ぼっちじゃない。ただ皆が俺を畏怖しているだけなんだ。   作:すずきえすく

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いつもお世話になっています。
今回は11.5話となります。

お付き合い頂けますと
嬉しく思います。




第11.5話 かまくらは猫である。

 吾輩は猫である。名前は…言いたくない。

 

 そりゃ、俺にだって名前の1つや2つはあるさ。この比企谷家で世話になるまでは”千葉(せんよう)の黒き白虎”って名乗っていたんだ。どうだい、カッコいいだろう?

 

 まぁ…偶に”黒いのか白いのかハッキリしろ”とか”白虎?お前ネコじゃないか!”などと、野暮ったい事をほざいてくる輩がいるが、そんな事を気にしていては、俺達お猫様を住処に迎え入れる事なんて一生出来やしないぜ?

 

 確かに俺の毛色は白だが、心の奥底に闇が潜んでいて…ってそうそう、黒き白虎の前は”復讐の天使☆闇猫”なんて名乗ってた事もあったな…。まぁそんな訳だから、白かろうが黒かろうがなんら矛盾は無い。それに、虎は我々ネコの仲間だと聞いた事がある。つまり逆説的にいえば、我々ネコもまた虎なのである。

 

 

 ただし、そんな密林の王者の血を引く俺も、今では歯牙ない飼い猫に過ぎない。だがそれは、俺のライフスタイル上、理に適った事なのだ。そもそもこの家では、俺の縄張りを狙う様な不届きな輩はいないし、犬っころやカラスの奴らといった組織の連中も出没しない。俺の仕事といえば、ふかふかのソファーの上で”ごろり”とねっころがって、たまに”みゃあ♪”と愛想を振り撒くだけなのである。

 

 それだけで3食昼寝付きの生活が保障されているのだから、一生懸命歯牙を磨く必要性など皆無だ。誤解を恐れずに言えば、今の俺は全ネコ類の”進化の過程”の最先端にいると言っても過言ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう…俺は、カーストの頂点に君臨しているのだ!

 

 

 

 

 

第11.5話

 

は猫である。

 

 

 

 昼下がりの午後たる今の時間は、窓からお日様の光が射し込んできてぽかぽかと心地が良い。俺は大きな欠伸を1つすると、背中を丸めて目を瞑った…そうそう、忘れていたが寝るのも仕事のうちだ。

 

 こんな感じで、普段ならばこのまま睡魔に身を委ねて、夕方まで昼寝をするところなのだが、今日はいつもと勝手の違う出来事が、俺を襲う事となったのである。

 

 「かーくん、ただいまぁ!」

 

 声の主は、俺のご主人様たる小町坊だ。小町坊は、俺が”みゃー”と返事するや否や…俺の頭を両手で挟んで、いつもの様にわしゃわしゃと撫で回し始めた。

 

 「よーしよしよしよしよしっ」

 

 この様に、毎度毎度激しく撫でまわされる度に、毛並みがもっさもさに波立ってしまうのだが、俺はいつだってされるがままだ。えっ?”密林の王者はどこへ行った?”だって?おいおい…何も知らないから、お前はそんな事が言えるんだよ。

 

 このお嬢ちゃんはな、見た目はとても愛らしいし性格だって悪くはないが、そのなんだ…結構アレなんだ。一度、ダンボール箱に押し込まれて外に連れ出された時は、捨てられるのかと思って心が折れそうになったぞ。

 

 結局は、小町坊のダチの姉貴を更生させるとかで、借り出されただけだったらしいのだが、それがトラウマとなってしまい…それ以来、俺は極力逆らわない様にしている。

 

 それに、わしゃわしゃされる事自体は…そんなに悪い気はしない。もちろん、ネコとしてのプライドがぐらぐらと揺れなくもなかったが、”仕方がないから撫でさせてやっても良いか…”と毎回妥協してやっているうちに、終(つい)には小町坊のわしゃわしゃが日課となってしまった。なんでも、以前テレビに出ていた白髪メガネの老人が、そうやって犬っころを撫でるのを見て以来、すっかり伝染したらしい。

 

 …っという事は、あれ?それって何気に、犬扱い?

 

 余談ではあるが、動物王の名を欲しいままにした彼は、現在ペット禁止のマンションに一人暮らしをしているらしいと人伝…もとい、ネコ伝で聞き及んだ事も追記しておく。

 

 陸奥ゴローさん…マジかよ…。

 

 

 

 それはさておき、そんな俺の心の葛藤など知る由もなく、小町坊の手は休まる事無く”わしゃわしゃ”に余念がなかったのが…

 

 「よーしよしよしよし…って、こんな事をしてる場合じゃなかったっ!」

 

 いつもは10分近く撫でまわすのに、今日は2~3分程度で切り上げられた。おいおい、いつも好きなだけ俺の肌触りならぬ毛触りを堪能するのに、”こんな事”と斬って捨てるとは一体どういう了見だ!

 

 俺は抗議の声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「みゃー。」

 

 かーくんの鳴き声は、なんだか物足りなさげだ。いつも”お腹も撫でて♪”って感じで、全力で身を預けて来るくらいだから、よっぽど気に入ってるんだよね。でも、今日はこれでおしまいだよ。だって、お客様が来てるんだもん。

 

 「かーくん、お客様にご挨拶しましょうねー♪」

 

 小町は、かーくんを後ろから抱える様に”ひょい”と持ち上げました。そして、じたばたする訳でもなく、脱力したまま身を委ねるかーくんを連れて、玄関へと向かったのです。

 

 こういうトコは、全然手が掛かんないんだよね…ちっとはお兄ちゃんも見習ってほしいよ。

 

 

 お客さまとは、私と同じ学校に通う一色いろは先輩の事です。我が総武高校の生徒会長を、1年生から今まで2期連続で勤め上げた人なのですが、何故かうちのお兄ちゃんとは浅からぬ縁があるみたいで…

 

 

 「お願い小町ちゃん!センパイの住んでる場所を教えて!」

 

 

と頼まれたのが、つい2週間程前の事。余りに真剣だったので、つい反射的に教えちゃったけど…大丈夫だったよね?

 

 いろは先輩は、お兄ちゃんの住所を手に入れるや否や、”行き先を言わずに引っ越すなんて…携帯だって滅多に出ないしっ!たまに出たかと思ったら家族がアレって…。そもそも、家族がアレアレ言うけど、一人暮らしじゃないですかっ!”と一頻り愚痴り倒した末に、

 

 「これはもう、お仕置きが必要ですね…」

 

と物騒な事を呟いたのを、小町は聞き逃しませんでした。

 

 お兄ちゃーん…無精が過ぎるのは小町的にポイント低いよ?いろは先輩…ここは兄に代わって、心よりお詫びします。全力でお詫びします…けれども、あんなのでもたった一人の兄ですので、出来ればお手柔らかにして頂けたら、小町的には嬉しいなぁ…なんて。

 

 お兄ちゃんの住所を手中に収めたいろは先輩は、携帯を操作する手を途中で止めて何やら思案し始めたのですが、その後すぐに何かを思いついた様子で、

 

 「サプライズってのも、面白そうですねぇ…」

 

と呟くと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべました。

 

 

 うわぁ…何か企んでる悪い笑顔だなー。

 

 

 

 そして昨日、お兄ちゃんから”おい、俺の個人情報がダダ漏れなんだが…”という電話が掛かってきまして…。その辺りも併せて考えた結果、いろは先輩があっちを訊ねたのかな?という仮説に思い至ったのであります。もちろん、明言はされてないですけど。

 

 

 あれ?これってもしかして、フラグが立ってんのかな?

 

 

 

 

 

 「いろは先輩、お待たせしましたっ」

 

 壁に飾られていた絵を眺めていたいろは先輩は、”ううん、こっちこそ急でゴメンネ♪”とこちらへ顔を向けたかと思うと、抱えていた紙袋を小町に差しだしました。

 

 「昨日、大学のオープンキャンパスへ行ってきたんだ♪。これ、お土産♪」

 

 「わーい、ありがとうございます♪」

 

 その紙袋には生八つ橋とあぶらとり紙が入っていて、大きな文字で”京みやげ”と書かれていました。京みやげって事はやっぱり…。

 

 ここはひとつ、検証してみましょう♪

 

 

 「と・こ・ろ・で・ぇ♪あっちで兄にお仕置き出来ましたか?」

 

 

 「・・・!?」

 

 

 いろは先輩は心底驚いた様で、口をあんぐりと開けたまましばらく固まっていたのですが、やがて口を2~3回パクパクさせると、驚愕の声をあげました。

 

 「な・な・なななななっ何で知ってるのっ!!」

 

 「いえ、とある情報筋から耳にしまして…っていうか、バレバレですよ♪」

 

 情報筋と言いますか鎌をかけただけなんですけど、どうやらビンゴの様ですね♪…という事はもしや、いろは先輩が新たなお姉ちゃん候補に!?

 

 やるなぁ、お兄ちゃーん。

 

 

 「えっとね、そ、その…偶々…そう、偶々なの!志望校が偶々センパイの学校だったのと、学校へ向かおうと思ったら偶々センパイの下宿の前を通りかかったのと…それからえーっと…そう、これは、その他もろもろの沢山の偶然が折り重なっただけなの!」  

 

 ”だから私は無罪なの!”と顔を真っ赤にしつつも、一気に捲し立てるいろは先輩。ハリのある声とは対照的に、気の毒なくらいにあたふたしていて、ぱっと耳にした感じでは全否定に聞こえる言葉も、これ以上無いくらいにカミカミでした。

 

 何?この人、超カワイイんですけど!

 

 

 「いろは先輩…」

 

 

 「な、何かな?」

 

 

 

 

「これからも、兄の事をよろしくお願いしますねっ♪」

 

 

 その答えにいろは先輩は、”え、えっと、別にそんな私は…”とか”これには色々と事情が…”とアタフタしていましたが、やがて真っ赤になった顔を伏せると小さな声で頷きました。

 

 「・・・うん。」

 

 

 新たなお姉ちゃん候補、キマシタワァー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うわぁーっ!何この生き物っ!超カワイイ!!!」

 

 いろは先輩にとっては居た堪れない空気だったのか、それを打破するかの様に努めて明るく振る舞うと、かーくんに手を伸ばして頭を撫で始めました。かーくんはと言えば、じっと目を閉じたまま心地良さそうな鳴き声で、ただ一言”みゃー♪”とだけ。

 

 「うわぁー、大人しい♪ねっ小町ちゃん、ちょっと抱っこしてみてもイイ?」

 

 

 いろは先輩の胸元に抱っこされたかーくん。最初は所在無さげな顔をしていたのに、いつの間にやら普段のふてぶてしさが完全に消えうせて、余所様の仔みたいに愛くるしい顔をしています。やがて”みゃー”とひと鳴きすると、喉をゴロゴロ鳴らしながら、いろは先輩の胸元に頬をスリスリしはじめました。

 

 「ちょっと、くすぐったいってばぁーっ♪よしよし♪」

 

 

 いろは先輩も大満足の様子です…って、かーくん!心を開くの、ちょっと早すぎない?

 

 

 「みゃぁー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なんだ、この感触は!」

 

 俺は、未だかつて経験した事のない程の心地良い感触に、思わず感嘆の声をあげた。その感触は、以前八幡の奴が俺に献上してきた”人間どもを駄目にするクッション”の肌触りをはるかに上回る。

 

 小町坊や、以前の”捨てられ騒動”の時に出会った黒髪の少女の胸元も、”ふにっ”とした感触が無い訳ではなかったが、この娘さんのものは”もにゅもにゅっ”としていて、それはあたかも、人肌に暖められたフカフカクッションの様で、まさに別格だといえるシロモノだ。

 

 「これは…行かねばならぬな。」 

 

 俺は、その別格たる2つの山の谷間へと侵入すべく、そこに頭を押し付けてグリグリとねじ込む作戦に出た。そのフカフカクッションに包まれれば、さぞかし心地良いに違いないからな。

 

 俺の頭の上で”くすぐったいってばぁ”という声がするが、ここは敢えて気にせず我が道を進む事にする。その先にあるのはガンダーラ…そう、きっと素晴らしいユートピアが俺を待っているはずだ!

 

 

 

 ところが…である。

 

 

 「あー、可愛かった♪ありがとう、小町ちゃん♪」

 

 「いえいえ、どういたしまして♪」

 

 

 ほんの一瞬、俺の体がふわりと宙に浮いたかと思うと、あとは加速度的にぐんぐんとユートピアから引き離されていった。何なんだっ…このお約束な展開はっ!

 

 待ってくれっ!あとちょっとなんだ!

 

 

 俺は前足をにゅっと伸ばし、身をよじって懸命に抵抗したのだが”ほらほらかーくん、いい子だから大人しくしようね?小町が抱っこしたげるからさ♪”と小町坊は取り付く島もない。

 

 やがて愛の国ガンダーラは、果てしなく遠い憧れの地へと変貌を遂げ、俺は小町坊に後ろから抱えられた形となり、そしていつもの”ふにっ”っとした感触が、俺の背中を支配した。

 

 

 ・・・。

 

 

 

 まぁ…これはこれで悪くないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おっかしいなぁ…普段はこんなに暴れはっちゃくじゃないんですよ?」

 

 いろは先輩から引き上げる時、珍しく激しい動きを見せたかーくん。普段はぐーたらな分、結構驚きましたけど、それでも小町が後ろから抱き寄せるとようやく大人しくなりました。

 

 やれやれ…でも、なんでジタバタしたんだろ? 

 

 

 「もしかしたら、いろは先輩を気に入ったのかも知れませんね?」

 

 それを聞いたいろは先輩は、にこりと笑顔を浮かべて言いました。

 

 「そうだと嬉しいなぁ♪ねぇねぇ、また会いに来ても良いかな?」

 

 「もちろん、いろは先輩なら大歓迎です!」

 

 そうですねぇ…出来れば、お兄ちゃんと一緒に菓子折り持参で両親にご挨拶…みたいな♪

 

 けれど小町の心の声が聞こえるはずも無く、いろは先輩は無邪気に”やったぁー♪”と声をあげると、かーくんの頭をわしゃわしゃ撫でて”かーくん、よろしくね♪”と声を掛けました。

 

 「みゃー♪」

 

 かーくんは、”わかったニャン♪”と言わんばかりの一声。その鳴き声は、いつもよりも可愛さ2割増量中といった感じです。それを耳にしたいろは先輩は、一層大きく目を輝かせると”よーしよしよし♪可愛いね♪”と声をあげながら、かーくんの頭を更にダイナミックに撫で回しました。

 

 

 

 5分程経ったでしょうか…いろは先輩は、最後に”めちゃくちゃ堪能したし!”といった満足な表情を浮かべると、

 

 「今日はありがとう!じゃあ、そろそろお暇するね♪」

 

という一言を残して、お家へ帰っていきました。

 

 

 いろは先輩を見送った後、胸元へと視点を落としてみると…わしゃわしゃされ過ぎて、毛並みがライオン…と言うよりは、エリマキトカゲみたいになっているかーくんと目が合いました。

 

 「かーくん、いろは先輩また来るって♪良かったね?」

 

 

 何か、全てが満ち足りた様子でじっと目緒閉じているかーくん。しばらくするとゆっくりと目を開けて、尻尾を2~3回くるりと振った後に、

 

 「みゃー♪」

 

感慨深そうにひと鳴きしました。

 

 

 かまくらさん…なんだか、恍惚としてません?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それじゃあ…かーくん、おやすみ♪」

 

 そう俺に告げると、小町坊は自室へと戻っていった。丑の刻を少し回ったところだから、そろそろ夢の世界へと誘(いざな)われても不思議はあるまい。かく言う俺も、鉛で出来ていると錯覚する程に、瞼が重くなってきた。

 

 俺は定位置であるソファーへ”ひょい”と跳ね上がると、1つ大きく欠伸をした後に背中を丸めて目を閉じた。こうやってその日一日をぼんやりと振り返るのもまた日課だ。それにしても、今日は色々な出来事があったな…。

 

 何と言っても、あの”もにゅもにゅ”っとしたフカフカクッションは大発見だった。あんな素晴らしい世界は、きっとまだ他の奴らには知られてないに違いない。そんな未知との遭遇を果たした俺は、ネコ界のコロンブスだと言っても差し支えないだろう。今日は、既の所で上陸を果たせなかったが、あの娘さんはまたやって来るそうだから、チャンスはまたすぐ訪れるに違いない。

 

 だから、焦る必要は無い…。

 

 

 

 

 

 ただ願わくは…

 

 

 

 

 

 今宵は夢の中で…

 

 

 

 

 

 これを最後に、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 おやすみなさい。諸君らにも良い夢を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吾輩は猫である。名前は…かまくらだ。

 

 昔は色々あったが、それらの全ては忘却の彼方へと捨て去られ、俺は比企谷家の一員となった。そして今日も俺は、自分の任務を遂行すべく、いつもと同じ様にふかふかのソファーの上で”ごろり”とねっころがり、”みゃあ♪”と愛想良く鳴き声をあげるのだ。

 

 

 

 おわり

 

 

 




最後までお読み頂きまして
ありがとうございました。

今回はネコ視点という事で、
人間の行動を遠くから見つめる様子を
描きたかったのですが…

何故か、単におっぱい好きな
猫の話となってしまいました。



さて、次回から新章となります。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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