にじファンにて、私が一番最初に書いた作品の修正版です。
スペースの取り方や改行の仕方、ところどころの表現を変えた以外は以前と変わっていません。

お話は、もし生徒会戦挙にて過負荷側に阿久根たちが襲われておらず、書記戦にオリキャラが出ていたら、と言うIFの物語です。

つたない駄文ではありますが、お暇ならば見てやってください。

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にじファンに投稿していた物を、こちらに移してきました。

原作を読んでいない人にはわかりづらい表現があると思いますので、
そのようなものが苦手な方は今すぐ戻るボタンを押すことをお勧めします。

それでは、どうぞご覧下さい。



IF めだかボックス 短編 戦挙の一コマ

   ●

 

 

 夏休み

 

 学生ならばその言葉だけで胸が躍り、学生生活において好きなものランキングがあればベスト5から漏れることはないであろう時間。

 うだるような暑さと大きな苦行(しゅくだい)があることに目をつむればほとんどの者にとっては至福となるであろう時間。

 

 本日は八月一日。

 

 その夏休み真っ最中の、太陽が輝き、セミが鳴き声を雨のように叩きつけてくる、そんなTHE・夏休みともいえるような日。

 気の早い者や真面目な模範生ならば、もう苦行(しゅくだい)から解放され、もう遊ぶだけ、という者も出てくるであろう日。

 そんな日に、箱庭学園のとある場所に生徒が集まっていた。

 黒神めだか率いる現生徒会メンバーと、球磨川禊率いる新生徒会(マイナス)の面々だ。

 彼らはこれより、学園の未来をかけての選挙、生徒会戦挙の二戦目である書記戦を行うために集まってきた。

 その戦いの開始時刻に至り、にらみ合う両陣営の間に立った男――箱庭学園の校章の描かれた黒い布で目を隠している――、選挙管理委員会副委員長・長者原(ちょうじゃばる)融通(とけみち)が言葉を発する。

 

「皆様、一週間のご無沙汰でございました。それではこれより生徒会戦挙・書記戦を始めていただきたく存じます」

 

 その言葉により、皆が一斉に彼を見る。

 だが彼はその視線に動じることもなく、淡々と説明を始める。

 

「時間にも限りがございますので、さっそく書記戦の試合形式を決めたいと思います。挑戦者である新生徒会の悪石(あくせき)様、十三枚のカードからお好きな一枚をお選びください」

「あいよ~」

 

 前に歩み出たのはブレザータイプの制服を着た中肉中背の少年。

 見た目は普通の男だが、頭に付けたDJがつけるような大きなヘッドホンがどこかずれたような印象を彼に与えている。

 そして何より、彼の持つ底なし沼のように濁りきった眼が、彼――悪石火山(かざん)過負荷(マイナス)であるという証明となっている。

 彼は十三枚のカード――子から亥の十二支に人という文字が一枚に一文字ずつ書かれたカード――が置かれた机に歩み寄りながら、

 

「ね~ね~長者原君、この巳って書かれたカード、これって球磨川さんのときと同じ内容なのかい?」

「いえいえまさか、庶務戦と書記戦では性格が違いますので。巳のカードのみならず十三枚のカードの裏側を我々は総とっかえしております」

「ふ~ん、それはご苦労様だね。巳のカードだけ変えておけばそれで済むはずなのに、わざわざ仕事を増やすなんて」

「それが(わたくし)どもの務めですので」

「あっそ」

 

 などと言葉を交わしながら、彼は机の前に立ち、一枚のカードを手に取り掲げた。

 

「じゃあ僕は辰のカードにするよ。なんかかっこいいし。好きなんだよね、ドラゴンって」

「辰のカードでございますね、わかりました。ではカードをこちらへお渡しください」

 

 長者原はカードを受け取ると裏面を見て、言った。

 

「書記戦の形式は『竜王の宝玉』に決定いたしました。これは今回我々の用意した十三の決闘法のなかで、最も大がかりな施設で行われる選挙でございます」

 

 

 

   ●

 

 

 

「さて、ここが今回の選挙の舞台でございます」

 

 長者原に連れてこられた面々の目の前には、大きな廃屋があった。

 窓の数からみて三階建てのようだが、一階ごとの高さが高いため実質五階建て程の高さに見える、鉄筋コンクリートの建物だ。

 外壁にはところどころひびが入り、窓ガラスはほとんど割れるか窓そのものがなくなっておりいかにも廃屋といった感じだが、つくりはしっかりしているらしく、簡単に崩れるような感じはしない。

 

「今回の選挙はここ、少し前に廃校になった学校の校舎の中で行います。ちなみにこの建物は近くにあったものを選挙管理委員会総出で外観も内装も見た目はそのままに場所だけ移し替えました。それはさておき、今回の選挙に出馬していただく阿久根様と悪石様には、この中で宝探しをしていただきます」

 

 長者原の話を聞いていた阿久根はその言葉に対し、

 

「宝探し? その宝っていうのは、今回の選挙の題名にもなっている『竜王の宝玉』かい?」

「さすが阿久根様、ご慧眼でございます。ただ今阿久根様がおっしゃられた通り、今回はこの玉、『竜王の宝玉』をこの建物の中から探し出して持ってきていただくだけの簡単なルールでございます」

 

 そういうと長者原は懐から握り拳大の赤い球体を取り出し掲げた。

 

「この玉そのものは、発信機が仕込まれている以外はただ単なるプラスチック製の球体でございます。この玉を一つ、この建物のどこかに隠しましたので、これを見つけ出し、建物の前にいる私に直接手渡した方が勝者でございます」

 

 聞けば聞くほど単純なルール。だがそれゆえに、阿久根は一部の隙も見逃さないようにする。

 

「直接手渡す、ということは、離れたところから投げ渡す、というのはダメなんだね?」

「はい、そのような場合でも失格とはなりませんが、投げ渡されても私は受け取らず、どこかに落ちてしまうでしょうから、それを拾って私に手渡していただきます。無論、この選挙に参加されていない第三者に玉を託して私に手渡させる、というのもルール違反ですし、この選挙に第三者が介入していた場合は、その第三者が味方をしたかたも失格とさせていただきます。ご了承ください」

 

 長者原のこの言葉で、過負荷(マイナス)の連中がこの中に忍び込んでいて、阿久根に不利なことをしてくる可能性はなくなった。

 だが、阿久根は何かが引っかかっていた。だがその何かに阿久根が気づく前に、

 

「ねえ長者原君、君は今、『外観も内装も見た目は変わっていない』といったね? 『見た目は』ってことは、中身はどうなんだい?」

「……!!(そう、それだ! 俺のさっきからの違和感の正体は!)」

「よいご質問です、悪石様。お察しの通りこの建物、見た目はそのままですが、その実、いたるところに、ゲームで言うならば“アイテム”や“トラップ”などが配置してあります。それぞれにいろいろな種類が御座いまして、トラップなどは定番の落とし穴に始まり、檻やはたまた電撃など、アイテムに関しても、宝までのヒントや地図、武器や防具なども配置してあります。無論それぞれの殺傷能力は抑えてあります。武器ならば刃をつぶし、弾丸を模擬弾に換え、落とし穴にはマットが敷いてありますのでご安心を」

「……!!」

「ふ~ん」

 

 驚愕する阿久根をよそに、悪石はどうでもよさそうにしている。

 

「それらのものはいくらでも利用していただいて構いません。選手間であれば妨害行為も許されております。ただし、宝である『竜王の宝玉』が破壊されてしまっては意味をなさないので、もし宝を破壊してしまった場合は、その選手を失格とさせていただきますのでご了承ください」

 

 長者原は何も言えなくなっている阿久根と、いまだにどうでもよさそうにしている悪石を見比べると、

 

「両者ともこれ以上の質問も無いようですので、それではただ今より生徒会戦挙・書記戦、『竜王の宝玉』を開始いたします」

 

 戦挙の火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

   ●

 

 

 

 悪石は戦挙が開始されても動かない阿久根を不思議そうに見つめ、

 

「いかないのかな? だったら僕が先に行くけど?」

 

 そう言って本当に入り口に向かって悠々と歩き出した悪石を見た阿久根は、すぐに正気を取り戻し、困惑しながらも建物に向かって駆けていった。

 走りだした阿久根は、ゆっくり歩いていた悪石を当然のように追い抜かし先に進もうとするが――

 

 ポンッ、と肩をたたかれる。

 

「まあまあ、そうあわてずに。気楽にのんびり行こうよ。ね? 阿久根君?」

 

「……(急げと言ったり気楽にいけと言ったり、いったいこの人は何が言いたいんだ?)」

 

 目の前にいるのに、この男の考えていることは訳が分からない。

 思えば今までも、この男は場にそぐわぬ行動を何度もしてきた。

 庶務戦で応援に来ていた過負荷(マイナス)たちの中において、一人だけ球磨川ではなく人吉を応援してみたり、ハブにかまれた球磨川を心配するそぶりも見せず、逆にかみついたハブの心配をしてみたり。

 しかもその理由が、球磨川を信頼しているというわけでもなく、ただ何となく、というものだった。

 球磨川や他の過負荷(マイナス)たちを嫌っているのかと思えばそうでもなく、球磨川たちと楽しそうに話しているし、ほかの過負荷(マイナス)たちもそんな悪石の奇行を気にする様子もない。

 

「……よそう。彼ら(マイナス)について真面目に考えるとバカを見る」

 

 そんなことを呟きながら、阿久根は後ろにおいてきた人物のことを一時頭から追い出す。

 

「今は宝探しに集中しなくては」

 

 そうして阿久根は校舎を片っ端から捜索していった。

 その間、悪石と出くわして戦闘になることもなく、少々拍子抜けしながらも捜索を続けた。

 ――そして、

 

 

   ●

 

 

 

「……やっと、見つけた……」

 

 阿久根はさまざまなトラップをかいくぐり、同時に見つけた武器には目もくれず、宝の手掛かりを探し集め、とうとう『竜王の宝玉(たから)』を探し出した。

 ちなみにその隠し場所は一階の校長室の壁にかかった額の裏にある隠し金庫で、その金庫を開けるためには三階のトイレの掃除用具入れの中のバケツの裏にあるカギと、学校の各所に散らばったヒントに書かれたパスワードが必要だった。

 それらの関門を約一時間で突破し、阿久根は今、金庫を開け、中身を取り出している。

 だが、目的のものを見つけ出した阿久根の表情はすぐれない。

 

「……(おかしい。順調すぎる)」

 

 今まで何の妨害もなかっただけでなく、パスワードの書かれた紙も一枚残らず集めることができた。

 相手がゆっくりしていた、というだけでは説明がつかない。パスワードの紙はすぐに見つかるような所にも何枚かあったのだから。

 

「……まさか、彼は何もしていなかったのか?」

 

 そうでもなければ説明がつかない。事実阿久根も、パスワードを学校中から集める必要があると知ったときは、わからなかった文字は最終的には適当に当てはめて何度も試すしかないとあきらめていたくらいなのだから。

 

「ここまで何もしてこないとなると、待ち伏せがあると考えるのが妥当だな」

 

 宝を見つけ出し、あとは持って帰るだけとなり、安心したところを不意を突いて奪い取る。この手の勝負では一番楽で確実な手段。

 普通なら確実に引っかかってしまうであろう。 ……だが、

 

「あいにく俺は鍋島猫美(はんそくおう)の直系だ。その程度の卑怯じゃ猫美さんに笑われるぞ」

 

 

 

 

「――良いよ別に。笑われるのには慣れてるから」

 

 

 

 

 いきなり聞こえてきた声に驚き振り返ると、そこには過負荷(マイナス)特有の不気味な薄ら笑いを浮かべた悪石が扉の近くの壁に寄りかかって立っていた。

 

「(――いつの間に! まったく気配を感じなかったぞ! 油断して気がつかなかった? いや、そんなわけがない。だったら……)」

「?? どうしたんだい阿久根君? 何をそんなに驚いてるんだい?」

「……まったく気配を感じなかったからだよ。いったい君はいつからそこにいたんだい?」

「ここに来たのは少し前だよ。君がその金庫を開けはじめたあたりからかな」

 

 なんでもないように話しながら、悪石は部屋の真ん中を通り、阿久根の前を素通りして、校長用の大きな机の後ろに立った。

 阿久根と悪石は二人の腰よりも少し高いぐらいの机をはさんだ状態で対面している。

 

「ずいぶんちょうどよく現れたものだね。君の狙いはこれ(たから)を奪うことだろう? だったら残念だったね。不意打ちならまだしも、こうやって君と対面してしまった以上、君に勝ち目はない」

「元から僕は君に勝てるだなんて思ってないよ。それどころか僕が勝てる人間なんかいるのかな?」

「じゃあ君はどうやって俺から宝を奪うつもりなんだい? 勝てないのなら奪えはしないだろうに」

 

 阿久根の問いに、悪石はへらへら笑いながら、

 

「その言葉に訂正を加えよう。まずひとつ、君に勝てなくても勝負には勝つことができる。そしてもうひとつ、奪うつもりはないよ、

 

 

 

 

 ――もう奪ったから」

 

 

 

「――!!!」

 

 悪石は言葉と共に己のの右手を見せると、そこには赤い球体――さっきまで自分が持っていたはずのものが握られていた。

 

「馬鹿な! いつの間に!」

「さっきから驚いてばかりだね。もう少し人生に余裕を持ったほうが良いんじゃないかい? それといつとったかというと、今すれちがった時だよ。気が付かなかったのかい?」

 

 そんなわけがない。

 自分は目の前の男が現れてからずっと彼を警戒してきた。

 それなのに大切な宝を奪われるわけがない。となると……

 

「これが君の過負荷(マイナス)ってやつかい? 今までの感じだと、姿や気配を消すとか、あるいは時間を止めるとか、そんなところかな?」

 

 時間を止めるなんてふざけた能力だと厄介だ。自分にほとんど勝ち目がなくなる。

 だが目の前の男はその言葉を鼻で笑い、

 

「ハッ、そんな馬鹿な。球磨川さんのセリフじゃないけど、そんな前向き(プラス)な能力が、僕みたいな過負荷(マイナス)から生まれるわけがないだろう?」

「じゃあ一体、君の能力はなんなんだい?」

 

「ははは、敵に自分の能力の正体を自分から教える奴なんて週刊少年ジャンプの中にしかいないよ? ……でもまあ、今僕は機嫌がいいので教えてあげようか?」

 

 悪石は右手の玉を放り投げたりして弄びながら、

 

「では、僕の左手をご覧くださ~い」

 

 と言い、机越しに阿久根のほうに伸ばした左手の

 

 

 

    手首から先が落っこちた。

 

 

 

「……!!」

 

 何の前触れもなく、誰かに切られたようにも見えない悪石の左手がいきなりあるべき場所から外れ、机の上に静かに落ちてしまった。

 驚いてなにも言えない阿久根を見て、悪石はにやにやしながら、

 

「驚くのはまだ早いよ?」

 

 そう言った瞬間に、机の上に落ちた手首が、人差し指と中指を足(・・・・・・・・・)にして立ち上がった(・・・・・・・・・)

 

「(――なんなんだこれは!? 自分の体を切り離して自由に動かせる能力? でもそれじゃあ接近と強奪に気付かなかったことに説明がつかない。……いったいこれは……?)」

 

悪石は苦悶の表情を浮かべている阿久根を心底楽しそうに見ながら、机の上の手首をスキップさせたり、五本の指を使って蜘蛛のように机の上を走り回らせていたが、

 

「どうやらいろいろ考えているみたいだけど、正解には至っていないようだね。では答えてあげよう。僕は今、手首の見える位置をずらして(・・・・)いるのさ」

「……見える位置を、ずらす……?」

「そう。見える位置をずらしているだけだから、本当の手首は机の上ではなく僕の腕にくっついているし、机の上の手首に触ろうとしても触ることはできない。光が像を結ぶ位置をずらしているだけだからね」

 

蜃気楼みたいなものかな、と悪石はつぶやく。

 

「わかったかい? 僕に関わるすべてをずらす。これが僕の誇るべき(つまらない)過負荷(欠点)

 

 

   『不興和怨(ホンキートンク)』」

 

 

 すべてを説明されてなお、阿久根の顔は晴れない。

 それどころかさらに不可解の色が濃くなってくる。

 

「君がいま言った通りの能力を持っているとして、どうやって俺に気付かれずに近付いたり宝を奪うことができたんだい? 俺だって完璧とは言わないけど、人の気配ぐらいは感じられる。特に過負荷(きみたち)みたいな特徴的な気配はね。そして何より、手に持っていたものを奪われて気が付かないだなんてありえない。君のずらす能力だけじゃ、この現象に説明がつかないぞ」

「そんなことはないよ。一から十まで全部説明可能だ。……人ってのはね、何かに集中していればいるほど、それ以外のものは見えないし気にしないしわからなくなるものなんだよ?」

「だからなんだって言うんだい? 確かに君のいうことは正しいが、僕は君のことを気にしていた。なのに君のことを忘れるわけがないだろう?!」

「その通り。だけどそこで僕の過負荷(マイナス)の出番だ。

 

 

 

  僕は『君の注意』から『僕』をずらしたのさ」

 

 

 

 

「……(そんな……、物理的にずらすだけじゃなく、精神的にずらすことまでできるなんて)」

「言っただろう? 僕に関わる『すべてを』って。そしてずらしてしまえばあとは簡単だ。何をしても君は僕に気付けなくなるんだから、何かに集中すればするほど、警戒すればするほど、僕は動きやすくなる」

「つまり、その状態の君を見つけるためには、身の回りのすべてを気にしていればいいんだね?」

「そうだね。でもそんなこと、できる奴は人間じゃない。必ずどこかにほころびができるからね。――さてどうする阿久根君? そんなに悠長に話してていいのかい? 早く僕から宝を奪わないと、僕には勝てないよ?」

「そうだね。でも大丈夫さ。君は今、俺に見えている。つまり君は今もそこにいる。だったら今すぐ君をとらえてしまえば……いい!!」

 

 最後の言葉と同時に、阿久根は悪石に飛び掛かっていった。

 部屋を走り、机を踏み越え、悪石に掴みかかろうとする。

 この距離ならたとえ意識からずれられても逃げる暇はない。そう考えて。

 そして阿久根はもくろみ通り悪石の右手――いまだに宝を掲げていた――をつかみ背負い投げ

 

 

 

    ようとしてすり抜けた。

 

 

 

「――なに!!?」

 

 確かにつかむ直前まで、右手はそこにあった。いや、今もそこにある。なのにつかもうとしてすり抜けた。これはつまり……、

 

「まさか、光が像を結ぶ位置を全身分(・・・)ずらしているのか!?」

「そうだよ。まさか手首から先が限界だと思っていたのかな? だとしたら誠に遺憾だね。僕の過負荷(マイナス)ははそこまで弱く(まともじゃ)ない」

「……(それじゃあ手の出しようがない! 話せてはいるからこの部屋の中にはいるんだろうが、どこにいるのかわからないんじゃ……)」

「さてと。それじゃ説明もあらかた終わったことだし、そろそろショータイムだ」

 

 言い終わるとともに、悪石の体がバラバラ(・・・・)になり手が、足が、顔が、腕が、胴が、体のすべての部位が部屋の中を自由に飛び回る。

 

「さあ阿久根君、僕がどこにいるか、どれが本物のぼくか、いつ見えない僕が襲い掛かるか、いつ見えている僕が襲い掛かるか、わかるかな?」

 

 すでにこの段階で気配はずらされているらしく、何も感じない。

 阿久根はあてずっぽうで悪石に戦いを挑むしかない。

 だが、

 

「だったら僕は、戦わずに逃げさせてもらう!!」

 

 言うが早いか、阿久根は部屋の扉に向かって駆けだした。

 逃げ出しはしたが別に阿久根は怖くなったり怖気づいたりしたわけではない。

 自分が逃げれば、悪石は自分を追いかけてくるだろう。

 そうすれば悪石は自分の後ろにいざるを得ない。

 そして、一本道の廊下に出て少し走れば、ここまでたどり着く間にいくつも見つけ、しかし必要ないと元の場所に置いてきた武器がある。

 その中には散弾銃などの広範囲を攻撃するものや、網を放つ捕獲銃もあり、その位置も大体覚えている。

 ならば逃げつつそれを拾い、頃合いを見て後ろに向かって放てばいい。

 そう考え、阿久根は部屋から飛び出そうとして

 

 

 

     突然体に電撃が走った。

 

 

「――!!!!!」

 

 いきなりのことに反応できず、扉の前にそのまま倒れる。

 動こうとしても体がしびれていうことをきかない。

 それでも、自分に電撃が走る直前に衝撃を感じた腰のあたりに目を向けてみると、腰からコードが生え、そのコードの先は部屋の隅、戸棚の陰から伸びている。そしてその先には、変わった形の銃のようなものがついていた。

 

「(……電撃銃!! センサーに引っかかると飛んできて電撃を与えるトラップか! でもおかしい。この部屋のトラップは金庫を開ける前に全部つぶしたはずなのに……!)」

 

予想外のことにパニックに陥っている阿久根に、悪石の声がかかる。

 

「ああ、言い忘れていたけど、僕はこの決闘が始まってから二十分ぐらいは君の注意からずれながら君の後をついて行ってたんだ。君が見つけた武器やトラップのうち、使えそうなものを君が元に戻したあとに回収しながらね。だから君が校長室に来て、トラップを解除してから金庫に集中しているすきに、今まで集めたものを仕掛けさせてもらったよ。今、校長室とその周りはトラップだらけさ」

 

 そう言いながらも、悪石のパーツは部屋の中を自由気ままに漂っている。

 また、いくつかのパーツは壁を通り抜けたり、阿久根にぶつかって通り過ぎたりしている。

 阿久根は体にしびれを感じながら、それでも考える。

 

「(おかしい。どうしてこの男は僕に攻撃してこない? 今動けない俺を攻撃しない理由はないはずだ。遊んでる? だとしたらもっといたぶるように攻撃してくるはず。時間稼ぎ? それこそ意味がない。そんなことをせずにさっさとゴールに向かえばいいんだから、こんなところに留まっている必要はない。……ダメだ。いくら考えても理由がわからない。参加者がもう一人いるのなら、この男が囮だとすぐにわかるんだが。……待てよ。囮? …………まさか!!!)」

 

 阿久根がその可能性に思い至ったのと同時に、悪石の声が聞こえてくる。

 

「さて阿久根君、最後にもう一つだけ教えてあげよう。この不興和怨(ホンキートンク)で僕の姿をずらす場合、僕の本体から大体半径百メートルぐらいの間で自由な位置にずらせるんだ」

「……やっぱり、……そういう……ことか……」

 

 阿久根はまだしびれが残る体で、それでも何とか立ち上がり、ふらつきながらも周りのトラップに気を付けながら部屋から出ていく。

 

「へえ、もう気付いたんだ。なかなか早いね。勝負がつくまで気付かないかな~って思ってたんだけどな~」

 

 そんなことを言う悪石の姿は一つにまとまっている。

 

「でも、もう遅いよ」

 

 そして、その姿はすぐに消え、

 

 

 

 

  長者原たちの待つ校舎前に現れた。

 

 

 

 決闘を行っている二人以外の面々は、校舎のいたるところに設置されたカメラとマイクから、戦況を見ていた。

 そこにいきなり今まで校長室で飛び回っていた悪石が現れたので、真相を知っている過負荷(マイナス)たち以外は驚きの表情が見えている。

 そんな中に悪石は悠々と歩み寄り、長者原に右手に持つ宝を渡した。

 

「はい、お宝だよ、長者原君?」

 

 それを受け取った長者原は、受け取ったものが確かに本物であることを確認すると、

 

「確かに、確認いたしました。では皆様、悪石様が勝利条件を満たされたため、生徒会戦挙・書記戦、勝者を悪石様とし、よって生徒会選挙は新生徒会側の一勝一敗となりました。それでは本日の選挙はこれにて終了となります。皆様お気をつけてお帰りください」

 

 と言い残して去って行った。

 

 

 

   ●

 

 

 

 悪石がゴールした少し後に校門の前についた阿久根は、人吉瞳の看病を受けながら、自分をにやにや見てくる過負荷(マイナス)たちの中の悪石に声をかける。

 

「……いったいいつから自分の姿を囮にしていたんだい?」

「君の前を通って机の裏に立ってからだよ。そうしないと足の動きで歩いているのがばれるからね」

「……恐れ入ったよ。まさか光が像を結ぶ位置だけじゃなくて、声を聞こえる位置までずらせるなんてね」

「自分に関することはすべてずらせるといったはずだけど?」

 

 そう、悪石は机の裏に回った後、自分の姿だけをそこに残しながら、悠々と上半身を揺らさないようにしながら校舎前に向かっていたのだ。

 この時の悪石は宝の奪還、囮としての時間稼ぎ、宝の輸送をすべて一人で行っていたのだ。

 つまり阿久根は校長室で一人相撲をしていたことになる。

 

「そして僕と会話できたのは……、これか」

 

 阿久根は自分の肩に手を伸ばし、少しまさぐると米粒大の何かをつまんで取り外し、悪石に見せつけた。

 

「そう、その小型盗聴器を君の肩をたたいた時に取り付けさせてもらったよ。なんたって僕の不興和怨(ホンキートンク)でも君の声まではずらせないからね。会話できないとさすがに怪しまれるでしょ?」

 

「……」

 

 落ち着いた言葉とは裏腹に、憎々しげに悪石をにらむ阿久根に対して、悪石はにやにやしながら、

 

「おいおい怖い顔するなよ阿久根君。僕は自分の過負荷(マイナス)を補うための道具を使っただけだよ? それのどこが悪いんだい? 逆恨みはよしてくれよ」

 

 そしてこの日の決闘は、悪石の過負荷(マイナス)らしい最高(最低)の言葉で締めくくられた。

 

 

 

  「――僕は悪くない!」

 

 

 

   ●




ご覧いただきありがとうございます。

いかがでしたでしょうか?

この後もいろいろな二次作品を制作し、上げていきたいと思っていますので、興味がありましたら、その時にぜひ見に来て頂き、筆者の文才のなさにあきれていってください。


いろいろな意見を頂き、今後の糧としていきたいと思いますので、
感想・注意点・誤字・脱字などなどありましたら、
遠慮なくおっしゃって頂けると幸いです。

それでは、ここまで読んでくださったあなたに最大級の感謝を。

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