魔人転生 〜兵藤一誠〜 - the outer demigod -   作:カイバル峠

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皆さま、お久しぶりです。
就職活動やら学校やらで気づけば半年以上も放置してしまいました。
またぼちぼち更新して以降と思うので、時々覗いていただければ幸いです。


深層世界のデミゴッド
粛清の藍光


粛清の藍光

 

 

 

「儀式を中止しろですって?!一体どういうことなのかしら?」

 

苛立たしげな女の声が、ほの暗い広間に響き渡る。

彼女は艶やかな黒髪を流し、豊満な肢体を男の劣情を刺激するような極めて露出度の高い黒のボンデージ衣装に包んでいた。そして背から伸びた、身の丈を優に超える程の一対の黒翼が人ならざる者であることを物語っている。

人外の域にある美しい顔立ちは御し切れぬ憤怒に染まり、赤紫の瞳は氷のように冷たい輝きを放つ。

 

「別にィ?どうもこうもねェでござんすよォ?ただその儀式ってのをやられると俺としては非っ常ーに都合が悪ィんでどうかやめてもらえませんかって頼んでるだけなんすけど?」

 

対するは道化のように慇懃な口振りの男だった。

見るかぎりまだ十代の少年であろうに、その髪は全くといっていいほどに色素を留めておらず、真っ白だった。端正な顔立ちをしているが、浮かべる表情はまさしく狂人のそれであり、ミスマッチとしかいいようのない神父服はあたかも聖職者を冒涜するために着ているようにさえ感じられる。

 

「貴様!!一体誰に向って口を利いているのか分かっているのか?!」

「レイナーレ様になんということを……許せん!」

「そうだぞ!教会を破門され、行き場を失った貴様を迎え入れて下さったのは誰だと思っている?!」

 

その場にいた者達から口々に怒声が飛ぶ。周りには数十人ばかりの人影がいたが、中でも最も激しく反応した者達が3人いた。

 

「貴様、人の身で我らに異を唱えることの意味、理解しているのだろうな?」

「アンタ人間にしてはそこそこ強い方だからって、調子こいてんじゃねぇッスよ!!」

「どうしてもと言うのなら理由を聞かせてもらおうか。もっとも、聞き入れるかどうかは別だがな。」

 

一人はトレンチコートにハットといういで立ちの中年の男。

もう一人はゴスロリ衣装に身を包んだ金髪の少女。

そしてもう一人はボディラインを強調するようなスーツを着た蒼い髪の女。

この場に集った者達の殆どが覆面に神父服姿という中で、彼ら三人は明らかに際立つ存在であった。しかし、何より目につくのは背中から生えた漆黒の翼。黒髪の女―――レイナーレと同族であることの証だ。ゆえに、たかだか人間でしかない彼が、自分達に異を唱えることに対し、憤りを見せているのだ。

三人の発する怒気に触発されて、その場にいた者達の白髪の少年神父へ向けられる殺意が高まっていく。

 

「あなたたち、落ち着きなさい。」

 

祭壇の上から睥睨するように見守っていた黒髪の女は、怒りに駆られた者達を手で制する。

 

「フリード、説明したはずよ?この儀式はここにいる全ての者達の進退に関わる計画であると。私は至高の堕天使となって、偉大なるアザゼル様とシェムハザ様のお側に置いておいていただくの。当然それだけではないわ。あなたたちはぐれ悪魔祓いの処遇も改善していただけるよう進言してあげられる。それを知った上で儀式を中止しろと言うのかしら?」

 

レイナーレは祭壇上に据えられた巨大な十字架を背に、フリードと呼ばれた少年神父を見下ろしながら悠然と階段を下る。

 

「おお、さすがはレイナーレ様……!」

「崇高なる、我らの主……」

 

下にいた者達は皆、会談を降りるレイナーレの姿に見惚れていた。

薄暗い広間の数少ない光源である燭台の炎は、惜しみなく晒されたレイナーレの肌を照らし、その闇の中にその至高の造形を浮かび上がらせる。ブーツのヒールがコツコツと乾いた足音を鳴らすたび、僅かに生じる光との角度の変化が齎す像の変化さえもが、見る者の心を虜にする。

 

―――堕天使。

 

それが彼女の種族の名だった。

かつて全知全能と呼ばれた聖書の神に仕えるべくして、神直々の手によって生み出された、光と栄光に満ちた翼持つ天上の住人。彼らは皆、人よりも高位の存在であることを示すように、美しい容姿をしているという。

そしてそれは欲を抱き、邪悪と断じられ、天の楽園から追放された後でも健在であった。

 

「なるほどねェ~~。姐さんがまさかそこまで考えてくだすってったなんて、このフリード、感激で言葉も出やせんぜ……でも、姐さんがその至高の堕天使とやらに進化するためには悪魔も治せちゃうほどとぉ~ってもスゴい神器使いの心優しい少女を生贄に捧げないといけないんスよね??」

「あらやだ。生贄なんて人聞きの悪い……これは救済よ。」

「……」

 

平然と救済という言葉を使うレイナーレと、沈黙するフリード。口達者な彼が黙ったのを見て気をよくしたのか、レイナーレはより饒舌に、さらに両手さえ広げながら続けた。

 

「あなたも知っているでしょう?神器を宿した人間、特に人の身に余るような力を発現した者はほとんどが周囲の人間から迫害を受けるか、それか孤立したところを付け込まれていいように利用されるかのどちらかよ。そしてあの子、アーシアもその一人。聖女として祭り上げられた挙句、たまたま悪魔も治療できてしまうってことがわかったせいで追放されて行き場を失った。まさに力の値打ちのわからない愚かな人間らしい所業って感じよね?フフフフ……でも」

 

レイナーレは妖しい笑みを浮かべて聖堂全体に顔を向け、そして天を仰ぐように、恍惚とした表情で高らかに声を発する。

 

「私たちは違う。私たちにとっては、彼女の神器の力はとても素晴らしいものだわ。まだ神の加護のある天使と違って、私たち堕天使にとっては種族を問わない回復手段はまさに天の恵み!私は彼女の力を欲している一方で、アーシアにとっては自身を苛む要因でしかないんですもの。苦痛の種を取り除いてあげることが救済でなくてなんだと言うの?それにあれだけ信心深い子なんだから、天に召された方が大好きな神をより身近に感じられて却って本望なんじゃないかしらねぇ?あはははははははっ!!」

 

声高に哄笑するレイナーレの表情は完全に邪悪なそれへと変わっていた。大きくゆがんだ口元からは普段は隠れている獣のように尖った歯列がのぞき、血走った眼は大きく見開かれ、生来持っているはずの美貌は完全に崩れ去り、数多の男を篭絡してきたであろう妖艶な堕天使の姿は影も形もない。

一方のフリードは、さきほどのような道化じみた様子はかけらもなく、醜悪な本性を晒した堕天使にただただ無表情で冷え切った視線を向けていたが、それもやがて、嘲るような、憐れむような、そんな笑いへと変わった。

 

「フン、ようやく本性出しやがったか……出てきていいぜ?」

 

振り返って背後に視線を投げかけるフリードに、レイナーレは一瞬怪訝な様子を見せる。しかし、物陰からおずおずとした様子で現れた人物を見て、ほんの僅かにたじろいだ。

 

「っ、アーシア……」

 

出てきたのはシスター服を身にまとった金髪の少女。十人いれば十人が美少女と認めるであろうその顔には恐怖と不安、戸惑い、そして信じていたものに裏切られた人間が見せる、絶望の表情がありありと浮かんでいた。

 

「なァ?俺が言った通りだったろう?」

 

今度は振り向かずに、正面を見据えたまま言葉を投げかけるフリードに言葉で答える代わりに、少女―――アーシアは彼の横まで進み出た。

 

「……レイナーレ様、今のお話は本当なのでしょうか……?」

 

レイナーレに問いかける彼女の翡翠のような瞳には、今の今まで耳にしていたことが嘘であってほしい懇願する気持ちと、膨れ上がり続ける疑念とがない交ぜになっていた。

一方のレイナーレも、まさか本人に聞かれているとは予想だにしていなかったのか、ほんの一瞬、動揺する素振りをみせるも、さすがは邪知甘寧に長けた堕天使というべきか、すぐに慈母のような笑みをアーシアに向ける。

 

「あら、アーシア。こんなところで一体どうしたの?盗み聞きなんてはしたないわよ?」

「……レイナーレ様、ごめんなさい。フリード神父とのお話は全て聞いてしまいました。どういうことなのですか?貴女様は今夜の儀式で私をあらゆる苦痛から解放してくださると仰いました。でも、それはご自分の野望のために私の神器を抜き取ることで…そしてそれで私が死ぬというのは……本当なのですか?」

「あらいやね。あなたまで私を疑うの?何を吹き込まれたのかは知らないけれど、あなた、そいつの言うことを信じられるの?」

「それは……」

 

アーシアは言葉に詰まり、不安げな様子で横のフリードを見遣る。

フリードはじっとレイナーレの方を見据えたまま動かない。確かに、普段の言動を思い起こせば信用できるタイプだとは思えないし、人の感情を逆撫でするような言動を繰り返すせいで何を考えているのか見当もつかない。だがこの時だけはなぜか、彼の瞳が何かを確信しているかのように思えてならなかった。

 

「そう……まあいいわ。仮にそれが本当だとして、一体どうするつもりかしら?家族もいなければ帰る場所もない。天涯孤独で身寄りのないあなたに、助けてくれる宛てなんてあるのかしら?」

「……」

 

自分を助けてくれる存在、一人の青年の姿が彼女の脳裏を一瞬かすめた。だが、それは叶わない。何故なら、自分と彼の間には、埋めようのない溝が存在してしまっているのだから……

アーシアは今度こそ口をつぐんだ。

それをみたレイナーレは勝ち誇ったような笑みを浮かべながら畳みかける。

 

「ほらね?やっぱりあなたはほかにどうすることもできないのよ!そうでなければ聖女なんて呼ばれてた人間が堕天使の誘いに応じることなんてありえないわよねぇ?ああ、かわいそうなアーシア。私を貶めんとするそこの下卑た男にあらぬことを吹き込まれて惑わされてしまったのね。今更そんな下らない疑念を抱く必要がどこにあるというの?だから――――」

 

レイナーレはそこまで言うと、再び慈しむような、そしてどこか悲しげにも映るような微笑みを顔に張り付けて、アーシアに手を差し伸べる。

 

「全てを私に委ねなさい。そうすればあなたはこの世のあらゆる苦痛から解放されるの。あなたはもう十分に苦しんだでしょう?残念だけど、私があなたにしてあげられる“救い”はこれしかないの。さあ、こっちへいらっしゃい。」

「わ、私は……」

 

アーシアは再び言葉に詰まってしまう。たとえ一時的にとはいえ、自分を拾ってくれたことには恩義を感じているのも事実だった。けれども、もはやアーシアにはレイナーレを以前のように信用することはできなかった。信じようとしても、沸き起こり、膨れ上がる疑念がそれを抑えつける。否、はるか以前から、彼女は心のどこかでレイナーレたちを疑っていた。神に反旗を翻し、天界の敵になったとはいえ元は天使。その行いにも何がしかの正義があるものと淡い期待を抱いて従ってきた。しかし実際には敵対する悪魔と契約した人間を配下の神父たちに命じて惨殺し、平然と人を殺めて笑っているような連中だった。彼女自身に振ってきた仕事も教会の雑用以外はそうした“人殺し”の手助けをさせられて片棒を担がされてきたのだ。拾ってくれた恩義と疑念に板挟みになり、そこから一応は恩人である彼女らを疑う自分に対する自己嫌悪感が芽生え、さらに生物としての本能的な自己保存欲求―――生への渇望にも揉まれる。過剰なストレスに精神を蝕まれ、アーシアはもはやどうすればいいのかわからなくなっていた。

そしてそんなアーシアの様子をフリードは微動だにせずにただじっと見守り、煮え切らない態度にレイナーレの表情は険しくなり、痺れを切らす。

そして彼女の負の感情を最も強く揺さぶる言葉を吐きかける。

 

「チッ……わかったわ。アーシア、あなたは私のことが信用できないというのね?でも異端として追放され、そして今度はあなたを保護し、救済しようとしているこの私を疑う。一体どれだけの“罪”を重ねればあなたは気が済むのかしらね?」

「っ!!」

 

罪。

その言葉はアーシアの心の闇を最大限に増幅させるスイッチだった。

異端として追放されたのは、悪魔を治せてしまったのも自分の信仰が足りなかったから。聖女などと崇められながら、それに見合うだけの信仰を捧げられていないという、罪を犯してしまったからだと、自分を責め続けてきた。

そして今度は、堕天使とはいえ自分を救ってくれた恩人を疑うという罪を犯そうとしている。

 

ああ、自分はなんと罪深い人間なのだろう。

 

このまま生きていても、自分は罪を犯し続ける。

アーシアの心に罪悪感と悔恨、そして諦観が広がっていく。

 

「うっ…ううう……」

 

彼女はその場で崩れ落ち、両手をついて蹲ると嗚咽を漏らす。

泣き崩れる少女の姿を見て、今度こそ勝利を確信したかのように、堕天使は口角を大きく釣り上げて醜悪な笑みを浮かべる。

 

「フフフフ……さあ、あなたたち。アーシアをこちらへ!そいつは拘束して地下牢にでも放り込んでおきなさい!」

 

レイナーレの掛け声に呼応し、はぐれ神父たちと他の三人の堕天使が二人を取り囲んだその時だった。

 

「はぁ……もう飽きたぜ」

 

突如として吹き荒れる風。

大勢いた神父たちは木っ端のごとく吹き飛び、堕天使も何が起きたのかが理解できなかった。だがしかし、一つだけはっきりと言えることがあった。

 

「まったくよォ…いくら任務だからって、毎回こうも人外どもに媚びへつらうのは勘弁してほしいぜ。」

 

風の渦の中心に立つ男、フリード・セルゼン。その小脇には混乱した様子のアーシア・アルジェントを抱え、もう一方の手で肩を抑えながら気だるげにコキコキと首を鳴らす。

 

「フ、フリード神父…これは一体……」

「悪ィが、今は説明してる時間がないんでなァ。詳しいことはまた後で教えてやるよ。だから今は休め……」

「あ……」

 

フリードがそれだけ言ってアーシアの額に手をかざすと、彼女は意識が遠のいていくのを感じた。そしてそのままアーシアを降ろすと、彼女を中心に円形の魔法陣が生じ、結界が展開される。

 

「こっから先はちょいとばかし刺激が強すぎるからなァ……でも今まで散々見せつけられてきたんだから今更か。さぁて」

 

フリードは立ち上がると不敵な笑みを浮かべ、堕天使の一行に向き直る。

 

「フリード、やってくれたわね?覚悟はできているかしら?」

 

レイナーレが鬼の形相でフリードを睨み付ける。視線だけで人を殺せそうな勢いではるが、当のフリードはどこ吹く風。それがより一層、レイナーレの怒りに油を注ぐ。

 

「そのセリフ、そっくりそのままあんたに返すぜ?堕天使レイナーレ。お前はここで終わンだよ。」

「ふん、ほざいたわね。どういうつもりかは知らないけれど、たった一人で何ができるというの?ただの人間でしかないあなたに?まあいいわ。あなたたち、この裏切り者を始末してしまいなさい!!」

「「「はっ!!」」」

 

神父たち、そして堕天使が再びフリードに襲い掛かる。

 

「さっきはどんな手を使ったのかは知らんが、貴様にはここで消えてもらうぞ!!」

「人間の分際でレイナーレ様を侮辱した罪、死よりも重いと知れ!!」

「ラッキ~!前々からあんたの顔見るたびにぶち殺してやりたかったんスけど、これでようやくお別れできるっスね!!」

 

光の剣を構えて走ってくる神父たちの合間を縫うように、上空から堕天使たちの光のよりがフリードを目がけて飛来する。いかに実力者のフリードといえど多勢に無勢、まして堕天使3人が加わっている。対して、迎え撃つフリードは一丁の拳銃のようなものを構えているのみ。

 

誰もが自分たちの勝利を確信して疑わなかったその時、フリードの銃は青白い光を発しながら変形し、銃身が生物の口のように大きく上下に開き、その奥から眩い光が漏れ出す。

 

 

 

―――――執行モード:デストロイ・分子分解銃(デコンポーザー)。対象を完全排除します。ご注意ください――――――

 

 

 

フリード自身にのみ聞こえる機械音声が、彼の脳内に響く。

 

 

そして間もなく、世界は光に包まれた。

 

 

 

 

 

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