ぼっちじゃない。ただ皆が俺を畏怖しているだけなんだ。   作:すずきえすく

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いつもお世話になっています。
…と言うよりも、明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

更新ペースや内容は相変わらずですが、
どうぞご贔屓にお願いいたします。



さて、今回は第9話となります。

最後までお付き合い頂けると
嬉しく思います。


第9話 混ぜるな危険(人間関係的な意味で。)

 『最近、朝食をとる人が少なくなっている』

 

 

 俺が子供の頃から、あるいは更に昔から…例えば、平塚先生がうら若き乙女だった頃には、既に言われていたかも知れない言葉だ。

 

 そんなに古い時代から言われ続けているのであれば、俺の様な”必ず朝飯を食う人間”は絶滅危惧種並みのSR(スーパーレア)的な希少種であるはずなのに、巷では”一度は行きたい絶品モーニングベスト10”みたいな特集が頻繁に組まれ、人気を集めている。それでは一体、どれくらいの人々が朝食を採らないのであろうか?

 

 似た様な疑問を持つ人は意外と多いようで、様々なサイトで同様のアンケートが実施されている。それを覗き見てみると、性別や世代、それにサイトによって多少の誤差はあるものの、概ね65%~80%くらいの人が朝食を採っているらしい。

 

 あれ?それって意外に多くね?

 

 分かり易く言えば、奉仕部が全部で3人だから、そのうち多くて2.4人…つまり雪ノ下、由比ヶ浜の2人と、俺0.4人分が朝飯を食ってきている事だ。

 

…ってちょっと待て、0.4人ってなんだ?なんか俺、ジ〇ングみたいになっちゃってるんだけど…足なんてただの飾りですよ!みたいな。ちなみに、俺にとっての偉い人は平塚先生だから、足が飾りだなんて事はよく分かっているはずだ。

 

 

 話を戻そう。つまり”少なくなった”というのは、決して実データに基づいた結果ではなく、あくまで慣用句に過ぎないという事だ。ほら、近所の酔っ払った爺さんが、俺によく言う”最近の若い者は…”と同じだ。爺さんだって若い頃には、その時代の年長者に”最近の若い者は”と言われてたに違いない。だって、昼間から酒飲んでんだから。

 

 ただし…俺が色々説教されるのは、若者云々以外に理由がありそうだけどな。

 

 

 まぁなんだ、朝飯をゆったりと採る時間は決して悪いものではない。まだ実家に住んでいた頃は、主に小町とのコミュニケーションの場として重宝したもんだ。小町の機嫌が良い朝なんて、卵焼きにカマクラの絵をケチャップで描いてくれたりしたんだぜ。

 

 それにしても、メイド喫茶で描かれるケチャップアートは凄いな。”メイド喫茶 ケチャップ絵”でググってみると、簡単なメッセージから萌えキャラまで凄い作品が目白押しだ。もう100年くらい経ったら、人間国宝とか伝統芸能の域に達するんじゃねぇの?

 

 

 この様に、俺の中で”朝飯”というものは、和やかな時間だった…はずだ。でも何故だろう…今日の朝飯タイムに限っては、俺の知っているそれではない。

 

 一色も円の奴もニコニコとしていて、一見穏やかそうな時間ではあるんだ。でもな、ピリピリとした空気が漂っていて、和やかさの欠片も見当たらない。内面から滲み出る険悪さっていうのかね、それが隠されるどころか思いっきりハミ出している感じだ。

 

 無論、俺に何とか出来るハズも無く、空になったカップを口元に運んではテーブルに置くという動作を、ただただ繰り返すしか無かった。人間はちっぽけで無力な存在だ…という事を思い知らされながら、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめてっ!仲良くしてっ!

 

 

 

 

 

 

第9話

 

険(人間関係的な意味で。)

 

 

 

 事の発端は、円が自分の朝飯を持ってきて

 

 「あたしも混ぜたってなー」

 

と、俺の隣に”どしっ”と腰かけた事から始まった。その瞬間、向かい側に座る一色の眉が”ぴくっ”となったのを、俺は見逃さなかった。おそらく、さっきの不機嫌タイムは継続中なんだろうな。一切崩れない笑顔が、かえってその怒り具合が強調されている様で、ちょっと怖い。

 

 一方円の方はといえば、そんな様子に”ニヤリ”と不敵な笑みを浮かべると、自分の皿に盛り付けられていたプチトマトを、箸で摘まんで”あーん”と俺に向けて来た。

 

 「ちょ、ちょっと待て。俺はトマトが苦手なんだ。」

 

 そんな、俺のささやかな抵抗を”好き嫌い言うとったら、大きくなられへんで”と一刀両断する円。いやいや、もうとっくに成長期は終わってるからーっ。

 

 だがそんな事はお構いなしに、円はどんどん箸を近づけて来る。やがて、俺の口元にトマトを付き出し、”んっ”と食べる様に促した。色々な意味でハードルの高いこの状況に、俺はなかなか追いついて行けない。

 

 さて、どうしたものか…と考えていたその時、横槍が入った。無論、一色である。一色は、俺に突き付けられていたトマトを”はむっ”と一口で平らげ、

 

 「うわぁーとっても美味しいですよ、このトマト!」

 

と、大げさなくらいに感嘆した声を上げた。ってお前、向かいの席からよく届いたな。

 

 それを見た円は一瞬目を丸くしたが、今度は、”ふっふーん”と悪い事を考えている人の顔になった。一体何を企んでいるのだろうか…まぁ、ろくでもない事なんだろうけど。

 

 「じゃあ…これなんかどうかいな?」

 

 今度はウインナーを箸で摘むと、再び”あーん”と俺の口元へ運ぼうとする円。そして、すかさずそれを”はむっ”とインターセプトする一色。

 

 

 「もしゃもしゃ…ブラックペッパーがすっごい効いてますね。」

 

 

 店内は驚くほど静かだった。唯一、一色がウインナーを咀嚼する音だけが、周りを支配している。それにしても良く噛んでるな。嚙めば嚙む程味が出るっていう位だから、きっと一色の口内には、ウインナーの持つ旨みの総てが引き出されている事だろう。

 

 やがて、咀嚼の音も止むと、辺りはシンと静まりかえった。そして一色と円は、互いに視線を合わせると、どちらからともなく微笑みあった。

 

 

 あれ…これってもしかして、嵐の前の静けさってやつじゃね?

 

 

 

 「・・・にこっ」

 

 「・・・ニコッ」

 

 

 

 まるでそれが開戦のゴングであったかの様に、箸を握り直した円は

 

 「じゃあ、今度はこれなんてどうやろ?ハイ、あーん」

 

と言うと同時に、千切りキャベツ、レタス、フライドポテト…等々、次から次へと摘んでは、凄い速さで俺の口元へと運びはじめた。

 

 一色も負けじと”はむっ・・・ぱくっ・・・ほむっ”っと片っ端から口に咥えて、SGGK(すっごい頑張るゴールキーパー)の森○君もビックリな好セーブを連発していく。

 

 すげぇ…鉄壁過ぎる。もうジ○フでもどこでもいいから向こう(J1)にやっちゃってよ!…まぁジ○フ千葉って、もうかれこれ6年くらいJ2なんだけどな。

 

 

 それからもしばらく、品目は次々変われども攻防は続いていたのだが、メインディッシュたる卵焼きの攻撃を一色が凌いだ時、ようやく円の箸の動きが止まった。

 

 箸を持ったままの円と、箸を咥えたままの一色。2人の動きは完全に固まり、その造形は金剛力士像を彷彿とさせる程のダイナミックなものだった。

 

 「・・・。」

 

 「・・・。」

 

しばらく、2人は固まったまま無言で見詰め合っていたのだが、

 

 「・・・ぷっ」

 

円が軽くフキ出したかと思うと、それを切欠に堰を切ったように大笑いし始めた。”ぶははははっ”と笑い転げる円に、口をぽかーんと開けたまま呆気にとられている一色。基本的に笑い上戸なこいつは、1度笑い出すとそれを止める事はなかなかは難しい。

 

 その後、更に5分くらい笑い転がり続けた円は何とか落ち着きを取り戻し、それまでとは一転して”にかっ”っと人懐っこい笑みを浮かべると、一色に向かって言った。

 

 「はぁっ…はぁっ、ゴメンゴメン。可愛かったし、ちょっとイジってもうたわーっ。」

 

 俺の背中をバシッバシッっと叩きながら、再び”ぶはははっ”と大笑いする円。関西人特有のノリというかテンポというか…こっちの人々の多くは、話の切り替えが早い。それを目の当たりにした一色は”ははは…”と乾いた笑いを浮かべている。

 

 そして、このビックウェーブに乗るしかない!という事で、ここで俺も笑う事にした。

 

「ぶはははは」

 

「あはっ・・・ははは♪」

 

「へっ・・・へへっ」

 

 さっきの様なピリピリムードは収束を迎え、代わってリラックスした空気が流れ始めた。さっきまで全然耳に入らなかった”コポコポ・・・という音”や店内のBGMが、俺の心に穏やかさを与えてくれる。やれやれ、これでようやく一息つけるな。

 

 だが、そんな希望を打ち砕く様に、円はこれから悪戯を仕掛ける子供の様な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あんたら、ホンマは兄妹やないんやろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 全米が震撼した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なるほどな。八ちゃんとこ下宿やから、兄妹設定になっとったんか。」

 

 一色の説明に、納得した様子の円。そして俺も納得した。一色のやつ、やっぱり計画的犯行だったんだな…ホテルニュー八幡ってなんだよ。それにしても円は、どうやって見破ったんだろうな。やっぱり目か?目かのか?!

 

 「そんなんバレバレやん。八ちゃん、いろはちゃんの事”一色”って呼んでたし。」

 

 円は、ケタケタ笑いながら種を明かした。一色は”あちゃーっ”と声をあげ、額に手を当てた。えっ、流出元は俺なの?ってお前あの時、奥に居なかったか?どんだけ耳が良いんだよ。

 

 「センパイ…これはお仕置きが必要ですね♪」

 

 一色が、きゃるんとした声で物騒な事を言う。だから、無駄に目をキラキラさせんじゃねぇ…。(腐った目の持ち主である事の)劣等感を刺激されるじゃねぇか、このドS後輩め。

 

 「それにいろはちゃんも、八ちゃんの事”センパイ”って呼んどったしな。」

 

 絶妙なタイミングで補足事項を入れてくる円。これで過失割合は5対5に持って来れそうだ。お前ら、ネットでも良いから自動車保険には入っておけよ?

 

 「一色、お前もお仕置きだな。」

 

 俺の言葉に、”うへぇ・・・”と一色は顔を大きく歪めると、自分の両肩を抱きしめつつ上半身を大きく仰け反らせた。

 

 「お仕置きと称して私を散々デートに付き合わせた挙句海の見えるホテルの最上階レストランで愛の言葉を囁いて不覚にもコロッといきそうになった私の隙を突いて部屋に連れ込んでちょっと大きな声では言えないようなあんな事やこんな事を”これもお仕置きだよ”って優しく諭しながらするつもりなんでしょうけれどもまだ受験が終わってないので無理ですごめんなさい。」

 

 あまりに想像力豊かな内容に、カウンターの向こうに居るマスターが”ぶほぉ”とフキ出した。慌てて此方に背を向けつつ、”げふんげふん”と咳をカモフラージュするマスターと、何も取り繕わずに笑い転げる円のセットを目の当たりにし、一色は顔を真っ赤にして視線を外へ向けた。

 

 普段寡黙なマスターと快活な円。正反対な性格だけど、初めて似たもの親子だって思ったよ。何せ、笑いのツボが同じなんだからな。

 

 「そやけどな、そもそも八ちゃんの妹さん、”小町ちゃん”ていうんやろ?ほぼ毎日、”小町可愛い”とか”目に入れても痛くない”とか言っとるし。だからさっき、”比企谷いろはです”って聞いた時”ほえ?”ってなっとってん。」

 

 更なる円の補足事項に、一色は気の毒そうな目で俺を見ると、

 

 「シスコン…まだ拗らせたままだったんですね。」

 

と、心底残念そうに呟いた。おいこら、拗らせたとか言うな。

 

 「そやさかい、過失割合は7対3で八ちゃんの方が大きいな。」

 

 続けてしれっと私見を述べる円。ねぇ、シスコンだから過失が大きいっておかしくない?…って、そもそも俺はシスコンじゃない、ただ溺愛しているだけなんだ。だが、多数決という数の暴力に抗う術無く跪く俺に、ドヤ顔を浮かべた勝利者たる一色は追い討ちを掛ける様に言い放った。

 

 「じゃあセンパイ♪罰ゲーム…楽しみにしていて下さいね?」

 

 それはそれはとても嬉しそうに。一体何をさせる気なんだ、お前は。

 

 

 そんな様子をニヤニヤしながら眺めていた円が、さらなる爆弾を投下した。

 

 「そっかぁ。いろはちゃん、愛しい先輩に会いに来たんやね♪」

 

 ”ひゅーひゅー熱いね”っとからかう円。リアクションが昭和だな。今時そんなリアクションする人なんて…いた、平塚先生がいたな。まあ、平塚先生なら仕方ないな、うん。けれど、その平塚先生ばりの昭和のリアクショが効果テキメンだったのか、一色は激しく動揺した。

 

 「な、な、な、な、なんて事を言うんですかっ!そ、そんなのありえませんっ!」

 

 顔を真っ赤にして否定する一色。不本意だってのがひしひしと伝わって来るな。仕方がない、ここは可愛い後輩の為に助け舟を出してやろう。

 

 「こいつの言う通り、それはありえん。ただの先輩と後輩ってだけだ。」

 

 完璧な返しだった筈なのに、それを聞いた一色は”キッ”と俺を睨み付けてきた。

 

 「ありえないって何ですかっ!?ただのって事はないんじゃないですかっ!!」

 

 おいおいお前、なんで怒ってんの?俺は良かれと思って、こいつのフォローしたはずなのに、何故なんだ…。なんか、雲行きが怪しくなってきたんですけど。

 

 「そもそも夜這いまでしておいて…責任とるべきじゃないですかっ!!」 

 

 それを聞いた円は”うっひゃぁ~”と、新しいおもちゃを得た子供の様な笑みを浮かべる。あぁ…また余計な燃料を投下しちゃったよ。

 

 「うっわぁ~。夜這いなんて八ちゃんてば大胆やねぇ」

 

 だから、夜這いなんてしてねぇって。

 

 「ちょっとセンパイ!聞いてるんですかっ!」

 

 

 こうして、円が煽っては一色が俺に詰め寄るという凶悪なコンビネーションが完成し、俺は2人が飽きるまで、無抵抗に屠られ続けるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなった…。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

【おまけ】

 

 円「さて、そろそろウチ勉強してくるわ。」

 

 いろは「そっかぁ…円ちゃんも受験生なのかぁ。お互い頑張ろうね♪」

 

 円「ありがとうなー。また遊びに来てなー。」

 

 

 

 

 いろは「よし…負けずに私も頑張りますよ、センパイ♪」

 

 八幡「なぁ一色・・・。」

 

 いろは「なんです?センパイ♪」

 

 八幡「アイツは確かに受験生なんだが…高校受験だぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いろは「・・・は?マジですか!?」

 

 

 




最後までお付き合い頂きまして
ありがとうございます

さて、今年も残すところあと350日程になりました…
という定番の挨拶がありますよね。

以前なら笑って見ていられたのですが、
最近は1日1日の過ぎ行くスピートが速く、
”もう10日も経ったのか…”が正直な感想です。

今年1年、悔いの無い様に過ごしたいものです。


さて、次回は第10話となります。

次回もお付き合い頂ければ、嬉しく思います。

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