ベル・クラネルが魔術師なのは間違っているだろうか(凍結中)   作:ヤママ

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導入部分だけは筆が軽くて本当に書いてて楽しいです。

ちょい付け足しました。


プロローグ2

ある村のあくる日の話の続きをしよう。

 

 

少年の祖父が死んだであろう谷の付近で発見されてからというもの、少年は一度も笑顔を見せない。まるで能面を被ったかのように表情は固まったままだ。

 

 

朝起きて、羊たちの世話をみて、夜になったら寝る。

 

 

なんてことはない、文字にすればいつも通りの少年の一日であるが、問題があるとすれば、少年は笑わなくなったが故、人と話す機会がなくなっていった。

初めは村の人々も、元々人当たりがよく、笑顔を振りまく少年に昔の様に笑ってほしいと様々なアプローチを試みた。

しかし、少年が特にこれといった反応を示すことはなく、なついていた年下の子供たちでさえ、気味悪がって近づこうとしなくなっていった。それが皮切りであったのだろう。村の大半の者は少年と接することを極力避けるようになった。

 

 

 

だがそれでも、少年の元へ足を運ぶものがいなくなったわけではなかった。とりわけ、よく少年の祖父と酒を酌み交わしていた青年は頻繁に少年の家を訪れていた。

 

 

酒の勢いにあてられて祖父がおちょくり、青年が挑発に乗って軽く取っ組み合いをするのも一種の村の光景となっていたがそれを見られなくなってしまっては村の奴らもベルも元気がなくなるだろうと言い、少年の家に訪れては少年が眠りにつくまで馬鹿騒ぎを続ける青年。

 

 

 

村の人間からは、よく仏頂面決め込んでる子供相手にどんちゃん騒ぎ出来るなとある意味感心され、少年からは、僕に気を遣う必要はないですよ、とこれまた無表情で話しかけられる。

 

 

 

青年はアルコールでほんのりと頬を赤く染めながら果実酒の入った木のグラスを手の中で回し、ぼんやりと見つめがら少年に話しかける。

 

「なぁベル。お前、爺さんのものはぜーんぶ捨てちまったのにそれだけは捨てねぇのな。」

 

青年の言葉にベルの肩がピクッと上下する。

少年の手の中には一冊の本があった。本のタイトルは「ダンジョンオラトリア」

一人の少年が精霊に導かれ、様々な出会いを通じ、やがて英雄になる物語である。

 

少年は祖父からこの本を貰い、常々「男ならダンジョンに出会いを求めないとな!」と言われていた。

 

 

祖父が死んだという谷へ行き、祖父の死を認めてからというもの、罪悪感に苛まれ、祖父の死と真っ直ぐに向き合うことが出来なくなっていたため、少年は祖父に関するもののすべてを捨ててしまおうと決心した。

 

しかしこれだけは、この本だけはどうしても捨てることは出来なかった。

 

 

「・・・おかしな話ですよね。」

 

少年はポツリと呟く。

 

 

「一番目を背けたいことなのに、一番大切な思い出が詰まっていて、でもその思い出を、おじいちゃんの思いを台無しにしたのは、僕自身の夢を諦めたのはほかでもない僕だっていうのに。」

 

少年は自嘲するように笑う。

 

 

アルゴノートのような英雄になるという夢を、ダンジョンで出会いを求めよという祖父の教えを諦めた。

冒険者になることをやめた。

そしてなにより、おじいちゃんの死を肯定してしまった。

―――――――――僕がおじいちゃんを殺した。

 

 

 

 

決して口には出せない。

いくら祖父と仲の良かった人であっても、自らの罪を明かすことは出来ない。

 

 

このまま後悔と懺悔を抱えながらベル・クラネルという人間は沈むべきなのだ。

 

 

少年は自分に言い聞かせ、胸の内を決して吐露しない。

 

 

 

少年の独白するような声を受け、青年は思うところがあるのだろう。目線をグラスから少年へと移した。

 

 

「ベル。俺はな、冒険者になりたかったんだ。」

 

いままで聞いたことのない青年の言葉にベルは下げていた目線を上げる。その様子を見た青年は優しく笑みを浮かべ、話を続ける。

 

「俺もその本の話好きでな。ガキの頃はしょっちゅう読んでた。アルゴノートが段々強くなって英雄になっていく姿なんてもう憧れそのものでさ、俺もこうなりたいなーって思ったもんさ。まぁ、若気の至りなのかさ、俺も頑張れば本気でなれると思っていたもんで、馬鹿みたいに木刀降ってた。そんで父ちゃんと母ちゃんを説得してやっとオラリオに行けるってとこまで行ったんだよ。」

「いかなかったんですか?」

「あぁ、途中で逃げ出してきた。ゴブリンを2匹見つけてよ。オラリオに行く景気づけに狩ってやろうって思ったもんで、ナマクラの剣片手に突っ込んだのさ。」

「それでやられた」

「あぁそりゃあもう為す術も無くな。途中でちょうど冒険者の一行が通ったもんで助かったが、あのままだったら確実に死んでたな。」

「なんでそのまま冒険者についていかなかったんですか?ついていけば確実にオラリオに着いたのに。」

 

 

聞かれた青年は頭の後ろを掻きながら恥ずかしそうに俯いて言った。

 

「ゴブリン如きで音をあげた様じゃ冒険者なんてやってけねぇなって思ったのもあるが、一番の理由は、死ぬのが怖くなったからだな。」

 

 

「―――――――死ぬのが―――――――怖く」

 

 

「あぁ、俺もおとぎ話みてぇにいくら傷ついても絶対に這い上がって強くなろうと思ってたんだけどよ、あんなに怖い思いはもう二度としたくねぇ、って思っちまった。そう思ったら、オラリオに行く気力なんて失せちまった。」

 

まぁ俺なんかが冒険者になったところで大成するわきゃねぇんだけどなー

 

そういうと青年は新たに果実酒をグラスに次いでチビチビと飲み始める。

 

 

 

「―――――あぁでも」

 

青年は思い出したかのように少年に語り掛ける。

 

「俺、ベルは才能あると思う。冒険者になるべきだよ、お前。」

 

 

少年は青年の言葉に思わず苦笑をうかべて返そうとするが、青年はそれを遮るように言葉を重ねる。

 

「ベルが今抱えている悩みなんて爺さんのことであたりだろうけどさ、どんな風に悩んでいるなんて俺は分からない。でもさ、分からなかったかもしれないけどお前が入った谷は雰囲気が尋常じゃないって地元はおろか、よそ者だって通ろうとは決して思わない。お前はお前が気付いていないだけでめちゃくちゃ勇気があるんだぜ?」

 

 

僕に勇気があるだと?そんな馬鹿な。僕はおじいちゃんの無事を信じることが出来なかった臆病者だ。そんなはずがない。僕は冒険者にすら程遠い。

 

 

「あり得ませんよ。」

少年は静かに、風に揺れる柳の様に答える。

 

 

 

「いいや。お前は冒険者どころか、英雄になれる逸材さ。のんべぇのお墨付きで悪いけどな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後

 

村がいつも通り、皆がそれぞれの仕事に精を出していると、村の男の一人が全速力で走り、村に戻ってきた。その顔面は蒼白でこの世の終わりだと言わんばかりの顔をしている。男は口の前に手を添えると大声で叫んだ。

 

「ゴブリンだ!!ゴブリンの群れが村に来てるぞ!!」

 


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