冒険者?いいえ農民です。-凍結-   作:上やくそう

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今回ちょっと長いですすいまそん

小次郎口調むずかし杉ィ!!

そういや立ち読みしてきたコンプエースに載ってたGOの新キャスターが若かりし日のキャス子さんにしか見えなくてワロタ。
キャスター・リリィとでも言うつもりか武内ィ?あ"ぁ"ん?
可愛いじゃねえか馬鹿野郎!!許す!!


────ドレスをツンと押し上げる乳首が、眼福だった。




∵月!日 月下刀乱

月光の下。涼やかな風が若葉を撫でる。

 

 

 

がたごと、と煌びやかな装飾を施された馬車が揺れる。

 

舗装もろくにされていない山道を春姫を乗せた馬車の一行は進んでいた。

 

(どうして、こんな事に……)

 

中央の護衛付きの馬車。

そのそれなりには広い部屋の中で春姫はぼんやりと考えていた。

なぜ、自分はこんな所にいるのか考えてみる。

 

 

 

────最後に彼等と遊んだのは何時だったか。

ただ毎日を一日前と同じように過ごす日々。そんな自分を見ていられないとばかりに無理矢理連れ出してくれた彼等。

始めはその強引さに強く戸惑ったのをよく覚えている。

しかし彼等はそんな自分など御構い無しに、太陽の様に笑いかけながら連れ回した。

連れ回して、くれた。

 

あの頃から、自分の世界が広がった。

 

まるで空を照らし出す太陽のように、彼等はいつのまにか春姫の心にかかっていた雲を晴らしてくれた。

 

 

 

 

────そういえば、あの少年は初めて会った時に、「何故私も誘わなかったのだ」と拗ねていたっけ。

 

 

幼馴染の一人、いつも自分に、自分の知らない面白い物語を語ってくれる少年の事をふと思い出し、春姫はほんの少しだけ可笑しい気分になった。

 

「彼」は年不相応にとても大人然としていて、いつも春姫達を優しく面倒を見てくれるのに、こういった所で子供らしさを見せるのだ。

初めて会った時だって、命達三人が春姫を連れ出すという計画に自分だけ仲間はずれにされていたとその端整な顔に少しだけ眉を寄せてぶつぶつと言っていた。

 

彼はいつも春姫の知らない物語を語ってくれる。

 

知り合って間もない頃、口数の多い方ではない彼に少し距離を感じていた春姫に、彼は自分から話しかけて来てくれた。

 

そして春姫がおとぎ話や童話が好きだという事を話すと、色々な話を聞かせてくれたのだ。

 

 

熊と相撲して打ち勝つ(まさかり)を担ぐ(わらべ)の話。

 

鬼に挑む三匹の獣を引き連れた武士の話。

 

小さき身でありながら、遥か強大な鬼を倒す小人の話。

 

 

どれもこれも初めて聞いたものばかりだった。何処でその物語を知ったのかと聞いても、「さて、何処でだったか。 最早覚えておらんな」と言うだけだった。

 

 

 

 

────彼はいつも刀を振るっていた。

 

まるで何かに急かされる様に、どこか遠い所を見つめながら。

 

それが物語に出てくる英雄を目指している様に自分には見えて。

 

本当に自分の手が届かない遠い場所へ行ってしまいそうで、恐かった。

 

だから春姫は社に訪れた時、決まって彼と遊んだ。

 

彼がいつの間にか何処かへ行ってしまいそうだったから。話すのはあまり得意ではないけれど、勇気を出して彼に声をかけた。

 

 

それがどうだ。遠くへ行って欲しくないと願っていたのに、今春姫は自分から彼等から、今まで生きてきた自らの家さえ離れてこんな所まで来ている。

自業自得(・・・・)なのは分かっているが、とてもやりきれなかった。

 

「どうかしたかい?」

 

表情に出ていたのだろう、ふと春姫を心配する声がかけられた。

顔を上げると、小太りした小人族(パルゥム)の男性が此方を伺っていた。

年の頃は三十そこらといった所だろうか。

 

「い、いえ……なんでもありません」

 

「そうかい?」

 

勘当され、本来ならば行く当てすらなかった自分の事を拾ってくれた春姫の「恩人」だ。

 

「大丈夫。何も心配はいらないよ。お父上に代わって、春姫ちゃんはボクが守ってあげるよぉ」

 

だが、理由は分からないが春姫は今の彼が浮かべる笑みが苦手だった。嫌い、と言ってもいい。

 

あの視線を向けられると、何故か背筋が寒くなる。

 

根拠などない。故に春姫は「自分がおかしいだけなのだろう、恩人にそんな事を思うなんて失礼だ」と自分を無理矢理納得させた。

 

引き取って貰い、これからこの人の所で新しい生活を送るというのに、春姫は自分の事を連れ去られる奴隷のようだ、と思った。

 

────あそこ(彼等の神社)帰りたい(・・・・)

 

今になって無性にそう思う。

 

初めて出来た友人だった。

 

家が嫌いという訳ではない。父はとても厳しかったが、ちゃんと自分を大切にしてくれた。それは分かった。

だからこそ春姫(自分の娘)が客人の神饌(しんせん)を食べたと知った時、あれだけ激怒したのだろう。

父は神に仕える仕事に誇りを持っていたから。

 

 

自分に勘当を告げる父の顔が感情を読み取らせない淡々とした声とは裏腹に、きつく歪んでいたのを覚えている。

 

それが自分と別れる事への悲しみの顔だと何となく分かった時、春姫は嬉しかった。

 

 

……これでは本当に連れ去られているみたいだ。

 

 

 

 

──────ああ、神様。(わたくし)が悪い事をしたのはわかっています。この先何年掛かろうとも構いません。どんな事も致します。

 

ですから、ですからどうか──

 

 

 

 

(……(わたくし)は何をしているのでしょう)

 

見苦しいにも程がある、と春姫は自分の考えを恥じた。

 

そう、心配はいらないのだ。

 

相変わらず男性の粘つく視線が不気味に春姫を舐め回すが、春姫はこういうお人なのでしょう、と我慢した。

 

「もうすぐだよ春姫ちゃん。ボクのお家に帰ったらいっぱい──────」

 

 

と、小人族(パルゥム)の男性が話し始めたその内容に春姫が言い知れぬ不安を感じ始めた時。

 

 

ズドンッ!!

 

 

地を揺るがす轟音と共に、春姫の乗っている前の馬車、さらにその前を進んでいる護衛の人間(ヒューマン)達から悲鳴が上がった。

 

「……!」

 

「なッ、お、おい何事だ!?」

 

小人族(パルゥム)の男性が騎手に叫ぶ。

 

「わ、わかりません!前の馬車の更に前方で何者かと戦闘を行っている模様ですが……!」

 

「くそ、おいお前!見て来い!……春姫ちゃんはボクが守るからね、心配しないでねぇ」

 

護衛の一人に怒鳴った後、猫撫で声で話しかけてくる。

 

怒鳴られた護衛が様子を見に行こうとした直後、先頭の馬車を吹き飛ばしてソレ(・・)は現れた。

 

『グオオオオオォォ!!』

 

「う、うわああああぁぁぁぁ!!!」

 

((オウガ)──────)

 

鬼。3M(メドル)はあろうかという巨体がその豪腕で以って屈強な護衛達を羽虫を払うかの様に吹き飛ばす。

 

「囲め!数で押すんだ!!」

 

護衛達のリーダーらしき人間(ヒューマン)が叫ぶ。

それを皮切りに、次々と護衛達が鬼へと殺到した。

 

「は、ははは……!なんだ、モンスターも大した事ないなぁ!」

 

小人族の男が高みの見物を決め込み、馬車の中から鬼へ嘲笑を浴びせる間にも攻撃は止まない。

 

剣、太刀、槍、弓矢。

 

ありとあらゆる武器を用いて鬼へ群がり、滅殺せんと攻撃を浴びせかける。

 

太古の狩りの様に獲物を取り囲み、皆が果敢に立ち向かうその光景はさながら鬼退治だった。

人間(英雄)による怪物の撃退。それが今成し遂げられようとしていた。

 

 

だが、

 

 

『────グオオオオオオアアアアァァ!!!』

 

「がああああああぁぁぁ!!?」

 

 

忘れてはならない。

 

 

怪物を退治するのは人間(英雄)だが、人間(弱者)を蹂躙するのはいつの世も怪物(圧倒的強者)だという事を。

 

そして英雄という称号は、極一握りの存在にしか与えられる事は無い。

 

 

不運な事に、此処に英雄(その器)はいなかった。

 

受けた傷を倍にして返すと言わんばかりの鬼の暴れ様に、春姫の視界で今まで優勢だった護衛達が面白い様に吹き飛んで行く。

 

 

『グオオオオオオオオオオオオ!!!』

 

 

そして、五十人強いた護衛達は瞬く間に半分以下に減らされた。

 

腕や足がおかしな方向に曲がっている者。

 

木にもたれかかり顔を俯かせピクリとも動かない者。

 

倒れている者は皆一様に鎧を砕かれていた。

 

「…………な、なんだ、これは」

 

わずか一分足らずにして形勢逆転どころか壊滅状態にまで追い込まれた惨状を前に、小人族の役人が呆然と呟く。

春姫もまさかここまで力の差があるなんて信じられなかった。

 

 

「……く、くそおぉ!こんな所で死んでたまるか!こっちに来い!!」

 

「きゃあっ」

 

突然、小人族(パルゥム)の男が春姫の腕を掴み強引に外へ引きずり出した。

小人族(パルゥム)とはいえ大人の男に強く腕を引っ張られ、春姫の細腕が悲鳴を上げる。

 

「い、痛いです……!」

 

「くそ、くそ!役立たず共め!!あんな奴一匹なんで早く殺さない!!クビにしてやる!!!」

 

春姫の腕を引っ張ったまま、男は鬼とは逆方向に走り出す。

 

主の身を守らんと鬼へ向かって行く護衛達を「邪魔だ!!」と怒鳴りながら掻き分け、とにかく走る。

男は完全に錯乱しており、春姫の声も全く届かない。

 

そしてその状態では、目の前に現れた二匹目(・・・)に気づくのが遅れるのも無理のない事だった。

 

『グオオオオオオオオ!!!』

 

「ひっ……」

 

春姫達の前方の木が吹き飛ばされ、新たな鬼が姿を現した。男は足を止め小さく悲鳴を洩らす。

 

「お、お役人さま……!」

 

春姫が目の前の男に指示を仰ぐように呼びかける。

鬼が口の端から涎を垂らしながら二人へ顔を寄せた。

 

「………………………………………………………………………ひ、ひいいいいいいぃぃぃぃいいぃぃ!!!」

 

「あぅっ!?」

 

錯乱し追い詰められた男はあろうことか春姫を鬼の前に突き出し、脇目も振らずに逃げ出した。

男は情けなくも「死にたくないいいぃぃ!?」と絶叫しながら森の奥へと走って行った。

 

男に突き飛ばされた春姫は鬼の前で転んでしまう。

 

(あ…………)

 

着物を乱れさせながら此方を見上げる春姫に、言葉を持たぬ化物にも何かそそられるモノがあったのか、黄ばんだ不揃いな歯の並ぶ口を三日月に裂けさせる。

 

『グゥウゥルルゥ……』

 

握られれば春姫など小枝の様に折られてしまうであろう鬼の手のひらが春姫の矮躯を捉える直前。

 

 

 

 

「──────そこまでにしておけ。その女子(おなご)は貴様の触れていい者ではない」

 

 

 

しゃらん、と涼やかに響く鈴の様な声。

 

春姫の前に着地した人影から放たれた銀閃が鬼の腕を奔った。

 

 

『────?』

 

 

鬼は何が起きたのか気づいていない。

 

春姫も余りに自然過ぎて、違和感がなさ過ぎて、気づくのに遅れ、そしてそれに気づき絶句した。

 

──ぼとっ

 

鬼の腕がいつの間にか斬り落とされている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)という事に。

 

 

『──グオオオオオオオオオォォオ!!?!?』

 

 

絶叫。

 

鬼は無事な左腕で斬り落とされた右腕の手首から下を掴みながらのたうちまわる。

 

 

「貴様は其処で踊っているが良かろう…………さて、捜したぞ春姫。無事か?」

 

再び春姫の耳に届く雅な声。

 

流水の如き動きで刀を鞘に収めた少年は、ゆっくりと此方へ振り返った。

 

 

(あ、ああ──────)

 

 

間違いではない。幻ではない。

 

春姫はやっと現実を認識した。

 

 

「今のお主の愛らしい顔を楽しむのも一興だが、生憎そうもいかぬ様だ。立てるか?」

 

 

「──小次郎、さま」

 

 

まるで物語の英雄の様に現れた、「(佐々木小次郎)」が自分を助けに来てくれたのだと。

 

小次郎は呆然とする春姫の手を優しく取り、ゆっくりと立たせた。

 

「あ、あのっ、何で、ここに……」

 

未だ状況を詳しくは認識しきれていない春姫がしどろもどろになりつつ小次郎に尋ねる。

春姫自身もう何が何だかわからなかった。状況と本人の言葉からして、どうやら小次郎が自分を助けてくれたらしい事は何とか理解できたが、それだけだ。

 

そもそも何で春姫が此処にいるのを知っていたのか。

明らかに人間業ではないさっきの攻撃は何なのか。

どうやって春姫に追いついたのか。

 

この問いは、そういった事も含めての物だった。

 

「ふむ、色々あったのだが──」

 

 

『グオオオオアアアアアァァァァァァアァアアアア!!!!!』

 

 

「───どうやら、此方を待ってくれるという事は無いらしい。下がれ、春姫」

 

鬼の絶叫が迸る。

 

右腕を失った鬼は、傷口を掴みながら血走った目で此方を睨んでいた。

 

荒い息が乱杭歯の隙間から蒸気の様に漏れ出すその形相は正しく鬼。

 

自らを斬りつけた小次郎のみをその視界に収め、それ以外はまるで目に入っていないようだった。

 

春姫も言われるままに距離を取り、木の後ろへ隠れる。このまま逃げようと提案する事も考えたが、鬼の表情をみればどちらかが死ぬまで逃がす気は無い事が直ぐに分かった。

 

(小次郎さまっ……!)

 

初撃で運良く腕を落とせたものの、小次郎が勝てるかどうか、春姫は不安だった。

 

そんな思考を春姫がしている間にも、戦闘は始まろうとしていた。

 

「…………」

 

かちゃり、と静かにしかし隙を伺わせずに、それでいて早い動作で小次郎が背負った刀を抜刀。

 

構えは無い。

 

切先(きっさき)を地面より僅かに浮かせ、戦う意志など全く無いかのような自然体だった。

 

『グゥアアアアオオオオオオオ!!!!』

 

それが鬼の気に障ったのか、雄叫びを轟かせながら鬼は小次郎へと突進した。

 

剛風を逆巻く鬼の腕。

 

軽く小次郎のソレの五倍の太さはあろうかという大木の槌の如き一撃が彼に直撃するその刹那、瞬きすら追いつかぬ速度で小次郎の姿が掻き消えた。

 

(──え)

 

傍で見ている春姫が驚愕の声を漏らす間もなく、虚空で複数の銀の閃光が煌めく。

 

ざっ、と草鞋を擦らせ鬼の背後へ現れた小次郎が刀を──付いた血を飛ばすように──振った直後、鬼の両の腱、左手首、鎖骨の辺りから血が噴出した。

 

「む……流石に硬いな」

 

呟く声には隠しきれない不満が篭っている。

 

しかし、それがどれだけ卓越した絶技なのかは語るまでもない事だった。少なくとも春姫では視認すらできなかった。

 

『グゥアアアアオオオオオオオ!!!!』

 

二度も自分の体に傷をつけられた鬼が怒り狂う。

 

負傷した患部に厭わず小次郎へ叩きつけられる怒涛の拳。

ただ叫び、ただ振り下ろし潰す。まるで発狂する獣のようなだけのそれはシンプルであるが故に人間の恐怖を最も掻き立てるだろう。

 

 

だが。

 

そんな俗物じみた感性をこの剣士(佐々木小次郎)は持っていなかった。

 

 

「は、暖簾に腕押し、という諺を知っているか?鬼よ」

 

するり、と。

(モンスター)の全力を以て振るわれた渾身の一撃を、佐々木小次郎は刀身に拳を滑らせ、いとも容易く受け流した。

 

轟音。

 

地面を蜘蛛の巣状に粉砕させて鬼の拳が一瞬停止する。

 

その隙を見逃す小次郎ではなかった。

間髪入れずに首を落としに刀を振るう。

 

『──────!!』

 

しかしタダでやられる鬼ではない。

 

鬼の体躯は3Mはある。その首を落とすためには、小次郎の背ではどうしても跳ばねばならない。

 

強引にしゃがみ小次郎の刀を紙一重で躱す。

そして空中で無防備な小次郎の体へ、アッパーカットを繰り出す。

 

「──────シッ!!」

 

小次郎は瞬時に体と拳の間に斜めに刀身を滑り込ませ、またもいなす。

拳の勢いを殺しきれなかったか、小次郎の体は空中で独楽の様に回転した。

 

しかし小次郎は逆にその回転を利用し、突風の如き疾さで鬼の首を落としに────

 

 

『グオオオオオオオオオオオオ!!!』

 

「ぬ────!?」

 

突然横から叩きつけられた別の(・・)拳の直撃を受けて吹き飛んだ。

 

 

「こ、小次郎さまぁ!!」

 

 

木の幹に叩きつけられる小次郎を見て春姫が叫ぶ────

 

 

『『ガァアァ……!』』

 

 

────ぐりんっ、と思い出したように二匹の鬼が春姫の方を睨みつけた。

 

バレた。

 

「あ………………」

 

呼吸が止まる。

 

息ができない。

 

二匹の(怪物)の視線に射すくめられれば、若干十歳の少女に絶大な恐怖を与えるには十分すぎた。

 

がたがたと怯える狐人(ルナール)の少女の姿に満足したのか、鬼がゆっくりと腕を振り上げたその時。

 

かこん

 

投げつけられた鞘が鬼の後頭部に当たり、間の抜けた音が聞こえた。

『???』

 

鞘が当たった方の鬼が怪訝そうに振り向き

 

 

颪三連(おろしさんれん)

 

──刹那閃く三筋の剣閃。

 

 

その神速の突きに鬼は両目と半開きにしたままの口内奥を瞬時の内に串刺しにされた。

 

ドドドッ!

 

遅れて音が響く。

着地した小次郎が刀の血を飛ばすと同時、鬼はゆっくりと倒れ伏した。

 

「死合いの最中に背を向けるとはな。随分と舐められた物だ」

 

言いつつ、小次郎が春姫を庇うように春姫と鬼の間に移動する。

 

唄うような口調とは裏腹に彼の体は傷だらけだった。

もともとガタが来ていたのだろう。先の一撃によって刀は半ばから折れ、頭部からは血が河のように流れ出ている。

 

鬼が唸る。

 

今しがた斃した鬼は最初に小次郎が右腕を斬り落とした方だった。

 

つまり、残った鬼に傷らしい傷は与えられていない。

 

「────ふッ!」

 

『ガアアアアアァッッ!!』

 

そんな自分の体には目もくれず、再度激突する両者。

 

振るわれる剛槌。 閃く刀身。

 

交差する互いの武器が火花を散らす。

 

技と力の正面衝突。

 

怪物は圧倒的な力をただ振り回し、剣士はその技量で以て巨大な拳を受け流しつつ、隙あらば首を落とさんと眼を光らせる。

 

(──────)

 

数分後には自分が殺されているかもしれない状況で、春姫はその光景に魅入られた。

 

仄暗い月明かりの下。森の中、鬼へと挑むその背中はさながら物語の中の英雄のよう。

周囲が少し明るいのは気のせいだろうか。

 

 

何故彼はそこまで傷を負いながら、自分より強大な相手に挑むのか。

彼の疾さならば、傷を負っていようと逃げる事は出来るはずだ。なのに何故?

 

 

決まってる。

 

 

(私が、いるから……?)

 

そう、それに他ならない。

 

小次郎が分の悪い勝負を続けているのは、ひとえに「春姫を背にしている」からだ。

 

それが分かった時、春姫は情けなく思う気持ちと同時に、嬉しかった。

 

小次郎(英雄)自分(お姫さま)を助けてくれ────

 

(な、なな何を考えているのでしょう(わたくし)は……!ふ、不謹慎なっ!)

 

サッと木陰に隠れ両頬を抑える。本当に何を考えているのだ。彼が英雄なのはともかく、自分がお姫さまなどとは自意識過剰にも程が有る。

 

(……って、そうではありませんでしたっ!)

 

今も小次郎が戦っている傍らで何を呑気に考えていたのか。こちらの方が不謹慎ではないか、などと考えている内に戦闘は佳境に差し掛かっていた。

 

『グオオォッッ!!』

 

「む……っ!」

 

小次郎にいなされ地を打ち据えた拳が地面を破壊し、砕けた瓦礫が飛び散った。

 

(あ────────)

 

その礫を背中に受け、小次郎が前につんのめる。

 

「く…………!」

 

完全に無防備。

小次郎の体には今、一ヶ所とて自由になる部分が存在しなかった。

 

引き伸ばされる時間。

 

落ちる葉さえゆっくりと映る春姫の視界の中で鬼が無情にも腕を振りかぶる。

 

 

────春姫は気づかなかった。己の体が淡く発光している事に。

 

 

(………………や、だ)

 

小次郎が目を瞑る。それは恐怖故か、それとも諦めか。

どちらにせよ、春姫にはそれが小次郎が自らの敗北、つまり死を受け入れている様に見えて。

 

(いや、です…………!)

 

────無我夢中で、その言の葉を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────!」

 

鬼の拳が体に届く直前、春姫の声と共に小次郎の体が光った。

 

自らの限界を超えた魔力の鼓動は体の周囲に淡い光を伴わせ、早く暴れさせろ、とばかりに力の行き場を求め弾け、荒れ狂う。

 

瞬時に体制を直しバク転、つま先に先ほど落ちた鞘を引っ掛け、一気に蹴り上げる。

 

『グオオォッッ!?』

 

途轍もない速度で飛来した鞘が鬼の顎に激突、めきめきと音を鳴らす。

 

 

数瞬前と逆転した形勢と体制。

 

 

鞘の鐺に強かに顎を打ち付けられた巨体が僅かに浮いた。絶好の隙。

 

小次郎、腰だめに折れた太刀を構え、呟く。

 

 

「──────鬼殺し」

 

 

一閃。

 

横一文字に振り抜いた太刀は風を切り、鬼を斬った。

 

音は静かに、(怪物)の体は腹部から両断される。

 

どうと倒れた上半身の向こう側、大地に強く根を張っていた大木達は皆一様に切り株となっていた。

 

(ああ…………)

 

振り向いた顔はいつも通りに涼しげで。

さっきまでの死闘なんて全く伺わせなくて。

 

あの日、神社で当たった木漏れ日に似た柔らかな笑顔で手を差し伸べてくれて────

 

 

 

この日、サンジョウノ・春姫は英雄(ヒーロー)に出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小次郎さまっ、小次郎さまぁ…!」

 

先ほどから春姫は小次郎の腰に抱き着き泣きじゃくっている。

 

小次郎は少し困ったようにしていたが、やがて静かに春姫の頭を撫でてくれた。

 

「泣くのは構わんが、いつまでもそのままだとお主の綺麗な顔が汚れるというもの。いい加減私の甚兵衛で涙を拭くのはやめておけ」

 

「ううぅぅ……」

 

小次郎にやんわりと諭され、ようやく春姫は涙を落ち着かせた。

 

しばらくして、聞き慣れた声が二人の耳に届いた。

 

「おーい小次郎……ってやっぱ酷い怪我じゃねえか!!」

 

「兄様ー!にいさ──兄様!?やっぱり一人で無茶したんですね!?」

 

「なんで一人で行ったんだ!」

 

「小次郎さん……!だ、大丈夫ですか……!?」

 

上から神社に住んでいる神のタケミカヅチ、人間(ヒューマン)の命、桜花、千草だ。

 

「仕方なかろう、お主達は働きに行っていたのだからな。暇だったので春姫の屋敷に忍び込んでみた所、春姫が攫われたと気づいたのだ」

 

「え、ま、待って下さい。私、攫われた訳ではないのです。お客様の神饌を春姫が食べてしまって……それで、その」

 

「あー、いいぞ春姫。後はコイツに喋らせるからな(・・・・・・・・・・・)

 

「……?」

 

小次郎の弁を春姫が正そうとした所、タケミカヅチが背後から一人の男を突き出した。

 

「な、何を言っているんですか、神タケミカヅチ。僕は勘当されて身寄りのなくなった春姫ちゃんを引き取ってあげようと……」

 

「えっ……!?」

 

それは先程春姫を置いて逃げ出した小人族(パルゥム)の役人だった。

逃げてきた所をタケミカヅチ達に捕まったらしい。

 

タケミカヅチは命達から白けた目で見られている役人を見下ろし、言った。

 

「ああ、知ってるさ。ただ『色々と』聞かせては貰うぞ?心配すんな、お前の言う事は信じよう。神に嘘はつけない(・・・・・・・・)からな」

 

そのとてもイイ笑顔に役人は白目を剥いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ」

 

社の一室でタケミカヅチは溜息を吐いた。

 

依然生活が苦しい事に変わりはないが、それでも子供達は前より一段と仲が良くなった。

 

特に春姫。最近はもう小次郎に耳としっぽをぴこぴこブンブンさせてべったりだ。

そのせいで最近(ミコト)が怖い。

 

この前なんか春姫が何を思ったか「負けませんからねっ」なんて言い出して大変だった。

タケミカヅチと小次郎は揃って首を傾げたが結局何の宣戦布告なのかは判明しなかった。

 

だが、だからと言って春姫と命の仲が悪いかと言われればそんな事は全く無く、寧ろお互いを親友と言っていたので、余計な心配は無用だった。

 

閑話休題。

 

ではタケミカヅチが何を悩んでいるかと聞かれれば、それは別の所にある。

 

役人の事ではない。彼はあの事件の後、タケミカヅチが少し「お話(OHANASHI)」したら直ぐにボロを出したので、無事にしょっぴかれた。やり口がかなりのゲスさだったのでスッキリした。

 

春姫の父親に事の真相を告げた所、泣いて春姫に謝りながらタケミカヅチ達──特に小次郎──に礼を言っていた。そのおかげで春姫が神社に遊びに来る事が公認されたので、春姫は余計にはしゃいでいる。

 

また閑話休題。

 

タケミカヅチが目下頭を悩ませているのは──────

 

「…………ま、俺一人で悩んでてもしゃあねえか。どうせ金を稼がなけりゃいけないんだ。皆に相談して、それから決めよう。

 

 

 

──オラリオに行くかどうか」

 

 

片方の(・・・)悩みだけを口に出してタケミカヅチが部屋を出る。

 

 

部屋の机には、一枚の紙が置かれていた。

 

 

 

 

 

 

======================

 

 

ササキ・小次郎

 

Lv. 1→2

 

力: I 0

 

耐久: I 0

 

器用: I 0

 

敏捷: I 0

 

魔力: I 0

 

 

暗殺者: I

 

《魔法》

【】

 

《スキル》

【宗和の心得】

・攻撃が見切られなくなる

・互いに初見の戦いを強いられる

・対象との初戦闘時における経験値ボーナス(×1〜2)

・全戦闘行為における獲得経験値の最低値を種族を含むその対象との初戦闘時の値に固定

 

 

======================

 

 

 

タケミカヅチはあの後、帰ってきて直ぐに小次郎に頼まれステイタスを更新した。

 

 

所用期間、五時間。

 

 

 

──これは、歴史に残らない世界最速(レコードホルダー)

 

 

 

 

 

 

 




小次郎の使った「颪三連」と「鬼殺し」はフェイトアンリミテッドコードの技です。

発展アビリティ「暗殺者」
なんかめっちゃ原作でも出てきそう、ていうか出てそうな名前になってしまった可哀想なアビリティ。原作にあったら名前変える。効果は以下の通り。

・敵に発見されていない状態での攻撃のダメージ補正

この場合の「発見」は認識しているかどうか、敵の視界に入っているかどうかです。前者の条件を達成している方がダメージ補正は大きくなります。


Q.剣士が鞘なげちゃっていいの?
A.コイツは佐々木小次郎だ。

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