魔人転生 〜兵藤一誠〜 - the outer demigod -   作:カイバル峠

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お久しぶりです。前回、前々回投稿した話はイマイチ流れがわからないので削除いたしました。



聖典を喰らう者・前編

聖典を喰らう者(バイブル・イーター)・前編

 

 

 

 

雲ひとつない夜空、煌々と輝く月の下、鬱蒼と茂る木々の間を人影が一つ、駆け抜ける。

 

しかし、それは人と呼ぶにはあまりにも異様な姿。

 

上半身は人間に近いが、背面や腹から節足動物の足が幾重にも重なって生えており、さらに下半身は何節もの節と脚からなる、まさに百足そのものという姿をしていた。

 

「はあ、はあッ……畜生ッ!!一体何だっていうんだよ?!アイツはぁ?!!」

 

異形は、全身に深手を負っていた。

 

人型の上半身は至る所に擦過傷や打撲の跡、加えて焼け焦げたような跡が見られ、片腕は二の腕から下がなく、切断面から緑色の体液が滴り落ちる。

そして百足型の下半身は甲殻もあちこちが拉げたり、罅が入っているか、あるいは砕けているなどして、末端付近の節は明らかに引きちぎられていた。

 

異形は、はぐれ悪魔と呼ばれる存在だった。

 

はぐれ悪魔、それは上級悪魔である主の眷属として転生したものの、新たに得た力に溺れ、思う存分に振るおうという衝動に駆られて主の下を出奔した存在。

その存在は極めて危険で害悪とされ、悪魔のみならず、他の勢力からも追われる身となる。

 

それはこのはぐれ悪魔も例外ではない。

 

主の下を離れて以来、力を得るために多くの人間を襲っては喰らい、いつしか身体も醜い異形へと変化していった。

 

今日も、潜伏する人間界の隠れ家で獲物となる人間を待ち伏せしていた。

そしていつも通り、哀れなただの人間(・・・・・)は自分の腹に収まり、自らの血肉となり糧となるはずだったのだが――――

 

「鬼ごっこは終わりか?」

「ッ――!!」

 

はぐれ悪魔の顔が一気に青ざめる。

見上げると、すぐ目の前の木の枝の上に人の姿がある。

仮面を付けているため、素顔は見えないが、刀を持っている以外は普通の人間にしか見えない。声と背格好からして年若い青年のようだ。

しかしながら、はぐれ悪魔はその姿を見た途端、全身を悪寒が駆け巡り、ついさきほどの蹂躙の光景が脳裏にフラッシュバックする。

その人物こそ、彼をここまで追い詰めた本人に相違なかった。

 

「ちぃッ、クソがあぁぁああああああッッ!!!!」

 

はぐれ悪魔はヤケクソとばかりに背面と腹の足を伸長し、目の前の敵の排除を試みる。

幾重にも重なった脚はメリメリと軋む音を立てながら、蜘蛛の巣のごとく広がりながら周囲の木々を突き倒し、仮面の青年にその鋭い切っ先を向けた。

 

そしてはぐれ悪魔の思惑どおりに、標的の身体に深々と突き刺さる。

一本だけではない、一本で捉えた相手の身体を、蜂の巣にせんとばかりに残りの足も突き刺した。

あまりにもあっけない展開。

さっきは自身が手も足も出なかった相手が、こんなにもあっさりと仕留められたことに唖然とするが、はぐれ悪魔は心に余裕が戻り、嘲るような醜悪な笑みを浮かべた。

 

「ゴフッ……きさ…ま……っ」

「ハッ、ハハハハ……ハーッハッハッハッ!!おいどうしたよ?こんなもんか?やっぱりなぁ!!人間ごときが、初めからこの俺に敵うはずがなかったんだよ!!」

「グゥッ……」

「なぁ?今の気分はどうだ?さんざんいたぶってきたヤツにやられる気分はよぉ?!!痛いか?苦しいか?屈辱か?だが、てめぇはすぐには殺さねぇ。人間の分際でこの俺様の邪魔をしたことを後悔させてやらねぇとな……そうだ、このまま生きたまま食ってやろう!!」

 

そう言ってはぐれ悪魔は伸ばした足を戻し、串刺しになった獲物を喰らおうとしたその時だった。

 

『やはり小物か。つまらんな。』

「ッ?!」

 

脳裏に何者かの声が響く。

そして次の瞬間、仕留めたはずの獲物の全身の輪郭が徐々に、溶けるように崩れはじめ、ついには破裂する。

水風船のように破裂した中から、多量の液体が溢れ、はぐれ悪魔の上に降り注いだ。

 

それは更なる蹂躙の始まりであった。

 

「ぎゃああああああああっっ?!!!」

 

はぐれ悪魔は全身を焼かれるような、強烈な痛みに襲われる。

全身からジュウジュウという焼けるような音を立てながら煙が立ち上り、突き刺した足はもちろん、人型の上半身、虫型の下半身問わず身体がボロボロと崩壊し、消滅していく。

 

「がああああッ!!身体が!俺の身体がぁッ!!!」

 

「クククク、どうかな?超高濃度圧縮の聖水シャワーを浴びた感想は?」

 

そして悶絶するはぐれ悪魔を尻目に、串刺しにされたはずの青年が全くの無傷で現れ、相変わらず仮面で表情はわからないが、嘲るような声で問いかける。

 

「……んだよ…」

 

はぐれ悪魔はボロボロになった身体を抑えながら、激しい殺意の籠った眼を向け、叫んだ。

 

「てめぇ!一体なんなんだよ?!!人間のクセにこんな力持ってやがるなんてふざけんじゃねぇよ!!せっかく自由の身になったってのに、これから人間共を食いまくってパワーアップしてやるつもりだってのに!!てめぇみてぇな人間に邪魔されてたまるかよ!!てめぇらはおとなしく俺様に食われとけばいいんだよ!!!」

 

見下していたはずの人間に追い詰められ、はぐれ悪魔は怒り激昂する。一方で、それを聞いていた青年は静かに刀を抜いた。

 

「そうか、そんなに人間に裁かれるのは屈辱か……ならば俺もさっきの言葉、そのまま返そう――――

 

 

 

 

――――――おとなしく喰われろ。俺の中の龍にな。」

 

 

 

「?!」

 

 

 

突然として青年の左腕に赤い籠手が現れ、赤いオーラが彼の身体を覆いつくすように立ち上り、龍の形を成す。

 

「て、てめぇ…その腕……」

『クククク……このうえなく不味そうな悪魔だな。死体処理は柄じゃないんだが、相棒の頼みとあっては仕方がない……俺に喰われることを誇りに思いな。』

「ひっ」

 

荘厳な威容を誇る赤の龍はアギトを開く。

 

「ああ、魂まで全部喰らってもいいが、証拠がいる。体の一部くらいは残しておいてくれよ、ドライグ?」

 

『はいよ。』

 

 

 

 

「ぐっ……うあああああああああああああッッ!!!!畜生がぁああああああッッ!!!」

 

 

 

 

それが断末魔だった。

はぐれ悪魔は赤い奔流に飲まれて消えた。名残を惜しむように、オーラの飛沫に混じってはぐれ悪魔の装甲板の破片が宙を舞い、二度、三度と地面を転がると、青年の足に当たり静止する。あとには何も残っていなかった。

 

彼はそれを拾い上げると懐から端末を取り出し、どこかへと繋げた。

 

「こちら兵藤一誠。はぐれ悪魔センティピードの討伐を完了。これより例の街へ向かう。証拠はそちらに送る。」

 

それから通信先の人物と二、三言やりとりしたのち、通信を終える。

 

『いよいよだな相棒……どうした?ビビッてるのか?』

 

青年は自身の片手が小刻みに震えていることに気づいた。

 

「まさか。武者震いだよ、ドライグ。」

 

 

 

 

 

◇◆     ◆◇

 

 

 

 

 

「部長、以前大公から討伐の依頼のあったはぐれ悪魔ですが、既に何者かの手で始末されていたようです。」

「そう、今月に入ってもう5件目ね。」

 

人間界のとある学び舎の一角。

貴族趣味のような数々の装飾品で飾られた部屋で、制服姿の少女二人が話をしていた。

一人は黒い髪で東洋系の顔立ち、もう一人は鮮烈な紅の髪をしたヨーロッパ系の顔立ち。

どちらも浮世離れした美少女といって差し支えない。

しかし、やり取りからして紅髪の少女の方が立場は上のようだった。

 

「例の噂は本当ということでしょうか?」

「噂?『悪魔狩りの魔人』だったかしら?各地で相次いではぐれ悪魔が何者かに殺されているっていうあの。」

「はい。でも最近ではぐれ悪魔のみならず上級悪魔、それから天使や堕天使まで襲撃されているとのことです。そのことから近頃じゃあこう呼ばれているそうですわ――――『聖典を喰らう者』(バイブル・イーター)と。」

「そう。つまりあなたは、私たちに情報が届くより前に、そいつが先回りしてはぐれ悪魔たちを狩っていたって言いたいのね……あなた少し休んだ方がいいわ、朱乃?」

「リアスっ」

 

紅髪の少女は何か言おうとした黒髪の少女の口元に人差し指を向け、言葉を遮る。

 

「今は“部長”でしょ。それに、ゴキブリみたいに湧いてくるはぐれ悪魔を狩るより、魔人の正体を暴いた方が私たちの評価に繋がるでしょう?噂が本当だと言うならむしろ好都合だわ。」

「……はい、部長。」

 

ちょうどその時、すぐそばで通信用の小型魔法陣が展開する。

 

 

「あら、噂をすれば、かしら?」

 

 

その紋様は彼女らのいう「大公」のものだった。

 

 

 

 

 

◇◆     ◆◇

 

 

 

 

 

「ここか」

 

イッセーは街を見下ろす小高い丘の上にいた。

一軒の廃屋の前にたどり着くと、振り返り、見下ろす。

 

「この街は変わらないな、存在する世界線は違っても。」

 

左手の龍帝が顔を出し、緑の宝玉が点滅し、言葉を発する。

 

『相棒、感傷に浸る気持ちは分かる。だがこの世界のこの街は悪魔の縄張りだ、早く用を済ませた方がいい。』

 

「―――ああ、わかってる。行こう。」

 

彼はそのまま、歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中に入ると、埃が舞うのが視認できた。

 

入ってすぐに、広いエントランスに突き当たる。最奥から踊り場を経て、壁に沿うように上の階への階段が伸びる、定番の仕様だ。

この廃屋は昔はかなり立派な豪邸だったんだろうが、傷みがひどい。

人がいなくなってから相当経っているのだろう。

 

こういった廃墟は様々なモノを引き寄せる。

 

好事家の人間や野生動物、そして闇に生きる異形の者たちだ。

 

そして俺の今回の標的は後者、はぐれ悪魔と呼ばれる存在だ。

 

はぐれ悪魔が発生する原因はさまざまだが、元々冥界の上級悪魔の眷属だった悪魔が主の下を去り、追われる身になったという点は共通している。

大半が悪魔に転生して得た力に溺れた凶暴な個体で、中には逃げる際に主を殺したり、他の生物を殺したりするため、野放しにすれば甚大な被害が出る。なので基本的にはぐれ悪魔は見つけ次第始末するのが悪魔だけでなく、他の勢力でもセオリーになっている。

さすがのはぐれ悪魔も馬鹿じゃないので、白昼堂々と出歩くわけもなく、どこかに潜伏して獲物が通りかかるのを待つか、あるいは何らかの手で誘い込んで仕留めるという方法をとる者がほとんどだ。

 

今回、その標的となる悪魔がここに潜伏しているという情報を得て、ここまでやってきた。

 

そして案の定、襲われた人や動物と思しき死体やその欠片が転がっているのだが―――

 

「―――ドライグ」

『ああ、不自然だな。死体の数が少なすぎるうえに妙な臭いまでする。』

 

 

 

 

《キシシシシ……》

 

 

 

 

ドライグとそんなやりとりをしていると、どこからともなく声が聞こえ、この屋敷に潜んでいるであろう何者かの存在感がより濃厚に感じられる。

 

『相棒ッ、下だ!!』

「ッ!おうっ!!」

 

俺は咄嗟に跳躍する。

すると今まで俺が立っていた部分の床に亀裂が走り、砕ける。

そして床を突き破るようにして緑の巨大な顎が飛び出し、歯をむき出しにして閉じる。獲物を逃したことで狩りは空振りに終わる。

そして顎はそのまま地の底に消えていく。

 

両横から軋むような音が聞こえたので左右を確認すると、今度は左右両側の壁に亀裂が走り、壁がはがれて極太の茨の蔓のようなものが飛び出し、俺を狙って飛んでくる。あの質量と速度なら、普通の人間があれを喰らえば一たまりもなくミンチになって終わりだろう。

刀を抜き、一閃。

霊剣で斬られた蔓は青白い炎に包まれて消滅した。

先端を斬られた蔓はそのまま壁の穴に戻っていく。

 

『相棒』

「ああ、見えてる。道理で人を喰ってるはずなのに見当たらないワケだ。」

 

剥がれた壁の内側には無数の植物の根のようなものが網のように張り巡らされ、その間から干からびてミイラ状になった人間が幾体も確認できた。

だがそれもつかの間、今度は天井や床など四方八方から建材を突き破って茨の蔓が伸び、複雑に絡み合い、やがて全方位から網のようにして俺を捉えるべく迫る。

 

「なるほど、少々厄介だな。こいつ、知性を持ってやがる。」

『おや相棒、泣き言か?』

「ハハッ、冗談抜かせよ。いいかげん、このモグラ叩きにも飽きてきたところでな―――ヤツの魂そのものに着火させて炙り出す。」

 

俺は一旦刀を鞘に戻すと、腰をぐっと落とし、居合の構えを取る。

全身のオーラをかき集めて刀に集中させてチャージ、感覚を研ぎ澄ます。

蔓の網が収縮し、蔓から生えた極太の棘が俺の身体を突き刺すまであと1メートル少々まで迫った時。

 

 

 

 

 

「行くぜ――――『天児屋根・積尸気鬼蒼焔』ッ――――!!!!」

 

 

 

 

抜刀とともに、眩く・青白い炎があふれ出し、周囲の有機物に引火する。

積尸気鬼蒼焔は霊魂を火種として燃える特殊な炎、いわゆる鬼火だ。しかし今回は俺自身の霊力を燃料として注いで威力をバーストしている。そのため火力はその日ではなく、更に有機物であれば普通の炎と同様に燃やすことができる。

この炎をヤツの身体の一部である蔓を通して敵の魂に着火させて一気に炙り出して本体を叩くッ!

 

 

 

《キシャアアアアアアアアアッッ!!!!》

 

 

 

霊炎に包まれ、体が崩壊していく中、さすがに堪えたのか、ヘビの吐息のような音を響かせ、少し離れた位置の床を突き破り、ものすごい勢いで何かが飛び出す。

 

《フシュウウウウウウウッッ!!!熱い!熱いッ!》

 

現れたのは植物のような姿をした巨大な蛇の頭。

首の周りを襟巻のように色鮮やかな花弁状の器官に縁どられており、一見すると巨大な花から蛇の頭が生えているような姿をしていた。

はぐれ悪魔は残った蔓を伸ばして天井の建材や瓦礫を掬って炎にかけるのに必死になっている。

 

「やっとお出ましだな、はぐれ悪魔・サウロフィトン!!」

 

《シュウウウ……キミィ、よくもやってくれたネ……》

 

「フン、初めから殺しにかかってきたヤツに言われたかないね。」

 

俺の放った炎がようやく弱まってきたこところで、はぐれ悪魔―――サウロフィトンは忌々しそうな瞳で俺をみつめ、殺気を強める。

 

「ほう?お前喋れたのか。元実験用のキメラだって聞いてたから意外だな。」

《なるほど、ボクのこと、よく調べてるみたいだネ……》

「仕事だからな。さて――――

 

 

決着をつけようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 




字数が長くなりそうだったので二部構成になりました。

次回はいよいよ魔人イッセーと原作勢との対面です^^
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