ゆうかりんか   作:かしこみ巫女

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第十四話 聖者は十字架に、愚者は野晒しに

 ――翌日。朝のしごきを終えた私は、日課のようにアリスの家にやってきていた。

 グラスの鍛錬を真剣にやる。徐々にだが割らずに済むようになってきた。

 しばらくすると、暇を持て余したルーミアが遊びにやってきた。私に会いに来てくれたらしい。おお、心の友よ。

 

「それ何やってるの?」

「妖力のコントロールです。割らないようにするために練習中です」

「へぇ。ちょっとやってみていい?」

「どうぞどうぞ」

 

 竜ちゃんばりにどうぞどうぞとオススメする。ルーミアが青く光るグラスを持ってジッと眺めた後、えいと言って妖力を篭める。グラスは見事に無色透明になりました。

 ――おかしい。そこは豪快に割って、やりすぎちゃったのかーとボケるところなのに。ルーミアは特に喜びもせず静かにグラスを戻す。しかも再び妖力を篭めて青く光らせてくれた。

 

 

「なるほどねー。良く分かった」

「いきなりできるなんてすごいですね。憧れちゃいます」

「別に普通だよ。燐香もすぐに出来るとおもうな。簡単簡単」

 

 ルーミアはそういうと、椅子に座ってポケットから何かを取り出した。ビーフジャーキーっぽいものを取り出すと、そのまましゃぶりはじめる。噛めば噛むほど味がでそうな感じ。

 

 

「美味しいですか?」

「うん」

「そうなのかー」

 

 我慢できなくなったので、私が両手を横に伸ばしてそうなのかーと言ってみた。人のネタを取るのは芸人失格。だが私は芸人ではないので問題ない。

 ルーミアはジャーキーを口に咥えながら、腕組みをして怪訝な顔をしている。

 

 

「なにそれ?」

「聖者が十字架に磔られた感じに見えません?」

「見えないかな。それよりくたびれた案山子に似てる」

 

 今さりげなく悪口が入っていたような。案山子だけでいいじゃん!

 

「そ、そうなのかー」

「そうなのだ」

 

 ルーミアの口調が、なんだか別のキャラの台詞になってるし。○○ボンのパパみたいな。これでいいのか?

 だが一つ新たな目標ができた。ルーミアにいつか、両手を横に伸ばしてそうなのかーと言わせることだ。どうでもいい目標だが、達成できたらなんだか『いいね』ポイントゲットできそう。

 

 それはともかく、この世界のルーミアって頭が良さそう。発言は何も考えてないと思いきや、意外と裏があったりするし。そうなのかーと延ばして言ってくれないし。一度くらい言って欲しい。いや、それこそイメージに囚われた思い込みというやつだろうか。うーむ。これはこれでクールな感じがして話しやすいんだけども。このままでは私が子供っぽい気がするので、もっと頑張らなければ。

 

 

 ちなみに、今まで出会った人(妖怪)の印象は、アリスはクールビューティ。ルーミアは天然クール。幽香は悪魔で外道で超カオスダーク。ダーク属性は基本的に会話で仲魔にならないから注意だ!

 私はニュートラルのへっぽこボッチ。落ち着いて分析すると、属性が冷系にかたよっている気がする。私の交友的な意味で。温系の人もいつでもウェルカム。

 それはともかくだ。もしかしてリボンの封印を解いたら逆転するのだろうか。実に気になる。この際だから聞いてみよう。力を抑える秘密があるとしたら、幽香封印の役に立つかもしれない。弱体化のヒントはいくらでも募集中なのだから。

 

 

「ねぇルーミア。ちょっと聞いて良いですか?」

「なにかな」

「そのリボンを取るとどうなるんです?」

「知りたい?」

「はい」

「どうしても?」

 

 ニヤリと嗤うルーミア。可愛い顔なのに似合っている。これが長く生きた妖怪の迫力! ルーミア、恐ろしい子!

 

 

「勿体つけられると、どうしても知りたくなります」

「これ食べてくれたら教えてあげる」

 

 

 はい、とビーフジャーキー? を差し出してくる。……なんだろう。凄く嫌な予感がする。すごい謎の肉っぽい。

 一応受け取って、臭いをかいで見る。香ばしい味付けがしてあるようで、とくに異常はなさそうだが。

 

 

「これ、なんの肉なんです?」

「肉は肉だよ。強いて言うなら干し肉かな」

「こうなる前は、何と言う種族だったのですか?」

「さぁ。そんなことどうでもいいじゃない。お腹に入れば同じ事だよ」

「そうですか?」

「そうだよ。さ、勇気を出してぐいっと」

 

 

 わざとらしく笑みを浮かべるルーミア。思わず見とれそうになるが、口から覗く牙は意外と凶悪だ。骨ごとばりばりいきそう。もしかして私もそうなのかな。そういえば、歯ブラシもなんだか特製のものだったような。幽香の手に噛み付いたけど、いまいち効果がなかったからそんなに頑丈だとは思わないけれど。噛み千切れなかったし。

 

 と、余計な思考をしている場合ではない。もう面倒だから率直に聞いてしまおう。

 

 

「もしかして、人間の肉ですか?」

「近いかな。これは、人間風味の干し肉。マンジャーキー?」

 

 そんな単語初めて聞いた。なにマンジャーキーって。

 

「…………風味」

 

 

 でも風味だけだったら、ちょっと食べてみたい。どんな味がするのか、リアリティ追究のために舐めてみたい。私は某漫画家と違って褒められたいしちやほやされたい。

 でも人間風味ってなんだろう。排泄物味のカレーとか、馬鹿餓鬼たちが喜びそうなネタを思いついてしまう。だってギャグマンガだと、当然そういうオチなのだ。そんなカレーあるわけないよという。

 

 ――絶対にこれ、人間の肉でしょ。人間風味ってなんなの!

 

 

「私は遠慮しておきます」

「じゃあリボンの秘密も教えてあげない」

「構いません。私はいつか謎を解いて見せます。風見幽香の命にかけて!」

 

 私は拳を握って天に誓いを立てた。なんか変な光が見えて昇天しちゃいそうになった。すぐにやめる。このポーズは危険だ。なんか人生に悔いなしとか言っちゃいそうだった。危ない危ない。

 

 

「自分のじゃないんだ」

「私は長生きしたいので」

 

 

 ルーミアにマンジャーキーを返し、再びグラスの鍛錬に戻る。最後の一個を割ったところで無事終了だ。今日はつかれたのでおしまい。一杯やったし十分すぎるだろう。私はどや顔で頷いておく。

 

 

「どうしてグラスを割ったのに、そんな満足気な顔をしているのかしら」

「やりきることに意味があるのです。大事なのは結果より経過です」

「自分で言っていたら世話がないわね」

 

 呆れながらアリスが後片付けを始める。後片付けは、破片を集めてアリスがグラスを修復するというもの。もちろん私も手伝う。ルーミアも手伝ってくれた。世の中エコだからね。使い捨てはよくないのです。

 

 ちなみに、なぜ鍛錬を止めようかと思ったかと言うと、時計の針が3をさしていたから。ワクワクドキドキのおやつタイム。アリスは本当に料理が得意なのだ。普通によい奥さんになれそう。子供も一杯で幸せ一杯。もしよかったら、私もその片隅にでもおいてくれないだろうか。人形の振りをしてもぐりこんだらバレないかも。呪いの人形っぽいので却下されるか。なんか髪が赤いし幽香に瓜二つだし。畜生!

 

 

 でも一応聞いておこう。

 

 

「アリスが結婚したら、私をお手伝いで雇ってくれませんか? 幻想郷の最低賃金で構いません」

「……貴方はいきなり何を言い出すの? また思考が飛んでるわよ」

「多分、子供は五人くらい作りますよね。私、お世話頑張ります!」

「落ち着きなさい」

「やっぱり燐香は面白いなー」

「そうなのかー」

 

 軽いジャブ代わりのボケ。同じボケを重ねることにより、貪欲に笑いを求めに行く。これこそ芸人道。修羅道より圧倒的に平和。

 

 

「燐香。そのポーズはどういう意味があるの?」

「磔をイメージしているんだって。自分の最期はこうなるって言ってたよ。予知能力があるのかも」

 

 ルーミアの鋭いボケが炸裂している。なんというキラーパス。私も負けずに突っ込まなければ。でも「なんでやねん」ぐらいしか思いつかない。ルーミアの会心のボケにこのツッコミはありえない。しかし何かを喋らなければ場がもたない。魚類のお笑い怪獣に怒られてしまう。だが、私はボギャブラリーが貧相だ。ルーミア、恐ろしい子!

 

 ぐぬぬと磔のポーズをしながら唸っていたら、アリスによしよしと頭を撫でられた。

 

 

「元気を出しなさい。そうなりそうになったら助けてあげるから」

「あ、ありがとうございます。感謝感激雨霰です」

「大げさね」

 

 なんだかよく分からないけど助けてくれるらしい。どうしてこういう話の流れになったかはさっぱり分からないが。私は人の助けは全て受け入れるのだ。

 

 

 

 

 

 

 今日のおやつタイムは一味ちがった。何が違うかと言うと、かなりの辛口だ。目の前にはいっぱいの焼きたてクッキーがあるのに、私はまだ一つも口に入れることができていない。どういうことなのだ。全く意味がわからないぞ!

 

 

「フォーカード」

「私も」

「……またブタです」

「じゃあいただくねっと」

 

 ルーミアが大皿からチップ代わりのクッキーを1枚小皿にもっていく。アリスもだ。私の小皿には一枚もない。恨みが募ってお岩さんになっちゃいそう。

 

 

「さぁ、次の勝負にいきましょう」

「なにがでるかな、なにがでるかな」

 

 思わずサイコロを投げたくなりそうなルーミアの呟き。だがそのボケに突っ込む心の余裕が私にはない。今の私は餓えた子犬である。放っておいても害はないけど喧しいのが欠点だ。

 

 

「……おかしい。お菓子だけにおかしい」

「燐香はユニークだね。今のは人間のジョークというやつだよね。人里のおばあちゃんも言ってた」

「はい。その冷静なツッコミが心に染み入ります」

 

 ルーミアの情けに感謝しながら、山札を睨みつける。今やっているのは、変則ポーカーである。普通は親がプレイヤーにカードを配るのだが、アリスゲームは一味違う。一枚ずつ順番に山札から好きなものをとってよい。もちろん裏側でだ。五枚引いた後は普通とおなじ。交換は一回まで。

 早い話が親なしのポーカーである。問題はだ。私は現在5連敗中。最も高かった役がツーペア。後はワンペアとブタばかり。アリス、ルーミアは毎回必ずフォーカードを出してくる。これは絶対におかしい。――こいつら、イカサマしてる!

 

 

「1枚交換するわね」

「私も」

「…………私はこのままでいいです」

「本当にいいの?」

「私は、このままでいいです」

 

 

 ワンペアが揃っていたので、今回はこれで確定。それよりも、二人の動きを注意深く見つめる。特に怪しい動きはない。スムーズにカードを捨て、新しいものを山から引いている。

 

 

「じゃあオープンね。キングのフォーカード」

「私はエースのフォーカード」

「……3のワンペア。――って、ちょっと待った!」

「あら、どうかしたの?」

 

 満面の笑みのアリス。すごい楽しそうである。ルーミアはさっさとクッキーをもっていってしまう。やばい。残りが少なくなっている。クッキーにありつけずにプーになってしまう。とりあえず、揺さぶりを掛けて見る。

 

 

「まさかとは思いますが、二人は、イカサマ、してませんよね?」

「…………」

「…………」

 

 しているらしい。スタンドを使わなくても分かる。『YES』と目が訴えてきている。どんなイカサマなんだろう。全く分からない。カードに印でもついているかと、手にとって調べるが特にない。ルーミアと相談している暇もなかったはずだ。

 

 

「知っているかしら。バレなければイカサマとは言わないのよ」

「――なん、だと?」

「あはは。燐香、その顔凄く面白いよ。なにそれ」

「アリスが衝撃的な台詞を言ったのでつい」

「ねぇ、私にもできるかな?」

「じゃあ教えてあげます」

 

 

 丁寧に驚き方を教えてあげる。口の開け方、目の見開き方、言葉の強弱。大事なのはリアリティである。本当に私は驚いているんですよと、わざとらしくアピールすることが大事だ。

 私の場合、幽香に罠の効果がなかったときが初であった。あの驚きをシミュレートすることで、この顔を再現できる。宴会芸にしたかったのだが、ボッチなのでその機会はなかった。

 

 

「こうかな?」

 

 ルーミアが驚愕した顔を浮かべる。クールキャラのくせに、ノリノリでこういうことが出来るルーミアは芸人の鑑。芸人じゃないけど。即席の割にはかなり良い感じである。いつか二人揃って驚愕したいものである。RRコンビの宴会芸としたい。

 

 

「いい感じです。ほぼ完璧です。これでいつでも驚けます。タイミングが合うと、それはもう見物なんですよ」

「ありがとう燐香。じゃあ今度一緒にやろうね」

 

 ルーミアと固い握手を交わす。流石は心の友である。このまえ即行で裏切られた気もするけど気にしない。

 

 

「はいはい。顔が面白いのは認めるけど、馬鹿なことをしていないの」

「はい、ごめんなさい。もっと考えます」

 

 とはいえ、オービー先生、じゃなくてバービー先生の力でも借りなくてはこの事態は打開できそうにない。

 一休さんよろしく頭を捻っていると、アリスが声をかけてきた。

 

 

「そろそろヒントをあげましょうか、燐香」

「お願いします」

 

 自慢じゃないが、私にプライドはない。プライドでご飯は食べられない。お前の飯なんか食えるかと幽香に言える度胸は私にはなかった。仕方がないね。

 

 

「そもそもだけど、どうしていきなりポーカーをやろうと言い出したと思う?」

「私が遊びたそうだったから」

「それは否定しないけど。最近の貴方は、何に取り組んでいたかしら」

「風見幽香をギャフンといわせること、友達百人つくることです」

「まぁ、それも否定しないけれど。今取り組んでいる課題についてよ」

「妖力のコントロール?」

「ご名答」

 

 

 アリスが意味ありげにカードの一枚をこちらに示してくる。ジーッと見つめていると、なんだかうっすらとオーラのようなものが。このカードはジョーカーだ。ご丁寧に、カードの裏側が文字型に光をはなっている。

 

 

「――あ」

「そういうこと。私達にはこのカードの種類が完全に分かっていたというわけ。対象の力を感知するテストみたいなものかしら。遊びがてらね」

 

 カードを片付けていくアリス。種が明かされたので終わりらしい。手品師のように豪快にシャッフルしてから、箱へと戻していく。やることが一々サマになっている。さすがは魔法使い。マジシャンとしていつでもデビューできそう。

 

 

「じゃあルーミアは最初から?」

「分かってたよ。いつ気がつくかなーって。結構面白かった」

 

 クッキーをばりばり食べているルーミア。私も負けずに大皿から1枚いただくことにする。謎が解けたのだからもういいだろう。甘くておいしい。紅茶が欲しいなぁと思っていたらアリスが新しいものを注いでくれた。

 

 

「相手がどれくらいの力を持っているかを知ること。情報というのは勝敗を分ける重要なポイントよ。強者ほどそれを隠す能力に長けているけど、身につけておいて損はない。どれぐらいの力までなら出してよいかの目安にもなる。貴方はこれから弾幕勝負をしたいのでしょう?」

「はい」

「なら頑張りなさい。私もできるかぎり手伝ってあげる。乗りかかった船だからね」

「……ありがとうございます」

 

 本当に嬉しい。こうなったら弾幕バトルチャンピオンを目指さなくては。ボッチロードではなく、チャンピオンロードを邁進していきたいです。

 

 

「うんうん。思わず感動しちゃった。燐香、お祝いにこれをあげる。牛肉風味の干し人肉だよ。混じりっ気なしの100%人肉だから安心だね」

「私は遠慮しておきます」

 


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