アラサー女子による巫女生活   作:柚子餅

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博麗の巫女になることが決まった私。

 

 日は完全に沈み、外はすっかりと暗くなった。それでも東京とは違って、空に浮かんでいる月の明かりだけで困らないぐらいに明るく感じられる。

 ここ幻想郷には街灯、飲み屋やコンビニのように夜間に強烈な光を放つものもないので、闇に目が慣れているということもあるのだろう。それに排ガスを撒き散らす車も走っていなければ煙を吐き出す工場のようなものもないので、とても空気が澄んでいる。晴れていれば夜空に見える星がとてもはっきりとしてきれいで、まるでプラネタリウムみたい。

 しかし人間は慣れるのも早いもので、最初の二日程度はありがたがって眺めていたものも、二十日が経った今となってはしっかりと閉められた雨戸と障子、襖の向こう側だ。ただ、あれだけ月がきれいに見えるとお酒も美味しく飲めそうではあるので、気が向けばゆっくりと月見酒をやってみたいものである。

 

 さてさて。お酒もいいけど、今は日々の楽しみである夕食だ。私は夕食とお茶の為に毎日を生きていると言っていい。

 ちゃぶだいの上には、ねぎの味噌汁に小魚の佃煮、刻んで味付けした大根の葉を乗せたご飯。お客さんが来ているので奮発してさらにもう一品、大根とにんじんの一夜漬けも食卓に並んでいる。

 私がお盆を持ってきて畳の上へ置き、盆の上の急須を取ってご飯の上から注いで回る。急須の中身はもちろんいつものお茶。炊いて時間が経ったご飯も柔らかく、温かく食べられるお茶漬けだ。

 おかずもいっぱいで、その上三人前も乗っかっているといつも広々していたちゃぶだいの上がすごく狭く見える。今日はごちそうだ。

 

「お待たせ。さ、温かいうちに食べましょ」

「……え?」

 

 そわそわと机の料理を眺めていた魔理沙が、私が最後にお盆に乗せて持ってきたのがお茶だけと知って、妙な声を上げた。

 なんとも言えない表情を浮かべている。口には出していないものの、これだけなのかと顔に書いてある。……ちょっと私には意味がわからないかなー。

 

「これはまた随分と、お年寄りに優しそうな食事ねえ」

 

 一方の紫は口ではそう言うものの、置かれた食事の前にゆったりと座り直してにこにこしている。確かにお年寄りが好みそうな食事だけど、それで喜んでくれる紫の『実はおばあちゃん説』も私の中でより濃厚に。

 続いて魔理沙もまたちゃぶだいの前に座るのだけど、若干不満そうな表情は隠せていない。まったく嘘のつけない子である。

 

「なんというか、油ものがほとんど見当たらないな。その上、肉と呼べそうなものが佃煮になってる小魚ぐらいしかないぜ……」

「別に、文句あるなら食べなくていいわよ。これでも、ちょっと前までと比べたら大分マシになったっていうのに。三日前までは味噌の溶き汁に漬物、白米だけ。動物性の食べものが皆無で、完全に精進料理だったんだから」

 

 ここ二十日の博麗神社の食糧事情を聞いた魔理沙はぎょっと目を見開いた。私を見て、気の毒そうな顔になる。

 私的には大盤振る舞いしたつもりだってのに、純粋に同情されるとなんか普通に食事内容を貶されるより傷つくんですけど。

 

「は、はは。おいおい。巫女が僧侶を差し置いて悟りでも開くつもりか?」

「そんなの嫌よ。間違ってそんなものを開こうものなら絶食やら修行やらしなきゃならないんでしょ?」

 

 魔理沙にはああは言ったけど、正直油ものやお肉が恋しいのが本音である。油っ気がないのに文句があるのは何を隠そう私であって、似非精進料理なんてもうまっぴらごめんなのだ。

 油ぎとぎとのフライドチキンに、こてこてのラーメン、濃厚な味の中華料理などなど。なまじ味を知ってしまっているだけに、唐突に食べたくなるとその時は本当に身悶えしてる。

 鶏肉なんて現時点じゃ手が出ないし、揚げられるだけの大量の油も用意できない。例えいくらお金があったとしても、ラーメンは作り方すらもわからない。中華料理ぐらいならいくつかはそれっぽくつくれるけど、手持ちの調味料ではやっぱり足りない。

 しかしいつかはそれらを暴食して次の日のことも考えずお酒をかっくらってやりたい。そんな野望を持つ私が絶食したりなんて出来るはずがないのだ。

 

「霊夢に負けず劣らずの怠惰っぷりねえ。安心なさいな。そんな欲まみれな言葉を吐けるのなら万が一にも間違いようは無いから。それよりも食事を済ませましょう? このままではいつまで経っても異変についての話が出来ないわ」

「ま、それもそうね。まったく、魔理沙が余計なことを言い出すからよ」

「私の所為かよ」

 

 私の言った修行は精進料理しか食べられないことなのだけど、何やら紫は額面どおりに受け取ったらしい。紫の言う欲まみれと私の欲は種類が違う気もするけど、このままでは折角ほかほかと湯気を上げているご飯とお味噌汁が冷めてしまう。

 今の私は食欲の忠実な(しもべ)。欲まみれには違いない。なにせ魔理沙と紫にもご馳走しているので、明日の朝食の分にと炊いておいたお米も使ってしまっているのだ。今ある分を満足するまで思う存分噛んで噛んでしてやる。

 

「いただきます」

 

 手を合わせて目を瞑り、一礼。今日もご飯を食べられることに感謝。農家の人たち、食材たちに感謝。ゆっくりと目を開けて、左手に箸を取った。

 

 まずはお味噌汁。両手でお椀を持って、口元へと近づける。香りに関しては、以前に使っていた『だしの素』に比べると煮干の魚臭さがどうしても目立ってしまう。けど、しっかりと時間で上げたので鼻につくほどじゃない。ねぎも臭い消しに一役買ってくれている。

 箸先を入れて、息を吹きかけて冷ましながらお椀からひと啜り。――熱い。同時に旨味が舌の上を踊り、アミノ酸が私の脳をこれでもかと刺激する。寒くなってきた時期に飲むお味噌汁は、どうしてこんなにも美味しいのだろう。味噌の香りと塩気を口の中に残しながら、お箸を湿らせる。

 お味噌汁をちゃぶだいに戻した私は、次にご飯茶碗を持ち上げる。熱々のお茶を注いだとはいえこちらはご飯自体が冷たかったので、口に入れる前に冷まさなきゃならないほどの熱はない。

 ご飯の上に乗せたのは、茹でた大根の葉を細かく刻み、醤油と酒、胡麻油でさっと炒めて隠し味に唐辛子を加えたものだ。今日の夕飯の、唯一の油っ気である。胡麻油で炒めるだけでやっぱり香りが違う。ちなみに神社にある油は、灯火用に使っているらしい菜種油、食用には癖のない大豆油とこの胡麻油があった。

 

「うーん、もうちょっと味を濃い目にしても良かったかも」

 

 ごはん自体は文句なしに美味しい。収穫したばかりの新米に、山から湧き出た小川の水を使い、釜を使ってじっくり炊き上げたのだ。これで美味しくない筈が無い。炊いてから時間がたってもお米にまだ艶がある。噛めばふっくらとしていて甘い。炊き立てならこれだけで食べられそう。

 問題はお米に乗せた大根の葉の炒め物だ。お茶をかけたので味が薄まり、隠し味もぼんやりと隠れてしまった。しゃくしゃくと歯ごたえもまだ残ってるし、味付け自体もそれほど悪くなかっただけに惜しい気がしてしまう。

 

「あら、佃煮も漬物もあるのだからこれぐらいで丁度いいと思うわ」

「んー、そう? それならいいんだけど」

 

 紫はゆったりと大根の漬物を齧っている。私も続いて漬物に箸を伸ばして口に放り込んだ。

 うーん、これはちょっと漬けが足りなかったかも。食べられないわけじゃないけど、ちょっと歯ごたえがありすぎる。まぁ、明日以降に食べようと思って漬けて置いたので予想通りといえば予想通り。あと一日ぐらい置いておけば適度にしんなり、味もしっかり染みて私好みの味になっているだろう。

 あと、まだ箸をつけていないのは、小魚の佃煮だ。

 

「……なぁ霊夢、左手で箸を持っているってことはお前左利きなのか?」

「ん? そうね、元は左利きだったらしいわよ。子供の頃に左利きは不便だから右を使えるようにしておけって言われて、今は両利きだけど」

 

 お父さんの実家にいた頃はおばあちゃんに右利きに矯正されていたのだけれど、両親と一緒に東京に引っ越したのでうやむやになってしまったのだ。

 左手で横書きに文字を書いていくと書いた文字のインクを擦ってしまったりするので右手を使うようにしているけれど、食事は左手を使うことが多いかもしれない。

 でも両利きと自称するだけあってハガキのような右から縦に文字を書く時は左手を使うし、別に右手でお箸が持てない訳でもない。

 

 佃煮に箸を伸ばしたところで魔理沙から声を掛けられたので、実際に右手に箸を持ち替えて佃煮を摘み上げて実演してみる。

 そのままこれといった違和感もなしに右手の箸で口に運び入れると、甘みの強いこってりとした味が広がった。流石に出汁に使って煮出した後の小魚なので身自体は味も素っ気も無くてパサパサだけど、メイン料理というわけでもないので及第点だ。お酒の肴にしてもいいのかも。

 しっかりと味わってから飲み込み、まだ口の中に風味が残っているので薄味のお茶漬けで喉の奥へ流し込む。

 

「ねえ、魔理沙。私の記憶違いでないなら……」

「ああ。霊夢も普段は左利きだったと思うぜ。それに、たまに右手で箸を使ってたのを覚えてる。流石にそろそろ偶然じゃ済まなくなってきたな」

 

 むぐむぐと幸せに食事を進めていると、魔理沙と紫が身を寄せ合って何事かを話している。

 折角三人で食事をしているのに、一人放っておくなんてなんか感じ悪いのではないだろうか。

 

「なによ、二人でこそこそして感じ悪いわね」

 

 つい口に出しちゃう私は正直者である。

 

 

 

 

 食事が終わり、台所のたらいに使った食器を浸けておく。その内、ご飯茶碗だけは別に分けて浸けてある。

 火を起こして鍋でお湯を沸かしながら、火種をお風呂へも移す。お湯が湧くまでに食器洗いだ。ちなみにスポンジも洗剤も無いので、布で擦って落とさないといけない。

 洗い物をする上で強敵なのは油汚れである。洗剤がないので油は生半可なことじゃ落ちてくれない。そこで、油ものを入れたご飯茶碗だけは真水ではなくお米のとぎ汁に浸けるのだ。ついでに火に掛けておいてある程度温まったお湯を足し、油が浮いたら一気に片付ける。

 うん。念のためにとぎ汁を使ったけど、そんなに油を使っているわけでもないので普通に洗うだけで落ちたかもしれない。

 

 あとは念願、食後の一服タイムだ。食事の前から沸かしていたお湯は紫と魔理沙にお茶を振舞う為に使ってしまったので、ようやく私もお茶を飲める。

 急須と湯飲みをお盆に乗せて再び居間にしている部屋へ戻ると、何事か話していた紫と魔理沙がこちらへ顔を向けた。

 

「意外だな。元祖霊夢だったら面倒くさがって、食器洗いは後回しにしてまずはお茶飲んでるぜ」

「どっちにしろやらなきゃならないんだからいつやってもおんなじでしょ。私だって朝の食器は浸けっぱなしにして、お夕飯のと纏めて洗ってるし」

 

 自分の湯飲みにお茶を注いで、魔理沙と紫の湯飲みにもほとんど入ってなかったのでお代わりを注いでやる。

 魔理沙の手から台布巾を渡されたので、畳んでお盆に乗せておく。暇そうにしてたので、魔理沙にはちゃぶだいを拭かせておいたのだ。

 

「ふぅ、ようやく人心地ついたわ。あとは、これでお茶請けでもあればいうことないんだけれどね」

 

 お茶を啜って、大きくため息をひとつ。後はお風呂を入って寝るだけ、のんびりし放題だ。たまらないひと時だけど、欲を言うなら煎餅か甘いものが欲しい。。

 私がぼんやりと呟いた次の瞬間には、ちゃぶだいの上にスキマが開いて、中からはまずお皿が。そしてその後にお菓子が六つ転がり落ちてきた。

 

「甘いものでよかったかしら?」

「きゃあ、やった! 月餅じゃない!」

「外界のお店から甘さ控えめなのを選んできたわ。ちょうど中節月だもの、まんまるとした月を模した菓子はぴったりでしょう? これからいくつか質問をさせてもらうことへの、報酬の前払いとでもしておきましょう」

「流石紫ね! 大好き! もう、なんでも聞いてちょうだい。今の私の口は体重よりも軽いわよ!」

「それは果たして軽いのかしら? それともこれから重くなるのかしら? 安いのは間違いなさそうだけれど。なんにせよ、喜んでもらえたようで何よりですわ」

 

 狂喜乱舞する私を見て、紫がくすくすと笑っている。私も年甲斐がないとは思うが、嬉しいんだから仕方ない。

 ああ、今日はなんていい日なんだろう。人里でお団子食べれたし、お夕飯は豪華だったし、食後のお茶にも甘いものがついてきた!

 

「むう……。なあ霊夢、きのこはお茶請けになるか?」

「はあ? なるわけないでしょうが。なんで魔理沙は対抗心を燃やしてるのよ」

 

 思わず眉根を寄せて不機嫌そうな声を出してしまった。種類によっては炙って塩でも振ればお酒の肴にしてもよさそうだけど、お茶にはどう考えても合わない。

 切って捨てられた魔理沙はしょんぼりする。

 

「では博麗の巫女。いくつか質問をさせてもらうわ」

「どんときなさい」

 

 正座して紫に向き直った私は、とんと胸を叩いて見せた。魔理沙が呆れた目で見てくるけど、ちらちらと月餅に視線が飛んでしまうのはまぁご愛嬌である。

 

「ひとつめ。あなたは霊夢になるまでどこに住んでいて、何をしていたのかを教えて欲しいの」

「魔理沙には言ったけど、住んでいたところは日本の東京ね。幻想郷だと外界って言葉でひとくくりにされてるみたいだけれど。何をしていたのかって言われても困るけど、普通に仕事をして暮らしていたわよ?」

「……そう、東京ね。あとで正確な住所を教えて頂戴。こちらで確認してみるわ。

 ではふたつめ。あなたは今現在の幻想郷の、博麗の巫女の役職に就いているのが誰なのかを知ってるかしら?」

「何よ、それ?」

「いいから答えて頂戴」

「そんなの、『博麗霊夢』に決まってるじゃない。人里の子供たちだって知ってることなんでしょ?」

 

 人里では博麗さま霊夢さまとばかりで巫女とは呼ばれなかったけど、会う人はみんな『博麗霊夢』のことを知っていた。その割に神社に参拝客が来ないのが未だに不思議でしょうがない。

 生活改善の為にも何とか信者獲得ができないか考えてみたほうがいい気がする。祀られてる神様をここに住んでる私さえ知らないから、何の神様の信者なのかもわからないけど。

 

「そうね。間違いではないわ。でも、博麗霊夢の中身はいなくなってしまったわね。残っているのは外側と、よく似た中身だけ。では、博麗霊夢の姿をして、神社に住んでいるあなたは何?」

「へっ? ……それは、博麗の巫女の姿をしているだけの一般人というか。参拝客が来て、欲しいっていうのなら売り子ぐらいはしようとは思ってるけど。他にやってることなんて掃除ぐらいだし、ハウスキーパーみたいなもの?」

「それは間違いね。あなたが一般人である筈が無いもの。私はこう言ったわ。今現在の博麗の巫女は博麗霊夢で間違いではないと。『今現在』幻想郷で博麗の巫女の役職に就いている者はいるのよ。本人に自覚は欠片もないようだけれどね」

「ええと……それってもしかして、私のこと?」

「あなたがあくまでも『博麗霊夢』こそが博麗の巫女だと言うのならそれでもいいの。そうだとしても、今この幻想郷において博麗霊夢と呼べる者はあなたしかいないのよ、『霊夢』」

 

 中身は違うけど、身体は本物だから私が博麗霊夢と言えなくもないということか。

 なんにせよ紫の話し方はどうも回りくどい。頭のいい人間には自分基準で話すことが多く、自分と同程度の理解を相手に求めるあまりに度々語り過ぎて、逆に相手の理解が置いてけぼりになる。

 

「つまりは、紫は私に『博麗霊夢』として振舞えっていうわけ?」

「別にそこまでは強制はしませんわ。初めて会った時に言ったでしょう? 博麗の巫女が大結界の維持をしてくれるのであれば私に文句はないと。あなた自身が博麗の巫女として自覚を持つもよし。あなたが博麗霊夢となってあの子の役割を果たすもよし。好きな方を選ぶといいわ」

「それってほとんど違いがないように思うのだけど」

「そうね。これからは私もあなたを『霊夢』と呼ぶことになるし、他の事情を知らぬ者たちも同様にあなたを博麗霊夢として扱うことでしょう。違いがあるとすれば、あなたの心構えだけよ」

「私の心構えねぇ」

 

 ううむ、大結界の維持には博麗の巫女が必要であることがまず大前提。けれど今はその巫女が身体だけ残していなくなっちゃったから、身体を使っている私が博麗の巫女の役職に就くか、あるいは博麗の巫女である『博麗霊夢』ちゃんのやることをまるっきり私がこなせと。

 考え直してみてもやっぱりいまいち違いがわからない。私自身が博麗の巫女になったとしても、周りからはこの姿をしている限りは博麗霊夢の名前で呼ばれるんだろうし。

 

「そもそも、博麗霊夢になれとか言ってたけど、私はどういう子か知らないわよ。そんな私に、今日から見ず知らずの他人として振舞えってのはちょっと無理がない? とてもじゃないけど、他人の真似して過ごすなんて出来るとは思えないんだけど。性分的に演技とか嘘をついたりだとか苦手だし」

「あー、その点に関しては心配なさそうだぜ。付き合いの長い私でさえ淹れられたお茶を飲むまで見間違えてたぐらいだからな。他に、すぐ気づきそうなのは香霖ぐらいだろ」

「そうね。どちらを選んだとしても普段どおりのあるがままに暮らしてくれればいいわよ」

「へ? そうなの? それは助かるけど、普段どおりのあるがままでいいだなんて、それじゃ何をすればいいのよ?」

 

 魔理沙と紫が二人して否定するものだから、めんどくさそうだから遠回しに断ろうと思っていたのが頓挫した。

 しかし普段どおりでいいというのであれば今の生活はそれほど変化しないということだろう。やってもいいほうに気持ちは傾きかけているのだけど、今度は逆に巫女になるには何をすればいいのか不安になってくる。

 

「毎朝の祈願に、巫女としての修行よ。とりあえずは霊力を使えるようになってくれさえすれば、多くは求めないわ。博麗の巫女は代々妖怪退治もしているから、追々はそれもやってもらいたいのだけれど。霊夢も食べ物がなくて困っているのだから霊力の習得は願ったりでしょう?」

「まあ、そりゃ、神社を間借りさせてもらっちゃってる身だし、巫女さんが不在で困ってて、仕事を教えてくれるっていうならやらないこともないけれど。でも私なんかを巫女さんにしていいのかしらね。ここの神様が怒りだしたりはしない?」

「それも安心なさいな。今この幻想郷において、あなた以上の適任はいないわ」

「そこまで太鼓判を押すのなら、別に巫女になること自体はいいのだけど。……修行するのは暖かくなってからとか」

「………………」

「わ、わかったわよ。修行をすればいいんでしょ!」

 

 紫が浮かべた無言の微笑にびびる私。やっぱり紫って見た目どおりの年齢じゃないわ、あれ。

 いっつも優しかったうちのおばあちゃんが怒鳴った時以上の迫力があったもの。

 

 


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