬ訳じゃない。」
といって離れようとするが、離してくれない。それに、震えが止まらない。
「涙目でガタガタ震えながら言われても、説得感ないニャ。」
「別に、お姉ちゃん達を頼ってもいいクマよ?」
「ただの悪夢だ」
そう、これはただの夢だ。何で震える。怖くなんてないし、死ぬことなんてない。ガキじゃないんだ。こんなことで怯えてなんてられない。