ハッピーエンドではありません。
閲覧時には注意をお願いします。
これで完結ではありません。
苦手な方は、76話投稿までお待ち下さい。
◆ Caution!! ◆
――彼岸花異変は、無事解決した。
今回解決したのは、博麗霊夢ではなかった。アリス・マーガトロイド、パチュリー・ノーレッジ、そして霧雨魔理沙の三人組によってだ。
当然ながら、霊夢とは道中でかち合ったが、事情を説明すると霊夢は予想に反して道を譲ってくれた。魔理沙は口を開けて驚いてしまったが、霊夢は『方法があるなら試してみなさい。それで駄目なら始末するだけ』とあっけらかんとしていた。
道を阻んでいた妖夢はアリスの話を聞くと、あっさりと降参。最後まで抵抗したルーミアとフランは全く聞く耳を持たず、黒い瘴気を身に纏わせて、苛烈な攻撃を仕掛けてきた。
だが、グリモワールを解禁したアリスと、賢者の石をこれでもかと多用したパチュリーによって、激戦の末に撃ち落されていった。魔理沙ができたのは、隙を突いてマスタースパークをぶっ放しただけだ。避けるだけで精一杯だったのだ。
「あれ、どうしたんです魔理沙さん。しかめっ面して」
「いや、ちょっと考え事をな。女にはいろいろあるのさ」
「そうなんですか」
不思議そうに首を傾げる燐香に、魔理沙は悪い悪いと軽く手を振る事で答える。
「しかし、美味いな」
「そうですね。お茶もいいですけど、紅茶も大好きです」
今日の魔理沙は、アリスの家で紅茶をご馳走になっていた。以前は険悪な仲だったが、異変の後はそれなりに話せる間柄になっている。
短い期間とはいえ、魔女たちは全精力をかけて一つの作業に没頭していたのだから。そして、もう燐香に悪い影響を与えないとアリスに判断された魔理沙は、こうしてアリスの家に出入りを許されるようになったというわけだ。
――異変から三ヶ月経ってからだが。
魔理沙は、台所で洗い物をしているアリスをちらりと見る。穏やかで、とくに変な様子もない。さっきまではご機嫌にお菓子を焼いていたし。
(……平和だ。ちょっと前の修羅場が嘘みたいだ)
確かに、世界は平和だった。霊夢はいつも通りけちで性格が悪いし、紫は胡散臭いし、萃香はいつも酒臭い。
フランは美鈴をつれてアリスの家に遊びに来るし、それを迎える燐香も楽しそうだ。
紅魔館は修理で慌しい。永遠亭の連中は何を考えているか分からない。白玉楼はとても静か。
「身体の方は、もう慣れたのか?」
「はい。それに、いつまでもこのままじゃないですし。のんびり待ちます」
魔理沙が何度目になるか分からない質問をする。それに、毎度同じ答えを返してくる燐香。特に気にしてはいないようだ。
――そう、燐香は異変で自分の肉体を失っていたのだ。今は、アリスが精魂かけて作り上げた人形、に魂のようなもの――『自我』が宿っているといえばいいか。高度な魔技術が組み込まれた人形で、飲食を取ったという感覚を燐香に与える事ができるらしい。しかも人工皮膚のおかげで、一見しただけでは人形とはとても見抜けない。瞳もまるで生きているかのように輝いている。
何より、人形なのに前と同じ声が出せるのが凄い。本当に燐香と同じ声なのだ。どうやっているのかは分からないが、アリスいわく、燐香の声色を忠実に再現しているだけとのこと。簡単に言っているが、とてつもないことなのは間違いない。あのパチュリー・ノーレッジが呆れていたのだから、相当なものだ。
「ああ、それにしても平和だな」
「平和ですね」
「…………」
◇
あの異変において、燐香の力は暴走し、その肉体も著しく成長していた。立ちはだかるフラン、ルーミアを撃墜した魔理沙たちは、勢い良く主の間に乗り込んだのだ。
そこには、黒い瘴気に侵食され、声にならぬ悲鳴をあげる燐香がいた。身体は、根、或いは蔦だろうか。良く分からない黒い植物が幾重にも巻きつき、部屋中にまでその枝葉を伸ばしていた。部屋の中は、黒一色だったのだ。
呆然とする魔理沙、険しい顔をするパチュリー。素早く札を取り出し、真っ先に戦闘態勢に入る霊夢。駆けつけてきた妖夢も、剣に手を掛けていた。
(あれが、負の力が具現化したもの。アリスがいなければ、霊夢は問答無用で殺していたんだろうな。見るからに、手遅れだったし)
魔理沙は震える身体を抑えながら、瘴気の中で目を凝らす。黒の中に、燐香の顔が僅かに残っていた。黒い血を吐きながら、口がかすかに動く。
その口は、『はやく、殺して』と言っていたように思える。助けて、ではなかったのは間違いない。
アリスは即座に移植術式を発動。それに続きパチュリー、我に返った魔理沙がそれに協力して結界を展開する。光が部屋を包み込み、その光は徐々に球へと収束していき、等身大の人形へと吸収されていった。あっと言う間の出来事だった。
燐香を構成する要素を全て取り込み、アリスの用意した人形に完全に移植する。難航することが予測されたのだが、呆気ないほど術式は成功してしまった。
それと同時に異変も終わった。妙な力を宿していたフランたちは元に戻り、世界を赤く染めていた花々は散っていった。
あれほど幻想郷中に咲き乱れていた赤い彼岸花が、生命力を失ったかのように、あっと言う間に枯れて行ったのだ。だが、幾つかの彼岸花は黒化し、今もなお幻想郷に残っている。それは、集落を覆っていた黒花。燃やしても燃やしても、次の日には再生してしまうとか。住民はなんとか除去しようと必死に足掻いているらしいが。いずれは紫がなんとかするだろうと、霊夢は他人事のように言っていた。
その魔理沙も上白沢慧音から協力を求められたが、それに関わっている余裕などは全くなかった。
確かに、異変は無事に解決した。だが、燐香の意識が目覚めなかったのだ。アリスがいくら『燐香』を起動させようとしても、人形はうんともすんとも言わない。起動術式が間違っている可能性も考え、パチュリーと魔理沙はほとんど寝る事無く作業を行った。だが、間違いは見つからなかった。アリスは一睡もせず、ひたすら起動術式を唱え続けていた。魔法陣の中心で、人形を抱きかかえながら。魔理沙にはそれが悲鳴のようにしか聞こえなかった。
――それから三日が経過。魔力がつきたアリスは、方針転換することを私たちに告げた。一旦起動は保留し、燐香を構成していたものの再構築に取り掛かると。
だが、魔理沙は少し疑問に思った。起動する前に、再構築は終えているはずなのだ。だが、アリスはもう一度分析と研究を行いたいと言い出した。そして、集中したいから、しばらくは私に任せて欲しいと魔理沙たちに告げてきたのだ。
魔力の枯渇していた魔理沙はそれを渋々了承。パチュリーは何かをアリスと話したあと、肩を落として紅魔館へと帰って行った。
魔理沙は毎日様子を見に行ったが、アリスがこちらの相手をすることはなかった。人形を作業台の上に乗せ、魔術書を片手にひたすら研究研究研究。
燐香の様子が気になるのか、フランも頻繁にやってくる。妖夢は何かを押し殺すような顔でやってきては、人形を見て無言で帰って行く。
ルーミアは一度もこなかった。魔法の森で偶然見かけた魔理沙は、それを問いかけたことがある。
「おい。どうして、様子を見に来ないんだ? 友達だろうに」
「友達だからだよ。あんな趣味が悪い事には付き合いたくないし関わりたくもない。大事な思い出が汚されるのは嫌だなー」
「それは、どういう意味だ?」
「あははは。本当は気がついてるくせに。人間って、本当に嘘つきだよね。やっぱり嫌いだなー。ま、私もよく嘘つくけど」
ルーミアは赤い口を見せて嗤うと、闇を展開して消えて行った。魔理沙にはなんのことかさっぱり分からなかった。
幽香は一度も顔を見ない。花畑にはいるらしいが、どこを探しても見当たらなかった。燐香が大切に育てていた彼岸花の畑は、ちゃんと維持されていた。そのことが、なんだか魔理沙には嬉しく思えた。そのうち会う機会もあるだろう。あんな態度を取り続けていたが、娘を心配する気持ちは絶対にあるはずだ。
――二ヶ月目。アリスの顔に、いよいよ焦りが見え始める。フランは感情が不安定になり、紅魔館を出る事を禁止された。来る途中で、人間を半殺しにしてしまったらしい。妖夢はもう姿を見せない。白玉楼でひたすら修行に打ち込んでいるらしい。
そういえば、今回の異変の黒幕である風見燐香には、罰が与えられたと八雲紫から発表された。意図したものではないが、集落の人間の被害に繋がったからだと。更には妖怪の山から厳罰に処せと圧力がきたとかなんとか。よって、無期限の肉体消滅刑とかいう訳のわからないものに処されたと。
「実際消滅しているからいいじゃない」と、紫は笑っていた。外の世界では、無期懲役でも、しばらくしたら普通に出てくるしと。それに、復活したら、すぐに撤回するから心配無用と言って、スキマに消えて行った。
魔理沙がそれをぼーっと聞いていたら、霊夢に酷い顔をしていると言われた。本当に余計なお世話である。
そして、燐香はまだ目を覚まさない。
――三ヶ月目。アリスの顔に鬼気迫るものが見え始めた。魔理沙はもう声をかけることすらできない。
何かできることはないかと紅魔館に調べものに行くと、パチュリーが、苛ついた表情を浮かべていた。小悪魔がニタニタと嗤っていたが、パチュリーに本気で魔法をぶっ放され、半身を消滅させられていた。しばらくは動けないだろうとのこと。自業自得である。
「なぁ」
声を掛けたものの、何を話せばいいか分からない。だが、パチュリーは口を開いた。
「……だから言ったのよ。私は強く警告した。アリスは、その報いを今味わっているのよ」
「それは、どういう意味だ」
「自分で考えなさい。貴方には頭があるのでしょう。……本当に、どうしたらいいのか」
パチュリーは疲れたように椅子に背中を預けると、両目を閉じた。
「フランの様子は?」
「一言で言って、悪いわね。安定していた精神がひどく乱れているわ」
「…………」
「当分は外に出すわけには、いかないでしょうね」
フランは地下室に篭りっきりだという。魔理沙が様子を見に行くと、泣きはらした顔で、ひたすら絵を描いていた。白い画用紙に、赤いクレヨンで沢山の彼岸花。美鈴が辛そうにそれを眺めている。咲夜は作り笑顔で紅茶とケーキを置いた後、部屋の外で目を拭っていた。
「……これを、一緒に直して、気晴らしにでもと思ったんだが。まだ無理そうだな」
魔理沙は懐から、ある物を取り出した。
「……それは?」
「燐香の持ってた河童の道具だ。壊れてるけど」
太陽の畑、幽香のもとを尋ねた際に、外で拾ったもの。冷暖房機能がついた携帯カイロだと燐香が自慢していたものだ。泥だらけで、ずっと野晒しだったらしく、壊れている。スイッチを押しても起動しない。汚れは落としたが、中を開けても良く構造が分からなかった。部屋に返しに行こうと思ったのだが、気紛れで持って帰ってきてしまった。もちろん、盗むつもりなどはなく、ちゃんと直してから返すつもりだ。なにかやってないと、気分が落ち着かないから。
「地下に行くのはやめておきなさい。今は、無理よ」
「だろうな」
異変は終わり、当初の目的通りに術式は実行された。あの日、全てが怖いくらいに上手く回ったはず。
だが、魔理沙は胸騒ぎがする。もしかして、取り返しのつかないことをしでかしてしまったのではないかと。
「……そういえば、聞いているかしら」
「……ん? 何のことだ?」
「黒い彼岸花で覆われていた集落よ」
「ああ、慧音に言われてたあれか。燃やしても燃やしても再生するとかいう」
「ええ。あれね、もう解決する必要はなくなったみたいよ」
パチュリーが淡々と呟く。その冷淡な表情を見て、魔理沙の背筋に鳥肌が立つ。
「どういうことだ」
「綺麗に霧散したそうよ、例の黒い彼岸花。そのついでに、住民も全員死んだ。黒の花が残っていた集落の住民、全員ね。老若男女関係なく死んだ。……これが何を意味するのか」
今まで冷淡だった表情が、苦悩のそれへと変わる。なぜか、フランの泣き顔が脳裏に浮かんだ。
魔理沙には何が起きているのか分からない。分かりたくもない。
――そして、三ヶ月目が何事もなく終わろうとしたとき、前触れもなく燐香が目覚めたのだ。上海人形の手紙でそれを教えられたとき、魔理沙は大声を上げて歓喜してしまった。そして、全速力でアリスの家へと向かった。
アリスの顔には満面の笑み。魔理沙も自分のことのように全力で喜んだ。
「おはようございます、魔理沙さん」
「あ、ああ。心配かけさせやがって。皆、本当に待ってたんだぜ?」
「はい。でももう大丈夫です。なんだか、身体が変な感じですけど」
「そりゃあそうだろう。ああ、アリス、この身体のことは?」
「もう全部教えてあるわ。時間はかかるかもしれないけど、必ずなんとかする。燐香も、気にせず接してくれって」
「そ、そうか。じゃあいいか。気分はどうだ。もう、大丈夫なんだよな?」
魔理沙がそう笑顔で尋ねると、燐香は少し沈黙した後、
「良く分かりませんが、私は、皆とまた会えて本当に嬉しいです」
とだけ答えた。
その晩は、フランたち紅魔館勢、霊夢に妖夢、それに紫たちも一緒になって復活を祝う宴会を行った。本当に楽しかった。
だが、ルーミアはやっぱりこなかったし、妖夢の顔は、何故かいつまでも沈鬱なままだった。
どうして楽しまないのだろうと、魔理沙は疑問に思ったが、特に気にしない事にした。もうどうでもいいことだ。終わり良ければ全て良しである。
◇
「ところでさ、次に異変が起こったらどうするつもりだ?」
「私は、この身体ですから大人しく見ていようかと。壊れたら困りますし」
「そっか。まぁそうだよなぁ」
燐香が残念そうに呟くので、頭を撫でてやる。
「ところで、ルーミアは元気にしてますか?」
「ああ。相変わらず能天気にしてるぜ。ふよふよ浮かびながらな」
「妖夢は?」
「幽々子にこき使われてるよ。仕事と修行しかしてないんじゃないか」
「そうですか。また、皆で一緒に遊びたいです。前みたいに、一緒に」
そう言って、寂しそうに笑う。その表情は、人形とはとても思えない。
燐香の新しい友達、メディスン・メランコリーもそうだったが、彼女達は本当に表情豊かなのである。だから、魔理沙もこうして自然に話すことができる。
「魔理沙さん?」
「あ、ああ。いや、なんでもない。メディスンは何をしてるかなぁってな」
「鈴蘭畑で、毒を撒き散らして遊んでるんじゃないですかね」
「そりゃあ良い迷惑だな」
燐香の目を見ながら、魔理沙は作り笑いを浮かべた。
一つ、前から疑問に思っていることがある。
……この目は、本当に霧雨魔理沙を映しているのだろうかと。そんなことはどうでもいいじゃないかと引き止める自分がいる。それと同じくらい、何かが胸から込上げてくる感覚がある。そろそろ現実を直視しろという不快な声が、日に日に大きくなる。
違和感がある。どうしても拭いきれない。確かに、仕草、言動は燐香そのものだ。だが、全ての会話に、一拍、奇妙な間が開く。そして、その問いにはどう答えたら良いのか計算でもしていたかのように、的確な返答が返ってくる。間以外は、完璧だ。だからこそ気になる。喉に骨が刺さったかのように、チクチクと。
こうして毎日会話をしているとそれが嫌でも目に付くのだ。以前の燐香とは、もっと打てば響くように会話をしていたから。でも、人形の身体だからかもしれない。……でも、本当は違うのかもしれない。
ルーミアの言葉が脳裏に響く。――『あははは。本当は気がついてるくせに』。
「…………」
「魔理沙さん。どうか、したんですか?」
「いや、別に」
燐香は前よりも冗談を言わなくなった。たまに悪戯や冗談を言っても、必ず同じもの。まるでレパートリーでもあるかのようだ。その違和感の積み重ねはすでに、限界に近い。もしかすると、ルーミアや妖夢が近づかなくなったのもそのせいじゃないだろうか。彼女達は、魔理沙よりも距離が近かった。
じゃあフランは。いや、フランはまだ精神が幼いから気付いていないのかも。だが、いずれは気がつくだろう。何かがおかしいと。
確認するのは簡単だ。こうして、燐香の頭に手を置いて、探知魔法を掛けてやれば良い。一つおまじないを唱えるだけで、全ての真実を知ることが出来る。これは本当に燐香なのかを。残っていた黒い花は、恨みを晴らして完全に霧散した。この人形の中に、燐香を構成するものはまだ残っているのか。なぜ、燐香のそばにいつもアリスがいるのか。母親である幽香はどうして様子を見に来ない。どうして、どうして、どうして? その答えは、直ぐに手に入る。
「…………」
魔理沙はゴクリと唾を飲み込んだ。手の震えはいつの間にか収まっていた。
ふと、洗い物の音が聞こえない事に気がついた。食器がカチャカチャと打ち合う音が聞こえない。
アリス・マーガトロイドが、こちらを見ていた。感情の篭らない冷たい目で。まるで、人形のガラスの瞳のようだった。とても綺麗で輝いているのだが、そこには感情がないのだ。なんだ。それじゃあこの燐香と一緒じゃないか。
「――お前の髪、本当に綺麗だな。まるで、太陽の色みたいだぜ」
「あはは。それはありがとうございます。私、太陽大好きですし」
「そうか。なら、夏になったら太陽の畑に遊びに行こう。向日葵、本当に綺麗だぞ。どうせなら、丁度いい季節に行った方が盛り上がるしな」
魔理沙は感情が漏れでないように、慎重に言葉を一句一句吐き出した。
「はい、その時は一緒に行きましょう。連れて行ってください」
「ああ、そうだな。約束だ」
魔理沙は箱に蓋をした。開けて真実をしりたいと思う気持ちはある。が、それでどうなるというのだ。何も変わらない。なら、こうして平和に浸っているほうがマシじゃないか。
もう全てが終わっている。選択は行われ、結果は出たのだ。今できるのは、残された中から一番良いものを選ぶこと。そうに違いない。
「それじゃあ、私はそろそろ行くぜ。パチュリーに本を借りにいかないといけないんだ。アリスもお茶、ありがとうよ」
「さようなら、魔理沙さん」
「またいつでもいらっしゃい。燐香が喜ぶから。パチュリーによろしく」
アリスが笑う。燐香は元気に手を振っている。ああ、本当に幸せそうな光景だ。
魔理沙はとんがり帽子を押さえ、アリスの家をゆっくりと離れていく。
これも一つの幸せな結末、か。フランは元気になり、燐香には新しい友達が増え、アリスも穏やかに暮らしている。いつかは燐香に新しい身体が用意されるのだろう。アリスはその作業を行っている。次はもっと完璧な人形になるはずだ。
箒を駆りながら、魔理沙はそんなことを考える。胸に湧き上がる激情を必死に押し殺して。唇を、血が出るほど噛み締めて。もうできることはないのだ。だから、余計なことを考えてはいけない。
(私は、色々なことを知りたいから魔法使いになったんだ。だから、色々なことを知ったんだ。だから、何も後悔はないさ。全部、私が選んだことだ!)
それなのに、どうしてこんなに悲しいのだろう。師匠から『卒業の箒』をもらったときと同じくらい、何かがあふれ出してくる。
とうとう魔理沙は嗚咽を堪えきれなくなる。それでも、いつまでも飛び続けることしかできなかった。
――そうして、今日も幻想郷は平和に一日が過ぎていく。
アリスエンド終了。
妖夢エンドロック解除。
なんとなく後書きをADV風にしてみました。
特に意味はないです。
21時に次を投稿します。