その横顔にキスをして   作:チョコましゅー

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思った以上に陽向と千早を絡ませられなかったです。はやくイチャラブさせたいですねぇ(遠い目




白銀の姫君と太陽3

 

 静かな空間の中で、唯一音をたてるのは生花を活けるパチンというハサミの音。修身室はしんと静まり、みな真剣に 生け花に取り組んでいる。

 

 部員のみんなが真剣になれるのも、華道部の部長である哘雅楽乃(さそううたの)のカリスマたる所以なんだろうなーとか思いながらも、陽向もその姿を真剣に見ていた。

 

「こんな感じでどうでしょうかね」

 

 静寂を破ったのは千早だった。

 

「またそんな早く出来たんですかぁ!?」

 

 そんな千早に対して抗議とでも言うように声をあげたのは冷泉淡雪(れいぜいあわゆき)であった。

 

「雪ちゃん、華道は早さではありませんよ?」

 

「そんなこと言って、どうせ千早お姉さまのはきちんと調っているのでしょう?」

 

「そこは雅楽乃に判断してもらいましょうか」

 

 千早がそう言うと、雅楽乃は微笑みながら口を開いた。

 

「では、雪ちゃんが調ったら総評といきましょうか」

 

「うぅー、急かされているみたいで焦るー!」

 

「焦らずじっくりと自分を表現していけばおのずと最高の出来になるのよ?雪ちゃん」

 

「わかってますー」

 

 ぶっきらぼうな言い方だが、淡雪の表情はいまだに集中しているときの顔つきで、自分なりの表現を考えながら整えていく。

 

 

 

 さて、陽向はなぜ今華道部にいるかを考えてみる。

 

 昼食を千早と共にとり、陽向が千早をお昼に誘うことが珍しいという話から、陽向が千早と仲良くなりたいという話になり、そして千早がならデートしようと提案した。

 

 その言葉に陽向は一瞬ぽかんとしてしまったが、数瞬後に驚きあわあわとパニクっていると千早がこう言った。『デートと言っても放課後に華道部にいく予定があるので、それに付き合ってもらうという話ですけどね』と。

 

 まるでいたずらが成功したというような笑顔でいう千早を見て、陽向はまさに先ほど言ったことを思いだし口を尖らせた。

 

 その陽向の顔を見た千早は思惑通りにいって楽しいのかクスクスと笑っていた。そんな顔を見てしまうと、許してもいい気がしてしまうから不思議だと陽向は思った。

 

『まあ、デートは冗談ですが私も陽向ちゃんとは仲良くしたいですからね。たまにはこういうこともありなんじゃないかという提案です』

 

 

 

 そんなわけで陽向は今、修身室で華道部と共に生け花をする千早を見学しているのである。

 

 どうやら淡雪が終わったらしく雅楽乃が千早と淡雪の生け花を総評としているところだった。

 

 なんというか、噂だけだった千早の完璧なところを実際に見ると、感嘆のため息しか出ない。べつに淡雪の生けた花が悪いとは言わない。でもそれを補ってあまりあるほど千早の生け花は素晴らしいできだった。素人目から見た感想でもそれなのだから、玄人である雅楽乃から見れば一体千早の生け花はどのように映るのだろう。

 

「また負けかー」

 

「雪ちゃんの作品も、今年にはいってから一番といってもいいできでしたよ?」

 

「でも、やっぱりお姉さまの方がきれいに整ってるし、客観的に見ても並べたとき目を奪われるのはお姉さまのは作品だよ」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

「ですがお姉さまの作品、今日は少しだけいつもと趣向が違ってらっしゃるようですね」

 

 雅楽乃は首をかしげながら続ける。

 

「どこがどう変わった、と言うわけではないのですが、なにかこう、いつもよりも熱が入っていると感じました」

 

「それは、私がいつも熱を入れないで生け花をしていると言いたいのかしら?」

 

 千早の声色を聞いて陽向は、あ、これは意地悪な千早お姉さまだな、と思った。

 

 その陽向の思考通り、そう言われた雅楽乃は慌てながら否定の言葉をいうが、千早は拗ねたようにそっぽを向くがその顔は笑っている。

 

「千早お姉さまは結構節操がなく意地悪なのですね」

 

「…陽向ちゃん、あまり人聞きの悪いことを言わないでもらいたいのだけど?」

 

「ああ、スミマセン!つい思ったことが口に…!」

 

「まあいいわ。聞かなかったことにしてあげましょう」

 

 千早は困ったように笑うと、そのやり取りを見ていた雅楽乃が納得いったというような表情で頷いた。

 

「宮藤さんがいたから、千早お姉さまの花は熱を持っているように感じたのですね」

 

「そんなことは…ないとは思うけれど。まあ私も人の子ですから、人に見られているときは完璧を演じたいという心もあるかもしれないですからね」

 

「千早お姉さまは完璧を演じているのですか?」

 

 陽向の質問に千早は苦笑する。

 

「誰だって、人に格好悪いところは見せたくない、という話です」

 

「ああ、なるほど。そういうお話でしたか」

 

「ですが、千早お姉さまは完璧でいらっしゃいますものねー」

 

 淡雪が意地悪そうな表情でそんなことをいう。どうやらいつもの意趣返しという訳らしい。

 

「雪ちゃん。そんな当て付けのように言わないでほしいわ」

 

「私もお姉さまは完璧であると思ってます」

 

「雅楽乃、貴女は少し私のことを過大評価しすぎのきらいがあるわね」

 

 千早は苦笑いを浮かべながらも、まんざらではないかおをしていたのだった。

 

 

 

「華道はどうだったかしら?」

 

 千早は帰り道の途中で陽向にそう尋ねた。なんとなく誘ってはみたものの、これでつまらなかったのなら陽向の目的からずれてしまっているので、もう一度考え直さなければいけないと思ったのだ。

 

「なんかこう、新鮮でした。細かいことはなにもわからないですが、人が真剣に打ち込んでいるものを見るのは自分のやる気をあげてくれるものなんですね」

 

「そう思えるのは陽向ちゃんにも真剣になれるものがあるという証左みたいなものね。私にとっては羨ましい話です」

 

「羨ましい…ですか?」

 

「ええ」

 

 千早はすこし悲しそうな、そして羨ましそうな顔つきで答える。

 

「私にはいままでなにか一つのことに対して真剣にうちこんだことがないから、雪ちゃんや雅楽乃の姿を見てると、少し眩しすぎるの」

 

 そう独白する千早の姿は少しだけ、完璧なお姉さまである妃宮千早ではなく、一人の少女のように陽向の目に映った。

 

 千早はいつも何でもそつなくこなし、困ってる人がいれば手を差しのべて、問題に対しては真摯に取り組んでいる姿。陽向にとっては、これが千早に対する印象だった。事実千早はいろんなことに対してそつなくこなすだろう。でも何でも出来るからといって、千早にも感情がないわけではない。

 

 いままで雲の上の人のような存在だった千早が、今日の華道部とのやり取りや今の言葉を聞いて、陽向は少しだけ千早が身近にいる人なんだと感じるようになったのだ。

 

「千早お姉さまも、いつか好きなことに真剣になれる日が来るといいですね。いえ、むしろ来ますよ!」

 

「ふふ、ありがとうございます。その言葉はありがたく頂戴しておきますね」

 

「どうぞどうぞー」

 

 陽向は仲良くなりたいと言ったことが、やっぱり間違いじゃなかったと思いながら千早と二人、寮に帰るのだった。






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