アリシアお姉ちゃん奮闘記   作:燐禰

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拝啓:アリシアさん、ありがとう

 一昨日から降り始めた雨は、丸一日過ぎても止む事は無く静かに降る。

 

「これで、よしっと……せめて、あと一ヶ月後だったら自分で買えたんだけどなぁ……」

 

 妹に購入してもらった真新しい黒のスーツに身を包み、鏡の前で身支度を終えたアリシアは呆れた様子で独り言を呟く。

 アリシアが身支度を終えて部屋から出ると、リビングのソファーには心配そうな表情を浮かべるフェイトの姿があった。

 

「お姉ちゃん……」

 

「おはよ、フェイト」

 

「う、うん。おはよう」

 

「んじゃ、私はお葬式に行ってくるよ~夕食までには帰れると思う」

 

 今日はアリシアの友人であり、一昨日に無念の戦死をしたティーダ・ランスターの葬儀があり、アリシアも友人として参列する事になっている。フェイトはアリシアの妹ではあるが、ティーダとは面識がない為出席はしないが、今日はわざわざ仕事も学校も休みを取って家に居た。

 

 その理由は単純で、アリシアの事が心配だから……アリシアはティーダが死んだ当日こそ取り乱していたものの、翌日には普段通りの明るい様子に戻っていた。フェイトはアリシア程人の感情の機微に鋭くは無く、またそう言った隠し事が上手い姉が心の内に押し込んだものまでは分からなかった。

 

「……大丈夫? お姉ちゃん」

 

「あれ? 大丈夫じゃなさそうに見える?」

 

「ううん……でも、私にだって……お姉ちゃんが辛い事を我慢していつも通り元気になってる位は、最近やっと分かる様になってきたよ」

 

「……精神的にも随分成長したんだね」

 

 フェイトが静かに告げた言葉を、アリシアは否定する事は無く微笑みを浮かべる。フェイトは着実に成長をしている。特に顕著なのが精神的な面。己の我を通す力強さだけでなく、他人の心中を読みとるしなやかさも獲得し始めている。

 

 そんな着実に大人になっていってる妹の姿を、喜びと寂しさの混じった様な微笑みで受け止めた後、アリシアは明るく笑う。

 

「まぁ、まったくもう平気って言ったら嘘になるんだろうけど……本当に大丈夫だよ。気持ちの整理もしっかり付けたし」

 

「……うん」

 

「もう、フェイトは心配性だなぁ~今だってほら、フェイトが頬にキスの一つでもしてくれたら、すぐに元気になるよ」

 

 アリシア・テスタロッサの人後に落ちない長所は、何よりその心の強さと切り替えの早さ。いつものようにどこかからかう様な口調でフェイトに話し、自分が大丈夫であると伝える。

 

「な~んて……」

 

「んっ……」

 

「ふぁっ!?」

 

 が、しかし……アリシアの想定は脆くも崩れ去る。彼女の考えでは、ここでフェイトが照れるか怒るかして、それに笑って謝りながら出発するシナリオだった……しかしフェイトは、一瞬の躊躇いも無くしゃがんでアリシアの頬に唇を当てた。

 

「ふぇ、ふぇふぇふぇ、フェイト!? い、い、一体何を!?」

 

「え? お姉ちゃんが、元気出るって……元気出た?」

 

「そ、そりゃ、ごちゃごちゃ考えてたのは全部吹っ飛んじゃったけど……そう言うのじゃなくて!」

 

「えと……足りないなら、恥ずかしいけど……もっとする?」

 

「ぶっ!?」

 

 フェイトは確かに最近成長した。姉に依存するだけでなく、姉の事を守れるように、支えられるようにと精神的にも成長し、大人と言える落ち着きを身につけつつある。

 しかし姉に対する愛情の程は、まったく変わってない……どころか、むしろ強くなっている。

 

 以前は姉が望むなら何をされても良いと受動的だった思考も、現状は姉が望むなら何でもしてあげたいと、本人が聞いたら頭を抱えそうなレベルには成長していた。

 

「お姉ちゃん!? 大丈夫!? やっぱりまだ、疲れが残ってるんじゃ……」

 

「い、いや、これはそう言うあれじゃなくて……と、とにかく行ってきます!」

 

 慌てふためきながらアリシアは家を飛び出し、残されたフェイトは不思議そうに首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗く重い空、降り落ちてくるのは冷たく悲しい雨。葬儀場の屋根の下で、私はただ景色を見つめていた。いや、自分が何を見ているのか、自分自身でもよく分からない。

 

 今日は一昨日に死んだ兄さんの葬式。何も分からず、親戚も居ない私の代わりに管理局が手配して用意してくれた場所。兄さんの同僚や知り合いがそれなりの数訪れているけど、誰も私に近付こうとはせず、様々な視線だけを投げかけてくる。

 

 まるで腫れ物を扱う様な光景に、自分の心がどんどん冷えていくのを感じる。私はまだ兄さんの死を受け入れられてなど居ない。これは悪い夢なんだと、今もそう思ってる。

 だから涙を流しても居ない……涙を流したら、兄さんが帰ってこない事を認めなければならない気がしたから……

 

 しばらく訪れる人々を眺めていると、私の元に長い金色の髪の女性が近付いてくる。身長は同じ位だけど、スーツを着ているせいか年上に見える。

 

「……ティアナちゃん、だよね?」

 

「……あ、はい」

 

「私はアリシア・テスタロッサ。お兄さんの友達だったんだけど……聞いてたりするかな?」

 

「貴女が……アリシアさん?」

 

 この人が、兄さんがいつも話してたアリシアさん……優しそうな人。ううん、兄さんが尊敬する位だから……きっと優しい人なんだろうな……

 

「大丈夫……じゃ、ないよね。急にこんな事があって……疲れてるみたいに見えるけど、ご飯とかも食べて無いんじゃないかな?」

 

「……食欲が、なくて……」

 

「そっか……簡単に気持ちが分かるなんていうつもりはないけど、体だけは気をつけないと……良かったらこれ」

 

 そう言ってアリシアさんは、私の手にゼリー状の携帯食料を手渡してくれる。手、暖かい……本当に、優しい人だ。他の誰も近付こうとしない私に声をかけてくれて、踏み込まない程度に気遣ってくれる。凄く、ありがたい。

 

「……ありがとうございます」

 

「うん。良かったらまた、お葬式が終わった後で、少し話そう……無理だけは、しないでね」

 

「はい」

 

 アリシアさんはそう言って優しく微笑み、会場の中に入っていく。何となく、ほんの少しだけ、心に熱が戻った様な……そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして私も会場の中に移動し、揃いつつある参列者を部屋の端で見つめる。兄さんはあまり自分の事を偉そうに語ったりはしなかったけど、これだけ沢山の人が葬式に来てくれる。

 私にとって兄さんは目標で憧れで、誰よりも立派な魔導師だって思ってた。だからそんな兄さんの葬式に沢山の人が来てくれるのは、少しだけ救われる思いだった。

 

 少しして入口から何人かの人を連れた……どこか偉そうな雰囲気をした男性が入ってくる。男性の顔は不機嫌そうであり、この会場の空気にはどこかそぐわない。

 兄さんの上司だった人だろうか? 兄さんは真面目で真っ直ぐな人だったけど、少し不器用な所があった。その真っ直ぐな真面目さのせいで、何度か上司と衝突していたと聞いた覚えもあるし、この人にはあまり好かれていなかったのかもしれない。

 

 それでも、こうして足を運んでくれたんだからソリが合わなかっただけで、兄さんの実力は……

 

「まったく、何故私がこんな雨の中で出向かねばならない」

 

「ま、まぁまぁ三佐……我が隊の一尉の葬儀なんですから、三佐が出席しない訳には……」

 

 男性が吐き捨てるように呟き、隣に居た人がたしなめる様な言葉を告げる。静かな会場の中だったからだろうか、よく聞こえた。その次の言葉も……

 

「ふん。犯人を追いつめながら、みすみす逃亡を許すなど首都航空隊の魔導師として有るまじき失態だ。たとえ死んでも取り押さえるのがあるべき姿……任務に失敗し無様を晒す様な『無能』が部下とは、嘆きたくなる」

 

「ッ!?!?」

 

 その言葉は、場の空気を凍りつかせ、まるで矢の様に私の心に突き刺さった。

 

 無能? 誰が? 私の……大好きだった……兄さんが? 無能?

 

「全く、理想論ばかり口にする……最後までとんだ役立たずだったな!」

 

「さ、三佐……」

 

 なに、これ? 痛い……痛い……胸の奥が、砕けてしまいそうな程に痛い。何か、今までその中にあった大事な何かが、空いた穴から流れ出してしまう様な……こんな、こんなの……

 

 男の言葉に会場はざわついていたが、男が立場の高い人間だった事もるのか……それとも周りの人も兄さんは役立たずだって思ってるのか、誰も何も言わない。

 目が熱くなり、体が震える。言いたい事を言った男は、偉そうに歩を進め……反対の壁に叩きつけられた。

 

「がっ、ぐっあっ!?」

 

「三佐!?」

 

「……え?」

 

 何が起こったのか、分からなかった。気付いたら男は壁に叩きつけられていて、さっきまで男が居た場所には……拳を振り抜いた体勢のアリシアさんの姿があった。そしてその顔は、燃え上がる様な怒りに染まってる。

 

 アリシアさんは魔導師だ。いくら小柄な女性と言えど、魔力で強化された拳は……人一人吹き飛ばすぐらいの威力はあるだろう。

 再び会場が凍りつく中で、アリシアさんは静かに……噛み殺す様に言葉を漏らす。

 

「……もう、一回言ってみろ……誰が、なんだって……もう一回言ってみろ! 今度は顎を砕いてやる!!」

 

「なっ、ぎざ、ま……」

 

 凄まじい怒気を含んだ叫びに、会場の誰も動く事は出来ない。

 

「お前が、ティーダくんの何を知ってる!? ティーダくんは、巻き込まれた子供を助ける為に、殺傷設定の魔法の前に身を投げ出した! それがどれだけの勇気が必要か……お前に同じ事が出来るのか!?」

 

「ぐっ、くぅ……」

 

「ティーダくんは……ティーダくんは……誰よりも立派な魔導師だった! 侮辱するなんて許さない! 文句があるやつは立て! 私がぶっ飛ばしてやる!!」

 

 ……アリシアさん、怒ってる……怒ってくれてる。兄さんの為に……本気で怒ってくれてる。

 

 誰もアリシアさんの迫力に動く事が出来ない中で、私の胸に込み上げてきたのは……驚きでは無く、喜びだった。あの男は兄さんの事を無能だといったけど、少なくともアリシアさんにとってはそうじゃないって、ハッキリとそれが伝わってきたから。

 

「き、貴様あぁぁ!」

 

「ッ!?」

 

 少しして倒れていた男が怒りを顔に出しながら立ち上がり、男の部下達がデバイスらしきものを取りだすのに合わせ、アリシアさんも小型の瓶の様なものを取りだす。

 一色即発と呼ぶに相応しい空気、それを切り裂いたのは新たな怒声だった。

 

「そこまでだ!」

 

「なっ!? れ、レジアス中将!?」

 

「……レジアスおじちゃん」

 

 声の主は新たにこの場に現れた……さっきの男とは明らかに威厳の違う中年の男性。その声は有無を言わさぬ威圧感に満ちており、会場に居る全員の動きを止めた。

 

 レジアス中将……管理局の事をよく知らない私でも見覚えのある大物。実質的な地上本部のトップとまで言われる程の人物で、何度もテレビで演説している姿を見た事がある。そんなもの凄い人が、兄さんの葬式に?

 

「ここは、厳粛な葬儀の場……いかな理由があろうとも、騒いで良い場所では無い」

 

「れ、レジアス中将……ど、どうして、このような場に!?」

 

「……地上部隊と航空部隊。部署は違えど、同じ世界の平穏を守ろうとした同士の葬儀に、ワシが出席する事がおかしなことか?」

 

「い、いえ……」

 

 レジアス中将は、一人の局員が驚愕のままに告げた言葉に静かに答えた後、アリシアさんと三佐の間まで歩いて移動し、静かに告げる。

 

「アリシア訓練生。この騒ぎの原因は君だな? 退室しなさい」

 

「……はい。お騒がせして、申し訳ありませんでした」

 

 レジアス中将の言葉を受け、アリシアさんは深く頭を下げて謝罪の言葉を口にする。そして、会場から出て行こうとした所で、レジアス中将が更に言葉を続ける。

 

「……その前に……」

 

「……え?」

 

「一部始終は見させてもらった。市民を守る為、勇敢に戦い無念にも戦死した同士……遺族の為にも、ワシがここでハッキリ告げておこう。ティーダ・ランスター一等空尉はまさしく偉大な魔導師であり、彼の様な未来ある若き勇者を失ってしまったのは、管理局のみならず……世界にとっても、本当に残念な事だ」

 

「ッ!?」

 

「そんな彼の名誉が、死して尚侮辱される事などあってはならない。ワシは生涯、彼の名を忘れないと誓おう……異論のある者は、ワシと対立する覚悟を決めた上で、後ほど執務室まで来るように……」

 

 言った……地上本部の実質的なトップが、中将が……ハッキリと言った。兄さんは偉大な魔導師だったと、決して役立たずなんかじゃなかったと……

 

 それを聞いた後、アリシアさんは退室していき、その背中を見ていた私の目には涙が浮かんでくる。頭の中はごちゃごちゃで、自分でもどうなってるのかよく分からなかったけど……一つだけ、確信を持ってその感情は浮かんできた。アリシアさんが兄さんの誇りを守ってくれた……救われたって、そう思った。

 

 そしてレジアス中将は静かになった会場の中で、茫然としている三佐を睨みながら静かに告げる。

 

「……貴様の様な者に、部下を率いる立場を与えてしまったのは管理局の……ひいてはワシの責任だ。貴様とは、後でゆっくり話す必要がありそうだな……」

 

「あ、あぁ……」

 

 その言葉と共に三佐は膝から崩れ落ち、レジアス中将がそれ以上言葉を発さず席に付いた事で、葬儀が再開された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葬儀が終わり、帰っていく参列者を離れて見ていたアリシアの元に、レジアスが近付く。

 

「派手にやったな」

 

「あ、レジアスおじちゃん……本当にごめんなさい」

 

 先程までの威厳ある中将の顔では無く、苦笑を浮かべた表情で話しかけてくるレジアスに対し、アリシアはもう一度深く頭を下げる。

 アリシアにはレジアス程の権力的な力は無く、あの場で直情的な暴力と言う手段を取った事は、致し方ないとは言え謝罪すべき事柄だ。アリシアは三佐を殴った事に関しては全く後悔をしていないが、場を治めてくれたレジアスには大きな罪悪感がある。

 

 しかしそんなアリシアを見て、レジアスは愉快そうに笑う。

 

「ははは、謝る必要などないさ。場が場だけに、ああいった対応を取らざるおえなんだが……君が殴らなければ、ワシが殴っていた所だよ」

 

「レジアスおじちゃん……」

 

「君が怒った事で、彼の妹は重い枷を背負わず済んだ……むしろ、誇るといい。なに、後の厄介事はワシの様な年寄りの仕事だ。大丈夫、周りになど何も言わせはせんよ」

 

 レジアスはそう言って笑った後、数度アリシアの頭を撫でてから、軽く手を振ってその場を後にする。アリシアは、その後姿を見送った後……参列者が殆ど居なくなったのを見てから、会場の方に向かい歩を進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葬儀が終わり、後は兄さんの遺体を埋葬する事になるのだけど……本日は雨であり、あと数時間で雨足が弱まるという予報なので、それまで私は葬儀場で待機する事になった。

 会場には控室等もあって、そこで待ってていいと手配を行ってくれた人は言ったけど……私はここで待ちたいと告げて、兄さんの遺体がある会場で待機していた。

 

 兄さんの眠る棺桶をしばらく見つめていると、扉の開く音が聞こえ……アリシアさんが入ってきた。

 

「アリシアさん」

 

「……ティアナちゃん。ごめんね……お葬式、滅茶苦茶にしちゃって……」

 

 アリシアさんは私の近くまで歩いてきた後、頭を下げて謝罪の言葉を口にしたが、私は慌てて首を横に振る。

 

「謝らないで下さい……アリシアさんが、兄さんの為に怒ってくれて……嬉しかったです」

 

「……ティーダくんは、本当に凄い魔導師だったよ。ちょっと不器用なとこあったけど、真っ直ぐでカッコ良かったよ」

 

「はい」

 

 アリシアさんは兄さんの棺桶に祈った後、私の隣に座って微笑みを浮かべてくれる。それだけで、ホッと心が軽くなる様な、そんな温かい気持ちになれた。

 しばらく沈黙が流れた後で、アリシアさんは優しい声で話しかけてくる。

 

「……ティアナちゃんは、凄いね」

 

「え? 凄い?」

 

「うん……私もティーダくんと同じ様に、妹が居るんだ。大切な、本当に世界で一番大切な妹が……」

 

 アリシアさんは私の目を優しく見つめたまま、言葉を続けていく。

 

「人が死ぬとね。心の中で、今までその人が居た場所に……深くて暗い穴が空くんだ。その穴は小さくはなっても、無くなる事はなくて……ずっと心に残り続ける。その相手が親しければ親しい程、凄く大きな穴が空くんだ」

 

「……」

 

「……私は妹が、フェイトが死んじゃったら……耐えられないと思う。涙が枯れるほど泣きじゃくって、自分を責めて……もう生きてなんていけないって思うかもしれない」

 

 優しく、子守唄の様に響く言葉。それは私の心に張った分厚い何かを、一つ一つ取り除いていくみたいで、段々と目が熱くなっていく。

 

「ティアナちゃんは、凄いよ。強くて頑張ってる……でも、ね」

 

「……ぁ、ぁぅ……」

 

 体が抱き寄せられ、柔らかく暖かい温もりが全身に広がる。凍えきった体が温められ、今まで我慢していたものが、零れ落ちる様に流れ始める。

 

「そんなに、強くなくても良いんだよ……親しい人が死んで、悲しいって思うのは、涙が流れるのは可笑しい事なんかじゃなくて、当り前の事なんだよ」

 

「あ、あぁぁ……」

 

「今はここには、私しかいないから……ね? ティアナちゃん」

 

「アリシアさん……あぁぁぁ! うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 もう、我慢なんて出来なかった。泣いちゃいけないって、思ってた。兄さんが死んで……一人ぼっちになって……もう、私が泣いても周りの人を困らせるだけだって、誰にも縋れないんだって……

 

 でも、でも、アリシアさんは……私の心を救ってくれた。私の涙を受け止めてくれた……兄さんの言った通りだったね。アリシアさんは凄い人だよ……優しくて、暖かくて、お日様みたいな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長く、本当に長く泣きじゃくっていた。アリシアさんは何も言わず、私を抱きしめながら頭を撫でてくれた。それは本当に暖かくて、溜まっていたものを全部吐き出すまで泣き続けてしまった。

 

 私が泣きやんだ後も、アリシアさんは私を暖かく抱きしめたままで、優しい微笑みを浮かべてくれる。

 

「……少しは、スッキリしたかな?」

 

「はい……あっ……」

 

「ふふ、良かった。体もちゃんと元気出てきたみたいだね」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 アリシアさんにお礼を言おうとした所で、私のお腹が小さな音を鳴らし……恥ずかしくなる私をみてアリシアさんは苦笑する。

 

 ちょっと恥ずかしさは残ったまま、アリシアさんに勧められて貰った携帯食料を食べる。ずっと無かった食欲が出てきたせいが、喉を通るゼリーが凄く美味しかった。

 

「ティアナちゃんは、これからどうするの? ティーダくんと二人暮らしだったんだよね?」

 

「……管理局の施設に入る予定です」

 

「そっか、私も少し覗いた事あるけど、環境は凄い整ってるよね。孤児院って言うよりは寮とかマンションって感じで、就職とかもサポートしてくれるしね」

 

「……はい」

 

 私は両親は随分前に死に、親戚も居ない兄さんと二人きりの家族だった。その兄さんが死んで、私は管理局の施設でお世話になる事が決まっている。管理局は孤児や難民のサポートを非常に手厚く行っている事は有名で、環境は非常に整っている。

 

 本人が希望すれば学校にも通わせてもらえるし、通信教育で知識を学ぶ事も出来る。そして就職に関しても、本人の希望を最大限尊重しサポートを行ってくれる。正しくこれ以上無い環境と言えるだろう、ただ幅広く受け入れてるが故に、横のつながりや交流は殆ど無く一人での自立と言うのが明確示されている。

 

「……環境は凄く良いと思います」

 

「うん」

 

 あれ? 私、何を言おうとしてるんだろう? 優しいアリシアさんに話しかけられて、甘えたいって気持ちが強くなってしまったんだろうか? 弱音を吐こうとしてる。

 

 これから頑張って一人で生きていかなくちゃいけないのに……

 

「……兄さんが居なくなって、私はもう一人ぼっ……」

 

「させない」

 

「え?」

 

「……一人ぼっちになんて、絶対させない」

 

 静かながらハッキリと聞こえてきた声に、思わず顔を上げる。アリシアさんは強い決意の宿った目で私を見ており、それは何かを期待させた……

 

「私がいる」

 

「で、でも、アリシアさんは……」

 

「うん。私の年齢と社会的立場じゃティアナちゃんを引き取ったりは出来ない。けど……会いに行く!」

 

「!?!?」

 

 会いに……来てくれる? アリシアさんが……兄さんの友達で、兄さんの誇りを守ってくれた恩人で……直接顔を合わせたのは初めての私に、心から優しく接してくれたアリシアさんが……

 

「何度だって会いに行くし、鬱陶しいってくらい連絡もする。一人ぼっちだなんて……絶対思わせてやらない!」

 

「……アリシア、さん……」

 

「寂しいなんて、そんな気持ちが浮かばない程、引っ張り回してあげるから……覚悟しておいてね」

 

「~~!?!?」

 

 言葉なんて出なかった。ただ、ただ……嬉しかった。一人ぼっちになんてしないって、その言葉があまりにも暖かくて、奇跡かと思うほど嬉しくて……また、沢山の涙が零れ落ちた。

 

 そうなんだ……私は一人ぼっちにならなくても良いんだ……アリシアさんが居てくれるんだ……

 

 今度こそ、本当に心から思った。私は、この人に救われたんだって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アリシアの存在は、ティーダがティアナに残した最後の奇跡かもしれません。

三佐はその後、レジアス中将に叱られ左遷されたとかなんとか……

フレンドリーファイヤーフラグは、お姉ちゃんがへし折りました。

と言うかティアナの焦り関連は全部へし折っちゃった感じですね。


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