魔人転生 〜兵藤一誠〜 - the outer demigod -   作:カイバル峠

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今回は早めに仕上げることができました。




深淵への旅立ち

深淵への旅立ち

 

 

 

 

「……」

 

レイナーレは放心していた。

フリード(裏切り者)を亡き者にすべく、神父たちと部下の堕天使たちをけしかけたすぐ後に、突然強烈な光が爆ぜ、視界を塗りつぶされた。

そして光がやんで彼女が目を開けると、そこには「地獄」が広がっていた。

 

「うぅぅ……」

「い、痛い……」

「いや…だ……死に…たくない……」

 

阿鼻叫喚のごとく地下聖堂内に木霊す呻き。

大勢いたはずの神父たちの姿は量の手の指で数えられるほどに減り、残った者もそのほとんどが息絶えているか、息のある者も多くが身体の一部を失っていた。

球体状の何かにえぐられたように床や天井の一部が大きく削り取られており、その周辺に設備の残骸に混じって散乱する人体の一部と思しき物体や、衣服の断片が彼らの身に起きたことを物語っている。

 

「ドーナシークッ!カラワーナッ!!」

「っ」

 

神父たちの呻きに混じり、一際目立つ甲高い叫びが聞こえてくる。

聞き覚えのある声に、レイナーレが視線を向けると、そこにはゴスロリ姿の金髪の少女――ミッテルトが悲痛な叫びをあげていた。

他の二人の仲間もすぐに見つけることはできたが、ミッテルトと異なり、無事ではなかった。

トレンチコートにハットといういで立ちの中年男性風の堕天使ドーナシークは下半身を丸々消失して仰向けに倒れており、露出の多いスーツを着た青い髪の女性堕天使カラワーナも片腕と、片翼を中ほどから失って座り込んでいた。

 

「……に…げ……ごふっ……」

 

ドーナシークは首から上だけを僅かに動かしてそれだけを言い残すと、吐血してそのまま動かなくなる。

 

「うぐっ……ミッテルト……今すぐレイナーレ様を連れて逃げろ……」

 

カラワーナは激痛に耐えながら、絞り出すような声でミッテルトに訴えかける。

 

「そ、そんな……そんなの無理っスよ!カラワーナを置いていくなんて!!」

「いいや、私はここまでだ……翼を失った以上、足手まといにしかならない……後生だ、ミッテルト……レイナーレ様を、頼む……」

 

カラワーナは立ち上がると、ミッテルトと、さらに奥にいるレイナーレを庇うように、持てる光力を全てを残った片腕に集めながら、よろよろとした足取りで前に出る。

フリードは光をたたえた銃口をミッテルトたちに向けたまま、氷のように冷たい視線を送っている。

 

「ッ!レイナーレ姉さまッ!!早く、早く逃げましょうッ!!」

 

ミッテルトはレイナーレの方に向き直り、未だに放心状態のレイナーレに向かって叫び、走り出す。こころなしか、それでいい、というカラワーナの声が聞こえたような気がした。同時に、背後で一瞬何かが光った。同時に何かが弾けて液体が飛散し、崩れ落ちる音が聞こえた。

 

「ッ」

 

ミッテルトにはそれが何なのかすぐに理解した。だからこそ振り返らず、己が主の下へ急ぐ。

だが、現実は非常だった。

ミッテルトがレイナーレの下にたどり着くよりも早く、ミッテルトの体内を衝撃が駆け抜け、全身から力が抜ける感覚とともに意識が薄れ、崩れ落ちる。

 

「ミッ…テルト……?」

 

倒れ伏す部下の姿を見つめるレイナーレ。

しかし

 

「よォ?」

「!!」

 

レイナーレはそこで初めてハッと我に返る。気づけばフリードはすぐ目の前に立っていた。

 

「や…いや……死にたく……ない……」

 

レイナーレの瞳に映るのは死の恐怖そのもの。

さきの出来事でその場にへたり込んでしまい、完全に腰が抜けて立ち上がることもできない。震えながら、かろうじて後ろへ下がることしかできなかった。

 

「おいおい、今更そりゃあないだろう?人の命を散々ムシケラみてェに弄んできたクセによォ?」

 

フリードは冷たい目で見降ろし、銃口を向ける。

 

「や、いや、いやあああああああッ!!!」

 

レイナーレの精神は遂に限界を迎えた。錯乱し、ほとんど反射的に、無数の光の槍を生み出すが、それがフリードに届くことはなかった。

 

 

――――執行モード:ノンリーサル・麻痺銃(パラライザー)。落ち着いて照準を定め、対象を制圧してください。―――――

 

 

「うっ」

 

フリードの瞳が青く輝き、銃の先端から目に見えぬ不可視の力が放たれる。

レイナーレは弾かれたように大きく、背を弓なりに逸らせると、そのまま崩れ落ちる。

同時に、周囲に出現していた無数の光の槍も、力の供給を絶たれたことで形を維持できなくなり、霧散した。

 

「安心しな、テメェは今ここでは殺さねェ……もっとも、ある意味死ぬよりキツい思いをすることになるかもしれねェがな。」

 

レイナーレの意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

◇◆     ◆◇

 

 

 

 

「アーシアッ!!」

 

重苦しい音とともに、勢いよく扉が開け放たれた。

高校生くらいの茶髪の少年が地下聖堂の中に駆け込み、続いて剣を持った同年代の金髪の

少年と白髪の小柄な少女が入ってくる。

 

「よォ?遅かったじゃねェか、クソ悪魔ども。」

 

薄暗い室内の奥、仄明るい祭壇の上から少年神父、フリードが現れる。

 

「なっ?!てめぇフリード!!なんでお前がここにいるんだ?!!」

「何してるって、いて当然だろ?ここ職場だしなァ。ま、正確には“元”がつくんだが。」

「アーシアはどこだ?!レイナーレたちはどうしたんだ?」

「チッ、相変わらずピーピーうるせェヤツだな……そいつらならここにいるぜ。」

「なっ」

 

フリードが横にずれて奥を見せる。そこにはスヤスヤと寝息を立てる金髪のシスター・アーシアと、意識を失った状態で拘束された二人の堕天使―――レイナーレとミッテルトの姿があった。

 

「アーシあっ?!!」

 

駈け出した茶髪の少年は、足元に転がる何かに足を取られ、そのまま転倒した。

 

「いってぇ…何なんだよ、コレ…っ?!!」

 

彼は目を見開く。

自分の足を捕らえたもの、それは床に転がる人間の死体。さらによく見ると、壁と床が不自然に大きく窪んだ場所があり、そこを中心に大小無数の肉塊――――人間の身体の一部が転がっていた。中には身体の一部を残して死んだ堕天使と思しきものもある。

 

「ぅうぶっ……おえぇぇ……」

「兵藤君(先輩)!!」

 

茶髪の少年は蹲り、嘔吐する。残る二人は彼のもとに駆け寄り、未だ慣れない惨状に対する生理的な嫌悪感に耐えられなかった仲間の背中をさすってやる。

金髪の少年は茶髪の少年を介抱しながら、険しい表情でフリードを見据えた。

 

「……これは君が?」

「まァな。どうにも聞き分けのない連中だったんでね、始末しといたよ。悪かったな、騒がせちまって。そっちの茶髪のあンちゃんが随分とウチのシスターにちょっかい出してたみてェだが、お互い立場ってモンがあるんだし、これ以上関わらねェ方が互いのためってことで、ここは一つ手打ちにしねェかい?そんで俺らはさっさとこの町から消えるからよ。」

「……」

 

金髪の少年はしばし言いよどむ。確かに、この状況ではフリードと無理に争うメリットが感じられない。彼は身内の不祥事に自ら始末をつけ、自分たちのテリトリーから出て行くというのも恐らく事実だろう。だが同時に、それは彼の一存で決められることでないのもまた事実。最終的な判断を下すのは彼の主だ。そして――――

 

「…だめ…だ……」

 

沈黙を破ったのは茶髪の少年だった。まだ完全には回復していない様子で、絞り出すような声を出しながら、よろよろと立ち上がる。

 

「俺は…約束したんだ……アーシアと、友達になるって……ここで連れて行かれたら、またあの子は一人ぼっちに……だから…木場、子猫ちゃん……頼む…俺に力を貸してくれ……ッ」

 

立ち上がり、まっすぐに前を見つめる少年の左腕に赤色の籠手のようなモノが現れる。

 

「兵藤君……ッ」

 

茶髪の少年の闘志に当てられ、金髪の少年―――木場も迷いを断ち切ったように剣を構え、表情が引き締まる。子猫と呼ばれた白髪の少女もそれに続き、戦闘態勢を整える。

 

「フリード・セルゼン、悪いが君の申し出をうけることはできない。ここは僕らの主が納める土地、騒ぎを起こされた手前、落とし前を付けてもらわなければ主の威信にかかわるからね。」

「チッ、交渉決裂ってか?面倒くせェなァッ!!」

 

剣を向けて自身との敵対を宣言する木場に、フリードは舌打ちをしながら足元に自身とアーシア、レイナーレ、ミッテルトの計4人が入る大きさの転移用魔法陣を展開させる。

 

「させないッ!!」

「…おとなしくして。」

 

3人の中で、最もスピードに長ける木場が先制を仕掛け、子猫がすぐ後にぴたりとついて二撃目を入れるべく構える。

しかし

 

「テメェらの相手してるほど暇じゃないんでね―――」

 

フリードは懐から赤紫色の枠に縁どられた紙片を取り出し、掲げると紙片の中央の枠が輝く。

 

「ぐあっ?!」

「うっ!!」

「子猫ちゃん!木場ッ!!」

 

突然目の前に現れた透明な壁に阻まれ、二人は弾き飛ばされる。

 

「くそッ!こんな壁……ぐああっ?!!」

 

茶髪の少年も赤い籠手の装着された左手で行く手を阻む壁を破ろうと殴りつけるが、それでも壁は破れず、彼もまたほかの二人と同様、弾き飛ばされてしまう。

そして非情にも、フリードの足下の魔法陣は淡い光を放ちながら転移が始まった。

 

「ぐぅっ、アーシアッ、アーシアッ!!」

 

それでも彼はすぐに立ち上がり、交わした約束を果たすべく、透明な壁を両の手で叩きながら、未だ目を覚まさない少女に向かって呼びかけ続ける。

その様子にフリードも苛立ちを見せ始め、最後通告を行う。

 

「いい加減諦めろ。どうやっても、テメェにこの子は救えやしねェよ。」

「うるせえ!!俺はアーシアと約束したんだ!!その子の友達になって、これから沢山楽しい思い出を作るんだ!だからアーシアを放せ!!」

「はっ、わからねェヤツだな……そんなの所詮口約束だろうがよォ?!そもそもテメェ、助けるっつったってどうするつもりだァ?助けた後はァ?!テメェの飼い主に頼み込んで仲良く家畜の仲間入りでもさせるつもりかァ?!」

「ッ……」

 

口をつぐんだ少年に対し、フリードはさらに語気を強めて畳みかける。

 

「図星みてェだな?できもしねェクセに大それたことぬかしやがって……そうだよなァ?悪魔っつったって転生仕立てホヤホヤの何の力もねェ下級悪魔が、ご主人様の力無しで人ひとり養えるわけねェもんなァ?!いいか悪魔、テメェらの薄汚れた欲望や感情でどうこうしていいほど人の生は軽いもんじゃねェんだよ。わかったらさっさと失せな……だが」

 

フリードはそこで一旦口をつぐむと、再び言葉を発するのは彼とほかの3人が光の中へ消えるのとほぼ同時だった。

 

「兵藤一誠、テメェが悪魔としての業を極めるなら、その時はまた会うことになるかもな……もっとも、その時は彼女もテメェを断罪しにくるかもしれないがな」

 

それだけを言い残すと、フリードたちは姿を消す。

 

それから間もなくして彼らの主である特徴的な紅い髪の悪魔がやってくるのだが、そこには既に敵の姿はなく、代わりに目に飛び込んできたのは一面に散乱する無残に解体された肉塊、そして慟哭する下僕の姿のみであった。

 

 

 

 

◇◆    ◆◇

 

 

 

「んっ、うーん……」

 

アーシア・アルジェントは目を覚ました。

視界が鮮明になるにつれて、周囲の風景が目に入ってくる。

 

「あれ……?」

 

彼女は、自分が豪勢な寝具の上に寝かせられていることに気づく。そして顔を上げると、その全部が明らかとなる。

目に飛び込んできたのは見知らぬ部屋だった。

部屋は非常に広大で、天井は霞んで見えるほどに高い。自身の乗る寝台を中心に円形の床が広がり、壁面には恐らく何かの物語や伝承を現したのであろう荘厳なレリーフがはめ込まれており、多数の人や、動植物、建物のほか、見たこともないような生き物などが壁一面に描かれている。

明らかに、今まで自分がいた背徳的な廃協会とは異なっていた。

 

「よォ、お目覚めかい?」

「!」

 

寝台のすぐ横から続く螺旋階段。

その上から見覚えのある人物が降りてくる。

 

「フリード神父……これは……」

「くくく、何がなんだかさっぱり、って顔だな」

 

「無理もないさ、フリード。彼女も混乱していることだろう。詳しい話はあの方がおいでになってからだ。」

 

「!」

 

彼方より聞こえてくる、聞き覚えのある声にアーシアはハッと息をのむ。

そしてほぼ同時に、アーシアのいる寝台から少し離れたところにどこからともなく仮面を付けた人物が現れる。

その人物を見て、フリードはニヤリと口角を釣り上げた。

 

「あァ、そうだったなァ。忘れてたぜ……イッセー(・・・・)

「ッ!!」

 

フリードの言葉にアーシアはまさか、と目を大きく見開く。

しかしそれが紛れもない真実であることはすぐに証明されることとなる。

現れた人物は仮面を外すと、その下から忘れられない、されどもう会えないと思っていた人物の顔が現れる。

 

「……イッセー…さん……?」

 

孤独だった自分にできた初めての友。

見知らぬ土地で迷っていた自分を導いてくれたことに始まり、それまで自分が知らなかった世界の一端を教えてくれた少年。

しかし堕天使側の住人であった自分には、悪魔である彼とは表立って交友を深めることは許されず、すぐにまた別れが訪れ、もう二度と会うことはないと諦めていた。

アーシアは、何か温かいものが頬を伝うのを感じた。

 

「…もう、会えないと思っていました。」

 

アーシアは涙さえ浮かべながら歓喜した。

だがそれは、相手の一言でそれは否定されることとなる。

 

「……すまないがアーシア・アルジェント…俺は君の知っている兵藤一誠ではない……」

「え……」

 

どこか申し訳なささえも感じさせる様子でイッセーは口を開いた。

 

「…それは、一体どういうことでしょうか……?」

 

困惑するアーシア。

フリードを見遣るも、ただ彼はニヤニヤして状況を見守るのみだった。

イッセーが意を決して訳を話そうとしたその時だった。

 

 

 

『そこから先は私がお話しいたしましょう。』

 

 

 

突如として、巨大な存在感が場を支配する。

 

それから間をおかずに、イッセーとアーシアの間に、一人の男性が現れる。

日に焼けた褐色の肌、黒曜石のような艶やかな黒髪に煌々と輝く赤い瞳、誰もが至高の美と賛美して止まぬであろう、端正な顔立ち。

白い布地に金やラピスラズリの装飾を散りばめた豪奢な衣装を身に纏い、二枚の長い黄金の羽根を配した冠を戴くその姿は、まさしく古代の記憶が伝える古き支配者の姿そのもの。

 

「はじめまして、アーシア嬢。私の名はアメン。エジプトの主神を務めていた者です。以後お見知りおきを。」

 

神―――アメンは恭しく一礼し、柔らかく、微笑みかけた。

 

 

 

――――運命の歯車がまた一つ、本来とは異なる動きを始める。

 

 

 

 

 

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