ぼっちじゃない。ただ皆が俺を畏怖しているだけなんだ。 作:すずきえすく
第3話をお届けさせて頂きます。
今回もお付き合い頂ければ嬉しく思います。
※2016年1月29日に加筆・修正を行いました。
やぁお前ら…元気でやっているか?えっ、俺か?俺は、ブラック企業どころかどこにも勤めていないのに、もう駄目かも知れない…。だから力尽きる前に、色々と伝えておきたい事があるんだ。かなり侘しい話になるが、俺の忠告を聞いてくれ。
まず第一に…アレの隠し場所として、ベッドの下を選択するのは止めておけ。万が一、(小町…じゃなかった、妹などの密告により)親によるガサ入れが決行される際には、真っ先に手を付けられる程のオーソドックスな場所だ。類似箇所としては、本棚の裏や屋根裏収納も該当する。何故オーソドックスかって?そりゃ、親にだって思春期はあったろう…あとは察してくれ。
次に、歴史に興味がないのにDVDラベルに”歴史秘話ヒ○トリア”と書くのも悪手だ。ついうっかり、サブタイトルに”真田丸特集”なんて書いてしまったら大変だ。初めて自分の部屋に招いた異性が歴女で、”私、これ見たぁい♪”とデッキに投入されてしまい…という悲劇的な事故が、近年多数報告されている事を考えると、自殺行為に等しいと言えるだろう。
チャー○式の表紙を被せて書棚ってのもダメだ。本物の中身が机上にあれば、バレバレだからな。加えて言うと、中身を入れ替えている事をうっかり忘れて学校へ持参してしまい、自習時間に気付かずそれを開いてしまって冷や汗をかく思いをする…なんて事も起こりうる。危ねぇ危ねぇ…ホント、シャレになんないところだったわ…。
俺…色々考えたんだけどさ、どんなに巧妙な手口で隠蔽しても、隠し事ってのは遅かれ早かれ、白昼の元に晒される事になるんだよ。だからさ…何をやってもどうせ見破られるのなら、最初っから堂々と机の上に置いておくってのはどうだろう?ほら、”負けるなら…前のめりに倒れて負けようぜ?”ってゴローさんも言ってたし。
”潔い”って事は、生きる上で結構大切な事なんだと…八幡は思うな。
そんな事を考えていた時期が・・・俺にもありました。
第3話
き
れ
い
じ
ゃ
な
い
ジ
ャ
イ
〇
ン
は・・・どうなるんだろうな。
「先輩、ここに正座してください。」
ベットの下の発掘作業を終えた一色は、一通り検閲を済ませると、無機質な表情で床を指差した。一色の横には、”…ったく材木座の奴、仕方ねぇなぁ”と、いかにも”友達の為にしぶしぶ買いに来ました”といった具合に、レジ前で猿芝居までして購入したお宝の数々が、罪人よろしく晒しモノになっていた。
”なんでだよ、俺が何を買おうが勝手じゃないか!”と、一色に対して勇気を出して精一杯の抵抗を試みたのだが…
『ギロッ』
一色の目は、それを一切許さなかった。さっきまでとは打って変わり、あざとさの欠片もない一色を前にして、俺は未だかつて無い程の速さで一色の指さす場所へ正座した。
…怖いよ。いろはす超怖えぇ。
日曜日の昼下がり…後輩の女子高生にエロ本を隠し持ってるのがバレて、自分の部屋にも拘らず正座させられている俺。それはまるで、安月給な中、僅かな額をコツコツと積み上げて貯めたヘソクリが、ある日突然に嫁さんにバレてしまい、ガッツリとシメ上げられている中年サラリーマン夫の様な、なんとも居た堪れない光景だ。
「あ、あの・・・・一色さん?」
「なんですか、センパイ?」
「そろそろ足を崩しても・・・」
「ダメです(きっぱり)」
あっさり却下された。駄目だ…一色には、この理不尽な仕打ちに一切の躊躇いが無い。そろそろ足が痺れて来たんだが…いつまで続くんだろな。
俺が正座を始めて、10分位経っただろうか。
「センパイは、胸の大きな人が好みなんですねー。」
一色は、俺のコレクションの中から、”脱いだら凄い!ムチムチさん”と表紙に書かれた本を手に取ると、ジト目でそう語りかけてきた。
「え、違うよ?」
気分転換に近所をぶらぶらと散歩していた時に、ついふらぁ…っと入った本屋で本を買ったら、たまたまエッチな本だったんですよぉ。ホントですよ?
まぁそんな事、ある訳ないんだけどな。
「っていうかこのモデルさん、結衣先輩に似てますよね。」
なんで由比ヶ浜が出てくるんだよ。骨格レベルで別人じゃねぇか。
「だってー、似てるじゃないですかぁ」
「全然似てないだろ。」
確かに似てるところも、無くはないけどな…自己主張の激しい胸元とか。
「でもぉ・・・」
「似てると思うから似てくるんだ。つまり似てないと思えば、たとえ似てても似なくなってくるんだ…つまり似てない(きっぱり)」
自分で言ってて意味が分からない。分からない…のだが、ある程度の効果はあったようで、”なんか、適当に言い包められた気もしますけど…”と一色が呟いたところで追及の手は緩められ、俺の部屋には再び静寂が訪れた。
3連休の中日にあたる…そう、今日の午後一番くらいまでは、俺にとってこの静寂さは、非常に心地よいものだったのにな。何故だろう…同じ静寂さだというのに、冷や汗が全然止まらない。
どうしてこうなった。
そして、その間一色は”むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーっ”っと、自分の気持ちに折り合いを付ける様に、言葉にならない想いを吐き出す様に唸っていた。
なんだよそれ、ちょっと可愛いなオイ。
だが、やがてそれも収束に向かった様で、1つ大きく深呼吸をして落ち着きを取り戻した一色は、念を押す様に俺に問いかけてきた。
「じゃあ、結衣先輩に似てるから買ったんじゃないんですね?」
「無論だ。」
俺は、きれいなジャイ○ンの如き眼差しを一色に向け、他意が無い事を必死にアピールした。お願いっ、勘弁してっ…そんな思いが伝わったのか、それを見た一色は”目がキラキラし過ぎて、かえって胡散臭いです。”と小声で呟きながらも、大きく溜息をついた後に、
「・・・・・それなら許してあげます。」
と言った。やっとお許しが出たみたいだ…ってオイ、頑張って全力出して目を輝かせたのに、そんなにあっさりと”胡散臭い”って斬り伏せるなよ!容赦無さ過ぎだろ…俺のひたむきさを返してっ!
ともかく、流石はきれいなジャイ○ン…効果は絶大だ。因みに、きれいなジャイ○ン(ノンスケール PVC製塗装済み完成品)はam○zonをはじめ、全国で好評発売中だ。
まぁ・・・剛っぽくないけどな。
ともかく嵐は過ぎ去り、俺の部屋に穏やかな時間が戻ってきた。やっはり、平和ってのは何事にも代え難いものだと実感した。あと、ハトとか居たら完璧なのに。
ともかく、争いはもう終わったんだ…。だから俺は、この世の自由を謳歌するんだ!…ってあれ、そういえば誰かが言ってたよな…自由とは眩しいものだな、と。
俺の脳裏には、世間を騒がせたネコ好きな…ほら、あの人だよ。あのメガネを掛けた男の人!。ともかく、そのメガネの人の微笑む姿が過ぎった。
何故だろう…すっごい嫌な予感がする。
ハッと我に返り、一色に視線を移すと、その視線の先には机の上の書棚が…。”やばい!”と思った時にはもう遅かった。一色は”へぇ…こんな薄いマンガなんてあるんですね♪”と言いながら、書棚から1冊の本を取り出すと、パラパラと捲り始めた。
ちなみにその本は、有明にある某ビックサイトで開催された大規模なお祭りで購入したものだ。まぁなんだ…平たく言えば”薄い本”だ。くそっ、材木座めっ!
まぁ、買ってきてと頼んだのは俺なんだけどな。
「・・・・センパイ。」
「何だ?」
「今日から、エロマンガ先輩って呼んでもいいですか?」
それはやめてっ!勘弁してっ!
振り出しに戻っちまったよ、ちくしょう。
「で、何しに来たんだ?」
ここに来て、一色に対してようやく核心に迫る質問が出来た。ここまで本当に長かった…。言うなれば、某人気イラストレータによるイラスト集の販売が予告され、意気揚々とa○azonに予約を入れたものの、2ヶ月が過ぎ…半年が過ぎ…1年過ぎる頃には発売日が未定となってしまい、最後には予約がキャンセルされてしまったまである。
ブ○キ先生の安否が、私、気になりますっ!
「ほら私って、K大志望じゃないですかぁ♪」
いやいやそれ初耳だから…って、俺の学校じゃないか。俺が言うのもなんだけど、結構難関だぞ。かつて俺が受験生だった頃、”死ぬまで特訓…かしら?”と、あどけない表情で首を傾げつつ、スパルタの限りを尽くしたゆきのん先生の猛特訓講座を思い出し、俺は背筋が寒くなった。
そんな俺を見て何か感じ入ったのか、一色は俺から1歩だけ距離を取ると、”うへぇ…”と顔を歪めつつ一気に畳みかけた。
「ハッ!私がセンパイを追いかけて同じ大学を受けると思いましたか?それはセンパイが自意識過剰過ぎなだけで偶然同じになっただけですから、たった今告白してきてもまだ受験生ですのでそれをお受けする事は出来ません。半年先にまた出直して来てくださいゴメンナサイ。」
全くもって、誤解極まりない。っていうか…何も言ってないのに、振られるのは一体何回目だったろうな。ニコニコと楽しそうな表情を浮かべる一色に、半ば諦めムードの俺は、大きな溜息をつくのであった。
まぁなんだ…9回2アウトに、最も打席に立った男として脚光を浴びた元マー○ンズの某選手も、打席内ではこんな心境だったのかも知れないな。19点差とかじゃ、流石に心折れるわ。
「センパーイ、なんだか反応薄くないですかぁ?」
「人生の不条理を噛み締めてただけだ。さぁ、続きを話したまえ。」
「むぅーっ」
一色が不満そうに両頬を膨らませる。くそっ・・・あざと可愛いなっ!
「で、オープンキャンパス代わりに、学園祭を見に来たんですよぉ♪」
なるほどな。カリキュラムは確かに重要だが、それと同じくらい生活環境も大切だ。オープンキャンパスとは違った雰囲気である学園祭で、多少羽目を外した在校生を見た方が、学生生活の雰囲気は掴みやすいのかも知れない。
一色が”うんうん”と首を縦に振る。そして、改めて俺と正面に向き合うと”そ・こ・で・ぇ♪”と片手を口元に添えて、秘密の共有話をする様に囁いた。
「明日センパイに付き合って欲しいんです♪」
「だが断るっ!」
「早っ!センパイ断るの早いですっ!」
即断即決は俺のモットーなのだ。
学園祭は明日で終わりだ。つまりそれは、ダラダラとした一日を過ごせるのも、明日で終わりという事だ。本来ならば、後輩が遠路遥々やって来ているのだから、ここは付き合うべきだろうし、付き合ってやっても良いという気持ちが無い訳でもない。だが、仮にも大学の学園祭だ。わざわざあの人ごみに飛び込むのも躊躇われる。
「そんな事言わないで、お願いしますよぉ」
なかなか首を縦に振らない俺をジッと見ていた一色は、”こうなったら、奥の手使っちゃいますっ♪”と宣言すると、ポケットからスマホを取り出して、どこかへダイヤルし始めた。
『もしもし小町ちゃん?いろはだよー♪うん、今センパイのお部屋。んとね、センパイのお部屋ね、エッチな本がたくさん・・・』
ストォォォォォォォォォップッ!!!!!!!!!!!!!!!
何て恐ろしい事をしやがるんですか、貴様はっ!これはもう、全米が震撼するレベルだぞ。もし小町にバレでもしてみろっ…次に帰省した時に”小町的に超ポイント低いわぁ…”と、冷たい目で蔑まれるだろうがっ!
まさに奥の手だ…
ガン○ム試作3号機だっ!
デント○ビウムだっ!!
驚愕し絶句している俺に対し、これ以上ないくらいニコニコしている一色は、俺にスマホの画面を見せてきた。”小町ちゃん♪”と書かれた登録画面の番号は、間違いなく本物だ。
とりあえず通話ボタンは押されなかったみたいだが、一色はいつでも小町に連絡出来る事を証明して見せた。つまりそれは、俺の名誉が守られるかどうかの運命が、一色の手に握られているという事の証明でもあった。
ってか、ここの住所を教えたのは小町だったんだな…。
「明日一緒に学園祭回りましょうよぉ♪きっと楽しいですよ♪」
鬼だ・・・鬼がここにいる。
もはや断る術の無い俺は、真に遺憾ながら、明日1日一色に付き合って、学園祭を回る事になってしまった。”こんなに可愛い後輩と一緒なんですから、もっと喜んでくださいよぉ”とは一色の弁だが、こいつがこんな良い笑顔を浮かべている時は、大抵の場合、俺がロクでもない目に合うんだ…。
その予感を裏付けるかの様に、大きく深呼吸をした一色が、お馴染みの敬礼ポーズを決めると、”ではではよろしくでーす♪・・・って、実はもう一つお願いがあるんですよ♪”と言い出した!
…なんだよ、まだ何かあるのかよ。
「もちろんです♪」
一色はそう答えると、俺との距離を一気に詰めた。そして、俺の右腕を抱き抱える様に自分の身体を密着させた後、その艶っぽい唇を俺の耳元に近づけ、鼻に掛かる様な甘い声でそっと囁いた。
「今夜はここに・・・泊めてくださいね?」
つづく
第3話にお付き合い頂きありがとうございました。
大学の学園祭は、高校の文化祭とは違って
一般の方の出入りが多いので、一見すると
普通のイベントにも見えますけれど、
学生自治といいますか、コミュニティが
ハッキリとしているので、純粋に
”学生のお祭り”という側面が色濃く出ていて
とても興味深いです。
さて、次回の投稿なのですが
所用の為、少々遅くなる予定です。
次回もまた、お付き合い頂けると嬉しく思います。