魔人転生 〜兵藤一誠〜 - the outer demigod - 作:カイバル峠
試験が終わったので漸く更新ができました。
今回も長編です。
「どうした?こんなものか?」
《グゥッ!!》
はぐれ悪魔・サウロフィトンは俺の死角を狙って棘蔓を伸ばしてくるが、俺はその全てを悉く斬り捨てる。そもそもの攻撃のスピード自体が遅く、並み大抵の使い手であれば苦労するところだが、あいにくと俺にはその攻撃の全てが止まって見えるほどなのだ。
そして俺もただ迎撃するばかりではなく、ヤツの本体を狙って鬼蒼焔のオーラを飛ばす。
ヤツは蔓でガードするが、その度に鬼蒼焔で身体の一部を魂ごと削り取られ、消耗するのでどちらに分があるかは一目瞭然だった。
《ウウッ、仕方がない。かくなる上ハ!!》
屋敷の壁という壁、天井という天井から建材がごっそりと剥がれ落ち、下に張り巡らされていた根と、それに絡めとられていた人間の姿が露わになる。
そして根が強く脈打ち、本体へと吸い込まれるように妖しい光を放つ。同時に、絡めとられていた人々の身体が黒く変色して朽ち、ボロボロと崩れ落ちていく。
サウロフィトンの失われた体の部位がみるみるうちに再生し、本体の首回りの花弁は毒々しいほどに鮮やかな色に染まり、その両隣の地面を突き破って新たに二つの頭部が出現。さらに植物の葉を象ったような翼まで生える。
《やはり、手持ちのストックでは全て使い切らなければ厳しいカ……まあいい、キミを養分にすれば全部取り戻してもまだお釣りがくるだろウッ!!》
「ほう?自己再生までできんのか。それにしてもその姿…お前、やっぱり元はドラゴンか?」
《ああ、その通りさ。元々ボクは木龍の眷属である
「そうか、それは奇遇だな。実は俺も中にドラゴンが宿っててな。」
俺はほんの少しだけ、ドライグ由来のオーラを解放して見せる。するとヤツの顔色がみるみるうちに険しいものに変わっていく――
―――蛇顔なので細かい表情の変化までは分からないが。
《おいおい……キミ、ドラゴンはドラゴンでも相当ヤバいヤツじゃないか、そレ。》
サウロフィトンの声色は微かに、だが確実に焦りを感じていることを示すものだった。恐らくヤツが人型だったら間違いなく冷や汗を流しているくらいな。
「まあな。これでもまだ0.001%も出してないぜ?余計なモノをいろいろと引き寄せちまうからな。」
《……なるほど、なら、キミのいう余計なモノでも呼び出そうじゃないカ。》
「?」
サウロフィトンがそう言うと、ヤツの首周りの花弁がより一層、毒々しくも鮮やかな赤色に輝き、同時に周囲を妙に甘ったるい空気が包み込む。
「これは瘴気……いや、香気か!」
『注意しろよ相棒。この中にはとんでもない量の毒素が含まれている。しかも皮膚を透過するタイプのヤツだ。オーラの放出を止めるなよ?』
俺とドライグとのやり取りを見てヤツは愉快そうに、笑っているようにも見えた。
《おや?どうやらこれの正体に心当たりがあるようだネ?》
「ああ。この甘い香り、普通の人間なら致死量をとっくに超える毒素の量。お前、
俺の言葉に、サウロフィトンはさもおかしそうに、でも満足そうな調子を見せる。
《キシシシシッ、正解だよ。よくわかったね?そう、ボクを造った元ご主人は旧魔王時代から生物兵器の研究開発なんかをやってた筋金入りの
「そういうことか。つまり、お前はこの香りで人間を誘い出して、動けなくなったところを喰っていたってことだろ?」
《さあね?でもそんなことは今はそんなことを考えている余裕はキミにはないはずだよ。さっさとボクを倒さないと、無関係の人間がのこのこやってきちゃうかもしれないんだから……まあ、ボクにとってはその方が都合がいいんだけどネ。》
「……そうかよ。」
赤色の空気が視認さえできるまでに香気の濃度が増し、その向こうでサウロフィトンの瞳と花弁が妖しく輝く。
香気の濃度が増すにつれて毒性も強くなっている。俺自身は何ともなくとも、近隣に被害を出すことはなんとしてでも避けねばならない。ここは人間界なのだから。
……アレを使うしかない。
俺は香気が建物の外、少なくとも一番近くの市街地にまでは届いていないことを確認すると同時に廃屋の敷地全体を結界で覆う。
そして剣を構え、己のあらゆる感覚を研ぎ澄ます。
「――――積尸気魂葬破ッッ!!!」
俺を中心に眩い光が辺り一帯を埋め尽くす。
圧縮した霊力が炸薬代わりとなって爆発を引き起こし、霊力使用の際に高まった感覚が俺の周りで起こるあらゆる現象をミクロで捉え、霊炎が香気の分子一つ一つを燃やしていく様子がくっきりと知覚でき、脳内にそのビジョンが鮮明に流れる。
「ッ」
炎がサウロフィトンに迫るなか、ふと、ヤツが笑ったように感じた。
爆発が収まったのち、瓦礫に混じって、頭だけとなったサウロフィトンが俺の前に横たわっていた。
首回りの花弁はちぎれ飛び、肉も鱗も削げ落ちて内部の体組織が露わになり、残った皮膚も黒く焦げ付いたり、あるいはすでに炭化している。
《キ…シシシシ……香気ごと焼き払うだなんて……まったく、デタラメだね…キミハ……》
「よく言うぜ……お前、最初から死ぬ気だったんだろ?」
《さあ?どうだろうね……でも、そうだとしたらどうだい?悪魔にいいように使われた気分ハ?》
「最悪だな、クソッタレが。」
もはや虫の息とでもいうべき状態のサウロフィトンは俺の言葉に、わずかにだが、口元をニッと釣り上げたように見えた。
方々が焼け落ちた身体からはみるみるうちに生体反応が失われていくのを感じる。鬼蒼焔と神霊剣である十束剣のオーラ。その両方を受けて肉体も魂も既に限界を迎えているはずだ。使った俺がいうのもなんだが、その状態で未だ形と意識を保っているのは最早奇跡に近い。
《キシシ、でも、これでいいんだ……兵器として生み出された以上ボクは戦いの道具として利用されるだけだろうからね。壊れても、用済みになっても廃棄されるだけダ。》
「テメェの御託なんざ知ったことじゃない……だがこれ以上お前みたいなのを生み出されたらこっちとしても困るからな。お前の主人だった者の名は?」
《あー、なるほどね。でもせっかくやる気のところ悪いんだけど、それを聞いても無駄だと思うよ……だって逃げ出すときボクが養分にしちゃったからサ。》
「……そうかい、そいつは助かるな。」
サウロフィトンはどこか満足したような様子で目を閉じた。
同時に身体が急速に崩れ、灰となって消えていく。
今の今まで最後の気力で身体を保っていたのだろう。
ものの数分で、屋敷の至る所に入り込んでいたヤツの身体の全てが消滅した。
『相棒、あいつらはどうするんだ?』
ドライグが未だに壁や天井、床下に埋められていた人々の骸を指して言う。
どれも苦悶の表情を浮かべ、まだ生きているようにさえ見える。
「残念だが、手遅れだな。あの人たちは既にこと切れてしまっている。あとは手厚く葬って――――」
その時だった。
突如として何者かによって結界が上書きされ、巨大な重圧が一帯を支配する。
まるで存在するもの全てを支配し、収奪するような、ある種の
「久しぶりだな、兵藤一誠。」
「!」
この声―――
俺は思わず頭上を見上げた。
暗い色合いの銀髪の男が一人、宙に佇み、こちらを見下ろしている。
「クククク、まさか異世界で、よりにもよって貴様と出会えるとは思ってもみなかったぞ。」
「……俺もこんなところでお前と再会するとは思ってもみなかったよ、リエールハルト・ルシファー。」
男――リエールハルト・ルシファーは薄笑いを浮かべながら、暴君のごとき重圧と威厳、尊大さを纏いながら地に降り立つ。
「フン、相も変わらず生意気な奴よ。矮小なる人の身でこの私同様、あの世界の崩壊を生き残るとは……いや、その様子では少なくとも無事ではなかったか―――貴様、肉体を取り換えたな?」
リエールハルトは見下すような目つきで、俺の身体を隅から隅まで調べ上げるように一瞥した。
「そういう貴様こそ、いつの間に悪魔をやめたんだ?聖書で神に次ぐとまで謳われた
そう、この男・リエールハルトはかつて俺と同じ世界で生きていた者だ。
聖書の三大勢力の一角である悪魔の首魁・魔王ルシファーの縁者。
俺にとっては忘れたくても決して忘れることのできない存在。
なぜならこいつが俺の故郷を――――
「気づいたか。そこだけはさすがだと褒めてやらんでもない。だが、私は悪魔を捨てたわけではない。元来我がルシファーに備わっていた力に目覚め、結果として悪魔の領域を超えただけのこと。遥か古の時代に“聖書化”によって喪われた存在の力にな。」
そう言うリエールハルトの背後に、翼と純白の羽毛を持つ蛇、あるいは龍の姿がうっすらと浮かび上がったような気がした。
そういうことか。
かつて奴が言っていたことの意味がようやく分かったよ。
悪魔は聖書で語られる以上に複雑で歪な存在だということの意味が。
「それで、俺に何の用だ?ただ再会の挨拶をかわすためだけに態々こんなところまで来たわけではあるまい。」
「無論だ。貴様と同様、私もこの世界で為すべきを為す。それを伝えにきただけだ。折角再会できた宿敵への挨拶もついでにな。」
「為すべきこと、だと……まさか貴様っ!!」
リエールハルトは笑みを深めた。
「ああ、貴様の考えている通りだ。今の私にはそれを可能にする権能がある。」
「……気が変わった。やはりお前はこの場で始末しなければならないみたいだな。」
俺は刀の柄に手を掛け、オーラを高める。
「フン、無粋な……だが、今は争う時ではないようだ」
「!」
すぐ近くに赤い魔法陣が出現した。
そしてその紋章が示す魔法陣の主は元72柱の―――
「漸く気が付いたのか。この世界の悪魔は随分と呑気なようだな。」
リエールハルトは皮肉気に笑むと、そのまま転移用の魔法陣を展開する。
「逃げる気かッ」
「仕方あるまい。とんだ邪魔が入ってしまったのだ。そもそもこの私が、下々の小娘共の遊びに時間を割いてやる義理などないのでな。面倒に巻き込まれたくなければ貴様も早くこの場を去ることだ。」
俺が伸ばした手もむなしく、リエールハルトはそのまま魔法陣の光の向こうに消えていった。
それと入れ替わるように、赤い魔法陣から数人の少年少女が現れる。
その中で先頭に立つ少女の、鮮やかな紅色の髪が目に付いた。
彼女は俺と周囲の惨状を見るなり、開口一番に詰問の言葉を発した。
「これはあなたがやったのかしら?」
凛とした声音から感じ取れるのは、自らの能力と出自に対する絶対の自信、それゆえに無意識下に根付く、相対するものすべてに対し自分が優位にあるという自負。
そして温室で何不自由なく育ってきたがゆえに生じる、自分の領分や所有物に対する執着心と排他性。
正直、あまり関わりたくない相手だ。
「だとしたら、どうする?」
「そう、ならば詳しい事情を聞かせてもらう必要があるわ。ここはこのリアス・グレモリーの領地なのだから。」
リアス・グレモリーの言葉に、周囲にいた四人はじりじりと俺に詰め寄り、主の言葉一つですぐにでも俺を捕らえられるよう身構えている。
「一つ確認させてもらいたいのだけれど、その仮面にその刀、あなたが巷で有名な
「そういえば、世間ではそんな風に呼ばれていたかな。」
「ならば好都合ね。あなたははぐれ悪魔のみならず上級悪魔も標的にしている。ゆえにその真意を問いただす必要があるわ。」
グレモリーは笑みを深くする。
それは探していた玩具を見つけた子供のような、ある種の無邪気ささえ感じさせる。
いや、実際にそうなのだろう。
彼女が今までの人生の中で出会ってきたものは全て自分や自分の家の力で思い通りに動かせるものであって、これからもそうでなくてはならない。
だから、数の利もあり、既に勝利を確信した気でいるのだ。
「俺はただ、不当に苦しむ者を救っているだけだが?事実、俺が今まで葬ってきた奴らはいずれも喜々として人やこの世界の害となる行いをしている連中ばかりだった―――ならば逆に聞くが、人が人を救うのに理由が要るか?……見ろ。」
俺がそう言って屋敷の残骸に埋もれる人々の亡骸を指さして言う。
「この人達が見えるか?全てはぐれ悪魔によるものだ。しかも調べたところこの街では既に何件もこういった事件が起きている。」
「ッ!だからと言って、勝手をしていい理由にはならないわ。」
「勝手、か。その言葉、そのまま返そう。貴様ら悪魔は、一体何の権利があって人間界や人様の管理者になった気でいる?」
俺がそう言って少しだけ威圧すると、途端に連中は険しい表情になって額に汗を浮かべる。
肝心のグレモリーが答える様子もないので、俺はもう少しだけ話を続けることにした。
「悪魔は『悪魔の駒』による人間の拉致・奴隷化とはぐれ悪魔による被害、堕天使は人間を操るか、脅威認定して保護の瞑目で連れ去るか、さもなくば殺害、天使は神の名を使って人間に犠牲を強いる。正直三大勢力ははぐれとなんら変わらない害悪だ。」
「そ、そんなことは!」
「認められないか?だがそれは紛れもない事実だ。既にこれだけの被害が出ていることはどう説明する?ほかでもない、お前たち悪魔が『悪魔の駒』なんてものを作り出さなければ初めからこんなことにはならなかった……それに」
俺はヤツの取り巻きの一人―――この世界の俺自身に目を向ける。
「以前この街に入り込んだ堕天使によって一般住民に死傷者が出ていたな?管理者を気取るなら、今回のはぐれ悪魔の件もそうだが、管理責任についてはどう釈明するつもりだ?それとも人間界など学生の片手間で勤まる程度の簡単なものとでもお考えなのかな?」
グレモリーは俯き、唇を噛みしめる。
今度こそ、本当に黙り込んだのかと思いきや、その沈黙は意外な人物によって破られる。
「おいテメェ!!さっきから聞いてりゃ好き勝手言いやがって!!確かにはぐれ悪魔のせいで被害が出てるのかもしれない。だけどな、俺たちはそんな奴らを許しちゃいねぇし、解決もしてるんだ!何より、部長たちを悪く言うヤツは俺が許さねぇ!!」
ズカズカと前に出てきて啖呵を切ったのは茶髪の少年。相当グレモリーに入れ込んでいるようだな。
だがその事実は俺にとっては不快以外の何物でもない。
「部長!アイツを捕らえるんですよね?!やりましょう!俺、何も知らないくせにのこのこ出てきて、部長たちのこと悪く言うあいつが許せません!一発殴って謝らせてやらないと気が済まないんです!!俺たちグレモリー眷属の力、見せてやりましょう!!」
「イッセー……そうよね。ここまで言われて引き下がるのはグレモリー家の名折れ、私たち悪魔への宣戦布告だわ!イッセー、ありがとう。あなたのおかげで吹っ切れたわ……朱乃!」
「はい部長。」
茶髪の男――兵藤一誠とリアス・グレモリーが互いに微笑みあう。
折角戦意を喪失したかと思ったのに、まったく、面倒なことをしてくれるものだ。
リアス・グレモリーにけしかけられた黒髪ポニーテールの女の恰好が瞬時に学生服姿から巫女服へと変わり、黒い翼を広げ、嗜虐的な笑みを浮かべながら宙に舞い上がった。
「うふふふ、私自身はあなたに何か恨みがあるわけではありませんが、主の顔に泥を塗った咎は償っていただかなければ。雷鳴よ、鳴り響けッ!!」
女が上に向かって指を掲げると、屋内だというのに小規模な雷雲が発生し、稲妻が走る。
そして俺を獲物を捕らえて悦に入ったような目つきで一瞥すると、腕を振り下ろした。
それに呼応し、雷雲から雷が降り注ぐ。
下級悪魔にしてはなかなかの威力だな。
だが―――
「この程度か」
「そんなっ?!」
俺を焼き焦がすはずだった雷は俺の掌に収まり、その中エネルギーはいまだに火花を散らしながら燻っている。
「どうした?この程度では俺を捕らえることなど到底できんぞ?」
「くっ、祐斗!!」
「はいっ!!」
今度は剣を構えた金髪の優男が迫る。
この速度、こいつは『騎士』か。
「筋はいいが、遅いぞ?」
俺が抜刀した瞬間、騎士クンの剣は砕け、折れた切っ先は回転しながら放物線を描くと地面に落ち、甲高い音を立てる。
そして
「ぐああああッ!!」
「祐斗!!」
騎士クンは剣を取り落とし、その場に膝から崩れ落ちる。
つい先ほどまで剣を握っていた腕を抑えており、プルプルと小刻みに震えていた。
「剣を斬りつけた瞬間、超微細振動と、先ほどそっちの巫女が放った雷撃のエネルギーを加えた。しばらくは身体が麻痺して剣を振るうどころではあるまい。」
「くっ、ならば…
奴が残ったもう一方の腕を地に付けると、形も大きさも様々な刃が床を割りながら俺に迫る。
「ほう、神器持ちか。面白いな…ハァッ!!」
俺は刀を握る手に力を籠める。
剣そのものの力に俺の霊力が加わり、刀身から青白い霊光が溢れ出る。
そして一閃。
斬撃に乗った霊力は神器に生み出された剣の針山を粉砕し、余剰エネルギーはそのまま奴らの間をすり抜けて背後にあった壁に直撃した。
「その光、まさか……」
「おや、気づいたか。だが知っているなら理解できるだろう?神器で生み出した刃など届きはしないと。」
その時、すぐ背後から忍び寄る気配を感じた。どうやらもう一人、伏兵が潜んでいたようだ。俺は迎撃の体制を整えようとしたとき、ほんの一瞬体がこわばり、対応が遅れる。
「隙あり…」
振り向くと、俺の視界に入ったのは小柄な白髪の少女。
何かが引っかかった。何故だろうか、俺はこの少女を知っているような気がする。
いや、厳密にはこの少女の面影に誰かを重ねているような…
彼女の固めた拳が迫る。
そうか、この子が―――
俺は咄嗟に体の前で腕を交差させ、後ろに飛んで衝撃を殺す。
そのおかげでダメージはほとんどない。
ようやく、見つけたんだ。
「子猫ちゃん!ナイスだ!!」
「!」
意識が引き戻される。
今度は後ろ、すなわち俺が飛ぶ軌道の直線上にヤツが待ち構えていた。
「覚悟しやがれ
『Boost!』
機械音と共に緑色の燐光を放ちながら、ヤツの左手が赤い籠手に包まれる。
そしてそれはほかならぬ俺が一番よく知るもの。
こちらの世界の俺自身。
拳を固め、引き絞った状態で俺に肉薄する。
だがちょうどその時、ほんの一瞬だった。
奴の意識が、こちら以外の何者かに向けられた。
そしてそののち、ヤツの瞳に力が籠る――勝利を確信したように。
その時奴が意識を向けた相手、そんなのは一人しかいない。
「――お前は、どうして……」
それが分かった瞬間、俺の中で何かがプツンと、音を立ててちぎれるのを感じた。
◇◆ ◆◇
「―――!―――!」
おかしい。
なんで俺は宙を舞っているんだ?
視界を埋め尽くす一面の赤。
これは…炎?いや、違う……
前に神器の中に潜った時、ちょうどあんな感じだったような……
「―――!―――!」
あれ、そういえば俺は何でこんなところに……ああ、そうだった。
部長たちとはぐれ悪魔を退治しに来て…それで……
「ゴフッ……」
ってぇ……
腹に突き刺さるような衝撃と共に、俺の意識は途絶えた。
◇◆ ◆◇
「イッセー?!!」
赤龍帝・兵藤一誠はすさまじい勢いでリアスたちの頭上を通り過ぎ、瓦礫の山にたたきつけられる。
幸い、気を失っているだけのようだ。
リアスたちは目を疑った。
はぐれ悪魔狩りに出かけた先で思いがけず見かけた
何件もの悪魔や堕天使、天使の暗殺に関わっているとされ、三大勢力内ではついに指名手配までなされた存在。その所業から、捕らえれば自分たちの手柄になることは間違いない。それに自分には母から受け継いだ滅びの力があり、赤龍帝を始め手塩にかけて育ててきた眷属たちもいる。
だから、自分たちなら絶対に捕まえられる、そう確信して止まなかった。
今までのはぐれ悪魔同様、すぐに打ち倒し、自分たちに首を垂れるはずだったのだ……
眷属の中で、自身に次ぐ力を持つ『女王』・姫島朱乃の雷撃は防がれ、眷属中最速を誇る『騎士』・木場祐斗のスピードも剣技も、神器の力も通用しなかった。
そして期待の新星である『兵士』・赤龍帝兵藤一誠もこのざまだ。
『いツも…イつモ……貴さマらあク魔は……』
「「!!」」
彼女の眷属が飛んできた方向、渦巻くは赤いオーラの奔流。
その中から、低く、仰々しき声が響く。
『いツの時代デも、どこのせかイでモ、器でモ無いのに、支はイ者を気ドり、禍をまキ散ラす……ならバ』
オーラの奔流の中から現れる影。
酷くノイズめいていて聞き取りづらいが、確かに自分たちが捕らえようとしていた者が発している。
『―――滅せネばなるまイ』
やがてその姿が露わとなる。
全身を紅蓮の鎧に包まれた
複数の細かなパーツが形作る生物的で鋭角なフォルム、全体としてはドラゴンを連想させるデザインだった。胴と手足、頭とパーツが明確に分離しており、二の腕や太腿の一部は覆われていない。左右に一対、頭頂部に一本の角を配したヘルムからは顔全体が覗いており――最も仮面はついたままなので素顔は伺えないが、後頭部から地面を引き摺るほど長い鎖状のパーツが伸びる。ショルダーは葉状の四枚重ねのプレートで構成され、胴のパーツは胸辺りに目と口のような細工がなされ、そして最大の特徴として背中から扇状に展開する、巨大な翼のパーツが全体の輪郭を際立たせる。
印象としては以前自身の眷属である赤龍帝が禁手化した時に見せた鎧姿にどことなく似ているが、遥かに刺々しく威圧的、輝きも冷たい――――まるで地の底、冥府の鎧師の手で打たれたかのような。
「……」
その姿を目の当たりにしたとき、リアスの中で何かが沸き起こる。
一つは得体のしれぬ者への恐怖、そしてもう一つは、情愛深いグレモリーの血を引く彼女だからこそ感じうるものだった。
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