ルパン四世と学園モノ!   作:早乙女 涼

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紬とみぞれ

 

 ――外出用のカジュアル系の私服へと着替え、部屋で待っていると、ノックが三回鳴った。

『俺だ。メイドちゃんも居る』

「玄哉か、どうぞ。空いているよ」

 そしてボクは二人を迎え入れる。

 玄哉は相変わらずの黒スーツだったけれど、みぞれは外出という事で私服を着込んでいる。

 黒いダッフルコートを着たみぞれ。低身長な彼女だからこそ映えるというもの。とても可愛らしい。

「お待たせいたしました、紬様」

「構わないよ。みぞれのコーデはとてもいいね。すごく可愛らしい。玄哉はー……うん、いつも通りだ。生地は厚いものにしたのかな?」

「ふふっ、ありがとうございます。紬様もとても似合っていらっしゃいますよ」

「どうして俺のスーツのレパートリーを知ってやがる……」

 頬を少し赤くしたみぞれと、ぎょっとして前髪をいじっている玄哉。ボクはソファの背もたれに掛けておいた黒いコートを手に取ると、屋敷の玄関口まで二人と共に歩いて行く。

 その途中で、八十島さんが花瓶にさしている華の手入れをしていた。

「八十島さん、予定通り出て来るよ。お昼は外で食べて来るから、夕飯だけお願いしてもらっても構わないかな?」

「承知いたしました、紬お嬢様。お気を付けていってらっしゃいませ」

「うん。でも大丈夫、みぞれも玄哉も居てくれるから、安全は確保されている様なものさ。それじゃあ、行ってくるよ」

「はい」

「行こう、二人とも」

「ああ」

「行って参ります、八十島さん」

「はい、行ってらっしゃい」

 玄哉は頷きながらボクと共に歩みを進めるけれど、みぞれは八十島さんへぺこりと一礼してからボク達に続いた。ああ、健気なところがとても可愛らしい。

 

       * * *

 

 ボク達の屋敷から歩いて十数分。目的の市街地……というより、ショッピングモールなどが集合する歓楽街へと到着した。

「さて、玄哉の買い物はなんだい?」

「いやな、俺は大学部だから私服を買おうと思ってな……」

「なるほどね」

 ボクもあまり彼の私服姿は見た事がない。それほど彼は基本的にスーツを着込んでいて、あったとしてもアロハシャツくらいだろう。つまり、レアなんだ。

 洋服を売っているお店へと入りながら、ボクは玄哉を見上げる。

「玄哉の私服はあまり見た事がないから、君がどんな服が好みなのか見てみたいな」

「野郎の買い物に付き合ったって楽しかねーだろうに……」

「興味本位さ」

 彼はその言葉に嘆息して、みぞれはくすくすと笑う。

「それじゃあボクもみぞれと一緒に服を選ぼうかな」

「はい。是非ご一緒させてください、紬様」

「んじゃ、俺は適当に行くな」

「うん。それじゃあまたあとで」

「おう」

「紬様も、次元様の私服は見たことがないんですか?」

「そうなんだよ。見たとしても小さい頃なものだからね。あまり覚えていないんだ」

「なるほどー……」

「むしろ、今の彼がスーツ以外のものを着る事が想像できないんだよね」

 メンズ売り場へと自然に足を運びつつ、ボクは苦笑いを浮かべていると、みぞれはきょろきょろとあたりを気にし始める。

「えっと、みぞれ? 君も欲しい服があったら見に行ってもかまわないよ。こういう時くらい遠慮しないで、友達と一緒に居る感覚で接して欲しいな」

「つ、紬様……ですが……」

「うーん……。それじゃあ今だけ『さん』付けで行こう。これから学校生活も始まるわけだし、校内で様付けもおかしいからね」

「わ、分かりました。それでは紬さん、と……」

 今度は完璧の頬を赤らめながら、指を絡めながらボクを見上げて来るみぞれ。何この子とてもかわいい。天使? 天使なの? ボクに舞い降りた天使様? おっと、逆に様つけちゃった。

 ボクは頬を緩ませながら、頭の上を優しくぽんぽんっと撫でると、みぞれはふにゃあと顔を綻ばせてくれる。ああ、やっぱり天使だ。間違いない。

「うん。ボクは少しだけメンズを見て来るから、みぞれはレディースを見て来るといい。基本的にこのあたりに居るはずだから」

 流石にボクだって男性物の下着を付ける性癖はないしね。

「はい、分かりました。それではお言葉に甘えて少しだけ見てきます」

「よし、行っておいで」

 ボクの言葉にみぞれは頷くと、八十島さんの時の様にペコリと頭を下げて女の子物の洋服売り場へと歩いて行く。

 よし、早いところボクも自分の服買っちゃおう。

 

 

「ん」

「お」

 レジカウンターの所で、驚いた事にカゴを提げた玄哉と出くわした。

 ボクは結構見に付ける物は少し時間をかけて選ぶタイプだったと思っていたんだけれど……。

 まさか男性と同じレベルだったとは。

 このままでは負けた気がするので、ボクは普段はあまり着ない女性物売り場へと足を向ける。

「おい、そっちは女モンだぞ」

「……君にはッ、デリカシーというものがッ、ないのかッ!!」

 ああ、顔が熱い。そのままボクを制止した玄哉へと振り向いて、軽くジ()ンダを踏む。

「わ、悪ぃ……。でもお前、あまり女らしいモンは着ないだろ」

「うぐっ……!」

 玄哉のドストレートな言葉に打ちのめされる。

 いや、それでもボクだってパーティドレスくらいは女性物を着ていたさ。十五歳まで(つまり二年弱)は。

「今日はたまたまだからね……たまたまいい洋服がすぐ近くにあっただけだからね……」

「なんて顔してんだよ……」

 うつろな目をしながら、ボクは玄哉の後ろに並ぶ。ここが漫画世界(コミックワールド)なら血涙モノだ。玄哉は半笑いで流しているし。やっぱり悔しいなぁ。

「そういえば、メイドちゃんはどうした?」

「みぞれ? みぞれは女の子だもの。少し時間がかかるんじゃないかな?」

「いや、みぞれは、って。お前も女だろ……」

「?」

 ん、何か変な事を言ってしまっただろうか? 玄哉は呆れ気味にため息をつく。

 それから会計を済ませたボク達は、お店の中にある休憩室のベンチへ腰掛けて、彼女を待つ事にした。

「そういやあ、昨日伊右衛門からとっつぁんの息子について情報をもらったんだけどな」

「うん。どうだった?」

「お前と同級生らしい。現在は伊右衛門のクラスメイトだそうだ」

「……伊右衛門と?」

「そうだ」

 大丈夫なのだろうか、そのクラスは。

 いや、伊右衛門はボク達よりかは段違いの常識人だし、問題が起きる事なんて女性絡みくらいしか想像できないけれど。

「性格とか、他に特徴か何かないの?」

「まあそう焦るなよ。性格はとっつぁんみたいに正義感の強い奴らしいが、常識もわきまえてるようだ。大人しいとっつぁんを想像してくれりゃ一発だろう」

「大人しい銭形さん……。なんだかちょっと可愛いかもしれない」

「目覚めるなよ、ソッチに」

「どういうことかなそれは」

「……言葉通りの意味だ」

 玄哉はそっと帽子の角度をさげて、ボクの視線から逸した。便利すぎでしょその帽子。表情が見えなくなるんだもん。

 なんだか今日の玄哉は機嫌が悪い? いちいち言葉が刺さるんだよなあ。

「他に聞きたい事はあるか?」

「んー。玄哉はどんな服を買ったのか気になるっていうのと、お兄様から電話を貰えたよ」

「へえ、アニキからか」

「相変わらず元気そうだったよ。お話が出来たのは三分くらいだけだったけど」

 ボクはそう言いつつ表情を綻ばせると、不意に玄哉はふっと笑った。

「笑う事ないんじゃないかなあ」

「悪い悪い。お前は相変わらずアニキが好きだな」

「そりゃあそうだよ。みんな大好きなんだもん」

「そうやって真顔で言える当たり、本物だよ。お前は」

 玄哉はそう言うと、ベンチから立ちあがって、自動販売機へと歩いて行くのだった。

「あ、ボク紅茶がいいな」

「………」

 

       * * *

 

 それからみぞれと合流して、暫くショッピングを楽しんでいたのだけれど。

「やっぱりねー」

「まあな」

 目の前に大量に現れるのは、ひと、ヒト、人。

 テレビ局の人だったり、アイドル業界の人だったり。あとは近くを散歩していた人達がこぞってケータイやカメラを手にボクへ群がっている。

 玄哉はそんなボクと人々の間へ立ち、盾役を担いながら苦笑いを浮かべていた。

「みぞれ、普通の撮影の人はオーケーだから、テレビとかスカウトの人はお断りして貰って構わないかな?」

「はい、分かりました」

 ボクの後ろへついておどおどしていたみぞれへとお願いすると、彼女はハッと我を取り戻して頷き、玄哉の隣へと立つ。

「記念撮影の方は是非ご一緒に。他のみなさんは申し訳ありませんがお引き取りください」

 なるほど、丁寧なお断りの仕方だ。

 彼女がペコリと一礼し、ボクも目を伏せて会釈をすると、しぶしぶとスカウト目的の人々は退散してくれた。

 でも……まぁ、なんというか。

 一度離れたけどサッと懐からケータイを取り出して列へ並び直す人が大半だ。やっぱり、手ぶらで帰るのはまずいのかな。流石は日本人。仕事熱心でとても素敵だよ。

「あの、外国人モデルの方ですか!?」

「いえ。(わたくし)は通りすがりの一般市民ですよ」

 やや外国訛りが出てしまったけれど、トップバッターを切った大学生ほどの女性とツーショット撮影。彼女は顔を真っ赤にしてお礼を言うと、ほくほく顔で帰っていった。

 それから三十分ほどを撮影の時間に回しつつ、切りのいいところで退散する事に。

 ボクとしても目立つのは嫌いじゃない。ただ、この髪色はあまり好かなかったりする。

 家族はみんなボクとは正反対の色合いなので、ちょっとだけ負い目を感じるんだ。子供っぽいよね。自分でもそう思うよ。

 ただこれで髪を染め直すというのも負けた気がしてならない。なのでボクはこの髪色でつき通す事にしたんだ。

 

       * * *

 

 午後四時頃。

 ボク達は屋敷へと戻り、メイド服へ着替えたみぞれに紅茶を淹れてもらいながら自室で寛いでいた。

「そういえばみぞれ」

「はい?」

「君はあまり、ボクの容姿を気にしていないね? 昨日初めて会った時もそうだ」

 そう。昨日の談話室でメイドさん五人と会ったけれど、八十島さんを含むみぞれ以外のメイドさん四人が、ボクの容姿に大層驚いていた。

 それはそうだろう。髪は真っ白で、その割には瞳の色は黒いんだ。病気とも思われても仕方がない。

 だというのに。他のメイドさん達は驚きに目を見開く中で、目の合ったみぞれはただひとり、微笑み返してくれた。

 ボクが彼女に強い好感を抱いたのはそこからだ。

「以前に、ボクの様な人に出会った事が?」

「いえ、ありません。わたくしは海外へは数えるほどしか行った事がないので……」

「それじゃあ、別段見慣れていた、というわけじゃあないんだね」

「はい。昨日紬様と初めてお会いした時……あ」

「ん? どうしたんだい?」

 みぞれはそこまで言ってから口をつぐむものだから、ボクは気になって顔を上げてしまった。

 すると、彼女は頬を朱色に染めてもじもじとしている。どうしたんだろう、会話からは伺えなかったけれど、お手洗いでも我慢しているのだろうか。

「い、いえ。なんでもございません」

「ちょっと待って。ボクは言う事はしっかりと言い切ってもらわないと、気になって夜も眠れない性分なんだ。だから、話して?」

 そんなボクの真剣な眼差しを汲んでくれたのか、みぞれは顔を真っ赤にして「あうぅぅ……」と唸ってから、俯きがちに、

「お……お綺麗だと思いました……」

 そう言った。

「そ、そっか……う、うん。ありがとうもういい。紅茶も美味しかった、そろそろ一人になりたいから下がってもらってもいいかな」

 やや早口でそう言うと、みぞれは「わかりました」と言ってそそくさとティーセットを片づけて部屋から出て行く。

「……あー……」

 やばい、やっぱりみぞれ天使。天使ちゃんマジ天使。顔赤くなってたのバレなかったかな。

 ボクは人生で初めて、自分の容姿を褒められて照れてしまったのだった。

 




 遅ればせながらUA500が一気に超えました! 本当にありがとうございます!
 これからもがんばって執筆してまいりますので、どうかよろしくお願いします!

 みぞれちゃんと紬様の関係にフラグが立ちそうな件について。(※ただしGLではない!!)

 次お兄様いつ出そうか考え中……(作者としてはお兄様×紬様の絡みが大好き)
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