ぼっちじゃない。ただ皆が俺を畏怖しているだけなんだ。   作:すずきえすく

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いつもお世話になっております。
今回から新章となります。

これまで同様、お付き合い頂きます様
よろしくお願いいたします。




第2章 結衣の逆襲
第12話 彼女が出来ません。どうしたら良いですか?(千葉県 剣豪将軍)


 皆さん、”お子様電話相談ルーム”というのをご存じだろうか?

 

 簡単に言えば、子供達の様々な疑問に対して”先生”と称する偉ぶった大人のみなさんが、それらに答えるという形式のラジオ番組だ。聴いた事は無いまでも、そういう類のものがあるという事くらいは、ご存じの方も多いのではないだろうか。

 

 番組に寄せられるそれらの質問は大変バラエティーに富んでいて、例えば”変化球の投げ方”や”ドライブシュートの打ち方”といったスポーツに関するものや、”夏休みの宿題”や”蘭姉ちゃんの髪型のセットの仕方”という様な身近なものから始まり、”生きる事とは?”とか”死んだら魂はどこへ行くのか?”といった、人生のテーマと言っても良いくらいの哲学的なものまで、そのジャンルはとても幅広い。

 

 また子供を対象としている性質上、空気の読めないクソガキ…ゲフンゲフン、子供達の中には、”先生のギャラはおいくら万円ですか?”とか”ゲスの人とベ○キーはグラブっていたのでしょうか?。”などと、ふざけた質問をしてくる者いるかも知れない。そして、そんな輩も真面目に相手しなければならない相談員の皆様は、さぞかし気苦労が絶えない事だろう。

 

 ただ最近では、ちょっとした疑問であれば、パソコンやスマホで手軽に調べられてしまう為に、相談件数は減少傾向にあるそうだ。現に、半世紀も続いた某局の番組が、時代の流れに沿ってリニューアルを繰り返した末に、つい先日その長い歴史に終止符が打たれたのも、記憶に新しい。

 

 ネットは手軽だし、何より俺の様なぼっち…じゃなくて孤高の存在からすれば、人と直接やり取りせずに情報を得られるのはありがたい。たが、ある程度の経験を持つ中級ユーザー以上ならお分かりだと思うが、ネットには”嘘を嘘であると見抜けなければ…”というデメリットもある。だから材木座ではないが、”ネットに書いてあったからな!”という報道を、大した裏付けもせずに行うテレビ番組を見る度に、俺は何となくモヤモヤするのである。

 

 

 さて、この電話相談室なのだが、何故か最近、俺のスマホをホットラインとして開催される事態が急増した。先生役はもちろん俺なのだが、それに対して頻繁にLINEしてくる子供役…じゃなかった、いや、俺の解説が適当だとわーわーうるさいから、ある意味ガキだと言えなくもないが、その程々にいい歳をした彼女は、大体いつもこれくらいの時間…つまり午後の9時を少し回った頃に、決まって連絡を入れてくる。

 

 

 『Pu ru ru ru ru ru ♪』

 

 ほら、こんな感じにな?

 

 

 ディスプレイに表示されているのは”★☆ゆい☆★”という文字。察しの良い方なら既にお分かりかも知れないが、相手の名前は自称”ゆいゆい”こと由比ヶ浜結衣だ。こいつとは、高校時代のクラスメイト兼同じ部活の仲間…とだけで済ませてしまうには、ちょっと足りないくらいに色々あった。まぁ…その色々とやらも、そのうち話す機会もあるかもな。無いかも知れないけど。

 

 

 さて、今日も悩める子供…じゃなかった、由比ヶ浜のお悩みにお答えする事にしよう…程々適当にな。だってほら、ライオンですら心を鬼にして、我が子を千尋の谷に突き落すじゃん? だから俺が、由比ヶ浜を手取り足取り手助けするのではなく、心を鬼にして全力で適当に済ますのも、ある意味愛情なんだよ。つまり…いわゆる”奉仕部の理念”というやつだ。分からなければ調べる手段を教えるとか…ってあれ、これってもしかして”ググれ! ”で全部解決しないか?

 

 

 ・・・。

 

 

 げふんげふん…ともかく、決して面倒な訳ではないんだよ、多分。

 

 

 

 おっといけない…ついつい電話に出ないで放置してしまった。先から鳴りっ放しのまま、一向に途切れる事の無い呼び出し音は、もう何度コールされているのか分からなかった。以前の俺なら、”こうなったら根競べだっ!”と言わんばかりに放置を決め込んでいたに違いないが、流石に二十歳を目前にしてそんな稚拙な事はしない。

 

 俺は颯爽とスマホを手に取り”通話”のボタンを押すと、丁寧な口調で応答した。

 

 

 「お客様のおかけになった電話番号は、現在使われておりません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スピーカーから発せられた、”むがーっ”という由比ヶ浜の絶叫が部屋中に響き渡った。

 

 

 

第12話

 

ん。どうしたら良いですか?(千葉県 剣豪将軍)

 

 

 

『もう! ヒッキーのバカっ! 』

 

 

 由比ヶ浜の怒りは凄まじく、機嫌が直るまでに20分程費やした。まぁ、長々とコールを放置した上に、”使われておりません”だったからな…。由比ヶ浜からしたら、自分が雑に扱われたと思ってへそを曲げるのも無理はない。

 

 ほんの出来心だったんだよ。何というか…ほら、魔がさしたってやつだ。誰にだって”ついうっかり…”なんて事の1つや2つ、経験あるだろ? それは、由比ヶ浜とて例外ではあるまいに。

 

 だから俺は由比ヶ浜に言ってやったんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 「正直すまんかった…。」

 

 俺は、由比ヶ浜の怒りが静まるまで、ただひたすら恭順した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で、今日はどうしたんだ?」

 

 由比ヶ浜の怒りがようやく静まり、落ち着きを取り戻したのを見計らって俺は問いかけた。由比ヶ浜は、”なんか誤魔化された気がするー”とイマイチ納得してない様子だったが、気を取り直して弾んだ声で答えた。

 

 『うんとね、また沢山教えて欲しい事があるんだー♪』

 

 つい先日、一色が来た次の日あたりから、ほぼ毎日こんな調子だ。因みに、初めての質問は

 

 『黄門様の場合、印籠を見せたら敵は降参して平伏するのに、何故暴れん坊将軍の場合は、正体が分かっても敵は無駄に歯向かって来るの?』

 

という、ひどくデリケートな問題だった。そりゃ…仮にも暴れん坊を名乗っている以上、暴虐の限りを尽くさねば、TVの前で手に汗握って待っている爺さんや婆さんは納得しないだろうし、一方で黄門様が元気ハツラツと大暴れしてしまっては、隠居世代から”我々の様な老人が、そんな動きできるか!”というクレームが続出するかも知れない。いや、そもそも共感を得られない可能性だってある。

 

 よって、俺の出した答えは”ご老人のご期待に沿う為のルーティンワーク”という事で決着を見たのだが、由比ヶ浜は”うわぁ…なんかイヤな理由だなぁ…。”と顔をしかめた。まぁ…パッと見た感じ、そんな印象は全然受けないからな。

 

 仕方が無いので俺は、

 

 「威光ってのは、次第に衰退していくもんだ。黄門様の時代には、その威光がバリバリに効いていたんだろうよ。」

 

と、説得力のありそうな考察をでっち上げた…って、そもそも黄門様は全国を漫遊してはいないし、暴れん坊将軍だって実際は全然暴れてないのだから、でっち上げるも何もないんだけどな。けれどそれ故に、由比ヶ浜さえ納得すれば、それが真実かどうかなんて些細な問題とも言える。

 

 俺の返答を耳にした由比ヶ浜は”ほえぇ…”と呟いたあと、感心した様な声をあげた。

 

 『私さぁ、てっきり黄門様が影で将軍を操っている、闇将軍か何かだと思ってたよぉ…』

 

 

 天下の先の闇将軍…何だよ、その中2設定は。

 

 

 

 

 …ってな具合に、それが口火となったのか、事あるごとに由比ヶ浜から質問が来るようになった。それに従い、本来ならば孤高な存在たる俺にLINEなど必要ないのだが”LINEだと、通話が無料になるよ♪”の進言により、遅蒔きながら俺もLINEデビューする事となった。

 

 ほら、学生さんには金が無いんだよ。

 

 こうして金銭的な憂慮が取り払われて、由比ヶ浜との通話時間も少しずつ延びていったのだが、それに合わせて質疑内容も高度に…というか、学問的になっていったんだ。ちなみに今日の質問は、

 

 『徳川家達は、何故総理大臣の候補を辞退したの?』

 

というものだ。以前の由比ヶ浜なら、”とくがわいえさと”という人物ではなくて、”徳川家の人たち”と解釈して前後の文とが繋がらなくなってしまい、意味が分からずに”むきーっ!”っと頭を抱えていたに違いない。ところが今では、賢くなったというかなんというか…ともかく由比ヶ浜らしくない。

 

 おいおい…まさか、背中にファスナーとか付いてたりしてないだろうな?

 

 

 

 

 

 

 

 それから1時間程して、電話相談室にひと段落着いた。

 

 由比ヶ浜が”ヒッキー、今日もアリガトね?”と言うのが終わりの合図だ。決してアイシテルのサインではない。そもそも、ブレーキを5回踏む以前にあいつは無免だ。でもさ、よくよく考えると由比ヶ浜に免許ってちょっと怖いよな。なんか”きゃーきゃーっ”とテンパった挙句に、どっかの店舗に突っ込んだりしそうだ。

 

 『ヒッキー、心の声が漏れてるし! っていうか突っ込んだりしないからっ! 』

 

 由比ヶ浜が全力でツッ込んできた。突っ込んだりしないからっ…とツッコむとはこれ如何に?

…俺のくだらないボケはともかく、由比ヶ浜のツッコみスキルは、関西在住9ヶ月目の俺を遥かに凌駕していた。

 

 「済まん。つい本音を吐露してしまった。」

 

 『発言内容に対して、一切のフォローが無いっ!?』

 

 またしても、切れ味鋭いツッコミを俺に叩き込んできた由比ヶ浜。だがその直後、それまでの鋭さとは打って変わって、”・・・ん”と一旦間を溜めて、恐る恐る話を続けた。

 

 『あ、あのさ、そ、そんな事言うんだったら、な、なんだけど…』

 

 「なんだけど?」

 

 『ほ、ほら、私が運転するの…危なっかしいんでしょ?』

 

 最近の車は、由比ヶ浜よりも賢いんじゃないかって思えるくらい高機能だ。けれど、車が”こいつにステアリングを握らせたらヤヴァイ!”と、エンジン掛けてもブレーキ解除させない位に空気が読めてたら完璧なんだが、流石にそこまで求めるのは無理な話だ。それらの機能は飽くまでアシストであって、ステアリングを握るのは人間なのだ。

 

 「つまり、由比ヶ浜はヤヴァイ。」

 

 『なんか、私が危険な人みたくなってるんですけどっ!?』

 

 まぁ、ある意味危険と言えなくも無いな…盗塁失敗の多い、暴走憤死王って感じで。ほら、昔タイ○ースにいたアノ選手みたいに! だが、流石に今回の俺の心中は漏れなかったみたいで、由比ヶ浜は話を続ける。

 

 良かった…逆に”あぁ○波選手ね♪”と話が通じても、こっちが動揺するからな。ニワカだってのがバレちまう。

 

 

 『それでね、もし心配してくれるんだったら…』

 

 「くれるんだったら?」

 

 

 

 

 『その…ヒッキーの助手席に…座っても…良いかな?』

 

 由比ヶ浜は一旦間を置いた後、そう俺に問いかけた。何か深い意味が込められてそうな気がする言葉なのだが、俺の答えは既に決まっていた。

 

 「うん、それ無理。」

 

 『あっさり拒否られたっ!なんで断ったしっ!』

 

 俺は、これ以上無いというくらい完璧な理由を、由比ヶ浜に打ち明けた。

 

 

 「だって俺…無免だし、車も持ってないからな…。」

 

 

 

 

 『・・・。』

 

 

 「・・・。」

 

 

 『ヒッキー?』

 

 

 「…なんだ?」

 

 

 『なんかその…ごめん。』

 

 

 「あぁ…気にするな。」

 

 

 あっれー? なんか似た様なやり取り、前に1回無かったっけ?

 

 

 「でもさ…」

 

 『…うん?』

 

 確かに今は無免許だし車も持ってないけどさ、けれどそのうち両方揃う日が来る事になるだろう。何だかんだで日本は車社会だし、専業主夫にだって運転スキルは必要だ。

 

 「だからまぁ、その時が来たら…乗せてやる事も、やぶさかではない…な。」

 

 

 『・・・!?』

 

 由比ヶ浜は、俺の言葉が予想外だったのか受話器の向こうで大きく息を呑んだ。けれどすぐに落ち着きを取り戻したのか、何か意思を込める様にゆっくりと言った。

 

 

 『うん…絶対に、約束だからね?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ところでヒッキー、冬休みはこっちに帰ってくるの?』

 

 閑話休題といった感じで、由比ヶ浜が尋ねてきた。まぁ、こっちにいても特に用事は無いし、何より小町がいない。

 

 「もちろん、そのつもりだ。俺しかいない正月なんて、クリープしか入ってないコーヒーみたいなもんだからな。」

 

 『もうそれ、コーヒーじゃないしっ!』

 

 確かに由比ヶ浜の言う通りだ。むしろクリープ飲んじゃってる感じだもんな。コーヒーを無しにしてお湯だけ混ぜたら、どんな味がするのだろう…私、気になりますっ!

 

 

 『それでね? もし帰って来るなら、相談があるんだけど…』

 

 俺の好奇心を完全スルーの由比ヶ浜さん。いや、まぁ良いんだけどさ。

 

 「あぁ、相談って何だ?」

 

 『こっちにいる間だけで良いから…さ』

 

 由比ヶ浜はそこまで言ったあと、しばらく押し黙った。おいおい、ここで止めたら凄い気になるだろうが。無茶な事でなければ、助力も考えないわけではないから言ってみろ?

 

 由比ヶ浜は一言”うん、わかった”と呟いた後、1拍置いて声をゆっくりと搾り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『私と…付き合ってほしいな。』

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 【おまけ】

 

 「由比ヶ浜…お湯にクリープだけ溶かして飲んでみてくれ。」

 

 『えーっ、イヤだよぉ。だってあれ、全然味がしないもん。』

 

 「既に経験済みかよっ!」

 

 

 






最後までお付き合い頂きまして
ありがとうございました。

次回もお付き合い頂けますと、
嬉しく思います。


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