メイン作さえも中々出せない始末。
やれやれだぜ...
そして作品は動き出す――
滅入っちまうよなぁ、全く...」
俺は、深いため息をつき、御気に入りの事務机に立て掛けている、アニマへと愚痴をこぼした。
『リベラ...お前は、魔物狩りよりも、人と付き合うのが苦手だから仕方あるまい』
愛用の魔剣にも、この言われようである。
悲しいかな、否定も出来ない自分が情けなくなり、ソリッドの煙草を一本拝借し、噛み砕くように強くくわえた。
――この『擬似何でも屋』は、無駄に精神力を使う仕事でもあるのだ。
何故かと言うと、張り紙には『気に入った仕事はやる』って書いてあるのに、隠密な暗殺仕事や、要人警護...
あまつさえ、ペットの捜索まで頼まれる始末だからである。
ペットの捜索は仕方無しに受けてはいるが、暗殺仕事や要人警護は御免被る。
ぶっちゃけめんどい。
付近の生物系を壊しにかかっている魔物討伐とかなら許せるし、優先的にやろうと思っているのだが。
だが、普通はそんな仕事など来るはずもなく、現実は非情である。
おまけに、俺自身人付き合いは、上手いとは御世辞にも言えたもんじゃあない。
その結果が、普通の都市である、この街の都市伝説『自由な魔物』と呼ばれる結果となった。
内容は、噂に尾ひれ羽ひれが付いたようなもので、簡潔に言うと、『人を楽しんで殺して回る』やら、逆に『人を助ける救世主』やら、本人と自負できる俺から見れば、苦笑するしかないものだった。
まぁ、そんな噂も合ってか、荷物運び、稽古付き合い、人手補充バイト、突きの早さ比べと、多様な仕事で食っていけているのだから、有り難い。
...ソリッドは兎も角、元々は剣であるアニマとアウシ、セラフが普通に飯を食うから困る...
――しかし、連中飯を食わなくてもいいくせに、『旨い』から食ってるわけで。
剣のエネルギーへと返還されてるから文句は言わんが、やっぱり食費は掛かる。
俺の家事スキルが、こういう形で仇となるなんて泣けてくるよ。
しかも、セラフには、昨日投げつけた後に置いて帰っちまったから、朝起きたら説教のガトリングを浴びせられたし...
なんでや、食費食われてるんだから、たまにはがさつでもええやろ!
悪かったとは思ってるけど!
割と高くつく食費の事を考えていると、不意にソファに寝かせたリリアの方に目が行った。
――連中に狙われている、俺に似た奴を、もし一人にさせたら、命の危機があるかも...いや、あると断言しよう。
アニマから聞いた話じゃ、まだ『第一』もまともに出来てないみたいだから、ちょっと上位の連中に囲まれたら、まず死んじまうはずだ。
つーことは、俺のすべきことは、『否応無しにでも、彼女の安全を保証する』ってこったな。
まぁ、完全に制御出来てないみたいだから、そりゃまあ身体を維持する為には、あの小さな身体に見合わず、かなり喰うわけで...
実際、今日の朝に出した食事は結構多目だったのに、あっさりと食いきられた。
――やっべ、何処かの、ボーキサイト喰いの赤い艦娘を彷彿とさせるな。
...んー、もしかすると、養子のような形として引き取れば、市からのお金でワンチャン...?
でも、それにはリリアの意見が...駄目だ、冷たい視線を食らいたくはない。
なんで、俺の周りには食費ホイホイがアドバンス召還されてまうん?
と言うか、どうやってリリアをここに留めようかなぁ...
悲しいまでの自分の不運さで発生した頭痛に耐えられず、俺は、こめかみを反射的に抑えた。
『...困ってるお前に言うのも何なのだがな...』
お前達のせいだよ、と吐き捨てたい言葉を飲み込みつつ、含みのある言い方をしたアニマの方に、目を向ける。
「んだよ...」
ついつい、刺々しく呟いてしまう。
――悲しいかな、俺の、吸引力の変わらないただ一つの不運は、留まることを知らなかった。
『お前の後ろに、魔力を張らせたリリア嬢の姿があるのだが、それは...』
やめーや、そんないきなりのジョークは。
...嘘だよね?
恐る恐る後ろを振り向くと、そこには――
「...気付くのが遅いわ」
鋭い警戒心の込めた視線を、刃物もびっくりの鋭利さで飛ばしてくる、リリア本人の姿があったとさ。
よくよく感じてみれば、彼女から放たれる魔力は、普通に体感できるレベルであり、それほど、頭痛が本能を鈍らせていた、ということが分かる。
「二度も、私を救ったのは何故?」
そんな彼女から発せられる声は、やはり警戒の色が強い。
だが、初対面の時とは遥かに柔和になっている...気がする。
もしここで『誘い』をしなければ、おそらく彼女は此処を去るだろう。
そうさせてしまえば、彼女の命が危うい。
ここで賭けなけりゃ、後がない。
そうさ...ここで満足するしかねぇ!
「助けた理由...そうだな...」
俺は、意味深長な面持ちを作り、腕を組む。
勿論意味深長も、くそもない。
こういうのは、心で思ったことを言うのが一番いいのだ。
飾り立てれば、逆に違和感を感じるものとなる...
ならば、今思っていることを言おうじゃないか。
「一度、同じ屋根の下で、俺の飯を食った奴は、敵味方関係なく...」
「仲間だもん『げ』!」
...やっべ、噛んだ。
うっそだろ、俺...
思わず頭を抱えそうになるも、堪えてリリアの方を見直すと。
――先程の警戒心が、完全に消し飛び、言葉の通り、『呆気に取られて』いた。
少し目を見開き、驚きの為か、一瞬の間、呼吸することさえ忘れていたのだろう、数秒後に苦しそうに咳き込む。
あれだけ警戒していた人が、此処まで変貌するほどに、俺は、やらかしたのだ。
『...くっくく...こんなの、笑わずにはいられないッ!!』
そんな俺の気も知らずに、アニマは、中々不気味な笑い声を上げた。
少し腹が立ったので、軽く剣の峰に蹴りをぶちこんだ後に、また先程の失態を思い出し、リリアの行動の様子を見図る。
――いや、こんなことやったら、俺なら愛想尽かすよ、ほんと。
俺は、色々と悲しくなり、顔を広げた右手で覆う。
次のリリアの言葉と行動が、どれだけドキツイ物になるのか、覚悟を決めた次の瞬間の未来は如何に。
「...ふふ」
――聞こえたのは、彼女の、くすりという小さな笑い声。
予想外のリリアの動きに、思わず、覆っていた手のひらを取り、彼女の方に向き直った。
「ふふふっ...こんな警戒心を諸にぶつけている人を目の前で、言葉を噛むなんて...本当に、裏の考えは無いのね...」
今の彼女に浮かんでいた表情は、『内の彼女の心その物』だった。
我慢していたのを吐き出したかのように、彼女の目からは涙が零れ、身体は震え、笑いを噛み殺し切れずに、くすくすと笑っている。
そのうち直ぐに笑いは止まったようだが、目に溜まった涙は消えるわけでなく、彼女自身の手の甲で、拭き取られていく。
まだ少し顔が赤い彼女から発せられる雰囲気からは、鋭いまでの警戒心は、もう感じない。
「...あなた...いえ、リベラの事を警戒していたのが、本当に意味のない事だった...良い意味でも、悪い意味でも...今、確信できたわ」
小さく微笑を浮かべた彼女の姿は、年相応の彼女の姿の印象と、何ら変わりないものとなっていて、それは、俺を信用してくれたことを、如実に表していた。
表していると、良いなぁ。
はい、前の話で、リベラが投げた刃物は、リリアと思わせたセラフだったってことです。
と言うか、サイコロで身長を決めた割には、中々キャラを想像できるから凄い。
語彙力での表現力?
いいえ、知らない子ですね...