ぼっちじゃない。ただ皆が俺を畏怖しているだけなんだ。   作:すずきえすく

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第14話 今年は不発弾とか出て来ませんように(ストフェス)

 家庭教師と聞いて、皆様は一体どんな事を想像するだろうか?

 

 例えば、こんなのはどうだろう? 勉強嫌いな主人公の将来を危惧した母親が、切り札として連れてきたのは3歳年上の美人家庭教師だった。だが男子中学生たる主人公は、思春期真っ只中という事もあり、内心ではテンションが上がりまくりにも関わらず、中々素直に講義を受けようとしない。しかしながら、紆余曲折を繰り返していくうちにお互いどんどん惹かれ合い、やがてふたりは…みたいな感じの事を想像したやつは、1人や2人ではあるまい。

 

 けれども、現実はそんなに甘くない。実際は、同性のむさ苦しいアルバイト大学生が講義の片手間にやって来て、派遣元から渡された教材をもとに淡々と授業を行うのだ。そこには絆を生むような接触は一切ない…いや、むしろ要らない。また自分の締め切りが危なくなると、生徒に問題をさせている間に、せっせと自分のレポートに勤しんだりするのである。

 

 その家庭教師ってのは俺の事だろうって? バカ言うなよ。勤勉家たる俺の場合、レポートなどは計画的に片づけるのがデフォだから、締め切りに慌てた事などない。そもそもコミュ障…じゃなかった、孤高の存在たる俺が、他人様の勉強を見て差し上げる事など出来る筈がなかろう?

 

 良く知らない他人と長時間机を並べるなんて、ハードル高ぇよ…。

 

 つまりだ…冒頭で述べた様な展開が訪れるのは、マンガかラノベの中でしかない。だから、変な希望に胸を膨らませて、家庭教師を派遣してもらおうと考えている男子中学生諸君よ…早く目を覚ませ。教員として仮に、雪ノ下みたいなのが来ても、やっぱり材木座みたいなのが来ても、スパルタかウザいかの違いはあれど、辿り着くの先は等しく地獄だ。

 

 つまり、いくら家庭教師を召喚したとしても、君たちの目の前に(ラブコメ的な)はっぴいが直前に迫ってくる事など無いのである。

 

 

 断っておくが、これは飽くまでも1例だ。世の中には素晴らしい教員もきっといるに違いない…と予防線を張っておく。そう、きっと俺がハズれを引いただけなのだ。

 

 克・〇樹先生、前から大ファンでしたっ。

 

 

 

 さて、色々あって由比ヶ浜の勉強に付き合う事になった訳だが、引き受けた以上は俺も心を鬼にして、スパルタ教師の仮面を被らねばならないだろう。ちなみに由比ヶ浜の受験校は、筆記試験はセンターのみで残りは実技だ。芸術系の大学を選択すると耳にした時はとても驚いたのだが、顔を合わせなかったこの半年ちょっとの間に、由比ヶ浜の中の芸術心が爆発したらしい。

 

 『なんかね…ある日突然どっかーんって爆発したしっ! 』

 

 この言い回しだと、芸術ではなくて由比ヶ浜本人が木っ端微塵でアフロヘアーなのだが、そこを突っ込むのは野暮というものだろう。それに、下手に突っ込んだら俺が木っ端微塵になりかねないからな…物理的に。

 

 それにしても、あいつのイラストなんて顔文字くらいしか見た事無い(ほら、奉仕部の入部届けのアレとか)のだが、本当に大丈夫なんだろうか…。まさか、画用紙にデカデカと

 

(`・ω・´)シャキーン

 

とか描いたりしないだろうな?

 

 

 

 

 

 多分描かないと思う。

 

 

 

 

 

 描かないんじゃないかな?

 

 

 

 

 

 まぁ…ちょっと覚悟はしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『描くわけないしっ! ヒッキー、私の事バカにし過ぎだからっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第14話

 

か出て来ませんように(ストフェス)

 

 

 

 

 「ふっふーん♪お兄ちゃーん頑張ってきなよー♪」

 

 

 

 

 何やら含んだ笑みを浮かべた小町に見送られながら、俺はそそくさと家を出た。あの手の表情を浮かべた小町を相手にすれば、大概は碌な事にならないという見立ては、長い年月一緒に暮らしてきた中での経験則に基づくものだ。そして、こんな時には何も考えずさっさとズラかる方が良いという判断もまた、長年養われてきた俺の防衛本能の賜物なのである。

 

 (俺がゲームで勝つと小町が不機嫌になるので、敢えて俺が)負ける事、(働きたくないから就職活動を)投げ出す事、そして(平塚先生が婚活パーティーから)逃げ出す事…一見、後ろ向きにも見える行動の数々が、時には一番大事になりうる事だって、長い人生を生きていればいくらだってある。そして今の俺にとって一番大事なのは、この場からさっさと逃げ出す事だ。

 

 小町…頼むから、変な気を起こさないでくれよ。

 

 

 さて、戦略的撤退を無事完遂した俺は、そのまま由比ヶ浜の家へと足を向けた。由比ヶ浜との例の勉強会は今日からなのだ。ただ、小町の件もあったとはいえ俺としては珍しく、気持ちがソワソワと落ち着かず、早めに家を出てしまった…約束の時間まで、まだ2時間近くあるというのに。まぁ、これが”女子の家へと行く”という事なのだろう。

 

 そんな訳で、時間もたっぷりあったので、俺は小町の”お兄ちゃん、女の子の家に行くんだったら、手土産買って行かないと小町的にポイント低いよ?”という教えを忠実に守り、駅前にあるマリエさんの店でケーキを買う事にした…のだが、いざ門前に立ってみると、店構えからして俺にはいささか敷居が高い。

 

 だから、”ま、またの機会に”とヘタレて…じゃなかった、戦略的に考えて店を後にしようとしても、誰も俺を責める事は出来ないはずだ…うん、俺は充分に頑張った。

 

それに、冷静に考えてみれば”焼き八つ橋”という最強の土産を、俺は既に持参しているジャマイカっ! 。俺とした事が、とんだヘマをやらかすところだったぜ。

 

 俺は、誰にアピールするかも不明慮なまま”ただ通りがかっただけですよ?”的な風貌を装い、そのまま店の前を素通りする事にした。マジ、危ないところだったわー。

 

 

 だが、そんな小細工など無駄だと言わんばかりに、あっさりと俺を引き留める輩が現われた。

 

 

 「あれぇ~? ヒキオじゃん。」

 

 

 振り返るとそこには、白い制服を身に纏った百獣の王が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局あの後、百獣の王こと三浦優美子に引きずられる様に店へと連れ込まれ、”バイト上がったから、そこに座ってちょっと待てし”と凄む三浦に逆らう度胸も無く、俺は渋々と適当なテーブル席に着いた。高校を出ても、あの白蛇の様な眼光の鋭さは健在なんだな。

 

 そして俺は、睨まれてもいないのにカエルの如く微動だに出来ず、またリア充過ぎる店の雰囲気も相まって、ただただ落ち着かない時を過ごしていた。リア充過ぎる環境にひとりで放置プレイなんて、バツゲームにも程があるのだが。

 

 っていうか俺、何で待たされてるんでしょうか…。

 

 

 俺の放置プレイが始まってから15分程経った頃、先程とは違い私服に着替えた三浦が、カップの乗ったトレイを手に持ちやって来た。そして、俺の向かい側の席に勢い良く”ドシっと腰を掛けると、そのほかほかと湯気を立てている2つのカップのうち、1つを俺の前へと差し出した。

 

 「…ん。」

 

 これは、俺に飲めと仰っているのでしょうか?

 

 真意を量りかねて落ち着かない俺を尻目に、三浦は何事も無かったかの様に、っていうか他には誰もいないかの様に、ティータイムを堪能しはじめた。

 

 えっ、放置プレイはまだまだ続くんですか!?

 

 俺達の間には延々と沈黙の時間が流れ、その流れに沿うように(主に俺の)気まずさが積み重なっていく。こいつとは、膝を合わせてお茶を飲むほど親しくも無いから尚更だ。むしろ、何で俺を引き止めちゃったの?

 

 こうして、無言のままの時が延々紡がれ続けた結果、俺のカップに注がれていた紅茶は、見る見るうちにその量を減らしてゆき、あっという間に底をついた。だが他にやる事も無く、手持ち無沙汰な俺は、空になったカップを壊れた機械の様に、何度も口に近づけたり遠ざけたりする動作を繰り返した。

 

 ところで全く関係のない話だが、”手持ち無沙汰”を”手持ちブタさん”と言い間違えると、途端にメルヘンな感じになるよな。例えば、由比ヶ浜や小町あたりが”手持ちブタさん♪手乗りブタさん♪むしろブタさん♪”とはしゃぐ姿を想像すると微笑ましいというか、生暖かい気持ちになる。だが、これを一色が言えば、”ブタさん♪ブタさん♪とはしゃぐ無邪気な私カワイイ”アピールにしか聞こえないし、雪ノ下に至っては”…ブタがどうかしたの?”といった具合に、はしゃぐ姿を全く想像する事が出来ない。同じ言葉でも、発する人間によって大きく印象が変わってくるから不思議だ。

 

 

 それから更に時間は流れ、もう何度口にカップを運んだのか分からなくなり、俺の手持ブタさん感がピークに達した頃、ようやく三浦が口を開いた。

 

 「あんさぁ、アンタ結衣の家庭教師すんだって?」

 

 よくご存知で。そう言えば由比ヶ浜のやつ、三浦や海老名さんと時々遊ぶって言ってたな。

 

 「まぁな」

 

 俺は短く肯定した。無駄を一切省く事は、口から出される二酸化炭素の量も少なくて済み、ひいては地球温暖化への防止に繋がるのだ。おぉ…俺って地球に超優しいじゃん。

 

 「ふぅーん。じゃさ、雪ノ下さんとは連絡取ってんの?」

 

 こいつと雪ノ下って犬猿の仲だった気がするんだが、それでも気になるもんかね? まぁ、雪ノ下には毎晩と言っていいくらい、猫の写メを送りつけているから答えはYESなんだけど…ってか、送らないと途端に不機嫌になるんだぜ、あいつ。ったく…どんだけ猫好きなんだよ。

 

 「まぁな」

 

 俺は再度短く肯定した。無駄を一切省(以下略)

 

 「じゃあ、生徒会長だったあん子は?」

 

 一色の事か…一色の事かぁーっ!!!!!

 

 「ま、まぁな。」

 

 くっ、ちょっと動揺しちまった…。

 

 「何ドモってんだし。じゃあ戸塚は?」

 

 「無論だ(きっぱり)」

 

 「何で戸塚だけ返事違うしっ!」

 

 何故なら、彼もまた特別な存在だからです。あと材木座は知らん。

 

 恐らく、即答した時の俺はドヤ顔だったんだろうなぁ…。三浦のやつは、ちょっと引き気味に”うわっ…キモ”と小声で呟くと、自分の両腕で両肩を抱きしめる様に身を捩った(よじった)。

 

 …地味に傷つくだろうが、オイ。

 

 それからも三浦は、暫くの間”とつはち”とか”あの子はどうしてこんな変態なんかを…”などと、色々と聞き捨てならない言葉を呟いていたのだが、”ふぅ”と一度大きなため息をつくと、改めて俺に向き直った。

 

 「あんたはぼっちの癖に、人との繋がりが切れないんだね。」

 

 ぼっちは余計だが、言われてみればそうなのかも知れない。以前、千葉村でルミルミこと鶴見留美にでっち上げた”卒業後もクラスメイトと顔を合わせる確率は、ほとんど0%に等しい”という結論から考えると、今の繋がり具合は驚異的だと言っても差し支えない。

 

 「そういうお前だって、由比ヶ浜達とちょいちょい遊んでるんだろ?」

 

 そうだ。俺なんかよりも、こいつの方がよっぽど交友関係が広いじゃないか。なんてったって、トップカーストのリア充様なんだから。

 

 けれど、三浦はその問いかけに苦笑いを浮かべると、俺から視線を逸らして窓の外を眺めた。

 

 「結衣は海老名はそうなんだけど…隼人が…ね。」

 

 高校の頃、奉仕部の部室で泣きながら、葉山の進路を調べて欲しいと懇願した三浦。それは、出来るだけあの繋がりを維持したかったからに他ならない。だが結局葉山は、三浦や一色達に正面から向き合う事はなく、”みんなの葉山隼人”を貫いた。きっと、あいつは東京でも”みんなの葉山隼人”を演じているのだろう。言ってみれば、あいつにとっての”繋がり”とは、アイドルとそれを取り巻くファンの関係に極めて近い。

 

 「そうか…葉山とは会ってないのか。」

 

 「うん。」

 

 あの当時、三浦が感じていたであろう繋がりの儚さは、恐らくそのあたりが原因なのだろう。ただ、薄々そのあたりを感じていたにも拘わらず、三浦は葉山との繋がりを望んだ。葉山はどう考えていたのかは知る由も無いが、そこまで強く思えるのならば、三浦の気持ちもまた”本物”だったと言えるのではないだろうか。

 

 「なんというか…。」

 

 「…何?」

 

 

 

 

 

 

 

 「その…とりあえずお疲れ。」

 

 「駒○かよっ! ってかまだ諦めてないしっ!」

 

 そうだった。こいつは女王様気質の癖に打たれ弱くて、しょっちゅう雪ノ下に泣かされていたけれど、意志が強くまっすぐな性根の持ち主だったな…おかん体質だけど。きっとこの先、転んで泣いてへこたれても、また立ち上がってこいつは前へと進んでゆくのだろう。

 

 

 なんだか、奉仕部の延長みたいになってしまったが、恐らくこいつは、自分が何をすべきかを分かっている。だから俺は何もせずに、言葉で背中を押すだけで良い。

 

 「まぁ…頑張れ。」

 

 俺の言葉にきょとんとした三浦だったが、すぐに我に帰ると”フン”とそっぽを向いて、語気を強めて宣言した。

 

 

 

 「アンタに言われなくても、そうするっての!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから30分ほど、近況などをぽつりぽつりと交換し合った末に、このティータイムはお開きとなった。店を出て別れ際に、

 

 ”くれぐれも結衣の事、よろしく頼んだし。ってか泣かせたらぶっ殺すっ”

 

と、極めて物騒な言葉を残して去っていった三浦。その乱暴な言葉の中に、由比ヶ浜への友情が強く込められているのが分かる。まったく…言葉というものは不思議なものだな。なんだかんだで、三浦は良い人なのだ。

 

 あれ…スパルタ過ぎて泣かせたら、俺ぶっ殺されちゃうのかな? 怖いなぁ…家庭教師も、ゴルゴ並に危険な職業なんだなぁ。

 

 っていうかむしろ、どの職業についたって危険でないものは無いのだから、専業主夫を志すという俺の考え方は、長年培われてきた防衛本能から来るものなのかも知れない。だとすれば、世の中の仕事に秘められた危険を察知する能力が身についたのは、我が妹のお陰だ。あぁ…ありがとう小町。お兄ちゃんは無事に、この世の中を生き抜いてみせるぞ!

 

 

 小町が聞いたら、頭を抱えそうだけどな。

 

 

 

 そんな事を考えているうちに、俺は由比ヶ浜の家の前へと辿り着いた。時間的には、約束の15分程前といった感じで、少々早い気もするがそろそろ訊ねても良い頃だろう。

 

 俺は一度大きく深呼吸すると、恐る恐るドアベルを鳴らした。

 

 『ピーンポーン』

 

 ベルが鳴り響いたと同時に、”ドタドタドタ”と廊下を駆ける音が聞こえてきた。それにしても、外にいる俺に聞こえるくらいに響いてくるなんて…ちょっと見ない間に、あいつはマジで”由比ヶ浜関(前頭3枚目くらい)”になったのではあるまいな?

 

 だが俺の予想に反して、出迎えてくれたのは由比ヶ浜ではなかった。勢い良く玄関ドアが開かれたと同時に、由比ヶ浜の声よりも幾分低い声の持ち主によって、歓迎交じりの声色で盛大に話しかけられたのである。

 

 

 「いらっしゃーい♪ヒッキー君、待ってたわよ?」

 

 

 そこに立っていたのは、由比ヶ浜のおふくろさんだった。

 

 

 

 つづく

 

 

 

 【おまけ】

 

 結衣「今回、私の出番が全然ないしっ!」

 

 八幡「落ち着け由比ヶ浜。きっと次回は大丈夫なはずだ。」

 

 結衣「ヒッキー…ホントかな?」

 

 八幡「た・・・多分な。」

 

 結衣「ちょっ、なんで目を逸らしたしっ!」

 




最後までお読み頂き、ありがとうございます。
次回もお付き合い頂けると嬉しく思います。

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