ゆうかりんか   作:かしこみ巫女

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第五十九話 羨望

 ステージ1はリグル・ナイトバグ! 対戦相手としては一番優しいというか易しいかなと思ったので、思い切って私が出張ることにした。本当に易しいかどうかはやってみないと分からないけど。

 

「なんだ燐香――じゃなくてアリス。いきなりお前がやるのか?」

「任せてください。私も結構経験を積みましたので」

「言うじゃないか。ならお手並み拝見と行こうか。ここは任せたぜ、相棒!」

 

 魔理沙に背中をビシッと叩かれる。気合が入った! やはり相方がいるというのは素晴らしい。サポート効果、素早さ+10が掛かった気分。私は正面に立ちはだかるリグルに視線を向ける。

 

「こんばんは、虫の妖怪さん」

「こんな夜に、人間がのこのこ出歩くなんて物騒だなぁ。妖怪の栄養になる前に、少し痛い目を見たほうがいいよ」

「そうですか?」

「私に聞かれても困るよ。それにほら、虫達のささやきが聞こえるでしょう? 少し足を止めてそれに浸るのも悪くないよ。例えば、三日間ぐらいね。気が向いたら虫の栄養になってくれると嬉しいな」

「それは、私達にくたばっていろということでしょうか」

「簡単に言えばそうだね。人間ごときに舐められたら私達も商売あがったりなんだ。だから、死なない程度に痛い目を見せてあげる。その代わりといってはなんだけど、美しい虫達の煌きをその目に焼き付けていくと良いわ」

 

 リグルが蛍たちを自分の周りに展開する。彼女はどんな弾幕を使うのだったか。なんか虫みたいな弾幕? 虫みたいな弾幕ってなんだ。駄目だ。さっぱり覚えてない。一番インパクトのあるリグルキックぐらいしか覚えてなかった!

 最初なら花梨人形だけでいけるかなぁと思ったけど、やっぱり無理そうかな。いや、人形を抱えながら、戦闘用彼岸花を出して戦えばいいか。よし、そうしよう。

 私は完璧なるアリス・マーガトロイド! アリス・マーガトロイドは私! アリスパワー充填!

 

「今日は丁度良いと思うの」

「……いきなりだなぁ。で、何が丁度良いの?」

「礼儀を知らない蛍狩りをするには、丁度良い夜だと思うの。ねぇ、貴方もそう思わない、リグル・ナイトバグ」

 

 私は意識的に攻撃的な笑みを浮かべる。最初が肝心、舐められてはいけないのである。

 

「――こ、こいつッ」

 

 警戒心を露わにして距離を取るリグル。一斉に周囲に弾幕を展開しはじめる。

 私もリグルに負けじと、戦闘用彼岸花『蕾』を適当にばら撒く。流石にステージ1で負けられないので、いきなり10個展開だ。完璧なアリス・マーガトロイドの名前に万が一にも傷をつけてはいけない。強く凛々しく美しく。華麗な弾幕で勝利を掴まなければ。

 

「――え? これは、まさか、ひ、彼岸花?」

「ええ、彼岸花。綺麗でしょう? 赤色が血みたいで」

「そ、そんな、馬鹿な。な、なんでお前が、アイツの技を」

「なんででしょう。不思議でしょう? 虫ごときには分からないでしょうけど、この世界は不思議に溢れているのよ」

 

 気障なセリフがペラペラでてくる。流石はアリス。ちなみに、アリスはそんなことを一回も言ったことはない。しかし、私の考えた最強のアリスなので何も問題ない。

 

 目を見開いて驚愕しているリグル。その顔は見る見るうちに青褪めていく。なんか汗もだらだらと流れているような。こちらを指差す手がぶるぶると震えている。

 

「お、お前、まさか、か、か、か、風見の」

 

 口をパクパクとさせて、少しずつ後退していくリグル。

 

「さて、覚悟は良いかしら。大丈夫、殺しはしないわ。ただ、三日間ぐらい標本の気分に浸ってもらうだけ――」

「う、うわぁああああああああああああ!!」

 

 私が格好良くスペルを宣言しようとしたら、リグルがいきなり逃げ出した。夜でも分かるくらい顔を真っ青にして。いや、真っ黒ぐらいまでいっていた。

 もしかすると何かやることを思い出したのだろうか。例えば、家の鍵を掛け忘れたとか。

 ――と、展開させていた彼岸花が勝手に反応して攻撃をしかけてしまった。直ぐにやめさせたが、30発ぐらい妖力弾が飛んでいってしまった。リグルの姿はもう見えないが、なんか遠くの方で誰かの悲鳴が聞こえた気がする。でもまぁ、こんな遠距離で当たるわけもないので心配無用だろう。

 

「良く分からないが、終わったみたいだな」

「折角展開した彼岸花が無駄になっちゃいました」

「まったく、何しに出てきたんだアイツは」

 

 なんだか拍子抜けだが、戦わずして勝ってしまうとは流石アリス。アリスは完璧だ!

 

「とはいえ、戦わずして勝てました。完璧なアリスに相応しい勝ち方ですね」

 

 ふふんと腕を組む私。私がやっても滑稽なだけだが、アリスならパーフェクト。

 

「いいのかそれで。ま、逃げたのは相手だからまぁいいか。なんかアイツ死にそうな顔してたし、追いかけるのも変な話だしな。とりあえずお疲れ。って、いうほど疲れてないよな」

 

 魔理沙が苦笑している。私も肩を竦めるしかない。せっかくやる気モードだったのに。残念。

 

「全然疲れてませんよ。次に誰か出てきたら、また私がやりましょうか?」

「うーん、そうだな。それじゃあ次も任せるか! よーし、先を急ごう!」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

「風情を感じるはずの鳥の声が、無粋に思えるくらいに素敵な夜ね」

「はは、しっかり役に入り込んでるな。その小生意気な表情に不敵な態度、アリスにそっくりだぜ。で、もしかして、何かいるのか?」

「ええ、私の目は絶対に誤魔化せない。ねぇ、そこにいるんでしょう?」

 

 ステージ2はミスティア・ローレライ。木の陰に隠れてこちらを窺ってるみたいだけど、完璧なアリスアイは誤魔化せない。……と言いたいところだけど、そんな素敵な策敵能力などあるわけがない。なんとなくそろそろかなーと思って適当に言ってみただけ! 花梨人形を飛ばしてあぶりだすことにする。適当に弾幕でもぶっぱなしてたら出てくることだろう。違ったら適当に誤魔化すのみ!

 

「きゃああああああああああ!!」

 

 花梨人形が攻撃を仕掛けた辺りから、なんか飛び出てきた。夜雀の妖怪、ミスティア・ローレライだ。今度八目鰻をご馳走してほしい。一発でヒットとは流石はアリス!

 

「こんばんは、ミスティア・ローレライ。前言を撤回するわ。満月の夜に相応しい素敵な歌声ね」

「ひ、ひいっ」

 

 って、なんかいきなり顔が青褪めてるんだけど。一目で分かるくらい身体がぶるぶる震えている。調子が悪いなら出てこなければいいのにと思うが、それは妖怪の矜持というものがあるのだろう。人間を目にして襲わずにはいられないみたいな。ならば全力で受けて立つのみ!

 

 

「ど、どうして私の隠れてる場所が。それに、なんで私の名前を知ってるの!?」

「私に分からないことなんてないのよ。貴方は人を罠に嵌めるのが大好きな夜雀でしょう。そう、私は貴方のことを良く知っているわ」

 

 極めて友好的にニコリと笑い掛けてやる。ビクッとするミスティア。

 

「そ、そんな、あの化け物――か、風見燐香に目をつけられていたなんて。さ、さっきリグルを殺しかけたのは貴方でしょう? ど、どうしてそんな格好を。も、もしかして、私達を罠に嵌める為に?」

 

 あ、やっぱりばれてた。リグルに教えてもらったのだろうか。彼女達は仲が良さそうだし。本当はルーミアもそこにいるはずだったのだが、私の友達になってしまっている。申し訳ないとしかいえないが、今更友達止めるとか言えないし。許してください。

 いつかあのバカルテットをこの世界で見ることがあるのだろうか。それは私には分からない。

 

「ふふ、貴方が知る必要はない。それに、私の正体を知っていてもらっては困るの。だから、ね?」

 

 今日くらいは黙っていてねと口に人差し指を当て、目でウィンクする。

 

「ま、まさか、わ、私もリグルと同じように」

「言わなくちゃ駄目かしら」

「ま、ままま、待って! そ、そうだ。一緒にそこにいる白黒の人間を襲いましょうよ! 貴方、人間が大嫌いなんでしょう? 幻想郷縁起にもそう書いてあるらしいし。に、肉は全部貴方にあげるから!」

「……はい?」

 

 私は眉を顰める。幻想郷縁起にそう書いてある? 全く意味が分からない。いつの間に私が幻想郷縁起に掲載されていたのか。まさか、私の知らない間に人間友好度がひどいことになっているんじゃ。こんなにフレンドリーな妖怪は他にはそうそういないよ!

 

「なんだなんだ、この鳥、私とやりたいのか? 別に私は構わないぜ」

「駄目ですよ魔理沙。彼女とは私がやるんですから。さぁ、やりましょうミスティア・ローレライ。リグルには逃げられてしまいましたから、貴方にはその分もぶつけさせて――」

「や、焼き鳥は嫌ぁああああああああああああ!!」

「ちょ、ちょっと――」

 

 いきなり叫び声をあげたミスティアは、能力を発動させて私の視界を奪ってくる。いきなり全力で仕掛けてくるようだ。

 奇襲を警戒した私は、即座に彼岸花を展開。牽制弾を放ちミスティアの足を止めるのが狙いだ。

 さらにスペル、陽符拡散型ソーラービームを時間差でチャージ。太陽がでていないので、効果はいまいちだが気にしない。

 こいつはマスタースパークと見せかけて、途中で拡散するインチキビーム。マスタースパークを知っている人間ほど引っ掛かりやすい。弾幕ごっこは当てれば勝ちなのだ。そして、展開した彼岸花の通常弾幕と合わせて被弾を狙う陰険なスペル。やられると結構厄介だと思う。私は喰らいたくない。

 一番簡単な対処法は全部消し飛ばしてしまうこと。既に幽香が実践済みである。私も巻き込まれて吹っ飛ばされたけど!

 

 不運にも牽制弾を喰らってしまったらしいミスティア。見えないけど、多分当たったのだろう。私としてはラッキーである。体勢を崩しているだろうミスティアがいる辺りに、適当に彼岸花を投げつけて拘束させる。見えないけど、どれかが当たれば絡みつく。

 

「な、なんで全部こっちに飛んでくるのよ! ま、まさか私の姿が見えてるの!?」

「私は完璧なるアリス・マーガトロイド。私の瞳は全てを見通すのよ。そんな姑息な手段で翻弄できると思わないで」

 

 全部嘘だけど。本当は何も見えてない。でも、アリス・マーガトロイドなら見えているだろう。敵と対峙して動揺する姿が全く想像出来ないし。というわけで、全ては私の掌の上とばかりに微笑んでみせる。

 

「それになんなのこの花、う、動けない! そ、それにその妖力は――」

「こんな綺麗な月明かりを隠すなんて、誰の得にもならないでしょう。さぁ、もっと光を」

 

 気分的に1ターンくらい経ったのでチャージ完了だ。手を翳して拡散型ソーラービーム発射! 目標、多分ミスティアがいる辺り!

 

「あ、ああ――」

 

 か弱い悲鳴が上がると同時に、私の視界が晴れていく。ミスティアは私のビームを喰らってしまったらしく、地面へと落下していった。当てるのが目的の拡散型だから、大したダメージはないだろう。アリスは優しいので、身動き出来ない相手を痛めつけるようなことはしないのである。

 

「いつものように大勝利。そう、このアリス・マーガトロイドに敗北はない!」

 

 ジョジョに出てきそうな体勢で勝利ポーズ。セリフはテンションのままに適当だ。私の花梨人形がグルグルとまわって勝利をアピールしている。でも、身体と首が逆回転で回ってるので超怖い。可愛い分余計に不気味だ。

 あれ、こんな動かし方命令してたかな。糸がくっついてるから自動でそうなってしまったようだ。認めたくはないが、呪いのデーボ少女人形版にしか見えない。奇声をあげないことが救いである。

 

「お、お前から見たアリスはそういう姿なのか……。私が見てきたイメージと大分違うような気がするけど。そんなテンション高かったかな」

「そんなことはありません。アリスは完璧ですから。私の憧れの人なんです。人形はアレですけど」

「……いや、人形だけじゃないんだが。ま、まぁいいか。ところで、鳥が使ってきた視界封じ、もしかして効いてなかったのか?」

「いえ、バッチリ効いてましたよ。ただ、ここかなぁって思って適当に撃っただけです」

「うへぇ。それで当てるとはえげつないな。というか、なんだかマスタースパークっぽかったけど、もしかして私のスペルを参考にしたのか?」

「ちょっとだけです」

 

 私はえへへと笑うと、魔理沙がこいつめと頭を軽く突いてくる。

 でも、実際に盗んだのは風見幽香からである。アイツは遠慮なくぶっ放してくるおかげで、身体で覚えられたし! 

 というかどっちがオリジナルなんだろう。元祖と本家みたいな違いということでいいのだろうか。ま、細かいことはいいか!

 

「ま、技を盗むだけじゃなく、自分の物に昇華しようとしているのは大したもんだぜ。そういうところも私に似てるぜ」

「ありがとうございます!」

「でも、拡散のタイミングはもう少し考えたほうがいいぞ」

「なんでです?」

「拡散する前にあの夜雀に当たってたからな。当たった後に拡散しても意味がないだろう。見た目は派手だったけど」

「…………」

「どうしたんだ?」

「い、いえ。なんでもありません」

 

 か、拡散する前? ということは、普通のマスタースパークみたいなアレに当たっちゃったのか。というか、良く当てられたものだ。ビックリ。いや、問題なのはそこじゃなくて。

 

「だ、大丈夫ですかね」

「妖怪だから平気だろ、多分。まぁ、半殺しくらいなら普通に復活するのが妖怪だから気にするな! 霊夢の奴なんてもっとひどいからな!」

 

 遺憾にも修羅巫女と比較されてしまった。大いに遺憾の意を表明したいところ。

 今度ミスティアに会ったらちゃんと謝らなくては。いや、謝る必要はないのか。やりすぎてごめんとか、馬鹿にしていると思われるに決まってるし。

 ならば、普通に笑顔で接すればいいだろう。うん。勝負が終わればノーサイド。良い言葉だ!

 

 

 

 

 

 そしてやってきましたステージ3。魔理沙は怪訝そうにキョロキョロしている。今いるのは人里付近。人里は変な白い靄に囲まれている。そして、なんだかものものしい。武装した自警団やら、独鈷を持った僧侶みたいな人が門を固めている。松明の明かりが煌々としているし。なんか戦でも始まる前みたいな感じ。大河ドラマで見た事があるし。

 門の前に立ちはだかっているのは、上白沢慧音。腕組みをして、警戒心を丸出しにして上空の私達を睨んでいる。

 

「おっかしいなぁ。ここらへんに人里があったはずなんだけど」

「……そうなんですか?」

「ああ。でもなんにもないぜ。どうなってるんだこりゃ。神隠しってやつか?」

 

 魔理沙には見えていないのかもしれない。下にありますよと教えてもいいが、そうしたところで意味はないだろう。だって、慧音が歴史を隠しちゃったのだから。解除しないかぎり、魔理沙には見ることはできない。

 何故私には見えているのか。なんとなく臭いがしたから。黒い感情が点在しているのが分かる。それを注意深く観察すれば、全体の姿も見えてくる。見えたからなんだという話だけど!

 

「お前達か。こんな真夜中に里を襲おうとする不埒な人妖は」

「いいや。ただ通りかかっただけだ。気にしないでくれ」

「そういう訳にはいかない。特にお前だ。目的もなしに、ここを訪れたわけじゃないだろう」

 

 慧音が私をすっごい怖い目で睨んできた。怖い。でも、アリス・マーガトロイドは脅しには屈しない。

 

「私はアリス・マーガトロイド。ただの都会派魔法使いよ」

「嘘をつけ。お前が騙っている人形遣いとは話したことがあるんだ。彼女は礼儀正しく、とても理性的な人物だ。決して、お前のような邪気丸出しの妖怪ではない!」

「へぇ、良く見ているのね。流石は教師と言うべきかしら」

 

 私は貶されているが、アリスは褒められたのでちょっと嬉しくなる。薄く笑うと、慧音が眉を顰める。

 

「さぁ、とっとと正体を現したらどうだ。いずれにせよ、人間達はこの私が守って見せる!」

 

 ビシっと指をさしてくる慧音。流石は人里の守護者。格好良い。でもアリスも同じくらい凄いということを見せなくては。ビビってはいられない。

 

「……誰が何と言おうと、私はアリス・マーガトロイドなの。上白沢慧音、あまりしつこいと、下の人間どもを皆殺しにするわよ? そうだ、景気付けに吹き飛ばして塵にしてあげましょうか」

 

 いや、そこまで言うつもりはなかったのに。なんだか、人間どもを見ていたら妙に殺意が湧き出てきたというか。おかしいな。満月のせいだろうか。

 

「ッ!? お、お前、まさか」

「ええ。全部見えてるわよ? 有象無象のクズどもがうじゃうじゃと群れをなして。まさか、これで隠しているつもりなのかしら」

「おい燐香。下に、何かあるのか?」

「燐香? まさか、お前、あの風見燐香なのか!?」

「あ、いけね!」

 

 慧音の大声に、魔理沙が口を抑える。わざとじゃないよね、というぐらいうっかりさんである。罰として、慧音とは魔理沙に戦ってもらおう。

 

「なんのことか分かりません。今の私はアリス・マーガトロイド。それ以上でもそれ以下でもない!」

 

 なんか歯を食い縛れ、修正してやる! と殴られそうな気がしたが気のせいだった。今度サングラスでもかけてみようか。金髪だし。

 

「そうとなれば、ますます見過ごすわけにはいかない!! 人里は、人間たちは私の命に代えても絶対に守る!!」

「魔理沙。どうしてくれるんです?」

「悪い悪い。いやぁ、アリスって名前に慣れてなくてさぁ。ほら、アイツと仲悪いし」

「もう知りません。ここはお任せしますよ」

「この流れで私が出張るのか? お前がやると思ってたのに」

「うっかりの罰です。それに私は2連続で戦っていますし。なんだか疲れちゃいました」

「よく言うぜ。殆どまともに戦ってないじゃないか」

 

 魔理沙が口を尖らせる。だがそれは不可抗力だ。なんだか呆気なくここまでこれてしまっただけのことで。

 

「それは私のせいじゃないですよ」

「知ってるよ。ま、私が出張るってのはそんなに悪くない。そろそろ身体を動かしておきたかったからな!」

「霧雨魔理沙。お前は人間のくせに、そんな凶悪な妖怪と行動を共にしているのか」

「ああ、そうだぜ。だって友達だからな!」

 

 あれ。私と魔理沙は友達だったんだ。知らなかった。でも、嬉しい。彼女は私なんかと友達でいてくれるようだ。でも、そんな資格が私たちにあるのだろうか。分からない。

 

「なにを言うか、この与太郎が! 大地にひれ伏して、朝が来るまで頭を冷やすが良い!」

「その言葉、熨斗をつけてお返しするぜ、この石頭が!」

 

 魔理沙と慧音の弾幕バトルが始まった。いつも明るい魔理沙らしい、派手で見ているだけで楽しくなれる弾幕勝負だ。彼女が人妖を惹きつける理由が良く分かる。一緒にいるだけでなんだか楽しくなるし。流石は主人公だ。魔理沙は否定するだろうが、彼女も霊夢に負けないくらいの魅力がある。

 

 そんな魔理沙を凝視しながら、私はさっきの言葉についてひたすら考えていた。魔理沙と友達になるということについて。簡単には答えがでそうにはない、難題だ。いや、既に友達だから答えは出ているのだが。じゃあ何が問題なのかというと、彼女の性質だ。

 彼女の存在は、私、私達の存在意義に関わってくる気がする。ああ、頭がぐちゃぐちゃになる。白の仮面が嫌な音を立てている。もう耐えられないと軋んでいるかのようだった。


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