ゆうかりんか   作:かしこみ巫女

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第五十三話 ALICE

 今日もアリスの家にやってきた私。まだ春がきたばかりだと思ったのだけど、だんだん温度が高くなってきている。少し動くと汗がでちゃったし。鍛錬のときは半袖でも良いくらい。

 

「夏も近いですかね」

「貴方は夏が似合いそうね。元気に駆け回っていそうだし」

「アリスも一緒に日焼けしますか?」

「遠慮しておくわ。暑いのは苦手なのよ」

 

 確かにこんがり日焼けしたアリスはイメージできない。パチュリーはもっとできない。魔理沙は夏女っぽい。ルーミアは……謎の女っぽい。

 

「実は、夏は結構好きなんです。私は彼岸花の妖怪なんですけど、暑さには耐性があるみたいで」

 

 その代わり、寒さには弱い。属性のせいではなく、軟弱なだけかもしれない。

 

「ということは幽香も?」

「知りませんが、超ハツラツとしてますよ。夏は麦わら帽子なんかかぶってご機嫌ですし。たまにかき氷とか作ったりするし」

「へぇ」

「でも、勝手にみぞれシロップをかけるんですよ。私はイチゴが好きなのに。イチゴをかけようとすると、嫌なら食うなとか言うし。白い氷に白いシロップで、私のやる気は50%ダウンでしたね」

「……それはなんというか。ご愁傷様ね。ウチでつくるときは、好きなのをかけなさい」

「ありがとうございます」

 

 みぞれが嫌いな訳ではない。普通に完食するし。何がムカつくかというと、幽香はメロンをかけてるくせに、私には選択権を渡さないことだ。そういう細かいことの積み重ねで、私を虐めてきたのである。ひどい女だ。布団にセミトラップ(死んだと見せかけて実は生きている。ビクっとする奴)を仕掛けてやろうとしたら、見事に返り討ちにあったのは辛い思い出である。

 

 しかし、この分だと夏が来るのはあっと言う間だろう。いつもと違って、毎日がとても早い。とすると、次に起こるのは永き夜の異変。東方永夜抄だ。兎さんがいっぱいでてくるあれ。

 折角なので団扇片手に弾幕見物にでかけたい気もするが、少し難しいだろう。魔理沙が次は一緒にと誘ってくれたが、そもそも幽香の監視を抜けられる訳もないし。それに、皆ペアで動いてるから、私は仲間はずれである。ルーミアあたりを誘っても、面倒くさいとか言われるに決まっている。

 つまり、私は一日グーグー寝ているだけで全てが終わっているわけだ。やったね!

 

(永琳と仲良くなれたら凄い薬作ってくれそうだけど。ま、今回は諦めよう)

 

 幸か不幸か、永夜抄は私に関係のない話。いや、関係のある異変なんてそもそもないけど! 

 一番嫌な予感がしているのは花映塚だ。幽香が関係しているという事は、私が巻き込まれる可能性は極めて高い。『お前、幽香に顔が似てるな、よし殺す』とかなっちゃいそう。ジャギ様みたいなのが来て因縁つけられたらやだし。おお怖い怖い。

 そのときだけ仮面でもしてようかな。今の私は風見燐香ではない、リンカ・マーガトロイドだとかいって、格好良くサングラスを外したり。……顔面殴られて修正されそうなので、今のやっぱなし。

 

「ところでアリス、今日は何をすればいいですか? やる気だけは一杯ですよ!」

 

 立ち上がり、意味もなく狼牙風風拳のポーズをとる。なんとなく、私はヤムチャにシンパシーを感じるのだ。ヘタレた面ばかり強調されてるけど、結構仲間思いの良い奴なのである。後、能力を使ってプロ野球選手になるとか現実的だし。私も楽して稼ぎたい! 次の弾幕勝負では繰気弾もどきを撃って見ようか。というか、間違えたーとか言って幽香の部屋に撃ちこむのはどうだろう。

 ……幽香が私にサイバイマンをけしかけてくる幻想が見えた。あの女、向日葵を妖怪化させて襲わせてこないよね。有り得そうで恐ろしい。ヒマワリマンが大挙して私を追いかけてくるリアルなイメージを、私は頭を振って追い払う。これは夢に確実に出る。

 

「拳法を学びたいなら美鈴に言うといいわよ。私は武術には疎いから。幽香はそういうのも重視してるみたいだけど」

「いえ、別に全然学びたくないです。少女に殴り合いは似合いませんよね!」

「それは、暗に私が所帯じみていると言いたいのかしら」

 

 アリスのジト目。どうやら先日のことを根にもっているようだ。

 

「全然違います! というか、アレは私が言ったんじゃないです。アリスはとっても綺麗です!」

「はいはい、どうもありがとう。お世辞でも嬉しいわ」

 

 アリスが笑いながら、私の頭を撫でてきた。

 

「それじゃあ確認するけど。弾幕についてはどうかしら。現時点で何か不安なことはある?」

「いえ、特にはないです。後は経験を積むだけです。弾幕のコントロールも大体完璧ですし。ちなみに、現在の予想命中率は99%ぐらいです」

 

 あくまでも予想なので、実際とは違う。当たりそうではなく、これは当たる! みたいな自信のことである。当たらなかったら相手を褒めるべきというわけ。必中よりも閃きが優先されるのである。

 今日までの鍛錬の積み重ねで、妖力弾のコントロールについては相当自信がついたのは事実。そこっ! みたいなニュータイプ撃ちができちゃうくらい。でも99%は信用してはいけない。とはいえ、以前と比べれば十分な進歩である。

 得意技は植物で相手を拘束してからのグミ撃ち。爽快感があってとても気持ちが良いのである。

 

「100%ではないのね」

「はい。世の中そんな甘くありませんから」

「そこはもう少し頑張りなさいよ。後たった1%じゃない」

「何事にも越えられない壁と言うのは存在します。1%というのは、才能に左右されると偉い人も言っていました」

「全く。そういう言葉をどこで覚えるのやら」

 

 アリスが苦笑した後、椅子に腰掛ける。

 

「まぁ良いわ。実は、今日の鍛錬は少し趣向を変えてみようと思っているの。少し長くなるから、ちょっと座ってくれるかしら」

「はい、分かりました!」

 

 改まってなんだろう。私はワクワクしながら椅子に腰掛ける。

 

「貴方の弾幕についての鍛錬だけど、予想より順調に進んでいるわ。妖夢が手伝ってくれることもあってね」

「そうなんですか?」

「ええ、本当はもっと時間が掛かると思っていた。……だから、空いた時間を使って人形の操作を教えようかと思っているの。貴方さえ良ければだけどね」

「私が人形を? 凄く嬉しいですけど、本当にいいんですか?」

 

 思ってもみなかった提案だ。アリスみたいに華麗に人形を操れたら、凄く格好良いだろう。人形を遣って戦わなくても、人形劇とかやれたら楽しそう。人里でアリスと一緒にやれたらいいなぁ。アリスの完璧な人形たちと、私のへっぽこな人形のドタバタ劇。子供から大人、妖怪たちまで皆笑顔。そして、私とアリスも嬉しくなって笑いあうのだ。そんな日が来たら、いいなぁと思う。

 

「ええ、勿論よ。貴方の努力へのご褒美みたいなものかしら。それに、人形の操作技術を学べば、応用で“身代わり”を自在に操ることができるようになるかもしれない。それは確実に貴方の強化に繋がるでしょう。きっと、幽香も納得してくれるはずよ」

「もちろんやります! 誰がなんと言おうとやります! 憧れの人形マスターに私はなります!」

 

 はいはいはい、と手を上げて意欲をアピール。アリスは苦笑すると、上海に大きな箱をもってこさせた。それを私の目の前に置く。

「とても良い返事ね。なら、これをあげる。喜んでもらえると嬉しいのだけど」

「はい。なんだろう」

「開けてからのお楽しみよ」

 

 私はおそるおそる、大きな箱の蓋を開ける。――中には、可愛らしい人形が入っていた。上海と同じ服装だが、髪の色が赤い人形。大きさも同じだし、上海2Pバージョンっぽい。でも可愛いことには変わりはない。もしかして、もらえちゃったりするのだろうか!

「これ、もしかして私に?」

「ええ、ご褒美と言ったでしょう。訓練用に人形を用意してみたの。それを使って覚えていきましょう」

「……本当にありがとうございます、アリス。本当の本当に嬉しいです! やったー!!」

 

 私は人形を取り出し、高らかに掲げて小躍りした。とっても可愛らしいし、細かいところまで良く作りこまれている。やっぱりアリスの人形制作術は超一流だ。

 芸術センスのない私には真の価値など分からないが、精魂篭めて作られたのだろう。即座に私の宝物の仲間入りだ!

 

「そんなに喜んでもらえて何よりだけど。それはあくまで訓練用だからね。遣い潰すつもりで扱いなさい」

「……ええ? でも、それは凄くもったいないような」

 

 できれば汚れないように家に飾っておきたい。むしろ、腕が上達してからでも良いと思うのだけど。

 

「それじゃあいつまでたっても技術が向上しない。その人形は大事に飾っておくためのものじゃないの。壊れたら直してあげるから」

 

 こんなに可愛い人形を私なんかの訓練に使ってよいのだろうか。やっぱり駄目な気がする。人形がかわいそうである。もっと適当な木人形や、てるてる坊主でもいいくらいだ。むしろその方が良い。

 

「でも。……いえ、やっぱりこれはもっと上達してからでいいです。私なんかはもっと安いやつで構いません。これは、私が一人前になってからで」

「燐香」

 

 アリスが語気を強くした。もしかして、ちょっと怒っているのかもしれない。

 

「前も言ったけど、自分の価値を不当に低く見ないで。私は貴方のやる気、そして人形操作の素質があると見込んだから提案しているの。それを否定することは、私を馬鹿にすることにも繋がるわ」

「私はアリスを馬鹿になんてしてません。そんなこと、絶対にしません」

 

 私は全力で首を横に振る。私はアリスを心から尊敬している。馬鹿になどできるわけがない。

 

「なら、その人形を使いなさい。十分慣れてきたと判断したら、私が魂を篭めた人形を貴方だけのために作ってあげる」

 

 アリスが真剣な表情で私を見つめてくる。否定を許さないと言う意志を感じる。

 

「でも」

「その人形は貴方の技術を上達させるために作ったもの。用いないというのは、人形の価値を否定することになる。だから、受け取って。その方がこの子も喜ぶわ」

 

 アリスが優しく微笑んだ。私はしばし視線を彷徨わせた後、頷く事にした。ここまで言われては断ることなど出来ない。アリスの期待に応えるためにも、全力で取り組むとしよう。

 

「人形操作については、基礎から教えていくつもりよ。だから心配はいらないわ。あんなに高度な身代わりを独学で生じさせた貴方なら、確実にできる。むしろ、あれを自力で生み出したことの方が有り得ないのよ」

「そうなんですか?」

「そうよ。無茶苦茶も良いところよ」

「あ、あはは。すみません」

「まったく。悪知恵方面にだけは、天性の才能があるみたいね。幽香も呆れていたわよ」

「それはいつものことです。呆れるだけじゃなくて、その後殴られますし」

 

 溜息の代わりに鉄拳が飛んでくるのがアリスと幽香の違い。

 そして、身代わり君は幽香戦における切り札の一つである。名付けて一人ジェットストリームアタック。複数の身代わりを突っ込ませれば、幽香は確実に迎撃してくる。そこで連続爆破。怯んだところを私の超本気の魔貫光殺砲で打ち抜くという寸法だ。大勝利間違いなしの秘策である。

 これはあくまで魔封波が失敗したときの保険。失敗することなどまずないので、問題はない。

 

「あと、これは重要なことなんだけど」

「はい」

「人形を上手く操るには、魔力――貴方の場合は妖力ね。それを馴染ませなければならないの。いわゆる刷り込みみたいなものね。そうすることで、より精密に動かす事ができるようになる」

 

 熟練度システムみたいなものかな。使い込めば使い込むほど強くなる。

 

「……なるほど。それで、一体どうすればいいんです?」

「特別に何かをする必要はないのよ。傍に置いておけば、勝手に馴染むからね。寝るときに傍に置くだけでも構わない。普段も鞄に入れて持ち歩くとかすると、効果は更に上がるでしょうけどね」

 

 おお。こんな可愛い人形を傍に置いて寝るなんて、なんてメルヘン。いよいよフランとおままごと計画が発動できそうだ。

 

「分かりました。いつも一緒に行動して、いつも一緒に寝ます! トイレ以外は一緒に!」

「ふふ、そこまで一緒にいなくてもいいわよ。ま、愛着が湧いた方が色々と捗るでしょうけどね」

 

 この人形が、アリスの扱う人形達みたいになったら凄いだろう。私が指を鳴らすと、人形が自在に動いて凄い技を撃つのだ。どんな技にするかはこれから考えなければ。優雅で華麗な感じにしたい。

 ――と、気になる事があるので聞いておこう。

 

「ところで、この人形、何か名前はあるんですか?」

「いいえ、今はないわ。型番みたいなものは一応つけたけど、別に気にしなくて良い。練習用だしね」

「でも、気になりますよ」

「背中に刻んであるから、確認はできるわよ」

 

 私は人形の衣装を捲くり、背中を確認する。そこには謎の魔法陣と共に、『K・A・R・I・N』と刻み込まれていた。これがこの人形の名前かな。魔法陣は良く分からないけど、多分動かすのに必要な術式が記されているのかも。なんか光ってるし。上海たちも同じ仕組みで動いているのかな。

 

「KARIN。……カリン。もしかして、花梨?」

「ええ。植物つながりにしようと思って。ま、今は仮名ってところね」

「花梨人形かぁ。可愛いし素敵ですね」

「一人前になったら、貴方が正式に名付けてあげると良いわ。それまでに、良い名前を考えておきなさい」

「分かりました、アリス先生!」

 

 多分、このまま花梨と名付けると思う。愛着が湧きそうな名前である。

 

「ふふ。元気で宜しい」

 

 アリスが笑う。私は人形を持ったままアリスに近づき、深々とお礼をした。ここまでしてくれたのだから、ちゃんと感謝を示さなければ。アリスは私の頭を撫でると、「頑張りなさい」と軽く肩を叩いてくれた。それだけでなんだか自信が湧いてきた。アリスは人をやる気にさせる天才だ。

 

 

 

 

 

 

 日課の弾幕訓練を終えた後、私は早速人形操作に取り掛かってみた。うん、全然動かないしビクともしない。マニュアルはどこにあるのかな?

 

「動けー動けー」

 

 両手を掲げ、念力を篭めてみた。当然駄目。ならば呪文か。――アブラカタブラ、動け人形! これも駄目。ならばアバダケダブラ、ってこれは死の呪文だった! 変な黒いのが出たので、慌てて窓の外へ向かわせる。

 

「動け動け動け! 動いてよ!」

 

 思わず暴走しそうな感じで叫んでみる。謎のシンクロ率が上がってきている気がする。でも人形は動かない。私はチルドレン失格だった。

 

「まぁ、当然動かないのだけどね。気合で動けば苦労はないのよ」

「ですよね」

「実は、人形の操作には魔力の糸を使っているのよ。手足を直接操るのではなく、命令を伝達させるの。命令は頭で正確にイメージすること。イメージが曖昧だと上手く動作しない」

「ま、魔力の糸?」

 

 それを早く言ってほしかった。私の悲しい一人芝居はなんだったのかという話。アリスは楽しんでいたのかもしれない。なんか笑いを堪えていた気もするし。失敗させてから話したほうが、覚えは早いという教育方針なのかも。

 

「そうよ。練りこまれた糸を、頭でイメージしてみなさい。ああ、目は閉じないで。それを、人形に繋げるように集中してみて」

 

 アリスが指先から、光る何かを出した。これが糸か。わざと見えるようにやってくれているらしい。私も真似てみる。なんか出た。でも、行き先がふわふわして、人形までたどり着かない!

 

「まずは糸を練り上げて、繋げるところからね。慌てなくて良い。基礎だけど一番重要なことだから、落ち着いてやりましょう」

「はい。……むむむ」

 

 私は目を瞑り、糸糸糸と念じる。いや、瞑ったら駄目だった。目を開けながら考えに浸る。

 どんな糸が良いかな。赤い糸は彼岸花っぽいし、なんか恋に発展しちゃいそうだから止めておこう。切れたらなんか悲しいし。

 白い糸は不安定で脆いから駄目だ。替えも効かない。だから丈夫な黒い糸が良い。とても目立つし、在庫は溢れるくらいにある。それを、針穴に通すような感じで私の人形へと差し込む。――これでどうだ!

 

「……中々やるわね。いきなりできるとは思っていなかったわ」

「やった!」

 

 私の花梨人形の頭に、黒い糸が突き刺さっていた。本当は背中を狙ったのだが、まぁ繋がった事は繋がったから良いとしよう。

 ――と、喜びの感情がもろに伝わってしまったらしく、花梨人形は不思議なダンスを踊って、そのまま前に倒れてしまった。お尻丸出しでとても格好悪い。ついでに私のMPも低下だ。

 

「あ、あれれ」

「イメージが曖昧になるとこうなるわ。自分の行動と、人形の行動は切り離して考える事が重要よ。意識せずに出来るようになると、完璧ね」

 

 呼吸動作みたいなものだろうか。意識しなくても、皆普通にやっている。それくらいになれば一人前なのだろう。

 

「む、難しそう」

「まずは人形だけに意識を集中させればいいわ」

「……ん? ということは、アリスは、全ての人形の行動を正確にイメージしているんですか?」

「慣れれば大したことはないわ。半自律させる時もあるしね。行動が定型化している家事がそれに該当するかしら。弾幕勝負では、流石に手一杯になっちゃうけど」

 

 アリスの頭はどんなCPUを積んでいるんだろう。私は1体動かすだけでハングアップしてブルースクリーンなのに。

 流石はアリス・マーガトロイド、完璧である。

 

「……本当にアリスは凄いですね。一体、どういう思考能力をしているんですか?」

「至って普通よ。そのうち貴方もできるようになるわ。この私が教えているのだから、絶対にね」

 

 アリスが断言する。凄い自信だ。魔法使いのお墨付き、しかもアリスのものだからきっとできるようになるのだろう、うん。むしろ期待を裏切ることのほうが怖い。アリスに失望されたくはない。

 

「ぜ、全力で頑張ります」

「良い返事ね」

 

 何体もいる人形の行動を正確にイメージしながら、さらに自らも弾幕を繰り出すアリス。どんなCPUを積んでいるんだ。私が拍手するイメージを作る。花梨人形は机をばたばたとたたきだす。うん、駄目だこりゃ!

 

「じゃあ、暫く人形に慣れていてくれるかしら。私は研究したいことがあるから。分からないこと、知りたいことができたら、遠慮なく聴きに来て構わないから」

「はい、分かりました!」

「頑張りなさい。未来の人形遣いさん」

 

 アリスは私の頭を優しく撫でると、人形制作兼魔法研究部屋へと入っていった。

 アリスにも自分の夢があるのだ。完全な自律人形の制作という夢。その貴重な時間を私が奪っていることはとても心苦しい。だけど、私も人形を操ることができるようになれば、少しは手伝うことができるかもしれない。

 アリスにはとてもお世話になっている。だから、いつか恩返しをしなければならない。何があろうとも、どんな形になろうとも必ずだ。私はそう心に誓うのだった。

 

「だから、一緒に頑張ろうね」

 

 赤毛の花梨人形に話しかけてみる。アリスは馴染ませることが重要と言っていた。顔を良く見ると、なんだか私に似ているような気がする。やっぱり私をモチーフにしてくれたのだろうか。流石はアリス。これが緑髪だったら、私は自爆させたくなっていたに違いない。いや、人形に罪はないから、多分即行で髪を染めていただろう。うん。

 

「まずは、糸の作成、維持、接続を完璧にできるようにしよう。基礎が一番大事だしね。よーし、頑張るぞ!」

 

 私は人形から黒い糸を除去し、消去する。発生、接続、維持。このセットを繰り返してみよう。これが確実にできるようにならなければ、人形操作どころではない。地味だけど私の意欲は萎えたりしない。今の私は気力255! ハイパー化してもおかしくないほどである。しないけど。

 それと、この人形は出来るだけ大切に扱いたい。アリスにはああ言ったけど、やっぱり使いつぶすのは抵抗がある。壊さないように、全力で頑張れば良いだけ。つまり、私の頑張り次第というわけだ。

 それに、継ぎ接ぎだらけになったらアレだし。アリスはそんな修理はしないだろうけど。なんとなく、ウケケケケ! と笑いながら剣を振り回す花梨人形を想像してしまったのだ。呪いのデーボの人形みたいな。いきなり自律して動き出したらマジで怖い。というかやばい。

 

「…………な、ならないよね?」

 

 私はジッと見つめる。花梨人形は、当然ながら返事をしなかった。




カリンはマメ科とバラ科の二つがあるらしいです。全然別物だとか。
のど飴のカリンはバラ科なんだそうで。
こちらの漢字は榠樝(かりん)ですが、花梨の方が可愛いのでこちらを採用。
画像まで見せてくれるグーグル先生は凄いや!

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