ぼっちじゃない。ただ皆が俺を畏怖しているだけなんだ。   作:すずきえすく

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大変遅くなりました。第18話となります。
大幅に更新が遅れたにもかかわらず、
気長にお待ちくださった皆様、
また新たに、ブックマークして下さった皆様…

本当にありがとうございます。

それでは今回も、お付き合いの程を
どうぞよろしくお願いいたします。

あと、最後の方でほんのりと性描写が出て参ります。
過激な内容ではございませんが、
苦手な方はご注意ください。



 



第18話 勉強会という言葉の頭に「大人の」を付けると途端にエロくなるよな。

 

 

 「ちょっとセンパイっ! どういう事ですかぁっ!」

 

 

 受話器の向こうで、俺を頭ごなしに怒鳴り散らしているのは、一色いろはという名の女子高生…高校時代の俺の後輩である。この年の瀬の迫ったクソ忙しい時期に、いきなり電話を掛けてきたかと思えば、開口一番この調子でさっきから取り付く島もない。

 

 そんな訳で、俺は割と平穏無事に過ごせていたこの1年の最後の最後というこの時期になって、年下の女の子から訳も分からず詰問されるという、理不尽極まりないな仕打ちを受けていた。

 

 ところでお前、なんでそんなにお冠な訳?

 

 

 「むっかぁーっ! 何恍けて(とぼけて)るんですかっ、結衣先輩との事ですよっ! 」

 

 

 由比ヶ浜との事…だと?

 

 もしかしたら…由比ヶ浜の家で、カレー喰って悶絶した話だろうか。それじゃこいつが怒ってるのって、”命を粗末にするなんてっ! 超心配したんですからねっ、ぷんぷん♪尾木ママです。”的な感じのやつなのかね?

 

 

 ・・・。

 

 

 うん、無いな。一色の事だからそれは無い。あと口で”むっかぁ”とか言うな、あざといから。

 

 

 「ちょっ、それはそれで超ムカツクんですけど!」

 

 一色が電話の向こうで剥れて(むくれて)いる様子が、手に取るように伝わってくる。

じゃあ、一体何だっていうんだ?

 

 

 「結衣先輩と、ほ ぼ 毎 日 勉 強 会 をしているそうですねぇ?」

 

 

 何か含んだ様に、語気を強める一色。毎日と言っても、まだ今日4回目を終えたばかりなんだけどな。それに、お前も受験生だから分かるだろうけど、勉強ってのは大事なんだぞ?

 

 ところでさ、その情報源なんだけど…

 

 

 「小町ちゃんから聞きましたけど、それが何か?」

 

 

 うん、知ってた。

 

 最近、小町と一色の間にはホットラインが敷かれ、頻繁に情報のやり取りが行われているらしく、俺の行動のほぼ全てが筒抜け状態となっていた。俺の個人情報に関するセキュリティーレベルが、ぬののふく並に低いというこの状況は、真に(まことに)嘆かざるを得ない。

 

 いや、そもそも何で俺が怒られなきゃダメなんだよ。

 

 

 「…それを私の口から言わせますか?」

 

 

 ”うわぁ…それないわぁ”という心の声が聞こえて来そうな雰囲気に、なんだか居た堪れない気分になってくる。なんか分からんが、正直スマンかった。

 

 そんな俺の様子を察知したのか、一色は大きく息を吸い込むと、これまでとは打って変わって、ちょっぴり拗ねつつ甘えてくる幼馴染(ちょっぴりツンデレ風味)の様に訴えかけてきた。

 

 「結衣先輩だけズルいですっ! 私の勉強も見てくださいよぉ…」

 

 いつぞやのクリスマスイベントの時みたいに、”やばいんですぅ、やばいんですぅ”と連呼する一色。鼻にかかった様なあざと可愛い甘い声が、俺の庇護欲を刺激し思わずお兄ちゃんスキルが発揮されそうになるが、寸でのところで思い留まる。

 

 「いやいや。ヤヴァイんだったら、サボらずに冬期講習に通えよ。」

 

 そうなのだ。センターテストレベルならともかく、こいつの志望校を考えれば、予備校とかでビシバシ勉強した方が良いに決まっている。お前、うちの学校に来るんだろう?

 

 だが、俺としては至極真っ当な事を言ったつもりだったのだが、一色にはそれが酷くご不満な様で、頬を大きく”ぷぅっ”と膨らませましたよ…といった感じで”ぷぅーっ”と漏らした。

 

 「センパイひどーい、私に対する愛が感じられませーん。」

 

 

 OK、ちょっと何言ってるのか分かりません。

 

 

 「愛? 何それ、美味しいの?」

 

 そんな俺の返しに”なっ!?”と声をあげた一色だったが、すぐに気を取り直した様子で思わせぶりな事を言い出した。

 

 

 「良いんですかセンパイ?…そんな事言うんだったら、私にも考えがありますよ?」

 

 

 抑揚のない声に、思わず背筋が伸びてしまう…ってか考えって何だよ、超怖いんですけど。

 

 

 「そんな事言うんだったら…」

 

 

 「言うん…だったら?」

 

 

 「・・・。」

 

 

 「・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 「またチューしますよ?…今度は、皆さんの目の前で。」

 

 

 

 

 

 

 

 「やめてっ! 勘弁してっ!」

 

 スマホに向かって何度も土下座する俺。そんな異様な光景は、旗から見れば何かおかしな病を患っているとか、変な宗教儀式に身を投じている様にしか見えないだろう。くそっ、このえろはすめっ。

 

 

 良かった…小町がここに居なくて。

 

 

 

 正直な所、”やれるものならやってみろっ!”と胸を張って堂々と言い返せば、一色は怯むだろうし形成逆転出来そうな気がしなくも無いのだが、万が一…

 

 「…分かりました。遠慮なくやっちゃいますっ!」

 

 ってな具合に開き直られてしまったら、これまた面倒な事になる。そもそもこの間の一件で、こいつの中でのチューに対するハードルが、著しく下がってしまっていたとしたら…。

 

 あぁ…これアカンやつや。

 

 もはや嫌な予感しかしなかった俺は、渋々ここで折れてやる事にした…っていうか、生意気言って済みませんでした。

 

 

 「ふふん、分かれば良いんですっ!」

 

 

 勝ち誇った様な鼻息は、受話器越しからでもトヤ顔っぷりが伝わってきそうな程に荒いものだったが、そこはあえて触れない事にした。

 

 だって、なんか怖いじゃん? 猛牛みたいで。

 

 

 

 それから一色は、嬉しそうに一頻りしゃべり倒した後”じゃあセンパイ、よろしくお願いしますね♪約束ですよぉ?”という言葉で最後を締めくくって、程無く電話を切った。

 

 

 結局押し切られてしまった…。

 

 

 俺はしばらくの間、通話の切れたスマホをただ呆然と眺めていた。やれやれ、どうしたものか。だが、そんな呆然とした時間も束の間、そのうち不意にある事実へと思い至った。

 

 あれ…お願いされたけど、具体的な日程とか決めてなくね?

 

 …という事はだな、いざとなれば”家族がちょっとアレなんで…”とか言って逃げれば完璧じゃないか。逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ…なんて台詞もあるけどさ、場合によっては逃げなきゃダメな時だってあるんだ。むしろ、人生の大半は逃げなきゃダメまである。

 

 そりゃ一色から…その、なんだ。好意を向けられているのは分かっちゃいるが、あいつだって受験生だ。今はみっちり勉強をしなきゃ駄目な時期だって事くらい、分かってはいるだろう。

 

 だから俺は決断した。

 

 

 ”よし、さっきの話は聞かなかった事にしよう!”と。

 

 

 散々とあれこれ思い悩んだ結果、断腸の思いで心を鬼にした俺を、一体誰が責められようか(いや、できまい!)。一色よ、分かってくれ…これは全部、お前を思っての事なんだ!

 

 こうして懸案事項が、折本かおりの言葉を借りれば”WinWin? それあるーっ!”という最高の形で片付いた事に、俺は胸を撫で下ろしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 け、決して面倒だっていう訳じゃないんだよ?…ホントだよ?

 

 

 

 

 

第18話

 

に「大人の」を付けると途端にエロくなるよな。

 

 

 

 

 

 家庭教師の朝は遅い。

 

 

 今日は俺の家に由比ヶ浜が来る番なのだが、勉強会を始めるのは午後からの予定だ。加えて昨日は夜遅くまで、撮り溜めていた深夜アニメを視聴していたものだから、いつもならばとっくに起きている時間にも関わらず、俺は未だに夢の住人だ。

 

 途中、小町が”お兄ちゃーん、いい加減起きてよぉ。小町、超つまんなーい。”と俺を起こしに来て、それに呼応した俺も必死に起きようと試みたのだが、”ZZZ…あと30年。”などと何度も繰り返しているうちに…

 

 「もうっ、お兄ちゃんの馬鹿っ! 朝ご飯、全部食べちゃうかんねっ!」

 

 頗る(すこぶる)機嫌を損ねた小町はかまくらを抱えて部屋を出ると、ドタドタと音を立てて階段を下りていってしまった。まぁ…怒られても仕方ないよな。確かに俺が悪い。この不甲斐ないお兄ちゃんを、どうか許しておくれ…心から詫び、るか、ら…もうす、こし…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「比企谷、海賊王に私はなるぞっ!」

 

 平塚先生は、素早い動きでスワンボートの屋根の上に攀じ登ると、そう高らかに宣言した。当然の事ながら、周囲からはその姿が奇怪に映ったらしく、平塚先生(と俺)は休日を公園で楽しんでいる家族連れやカップル達の注目を、大いに集める事となった。

 

 ちょっ、アラサーにもなって何やってるんスかっ。

 

 母親らしき人物が子供の目を塞ぎ、”芯次威(シンディー)ちゃん、あんなの見ちゃダメよっ!”などというヒソヒソ声が聞こえてくると、同じスワンボートに乗船している俺としては、本当に居た堪れない気分になってくる。

 

 まさか、DQNネームを名付けるような人種に、後ろ指を指される日が来ようとは…。

 

 「先生、もうこれくらいに…」

 

 流石に堪え(こらえ)切れなくなって、遠慮がちに止めに入ろうとした瞬間、サイドフレームに手を掛けた平塚先生が”えいっ”とタイミング良く屋根から降りて来た。そしてその加速度にブレーキなど掛かる事は一切無く、先生の右足が俺にヒットした。

 

 「ぐはっ!?」

 

 その結果、俺の体は思いっきり宙を舞い、平石の様に2~3度くらい池の水面を切った後、留めと言わんばかりに”ザッバーン”と激しく音をたて、スタート地点から5mくらい先にて着水する事となった。この滑空距離だったら、鳥人間じゃなくて只の人間だ。

 

 「ごっめぇん比企谷っ(はぁと)今のはその…過失なんだ♪大層な技とかではなくて、これは…そう、ただのキックなんだっ♪」

 

 可愛く言ったって俺はごまかされんぞっ! そもそも過失の意味合いからして、色々ツッコミどころ満載だからっ! 今、確実に”キック”って言ったよね、この人。

 

 つまり、端から突き落とす気満々だったって事じゃないか…ってか、モジモジとワザとらしく乙女をアピールしてないで、早く助けて下さいよ!

 

 ワザとらしい乙女…というあたりに気を悪くしたのか、平塚先生は”ワザとらしいもなにも、私は乙女だっ!”と言わんばかりに不機嫌な様子で、一向に俺を助ける気配が無い。ちょっ、見てないで早くっ…マジでヤヴァイって。

 

 だが平塚先生はその後も動く様子など微塵も無く、スワンボートの上で仁王立ちになると”努力と根性があれば自力でも大丈夫なはずだっ。オオタコーチも言ってたぞ!”と、ドヤ顔で言い放った。

 

 そうだったんだ…パトラッシュ、僕はようやく分かったよ。この人、そもそも助ける気なんて全然無かったんだ…。

 

 あと、オオタコーチって誰?

 

 だが、そんなツッコミを入れる間も無く、俺の方は段々と余裕が無くなって来る。泳げないわけではないハズなのに、体が全然前へ進まない。それどころか、体が激しく左右に揺さぶられ、ズブズブと沈んでいく感じだ。

 

 マ、マジでヤバイっ! た…たすけ、て。

 

 平塚先生は修造の様に”熱くなれよっ!”とか”ワカメ喰えよっ!”などと暑苦しくテンションを上げようとするばかりで、正直役に立ちそうに無い。あぁ、これはもうダメかもわからんね…。

 

 

 だが、神様ってのはいるもんなんだな。

 

 いよいよ意識が遠のき始め、”あぁ…いい人生だったなぁ”などと回想が始まった頃、突如として救いの手が差し伸べられた。男でも女でもない、第三の性を持つ人物…

 

 「と、戸塚たんっ!?」

 

 なんと、天使の格好をした戸塚が、ゴンドラに乗って空から降りてきたのだ。えっ? 屋外にいたはずなのに意味が分からないだって? そんなの、戸塚さえいれば些細な事じゃないかっ!

 

 戸塚は、それこそ見る者全てを恋に落としてしまいそうな微笑を俺に向けると、大きな浮き輪を差し出した。

 

 「八幡、これ使ってよ♪」

 

 戸塚たんマジ天使っ! もしかしたら、俺がキックをぶちかまされたのも、きっとこの伏線だったのではないだろうか。そう思うと、あの平塚先生すら神様の様に思えてくる。俺はこの世の全てに、そして生きている事に感謝の祈りを心の中で捧げつつ、その浮き輪を受け取った。

 

 だが、これで助かった…と安心したのも束の間、今度は俺の手の平に、ズシリと重い感触が圧し掛かった。

 

 

 へっ、なんで?

 

 

 俺が呆気に取られている間にも、状況は更に悪化してどんどん身動きが取れなくなっていく。一方、それを満足そうに見届けた戸塚は”じゃあ八幡…またね♪”と一際可愛く微笑むと、ゴンドラに乗ったまま雲の向こうへと消えていった。

 

 「ちょっ、戸塚っ…信じてたのにっ!」

 

 セントバーナードが引っ張るゴンドラに乗って小さくなっていく戸塚を、絶望の淵に叩き込まれた様な思いで見送る俺。一度は助かったと思っただけに、その反動が辛過ぎる。

 

 「もがっ…」

 

 動きを封じられ、遂には口まで押さえ込まれて呼吸を封じられた俺は、どんどん意識が遠くなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ、前にもこんな事が無かったっけ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここにきて、ようやく俺の目が覚めた。

 

 

 

 「・・・知ってる天井だ。」

 

 

 

 結果から言えば、またしても夢オチだった。それにしても毎度毎度、何てご無体な夢なのだろうか。前回は確か、ハニトーで窒息だったっけ。ってか・・・そもそも、戸塚が俺を陥れたりするわけがないじゃないか。もし本当にやられてたら…泣くぞ、全力で。

 

 ともかく、今までの出来事が夢オチである事に酷く安堵した俺。良かった…スワンボートの屋根の上で仁王立ちする人や、罪も無いのに池に突き落とされた人も居なかったんだ。

 

 

 

 けれど、現実は現実で想定外の連続だ。現に、目覚めてまだ5分と経ってないにも拘らず(かかわらず)、早くも俺は、思わず説明を求めたい事象に遭遇(そうぐう)したんだ。

 

 

 「お前…ここで何やってんの?」

 

 

 そこには何故か、由比ヶ浜がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それも、俺の上に圧し掛かった(のしかかった)状態で。

 

 

 「ちょっ、どっから入ってきたのっ!?」

 

 俺達の間に遮る物は何も無く、由比ヶ浜の大きく見開かれた瞳と俺の濁った目とが図らずもかち合い、そこで俺の意識は、急斜面のゲレンデを直滑降で滑り降りる初心者スキーヤーの如く、急速に覚醒したのであった。

 

 「うっ、あっ、え、えっと…や、やっはろぉ!?」

 

 由比ヶ浜の、僅かに開いた口元から漏れる”もわぁっ”とした熱い吐息が俺の鼻先を掠め、それが俺達の距離の近さをより一層意識させた。少しでも顔を上げれば、唇と唇が重なり合いそうなその近さに、思わずドギマギさせられてしまう。

 

 一方由比ヶ浜の方は、俺がこうもあっさりと目覚めてしまった事こそが、この現実世界における想定外だったと言わんばかりに、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。ってか、驚きの声まで”やっはろぉ”ってのは正直どうよ?

 

 

 まぁ…旗から見れば、お年頃のお嬢さんが寝ている男性を押し倒している様な状況なのだから、それを見られて慌てる気持ちも分からなくはない。もし第三者に見られでもしてみろ…変な渾名(あだな)を付けられるぞ。そうだな・・・明日から”えろがはま関”と呼ばれるまである。

 

 まぁ…その何だ。誰にも言わないから、とりあえずそこをどいてくれ。

 

 

 だが由比ヶ浜は、俺の言葉など耳に入らない程にテンパっているのか、固まったままそこから離れる気配が無い。それに、よくよく耳を澄ましてみると”ヒ、ヒッキー、手っ…手っ”と小さな声でうわ言の様に呟いている。

 

 そう言えば、かまくらの機嫌が悪い時に”お手”を要求すると、無愛想な表情でフローリングの床を”ダンッ”って尻尾でやるんだよなぁ…などとぼんやりと考えた時、ふと俺の両手に違和感に気がついた。

 

 「あれ、この感触は…。」

 

 そう、夢の中で戸塚から貰った浮かない浮き輪の手触りが、俺の掌(おれのてのひら)に残っているのである。簡単に言えば、いつぞやの”人を駄目にするクッション”の様な、ふかふかとしつつズシリと重い、あの感触だ。

 

 それは、俺の掌から零れ落ちそうな程の圧倒的な物量を誇り、また指と指との間から溢れてしまいそうな程に柔らかく、そして人肌の様に暖かい。

 

 

 

 

 

 ん? 人肌…?

 

 

 

 

 

 あぁ、これは触ったらアカンあれですわぁ…。

 

 

 

 

 

 少し視線を下へ逸らすと、大方の予想通り、俺の両腕は由比ヶ浜の体を下支えする2本の柱の様にぐっと延び、その先でこれまた俺の両掌が由比ヶ浜の2つの胸の膨らみを、指がめり込む程に激しく鷲掴みにしていた。

 

 おっぱいさんやっ! おっぱいさんの降臨やっ!

 

 只でも豊満な2つの膨らみは、下からの圧力に押し潰されてその形が大きく”むにゅり”と歪められ、また、激しく寄せて上げられた事によって谷間の輪郭がより強調された格好となり、扇情的な姿となって俺の目の前に晒されていた。

 

 更に、距離が近い事も相まって押しつぶされた胸元からは、ぎゅっと搾り出されたかの様な女の子特有の甘く生々しい体の香りが濃密に漂ってきて、俺の鼻腔をくすぐった。少しでも気を抜くと、このまま顔を埋めてしまいそうになる程にたまらなくなってくる。

 

 ちょっ、早くどいてっ! ホント、色んな意味でヤヴァイからっ!

 

 潜在的な(主に俺の中のオオカミ的な)危なさを感じ取った俺は、ともかくこの状況を打破せねば…という僅かに残った理性を掻き集め、由比ヶ浜の体を起こそうと試みた。だが、俺の手に力を込めた瞬間、俺の掌(ゴッドハンド)は更に由比ヶ浜の胸にめり込んでしまい、図らずも両胸を下から揉みしだく事となってしまった。

 

 強く鷲掴みにされた上に、下から捏ね繰り回される様に胸を揉みしだかれた由比ヶ浜は、強く目を閉じて僅かに”んっ…っ”と声をあげたかと思うと、体をびくんびくん…と軽く2度震わせた。

 

 そして、薄く目を開けて軽く呼吸を乱したまま、まるで湯上り直後の様に顔をほんのりと上気させながら、弱々しい声で呟いた。

 

 

 「ぁっ…ヒ、ヒッキぃ…ダメだよぅ…」

 

 

 だが、その言葉や弱々しさとは裏腹に、由比ヶ浜の視線は力強く、俺を捕らえて離さない。それまでシンとしていた部屋には、”はぁっ…はぁっ…”という由比ヶ浜の荒れた息遣いだけが響き渡っていた。

 

 

 やがて、由比ヶ浜は何かを決意したかの様に、俺のシャツをギュッと握り締める。

 

 

 「ヒッキぃ・・・あのね‥」

 

 

 そんな時だ。勢い良く部屋の扉が開け放たれた。

 

 「結衣さぁーん、どうですか? お兄ちゃん起きましたかぁ…って、えぇぇぇっ!?」

 

 入ってきたのは、想定外の出来事に驚きを隠せません…といった感じの小町だった。

 

 ベッドの上で寝ている俺と、その上に圧し掛かっている由比ヶ浜。そして俺の両手は由比ヶ浜の胸を鷲掴みにしたままだ。そして、その光景を目撃して固まった小町。

 

 「・・・。」

 

 「・・・。」

 

 「・・・。」

 

 まさにザ・ワールド…時が止まった感じだ。どっかにDIOとか居るんじゃねぇの?

 

 

 

 気まずい空気が俺の部屋を支配し、しばらくの間誰もが声をあげられずにいたのだが、2~3分してその沈黙を破ったのは、やはり小町だった。

 

 

 「小町、お姉ちゃんも欲しいけど…甥っ子とか姪っ子も欲しいなぁ…なぁんて。」

 

 

 ”あ、あはは…”と乾いた笑い声を出す小町。だが、何とか状況を打破したいと全力で気を使った小町の奮闘も虚しく、部屋の空気はより一層気まずさが増していくばかりだった。

 

 

 

 つづく

 

 

 【おまけ】

 

 「で、お前…結局何を言おうとしてたんだ?」

 

 「え、えぇっ!?そ、そんなのナイショだよぉ…」

 

 「内緒って言われると、余計気になるよな。」

 

 「ヒッキーっ、そこは気にしちゃだめっ!」

 

 「いやいや、気になる事は意地でも吐かせたいだろう…人間だもの。」

 

 「ちょっ! みつおはそんな事言ってないからっ!」

 

 




 
最後までお付き合い下さいまして
ありがとうございました。

実は最近、転職をいたしまして…。


まぁ…色々あったのですが

ど う か お 察 し 下 さ い 。


もうしばらくすれば、ペースも戻ると思います。
どうかそれまで、気長にお待ちいただけると
とても嬉しく思います。

 

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